2020年3月31日火曜日

Bloodborne 考察18 「ラヴクラフト全集のコレとコレ」

ラヴクラフト全集のコレとコレ」とは、コロコロオンラインによる山際眞晃プロデューサーへのインタビューで明かされた宮崎氏の言葉である

当時まだクトゥルフに関する知識の乏しかった山際氏に対し、「ラヴクラフト全集の、コレとコレは絶対に読んで」と宮崎氏が推薦したというのが話の趣旨である

本記事はコレとコレとは具体的にどの作品を指すのか、というのを考察したものである


ラヴクラフト全集

ラヴクラフトの著作の翻訳はいくつか出ているが、ここでいう『ラヴクラフト全集』は創元推理文庫から出ている『ラヴクラフト全集 全七巻』であるという前提を元に考察する

またコレとコレとは、全集の1冊単位を指したものか、あるいは作品単位を指したものか判然としないが、今回はまず作品単位について考えた後に、1冊単位のコレとコレについても提示してみたいと思う


コレとコレ

この文言を素直に解釈するのならば、コレとコレは2作品を指し示すと思われる。しかしながらインタビューにおいて簡潔さを優先した結果コレとコレという短い台詞に略されたことも考えられ、実際はもっと多くの作品提示された可能性も否定はできない

また、話の時期が開発初期のことであることを考えると、「コレとコレ」にはDLCは範囲に入っていないと思われる

そこでまずは作品単位でブラッドボーン本編に関連の深そうなものを挙げてゆき、最終的に本編2作品DLC1~2作品に絞ろうと思う

したがって全集1から7までを順に取りあげ、各巻に収められている候補作品を網羅的に挙げていく



ラヴクラフト全集1

インスマウスの影

DLCの漁村のモチーフである。祈りを捧げる漁村民のEnemy IDがDeepOnesであることからも、はっきりとモチーフであると断定してよいと思う


闇に囁く者

ラヴクラフトの著作のうちクトゥルフ神話要素の濃縮された作品である。深遠宇宙の外部から到来した地球外生命体、その能力や外見など、本作にいてもおかしくはない(というかモデルにしたボスがいるような…)


ラヴクラフト全集2

クトゥルフの呼び声

神話の名前にもなっている大祭司クトゥルフを主題とした作品。深海と宇宙を結びつけるような発想や神々の造形など、本作に与えた影響は大きいと思われる


ラヴクラフト全集3

ダゴン

DLCのモチーフのもう1つ。ダゴンはクトゥルフやインスマウスに登場する〈深きもの〉に密接に関わっている
また、旧約聖書におけるダゴンの造形はゴースのそれと類似している

無名都市

砂漠に埋もれる無名都市に棲むのは爬虫類人類とされる。ローランのモチーフである可能性はあるが、高くはない

闇をさまようもの

主人公による廃教会探索街の場景など、都市ヤーナムと共通する部分が多い。また教会はかつて邪悪な宗派の巣窟となっており、未知の暗黒の深淵から何やらおぞましいものを召喚したという

闇をさまようものと呼ばれる存在はあらゆる知識をもち、恐ろしい生贄を要求するという


時間からの影

時間の秘密をつきとめた唯一の種族である、イスの偉大なる種族が登場する。嘆きの祭壇の「時間を巻き戻す」ギミックのモチーフとも考えられる


ラヴクラフト全集4

宇宙からの色

異常成長する直物群の描写などは禁域の森と重なる

狂気の山脈にて

地球の旧支配者、〈古のもの〉を主題とした作品である。放棄された石造都市(一部地下)や、過去の文明との遭遇など、聖杯ダンジョンの雰囲気を彷彿とさせる
また、イスの偉大なる種族古のものの造形は、エーブリエタースと類似点が多い


ラヴクラフト全集5

魔犬

墓場荒らし宝物を奪ったことで呪いが降りかかる。神の墓から聖体を持ち出してきたビルゲンワースを彷彿とさせるストーリーである

魔宴

教会の地下納骨堂から深淵に続く階段のイメージは、旧市街へ降りていく時のそれと類似している(ギミックによって棺が動く)

死体蘇生者ハーバート・ウェスト

ラヴクラフト版『フランケンシュタイン』とでも言えるような話。死体をもてあそんだ果てに深淵から冒涜的な存在を呼び出し、引きずり込まれる

ダニッチの怪

邪神と人間の女との間に生まれた双子の物語。クトゥルフ神話の重要な邪神ヨグ=ソトホースを主題とした作品

ブラッドボーンにおける上位者と人間との生まれる赤子と設定的に通じ、双子の片方が「獣要素」が多いことや、もう一方の双子が「不可視」であることも注目に値する

この構図は、獣の病に侵される人類と、見えない上位者メルゴーのそれと類似する

また神秘的な噴霧器も登場


ラヴクラフト全集6

全編にわたり夢や夢の世界を主題とする。悪夢をメインプロットに据えるブラッドボーンにおけるモチーフの1つ

なかでも『未知なるカダスを夢に求めて』は、夢幻郷を舞台とする冒険物語であり、その旅路はブラッドボーンのそれと重なる部分が多い。また、悪夢の構造についてもこれによって説明することが可能である。たとえばメルゴーの高楼=カダスの城など



ラヴクラフト全集7

サルナスの滅亡

ムナールの地に一万年前にあった古代都市サルナスの興亡を描く作品。舞台となったムナールは後に夢幻郷に取り込まれる

サルナスは広大な湖のほとりにあり、以前は異形の住む石造都市イブが付近にあったという。サルナスはイブを滅ぼし、やがてその呪いとも言うべき現象により滅びる

石造都市イブと同じぐらい古くからあり、伝承によればある霧の多い日にイブと湖は月からくだったという

月が凸状に膨らむとき、イブの生物たちは偶像の前で跳ね回ったという

彼らが祀るのは水棲の大蜥蜴ボクラグであるが、月と蜥蜴の構図は、月に棲む大蜥蜴の邪神ムノムクアにも見られる

ムノムクアには10本の触手をもつ邪神オーンという妻がいて、その妻に仕えるのがムーンビーストである

ブラッドボーンの月の魔物は、ムーンビーストや邪神オーンなどの属性を融合させたものとも考えられる



コレとコレ(作品)

本編におけるコレとコレ1つめは『ダニッチの怪』である。おそらく本作のコンセプト的にまずは「邪神(上位者)の赤子」というイメージがあったと思われる

邪神と人間(トゥメル人)との間に誕生した双子。一方は獣性を秘して人となり、もう一方は不可視となる。長い時間を経た双子(邪神と人類)の邂逅とその結末としての本編なのである(あくまでも『ダニッチの怪』をもとに解釈するのならば)

