名称
カインハースト(Cainhurst)過去に『フィーヴァードリーム』の考察においても触れているが、カイン(Cain)は聖書の「アベルとカイン」のカインのことである
※吸血鬼小説『フィーヴァードリーム』は、宮崎英高氏が新入社員にぜひ触れて欲しいコンテンツとして挙げたうちの1冊である
簡単に説明すると『フィーヴァードリーム』の吸血鬼たちは、聖書中の「アベルとカイン」のカインの末裔とも言われているのである
次にhurstであるが、イングランド南部では慣習的に接尾辞にhurstを加えることで「○○屋敷」や「○○館」というふうに美称的な使われ方をする
また、hurstには語源的に「砂州」や「小さい丘」「茂み」「巣」などの意味がある(詳細は考察「フィーヴァードリーム」にて)
つまりカインハースト(Cainhurst)とは、カイン屋敷や、カインの砂州、カインの巣、カインの丘などを意味する名称なのである
これをさらに意訳するのならば、「血族の住処」となろうか
禁断の血
しかしカインハーストは最初から血族の支配する城であったわけではないアルフレート「かつてビルゲンワースの学び舎に裏切り者があり 禁断の血を、カインハーストの城に持ちかえった そこで、人ならぬ穢れた血族が生まれたのです」
※では元々カインハーストには人であり穢れてもいない「たんなる血族」がいたのか、という疑問が生じる。しかしながら英語版では血族は「Vilebloods」と呼ばれ、Vileには下劣や不道徳と言った意味があることから、「血族」という言葉には「穢れた」が含意されていると考えられる
※また、他の個所でも穢れた/穢れていないという区別はされていない
裏切り者が禁断の血を持ちかえった頃には、すでに城は存在していることから、血族以前にも城には王族や貴族たちがいたであろうこと思われる
これはカインハーストの石像群を観察することでも分かる
カインハーストの城の石像うちいくつかは、血族の美的センスにそぐわない稚拙なものなのである
退廃的、耽美的な血族の好みではなさそうな、平凡な石像群 |
血族が生まれる前のカインハーストを支配していたのは、垢抜けない石像を並べて悦に入るような、田舎の貴族領主だったのである
そこへビルゲンワースへ留学していた領民の一人が帰ってきたのである。彼(彼女)が持ちかえったのが「禁断の血」であり、その血から血族は生まれたとされる
さて、この「禁断の血」とは、端的に言ってしまえば「女王ヤーナムの血」である
彼(彼女)が「裏切り者」の汚名を着てまで「禁忌の血」をカインハーストに持ちかえったのは、カインハーストの「血を嗜む」という因習に理由がある
レイテルパラッシュ
古くから血を嗜んだ貴族たちは、故に血の病の隣人であり
獣の処理は、彼らの従僕の密かな役目であった
怨霊の乱舞を愉しむようなグロテスク趣味をもつ貴族たちにとって、純血のトゥメル人であるヤーナムの血は何物にも代えがたい珍味であると同時に、好奇心を満たす嗜好品でもあった
処刑人の手袋
貴族たちはこれを好み、怨霊の乱舞を愉しんだという
ヤーナムの血はカインハーストの最も高貴な者、国王と王妃に捧げられ、当然ながらそれは嗜まれたのである
だが、「血」は人に進化をもたらし、人を失わせるものである
「右回りの変態」
血の発見は、彼らの進化の夢をもたらした
病的な、あるいは倒錯を伴う変態は、その初歩として知られる
…我ら血によって生まれ、人となり、また人を失う(ウィレーム)
カインハーストの血はトゥメルの血によって穢され、その血からついに不死の女王、アンナリーゼが誕生したのである
※この項の解釈は後日捨てられる可能性が高いかもしれない
大紋章
血の女王誕生の成り行きを描いたものが、アンナリーゼの玉座の後ろにあるステンドグラスの大紋章であるBloodborneWikiの画像を拡大したもの |
このステンドグラスの「大紋章」に描かれたものを理解するには、紋章学の知識が必要となる(詳細はwikipedia)(参考:wikipedia 紋章の構成要素)
獣
二頭の獣が両側から楯(エスカッシャン)を支えているが、獣がカインハーストを象徴する図柄であることは、タペストリーや絨毯に描かれた獣の図からも分かる紋章学的には、タペストリーや絨毯の獣は「オオカミ」(Wolves)あるいは「神話上の獣」(Enfield)である。ただし一般的なEnfieldはキツネの頭を持つとされるので、タペストリーのものは「オオカミ」である可能性が高い
紋章学で「オオカミ」は、「包囲戦」や「忍耐と報酬」を意味する図柄である
カインハーストのオオカミとステンドグラスの獣との相違は、ステンドグラスの獣が無毛であることである
紋章学的にはステンドグラスの獣は「犬」、とくにグレイハウンドと解釈することができる。グレイハウンドが象徴するのは「勇気、警戒、忠誠心」である
大紋章に王冠が見えることから、ステンドグラスの大紋章は王家のものである。ゆえにそれを支えるグレイハウンドは、オオカミよりも位階が高いことがわかる
要するにオオカミはカインハーストの騎士を表わし、グレイハウンドはカインハーストの王族/貴族を表わしているのである
青地・三日月・シェブロン
楯の青地(Azure)は「真実と忠誠心」を象徴する。その上に描かれた図柄のうち三日月が象徴するのは「次男」や「大いなる栄光への希望」である※ただし本作が紋章学的なルールをどこまで厳格に適応しているか不明であるし、単に青地に三日月で「夜」を表わしていると解釈しても、本作のテーマ的にはそう間違いではないと思われる
青地を三分割しているのは逆V字型のシェブロン(wikipedia)であり、紋章学的に「保護」を意味する
そのシェブロンに重なって赤い円が見える
この赤い円をどう解釈するかによって意味合いが変わってくる。赤い月にも見えるし、中央に白か黄色の点が見えることからバラのようにも見える。また血液のようにも見える
禁断の血の守護者
赤い円を血液とするのならば、そのまま「禁断の血」の意味である。また、赤いバラと解釈しても、赤いバラを禁断の血の比喩とすることもできる要するに血液にしろ赤いバラにしろ、どちらも「禁断の血」を象徴しうる図柄(チャージ)なのである(赤い月に関しては後述する)
赤い円を「禁断の血」と考えるのならば、シェブロンは紋章学的に「保護」を意味することから、「カインハースト王家が禁断の血を保護した」由来を示すものと考えられる
この解釈における楯(エスカッシャン)の紋章記述(ブレイゾン)は、
Azure, on a chevron argent between three crescent or a rose gules seeded proper.
