2020年7月30日木曜日

Bloodbrone 考察37 人形の機能

過去の考察において人形が月の魔物を世話するべく造られた「乳母人形」であることを考察した(「人形と月の魔物」参照)

またその際に月の魔物は「オドン」によって傷つけられ続けていることも触れ、オドンを「水銀」としたが、本源的にはこの水銀は「神秘」のことである

月の魔物は「獣性」と「神秘」統合しようとして失敗したがゆえに、その肉体を「神秘」に侵蝕されているのである(あるいは逆に神秘体である上位者が獣性によって蝕まれている)

と、ここまでは上述した「人形と月の魔物」またはその他の考察で述べてきたことである


人形の機能

さて人形には血の遺子を力に変換するという特質すべき能力が備わっている

狩人は人形の力によってレベルアップすることができるのである

ソウルズシリーズでもおなじみのシステムであり、またレベルアップすることでプレイヤーが徐々に強くなっていくのは、一般的なゲームでもありふれたシステムである

だがこの機能は単なるシステムの1つではない

乳母人形としての任を果たすべく創造者によって人形に備え付けられた最も基本的な機能なのである

すなわち、血の遺志を力に変化するという人形の機能は、元は狩人のためではなく月の魔物のために用意された機能なのである

長い夜の終わり、ゲールマンは狩人に介錯を迫る
このとき狩人には旅の中で蓄積された膨大な量の血の遺志が宿っている

ゲールマンの目的は狩人が集めてきた血の遺志である

その血の遺志は人形を介することによって、瀕死の状態にある月の魔物に注がれるのである

しかし、そうまでしても月の魔物は助からない。ゲールマンが待ち望んでいるように、月の魔物を救済するのは、ローレンスによる血の医療の成就である


…お別れだ。ローレンス
血の医療、成就を待っているよ(ゲールマン未使用セリフ)


また介錯を断った際には月の魔物は狩人を抱きかかえようとする動作を見せる。これは狩人に宿った血の遺志を吸い取ろうとしているのである



そうやって得た血の遺志は狩人と同じように人形によって月の魔物の生命力へと転換されるのである

だがそうまでしても彼女は助からない。なぜならば彼女は獣と神秘の不完全な統合体であり、内部では獣と神秘とが互いに相反しているからである

※狩人が血の医療を受けた後のムービーのように獣と炎(神秘)は対立する属性である

以上のように人形のレベルアップ機能はゲーム上に用意された単なるシステムの1つではなく、ゲームの設定上、不可欠なものなのである

そしてこの人形の機能は狩人の業を応用したものである

この場所は、元々狩人の隠れ家だった
によって、狩人の武器と、肉体を変質させる。狩人の業の工房だよ(ゲールマン)

 蛇足

「人形と月の魔物」に追記してもよかったのだが、トピックとしてわかりやすいので独立させた

2020年7月27日月曜日

Bloodborne 考察36 養殖人貝

漁村に住む謎の軟体生物「養殖人貝」について考察する
※漁村概論は後日


漁村の生物

漁村には数種の生物が棲息している。それが以下である

漁村の住人
・漁村の住人(各種武器、怨念タイプ)
・漁村の司祭(長い杖を持った個体)
・瘤あたま(井戸にいる巨人)

魚犬
魚犬
軟体生物
軟体生物


養殖人貝



このうち漁村の住人と魚犬はともに「魚類」の特徴を持つ
軟体生物養殖人貝は「軟体生物」の特徴が強い


魚化

漁村の住人と魚犬は生物が「魚化」した個体である
元は人間と犬だったものが何らかの影響により「魚類」の特徴を持つに至ったものである

共通するのは背中の大きな背びれである



この両者は「苗床」に共通する「軟体化」は引き起こされておらず、全身が硬い貝(フジツボ)や皮膚で覆われている。このことから住人と魚犬は内に精霊を宿す「苗床」ではなく、人が獣に変化する獣化に近い性質のものであると考えられる

さて、本作において人を変異させるものといえば「」である

「右回りの変態」
血の発見は、彼らに進化の夢をもたらした
病的な、あるいは倒錯を伴う変態は、その初歩として知られる

人が血によって獣化する病気が「獣の病」である。その根源には獣血があり、獣血の主がいる(獣血の主が虫であるかについてはこの考察には関係ない)

血によって引き起こされた獣の病により人が獣化したように、血によって人が魚化するのが漁村の風土病である

ではなぜ住人は魚化したのか

感染を引き起こした血の主が「魚類の特徴」を有していたからである

つまるところ、上位者ゴースである

ゴースの背びれ

ゴースは住人や魚犬と同じように大きな背びれがある。またアートワークスの遺子には後ろ足に水かきが確認できる

本編において「獣の病」がヤーナムに蔓延したように、DLCでは「魚の病」が漁村に蔓延したのである

その原因はどちらも上位者の血であろう

ゴースの遺体を斬ると「血」が出る



軟体生物

漁村のいたるところに見られる「軟体生物
灯火の燃料としても使われている。「炎は神秘に通じる」

軟体生物といえば医療教会における「精霊」である

精霊の抜け殻
上位者の先触れとして知られる軟体生物の抜け殻
軟体生物は多種存在し、医療教会は総じてこれを精霊と呼ぶ

またナメクジに似た形状からエーブリエタースとの関わりも疑われる

真珠ナメクジ
地下遺跡の各所に巣食う、奇妙な小生物たち
特にナメクジは、見捨てられた上位者痕跡である

以上のテキストから、漁村の軟体生物は精霊でありエーブリエタースの痕跡であると結論づけることも可能である

しかしながら、この軟体生物をよく見るといわゆる「ナメクジ」とは形がかなり異なっていることがわかる

ナメクジの触手というより、頭足類(イカやタコ)の触手の生え方に似ている

形状的にはカレル文字「苗床」とゴースの寄生虫を装備したときに見られる軟体生物と似通っているが、細部は異なっている



上位者の赤子となった狩人とも似ているが、胴体の膨らみなど違いがある

またこの軟体生物は卵を産む
黒い球体のようなものが卵である

過去の考察で「瞳」とは精霊の卵であり、卵が孵化することが啓蒙であると述べた
その「瞳」大量に産み付けられているのである

これは「瞳=精霊の卵」であるとするならば、かなりおかしな事態である
ビルゲンワースや医療教会が求める「瞳」いたるところにあり、しかし一顧だにされず捨て置かれているのである

なぜ漁村に侵攻したビルゲンワースはこの卵をかき集めなかったのか?
なぜわざわざ床に落ちている「瞳」を無視して、住人の頭の中からそれを見つけ出そうとしたのか?

頭の中で孵化し、脳に寄生することが「瞳」を得る唯一の方法であるとも考えられる。寄生虫が宿主を操り、都合のよい行動をとらせることは現実世界においても確認されている

※例えばロイコクロリディウム(グロ注意)
この寄生虫に感染したカタツムリは、おそらく視界が遮られることが影響して[2]、明るいところを好むようになる。(Wikipedia)

※例えばカマキリに寄生するハリガネムシ
成虫になったハリガネムシは宿主の脳にある種のタンパク質を注入し、宿主を操作して水に飛び込ませ、宿主の尻から脱出する(Wikipedia)

※宿主の行動に影響を与えるという意味で狂犬病もその範疇に入るかもしれない(Wikipedia)

しかしながら、住人の頭の中から「瞳」を得たとして、その後はおそらく被検体の頭の中に瞳を移植するという行程に移ると思われるが、わざわざ頭の中から取り出さなくとも漁村の床に放置してある「卵」でも同じことができるのである

このように漁村の軟体生物を精霊と断定すると、大きな矛盾が生まれてしまうのである

こうした矛盾を生じさせないためには、この軟体生物は精霊ではない、とするのが適切であろう

この軟体生物は精霊でもなく、ゆえにエーブリエタースとも関係がない
ではこの軟体生物はゲームの設定的にどのような意図にもって漁村に導入されたのであろうか

結論を先取りすれば、この軟体生物は養殖人貝を位置づけるための装置なのである



養殖人貝

漁村の住人が「魚化」したのだとしたら、養殖人貝は「苗床化」している

苗床ということは内に精霊を住まわせているはずである
そして形態的な特徴の一致から、その精霊はゴースに巣食う「ゴースの寄生虫」の可能性が高い

※ここで精霊=寄生虫としているのは過去の考察からの応用である

しかしゴースの寄生虫は人に宿らないと言明されている

ゴースの寄生虫
海岸に打ち棄てられた上位者ゴースの遺体
その中に大量に巣食う、ごく小さな寄生虫
人に宿るものではない

ゆえに養殖人貝は人にゴースの寄生虫を寄生させた「苗床」ではない

養殖人貝が人の姿をわずかに残しているがために、人が養殖人貝に変異したと考えがちであるが、そうではない

養殖人貝は軟体生物にゴースの寄生虫を寄生させたものなのである

すなわち、あの軟体生物がゴースの寄生虫に寄生されることにより、養殖人貝の姿をなしたのである
そして軟体生物が人の特徴を持つに至ったのは、ゴースが人の特徴を有しているからである