しかる後、現実的にゲームの舞台として夢の世界を想定したタイミングで、2つめの『未知なるカダスを夢に求めて』が要請されたのだと考えられる

夢を主題としたラヴクラフト作品の最たるものであり、唯一の長編冒険小説でもある

同じ夢を主題とし、そのインスピレーションをラヴクラフトにとったとするのならば、この作品は外せないだろう

しかしながらブラッドボーン全体に漂う雰囲気からは『サルナスの滅亡』の影響が読み取れるし、クトゥルフ神話の基本としての『クトゥルフの呼び声』も捨てがたいものである

実際には2作品だけでなく、さまざまな作品からインスピレーションを得ていると思われるので、厳密に2つに絞ることは不可能だと思われる



DLC

DLCにおける「コレとコレ」は『インスマウスの影』と『ダゴン』である。ただしDLCについては時期的に話されていないと思うので、コレとコレの範囲外である可能性が高い


コレとコレ(冊単位)

未知なるカダスを夢に求めて』を含み、全編を通して夢や夢の世界を描く『ラヴクラフト全集6』は外せない

2冊目は『ダニッチの怪』を含み、また墓荒しという主題も共通することから『ラヴクラフト全集5』である

しかしながら、『サルナスの滅亡』を含み、ゲールマンを彷彿とさせる『恐ろしい老人』や、狩人の夢の屋敷を彷彿とさせる『霧の高みの不思議な家』などが収められている『ラヴクラフト全集7』も捨てがたい



まとめ

ということで、だいたい結論が出たように思う
以下がその結論である

コレとコレ(本編)

『ダニッチの怪』(ラヴクラフト全集5)
『未知なるカダスを夢に求めて』(ラヴクラフト全集6)
『クトゥルフの呼び声』(ラヴクラフト全集2)※追加

コレとコレ(DLC)

『インスマウスの影』(ラヴクラフト全集1)
『ダゴン』(ラヴクラフト全集3)

コレとコレ(冊単位)

『ラヴクラフト全集2』※追加
『ラヴクラフト全集5』
『ラヴクラフト全集6』


蛇足

重要だと思われる作品に関しては読み返したが、そうでないものについては概要をさらったのみである。ゆえに、重要な作品が抜けていることも考えられる

また今回は「ラヴクラフト全集の~」とあることから、ラヴクラフト全集以外のクトゥルフ作品については触れていない

2020年3月22日日曜日

Bloodborne 考察17 カインハースト3 禁断の血

血の女王

作中において「血の女王」の称号は、ヤーナムとアンナリーゼの双方に冠されている



血の女王ヤーナムが「特別な赤子」を抱こうとしたように、血の女王アンナリーゼもまた「血の赤子」を抱こうとしたのである(この場合の「抱く」は出産の比喩である)

婚姻の指輪
上位者と呼ばれる人ならぬ何者か
彼らが特別な意味を込めた婚姻の指輪
古い上位者の時代、婚姻は血の誓約であり
特別な赤子を抱く者たちにのみ許されていた

オリジナルヤーナムであり、その繰り返しアンナリーゼである。そしてそのどちらもが上位者の赤子を求めたのである

※この繰り返される主題(テーマ)はダークソウルシリーズなどでも用いられている。たとえば「火継ぎ」そのものがそうである

アンナリーゼが上位者の赤子を欲していたのは、自らの血を受け継ぐ子を、そして生殖能力のある夫を求めたからである

ゆえに、彼女は狩人からの「婚姻の指輪」を拒否するのである。なぜならば、狩人は(今のところ)上位者ではないからである



禁断の血

アルフレートの言によれば、禁断の血は最初にビルゲンワースにあったとされる

「かつてビルゲンワースの学び舎に裏切り者があり 禁断の血を、カインハーストの城に持ちかえった そこで、人ならぬ穢れた血族が生まれたのです」(アルフレート)

禁断の血はビルゲンワースからカインハーストに持ちかえられ、穢れた血族が生まれたとされる

ではビルゲンワースになぜ禁断の血があったのか?

作中、ヤーナムが初めて姿を見せるのはビルゲンワースが岸辺に建つ月前の湖である

また、女王への謁見を妨害するかのように、ビルゲンワース直前の禁域の森(禁域の墓所)に「ヤーナムの影」がいる

つまりヤーナムは禁域の森から月前の湖までのエリアにひも付けられた存在であり、その領域はビルゲンワースと重なるのである

月見台の鍵
ビルゲンワースの二階、湖に面した月見台の鍵
そして月前の湖に姿を現した女王ヤーナムは腹部から血を流している

月前の湖にいるヤーナムは妊娠していない。つまりトゥメル=イル最深部からビルゲンワースまでのあいだに出産している
メンシスの悪夢にいるヤーナムは攻撃するとダメージを与えられる実体である。つまり、本編中に登場するヤーナムは幻影や仮象の存在ではなく、実在しているのである


その存在様態は夢を見ている「夢見人」である(狩人と同じ

ヤーナムの石
女王の滅びた今、そのおぞましい意識は眠っている
だが、それはただ眠っているだけにすぎない…

聖杯ダンジョンは本編とは異なる時空が歪んだ領域である。なぜならば、聖杯ダンジョンの進行度は、本編の進行度合いや周回数とまったく無関係だからである

そして一般の狩人がその遺志を死血として落としていくように、ヤーナムもまたその死血を落としていったのである

つまるところ、ビルゲンワースにいた裏切り者は、ヤーナムの腹部から流れ落ちた血をカインハーストへ持ちかえったのである

それは「上位者の死血」や「眷族の死血」に匹敵するような、いわば「女王の死血」とでも言えるものである。その死血にこめられた遺志がアンナリーゼを「血の女王」へと変異させたのである

※平たく言えば、ヤーナムの血に含まれる水銀(霊薬としての)により不死となった



女王、ヤーナム

しかしヤーナムは最初からビルゲンワースにいたわけではない。ビルゲンワース(擬人法)がヤーナムに出会ったときのことが墓守装束に記されている

墓守装束
かつてビルゲンワースのウィレームに仕えた二人の下僕
主に従って地下遺跡の神秘に見え、共に正気を失い
一人は合言葉の門番に、もう一人は森の墓守になったという
彼らは主に心酔し、狂ってなお忠実な従者であったのだ

