元となったのは、日本神話における「木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)」(Wikipedia)と「石長比売(いわながひめ)」(wikipedia)の神話であろう
簡単にまとめると、天照大御神の孫である邇邇芸命(ににぎのみこと)が山の神から二人の乙女を差し出される。一方の木花之佐久夜毘売は美人であり、もう一人は石長比売は醜女であった。邇邇芸命は美人の木花之佐久夜毘売だけを貰い受け、醜い石長比売を送り返してしまう
これに怒った山の神は「私が娘二人を一緒に差し上げたのは石長比売を妻にすれば天津神の御子(邇邇芸命)の命は岩のように永遠のものとなり、木花之佐久夜毘売を妻にすれば木の花が咲くように繁栄するだろうと誓約を立てたからである。木花之佐久夜毘売だけと結婚すれば、天津神の御子の命は木の花のようにはかなくなるだろう」(wikipediaより引用)と告げる
これ以降、子孫の天皇の寿命は神々ほど長くなくなったという
人に寿命があることを語る起源神話である(「バナナ型神話」wikipedia)
花は繁栄や儚さを象徴し、石や岩は永遠性を象徴するのである
不死断ちの儀
ややこしいのだが、不死断ちとは竜胤の御子を殺すことではなく、御子のうちにある竜胤を消滅させる儀式である竜胤の御子はたとえ死んだとしても桜雫が残るからである。それは巡り巡って淀みを発生させる。竜胤の御子が死ぬだけではこの悪循環は終わらないのである。
「死なぬ、というのは、淀みを生む」(弦一郎撃破後の九郎)
ゆえに九郎は、不死斬りによる死ではなく、不死断ちによる竜胤の消滅を願ったのである
「私は、竜胤の不死が生む、淀みの連鎖を断ち切りたい」(弦一郎撃破後の九郎)
さて、不死断ちには「桜竜の涙」が必要とされる
竜胤断ちの書
竜胤断ち
それを成す術を、ここに書き残す
源の宮の、さらに神域
仙郷の神なる竜の涙を、戴くべし
竜胤の御子が桜竜の涙を飲むことで、不死断ち(竜胤断ち)がなるという
桜竜の涙
この竜の涙を、竜胤の御子に飲ませれば、
不死断ちは叶うであろう
不死断ちが叶う、というのはつまり竜胤が消滅するということである
では竜胤とは何か。「胤」という字には「血筋」や「血筋を受けた者」という意味がある
よって竜胤とは、竜の血が体内に流れる者のことである
「我が血は… 竜胤は、人を死なぬようにする」(弦一郎撃破後の九郎)
つまり、不死断ちとは竜胤の御子のうちにある「竜の血」を消滅させることに他ならない
呪いや憎悪を象徴する「血」を、慈悲や浄化を象徴する「涙」によって対消滅させるのである
ただし不死断ちでは、竜胤は消滅させることはできるが、人に返ることはできない
不死断ちにより竜胤の御子は竜胤と共に死んでしまう。なぜならば、竜胤の御子と竜胤がいまだに癒着しているからである
人に返るためには人返りの儀が必要なのである。それは竜胤の御子から竜胤を完全に分離させる儀式である
人返りの儀
人返りの儀式のためには、桜竜の涙の他に「常桜の花」が必要とされる常桜
人返りを望むならば、竜の涙と常桜の花を
竜胤の御子に飲ませれば良い
なぜ竜の涙に常桜の花を足すと、竜胤の御子は人に返ることができるのか
竜胤の御子は死ぬと桜雫を残すという
桜雫
不死の契約成らざる時に、
引き換えに残ると伝わる桜色の結晶
この桜雫と同種のアイテムに竜胤の雫というものがある
竜胤の雫
竜胤の御子から、稀に零れ落ちるもの
雫と命名されているが、桜竜の涙と同じく「形を保ち、常しえに乾くことはない」という性質のものである。つまり桜雫が桜色の結晶であるように、竜胤の雫もまた結晶なのである
この特殊な結晶は、竜胤の御子から稀に零れ落ちるという。竜胤を宿した御子が体内から結晶を析出させているのだ(おそらく周囲の人間から奪った「生の力」を結晶化させている)
つまり竜胤の御子の体内には常に結晶が生成されている
そして竜胤の御子が死ぬとき、それは桜色に染まり桜雫となるのである
要するに桜雫とは、竜胤の雫が竜の血によって桜色に染まった結晶なのである
このあたりで話を戻そう
不死断ちの儀では、桜竜の涙のみが竜胤の御子に与えられた。この状態では竜の御子は人に返ることができず、竜胤と共に死んでしまう
なぜならば、涙によって竜の血を消滅させただけでは、人に返るには不十分だからである。竜胤の御子のなかには、まだ竜胤の雫が残っているのである
この竜胤の雫という結晶を消滅させるのが、常桜の花なのである
ここには木花之佐久夜毘売の神話にあったような「花/石」という構造が存在している
儚さを象徴する花は、永遠性を象徴する石とは対極に位置するものであり、双方はその象徴的意味において打ち消し合うのである
人返りの儀において、竜胤の御子に「竜の血に対応する竜の涙」、「竜胤の雫に対応する常桜の花」を飲ませることで、血と涙、花と石が打ち消しあい、中和され、竜胤は完全に消滅するのである
竜胤が完全に消滅した竜胤の御子はもはや、ただの人である
これが人返りの儀のメカニズムなのである
だが、もうひとつ「竜胤の御子を縛る存在」がある。「竜胤の血を受けた不死」だ
常桜の花
「竜胤の血を受けた不死は、その主を縛る」
ゆえにそれを断つことだ
竜胤の血を受けた不死は、竜胤の御子を介して周囲の人間から「生の力」を奪っていると思われる
竜胤の雫
この雫を鬼仏に供えることで、
生の力を、それを奪った者たちに返せる
不死が生きているかぎりこの回生システムは存続し、死ぬたびに周囲の生の力を奪ってゆくのである。ゆえに、不死が生きている限り、本当の意味で竜胤は消滅しないのである
ゆえにそれを断つ必要があるのだ
さて、Sekiroのストーリーの重要な点において、他にも花と石のモチーフが見受けられる。そのひとつが輿入れの儀である
輿入れの儀
輿入れの儀とは人が仙郷に渡るための儀式である儀式のためには「源の香気」を纏う必要があり、そのための材料として「馨し水蓮」、「お宿り石」、「常桜の香木」、「竜胤の血」(血を得るために不死斬りを求めた)が必要とされる
このうちの「馨し水蓮」が花を、「お宿り石」が石と対応する
馨し水蓮は源の水の濃い場所に咲く花であり、お宿り石は源の水を長く飲んでいた者に宿る石である
この「馨し水蓮とお宿り石」とは、いわば矮小化した「常桜の花と竜胤の雫」である
この意味するところはひとつである。輿入れの儀とは、人が竜胤の「香り」を偽装することで仙郷に招かれるための儀式なのである
本堂にいる緑衣の蟲憑と話すと次のように言われる
「スンスン… ああぁ… その匂い…」
「そなた、竜胤の御子に、仕える者じゃったか」
(ちなみにこの緑衣の蟲憑きが下に敷いているのは、源の宮の湖の底にいる蟲の石化したやつっぽい)
仏教的には蓮の花に座るのが通例だと思われるが、ここでは石の蟲に座っている。ここでも花と石の対比がある(適当)
竜胤の御子はかなり特徴的な匂いをしているらしい(おそらくは桜に似た香りであろう)
源の香気とは、こうした竜胤の御子の香りを限りなく濃縮させたものと思われる
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