2020年5月29日金曜日

Bloodborne 考察25 獣血

※本考察にはSEKIROと比較し、その設定を援用している個所がある

獣血

獣血の丸薬にあるように、獣血は人を獣性に導くという

獣血の丸薬
獣血を固めたといわれる巨大な丸薬
故は分からず、医療教会は禁忌として関わりを否定している
飲んだ者を一時の獣性に導く
獣性は攻撃により、傷つき裂ける肉と返り血により高まり
それを続けることで、更なる力と快楽を、使用者にもたらすだろう

また古狩人シリーズには、古狩人たちが獣血を恐れていた様子が記されている

古狩人の手甲
当時、一部の狩人たちは
ある種の金属が獣血を祓うと信じていた
狩りの夜、人が何かに縋るのは当然のことだ

古狩人のズボン
獣血は右足から這いあがる」とは、当時の迷信であり
二重に巻かれたベルトはその名残であろう

狩人たちが獣血を恐れたのは、獣血に侵されると獣になるからである。このことは獣血の丸薬により獣性に導かれることからも明らかである

すなわち獣血は「獣の病」の原因といえるものである

「獣の病」の治療を目指す医療教会にとって、獣血は憎むべき病原体そのものである。ゆえに医療教会は獣血を禁忌とし、関わりすら否定しているのである



禁忌の血

医療教会によって禁忌とされているものがもう1つある
それが禁忌の血である

アリアンナの血
古い医療教会の人間であれば、あるいは気づくだろうか
それは、かつて教会の禁忌とされた血に近しいものだ

同じように禁忌に分類されているが、アリアンナの血は禁忌の血に「近しい」というやや婉曲な表現になっている

禁忌である獣血人を獣化させ、禁忌の血に近しいとされるアリアンナの血は体力とスタミナを回復させる

ここで問題となるのは獣血禁忌の血同じものか否かである

まず獣血医療教会の禁忌となっているので、医療教会の讃える「聖血(Old blood)」ではない。英語版でも獣血は Beast blood と訳されている

そのうえ古狩人たちは獣血を恐れ迷信を信じていた

古狩人のズボン
獣血は右足から這いあがる」とは、当時の迷信であり
二重に巻かれたベルトはその名残であろう

この迷信を裏付けるように狩人の始祖ゲールマンは右足を失い、カインハーストの騎士像の右足は欠けている



また古狩人たちは獣血に対する金属の効験を信じていた

古狩人の手甲
当時、一部の狩人たちは
ある種の金属が獣血を祓うと信じていた

これと類似した思想を示したのが、カインの鎧である

カインの鎧
ごく薄く、布のごとき銀製の鎧は、悪意ある血を弾くとされ
彼ら近衛騎士は、これを頼り女王のために「血の狩人」となる

つまり古狩人は獣血を恐れ、血族は悪意ある血を恐れていたが、その血が右足に何らかの異常をもたらすという思想は類似しており、また金属に対する反応も一致することから、この両者は同じものあるいは極めて近しいものと考えられる

そもそも禁忌の血とは要するに血族の長たる不死の女王アンナリーゼの血である。血族がそれを忌避する理由はない

よって獣血と禁忌の血は同じものではない

獣血(悪意ある血)古狩人にとっても、血族にとっても忌まわしい血なのである

獣の病がカインハーストにおいても忌まわしいものとされていたことは、レイテルパラッシュのテキストにも記されている

レイテルパラッシュ
古くから血を嗜んだ貴族たちは、故に血の病の隣人であり
獣の処理は、彼らの従僕たちの密かな役目であった



獣血の主という名前

さて、深きトゥメルの「獣血の主」には頭部があり、その名は「獣毛の生えた巨大な獣」を指しているものとプレイヤーに認知される

だがトゥメル=イルで遭遇するそれには頭部がなく、さらに戦闘しているうちに頸部から長い虫のようなものが生えてくる


プレイヤーはこのタイミングで「獣血の主」とは「獣毛の生えた巨大な獣」を指す名ではなく、巨大な獣を操っているこの「長い虫」の方を指しているのではないか、と気づかされるのである

ボス名そのものにトリックを仕込むのは、例えばSEKIROの「四猿(見る猿、聞く猿、言う猿、 )にも例がある

※また獣血の主の寄生虫メカニズムは、SEKIROの獅子猿と酷似している

獣血の主という名は「」が獣血よりも上位にいることを示す名前であり、「主」という単語を比喩的に解釈するのならば、「虫」こそが獣血の源である




淀み

は人の淀みの根源ともされる


連盟以外、誰の目にも見えぬそれは
汚物の内に隠れ蠢く、人の淀みの根源であるという

SEKIROでは、竜咳の源は血の淀み、と説明される。つまり淀みが病を発生させているのである

「竜咳の源… それは、血の淀みです」(エマ)


この淀み→病というSEKIROの設定本作に当てはめるのならば、虫が生じさせる淀みは「獣の病」となって人に降りかかることになる



つまり、血から生じた虫淀みを生むことで人を獣にする病気を媒介するのである



※詳細は省くが虫の毒の有無は湧いた血によって左右される。トゥメル人に湧いた虫は有毒であり、ヤーナム人に湧いた虫は無毒

※言うまでもなくBloodborneとSEKIROは別作品である。しかしながら「虫」や「奇病」といった共通する概念が登場すること、また上位者との幾つかの共通点など(ナメクジなど)があることから、その背景に共通世界を見出すことも不可能ではない