ここにある「地下遺跡の神秘」は、トゥメル聖杯のテキストにある「神秘の知恵」のことである

中央トゥメルの聖杯
なおトゥメルとは、地下遺跡を築いた古い種族の名であり
神秘の知恵を持った人ならぬ人々であったと言われている

なぜならば、英語版においては、そのどちらもが「eldritch Truth」と表記されているからである

Graveguard Mask
Willem kept two loyal servants back at Byrgenwerth.
When they were sent into the labyrinth, they encountered
the eldritch Truth, and went mad. One became the
password gatekeeper, while Dores became a graveguard
of the forest.
Both remained loyal, even in madness.(BloodborneWikiより)

Central Pthumeru Chalice
The old labyrinth was carved out by the Pthumerians,
superhuman beings that are said to have unlocked
the wisdom of the eldritch Truth.(BloodborneWikiより)

上位者に関する神秘の智慧や、叡智には、eldritch wisdom(狂人の智慧)やGreat One’s Wisdom(上位者の叡智)というふうにWisdomが使われる

つまり、ウィレームの下僕二人が見えたのは、上位者の神秘ではなく、トゥメル人にまつわる神秘なのである

※地下遺跡の神秘とは、「地下遺跡に属するような神秘」ともとれるが、英文から判断するかぎり、下僕二人はウィレームの命により地下遺跡に送られ、そこで神秘と遭遇したと考えるのが妥当である

トゥメル人の神秘とはすなわち、妊娠した状態の女王、ヤーナムである

※これはプレイヤートゥメル=イルで出会う状態のヤーナムと同じである。聖杯ダンジョンは時空が混在して、いわば多元宇宙的な性質をしている(オンライン的にも)がゆえに、こうした二重存在が許容される
※メンシスの悪夢や月前の湖で会うヤーナムは妊娠していない

狂ってなお忠実な従者である彼らは、主のために神秘をビルゲンワースに持ちかえったのである

墓守の仮面
彼らは主に心酔し、狂ってなお忠実な従者であったのだ

その後かれらは、一人は合言葉の門番、一人は森の墓守になったという

門番は侵入しようとする脅威を防ぐ役割にあり、墓守は墓を守る役割にある

彼らが狂ってなおウィレームの命により守ろうとしたのは、地下遺跡の神秘そのものであるトゥメルの女王ヤーナムと、彼女の赤子の埋葬されていた墓である



ドーレス

墓守の名をドーレス(Dores)という

Doresとは、Doloresのポルトガル語形であり、その意味は「悲しみのマリア」(Mary of the Sorrows→Maria de los Dolores)である

つまりドーレスは女性であり、かつ「悲しみのマリア」を体現するキャラクターなのである。悲しみのマリアとは、キリスト教においてイエスの死を悲しむ聖母マリアのことである

本編において我が子を奪われて悲しんでいるのは誰か?

女王、ヤーナムである

聖母マリアとは女王ヤーナムであり、我が子の死を悲しむ聖母という属性をキャラクター化したものが、赤子の墓を守るドーレスなのである(またドーレスという名であるからには、彼女の守る墓には子どもが葬られていなければならない)

※キリスト教において、イエスの血を受けた聖杯は聖杯伝説として世界に流布するが、同様に悲しみの母をもつメルゴーの血も医療教会の救いとして広まっていくのである(「拝領」の図は、血を受ける聖杯の図柄である)

また、禁域の森に立ち並ぶ「旧神の石碑」(A Tombstone of Great One)とは、「特別な赤子」を弔うために立てられた墓石群である

トゥメル系の聖杯ダンジョンには旧主の番犬(Watchdog of the Old Lords)旧主の番人(Keeper of the Old Lords)というボスが登場する

Great OneOld Lords、英名では共通点はないが和名では「旧」が一致し、また「神」と「主」とは同一概念としても使用される(キリスト教における神と主など)

旧主と旧神は同じ存在を指しており、トゥメル文明における主や神といえば女王の産む特別な赤子、つまり本編における「メルゴー」である

※主と神を厳格に区別するのならば、主とはトゥメル人の王、そして神とは王が祀る上位者となろう。どちらにせよ「旧」という共通点から旧神はトゥメル系の神である

禁域の森の旧神の墓(Tombstoneは墓石の意)には、トゥメル人の祀った上位者が埋葬されており、その最も新しい埋葬者はメルゴーのそれである(詳細は後述)



墓守の死

しかしその墓を守るはずの墓守は死んでいた。しかも頭部と胴体部が外的な力によって切り離されたように、墓守の仮面は他の装束から離れた場所に落ちていた

状況的にドーレスは頭部と胴体を切断されて殺されたのである

いったい誰が墓守を殺せたのか?
なぜ墓守を殺す必要があったのか?

合言葉の番人が存命していることから、外部の敵意ある侵入者ではない。またドーレスの主がウィレームであることから、ウィレーム派の者ではない

その人物は合言葉を使って正規の方法で禁域の森へ入ったか、あるいはビルゲンワース内部からやって来て、ある理由からドーレスを殺害したのである

ビルゲンワースの関係者であり、大聖堂の警句を知っている者、ウィレームとは袂を分かった者、そして墓守を殺し、メルゴーの墓を暴く必要があった者

医療教会の上位会派の1つであり、赤い月を呼ぶ儀式を執り行うメンシス学派

その首領、ミコラーシュである

彼は3本目のへその緒を得るために、上位者の赤子の墓を暴いたのである

3本目のへその緒(メルゴー)
すべての上位者は赤子を失い、そして求めている
故にこれはメルゴーとの邂逅をもたらし
それがメンシスに、出来損ないの脳みそを与えたのだ
※厳密にはミコラーシュでなくとも良い。メンシスのダミアーンという可能性もある。ドーレスの殺害犯については考察途上である


ウィレーム

ウィレームはかつて3本目のへその緒を求めたという

3本目のへその緒(偽ヨセフカ)
かつて学長ウィレームは「思考の瞳」のため、これを求めた
脳の内に瞳を抱き、偉大なる上位者の思考を得るために
あるいは、人として上位者に伍するために

DLCに登場する漁村もそうだが、全盛期のウィレームは「思考の瞳」のためならば手段を選ばず、それがたとえ非道なものあっても強行している

彼の目的のひとつは、上位者に伍することである。上位者にひれ伏して智慧を乞うことをよしとせず、上位者と対等の地位に昇ろうとしているのである(それは上位者との闘争の始まりを意味する)

上位者の血を治療に用いようとしたローレンスや、上位者から瞳を授かろうとしたミコラーシュ、あるいは上位者とともに宇宙を見上げる聖歌隊と比較して、ウィレームは群を抜いて狂っている。狂っていてなお賢人でもある(ラヴクラフトの『蕃神』に登場する賢人バルザイのような賢人