ゴースは人のを持っている
また養殖人貝の尻尾ゴースの尾とよく似ている




養殖人貝の尻尾はやや膨らんでいるという特徴的な違いがあるが、これは養殖人貝の元が胴体の膨らんだ軟体生物だったからである

すなわち、ロマとロマの子らや、エーブリエタースと星の子らのように、養殖人貝とはゴースの子らなのである。そしてロマの子らや星の子らが実際に上位者の赤子ではないように、養殖人貝もまたゴースの実の子ではない

生物が精霊の苗床になることで、精霊の属する上位者に似た姿を持つに至ったものたちなのである

ロマの子らや星の子らは、おそらく元は赤子であったろう
それと同じように養殖人貝の元は、漁村に棲息するあの軟体生物なのである


Snail Women

養殖人貝の英名はSnail Womenである。直訳するとナメクジ女といった意味だろうか。ここからあの軟体生物がナメクジであることがわかる

しかし、ナメクジといってもエーブリエタースの痕跡である精霊としてのナメクジではなく、生物としてのナメクジである

生物としてのナメクジであるがゆえにビルゲンワースは価値を見いださず、その卵は捨て置かれたのである(エーブリエタースの痕跡としての真珠ナメクジは儀式素材として用いられる)


非眷属

これまでの考察で苗床=眷属としてきたが、苗床であるはずの養殖人貝眷属ではない
このことから、上記の仮説を修正する必要がある

眷属とは、トロフィーにあるように「輝ける星の眷属」である

トロフィー:イズの大聖杯
輝ける星の眷属たちの故郷 その封印たる「イズの大聖杯」を手にした証

眷属とは生物が苗床になることにより変異するものであるが、眷属になれるのは輝ける星に関連する苗床のみである

一方で養殖人貝に棲まうゴースの寄生虫は「輝ける星」とは無関係である

確かにゴースの寄生虫は星輪の幹たる「苗床」の精霊を刺激する。しかしながらゴースの寄生虫自体が星と関係するとはテキストのどこにも書かれていない

眷属とは輝ける星に属する「苗床」にのみ与えられた称号である
少なくともゴースは「輝ける星」ではなく、その先触れを宿した苗床も「眷属」ではない


漁村の軟体生物が養殖人貝に変異したことに違いはないが、もう1つ変異の方法が存在する
漁村の住人たちと同じく、ゴースの血によって変異したという仮説である

しかしながら、漁村の司祭が「共に呪詛を哭いておくれ」と頼む「すべての血のなきものたち」とは、ゴースの血を受けた者ではなく、ゴースの寄生虫により苗床となった者たちのことである

これは漁村の司祭が「苗床」を装着した狩人を仲間と認識し「呪詛溜り」をくれることからも明らかであろう

すなわち、ゴースにひれ伏し、従属していると思われる養殖人貝たちもまた「苗床」であると考えるのが自然と思われる


蛇足

漁村全体を考察しようとするとラヴクラフトの『インスマウスの影』やその他に登場するインスマウスを引き合いに出さなければならない。しかしクトゥルフホラーを持ち出すことで逆に断定しきれない部分も出てくると思われたので、今回は本編以外の知識はなるべく除外した

2020年7月18日土曜日

Bloodborne 考察35 星見時計

時計塔にある星見時計の外縁にはカレル文字が描かれている

このカレル文字は星見時計の回転により下端に位置するときにだけ光を放つ

これらのカレル文字を合成したのが下の画像である

実際は下端に位置するときにだけ光る



謎のカレル

全部で14のカレルが描かれているが、そのうちでまったく正体不明なのは右側にある3本のヒモが絡み合う図柄のものである

※他の図柄も完全にカレル文字に一致するわけではなく、細部のデザインが異なっているもがある。「淀み」や「オドン」などである

3本のヒモが絡み合っているようにも見えることから、3本目のへその緒に関連したカレル文字であるかもしれないし、また未使用アイテムにある「輝く線虫」に関連するものかもしれない


カレル文字単体では確たる結論は出せない、というのが正直なところである



回転

※この項はややこしいので飛ばして次の項にいっても構わない

この外縁は時計回りに回るが、時計塔の裏側から見て時計回りなので表側から見ると「反時計回り」に回っていることになる

このことから出来事を時系列を逆順にたどっているのではないか、という説がある

しかしながら、表側に面した時計盤はきちんと時計回りに回っており、裏側が時計回りに回ることで表側から見れば時が正常に進む機構となっていることが分かる

ただし時計=時を司る=回転は時系列をあらわす、という連想は自然なことと思える

重要なのはここが悪夢の世界であると言うことである。悪夢の世界が「逆さま」であることは狩人の悪夢の構造などから推測可能である

であるのならば、時もまた「逆さま」であり、つまるところ時計回りに回ることは、悪夢の世界では時間を遡ることなのである

ややこしいのだが、この時計盤は「反時計回り」が正しい回転の向きなのである。よって時系列を読み解くには反時計回りに読んでいくことが正しいのである

星見時計が時計回りに回ることで狩人の秘密に通じる扉が開く。このことはつまり過去に遡ることを意味している。要するに時計盤が時計回りに回ることは、時間を巻き戻すことなのである

そして始点(「深海」)に戻った時計盤が時間を進めるには反時計回りに回ることが必要になってくる

それはつまり、「深海」のあとに「湖」が来るような順序である

時系列順に番号を振ったのが以下の画像である。0からスタートし0に戻ってくる反時計回りが悪夢における正しい時間の進み方である(それはヤーナムがたどった歴史である)



※秘密を暴露するために時計は時計回りに回ったが、それは時系列を示すものではなくリセットするためのものである



時系列

始点に戻ったのち、反時計回りに回ることでヤーナムの歴史が時系列順に示される




反時計回りに見ていくと、まずは始点である「深海」がある。このカレルには七本の枝(上位者を示す)が上昇する図が描かれている

上位者は大量の水(悪夢)と現実との境にある「湖」から現実へと侵入し、湖の水に淀み」ができる

淀みから「オドンの蠢き」(図柄に瞳が見える。「瞳」とはすなわち卵である)が生じ、「姿なきオドン」として宇宙に上昇していく

さらに「導き」や「瞳」、「月」といった上位者に関係するカレルが誕生し、やがてそれは「拝領」として人類に降り注ぐ

聖血には聖なる部分と穢れた部分があり、穢れた部分からは血族が生まれ、それに対抗すべく処刑隊(「輝き」)が誕生、不明なカレルを経て、処刑隊は「狩人」となる

その後に獣の病が蔓延し、「獣の抱擁」の失敗を経て、すべては「深海」へ還っていく

時計を反時計回りに読み解くならこうなる。淀みからオドンが発生することや、狩人より処刑隊が先発することなど異論はあろうが、それなりに筋は通っているように思える



境界線

画像が見づらくなるので最初の画像には記していないが、時計の外縁には2個所、境界線と思われる線が走っている

姿なきオドンから拝領までのギザギザの線と、深海に見える弧を描くような線である



このうち上の線(オレンジの線)空と宇宙との境界を示すと考えられる
※宇宙といっても現実の宇宙ではなく悪夢の空の彼方にある宇宙である

は言うまでもなく宇宙にあるものである。または星の娘エーブリエタースに関連するカレルである。導きも「月光の聖剣」と関連する

姿なきオドンはその図柄から惑星(あるいは)から何かが垂れている(あるいは上昇している)ようにも見えるし、拝領は何らかの隕石や彗星から血が垂れているようにも見える

姿なきオドン拝領の途中で線が外縁に接しているのは、そこが地上と宇宙との接点(それは現実と悪夢の接点)だからであろう(その接点において人は拝領を得、オドンの子を身ごもる)

下の弧を描く青い線は「水平線」である
これはその下に深海があることからも分かるかと思う

では、宇宙と深海の配置は実際に天と地という世界構造を意味しているのであろうか

そうではない。なぜならばカレル文字が光るのは文字盤の下端に接している時だけだからである(この画像はあくまでも合成画像であり、実際にこのように表示されているわけではない)