共通世界をもつ複数の個的なストーリーという構造は、本作に多大な影響を与えている『フィーヴァードリーム』や『皮剥ぎ人』を著したジョージ・R・R・マーティンの作品群に《一千世界(サウザンド・ワールズ)》として見られるものである



風土病

公式サイトでは獣の病は風土病と説明されている

古都ヤーナム
遙か東、人里離れた山間にある忘れられたこの街は、
呪われた街として知られ
古くから、奇妙な風土病「獣の病」が蔓延っている(公式サイトのストーリー)

さて風土病をWikipediaで検索すると、狭義の風土病として「地方病」へのリンクが張ってある
地方病 (日本住血吸虫症)


地方病のページの「感染経路の研究」には、以下のような記述がある

松浦は藤浪らの動物実験とほぼ同時期の1909年6月下旬、皮膚にかぶれが起こると農民から聞いた水田で、右足には何も付けず、左足にゴム製のゲートルを着用した状態で有病地水田を数時間歩くと、何も付けなかった右足側にのみ、足の甲から水に浸かっていた膝にかけて、かゆみを伴う赤い斑点が発症した

古狩人のズボン
獣血は右足から這いあがる」とは、当時の迷信であり
二重に巻かれたベルトはその名残であろう

もちろん実験における左右の足の選択は人間による恣意的なものであって、寄生虫自然的選択ではない

しかしこの実験は古狩人のズボンにある「獣血は右足から這いあがる」のインスピレーションのもととなったのではないだろうか

そしてふと気づく、「這いあがる」「悪意の血」「血を這わせる」といった血を擬人化したような表現は、実は擬人化ではなく事実を語っていたのではないだろうか、と

これらの表現は比喩ではなく、実際に虫が右足を這いあがるのであり、悪意を持った虫がいるのであり、刀身に血を這わせることで劇毒をもった虫が生じるあるいは変異するのである



生活環

これまでの経緯を簡単にまとめる

獣の病の原因は、血液に寄生する虫が生み出す淀みである

この虫の生活環は以下の図のとおりである



この寄生虫は血によって媒介され人に感染していくが、人の目に触れるのは獣(終宿主)の体を乗っ取り、成虫(獣血の主)になった時のみである

例外として隠れ蠢く虫連盟員が見つけ出すことがある

また、血の狩人が血に酔った狩人から見出すことがある

血の穢れ
カインハーストの血族、血の狩人たちが
人の死血の中に見出すという、おぞましいもの
血の遺志の中毒者、すなわち狩人こそが、宿す確率が高いという
故に彼らは狩人を狩り、女王アンナリーゼは
捧げられた「穢れ」を啜るだろう
血族の悲願、血の赤子をその手に抱くために

以前何かの考察で血の穢れ=精子説を述べたことがある。形質からすると今でもある程度は妥当だと思われるが、血に感染する寄生虫の存在を前提とすると、結論を変えざるを得ない

参考までに血の穢れのグラフィックは以下のようなものである


これは確かに精子に似ている。しかし、寄生虫における成虫の前段階であるセルカリアにも似ているのである

日本住血吸虫のセルカリア
「吸虫類において成虫になる1つ前の段階、寄生虫学用語でセルカリアと呼ばれている」(Wikipedia)

血の遺志の中毒者である狩人は、必然的に血の遺志を摂取する量が多い

獣の病はヤーナムに蔓延る風土病であり、ヤーナム人の多くはその原因である「虫」に感染している。ゆえに寄生虫に感染する確率も高くなる

そうして宿ったセルカリアを不死の女王アンナリーゼは啜る

血の赤子を抱くためである

上位者の赤子の器になるのか、それとも寄生虫そのものが上位者へと変異するのかは不明だが、海岸に打ち棄てられたゴースの遺体にも寄生虫は巣くっていた

ゴースの寄生虫
海岸に打ち棄てられた上位者ゴースの遺体
その中に大量に巣食う、ごく小さな寄生虫
人に宿るものではない



寄生虫の成虫ならびにその前段階のセルカリアは作中ではそれぞれ「獣血の主(虫)」ならびに「血の穢れ」として登場する

この寄生虫のすべての大元となるのが、である

寄生虫の卵は、呪われた濡血晶に見出すことができる

呪われた濡血晶
病める斑点は呪いの徴であり、害悪ある効果を持ってしまうが
その中でこそ高まる効果もあるものだ

それは「病める」斑点であり、「呪い」の徴であり、「害悪」をもたらす

病める、とはそのまま「病気」の意味である
また斑点というが、グラフィック上はツヤのある虫の卵のような球体である

また害悪には幾種類もの効果が存在するが、そのうちに「劇毒」を加算するものもある

そしてそれは「呪いの徴」であるという

これにより「」がどこからやって来たかも判明する

呪いとは、上位者の怒りに触れた証である

冒涜の聖杯
呪いとは、上位者の怒りに触れた証であり、呪詛であり
この儀式を成就するためには、特別な素材が必要である

上位者によってもたらされ、それは血を持つ者に致命的な害悪を引き起こすのである

奴らに報いを…母なるゴースの怒りを…(漁村の司祭)

赤子の赤子、ずっと先の赤子まで、永遠に血に呪われるがいい…(漁村の司祭)

…さあ、呪詛
すべての血の無きものたちよ
すべての血の無きものたちよ
我らに耳をすましたまえ(漁村の司祭)