ゲーム中に4本ある「3本目のへその緒」のうち、上記の偽ヨセフカの落とすものだけが、

「使用により啓蒙を得るが、同時に、内に瞳を得るともいう だが、実際にそれが何をもたらすものか、皆忘れてしまった」

という文章が欠けている(文章が充分に入るスペースはある)

なぜ、「使用により~」が欠けているかというと、その前段で言及されているウィレーム何をもたらすのかを知っているからである

「皆忘れてしまった」という言葉にはかつては知られていたことが含意されており、ビルゲンワースの学長以上にそれを知るのに相応しい人物はいない

皆忘れてしまったが、ウィレームだけはそれを覚えている

ゆえに上記の文言は削除しなければならなかったのである。なぜならば、「皆忘れてしまった」というテキストに矛盾が生じるからである。実際に何をもたらすかウィレームだけはまだ知っているからである

※また、このへその緒を落とす偽ヨセフカ自身も知っていたかもしれない



偽ヨセフカ

ここで疑問が生じる、なぜウィレームの過去が偽ヨセフカの落とす3本目のへその緒に記されているのか、と

結論を先に述べれば、ウィレームの指示によりヤーナムの助産をしたのが偽ヨセフカだからである

個々のへその緒にはそのへその緒をドロップした人物(上位者)の物語が記されている。偽ヨセフカのものにウィレームの物語が書かれているのは、偽ヨセフカとウィレームには密接な繋がりがあることを示唆している

しかし助産、といっても上位者の赤子であるメルゴーは人のように産まれてきたわけではない。メルゴーは母の腹を引き裂いて誕生したのである

この誕生の仕方はヤーナムのグラフィックから推測されうるものであるが、なにより『フィーヴァードリーム』の吸血鬼の出産と同じである

メルゴーはそのようにして3本目のへその緒とともに誕生した。しかしメルゴーは上位者の赤子であり、すべての上位者が求めるものでもあった

3本目のへその緒
すべての上位者は赤子を失い、そして求めている

ゆえにこれは「メルゴーの乳母」を呼び寄せたのである
メルゴーはメルゴーの乳母により奪い去られ、3本目のへその緒だけが残されたのである(へその緒は上位者を呼び寄せるが、上位者の真の目的は赤子である)

しかし残されたへその緒をウィレームは使わなかった。なぜならば出産時の流血によりへその緒が穢されていたからである

ローレンスがあきれたように、ウィレームは頑ななまでに「古い血」を恐れていた。ゆえに古い血(それはヤーナムの血とも上位者の血ともとれるが)に塗れたへその緒を使うことができなかったのである

そうしてメルゴーのへその緒は「メルゴーの墓(死体はない)」に葬られ、墓守ドーレスが墓を守っていたのである

メルゴーを取りあげた偽ヨセフカはその後ヤーナムの血(出産時の血)を奪い、カインハーストに逃亡。一方、赤子を失ったヤーナムは我が子を追って現実と夢との境界にある「月前の湖」へと身を投じたのである

メルゴーはその名前通り悪夢(深海)へと沈められたのである(メルゴーはラテン語Mergereの動詞形で、mergereは「潜水する」や「濡れる」、「水没する」など水に関わる意味を持つ)

またローレンスたちはこの時に得られたわずかな上位者の血(メルゴーの血)により、進化の可能性に気づき、それはやがて漁村事件を経て医療教会の血の救いへと繋がっていく

※メルゴーの血に混じる母親の血は、純粋な上位者の血を侵す穢れた血である

そして残されたウィレームは「古い血」を恐れながら「思考の瞳」への探求を続けたのである それはやがて漁村事件を引き起こし、ついにローレンスたちの離反を招く

この時の乳母の降臨によりビルゲンワースは現実と悪夢が混じり合い教室棟は悪夢へと投げ出され、今も漂流しているのである(漂流教室)

またビルゲンワースを爆心地とする悪夢に侵された領域が誕生し、後にそこは医療教会によって禁域に指定されることとなる


聖体

すなわち、墓地から持ちかえられた聖体とはメルゴーのことに他ならない(厳密にはメルゴーを妊娠した状態の女王ヤーナム)

かつてビルゲンワースに学んだ何名かが、その墓地からある聖体を持ちかえり 
そして医療教会と、血の救いが生まれたのです
すなわちビルゲンワースは、ヤーナムを聖地たらしめたはじまりの場所ですが
今はもう棄てられ、深い森に埋もれているときいています(アルフレート)

アルフレートはビルゲンワースをはじまりの場所と述べている。つまり、聖体を持ちかえられた場所はビルゲンワースなのである

女王ヤーナムはビルゲンワースでメルゴーを出産したのである。メルゴーの誕生はすなわち医療教会と血の救いの誕生でもあり、ここにある「生まれた」という比喩のみでなく、事実としてメルゴーが誕生したことをも暗示しているのである


聖体拝領

カトリック教会における聖体拝領とは、聖体の秘跡によってキリストの体と血に変化したパンとワインを信者たちが分け合う儀式である

聖母マリアと女王ヤーナムは共に、我が子を亡くした悲しみの聖母である
で、あるのならばヤーナムの生んだメルゴーはキリストに比定することができる

要するに血の医療の本質である「拝領」とは、キリストであるメルゴーの血を拝領することに他ならない

「拝領」
血の医療とは、すなわち「拝領」の探求に他ならないのだ

すなわち、ブラッドボーンは「ゴシック・ホラーのコズミック・ホラー化」のみならず、ゴシック・ホラーの核にあるキリスト信仰をもコズミック・ホラー化しているのである

そして聖母マリア不死の女王ヤーナムとなり、キリストはメルゴーとなり、聖杯伝説にあるように、そのはどちらも奇跡の力をもつのである

※聖杯伝説には、マグダラのマリアがキリストの子を産みその子孫が今も生きているというものがある。おそらくこの伝説のフロム的解釈をしたものが、時計塔のマリアのそれなのかもしれない。ちょっとした思いつきなのでまだ詳細な考察はしていない


蛇足

カインハーストの考察をしようとするとヤーナムや医療教会、ビルゲンワースに繋がってしまい、またそれらを考察しようとすると今度は逆にすべてがカインハーストに収斂していってしまう

いわばカインハーストは本作の中心軸であるが、そのさらに中心にある意図的に消去された「中空」こそが、メルゴーなのではないかと思われる

メルゴーにまつわる要素(オドンやヤーナム、ビルゲンワース、医療教会、カインハースト)のみが提示され、メルゴーは作中においても「姿なき」状態であるが、その存在感はヤーナムの下から上までを貫いている





2020年3月13日金曜日

Bloodborne 考察16 カインハースト2 無死の女王

血族

始祖であるアンナリーゼが誕生したところから血族の歴史がはじまる(それ以前のカインハーストの歴史については前回の考察参考)