しかもその時カレル文字は「逆さま」である

時計の回転により宇宙と深海とが入れ替わる、つまり天と地が逆転することを示しているが、しかし宇宙も深海も「同じ場所においてのみ光る」のである

これは逆さま世界の悪夢においては、深海も宇宙も下端、つまり悪夢の世界における上端(空)にあることを示しているのである



拝領

各カレルにはそれぞれ固有の幅がある
最も広いのは「拝領」であり、次に深海、そして姿なきオドンの順である



各幅の意味については正直なところ分からない

ただしこれらの幅が時計盤の時刻を示すエリアによって表わされていることから、活動している時間を示しているのではないかと思える節がある

最も活動期間が長いのは拝領である。拝領の涙滴型からは宇宙空間を飛来してきた彗星を想起させるものがある(左右にある点は星である)

まず外縁宇宙から上位者が地球に飛来したのである。それは宇宙から地球への「拝領」を象徴する出来事であった

地球に降り立った上位者は悪夢(深海)に棲まい、やがて湖を通じて現実へと侵入していったのである。そしてついに古い上位者オドンとなって再び宇宙へと上昇したのである

オドンからは導きや瞳、月に関連する上位者たちが生まれたがその時すでにオドンは宇宙(悪夢)へと去った後である(オドンは個にして全の存在である。エーブリエタースの親の個体は宇宙へ去ったが、別の個体はいまも淀みから誕生してくる)

星の娘エーブリエタース見捨てられた格好になり、またアメンドーズは憐れなる落とし子として存在することになったのである。また月の獣は神秘と獣性の相克により傷ついている

その後、人類の短い歴史のなかで処刑隊やハンター、医療教会などが誕生し今に至っているのである



右回り、左回り

時計盤の「拝領」を境にして左に神秘右に獣性のカレルが集まっているようにも見える



「月」メンシスの脳あるいはアメンドーズである
メンシスの脳が月のカレルを落とすことや、アメンドーズ像がそびえるヤハグル教会の狩人がドロップすること、また宗教的な時空アメンドーズの姿がよく見られることが理由である

「月」
悪夢の上位者とは、いわば感応する精神であり
故に呼ぶ者の声に応えることも多い

時計をに回ることで人は獣に近づいていく(獣化する)、つまり「右回りの変態」を行うわけで、その効果は「血」と関係の深い「HP」を高める効果があることも一致している

「右回りの変態」うねる十字は「変態」の意味が与えられ
右回りのそれは、HPを高める効果がある

また左回りの変態はスタミナであるが、神秘的な変態とは「苗床化」である

「左回りの変態」
うねる十字は「変態」の意味が与えられ
左回りのそれは、スタミナを高める効果がある

持久力のマーク緑色の水滴のような形をしている


なぜこのマークが選ばれたのか長らく不明であったが、苗床がある種の植物であることを考えるのならば納得がいく

獣化が体力を上昇させるのならば、苗床化は持久力を上昇させるのである。なぜならば植物の中には動物と比べて非常に長い寿命を持つ種があるからである

植物における長寿体力の過剰から達成されるものではなく、気の遠くなるような持久力の成せる技である

体力のマークが血と心臓をあらわす赤いハートであるならば、持久力のマークは水と葉緑素をあらわす緑色の滴なのである

不死へのアプローチ2種類ある。に象徴される体力を極限まで高めることで達成される不死と、苗床に象徴される持久力を極限まで高めることで達成される不死である

その2つのアプローチ(進化)が、右回りの変態と左回りの変態として発見されたのである

「右回りの変態」「左回りの変態」
血の発見は、彼らに進化の夢をもたらした
病的な、あるいは倒錯を伴う変態は、その初歩として知られる

※持久力のマークは「拝領」にも似ている


時計の針

時計の針は最初の状態では「導き」「獣の抱擁」を指し示している



「導き」はルドウイーク、「獣の抱擁」はローレンスを撃破することで入手出来るカレル文字である

このことは現時点において狩人の悪夢がルドウイークとローレンスの時間であることを示している。それはつまりボスとして存在していることのヒントであろう

また、想定されたルートではルドウイーク→ローレンス→マリアという順にボスを倒していくことになる。ルドウイークとローレンスの討伐、そしてマリアの星見盤を合わせることで星見時計が動き始めることを意味しているのかもしれない

またルドウイークとローレンスはともに神秘と獣性を兼ね備えたボスである。そんな2人の対称性を明示しているのかもしれない





蛇足

時計盤がブラッドボーンの歴史を表わしたものではないか、という説は根強いものである

恐らくこの時計盤には1つの意味ではなく、いくつもの意味が重ねられており多様な読み方が可能である

不明なカレルや導き、また淀みに関しては考察が足りていない。過去の考察と矛盾する点についても取捨選択やすりあわせを行いながら修正していく必要があるだろう

2020年7月12日日曜日

Bloodborne 考察34 時計塔のマリアとローレンス

Lady Maria of the Astral Clocktower

時計塔のマリアの英名は「Lady Maria of the Astral Clocktower」である

日本名と異なるのは「Lady」と「Astral」の部分である

Ladyは淑女や貴婦人と訳され、Our Lady は聖母マリアのことである

アストラル (Astral) とは、「星の」「星のような」「星からの」「星の世界の」などを意味する英語。漢字で「星幽(せいゆう)」と表記される事もある。(Wikipedia)

以上を踏まえてLady Maria of the Astral Clocktowerを直訳するのならば「星見時計塔の貴婦人マリア」になる

日本語にすると語感が悪く長くなるので「時計塔のマリア」と短縮したものであろう



マリア

マリアの素性についてはかなりの部分判明している(このゲームにしては)

彼女はゲールマンに師事した最初の狩人であり、その衣装からカインハースト出身と考えられ、また不死の女王アンナリーゼの傍系にあたるという

マリアの狩装束
ゲールマンに師事した最初の狩人たち
その1人、女狩人マリアの狩装束
カインハーストの意匠が見てとれる
不死の女王、その傍系にあたる彼女は
だがゲールマンを慕った。好奇の狂熱も知らぬままに

女王の傍系でありながら彼女は血刃を厭い漁村事件の後に井戸に「落葉」を捨てて時計塔に住みついたとされる

落葉
時計塔の女狩人、マリアの狩武器
カインハーストン「千景」と同邦となる仕込み刀であるが
血の力ではなく、高い技量をこそ要求する名刀である
マリアもまた、「落葉」のそうした性質を好み
女王の傍系でありながら、血刃を厭ったという
だが彼女は、ある時、愛する「落葉」を捨てた
暗い井戸に、ただ心弱きが故に


時計塔の鍵
大聖堂の最上部、時計塔の鍵
巨大な星見時計の裏側にあたるその部屋は
患者たちがマリアと呼ぶ女の、いつからか住処であるという


時計塔に住みついた後のマリアは患者と交流し、彼らを癒そうといていたようである

露台の鍵
実験棟1階、露台の扉の鍵
時計塔のマリアが、患者アデラインに渡したもの
せめて外気と花の香が、彼女の癒しとなるように
だが彼女は、それを理解できなかった

けれどもマリアは実験棟で行われている非道な実験を止めようとはしなかったようである



実験棟

実験棟で行われていた実験の目的は「人を上位者にすること」である

トロフィー:失敗作たち
上位者のなりそこない「失敗作たち」を倒した証

そのための手段として用いられたのが、頭の中を水で満たすことである


脳液
医療教会初期、上位者は海と紐づけられていた
故に頭の患者は、自らを水で満たし、海の声を聞く
そして脳液とは、頭の中で瞳になろうとする
その最初の蠢きであるという

頭の中を水で満たすことで、頭の中に瞳が生まれるとされたのである

だがボス「失敗作たち」やトロフィーにあるように、その試みは失敗に終わったようである

医療教会中期以降は頭の中に瞳を求めることをせず、例えば聖歌隊のように別の手段を求めたのである

聖歌装束
見捨てられた上位者と共に空を見上げ、星からの徴を探す
それこそが、超越的思索に至る道筋なのだ

頭の中に瞳を得るという思想は、ビルゲンワースから引き継がれたものであったが、やがて医療教会はその思想からは決別し、独自の道を歩んでいくことになる

目隠し帽子
帽子の目隠しは、彼らが学長ウィレームの直系である証である
たとえ、いまや道を違えたとしても



時計塔のマリア

さて、こうした非人道的な実験をなぜマリアは看過していたのであろう

心弱き故に「落葉」を井戸に捨て、また患者に対して一定の慈しみすら見せていた彼女が実験棟の実験に賛同していたとは思えない

では彼女はなぜ実験棟のある大聖堂の最上部にいたのであろうか

時計塔の鍵にはこうある

時計塔の鍵
巨大な星見時計の裏側にあたるその部屋は
患者たちがマリアと呼ぶ女の、いつからか住処であるという

患者たちがマリアと呼ぶ女、ということは医療者や医療教会側ではなく患者がマリアと呼びはじめたということである。つまりマリアは医療教会に属する者ではない

また「いつからか」とあるように、マリアは実験棟の最初から時計塔に住んでいたのではない

彼女は誰も知らぬ間にそこに住みつき、まったく自由に実験棟を巡回し、患者たちと交流していたのである

その患者たちとは頭の中を水で満たした患者たちである

頭の中を水で満たし、そこに瞳が生まれると、次に起きるのは瞳の孵化である(瞳が精霊の卵であることは過去に考察している)