これらのことから、なぜ赤い月が接近すると(それはつまり上位者が接近することを意味する)獣の病が蔓延するのか、という疑問に対する答えが得られる

獣の病の原因となる虫は上位者に由来するからである。その接近は寄生虫の散布に他ならず、そうしてばらまかれたは、人の血を媒介にして感染を拡大していくのである


生活環2

以上をまとめると以下の図になる

※卵は呪いによって生じるものと、成虫が生み落とすものがある




血液

本作のタイトルBloodborneには「血液感染」という意味もある

※複数の意味を込められたダブルミーニングであるが第一義的には「血液感染」であろう

これはヤーナムの風土病、「獣の病」が血液によって感染していくことを示したタイトルである

上で考察したように、獣の病の病根には淀みがあり、淀みの根源にはがいる

は上位者の怒りの証呪いの徴であり、血のある者たちは血に寄生する虫からは逃れることができないのである(たとえ月の獣であっても)

漁村の司祭が呪詛するように、まさしく「血に呪われた」状態である



蛇足

元々のタイトルは「獣血の主」だったのだが、ローレンス説まで言及しようとすると長くなること、また劇毒/無毒のメカニズムを詳しく考察すると煩瑣になることからカットした



2020年5月21日木曜日

Bloodborne 考察24 Ghoth the Burrower

はじめに

この記事は、DLCに登場するゴースという名前Ghoth the Burrowerから採用されたと推測するとブラッドボーンのストーリーはどのように解釈できるか、という一種の思考実験的な考察である

よってかなり飛躍した部分も存在することを先に断っておく(いつも以上に飛躍している)


Ghoth the Burrowe

Ghoth the Burrowerとはラヴクラフトの作成した架空の系図に記載された神性である


クトゥルフの末裔であり、その名をゴース(Ghoth)と読める


Burrower

このGhoth the Burrowerという名前から想像される姿と、DLCに登場するゴースの外見は非常に隔たっている印象がある

Burrowerとは一般的に「穴掘り動物」を指すうえに、カッコ書きに(one of the Little People)とあることから穴を掘る小さな人々の一人、とも解釈することができる

しかしながらDLCに登場するゴースは深海に住むような軟体生物的な姿をしている

だがクトゥルフ神話におけるBurrowerの姿はゴースとそれほど隔たっていない

ブライアン・ラムレイの『地を穿つ魔』(原題:The Burrowers Beneath)には、シャッド=メルというクトーニアン種族の統率者が登場する(fandam)

クトーニアン頭部から触手を生やしたイカのような地底種族とされる

fandomでは『Chthonianは巨大なイカで、粘液で覆われた細長い虫のような体』と説明されている

このクトーニアンの外見描写は、幼年期の始まりENDに見える狩人の姿を彷彿とさせるものである


そしてまたよく見るとゴースとの類似点も存在する

ゴースの頭部


まず頭部から生えた触手、そして大きなイカを細長い虫のようにした体、海棲生物的でありながら、Burrower の特徴も有しているのである

ゴースの腹部にみえる広がった部分はゴースの遺子を宿して膨張していた腹部の名残である。本来のゴースの体は「細長い虫のような体のイカ」である

広がった部分は羊膜の名残だろうか


つまるところ、「幼年期の始まりEND」の狩人の姿はクトゥルフ神話における伝統的なクトーニアンの姿であり、ゴースの姿は「頭部の触手、巨大なイカ、細長い虫、リトルピープル」といった要素から解釈しなおされたフロム的クトーニアン(Burrower)である



ゴース

系図によればGhoth the Burrowerはクトゥルフの直系である


DLCの漁村は全体的に『インスマウスの影』をモチーフにしたものである

このことは漁村の雰囲気、またゴースを崇める漁村民たちのEnemy IDが「Deep Ones」であることなどからも明らかである

『インスマウスの影』に登場するインスマウスの住民たちは〈深きもの〉と人間とのあいだに産まれた混血種であり、その〈深きもの〉たちの長老が「ダゴン」である

また〈深きもの〉は「ゾス星系から地球に飛来した旧支配者クトゥルフの眷属(奉仕種族)」ともされ、

彼らの長である父なるダゴンと母なるヒュドラと海底に沈んだ古代都市ルルイエに封印されたクトゥルフに奉仕するために活動する。(Wikipedia)