意訳:(「青地、銀色の逆V字型帯を挟むように三つの金色の三日月を配置、黄色の種をもつ赤いバラを重ねる」)
もしくは
Azure, on a chevron argent between in chief two crescent and base crescent or a rose gules seeded argent.
意訳:(「青地、銀色の逆V字型帯を挟むように、上に二つ、下に一つ金色の三日月を配置、銀色の種をもつ赤いバラを重ねる」)
になろうか(かなり適当である)
標語(モットー)は「穢れた血の守護者」あるいは「血の女王」あたりだろうか
※厳密には、“dexter”や"sinister" "fess point"で図柄(チャージ)の位置を指定しなければならないのだが、長くなるし面倒なので適当に記述した
血族の誕生
次に楯の上にある兜であるが、兜の詳細は不明である(色が抜けているのかもしれない)不明瞭だが兜の上には王冠があり、その王冠の上に兜飾り(クレスト)として小さなグレイハウンドが、まるで生まれ出るように上方へ伸び上がった姿勢で配置されている
赤い円を「禁断の血」と解釈するのならば、禁断の血から血族が生まれ出たことを表わしているのかもしれない
また赤い円を「赤い月」と解釈するのならば、青地に三日月で「夜」を表わし、シェブロンは赤い月の“上昇”する様を描いたともとらえることができる
現実世界では赤い月の「降下/接近」が人の境を曖昧にするのであって、上昇ではない。だが「悪夢の世界は天地が逆転している」とした過去の考察をあわせるのならば、「深海(湖・宇宙)」から浮かび上がってくる「悪夢(月)」と解釈することもできる
三日月を「夜」と解釈するのならば、赤い円には「赤い月」という意味も二重に付与されているとも考えられ、つまるところこの紋章は「赤い月の夜に禁断の血から血族が生まれ出た」ことを表わしているのである
この場合の標語(モットー)は、「血から生まれし女王」か
※三日月と赤い月で月が2つあることになるが、赤い月が現実の月であるとは限らないので矛盾はしないと思われる。それ以前に象徴的な絵なので矛盾があってもおかしくはない
血の女王
この夜に生まれた血族はグレイハウンド、つまり王族であるが、最初の血族であり王族という属性に当てはまるのは、不死の女王アンナリーゼしかいないよってこの紋章はアンナリーゼ個人のものと思われる(カインハーストはアンナリーゼの支配する国なので、そのまま国の紋章にもなる)
王冠を被った女王の娘と思われる金髪の赤子 |
この赤子は「血の赤子」でも「上位者の赤子」でもない。なぜならばアンナリーゼは上位者ではないし、「血の赤子」は未だに生まれていないからである
血の穢れ
故に彼らは狩人を狩り、女王アンナリーゼは
捧げられた「穢れ」を啜るだろう
血族の悲願、血の赤子をその手に抱くだめに
ゆえに、それは王族(グレイハウンド)の延長として、小さなグレイハウンドの姿で表わされるのである
血の赤子
紋章の別の解釈として、楯に描かれた内容を悲願達成の予言とすることも可能である赤いバラは禁断の血を、シェブロンは保護を、三日月は大いなる栄光を、青地は真実と忠誠心を、二種の獣を包囲戦を戦う王と、忠誠心に篤い騎士たちと読み解くならば、
「カインハーストに庇護されし禁断の血は、彼らを大いなる栄光へ導く」となる
この場合、モットーは「われら血の赤子を抱かん」であろうか
蛇足
無計画にカインハーストについて書いていたらやたらと長くなったあげくに頓挫したので、一部を抜粋して記事にすることにしたあくまでも、紋章学的な解釈であってそれが厳密に作中に反映されているとは限らない
大昔にすこしだけかじったうろ覚えの紋章学知識なので、間違いがあるかもしれない
各解釈の標語(モットー)は〈氷と炎の歌〉のパロディかと思われるかもしれないが、実際の紋章学にもある概念である。ただし、内容についてはやや悪乗りした
ここ数日というものカインハーストの考察にかまけてその他のことをおろそかにしてしまったので、明日から頑張る(頑張らない)
質問というか気付きなのですが、カインハーストは”古くから血を嗜みんだ”、”血の病の隣人”、”獣の処理”というフレーバーテキストのわりに獣系のエネミーが全く出てこないのは、なにか理由があるんでしょうか。ヘムウィックの墓地街の住人たちも獣化の症状が出ていないようですし
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