精霊は患者に神秘の知恵をもたらし、患者は星輪の幹である「苗床」に変異する

苗床とは星の介添えたるあり方であり、人ならぬ知覚を獲得した眷属である

彼らは人には見えぬものに見え、人には聞こえぬものを聞いていた

脳液(コマドリ)
かつて兄は医療者を志し、妹はそのため進んで患者となった
結果夢のような神秘に見え、兄妹は幸いであった

そしてまた、時計塔に通じる扉は螺旋階段を作動させない限り到達不可能である

にもかかわらず何人もの患者がマリアの存在を証言し、そのうちの1人は時計塔に通じる扉を仰ぎ見ているのである。その全員が頭を水で満たした頭の患者たちであった

つまるところマリアは頭の患者にしか見えない幽霊のような存在だったのである

マリアは実験棟の実験に協力していたわけではなく、彼女自身の現在のあり方ゆえに、止めることができなかったのである

彼女のあり方とは神秘的な不可視の存在ということである

彼女にできたのは、自分を知覚することのできる患者たちの痛みを癒すことだけであった



アストラル

アストラルには「星の」という意味があることは上述した

は本作において重要な概念である。例えば時計塔の直前エリアは「星輪樹の庭」といい、星輪樹は時計塔の方を向いて咲いている

また、聖歌隊は星からの徴(Astral signs)を探し、眷属は「輝ける星の眷属」と言われている

またこのアストラルという英語は神智学(一種のオカルト)において「アストラル体」という概念として用いられている

アストラル体(アストラルたい、英: Astral body)とは、神智学の体系では、精神活動における感情を主に司る、身体の精妙なる部分である。主に情緒体、または感情体、感覚体、星辰体などとも。(Wikipedia)

アストラル体の語源宇宙に遍満するエネルギー「アストラル・ライト」である

まとめると、人間には精神や感情を司る宇宙的エネルギーを由来とする霊的な身体があり、それをアストラル体という


遺志

以上のようにアストラル体とは人の感情を司るエネルギーであり、かつ宇宙的エネルギーでもある

これと類似した概念が本作には登場する

血の遺志」である

血の遺志とはダークソウルシリーズにおける「ソウル」である
両者ともにレベルアップアイテム購入に消費され、また敵を倒すと入手することができる

ソウルとはいわば世界に満ちるエネルギーであり、万物の根源でもあった

血の遺志もまたそのような役割を果たしていることは両シリーズをプレイ済みならば言うまでもなく理解していることと思われる

だが、血の遺志にはソウルにはない制限がある

いや、その前にまず「血の」が余計である。なぜならばこの世界には「血のなき者」も存在するからである

正確には「遺志」こそがソウルと同等の価値を持つのである

そしてソウルにはない制限とは「遺志が力を持つのは悪夢の中だけ」、ということである

遺志は悪夢限定のソウルなのである

悪夢において遺志は、狩人の主体(夢における意識と肉体)を成り立たせるものである



獣性

時計塔のマリアも遺志の力によって創造されたものである

ボスエリアに入った時点で時計塔のマリアはすでに死んでいる。このことは時計塔のマリアに近付くと「死体に触れる」と表示されることからも明らかである

しかしこれは現実の肉体ではない

マリアを倒すと消滅するが、これは現実の肉体がすでに失われているからである(逆にブラドーやシモンは死体が残る)

椅子に座ったマリアの死体は、肉体を持っていた現実のマリアの死体ではなく、彼女の残した遺志から創造されたものである(上述したように遺志は悪夢の世界における創造の力である)

マリアの現実における死はおそらく時計塔のマリアと同じようなものであったであろう

椅子に座って刃物で喉を突いたか頸動脈を切ったのである
そしてそのは左手を伝い床に滴っている

さて、死血に宿るものといえば「遺志」である

時計塔のマリアはこの遺志から創造されたのである。そしておそらくそれはマリアの獣性的な側面を含んだ遺志であった

狩人の悪夢には血に酔った狩人が囚われるという。血に酔うとは獣血に酔うこと、つまり獣性に支配されることを意味している

逆に言えば獣性に支配されていない遺志は狩人の悪夢に囚われない。また血の医療を受けた者には神秘と獣性がともに宿っている

神秘と獣性の相克は血の医療を受けた後のムービーに示されている

狩人マリアの遺志のうち獣性的な側面のみが狩人の悪夢に囚われて形を成し、「時計塔のマリア」になったのである



人形

一方、狩人マリアの遺志のうち神秘的な側面人形に受け継がれている

人形と時計塔のマリアは、狩人マリアの遺志の神秘的側面と獣性的側面がわかれ、それぞれが人の姿をとったものである

時計塔のマリアを倒すと人形が「重い枷が外れたような」と口にするのは、元をたどれば2人は狩人マリアの遺志から生み出された双子のようなものだからである

神秘的側面を体現する人形にとって相反する獣性を体現する時計塔のマリアの存在は、重い枷のように感じられていたのであろう



血族

時計塔のマリアには他にもいくつか不可解な点がある

たとえば彼女は血族であるにもかかわらず、彼女の血を放つ攻撃には「劇毒属性」がない

これは「千景」ではなく「落葉」を使っているから、とも考えられるが、マリアはその落葉にない血刃攻撃を放ち、しかもその血に劇毒がないのである

※同じように血を放つ攻撃をする女王、ヤーナムの血には劇毒属性がついている

そのうえ時計塔のマリアは血(獣性)と炎(神秘)という相反する属性を同時に操るのである
※獣性と神秘の相克については過去の考察参照のこと

オープニングムービーにあるように、血の獣は炎によって焼かれるのである。多くの獣ボスが炎を弱点としていることなどからも、この2つの属性は本来は相反するものである

血に劇毒が含まれず、炎と血を同時に扱えるのは、時計塔のマリアが狩人マリアの遺志の獣性的な側面が生み出したある種の悪夢(アストラル体)だからである

悪夢が肉体とは異なる次元にあるように、時計塔のマリアは現実の血肉から自由な存在である

よってその血の攻撃には「劇毒」は含まれないのである
※劇毒の正体は獣血の主(虫)である

また過去に考察したがマリアはオドンの子を出産している。神秘の存在であるオドンの子を産んだことでその力が宿り、それはとして現われるとも考えられる

※女王、ヤーナムの拘束攻撃と同じメカニズムと思われる
※あるいは遺志的な存在であるがゆえに、神秘と獣性両方の特徴を持ったものだろうか

ある意味で時計塔のマリアは獣性と神秘をかりそめに統合した存在である、と言えるのである



ローレンス

ローレンスについても同様のことが言える

ローレンスは作中では


  1. 大聖堂の獣化した頭蓋
  2. 悪夢の大聖堂の炎の獣
  3. 手術祭壇の人の頭蓋


として登場する

このうち、ヤーナム大聖堂にある獣化した頭蓋現実のローレンスのものである

彼は現実では獣化した後に首を落とされ、しかしその首には精霊が宿っていたために祀られたのである

ローレンスは現実においては、頭蓋(神秘)と獣血の主(獣性)として分断されているのである

これは医療教会の方針が彼をそうさせたものである

「頭の中の瞳実験」が示すように医療教会は神秘を求めようとしてきた一方で、「獣の抱擁」にあるように獣性を制御する実験も行っていたのである

「獣の抱擁」
獣の病を制御する、そのために繰り返された実験の末
優しげな「抱擁」は見出された

神秘の実験と獣性の実験、この二つを自ら受けたのがローレンスである

結果として頭部には神秘が宿り(それはつまり精霊が頭の中に満ち)、大聖堂に聖遺物として飾られ、また肉体は獣血の主となって打ち棄てられたのである

医療教会が目指した血の医療の完成とは、聖血に含まれる神秘と獣性を統合し、獣の病を克服することである

その理想が狩人の悪夢に具象化されたものが炎の獣である

炎の獣は初代教区長ローレンスという名前である
このボスのenemy IDは「kyoukuchouOmega」である

聖書に「私はアルファであり、オメガである」(『ヨハネ黙示録』)とあるように、最初と最後をあらわすと同時に、「全て」「永遠」「究極」といった意味も持つ

初代Omegaの名前が使われているのは、その姿が医療教会の理想とした究極の姿だからである


3.の人の頭蓋は、終に守られなかった過去の誓い、とされている

ローレンスの頭蓋
それは、終に守られなかった過去の誓いであり
故にローレンスはこれを求めるだろう
追憶が、戻るはずもないのだけれど

過去の誓いがなぜ人の頭蓋になるのか?