という

そしてまたダゴンとその妻ヒュドラクトゥルフの娘クティーラの後見人でもある。クトゥルフは肉体が滅びた際に、娘クティーラの子宮に宿り再び誕生するとされる

まとめると〈深きもの〉はクトゥルフ配下の眷属であり、彼らが崇拝するのはクトゥルフであり、そのクトゥルフの姫クティーラの後見人でもある

さて、DLCの漁村民がひざまずいて拝んでいたのは「ゴース(とその胎内に孕まれた遺子)」である

〈深きもの〉が崇拝するのはクトゥルフまたは、クトゥルフを宿した娘クティーラである

このクトゥルフとクティーラ、そして〈深きもの〉たちの構図は、ゴースの遺子の父親ゴース、そして漁村民との関係に相似するのである

つまるところクトゥルフ神話的にはゴースはクトゥルフを妊娠したクティーラになるはずである

※ただしクトゥルフ神話の各神格が本作の上位者たちに正確に対応しているとは限らない



ラヴクラフトの祖先

系図ではラヴクラフト家の祖先は、GhothとViburniaとのあいだに産まれている

Viburniaローマの貴婦人とされる

このことから系図のGhothは「」と思われ、作中の「ゴース」とは性別が反対である

性別を逆転させてまでゴースの名を使いたかったのは、系図上の「Ghoth」の位置にゴースを挿入したかったからである

なぜならばその位置はクトゥルフの直系にあたり、またラヴクラフト(人間/狩人)の直接的な祖先だからである



悲劇的な婚姻

GhothとViburniaの婚姻については系図の下に注釈書きがある

※※This union was an hellish and nameless tragedy.
この組み合わせは地獄のような名もなき悲劇だった。

GhothとViburniaの悲劇的な婚姻の末にラヴクラフトは誕生したのである

これはゴースとビルゲンワースの悲劇的な交わり(漁村事件)の果てに狩人が誕生したことと符合する

またVibruniaの祖先をたどるとナイアルラトホテップにたどりつくが、ナイアルラトホテップは月の魔物との共通点を多くもつ

ナイアルラトホテップの千ある姿の一つ「赤の女王」の描写を介してトゥメルの女王ヤーナムカインハーストの不死の女王アンナリーゼに繋がっていく

つまるところ、ナイアルラトホテップの子孫がGhothと交わったように、月の魔物の子孫であるマリアはゴースと交わったのである

※ここにいう交わりは性的な交わりと儀式的な交わりの両面を意味する

上述したようにクトゥルフの姫クティーラが妊娠することになっていたのはクトゥルフである。そして本作でクトゥルフにあたるのは「眠る上位者たち」(その主)である

※クトゥルフ=「眠る上位者たちの主」説については前回の「考察23 アメンドーズ」を参照のこと

ゆえにゴースの遺子とは「眠る上位者たちの主」の生まれ変わりであり、その再誕者である
※ミコラーシュが再誕者を生み出したのはあるいはゴースの遺子を再現しようとしたのかもしれない



穢れた血の赤子

ゴースの遺子が「眠る上位者たちの主」の生まれ変わりであるかについては、いくつかの疑問点が残る

というのも、ゴースの遺子は当初はマリアの赤子であったと思われるからである

ゲームの初期バージョンでは古工房に置かれた「3本目のへその緒」のテキストが異なっていた。以下がその英文である

One of the heirlooms used to contact the Great Ones, originating in the child of the Vilebloods. Long ago, in an encounter with the Great Ones, a contract was established, establishing the hunters and the hunters dream.

これを日本語に訳したものが以下である(DeepL翻訳+修正)

上位者との接触に使われた家宝の一つで、穢れた血の赤子を起源とする。大昔、上位者との出会いの中で契約が成立し、ハンターとハンターの夢が確立された。

このアイテムが古工房のマリアに似た人形のそばに置かれていたのである。いうまでもなくマリアは穢れた血族の長、不死の女王アンナリーゼの傍系である

マリアの狩帽子
不死の女王、その傍系にあたる彼女は
だがゲールマンを慕った。好奇の狂熱も知らぬままに

その穢れた血は上位者の赤子を産むことすらできるものである

3本目のへその緒(娼婦アリアンナ)
すべての上位者は赤子を失い、そして求めている
姿なき上位者オドンもまた、その例外ではなく
穢れた血が、神秘的な交わりをもたらしたのだろう

そして時計塔のマリアは、恥ゆえに漁村の存在自体を隠していた

だが、注意することだな。秘密には、常に隠す者がいる
…それがなら、尚更というものさ(シモン)

また秘密は狩人の罪でもあった

この村こそ秘密罪の跡
…そして狩人の悪夢は、それを苗床とした…
お願いだ、悪夢を、終わらせてくれ…
たとえ罪人の末裔でも…
…憐れじゃないか。俺たち、狩人たちが…(シモン)

そして秘密はマリアの先に隠されている

…時計塔のマリアを殺したまえ
その先にこそ、秘密が隠されている(シモン)

隠されていた秘密とはマリアの恥であり、それはゴースの遺子である

マリアに「不死の女王の傍系」という設定を付与したのは、上位者の赤子を宿せるという特質を持たせたかったからであり、逆に言うと、その特質を持たせないのであれば不死の女王の傍系という設定を付与する必然性はない



二人の母

クトゥルフ神話ベースで考えるのならば、ゴースの遺子とはクトゥルフ、つまり「眠る上位者たちの主」の生まれ変わりである

また作中の伝承ベースで考えるのならば、ゴースの遺子はマリアの赤子であったとも解釈できる

※テキストの変更は設定が変わったことのほかに、あからさますぎたという理由で変更されたということも考えられる

すなわちゴースの遺子にはゴースとマリアという二人の母が存在することになる

この矛盾はしかしクトゥルフの再誕のメカニズムから解消することが可能である

上でクティーラ(ゴース)はクトゥルフの肉体が滅びたときに彼を再び産み直す、と述べた

肉体が滅びたとき、ということは彼は肉体を失っているのである。精神のみしか残っていない彼がクティーラに宿るには、その精神を宿す器(胎児)が用意されていなければならない

つまりマリアの赤子は「眠る上位者たちの主」の精神を宿す器として用いられ、ゴースに移植された後に奪い去られたのである

いわばマリアが受精卵を提供し、ゴースは代理母として利用されたのである(その段階でゴースが生きていたかは不明)

※Tina L. Jensの『In His Daughter’s Darkling Womb』(彼の娘の闇の子宮)という小説では、クティーラは研究者によって人工授精の被験体にされている



