血族
始祖であるアンナリーゼが誕生したところから血族の歴史がはじまる(それ以前のカインハーストの歴史については前回の考察参考)成長したアンナリーゼは、自らの血を相手に飲ませることで血族を増やしていく(この方法はプレイヤーが血族になる際の儀式と同じものである)
※またBloodborne(「血液感染」)という本作タイトルとも合致する
血を嗜む風習のあったカインハーストは、たちまちのうちに血族たちで満ちあふれ、文字どおり血族の住み処となっていったのである
だが、ひとつだけ問題があった。ヤーナムの血の毒性により血族に正常な男子が生まれなくなってしまったのである
※禁断の血がヤーナムの血であることについては、長くなるので別の考察で述べる
※マリアやアリアンナなど女性は正常に産まれて成長していることから推測するに、異常は男子のみに現れたと思われる
血が人の身体を蝕むことは「千景」にも言及されている
千景
薄く反った刀身には複雑な波紋が刻まれており
これに血を這わせることで、緋色の血刃を形作る
だがそれは、自らをも蝕む呪われた業である
血の業を使いすぎた血族たちは、呪いにより自らの肉体を蝕まれ、それは生殖機能にも悪影響を及ぼしたのである
※ここで問題にしているのは、人間の血にトゥメルの血が混じったことで起きる不妊症である。人の身にトゥメルの血は劇毒なのである
赤子として生まれた者もその肉体は著しく変異しており、その多くは死産し、わずかに生き残ったものも異形の「落とし子」となったのである
ヤーナムの血を受け入れた種族に健康な男子は生まれず、その種の滅亡は必然的なものとなる。このヤーナムの呪いこそ、医療教会をして血族を「血の救いを穢し、侵す、許されない存在」と言わしめる元凶である
医療教会がヤーナムの血を禁忌の血としなければならなかったのは、種としての存亡がかかっていたからである
※マリアやアリアンナ、また廃城の悪霊が女性型しかいないことを考慮すると、正常に生まれないのは男子のみである。生まれたとしても落とし子となる。また成人であっても血の業の呪いにより、やがて「血舐め」になった
血の赤子
ゆえに血族は、呪いに打ち克つ存在の誕生を願ったのであるそれこそが、「血の穢れ」によって生まれる血族の悲願「血の赤子」、上位者の赤子である
血の穢れ
故に彼らは狩人を狩り、女王アンナリーゼは
捧げられた「穢れ」を啜るだろう
血族の悲願、血の赤子をその手に抱くだめに
婚姻の指輪
上位者と呼ばれる人ならぬ何者か
彼らが特別な意味を込めた婚姻の指輪
古い上位者の時代、婚姻は血の誓約であり
特別な赤子を抱く者たちにのみ許されていた
※「不妊」という主題が、上位者から血族の次元に矮小化され繰り返されている
血の穢れを啜ることで妊娠/出産するというのはやや奇異な感じがする設定であるが、そもそも血族とは「血の媒介」によって増える種族なのである
彼らの本質は血にあり、血によって生まれ、血によって血族となり、血によって人を失った者たちなのである
そうした種族にとっては、胎生という現象の方が奇跡的なのである
血の穢れ
血を本質とする存在が本作にはもうひとつ登場する滲む血をその本質とする上位者オドンである
「姿なきオドン」
人であるなしに関わらず、滲む血は上質の触媒であり
それこそが、姿なき上位者オドンの本質である
故にオドンは、その自覚なき信徒は、秘してそれを求めるのだ
実際にオドンは血族の末裔であるアリアンナに赤子をもたらしている
3本目のへその緒(アリアンナ)
すべての上位者は赤子を失い、そして求めている
姿なき上位者オドンもまた、その例外ではなく
穢れた血が、神秘的な交わりをもたらしたのだろう
オドンと血族はともに「血を本質」とする存在であるがゆえに、神秘的な交わりにより、赤子を誕生させることができるのである
だが、それは赤い月の接近時に限られ、特に「血の赤子」と呼ばれる特別な赤子を誕生させるためには、オドンの精子である「血の穢れ」を啜らなければならないのである
精子あるいは精虫 |
