2020年3月31日火曜日

Bloodborne 考察18 「ラヴクラフト全集のコレとコレ」

ラヴクラフト全集のコレとコレ」とは、コロコロオンラインによる山際眞晃プロデューサーへのインタビューで明かされた宮崎氏の言葉である

当時まだクトゥルフに関する知識の乏しかった山際氏に対し、「ラヴクラフト全集の、コレとコレは絶対に読んで」と宮崎氏が推薦したというのが話の趣旨である

本記事はコレとコレとは具体的にどの作品を指すのか、というのを考察したものである


ラヴクラフト全集

ラヴクラフトの著作の翻訳はいくつか出ているが、ここでいう『ラヴクラフト全集』は創元推理文庫から出ている『ラヴクラフト全集 全七巻』であるという前提を元に考察する

またコレとコレとは、全集の1冊単位を指したものか、あるいは作品単位を指したものか判然としないが、今回はまず作品単位について考えた後に、1冊単位のコレとコレについても提示してみたいと思う


コレとコレ

この文言を素直に解釈するのならば、コレとコレは2作品を指し示すと思われる。しかしながらインタビューにおいて簡潔さを優先した結果コレとコレという短い台詞に略されたことも考えられ、実際はもっと多くの作品提示された可能性も否定はできない

また、話の時期が開発初期のことであることを考えると、「コレとコレ」にはDLCは範囲に入っていないと思われる

そこでまずは作品単位でブラッドボーン本編に関連の深そうなものを挙げてゆき、最終的に本編2作品DLC1~2作品に絞ろうと思う

したがって全集1から7までを順に取りあげ、各巻に収められている候補作品を網羅的に挙げていく



ラヴクラフト全集1

インスマウスの影

DLCの漁村のモチーフである。祈りを捧げる漁村民のEnemy IDがDeepOnesであることからも、はっきりとモチーフであると断定してよいと思う


闇に囁く者

ラヴクラフトの著作のうちクトゥルフ神話要素の濃縮された作品である。深遠宇宙の外部から到来した地球外生命体、その能力や外見など、本作にいてもおかしくはない(というかモデルにしたボスがいるような…)


ラヴクラフト全集2

クトゥルフの呼び声

神話の名前にもなっている大祭司クトゥルフを主題とした作品。深海と宇宙を結びつけるような発想や神々の造形など、本作に与えた影響は大きいと思われる


ラヴクラフト全集3

ダゴン

DLCのモチーフのもう1つ。ダゴンはクトゥルフやインスマウスに登場する〈深きもの〉に密接に関わっている
また、旧約聖書におけるダゴンの造形はゴースのそれと類似している

無名都市

砂漠に埋もれる無名都市に棲むのは爬虫類人類とされる。ローランのモチーフである可能性はあるが、高くはない

闇をさまようもの

主人公による廃教会探索街の場景など、都市ヤーナムと共通する部分が多い。また教会はかつて邪悪な宗派の巣窟となっており、未知の暗黒の深淵から何やらおぞましいものを召喚したという

闇をさまようものと呼ばれる存在はあらゆる知識をもち、恐ろしい生贄を要求するという


時間からの影

時間の秘密をつきとめた唯一の種族である、イスの偉大なる種族が登場する。嘆きの祭壇の「時間を巻き戻す」ギミックのモチーフとも考えられる


ラヴクラフト全集4

宇宙からの色

異常成長する直物群の描写などは禁域の森と重なる

狂気の山脈にて

地球の旧支配者、〈古のもの〉を主題とした作品である。放棄された石造都市(一部地下)や、過去の文明との遭遇など、聖杯ダンジョンの雰囲気を彷彿とさせる
また、イスの偉大なる種族古のものの造形は、エーブリエタースと類似点が多い


ラヴクラフト全集5

魔犬

墓場荒らし宝物を奪ったことで呪いが降りかかる。神の墓から聖体を持ち出してきたビルゲンワースを彷彿とさせるストーリーである

魔宴

教会の地下納骨堂から深淵に続く階段のイメージは、旧市街へ降りていく時のそれと類似している(ギミックによって棺が動く)