空の上位者

二人の母のうち、ゴースは代理母でありマリアは胎児を提供した実母である。ここでその父親はオドンといいたいところだが、残念ながら作中の描写では赤い月の接近が無い限りオドンは女性を身ごもらせることができない

※赤い月との邂逅はマリアの赤子の持つ3本目のへその緒を介してである

よってマリアの父親は上位者ではなく人ということになり、狂熱を持っていたゲールマンか、シモンが死に際に名前を並べて口にするルドウイークが候補として挙げられる

…クソッ、こんなところで…
…ルド、ウイーク…マリア…(未使用セリフ)

遺子を倒したあとのゲールマンの様子(寝息が穏やかになった、と人形が指摘)から、ゲールマンの可能性が高い


「眠る上位者たちの主」の器になるべく、ゴースの胎内に移されたマリアの赤子上位者となって再誕したのだが、そこに「眠る上位者たちの主」の精神は宿っていなかった

それは精神が空(vacuus)の上位者だったのである

つまるところ後の白痴の蜘蛛、ロマである

※ロマの英名は「Rom, the Vacuous Spider」である。vacuousはラテン語のvacuusが語源であり、vacuusは「空(から)」や「欠けている」の意味

※またロマは眷属であり、眷属とは人が人ならぬ者に変異したと考えられることから、誕生時の赤子は人間であったと推測される



眠る上位者たちの主

ゴースとマリアの赤子がロマであり、かつゴースの遺子であるとすると赤子が二人いることになる

ローレンスの頭蓋のように現実と悪夢で存在様態が異なるのだ、としても良い

しかし上述したようにマリアの赤子はある上位者の精神の器として用意されたものである。その器がゴースにより瞳を授けられロマとなったとすると、残されたのは宿るはずであった上位者の精神である

実はプレイヤーの戦うゴースの遺子は上位者ではない。Nightmare Huntedの文字が表示されるのはゴースの遺子を倒したあと、ゴースから立ち上る黒い影を斬った時である

この黒い影はゴースではなくゴースの遺子に酷似している



この黒い影こそマリアの赤子に宿るはずであった「眠る上位者たちの主」の精神であり、ゴースの本来の遺子である

黒い影であるゴースの遺子は攻撃されることで海へと還っていく

…ああ、ゴースの赤子が、海に還る
呪いと海に底は無く、故にすべてを受け容れる(漁村の司祭)

還るとは元の場所に帰ることを意味する
ゴースの遺子は元々は海にいたということになる

しかし元々海にいたのはプレイヤーが戦った肉体を持つゴースの遺子ではなく、黒い影、つまり「眠る上位者たちの主」の精神である


そして「眠る上位者たちの主」はクトゥルフ神話的には大祭司クトゥルフと対応関係にあるが、大祭司クトゥルフが封印され眠っているのは、海底都市ルルイエである


秘密

狩人の悪夢には秘密が隠されているという

その同じ秘密を学長ウィレームは湖に隠したのである

月見台
ビルゲンワースの二階、湖に面した月見台の鍵
晩年、学長ウィレームはこの場所を愛し、安楽椅子に揺れた
そして彼は、湖に秘密を隠したという

漁村事件はビルゲンワースひいては学長ウィレームが主導したことは、漁村民の恨みが狩人ではなくビルゲンワースに向けられていることからもわかる

その漁村事件の成果を得る地位にいたのは学長ウィレームしかいない

またロマのモーションからは特有の幼児性のようなものが感じられる
宮崎英高氏はインタビューで一番好きなボスにロマをあげ、こう述べている

デザインや雰囲気から、そういう哀愁漂う空気まで、私は本当に好きです。彼女の動きとモデリングには、いくつかの奇妙にかわいい側面があります。

この文章からは、ロマが女性であること、また奇妙にかわいい側面があることが分かる

この奇妙にかわいい側面はロマが幼児であることから醸し出されているのである

またロマが女性であるのは、血族の母系社会を反映したものと考えられる

さて、学長ウィレームは晩年に湖に秘密を隠したという。この秘密とはロマのことであるが、なぜウィレームがロマを隠さなければならなかったかというと、「すべての上位者は赤子を失い、そして求めている」からである

3本目のへその緒と切り離されたがゆえに、ロマが上位者に狙われることはなかったが、上位者の赤子であることには変わりない

それゆえに学長ウィレームはロマを湖に隠し、ロマは無意識の防衛本能からくる「隠す能力」を発揮させたのである

ここでも「隠す」ことが重要な概念となってくるが、ロマがその力を持つのは彼女が漁村に深く関わり、彼女自身が「隠さなければならない者」として誕生したからである

一方、ロマが所持していた3本目のへその緒はローレンスやゲールマンの手に渡り、それは青ざめた月との邂逅をもたらすことになったのである

3本目のへその緒(古工房)
すべての上位者は赤子を失い、そして求めている
故にこれは青ざめた月との邂逅をもたらし
それが狩人と、狩人の夢のはじまりとなったのだ

学長ウィレーム3本目のへその緒も手に入れようとしていたことは、3本目のへその緒(ヨセフカ)のテキストからもうかがえる

3本目のへその緒(ヨセフカ)
かつて学長ウィレームは「思考の瞳」のため、これを求めた

だが、ローレンスはロマのへその緒を“隠し”持ちウィレームに渡さなかったのである

ああ、知っている
君も、裏切るのだろう?

