2020年6月16日火曜日

Bloodborne 考察29 人形と月の魔物

人形

結論から先に述べれば、人形は苗床技術を用いて作られた「乳母人形」である

「苗床」
この契約にある者は、空仰ぐ星輪の幹となり
「苗床」として内に精霊を住まわせる
精霊は導き、更なる発見をもたらすだろう

苗床」は英語版では Milkweed という
Milkweedとはトウワタ(唐綿)のことであり、茎などを切ると白い乳液を出すためこう呼ばれるという(Wikipedia)

人形を攻撃したところ

またルドウイークも首に生えた管状器官から神秘属性の白い液体を放つ



この管の内部にあるのは眼球であり、人の眼球は精霊に祝福されることがある



祝福、とは寄生されたことを意味する

苗床は精霊を内に住まわせるが、精霊は多種存在する

精霊の抜け殻
上位者の先触れとして知られる軟体生物の抜け殻
軟体生物多種存在し、医療教会は総じてこれを精霊と呼ぶ

ある種の精霊を住まわせた苗床が流す白い液体こそ、上位者や獣が放つ白い液体の正体であり、人形の動力源たる神秘の液体なのである

※エーブリエタースやアメンドーズは頭部から白い液体を垂れ流すことがあるが、その頭部には眼がたくさんある

白い液体を放出するアメンドーズ

宇宙由来の神秘攻撃は大量の眼から



小さき彼ら

星界からの使者は「苗床」の洗練されたバージョンである

「苗床」
星の介添えたるあり方を啓示する
この契約にある者は、空仰ぐ星輪の幹となり
「苗床」として内に精霊を住まわせる

星界からの使者(大)と戦うのは星輪の庭であり、その後にいるのは星の娘である
まさしく星の介添えたるあり方そのものである

しかしなぜ彼らには「星界からの」という前置詞が付くのか

他にも「使者」がいるからである



人形に小さな彼ら、と呼ばれる使者たちは「星界からの使者」とは別系統の「苗床」なのである

星界からの使者が星界からの使者(大)の幼生であるように、ロマの子がロマの幼生であるように、星の子らがエーブリエタースの幼生であるように、「使者」は「月の魔物」の幼生である

※アートワークスでは月の魔物に使者がすがりついている絵が描かれている

※幼生とは上位者の実際の子というわけではなく、各上位者の先触れ(ナメクジなどの精霊)の影響で変異した「元人」である。簡単にいうと「苗床

使者はその形状から赤子を苗床にしたものと考えられ、苗床となった赤子の肉体を利用して生み出されたのが、ほおずきやメンシスの脳である

それらのは「使者」を寄せ集めて形作られている

ほおずきの頭部は使者によって構築されている

ほおずきとの類似性は明らかである



人形

精霊を宿すことで人は苗床となり、非生物自律的な行動をとりはじめることがある

例えば死体の巨人這いよるもの捨て子の巨人などがいる

這いよるものの裏側には無数の使者がいる

そうした疑似生命技術を用いて作られたのが人形である。だが人形の目的はたんに精霊を宿す苗床になるだけではない

未使用と思われるデータにはロシアの子守歌を歌う人形の声がある(Youtube)

その原曲がこれである(Youtube)

歌詞の意味としては、以下のようなものである(翻訳ではない)

太陽が沈んで夜がはじまった
眠れ、眠れ、眠れ
私の子どもを甘い眠りにつかせてください
急いで目を閉じて
眠れ、眠れ、眠れ
子どもをベッドの端で寝させないでください
灰色狼が来て、子どもの脇腹にかみついて連れて行く