アンナリーゼが血の赤子を身ごもらなかったのは、カインハーストに赤い月が接近していないからである
赤い月が近付くとき、人の境は曖昧となり 偉大なる上位者が現われる。そして我ら赤子を抱かん(ビルゲンワースの手記)
秘匿を破いた後も、カインハーストの月は赤くない |
その血の穢れとは、滲む血を本質とする上位者オドンの生殖の際に放たれる血の精子のことであり、それはまだ生物としての形をなしてないがゆえに、「姿なき」状態にあるのである
※「姿なき」は英語版ではformless(不定形)というニュアンス
※恐らくオドンは日本語の「姿なき」と英語の「formless(不定形)」の2つの言語の意味を重ねて設定されている
いくつかの上位者は高等生物におけるような妊娠→出産という方法により赤子を得ようとしている。ゴースは胎盤のついた赤子を死後出産し、ヤーナムも上位者の赤子を身ごもっている(聖杯ダンジョンの個体)
であるのならば、男性的上位者であるオドンもまた生物に倣い、精子を卵子に受精させるという手法を選択しているはずである
その明確な痕跡が「血の穢れ」なのである
オドンはその本質である血を媒介にして、人血のうちに精子を生成するのである。血の遺志の中毒者である狩人こそが、宿す確率が高いとされるのは、血の遺志とはつまるところ、オドンの遺志だからである
血の穢れ
カインハーストの血族、血の狩人たちが
人の死血の中に見出すという、おぞましいもの
血の遺志の中毒者、すなわち狩人こそが、宿す確率が高いという※インド錬金術において水銀とはシヴァ神の精子であるとされる(wikipedia)
※血の女王とはオドンの女王のことであり、ヤーナムが身ごもったのはオドンの赤子なのである
※メルゴーの姿が見えないのも、その父が「姿なき上位者」であるからである
オドン
さて、女王ヤーナムやアンナリーゼがオドンの赤子を宿せるのは、その血中にオドンの本質を多く含んでいるからであるつまり穢れた血により、彼女たちはオドンの半眷族のような性質を持つにいたったのである
穢れた血とは、滲む血であり、オドンの本質であり、人を不死にし、人を人ならぬものにし、赤子に異常を引き起こさせるもの、つまり「水銀」である
オドンの名を冠したカレル文字は例外なく「水銀弾」に関係するものであり、血の温もりに血の滲みを見出すことで、「水銀弾」が回復するのである
そしてまた現実においては水銀は人体に蓄積され、生殖機能や成長を阻害する
※水銀中毒がいかなる病態を引き起こすかについては、水銀中毒(wikipedia)が詳しい
※水銀中毒に対するある種の興味はダークソウル3における「致死の白霧」(初期バージョンでは致死の水銀)からもうかがえる
千景は劇毒特性を持つが、水銀は何よりも「劇毒」である
また、水銀は液体金属であり不定形(formless)の「姿なき」金属である
そして水銀はかつて「不死」の霊薬として服用されていた
つまるところ、血中に含まれた水銀こそがオドンの本質なのである
そしてまた水銀を触媒とする上位者であるがゆえに、それは上位者にも作用する。上位者たちが赤子を失ったのは、オドンという水銀の上位者により、生殖機能が阻害されたからである
※一般的には吸血鬼や人狼には「銀の弾」が効果的とされる。しかしながら本作においてはそれは「水銀」であり、その効果が上位者にも及ぶのは、水銀を司るのが上位者オドンだからである
※水銀弾が劇毒効果を持たない理由については後述する
トゥメル文明で王になれたのは、高い水銀耐性を持ち、水銀を本質とする上位者の赤子を出産できる女性である
それはかつてはトゥメル人の女王ヤーナムであり、現在はカインハーストの女王、アンナリーゼなのである
アンナリーゼは水銀によって不死になったが、自身もその血を啜った血族も水銀中毒となり、生殖機能を阻害され、稀に赤子が生まれたとしても正常に成長しないのである
血族の絶滅を回避するには、生物として水銀の害を克服せねばならず、そのために血中の水銀を本質とする上位者オドンの赤子、「血の赤子」を願うのである