というセリフは、単にウィレームと袂を分かつことだけではなく、かつて禁忌の血をカインハーストに持ち出した裏切り者のように、ローレンスもウィレームの大事なものを奪っていくことへの、皮肉である


幼年期の始まり

幼年期の始まりENDにおける狩人の姿はクトゥルフ神話のクトーニアンに酷似している。ということは上述したようにゴースにも似ていることになる

結論から先に述べれば、上位者となった狩人ゴースと似ているのは、その肉体にゴースの血が流れているからである(ゴースあるいはその赤子であるロマの血

※ゴースにはおそらく血が無い(血の無き者たち)なので、その赤子たるロマの血だと思われる

これはインスマウスの住民に〈深きもの〉の血が流れており、年を経るに従い〈深きもの〉の姿に似てくることと同じ理屈である

ゴース(ロマ)の血は、血の医療として狩人に取り込まれ、狩人が上位者になった際に発現し、その血の祖先同じ種族へと進化したのである

血の持主ゴースと同じ種族、つまりはBurrower=クトーニアンである

マリアとゴースの赤子は巡り巡って、ゴースの似姿を持つ上位者としてマリアの似姿である人形の手に抱かれたのである


※クトゥルフ神話TRPGにおいて、多数の地球外生物学者に否定されているものの、クトーニアンの最終形態とされるクリーチャーがいる。それが「ドール(Dhole)」である。このドールと人形(Doll)との関係は分からない



蛇足

Ghoth the Burrowerという題名どおり、ゴースをGhothと解釈して展開させた考察である

厳密にはブラッドボーンはコズミック・ホラー作品であり、シェアワールドとしてのクトゥルフ神話の一部ではない

※そもそもクトゥルフ神話とコズミック・ホラーというジャンルは重なる部分はあれど完全に同じではない

そのために作中の上位者それぞれにクトゥルフ神話のなかに対応した神性がいるかというと、やや疑問である

しかしながらインタビューで明言しているように、本作は『クトゥルフの呼び声』の影響を強く受けているという

『クトゥルフの呼び声』を換骨奪胎し、再解釈したものがブラッドボーンだとすると、その主役はやはりクトゥルフになるのではないかと思われる

そしてブラッドボーンに登場する上位者のうち、もっともクトゥルフに似ているのはアメンドーズである

だが複数いるアメンドーズと一人しかいない大祭司クトゥルフを同じものとすることはできない

けれども大祭司クトゥルフには似姿を持つ眷属たちがいる。その眷属をアメンドーズと仮定するのならば、アメンドーズたちの統率者こそが「眠れる上位者たちの主」になるのである

この「眠れる上位者たちの主」の正体については、意図的に言及を避けてきた。これについて語ろうとすると話が大きく逸れる上に、やや込み入っているからである。また結論が出ていない部分もある

しかし端的に言えば、「眠れる上位者たちの主」とは「オドン」になるのではないかと考えている

またマリアの赤子=ゴースの遺子説については過去の考察を流用したものであり、これからの検証や考察により変更や大きな修正が入る可能性が高い

2020年5月12日火曜日

Bloodborne 考察23 アメンドーズ

アメンドーズ

アメンドーズの名は、アーモンドを意味する日本語方言「あめんどう」の複数形である(wikipedia)

アメンドーズあめんどうず(複数形)=アメンドウたちAlmonds

という解釈である

これは実際に複数のアメンドーズが作中に確認できることと合致している
またアーモンドの種子とアメンドーズとは、楕円形の形や表皮の凹凸など形状的にも似通っている


Amygdala

アメンドーズの英名 Amygdala扁桃体を意味する言葉である

扁桃体(へんとうたい、英: Amygdala)は、ヒトを含む高等脊椎動物の側頭葉内側の奥に存在する[1]、アーモンド形の神経細胞の集まり。情動反応の処理と記憶において主要な役割を持つことが示されており、大脳辺縁系の一部であると考えられている(wikipedia)

Amygdala自体に複数の意はないが、扁桃体は通常2つあることから少なくとも単体とは考えられていない

また扁桃体は情動とくに恐怖や記憶と関係し、『2006年の研究では、患者が恐怖表情や恐ろしい場面に直面した際に扁桃体の過剰な活動が見られることが示された。』(wikipedia)という

人が恐怖を感じたときに活発に活動する扁桃体は、赤い月が接近し人々の恐怖が最高潮に達した際にアメンドーズが姿を現すことと通ずるものがある

また人の脳に寄生するトキソプラズマは、その巣をしばしば扁桃体に形成するともいわれる


アーモンドの木

Amygdalaギリシャ語と解釈すると「アーモンド」となり、これは日本語名アメンドーズと意味が重なる

つまりAmygdala(アメンドーズ)という名前は、英語として解釈した「扁桃体」という意味も含まれるかもしれないが、第一義的には植物のアーモンドを前提として命名された名前と考えられるのである

植物としてのアーモンドは、バラ科サクラ属落葉高木である(wikipedia)

※SEKIROの桜竜もサクラ属であり、サクラ属の上位者たるアメンドーズと設定的に同じである。またサクラ自体の原産地もヒマラヤと考えられ、中央アジアかつ崑崙山脈を含むことから、SEKIROとブラッドボーンの共通性を考えるうえでも重要である