より良い翻訳はこちら(♪世界の子守歌♪ #140 ロシア連邦の子守歌「Bayu Bayushki Bayu」

人形が自律能力を授けられたのは、子守をするためである。そして以下の理由からそれは人の赤子ではなく上位者の赤子である

狩人に対しひたすら受動的であった人形が「幼年期の始まりEND」では突如として自発的に行動し、上位者の赤子となった狩人を拾い上げる

なぜ人形がそのような自発的行動をとったかというと、彼女が上位者の赤子を養う乳母人形として作られたからである

人形と赤子の相似形が、メルゴーの乳母とメルゴーである

そして人形はマリアの姿をしていなければならなかった

なぜならば人形が養うのはマリアの赤子だったからである。それは母の似姿を持っていなければならなかったのである

狩人の夢において養うべき赤子とは、その夢の支配者である「月の魔物」である


ローレンスたち

教室棟2階のメモにはこう記されている

 ローレンスたちの月の魔物。「青ざめた血」

これまでローレンスたちとは「ローレンスとゲールマン」のことであると理解してきた

しかしながら、月の魔物をマリアの赤子とすると、ローレンスとゲールマンの月の魔物、と解釈するのはやや違和感が残る。母親であるマリアの存在が無視されているからである

早い話がローレンスたちとはローレンスとゲールマンのことではない

真にマリアの子が月の魔物だったとしたら、ローレンスの後に続くのは母親であるマリア本人であろう

つまるところローレンスたちの月の魔物、とはローレンスとマリアのあいだに生まれた上位者の赤子、と解釈できるのである



青ざめた血

しかしながらローレンスは人である。またマリアも特殊な血を引いているとはいえである。人と人とのあいだに突如として上位者が生まれるわけはない

別作品を参照することになるが、ローレンスとマリア、月の魔物の関係性は『ベルセルク』における、ガッツとキャスカ、ガッツの子と同じ構造をもつ

※ガッツの子を身ごもっていたキャスカは蝕の際にグリフィスに魔を注入され、赤子は魔物になる

この場合のとは「オドン」である

上位者として生まれた月の魔物の血は、母譲りの赤い血と父(オドン)譲りの水銀の血により薄まり「青ざめた血(Pale Blood)」となったのである

青ざめた血と青ざめた月の差異は、青ざめた血がローレンスとマリアとのあいだに生まれた赤子、それは女王の貴い血統(Blue blood)を継ぐ赤子であることを含意するのに対し、青ざめた月とは月に棲むようになった後の赤子を表わすのである

青ざめた血とはPale bloodBlue bloodのダブルミーニングである

だが「オドン」の放つ水銀の毒性に赤子は肉体を蝕まれていく

ここにローレンスが医療教会を創設した理由が明らかになる

彼は我が子を蝕む「オドン(水銀)」の毒を浄化するために、血の医療を発展させようとしたのである

一方のマリアは漁村事件の罪の意識に耐えられず自害しようとするも悪夢に囚われ、秘密を隠すために時計塔に籠もったのである(このあたりの時系列の確定は今後の課題である)



ゲールマン

ゲールマンは血の医療に邁進する友人ローレンスの代わりに、彼の赤子の面倒を見ることになった

そして創り出されたのがマリアの似姿を持つ乳母、「人形」である

ゲールマンという名はカナ読みから判断すると「ロシア人の名」である(NPCの名前2参照のこと)

そして人形が歌うのは「ロシアの子守歌」である

ゲールマンが彼女に子守歌を教えたのである

しかしもはや月の魔物に子守歌は必要なくなった。それはかつての狩人たちが集めた血の遺志により成長したからである。けれどもその肉体はいまも父の血(水銀)によって蝕まれているのである

ゲールマンはローレンスの血の医療が成就するのを待っている。血の医療のみが月の魔物を癒すことができるからである

…お別れだ。ローレンス
血の医療、成就を待っているよ(ゲールマン未使用セリフ)

人形は狩人の獲得した血の遺志を狩人の力に変換することができる。膨大な量の血の遺志を溜め込んだ狩人は、赤子にとって上等の餌である。つまり人形は赤子のために血の遺志の塊という餌を作っていたのである