成長したアンナリーゼは、自らの血を相手に飲ませることで血族を増やしていく(この方法はプレイヤーが血族になる際の儀式と同じものである)

※またBloodborne(「血液感染」)という本作タイトルとも合致する

血を嗜む風習のあったカインハーストは、たちまちのうちに血族たちで満ちあふれ、文字どおり血族の住み処となっていったのである

だが、ひとつだけ問題があった。ヤーナムの血の毒性により血族に正常な男子が生まれなくなってしまったのである

※禁断の血がヤーナムの血であることについては、長くなるので別の考察で述べる
マリアやアリアンナなど女性は正常に産まれて成長していることから推測するに、異常は男子のみに現れたと思われる

血が人の身体を蝕むことは「千景」にも言及されている

千景
薄く反った刀身には複雑な波紋が刻まれており
これに血を這わせることで、緋色の血刃を形作る
だがそれは、自らをも蝕む呪われた業である

血の業を使いすぎた血族たちは、呪いにより自らの肉体を蝕まれ、それは生殖機能にも悪影響を及ぼしたのである

※ここで問題にしているのは、人間の血にトゥメルの血が混じったことで起きる不妊症である。人の身にトゥメルの血は劇毒なのである

赤子として生まれた者もその肉体は著しく変異しており、その多くは死産し、わずかに生き残ったものも異形の「落とし子」となったのである


ヤーナムの血を受け入れた種族に健康な男子は生まれず、その種の滅亡は必然的なものとなる。このヤーナムの呪いこそ、医療教会をして血族を「血の救いを穢し、侵す、許されない存在」と言わしめる元凶である

医療教会がヤーナムの血を禁忌の血としなければならなかったのは、種としての存亡がかかっていたからである

※マリアやアリアンナ、また廃城の悪霊が女性型しかいないことを考慮すると、正常に生まれないのは男子のみである。生まれたとしても落とし子となる。また成人であっても血の業の呪いにより、やがて「血舐め」になった



血の赤子

ゆえに血族は、呪いに打ち克つ存在の誕生を願ったのである

それこそが、「血の穢れ」によって生まれる血族の悲願「血の赤子」、上位者の赤子である

血の穢れ
故に彼らは狩人を狩り、女王アンナリーゼは
捧げられた「穢れ」を啜るだろう
血族の悲願、血の赤子をその手に抱くだめに

婚姻の指輪
上位者と呼ばれる人ならぬ何者か
彼らが特別な意味を込めた婚姻の指輪
古い上位者の時代、婚姻は血の誓約であり
特別な赤子を抱く者たちにのみ許されていた

※「不妊」という主題が、上位者から血族の次元に矮小化され繰り返されている

血の穢れを啜ることで妊娠/出産するというのはやや奇異な感じがする設定であるが、そもそも血族とは「血の媒介」によって増える種族なのである

彼らの本質は血にあり、血によって生まれ血によって血族となり血によって人を失った者たちなのである

そうした種族にとっては、胎生という現象の方が奇跡的なのである



血の穢れ

血を本質とする存在が本作にはもうひとつ登場する

滲む血をその本質とする上位者オドンである

「姿なきオドン」
人であるなしに関わらず、滲む血は上質の触媒であり
それこそが、姿なき上位者オドンの本質である
故にオドンは、その自覚なき信徒は、秘してそれを求めるのだ

実際にオドンは血族の末裔であるアリアンナに赤子をもたらしている

3本目のへその緒(アリアンナ)
すべての上位者は赤子を失い、そして求めている
姿なき上位者オドンもまた、その例外ではなく
穢れた血が、神秘的な交わりをもたらしたのだろう

オドンと血族はともに「血を本質」とする存在であるがゆえに、神秘的な交わりにより、赤子を誕生させることができるのである

だが、それは赤い月の接近時に限られ、特に「血の赤子」と呼ばれる特別な赤子を誕生させるためには、オドンの精子である「血の穢れ」を啜らなければならないのである

精子あるいは精虫

アンナリーゼが血の赤子を身ごもらなかったのは、カインハーストに赤い月が接近していないからである

赤い月が近付くとき、人の境は曖昧となり 偉大なる上位者が現われる。そして我ら赤子を抱かん(ビルゲンワースの手記)
秘匿を破いた後も、カインハーストの月は赤くない

その血の穢れとは、滲む血を本質とする上位者オドンの生殖の際に放たれる血の精子のことであり、それはまだ生物としての形をなしてないがゆえに、「姿なき」状態にあるのである

「姿なき」は英語版ではformless(不定形)というニュアンス
※恐らくオドンは日本語の「姿なき」英語の「formless(不定形)」2つの言語の意味を重ねて設定されている

いくつかの上位者は高等生物におけるような妊娠→出産という方法により赤子を得ようとしている。ゴースは胎盤のついた赤子を死後出産し、ヤーナムも上位者の赤子を身ごもっている(聖杯ダンジョンの個体)

であるのならば、男性的上位者であるオドンもまた生物に倣い、精子を卵子に受精させるという手法を選択しているはずである

その明確な痕跡が「血の穢れ」なのである



オドンはその本質である血を媒介にして、人血のうちに精子を生成するのである。血の遺志の中毒者である狩人こそが、宿す確率が高いとされるのは、血の遺志とはつまるところ、オドンの遺志だからである
血の穢れ
カインハーストの血族、血の狩人たちが
人の死血の中に見出すという、おぞましいもの
血の遺志の中毒者、すなわち狩人こそが、宿す確率が高いという
インド錬金術において水銀とはシヴァ神の精子であるとされる(wikipedia)

※血の女王とはオドンの女王のことであり、ヤーナムが身ごもったのはオドンの赤子なのである

メルゴーの姿が見えないのも、その父が「姿なき上位者」であるからである



オドン

さて、女王ヤーナムやアンナリーゼがオドンの赤子を宿せるのは、その血中にオドンの本質を多く含んでいるからである

つまり穢れた血により、彼女たちはオドンの半眷族のような性質を持つにいたったのである

穢れた血とは、滲む血であり、オドンの本質であり、人を不死にし、人を人ならぬものにし、赤子に異常を引き起こさせるもの、つまり「水銀」である

オドンの名を冠したカレル文字は例外なく「水銀弾」に関係するものであり、血の温もりに血の滲みを見出すことで、「水銀弾」が回復するのである

そしてまた現実においては水銀は人体に蓄積され、生殖機能や成長を阻害する

※水銀中毒がいかなる病態を引き起こすかについては、水銀中毒(wikipedia)が詳しい

※水銀中毒に対するある種の興味はダークソウル3における「致死の白霧」(初期バージョンでは致死の水銀)からもうかがえる

千景劇毒特性を持つが、水銀は何よりも「劇毒」である
また、水銀は液体金属であり不定形(formless)の「姿なき」金属である
そして水銀はかつて「不死」の霊薬として服用されていた