ヘブライ語でアーモンドを意味する「シェケディーム」は、「見張る」、「目覚める」を意味する「サクダ」や「シャカッ」と語源が同じである

これは作中において、アメンドーズが狩人を見張るような動作をすることの理由の1つである
※後述するが「監視者」というフレーズは他の文脈でも登場する

またモーセの兄アロンの杖はあめんどうの木で作られているという(wikipedia)

アーモンドの木には「監視者」「用心」の意味があり(『イメージ・シンボル図鑑』)、ユダヤ教の『大燭台(メノーラー)は、七枝のアーモンドをかたどったものであった。』(『旧約聖書の世界』)という

以下が大燭台の画像である

大燭台の形はカレル文字「深海」と酷似している


「深海」系のカレル文字は本編では禁域の森悪夢の辺境に落ちているが、禁域の森には地面からキノコ状に生えたアメンドーズの姿が見られるし、悪夢の辺境のボスはアメンドーズである

また大聖堂にはヒゲの生えたアメンドーズの像が並んでいるが、その最奥部になぜか葉を落とした樹木が一本立っている
※手前にいるのはエーブリエタースの像だと思われる

これは葉を落としたアーモンドの木である(上述したようにアーモンドは落葉高木)
※落葉した画像が見つからなかったので枝がよく見えるものを


つまるところ、大聖堂の階段に立ち並ぶするアメンドーズ像からも分かるように医療教会アメンドーズを崇拝対象としていたのである

※正確にはアメンドーズたちのなかでもその主(あるじ)を主神とし、立ち並ぶアメンドーズ像はその配神(はいしん、主神以外に祀られる神)である



落とし子

蜘蛛のパッチによればアメンドーズは「憐れなる落とし子(piteous bastard)」である

…ああ、アメンドーズの件は、気にするな
あれは憐れな落とし子。…ゆえに、救いもあったろう(蜘蛛のパッチ)

落とし子という単語は他に「古の落とし子Lost Child of Antiquity)」や「ローランの落とし子(Bastard of Loran)」として登場する

古の落とし子カインハーストの他に聖杯ダンジョンにも登場するが、Lost Child は「捨て子の巨人(Giant Lost Child)」というふうに、捨て子というニュアンスが強く、またアメンドーズのそれ(Bastard)とは使われている単語も異なっている

英語のBastardとは私生児や庶子という意味の他に「雑種」や粗悪品といった意味がある
※SEKIROの弦一郎も市井の出とされある意味で落とし子といえるのかもしれない

古の落とし子のプログラム上のIDは「LarvaMegabat」であり、直訳すると巨大蝙蝠の幼生である。ここに私生児や雑種といったニュアンスはない

また捨て子の巨人のIDは「AbandonedGiant」であり、直訳すると「放棄された巨人」であり、これなどは何者かによって作成された巨人という設定までうかがえるものである



さて、アメンドーズは上位者である。上位者とは本作においては神とも神に近いとも言われ、世界そのものに影響を与えられるような絶大な力を持つ存在である

それを示すように、アメンドーズはプログラム上のID では「FalseGod」すなわち「虚偽の神」と名づけられている

虚偽の神を「not神」(神ではない)と解釈することもできなくもないが、事実アメンドーズは上位者である

またアメンドーズの死後、パッチが「私は神を失った。新しいそれを、探さなければならない」と口にすることから、アメンドーズは神であるが「不誠実(False)」な神と解釈するほうがより自然である

アメンドーズは神であるが「不誠実」であり人に邪悪な偽りを吹き込むような神なのである

これによってパッチの以下のセリフも意味が通じるようになる

すまんが、考え事をしているんだ
そうさな、優しげな神と、その愛のひけらかしについて(パッチ)

ここにいう「優しげな神」とは虚偽の神アメンドーズのことであり、その愛のひけらかしとは人をたぶらかすような邪悪な甘言のことである



クトゥルフの落とし子

アメンドーズ像の容貌はラヴクラフトの描いた「クトゥルフ」に酷似している
ラヴクラフトの描いたクトゥルフ
大聖堂に並ぶアメンドーズ像
宮崎英高氏によれば、ブラッドボーンは『クトゥルフの呼び声』に大きな影響を受けたという(インタビューより)

当然ながら両者が類似しているのは単なる偶然ではなく意図的なものである

『クトゥルフの呼び声』には旧支配者を祀る「大祭司クトゥルフ」なる異形の存在が登場するが、「大祭司クトゥルフ」がアメンドーズであるかというと、そうではない

「大祭司クトゥルフ」は単数であり、複数個体が確認されているアメンドーズとは生態が異なっている

だが、この大祭司クトゥルフが地球に飛来した際に同行してきた眷属たちがいる
※ここにいう眷属とはブラッドボーンにおける眷属とは概念が異なる

それがクトゥルヒと呼ばれる「落とし子たち」である(wikipedia)

落とし子たちは「クトゥルフの星の落とし子(Star-Spawn of Cthulhu)とも呼ばれ、詳細はニコニコ大百科に詳しい(ニコニコ大百科)

クトゥルフの星の落とし子はクトゥルフによく似ており、クトゥルフ神話TRPGでは上級の奉仕種族に分類され、「5体の監視者」と呼ばれるエリート個体の存在も確認されている