死体蘇生者ハーバート・ウェスト

ラヴクラフト版『フランケンシュタイン』とでも言えるような話。死体をもてあそんだ果てに深淵から冒涜的な存在を呼び出し、引きずり込まれる

ダニッチの怪

邪神と人間の女との間に生まれた双子の物語。クトゥルフ神話の重要な邪神ヨグ=ソトホースを主題とした作品

ブラッドボーンにおける上位者と人間との生まれる赤子と設定的に通じ、双子の片方が「獣要素」が多いことや、もう一方の双子が「不可視」であることも注目に値する

この構図は、獣の病に侵される人類と、見えない上位者メルゴーのそれと類似する

また神秘的な噴霧器も登場


ラヴクラフト全集6

全編にわたり夢や夢の世界を主題とする。悪夢をメインプロットに据えるブラッドボーンにおけるモチーフの1つ

なかでも『未知なるカダスを夢に求めて』は、夢幻郷を舞台とする冒険物語であり、その旅路はブラッドボーンのそれと重なる部分が多い。また、悪夢の構造についてもこれによって説明することが可能である。たとえばメルゴーの高楼=カダスの城など



ラヴクラフト全集7

サルナスの滅亡

ムナールの地に一万年前にあった古代都市サルナスの興亡を描く作品。舞台となったムナールは後に夢幻郷に取り込まれる

サルナスは広大な湖のほとりにあり、以前は異形の住む石造都市イブが付近にあったという。サルナスはイブを滅ぼし、やがてその呪いとも言うべき現象により滅びる

石造都市イブと同じぐらい古くからあり、伝承によればある霧の多い日にイブと湖は月からくだったという

月が凸状に膨らむとき、イブの生物たちは偶像の前で跳ね回ったという

彼らが祀るのは水棲の大蜥蜴ボクラグであるが、月と蜥蜴の構図は、月に棲む大蜥蜴の邪神ムノムクアにも見られる

ムノムクアには10本の触手をもつ邪神オーンという妻がいて、その妻に仕えるのがムーンビーストである

ブラッドボーンの月の魔物は、ムーンビーストや邪神オーンなどの属性を融合させたものとも考えられる



コレとコレ(作品)

本編におけるコレとコレ1つめは『ダニッチの怪』である。おそらく本作のコンセプト的にまずは「邪神(上位者)の赤子」というイメージがあったと思われる

邪神と人間(トゥメル人)との間に誕生した双子。一方は獣性を秘して人となり、もう一方は不可視となる。長い時間を経た双子(邪神と人類)の邂逅とその結末としての本編なのである(あくまでも『ダニッチの怪』をもとに解釈するのならば)

しかる後、現実的にゲームの舞台として夢の世界を想定したタイミングで、2つめの『未知なるカダスを夢に求めて』が要請されたのだと考えられる

夢を主題としたラヴクラフト作品の最たるものであり、唯一の長編冒険小説でもある

同じ夢を主題とし、そのインスピレーションをラヴクラフトにとったとするのならば、この作品は外せないだろう

しかしながらブラッドボーン全体に漂う雰囲気からは『サルナスの滅亡』の影響が読み取れるし、クトゥルフ神話の基本としての『クトゥルフの呼び声』も捨てがたいものである

実際には2作品だけでなく、さまざまな作品からインスピレーションを得ていると思われるので、厳密に2つに絞ることは不可能だと思われる



DLC

DLCにおける「コレとコレ」は『インスマウスの影』と『ダゴン』である。ただしDLCについては時期的に話されていないと思うので、コレとコレの範囲外である可能性が高い


コレとコレ(冊単位)

未知なるカダスを夢に求めて』を含み、全編を通して夢や夢の世界を描く『ラヴクラフト全集6』は外せない

2冊目は『ダニッチの怪』を含み、また墓荒しという主題も共通することから『ラヴクラフト全集5』である

しかしながら、『サルナスの滅亡』を含み、ゲールマンを彷彿とさせる『恐ろしい老人』や、狩人の夢の屋敷を彷彿とさせる『霧の高みの不思議な家』などが収められている『ラヴクラフト全集7』も捨てがたい



まとめ

ということで、だいたい結論が出たように思う
以下がその結論である

コレとコレ(本編)

『ダニッチの怪』(ラヴクラフト全集5)
『未知なるカダスを夢に求めて』(ラヴクラフト全集6)
『クトゥルフの呼び声』(ラヴクラフト全集2)※追加

コレとコレ(DLC)

『インスマウスの影』(ラヴクラフト全集1)
『ダゴン』(ラヴクラフト全集3)

コレとコレ(冊単位)

『ラヴクラフト全集2』※追加
『ラヴクラフト全集5』
『ラヴクラフト全集6』


蛇足

重要だと思われる作品に関しては読み返したが、そうでないものについては概要をさらったのみである。ゆえに、重要な作品が抜けていることも考えられる

また今回は「ラヴクラフト全集の~」とあることから、ラヴクラフト全集以外のクトゥルフ作品については触れていない

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