答えは人の頭蓋そのものにある

つまるところ獣の病を癒すという誓いは獣を人に戻すことに繋がり、現実では獣化したローレンスの頭蓋が人の頭蓋になることは、血の医療の成就を意味するからである

人の頭蓋が意味するのは、獣の病の克服である

しかし、それは悪夢の中にしか存在しない
終に果たされなかった約束なのである


マナス

アストラル体と似たような概念としてマナスがある

神智学の定義によるマナス(英: Manas)とは、人間の心、知性、自我を司っている不可視の身体である。英語のMindと相応している。 (Wikipedia)

宮崎英高氏はインタビュー「心の目」について触れている

開発の開始時に、私たちはこのフォーラムを持っていて、日常的に思い浮かんだことを何でも書いて、チームの他のメンバーがそれを閲覧できるようにしました。私は、心の目の意味や人々に対するその制限、あるいは血や獣の変容についての議論、そしてそのような他の本当に意味のないものについて書きます。

※心の眼は英語では mind's eye の字が使われている

あるいは心の目とは、マナスの目を意味しているのかもしれない


蛇足

アストラル体に踏みこまずとも説明は可能だったかもしれないが、「アストラル」という用語にはそういった怪しげな概念がついてまわることに触れておきたかったのである

ちなみにアストラル体の元となった「アストラル・ライト」を提唱した隠秘学者エリファス・レヴィや神智学のヘレナ・P・ブラヴァツキー、また人智学のルドルフ・シュタイナーといった者たちが活躍したのはヴィクトリア朝の時代である(やや時期が外れる者もいる)

特にルドルフ・シュタイナーは神秘思想と医学を積極的に結びつけた業績があり、その方向性は医療教会と重なる部分もある


2020年7月8日水曜日

Bloodborne 考察33 眷属

眷属

本作に登場する眷属は以下である

一般エネミー

脳喰らい
星界からの使者(小)
蛍花
星の子ら
瞳の苗床
ロマの子ら
学徒

ボス

星界からの使者(大)
白痴の蜘蛛、ロマ
星の娘、エーブリエタース
失敗作たち

※厳密には星界からの使者(小)ならびに学徒にはバリエーションがある


眷属という言葉

眷属という言葉は意外なほど作中に出てこない

眷属の死血
上位者に連なる、人ならぬ眷属たちの死血
英文:Coldblood of inhuman kin of the cosmos, brethren of the Great Ones.

トロフィー:イズの大聖杯 輝ける星の眷属たちの故郷 その封印たる「イズの大聖杯」を手にした証
英文:Acquire the Great CHalice of isz that seals the home of the cosmic kin.

手記
眷属
英文:Kin of the cosmos

ゲームシステムの一環であるトロフィーと手記をのぞけば眷属の死血のみである(調査不足の可能性あり)


苗床

さて、結論から言うとこれら眷属たちに共通する属性は「苗床」であることである
それは人であるなしに、精霊の住む苗床である

「苗床」
この契約にある者は、空仰ぐ星輪の幹となり
「苗床」として内に精霊を住まわせる

実験棟ではある種の実験が行われていた。それはアデラインイベントを通じてプレイヤーに提示されるが、簡単にいうと上位者になるための実験である

脳液
医療教会初期、上位者は海と紐づけられていた
故に頭の患者は、自らを水で満たし、海の声を聞く

目的は上位者になるものである。そのための方法として頭の患者は自らを水で満たしたという。その結果として患者の頭の中には瞳が発生した

脳液
そして脳液とは、頭の中で瞳になろうとする
その最初の蠢きであるという

この瞳と啓蒙との関係性は過去の考察で述べた

瞳は精霊の卵であり人に啓蒙をもたらすものである
また脳液を啜り続けたアデラインは最後にカレル文字「苗床」をドロップして反応がなくなる

これらの事実から鑑みるに、アデラインの頭の中には「瞳」が産まれそれは精霊として孵化し、最終的に彼女は精霊を住まわせる「苗床」になったと考えられる



失敗作たち

上位者になろうとする試みはある一定の成果はあげたのであろう。だがそれはついに成功に至らず失敗に終わった

それを名で示したのが失敗作たちである
実験は失敗した。ゆえに上位者と海とが紐づけられていたのは「医療教会初期」だけなのである

失敗作たちはそうした実験の延長線上におり、アデラインに起きたことから推論するに、彼らは「苗床」になったと考えるのが自然である

そして彼らは眷属である。まるで唐突に、しかも当然のように眷属なのである

眷属とは輝ける星の眷属たちとされ、「」と深い関係にあることがわかる

一方、カレル文字「苗床」も「星の介添えたるあり方を啓示」し、「苗床」になったものは「空仰ぐ星輪の幹」になるとされる

「苗床」
星の介添えたるあり方を啓示する

なぜ両者はともに「」との関わりを示すのか?

眷属と苗床は表現の仕方は異なれど、同じ内容を語っているからである

それはつまり両者はともに「上位者の眷属」であるということである
人であれ上位者であれ、苗床としてのあり方をしているのであれば、その者は「眷属」なのである



子ら

星の子らロマの子らは正確にはエーブリエタースやロマの子ではない(すべての上位者は赤子を失っている)

では何なのかというと、星の子らはエーブリエタースと同じ精霊を内に宿した苗床であり、ロマの子らはロマと同じ精霊を宿した苗床なのである

星の子らは孤児院の子どもたちを苗床にし、ロマの子らは恐らくビルゲンワースの学徒を苗床にした者たちである

使者については考察途上である。元狩人であろうとは思うが彼らの正体の究明に関しては今後の課題である



Kin

さて、では苗床とはそもそもなんなのか

精霊を住まわせることは「苗床」により明らかである。しかしながらなぜ精霊を住まわせることができるのか、という疑問が生じる

眷属は英文では血縁、親族、親類を意味する「Kin」という単語が使われる

ここに答えそのものが記されている

Kinつまり「菌」である

菌といっても幅が広いが、「真菌」あるいは「粘菌類」である

精霊はキノコや粘菌となったを喰らいながら増えていくのである
このことは狩人が「苗床」を装備したときの外見からもうかがえる

内に精霊を宿すキノコ人間


軟体生物や宇宙生物という見方もできるが、これはキノコ人間である
※内に精霊を宿す苗床でもあるので、その攻撃には触手や精霊そのものの姿が見える

精霊は一個の菌類的世界(宇宙)となった(苗床)に棲みつき、そこに生える菌類を食べているのである



粘菌

真菌あるいは粘菌のどちらがより「苗床」に近いかというと、個人的には「粘菌」だと思われる

というのも、漫画版『風の谷のナウシカ』において粘菌は非常に重要な役割を果たし、それは最後には腐海の苗床になるのであるが、その様や説明が「苗床」関連の用語と共通するものが多いからである

本作における粘菌(ねんきん)とは、ヒソクサリが土鬼軍による兵器転用を目的とした実験の過程で突然変異したものをいう。従来の瘴気マスクが効かず、蟲さえも死に至らしめる猛毒の瘴気をまき散らしながら巨大なアメーバ状の体(変形体)で周囲の物を飲み込み、さらには大海嘯の直接的な引き金となったことで土鬼の国土に壊滅的被害をもたらした。最終的には飲み込んだ王蟲の群に付着していた腐海植物の苗床としてその大部分が吸収され、腐海生態系の一部として取り込まれる形で安定化した。
腐海にはもともと微小な粘菌が生息しており、ナウシカもこれを研究していた。ナウシカはその経験から大海嘯の真の意味を理解するに至った。 (Wikipedia)

※蟲は上位者や精霊、腐海は悪夢や苗床にたとえられようか。変異体の粘菌は相違はあるがオドンになるか

クトゥルフ的には「ユゴスよりの菌類」という植物や菌類に近い異形生物が当てはまるだろうか。優れた医術と科学技術を持ち、人間の脳を取り出して生かし続けることもできるという。このあたり医療教会やエーブリエタース関連と繋がるかもしれない