つまるところ、血中に含まれた水銀こそがオドンの本質なのである

そしてまた水銀を触媒とする上位者であるがゆえに、それは上位者にも作用する。上位者たちが赤子を失ったのは、オドンという水銀の上位者により、生殖機能が阻害されたからである

※一般的には吸血鬼や人狼には「銀の弾」が効果的とされる。しかしながら本作においてはそれは「水銀」であり、その効果が上位者にも及ぶのは、水銀を司るのが上位者オドンだからである

※水銀弾が劇毒効果を持たない理由については後述する

トゥメル文明になれたのは、高い水銀耐性を持ち、水銀を本質とする上位者赤子を出産できる女性である

それはかつてはトゥメル人の女王ヤーナムであり、現在はカインハーストの女王、アンナリーゼなのである

アンナリーゼ水銀によって不死になったが、自身もその血を啜った血族水銀中毒となり、生殖機能を阻害され、稀に赤子が生まれたとしても正常に成長しないのである

血族の絶滅を回避するには、生物として水銀の害を克服せねばならず、そのために血中の水銀を本質とする上位者オドンの赤子、「血の赤子」を願うのである

※なぜならば血族とはオドンの眷族、つまり水銀を拝領した一族であるがゆえに水銀から離れることはできず、水銀とともに生きていかなければならないからである



血の狩人たちが人の死血の中に見出すとされるのが、血の穢れである

血の穢れ
カインハーストの血族、血の狩人たちが
人の死血の中に見出すという、おぞましいもの

同じように、連盟の狩人が狩りの成就に見出すのが「虫」である。テキストには汚物とあるが、グラフィックでは血液から虫が這い出しているように見える



連盟の狩人が、狩りの成就に見出す百足の類
連盟以外、誰の目にも見えぬそれは
汚物の内に隠れ蠢く、人の淀みの根源であるという
それを見つけ踏み潰すことが、彼らの使命なのだ
おそらく慈悲はあるのだろう
願う者にだけそれは見え、尽きぬ使命を与えるのだ

血の穢れと虫の共通点は、それぞれの契約にある者が見出すことである。逆に言えば虫のテキストにあるように、「連盟以外、誰の目にも見えぬ」のである(テキストに反して狩人の悪夢の赤目狩人は100%虫を落とすが)

血の穢れも虫も、そう願う者にだけその形に見えるのである

なぜならばこの両者の本質は同一のもの、つまるところ“姿なき”オドンだからである

姿なきオドンは、その人間の見たい形に見える(不定形)のである

両者は穢れ、あるいは淀みとして忌み嫌われ、そしてそれは多くの場合、「虫」として見えるのである。血の穢れも「血の精子」ではなく、正しくは「血の精虫」である

オドンは基本的には「姿なき」上位者であるが、願う者には虫として姿を現すのである(しかしそれは当人以外には見えないし、千変万化するので特定の姿はない

※作中で劇毒になった際には全身から血が噴き出すエフェクトが出るが、これは(オドン=水銀=劇毒)が人間の体を食い破って内部から噴出するさまである(血の穢れや虫は赤い

水銀弾劇毒効果をもたないのは、水銀弾の水銀が、上記のような特殊な条件で形を成したオドンの状態=血の穢れや虫の状態にないからである。それはまだ水銀という触媒の段階にあり、オドンは宿っていないからである

さて血の穢れの項で「血の女王とはオドンの女王のことである」と記したが、これをさらに言い換えるのならば、血の女王とは、オドンの女王のことであり、また虫の女王のことである

そして虫の女王とは、無死=不死の女王なのである

蟲=むし=無死=不死の言葉遊びはSEKIROにも確認できる



補足

ヤマムラ

教会地下の牢獄に投獄されているヤマムラは、人の淀みを直視して気が狂ったという
その人の淀みを生み出す根源は「」である

鶯の羽織
遙か遠い東国の衣装
流浪の狩人、山村の狩装束
仇の獣を追った侍は、その後連盟の狩人となった
そして淀みを直視し、狂ったのだ

ヤマムラが「淀み」を直視したのはカインハーストにおいてである
エンディングのスタッフロールに「Chikage Yamamura」という名がクレジットされている(開発者にいる山村という人物ではないが、グラフィックは開発者のものと思われる。同姓であることを利用したダブルミーニング)

千景と山村はともに東方から到来したモノであり、千景は女王の親衛隊の主武装となっている
誰が千景を持ち込んだのかと考えるのならば、山村である可能性が高いのである

そして山村は「」を見出す連盟員でもあった

上述したように「虫」とはオドンの形を成したものであり、オドンとは血中の水銀を触媒とする上位者である

この虫により生まれた淀みを直視して山村は気が狂ったのである

つまるところ、水銀中毒により発生した人の淀み(異常)を直視した結果、彼は狂ったのである


蛇足

カインハーストは作中設定のほとんど全てに関連しているために、何かを考察しようとするとまったくまとらなくなる。よって、枝葉の部分はかなり省略せざるを得なかった

禁断の血や、その正体、また裏切り者については別の考察で述べる

正直なところまだカインハーストn全体像がつかめていないので、本考察は訂正や修正される可能性が高い

2020年3月7日土曜日

Bloodborne 考察15 カインハースト1 名称と大紋章

名称

カインハースト(Cainhurst)

過去に『フィーヴァードリーム』の考察においても触れているが、カイン(Cain)は聖書の「アベルとカイン」のカインのことである

※吸血鬼小説『フィーヴァードリーム』は、宮崎英高氏が新入社員にぜひ触れて欲しいコンテンツとして挙げたうちの1冊である

簡単に説明すると『フィーヴァードリーム』の吸血鬼たちは、聖書中の「アベルとカイン」のカインの末裔とも言われているのである

次にhurstであるが、イングランド南部では慣習的に接尾辞にhurstを加えることで「○○屋敷」や「○○館」というふうに美称的な使われ方をする

また、hurstには語源的に「砂州」や「小さい丘」「茂み」「」などの意味がある(詳細は考察「フィーヴァードリーム」にて)