血の遺志は最終的にはゲールマンによって刈り取られ、用済みとなった袋(狩人)は解放されて朝を迎える



月の魔物

血族の血を引くと思われる娼婦、アリアンナオドンとの子を産んでいる。しかしその姿はエーブリエタースの幼生たる星の子らと同じである

同じオドンの子を産みながら一方は星の子らとなり、一方は月の魔物となる。ここに矛盾が生じている

だがマリアの方にはアリアンナにはない重要なファクターが存在している

父親がローレンスであることである

最初の聖職者の獣であり、悪夢のなかで炎の獣の姿すらとるローレンス。そのローレンスが力を入れていたのが「古い血」の活用である

その後の彼の獣化を鑑みると、古い血、そしてその中に含まれる獣血を彼はみずから摂取していた可能性が高い

ローレンスはすでに獣化しつつあった。その状態でマリアとのあいだに子を作れば、子は「獣」として誕生することになる

いわば獣の胎児である。そこへ例によって「オドン」が干渉し、上位者の赤子に変異させてしまったのである

こうして獣と上位者の両方の属性を持つ赤子が生まれた

「月の魔物」である

獣と上位者という二つの属性に引き裂かれて、月の魔物は肉体を壊されながら生きるしかなかったのである

アートワークスにはまだ健康な状態の月の魔物が描かれている

その月の魔物にはコウモリ状の翼が生えている

それは古の落とし子と同じ質感の翼であり、古の落とし子はトゥメル→カインハーストの一族にまれに産まれる変異体である


補足:3本目のへその緒

月の魔物をマリアの赤子とすると、3本目のへその緒にやや不可解なものを感じる

3本目のへその緒(捨てられた古工房)
すべての上位者は赤子を失い、そして求めている
故にこれは青ざめた月との邂逅をもたらし
それが狩人と、狩人の夢のはじまりとなったのだ

これでは青ざめた月の3本目のへその緒を使い青ざめた月と邂逅したことになる

だが同じような例がメルゴーでも確認できる

3本目のへその緒(メルゴー)
すべての上位者は赤子を失い、そして求めている
故にこれはメルゴーとの邂逅をもたらし
それがメンシスに、出来損ないの脳みそを与えたのだ

メンシス学派はメルゴー自身のへその緒によってメルゴーと邂逅を果たしている

そもそも「邂逅」ということばには「再会」というニュアンスがある

つまり「青ざめた月との邂逅をもたらし」とは、「青ざめた月との再会を果たし」という意味なのである

青ざめた月は青ざめた血として生まれた直後にメルゴーとおなじように母親の元から姿を消し、その後に彼女自身の3本目のへその緒によってローレンスと邂逅を果たしたのである

ローレンスとマリアのあいだに生まれた赤子の名は「フローラ」である



蛇足

物語のテーマを考慮するのならば、月の魔物は「母」か「赤子」である
本考察はこのうちの「赤子説」をとったものである

発端としては「人形の子守歌」が挙げられる

子守歌を歌うのは母か乳母であろう。しかし人形はマリアの似像である。母になれるのはマリアしかいない。そこでやや強引ながら月の魔物をマリアの赤子と推定したものである

マリア撃破後の人形のセリフ「重い枷」など言及していないこともあるので、人形や月の魔物の考察はまだ発展途上である

2 件のコメント:

  1. コースの遺子がマリアの子供だったというよりこっちのほうがしっくりきますね。ただ、この場合コースの遺子、マリアとゲールマンはどういう関係なのでしょうか?

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    1. 人形の子守歌データは未使用ですから、月の魔物をマリアの赤子とする設定自体が没になっている可能性も充分に考えられます(未使用データには常にその危惧がつきまといます)

      ゴースの遺子を倒すとゲールマンの寝息が穏やかになる(人形談)ことや、漁村事件をマリアが恥として隠していることなど、ゴースの遺子の存在が彼らの精神の深い部分に根ざしていることは確かだと思います

      漁村の司祭によればゴースを殺され赤子は奪われたとされます

      「母は殺された。赤子は奪われた ウロコは痛み、ゴースの嘆き」(漁村の司祭)

      そのうえで司祭はビルゲンワースを呪詛しているのですから、ビルゲンワースがゴースを殺害し、赤子を奪った、と解釈するのが自然だと思われます

      母から赤子を奪うこと、母が赤子を失うことは本作における大きな主題の一つです

      本考察ではマリアは赤子を失ったという仮説を立てています(青ざめた月との邂逅に繋がる)

      赤子を失う母の悲しみを身にしみて知っているはずの彼女自身が、ゴースに対して同じ仕打ちを強いた事実に思い至ったことで、彼女は落葉を捨てたのかもしれません

      またゲールマンにとって赤子が母の元へ還る(ゴースの遺子が海へと還っていく)ことは、今現在の自分の目的、つまり月の魔物を救うことに繋がるのかもしれません(人形がマリアの似姿をしているのは、赤子を母の元へ還そうとしたある種の試みであったとも考えられます)

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