悪夢

過去の考察悪夢とは上位の苗床であるということを述べた
上記の苗床=菌類説をとるのならば、悪夢とは上位次元に生える巨大な「キノコ」のようなものである

それはカバラにおけるセフィロトの樹のクトゥルフ的パロディと言えるであろう

セフィロトの樹をキノコにしたものが悪夢である

そんな逆さまに生えた巨大なキノコ(宇宙)に棲んでいる生物が「上位者」なのである

しかし彼らは生物であるがゆえにオドンという毒(水銀毒)からは逃れることができなかったのである。水銀中毒に陥った結果、すべての上位者は赤子を失ったのである



養殖人貝

かぎりなく眷属のような姿をしている「養殖人貝」は眷属ではない
これは眷属=菌類説から説明することができる

「人貝」とあるように「養殖人貝」は「」である

実は貝類も軟体生物の一種であり、その生態はむしろ本作の精霊に近いものである
つまり養殖人貝は精霊の一種であり、養殖とつくのは、人造の精霊だからである

養殖人貝は苗床(菌=眷属)ではなく、ある種の精霊なのである

また養殖人貝とよく似た姿をしている漁村民精霊と人間との混血種である

漁村民のenemy IDは「DeepOnes」というが、これはクトゥルフ神話における「深きもの」のことである。インスマウスの影に描かれた深きものは、ダゴンとヒュドラを始祖とする半漁人的な生物であり、クトゥルフを崇拝している

この深きものと人間の混血種こそが港町インスマウスに住むインスマウス人たちである(インスマウス面と呼ばれる特徴をもつ)

つまり、彼らは苗床ではなく精霊と人との混血によって誕生した亜人である
ゆえに漁村民は眷属ではないが、精霊的な形質を受け継いでいるのである

2020年7月5日日曜日

Bloodborne 考察32 内の瞳

錬金術師にとって最大の眼目は、金属を黄金に変える技術そのものではなく、ましてやこの技術を実社会に通用する金銭に替えることではなかった。なによりも低次の金属を高次の金属に変えるという物質変容の過程に、獣性をもって生まれてきた人間が霊性にめざめていく魂の精鍛、錬磨の過程の比喩を見てとっていたのである(『黒い錬金術』 種村季弘)


三つの瞳

前回、「」には頭の中の瞳脳の瞳内の瞳三種類あることを述べた
今回はこのうちの後者、内の瞳とは何かについて考察してみたい

3本目のへその緒

狩人の悪夢はゴースの遺子の黒い影を斬ることで狩られる(Nightmare Huntedと表示)

狩人の悪夢は狩人の業から芽生えたとされ、その中心にいるのが上位者の赤子、ゴースの遺子である

さて、本作において上位者の赤子とともに見出されるものがある

3本目のへその緒である

3本目のへその緒
別名「瞳のひも」として知られる偉大なる遺物
上位者でも、赤子ばかりがこれを持ち
「へその緒」とはそれに由来している

3本目のへその緒のは別名「瞳のひも」とも呼ばれ瞳の連なったひものような形状をしている



この黒い球体のひとつひとつが人に瞳を獲得させるものである(そのうちの一つはロマに授けられた)

瞳は複数あることがミコラーシュによって示唆されている

ああ、ゴース、あるいはゴスム
我らの祈りが聞こえぬか
白痴のロマにそうしたように
我らに瞳を授けたまえ(ミコラーシュ)
ミコラーシュはロマに瞳を授けたゴース、あるいはゴスムに対して、さらなる瞳を要求している。このことは瞳が複数あることが前提されていなければ為されない要求である

結論から先述べれば、狩人の悪夢はこの黒い球体から芽生えたのである(悪夢がある種の苗床であることは「考察30 悪夢と神秘」で述べた)

なぜ苗床植物的な形態をとり、植物のようにたとえられるのか?

植物だからである

そしてこの植物の種から悪夢が芽生えるのである

端的に言うと、3本目のへその緒とは「鞘に入った悪夢の種」である

ただし悪夢のは人の内に瞳を獲得させるアイテムであって、瞳そのものではない

これは例えば瞳=種としてしまうと、上位者になったにもかかわらず、芽吹いたはずの種を内に抱いているという矛盾が生じてしまう(これは瞳=精霊の卵説でも同じ矛盾を抱える)

よって3本目のへその緒とはテキストにあるとおり、内に瞳を獲得させるアイテムであって「瞳」そのものではない

3本目のへその緒
使用により啓蒙を得るが、同時に、内に瞳を得るともいう
だが、実際にそれが何をもたらすものか、皆忘れてしまった


内の瞳

3本目のへその緒とは悪夢の種である
言い換えれば、上位苗床の種である

その種を使用することで人は内に瞳を得る

なぜが宿るのは内でなければならなかったのか? 脳でも頭の中でも体でも血でもなく、なぜそれは内に宿らなければ上位者になれないのか

そもそも「内」とは何を意味するのか?

実は宮崎英高氏はインタビューPages 005-009の左下)において、意図的なものかうっかりなのかは分からないが内の瞳の正体を漏らしている

開発の開始時に、私たちはこのフォーラムを持っていて、日常的に思い浮かんだことを何でも書いて、チームの他のメンバーがそれを閲覧できるようにしました。私は、心の目の意味や人々に対するその制限、あるいは血や獣の変容についての議論、そしてそのような他の本当に意味のないものについて書きます。
心の目は原文では mind's eye の字が使われている

※このインタビューでは青ざめた血の意味や赤子が象徴するものなど、かなり突っ込んだ話がなされている。ここであえて内の瞳を隠す必要はないし、また心の目に該当する概念は作中に「内の瞳」しか存在しない

心の目、つまり精神の目であり、内とは人の精神のことなのである

そして悪夢とはまさにその精神が見るもう1つの現実である
悪夢が芽生える培地として悪夢を見る心(ゼーレ)よりも相応しい場所はない

※ユングによればとは「無意識的な心が意図せず自然に生みだしたもの」(『元型論』)である。よって分析心理学的に解釈するのならば内の瞳とは「無意識を見る眼」を持つことである

内の瞳」は別の物を比喩的に表現しているのではなく、純粋に見るという機能面から名づけられた名前である。そして夢見る瞳を内に抱き続けるかぎり、その者は夢を見ることができるのである

内に瞳を宿したとき、人は自己の内にある「悪夢(無意識)」に気づく
そして人は上位者になった自分を悪夢(苗床)の中に見るのである

貴公、まだ夢を見るのだろう?
何度でもくるがよい。その度に、死の苦痛を削り込んでやる(デュラ)

デュラによれば、狩人は狩人の夢を見ることで悪夢に存在している。悪夢とは神秘、つまり遺志によって構成された領域である。その領域に存在するために狩人は夢を見る

悪夢に存在するための存在原理は「遺志」なのである。だからこそ死ぬとそれを落とし強制的にもう1度夢を見させられるのである

夢を見ようという遺志がある限り、狩人は夢を見ることができるのである(これは本作に対するプレイヤーの態度とリンクしたシステムである)

上位者もまた同じメカニズムによって悪夢のなかに棲んでいる。悪夢の世界の存在原理、遺志によって存在しているのである

だからこそ、上位者は「上位者の死血」を落とすのである

上位者の死血上位者の血の遺志を宿した遺物
使用により宇宙悪夢的な血の遺志を得る

内に瞳を得た者は、上位者の赤子となった悪夢を見るのである。しかしそれはたんなる夢ではなく「上位の苗床」に棲まう高次元の生命体である

精霊が存在するためには苗床が必要であるように、上位者が存在するためには悪夢(上位の苗床)が必要になるのである

※後述するが、このとき悪夢は上位者の赤子の揺り籠として機能する

上位者の形質悪夢の造形遺志をあるていど反映したものである(ただしそれは人の理解できる変異ではないかもしれない)

なぜならば悪夢の種は人の心の内にある「遺志」を肥料にして芽生えるからである

人→上位者という転変の仕方や生前の性質を反映するという性格は、『ベルセルク』における使徒と類似したメカニズムである

※また夢が世界を構築するというメカニズムは、ダークソウル3の輪の都がそうである。輪の都はフィリアノールが見る夢であり、彼女の目覚めによって真の姿が明らかになる

※フロイトにより無意識が研究されたのはヴィクトリア朝末期である


ここから下は補遺(と補足)である。やや特殊な知識が前提とされることと、重複する部分があることを先に断っておく

補遺:遺志

オドンとは神秘であり、それは遺志でもあることは過去の考察で述べた

悪夢における遺志は、狩人の主体(意識と肉体)を成り立たせるものである

青い秘薬
それは脳を麻痺させる、精神麻酔の類である
だが狩人は、遺志により意識を保ち、その副作用だけを利用する
すなわち、動きを止め、己が存在そのものを薄れさせるのだ