つまりカインハースト(Cainhurst)とは、カイン屋敷や、カインの砂州カインの巣カインの丘などを意味する名称なのである

これをさらに意訳するのならば、「血族の住処」となろうか



禁断の血

しかしカインハーストは最初から血族の支配する城であったわけではない

アルフレート「かつてビルゲンワースの学び舎に裏切り者があり 禁断の血を、カインハーストの城に持ちかえった そこで、人ならぬ穢れた血族が生まれたのです」

※では元々カインハーストには人であり穢れてもいない「たんなる血族」がいたのか、という疑問が生じる。しかしながら英語版では血族は「Vilebloods」と呼ばれ、Vileには下劣や不道徳と言った意味があることから、「血族」という言葉には「穢れた」が含意されていると考えられる

※また、他の個所でも穢れた/穢れていないという区別はされていない


裏切り者が禁断の血を持ちかえった頃には、すでに城は存在していることから、血族以前にも城には王族や貴族たちがいたであろうこと思われる

これはカインハーストの石像群を観察することでも分かる

カインハーストの城の石像うちいくつかは、血族の美的センスにそぐわない稚拙なものなのである

退廃的、耽美的な血族の好みではなさそうな、平凡な石像群

血族が生まれる前のカインハーストを支配していたのは、垢抜けない石像を並べて悦に入るような、田舎の貴族領主だったのである

そこへビルゲンワースへ留学していた領民の一人が帰ってきたのである。彼(彼女)が持ちかえったのが「禁断の血」であり、その血から血族は生まれたとされる

さて、この「禁断の血」とは、端的に言ってしまえば「女王ヤーナムの血」である

彼(彼女)が「裏切り者」の汚名を着てまで「禁忌の血」をカインハーストに持ちかえったのは、カインハーストの「血を嗜む」という因習に理由がある

レイテルパラッシュ
古くから血を嗜んだ貴族たちは、故に血の病の隣人であり
獣の処理は、彼らの従僕の密かな役目であった

怨霊の乱舞を愉しむようなグロテスク趣味をもつ貴族たちにとって、純血のトゥメル人であるヤーナムの血は何物にも代えがたい珍味であると同時に、好奇心を満たす嗜好品でもあった


処刑人の手袋
貴族たちはこれを好み、怨霊の乱舞を愉しんだという


ヤーナムの血はカインハーストの最も高貴な者、国王と王妃に捧げられ、当然ながらそれは嗜まれたのである

だが、「血」は人に進化をもたらし人を失わせるものである

「右回りの変態」
の発見は、彼らの進化の夢をもたらした
病的な、あるいは倒錯を伴う変態は、その初歩として知られる
…我ら血によって生まれ、人となり、また人を失う(ウィレーム)

カインハーストの血はトゥメルの血によって穢され、その血からついに不死の女王、アンナリーゼが誕生したのである

※この項の解釈は後日捨てられる可能性が高いかもしれない


大紋章

血の女王誕生の成り行きを描いたものが、アンナリーゼの玉座の後ろにあるステンドグラスの大紋章である

BloodborneWikiの画像を拡大したもの

このステンドグラスの「大紋章」に描かれたものを理解するには、紋章学の知識が必要となる(詳細はwikipedia)(参考:wikipedia 紋章の構成要素)


二頭の獣が両側から楯(エスカッシャン)を支えているが、獣がカインハーストを象徴する図柄であることは、タペストリーや絨毯に描かれた獣の図からも分かる





紋章学的には、タペストリーや絨毯の獣は「オオカミ」(Wolves)あるいは「神話上の獣」(Enfield)である。ただし一般的なEnfieldはキツネの頭を持つとされるので、タペストリーのものは「オオカミ」である可能性が高い

紋章学で「オオカミ」は、「包囲戦」や「忍耐と報酬」を意味する図柄である

カインハーストのオオカミとステンドグラスのとの相違は、ステンドグラスの獣が無毛であることである

紋章学的にはステンドグラスの獣は「犬」、とくにグレイハウンドと解釈することができる。グレイハウンドが象徴するのは「勇気、警戒、忠誠心」である

大紋章に王冠が見えることから、ステンドグラスの大紋章は王家のものである。ゆえにそれを支えるグレイハウンドは、オオカミよりも位階が高いことがわかる

要するにオオカミはカインハーストの騎士を表わし、グレイハウンドはカインハーストの王族/貴族を表わしているのである


青地・三日月・シェブロン

楯の青地(Azure)は「真実と忠誠心」を象徴する。その上に描かれた図柄のうち三日月が象徴するのは「次男」や「大いなる栄光への希望」である

※ただし本作が紋章学的なルールをどこまで厳格に適応しているか不明であるし、単に青地に三日月「夜」を表わしていると解釈しても、本作のテーマ的にはそう間違いではないと思われる

青地を三分割しているのは逆V字型のシェブロンwikipedia)であり、紋章学的に「保護」を意味する

そのシェブロンに重なって赤い円が見える


この赤い円をどう解釈するかによって意味合いが変わってくる。赤い月にも見えるし、中央に白か黄色の点が見えることからバラのようにも見える。また血液のようにも見える


禁断の血の守護者

赤い円を血液とするのならば、そのまま「禁断の血」の意味である。また、赤いバラと解釈しても、赤いバラを禁断の血の比喩とすることもできる

要するに血液にしろ赤いバラにしろ、どちらも「禁断の血」を象徴しうる図柄(チャージ)なのである(赤い月に関しては後述する)

赤い円を「禁断の血」と考えるのならば、シェブロンは紋章学的に「保護」を意味することから、「カインハースト王家が禁断の血を保護した」由来を示すものと考えられる

この解釈における楯(エスカッシャン)紋章記述(ブレイゾン)は、

Azure, on a chevron argent between three crescent or a rose gules seeded proper.
意訳:(「青地、銀色の逆V字型帯を挟むように三つの金色の三日月を配置、黄色の種をもつ赤いバラを重ねる」)

もしくは

Azure, on a chevron argent between in chief two crescent  and base crescent or a rose gules seeded argent.
意訳:(「青地、銀色の逆V字型帯を挟むように、上に二つ、下に一つ金色の三日月を配置、銀色の種をもつ赤いバラを重ねる」) 

になろうか(かなり適当である

標語(モットー)は「穢れた血の守護者」あるいは「血の女王」あたりだろうか

※厳密には、“dexter”や"sinister" "fess point"で図柄(チャージ)の位置を指定しなければならないのだが、長くなるし面倒なので適当に記述した


血族の誕生

次に楯の上にあるであるが、兜の詳細は不明である(色が抜けているのかもしれない)