また星の落とし子たちは主(大祭司クトゥルフ)の代わりに信者たちの崇拝を受ける上級司祭の役割も果たしているとされる

ブラッドボーンにおいて、クトゥルフに似たアメンドーズが何をしているかというと、「監視」である。その様は主人公が近付いた時に顔を向けてくることからも明白である

また主の代わりに崇拝を受ける偽の神としても活動し、大聖堂に祀られたアーモンドの木ならびにアメンドーズ像はそれを象徴的に示しているのである

星の落とし子たちも大祭司クトゥルフと同じように海底都市ルルイエやムー大陸各地封印されているとされるが、この邪神たちは大祭司クトゥルフと同じように夢を通じて人を操って崇拝させるという



ルルイエ

大祭司クトゥルフは海底に沈んだ石造都市ルルイエにて眠っているが、眠りとはここでは「封印」であり、封印が解けたときに石造都市は浮上し、地上に狂乱を撒き散らすとされる

呪われたトゥメルの冒涜遺跡のボスは順番に、旧主の番人、旧主の番犬、アメンドーズである

ここでアメンドーズだけが異質であり、一見したところで法則不明である

しかしながら、旧主の番人の装束には以下のようなテキストが見られる

骨炭の仮面
最古の番人たちの、骨炭の仮面
上位者たちの眠りを守る番人たちは
その姿を魂と業火に焼かれ、灰として永き生を得たという

最古の番人たちは、「上位者の眠り」を守っているのである
眠りとは上述したように「封印」であり、封印されているのは大祭司クトゥルフである

つまるところ、呪われたトゥメルの冒涜においては、番人の存在からその最深部に封印されている上位者が推定され、そのうえで最後にアメンドーズが登場することから、封印された上位者を大祭司クトゥルフに類比することができるのである

もっと簡潔に述べれば、番人の封印する上位者たちとは、大祭司クトゥルフとその眷族たち、すなわちアメンドーズの主ならびにアメンドーズたちなのである

※大祭司クトゥルフと星の落とし子たちは姿が似ているとされる。ゆえに本作におけるアメンドーズの主も、アメンドーズに似た姿をしていると思われる

※上位者の眠りを守る番人たちを倒した後に、当の封印されていた上位者が登場する、というのはゲームの流れ的にも自然である



深海

大祭司クトゥルフの眠る石造都市ルルイエは海底に沈んだとされる。海底とは深海のことであり、大量の水が眠りを守る断絶であることは、カレル文字「深海」「湖」などで言及されている

「深海」
大量の水は、眠りを守る断絶であり、故に神秘の前触れである
求める者よ、その先を目指したまえ

また大祭司クトゥルフとその眷族は暗黒星から到来したとされることから、「宇宙」とも繋がりがある

医療教会が初期に「海」に瞳を求め、やがて聖歌隊が「宇宙」に思索を求めるようになる経緯には、宇宙から到来したクトゥルフの海底都市というイメージが反映されているのである



クトゥルフの系譜

クトゥルフはタコとドラゴンと人とを戯画化したような外見をしているとされる。また口元からは無数のヒゲが生え、胴体は鱗に包まれ、未発達の翼を背中に備えている

端的に言ってクトゥルフは海棲生物的な特徴を持つ邪神である

邪神の落とし子でありその似姿をもつアメンドーズの他にも、ブラッドボーンには海棲生物的な特徴を持つ上位者や眷族、怪物が登場している
アメンドーズの尻尾

具体的に言うと星の娘エーブリエタースであり、海辺に打ち上げられたゴースであり、あるいは白痴のロマである

以下はラヴクラフト自身が作成した家系図(架空)である

1933年4月27日付 ジェイムズ・F・モートン宛の書簡(『Selected Letters of HP Lovecraft IV』)

中央あたりにCthulhu(クトゥルフ)の文字が確認できると思う
その子孫をたどっていくと、下の方にGhoth the Burrowerの名前が見えるかと思う

Ghoth the Burrower つまり「ゴース」である


またロマはゴースによって上位者になったと考えられることから、ロマもまたクトゥルフの系譜になる

すなわち、海棲生物的な特徴を有する上位者ならびに眷族はクトゥルフの親族であり、大祭司クトゥルフが海棲生物の特徴を有するがゆえに海棲生物的な造形をしているのであり、また宇宙に由来するゆえに宇宙や星と関係する名がつけられているのである



補足:眷属

作中に登場する眷属は以下の9種族である(Bloodborne設定考察 Wikiを参考にした)

眷属


  • 星界からの使者
  • 脳喰らい
  • 蛍花
  • 学徒
  • 星の子ら
  • ロマの子ら


眷属かつ上位者


  • 星界からの使者(大)
  • 白痴の蜘蛛、ロマ
  • 星の娘、エーブリエタース


悩ましいのはゴースによって上位者となったと思われるロマが眷属であるのに対し、ゴース自身は眷属でないことである。また、クトゥルフに近しいものであるにも関わらずアメンドーズも眷属ではない

この差異はいったいどこから来ているのだろうか

結論から先に述べれば、眷属とは元人間であり上位者によって人ならぬ存在に変化させられた者たちのことである

ゆえにもともと上位者であるアメンドーズやゴースは眷属ではない

このうち星の娘エーブリエタースは、封印された上位者たちもしくはそのにより上位者に引き上げられた人間である

また白痴の蜘蛛、ロマゴースによって上位者に引き上げられ、星界からの使者(大)はエーブリエタースによって上位者に引き上げられたものと考えられる

上位者でない眷属たちはそれぞれ、エーブリエタースやロマ、星界からの使者によって人が人ならぬ存在に変異させられた下級奉仕種族とも呼べる者たちである