脳が麻痺した状態で意識を保てるのは、夢の中における狩人を存在させているのが脳ではなく遺志だからである

遺志がなければ、教会の大男のように意識の希薄な状態に囚われるのである

逆に言えば、遺志こそが狩人自身を狩人たらしめている根源的な要素なのである。ゆえに通常はそれを捨てなければ目覚めることはできない

なぜならば悪夢の世界においては遺志こそが狩人を規定するからである

そして上位者はそんな悪夢の中に棲まう者たちである

上位者も狩人と同じく「遺志」によって存在している。このことは上位者の死血に宇宙悪夢的な血の遺志が宿っていることからも明らかである

上位者の死血
上位者の血の遺志を宿した遺物
使用により宇宙悪夢的な血の遺志を得る
それは天啓にも似て、だが到底理解などできぬものだ

悪夢における存在の仕方において狩人も上位者も同じメカニズムによって成り立っているのである

それは悪夢を支配する神秘の概念、遺志である

狩人は夢を見ることで夢のなかに存在している。そして遺志がある限り存在し続けることができる

貴公、まだ夢を見るのだろう?
何度でもくるがよい。その度に、死の苦痛を削り込んでやる(デュラ)

人も上位者も存在の源泉が遺志であるのならば、人は夢見ることで夢に存在し、上位者は悪夢を見ることで悪夢に存在するものである

※血の遺志は人形によって狩人の力となる。たとえ敵に殺されたとしてもすでに得た力は失われない。つまり狩人として存在し続けることができる

※しかし、まだ力になっていない血の遺志は殺されるとその場に落としてしまうことがある


補遺:宇宙は空にある

しかし遺志は現実世界には存在しない

それは悪夢という領域に満ちる悪夢のエネルギーである

こうした霊的世界を満たす架空のエネルギーを第五元素(キンタ・エッセンティア)第一質料(プリマ・マテリア)と呼ぶ。たとえばエーテルでありイリアステルである

※『ベルセルク』ではオドと呼ばれている

エーテルは天体を構成する第五元素としてアリストテレスによって提唱された概念である

イリアステルは生命の精気といった意味の錬金術師パラケルススの造語である。ヒュレ(質料)と、アステル(星)との合成語

古来より第五元素には無数の名前がつけられてきた

水銀、鉱石、鉄、鉛、塩、硫黄、生命の水、、毒、空気、、水、、雲、、露、影、、母、、龍、ウェヌス、混沌(カオス)、小宇宙(ミクロコスモス)等々である

このうち錬金術においてもっとも頻繁に使われたのが「水銀」である

錬金術師たちはしばしば変幻つねなき悪戯好きの神メルクリウスを水銀と同一視してきたが、同時にそれは、とも、精霊とも、空気の精とも、とも同一視されてきた(『黒い錬金術』 種村季弘)

ブラッドボーンにおけるオドンはメルクリウス(水銀)的な第五元素である。それはであり、であり、目に見えない形なきものであり、血を滲ませるものである

錬金術の文書はしばしばメルクリウスを火と定義している。それは「元素的な火(イグニス・エレメンタリス)」、「われらの自然にしてもっとも安全な火」、「眼に見えず、秘密裡に作用する火」である。それはまた「天上の霊を内蔵している自然の光の宇宙的な煌く火」でもある。(『黒い錬金術』 種村季弘)

そしてこのこの自然の光(ルーメン・ナトゥラエ)は、「深淵的な」ものであり、地獄の火としても理解されていたのである

メルクリウスは、かくて同時に水であり火であるのみならず、不浄な火である。(『黒い錬金術』 種村季弘)
骨炭の仮面
上位者たちの眠りを守る番人たちは
その姿と魂を業火に焼かれ、灰として永き生を得たという

また物質であるとともに霊でもあり、この二つの対立物を統一した完全性の象徴でもあった

要するに、メルクリウスは物質であるとともに霊であり、眼に見える存在でありながら手に触れられぬものであって、しかも同時にこの対立する二つの範疇を結合する媒体としての魂(アニマ)であった(『黒い錬金術』 種村季弘)

聖歌隊が「宇宙は空にある」といったのは、第五元素であるオドンによって満たされた世界、すなわち宇宙の領域が星辰(アストラル)にあることに気づいたからである

だがそこは現実における空ではない

悪夢の空であり、空の果てには「」が存在するのである
なぜならば悪夢とは逆さまの世界だからである

「すべて上にあるものは、下にあるものに等しい」(『エメラルド板』ヘルメス文書)

補遺:上位者の赤子

3本目のへその緒の特異な点は3本使うことで上位者の赤子になることである

たとえ使用者が大人であっても上位者の成体ではなく、上位者の赤子に変化するのには何らかの理由があるはずである

上述したように、3本目のへその緒は悪夢の種である
そしてそれは上位者が赤子を産むときに苗床が散種するものである

いわば赤子の揺り籠になるべく生み出されたものなのである。同時に苗床にとっては自らの領域を増やすための手段でもある

赤子に種をもたせることで、その赤子から新たな悪夢が芽生え苗床は大きくなっていくのである

錬金術用語でいうのならば、こうした悪夢の種子もまた「第一質料(プリマ・マテリア)」である

この第一原質(マテリア・プリマ)はすでに分化の萌芽を内蔵している。それはちょうど、全世界がそこから開花してくる植物の小さな種にもたとえられる(『黒い錬金術』 種村季弘)


補遺:3本の3本目

しかし3本目のへその緒を3本使うことに何の意味があるのだろうか

単純に考えるのならば3という数字は、調和を意味する数字である(キリスト教における三位一体もこの観念の延長である)

対立物を調和させ一つに統合することのできる数字が3である

本作で言うのならば3つの対立項を調和させた上位者になるためには3本目のへその緒を3本使う必要があったのである(3本でも4本でも結果は変わらないということは、3という数に意味がある)

3つの対立項とは


  1. 神秘と獣性
  2. 血の無きものたちと血をもつ者たち
  3. 上位者と人


である

これらはすべて月の魔物が統合しようとして失敗したものである(月の獣は神秘と獣性を宿しており、その双極性により障害が引き起こされている。それは2.をも内包し、マリアの子であるがゆえに3.をも内包しているが、月の魔物はそのすべてにおいて統合が不完全である)

血の無きものたちと血をもつ者とは、オドンに代表される血を持たぬ上位者と、その他の血をもつ上位者たちのことである(人間含む)

上位者と人との統合は、トロフィーにより明らかにされている

トロフィー:幼年期のはじまり「自ら上位者たる赤子になった証。人の進化は、次の幼年期に入ったのだ」

ここで狩人は上位者の赤子であると同時に、新しい進化(幼年期)に入った人としても扱われている

3本目のへその緒は対立物を結合させ、卑金属を金に変えるような賢者の石である

賢者の石が上記の3つの対立項を結合させ、人を上位者に(卑金属を金に)変えたのである
※相反するものの結合は錬金術とユング参照のこと(wikipedia)

対立物の結合という観念は錬金術的に非常に重要なものである。錬金術の究極の目標としてあげられるほどである

そしてこの分極をふたたび一つにすることこそが、錬金術の大いなる秘密であり、究極の目的であった。別の表現でいえば、「相反するものの結合」をこそ錬金術の業はめざすのである。(『黒い錬金術』 種村季弘)

心理学者ユングは童子についてこう語る
それゆえそれは対立を結合するシンボルであり、調停者、救い手、すなわち全体性を作る者である。(『元型論』)

狩人は単に上位者であるだけでなく、これまで決して調和され得なかった獣性と神秘を統合した新たな人類と呼べるものなのである(あるいは上位者の進化ですらあるかもしれない)

そしてそれが、幼年期に入るために必要な人の進化だったのである

トロフィー「幼年期のはじまり」
自ら上位者たる赤子となった証。人の進化は、次の幼年期に入ったのだ


補遺:呪い

呪いとは極めて意識的な行為である

悪夢において遺志とはたんに意識を保つためのものではなく、世界を構成する要素(神秘)でもある。ゆえに遺志の制御は世界を制御することなのである(ミコラーシュがそれなりに成功したように)

呪いという意識的行為は、呪いに相応しい形質を遺志に与え、そしてそれは現実世界へと送り込まれたのである。獣の病、またその根源にある「虫」である

遺志は悪夢の中にしか存在しえないものである。だが、条件が重なることで遺志や遺志から創造されたものは現実世界に顕現する

例がないわけではない。例えば精霊による神秘力の行使はその弱い実現である

またミコラーシュの未使用セリフによれば、彼は夢を現実にして瞳を得ようとしていたことが明らかになっている

ああ、ようこそ我らの夢へ
けれどもう、誰も必要としない
儀式はもうすぐ終わる
夢が現実に、我らに瞳をもたらすのだ!(ミコラーシュの未使用セリフ)

儀式により夢が現実となり「瞳」をもたらす

この儀式はしかしミコラーシュのオリジナルではない。すでに漁村において原型となる出来事が引き起こされている

赤子を泣かせることで遺志の世界たる悪夢を現実に接近させたのである。悪夢は現実を侵食していき、そこは悪夢と現実の混淆した中間的領域になるのである

そして悪夢と現実とが完全に重なったとき夢が現実となり、我らに瞳をもたらすのである

※そうしてもたらされた瞳の帰結が「ロマ」であろう


補遺:生きているヒモ

メンシスの脳が寄生生物的な生きているヒモをドロップすることから、抱いていた瞳は精霊の卵であり、精霊の卵こそが脳の瞳であると早合点してしまいがちだが、これは大きな誤解である

なぜメンシスの脳の抱いていた瞳が「邪眼」でなければならなかったのか?
なぜメンシスの脳は腐りきっていなければならなかったの?