不明瞭だが兜の上には王冠があり、その王冠の上に兜飾り(クレスト)として小さなグレイハウンドが、まるで生まれ出るように上方へ伸び上がった姿勢で配置されている

赤い円を「禁断の血」と解釈するのならば、禁断の血から血族が生まれ出たことを表わしているのかもしれない

また赤い円を「赤い月」と解釈するのならば、青地に三日月で「夜」を表わし、シェブロンは赤い月の“上昇”する様を描いたともとらえることができる

現実世界では赤い月の「降下/接近」が人の境を曖昧にするのであって、上昇ではない。だが「悪夢の世界は天地が逆転している」とした過去の考察をあわせるのならば、「深海(湖・宇宙)」から浮かび上がってくる「悪夢(月)」と解釈することもできる

三日月を「夜」と解釈するのならば、赤い円には「赤い月」という意味も二重に付与されているとも考えられ、つまるところこの紋章は「赤い月の夜に禁断の血から血族が生まれ出た」ことを表わしているのである

この場合の標語(モットー)は、「血から生まれし女王」か

※三日月と赤い月で月が2つあることになるが、赤い月が現実の月であるとは限らないので矛盾はしないと思われる。それ以前に象徴的な絵なので矛盾があってもおかしくはない


血の女王

この夜に生まれた血族はグレイハウンド、つまり王族であるが、最初の血族であり王族という属性に当てはまるのは、不死の女王アンナリーゼしかいない

よってこの紋章はアンナリーゼ個人のものと思われる(カインハーストはアンナリーゼの支配する国なので、そのまま国の紋章にもなる)

王冠を被った女王の娘と思われる金髪の赤子

この赤子は「血の赤子」でも「上位者の赤子」でもない。なぜならばアンナリーゼは上位者ではないし、「血の赤子」は未だに生まれていないからである

血の穢れ
故に彼らは狩人を狩り、女王アンナリーゼは
捧げられた「穢れ」を啜るだろう
血族の悲願、血の赤子をその手に抱くだめに

ゆえに、それは王族(グレイハウンド)の延長として、小さなグレイハウンドの姿で表わされるのである


血の赤子

紋章の別の解釈として、楯に描かれた内容を悲願達成の予言とすることも可能である

赤いバラは禁断の血を、シェブロンは保護を、三日月は大いなる栄光を、青地は真実と忠誠心を、二種の獣を包囲戦を戦う王と、忠誠心に篤い騎士たちと読み解くならば、

「カインハーストに庇護されし禁断の血は、彼らを大いなる栄光へ導く」となる


この場合、モットーは「われら血の赤子を抱かん」であろうか


蛇足

無計画にカインハーストについて書いていたらやたらと長くなったあげくに頓挫したので、一部を抜粋して記事にすることにした

あくまでも、紋章学的な解釈であってそれが厳密に作中に反映されているとは限らない

大昔にすこしだけかじったうろ覚えの紋章学知識なので、間違いがあるかもしれない

各解釈の標語(モットー)は〈氷と炎の歌〉のパロディかと思われるかもしれないが、実際の紋章学にもある概念である。ただし、内容についてはやや悪乗りした

ここ数日というものカインハーストの考察にかまけてその他のことをおろそかにしてしまったので、明日から頑張る(頑張らない)


2020年3月1日日曜日

Sekiro 考察58 DLCとしての『SEKIRO ―外伝― 死なず半兵衛』

以前の考察でSEKIROの物語は中空構造になっている、と述べたことがある(「Sekiro 考察53 〈竜殺し〉葦名一心」

すべての設定や物語を構築し、そのうえで中心にある幹の部分を消去することで、かえってそこに「何かがある」ことを強く印象づけさせ興味を引かせる手法である

本作、『Sekiro ―外伝― 死なず半兵衛』(以下『外伝』)においても、同様の手法が踏襲されている

『外伝』では葦名の国や葦名一心、変若水やその澱、また赤目蟲憑きなど、本編でもお馴染みの設定が惜しげも無く登場する

その過程で「蟲憑き」の誕生の秘密や、国盗り戦で一心が振るう刀が黒の不死斬りであることなど、本編にすら描かれなかったことまでもが明かされる

だが、ただ一点だけ描かれていないモノがある

竜胤」である

本編は「竜胤」を巡って繰り広げられる騒動を描いた物語であり、極論すればそれは「竜胤の物語」でもある

その本編における中空が「一心の物語」であったのと同様に、外伝では「竜胤」中空の位置、決して明かされない秘中の秘の位置にあるのである

だからこそ、竜胤の周囲に付随する「変若水」や「蟲憑き」「赤目」などを色濃く描きながらも、中心だけは空白のままなのである

※中心が空白だからといって、描かれた物語が不完全であるかというと、そうではない。一つの物語としてそれは十全なのである

本編と外伝とは、同じ構図を持つ作品だが、といって外伝は本編の断片であるということでもない

三島由紀夫には、「『伊豆の踊子』について」という解説がある。そのなかで三島は、

「『伊豆の踊子』は構図としても間然するところのないもので、断片(フラグメント)という感じを与える作品ではない。方解石の大きな結晶をどんなに砕いても同じ形の小さな結晶の形に分かれるように、川端氏の小説は、小説の長さと構成との関係について心を労したりする必要がないのである」(『伊豆の踊子』新潮文庫)

と述べている

『外伝』もまた方解石の結晶のように、SEKIROという結晶の形を有した十全なる作品なのである

ゆえに、ゲームと漫画というジャンルは異なれど、『外伝』はその結晶のきらめきをもって、SEKIROのDLCといって差し支えのない完成度に到ったのである

ある意味で読者は『外伝』を読みながらDLCをプレイしているようなものである

そう考えれば、キャラクターの名前は意味深である

半兵衛を物語に引き込む立場である「」は、本編における「守り鈴」と同じ役割を果たしているのである

過去の記憶を追体験させる「鈴」の効験により、読者は半兵衛となって過去の葦名を訪れるのである

そしてまさしく隻狼を操るのと同じく、弦一郎たる高峯虎道と戦い、赤鬼たる山人と戦い、鬼形部たる高峯比良近と戦い、そして最後には巴流弦一郎たる赤目虎道と雌雄を決するのである

もし仮にフロムソフトウェアが「半兵衛」を主人公にしたDLCを作ったとして、プレイした感想は『外伝』の読後のそれとそれほど違いはないであろう(ジャンルを異なる物を比べる是非はあれど)

話は少し変わるが、『外伝』において触れられなかったもう一つの要素に「忍びたちの物語」がある

こちらは竜胤とは異なり、その周辺要素すらほとんど登場していない。かすかに関わりがあるのは、半兵衛が最後に訪れる「荒れ寺」の仏師それから隻狼であろうか

もし可能であれば、SEKIROの結晶のもう一つの欠片である「忍びたちの物語」もいつか読みたいものである