※なぜならば血族とはオドンの眷族、つまり水銀を拝領した一族であるがゆえに水銀から離れることはできず、水銀とともに生きていかなければならないからである
虫
血の狩人たちが人の死血の中に見出すとされるのが、血の穢れである血の穢れ
カインハーストの血族、血の狩人たちが
人の死血の中に見出すという、おぞましいもの
同じように、連盟の狩人が狩りの成就に見出すのが「虫」である。テキストには汚物とあるが、グラフィックでは血液から虫が這い出しているように見える
虫
連盟の狩人が、狩りの成就に見出す百足の類
連盟以外、誰の目にも見えぬそれは
汚物の内に隠れ蠢く、人の淀みの根源であるという
それを見つけ踏み潰すことが、彼らの使命なのだ
おそらく慈悲はあるのだろう
願う者にだけそれは見え、尽きぬ使命を与えるのだ
血の穢れと虫の共通点は、それぞれの契約にある者が見出すことである。逆に言えば虫のテキストにあるように、「連盟以外、誰の目にも見えぬ」のである(テキストに反して狩人の悪夢の赤目狩人は100%虫を落とすが)
血の穢れも虫も、そう願う者にだけその形に見えるのである
なぜならばこの両者の本質は同一のもの、つまるところ“姿なき”オドンだからである
姿なきオドンは、その人間の見たい形に見える(不定形)のである
両者は穢れ、あるいは淀みとして忌み嫌われ、そしてそれは多くの場合、「虫」として見えるのである。血の穢れも「血の精子」ではなく、正しくは「血の精虫」である
オドンは基本的には「姿なき」上位者であるが、願う者には虫として姿を現すのである(しかしそれは当人以外には見えないし、千変万化するので特定の姿はない)
※作中で劇毒になった際には全身から血が噴き出すエフェクトが出るが、これは虫(オドン=水銀=劇毒)が人間の体を食い破って内部から噴出するさまである(血の穢れや虫は赤い)
※水銀弾が劇毒効果をもたないのは、水銀弾の水銀が、上記のような特殊な条件で形を成したオドンの状態=血の穢れや虫の状態にないからである。それはまだ水銀という触媒の段階にあり、オドンは宿っていないからである
さて血の穢れの項で「血の女王とはオドンの女王のことである」と記したが、これをさらに言い換えるのならば、血の女王とは、オドンの女王のことであり、また虫の女王のことである
そして虫の女王とは、無死=不死の女王なのである
※蟲=むし=無死=不死の言葉遊びはSEKIROにも確認できる
補足
ヤマムラ
教会地下の牢獄に投獄されているヤマムラは、人の淀みを直視して気が狂ったというその人の淀みを生み出す根源は「虫」である
鶯の羽織
遙か遠い東国の衣装
流浪の狩人、山村の狩装束
仇の獣を追った侍は、その後連盟の狩人となった
そして淀みを直視し、狂ったのだ
ヤマムラが「淀み」を直視したのはカインハーストにおいてである
エンディングのスタッフロールに「Chikage Yamamura」という名がクレジットされている(開発者にいる山村という人物ではないが、グラフィックは開発者のものと思われる。同姓であることを利用したダブルミーニング)
千景と山村はともに東方から到来したモノであり、千景は女王の親衛隊の主武装となっている
誰が千景を持ち込んだのかと考えるのならば、山村である可能性が高いのである
そして山村は「虫」を見出す連盟員でもあった
上述したように「虫」とはオドンの形を成したものであり、オドンとは血中の水銀を触媒とする上位者である
この虫により生まれた淀みを直視して山村は気が狂ったのである
つまるところ、水銀中毒により発生した人の淀み(異常)を直視した結果、彼は狂ったのである
蛇足
カインハーストは作中設定のほとんど全てに関連しているために、何かを考察しようとするとまったくまとらなくなる。よって、枝葉の部分はかなり省略せざるを得なかった禁断の血や、その正体、また裏切り者については別の考察で述べる
正直なところまだカインハーストn全体像がつかめていないので、本考察は訂正や修正される可能性が高い
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