純粋な上位者のようにただ瞳を抱くだけではない、別の要素があるはずである

別の要素とは「生きているヒモ」そのものである(それ以外にない)

生きているヒモのグラフィックは「赤い


そして、青い光や白い液体といった神秘属性の物質とはほど遠い赤い血のような液体に浸かっている

つまり生きているヒモは神秘の存在ではなく「血属性」をまとっているのである

さらにいえば、軟体生物とは異なり「生きているヒモ」は固く折れ曲がっている

これは一体何者なのか?

血に潜む生物には二種類いると先述した。精霊の卵と獣血の主(虫)である

その二者は相克関係にあり、一方が一方を滅ぼそうと熾烈な争いを繰り広げている

それは上位者であっても同じ事である

つまるところ、メンシスの脳が腐っていたのは「生きているヒモ」に寄生されていたからであり、その瞳が邪眼になってしまったのも「生きているヒモ」に寄生されていたからである

純粋な上位者になることを「獣性」が妨害したのである

啓蒙取引において「生きているヒモ」は啓蒙10と交換される。これは単に啓蒙と交換に生きているヒモを手に入れたわけではない

獣性の塊たる「生きているヒモ」を入手することで、より獣性に近づいたことを意味しているのである(それは啓蒙を失うことでもある)

そう考えると啓蒙取引の素材ラインナップにも意味深なものを感じてくる

啓蒙取引の素材に並ぶのは、ほぼ例外なく「血」(それはつまり獣性)に関連する品物である


補遺:大量の水

本作において湖は重要な概念として登場してくる

「深海」
大量の水は、眠りを守る断絶であり、故に神秘の前触れである
求める者よ、その先を目指したまえ

ユング心理学において「大量の水」(海や湖)は無意識の象徴である
そしてユングによれば夢とは「無意識的な心が意図せず自然に生みだしたもの」(『元型論』)であるという

夢とは神秘の世界であり、普段それを意識と断絶させているのは無意識なのである

さて、第五元素イリアステル(星辰的質料)には、その水性、水としてのあらわれとして「アクアステル」と呼ばれる霊的原理が存在し、それは水棲生物メルジーネの属する領域であるという

「メルジーネ」は水棲生物であるから、「メルジーネ的形成原理」とは、いわゆる「アクアステル」をさす。アクアステルはイリアステルの水性、水としてのあらわれであり、身体内の水分に生命を与え、これを保持するからである(『ユング 錬金術と無意識の心理学』)
メルジーネは水の精であるが、パラケルススによれば水の精は「悪夢」であり、メルジーネは血液に宿るとされる。またユングによればメルジーネは無意識の魂(アニマ)であるという

なぜ狩人の悪夢の最深部(それは最上部である)において、狩人は水棲生物ゴースと遭遇しなければならなかったのか。彼女こそが自らの血液に宿る無意識の魂(アニマ)であり、彼女との統合を果たすことが、この旅の最終的な目的だからである

そしてそれは、狩人の分身たるゴースの遺子が母の元へ、海へと還ることで達成される

ユングはこの人間的完成つまり個性化への旅を「夜の航海」と名づけた。ユングにおいては、この個性化への旅は、暗い無意識世界の海へ深く下降していく旅なのだからである。この下降によって、意識と豊かな無意識とは統合され、個性化――人格としての完成――は実現されるのだ(『ケルト神話と中世騎士物語』)

本作における悪夢は「逆さまの世界」である
逆さまであるということは、本来は海の底にあるはずの深海が空にあることになる

狩人が悪夢(メルゴーの高楼)において上へ上へと昇っていく行程は、悪夢的には深海の底へと下降していく旅である


補遺:無意識

ここまで悪夢とは苗床であり苗床から芽生えるもの、としてきた
これはゲーム内の用語を用いた説明である

しかしながらこれをユング心理学の用語で説明するのならば、苗床とは悪夢そのものであり、さらに悪夢を芽生えさせるような概念、つまり無意識集合的無意識に置換できるのである

であるのならば、無意識に棲まうある種の人格、つまり上位者とはユングのいうところの「元型(Wikipedia)である

元型 (げんけい、ドイツ語: ArchetypまたはArchetypus、英語: archetype、アーキタイプ) は、カール・グスタフ・ユングが提唱した分析心理学(ユング心理学)における概念で、夜見る夢のイメージや象徴を生み出す源となる存在とされている。集合的無意識のなかで仮定される、無意識における力動の作用点であり、意識と自我に対し心的エネルギーを介して作用する。元型としては、通常、その「作用像(イメージ等)」が説明のため使用される。 

元型とは無意識を構成するものであり、無意識における駆動力そのものであり、形式であり内容である。そしてまた意識と無意識とを調停するものである

※人形はアニマとなろうか
シンボルが先例のないほど貧困化してのち、ようやく神々は心的動因として、つまり無意識の元型としてふたたび発見された。(『元型論』)
そしてとは元型が具象化している場所なのである

その夢を芽生えさせる3本目のへその緒とは、無意識の種子であり錬金術でいう第五元素第一質料である
この第一原質(マテリア・プリマ)はすでに分化の萌芽を内蔵している。それはちょうど、全世界がそこから開花してくる植物の小さな種にもたとえられる(『黒い錬金術』 種村季弘)

さて、ユングによれば人間の全体性は意識的人格と無意識的人格の結合によって成り立っているという

要するに人間の全体性は意識的人格と無意識的人格の結合によって成り立っている。(『元型論』)

本来結合していなければならない意識と無意識が分裂してしまう。そのことが人間の全体性を損なわせる原因になるのである

この「人間性の欠損という病」を修復するためには、意識と無意識とを再統合しなければならない

そしてこの相反するものの統合錬金術の究極の目的でもある
ゆえにユングは錬金術の手技の過程に、精神の再統合のモデルを見出したのである

そしてこの分極をふたたび一つにすることこそが、錬金術の大いなる秘密であり、究極の目的であった。別の表現でいえば、「相反するものの結合」をこそ錬金術の業はめざすのである。(『黒い錬金術』 種村季弘)
金属における「相反するものの結合」のなかに、精神における意識と無意識の結合を見出したのである

病める金属(不完全な金属)を完全者へと救済する方法は、これを肉体に適用すれば病者の治癒、あるいは不老長寿の法となる(『黒い錬金術』 種村季弘)


補遺:霊性と獣性

要するに、錬金術師たちは人間の魂物質(獣性)と霊との間にある中間的存在としてとらえ、見かけはつまらないものである種子がやがて美しい花を咲かせる潜在的な力をたくわえているように、魂には生まれつき至高善をめがける性向が具わっていると考えて、行く手のさまざまの障害や艱難辛苦を通過して魂の霊的完成(悟り)に達する内面の旅の細目を物質の化学変化のうちに類型的に対応させたのだった(『黒い錬金術』 種村季弘)

獣性とは本作における獣性であり、霊性とは本作における神秘である

両極に引き裂かれた状態にある狩人(魂)は、悪夢(無意識)への旅を経て、両者を完全に統合し、あるいは霊的に高められ上位者の赤子として完成に至るのである

そのための必須のアイテムこそが3本目のへその緒、つまり第五元素、第一原質と呼ばれる「賢者の石」である(賢者の石は卑金属を金にする)

獣性と霊性を超越し、自らも第一原質となった姿が、幼年期のはじまりENDにおける狩人である

ユングによれば童児とは以下のような存在である

  • 本質的な性質の一つは、その未来的性格である。
  • 意識的な人格要素と無意識的なそれとの総合から産まれる形姿の先触れである。
  • それゆえそれは対立を結合するシンボルであり、調停者、救い手、すなわち全体性を作る者である。



蛇足

内の瞳とは卵や瞳の比喩ではなく、まさしく見るという機能を持った「瞳」なのである
しかしそれは無意識(夢)を見るための「心の瞳」であって、人体にある「眼球」ではないのである

この精神と夢との関わりや、神秘と獣性の統合といった概念はユング心理学から採用されたものであろう

補遺としていくつか挙げたがまだ書き足りないのでユング心理学と本作の関わりについてはそのうちまとめてみたいと思う