Sekiroおよび隻狼のベースに藤原秀郷(俵藤太)の説話群があるというのは「Sekiro 雑感」でも述べた
詳細は藤原秀郷の百足退治の項(Wikipedia)、および『田原藤太』(青空文庫)、『俵藤太物語』(J-Texts)を参照
話の大筋は次のようなものである。
ある日藤太は瀬田大橋で大蛇と行き会う。その後、大蛇の化身である女性(あるいは少年)の訪問を受ける。女性は琵琶湖に住む竜王の化身であると明かし、三上山に棲みついた百足退治を依頼する。
さっそく藤太は百足退治に向かい見事それを果たす。喜んだ竜王は藤太に、巻絹二つ、首結うたる俵、赤銅の鍋を授ける。絹はいくら裁っても減らず、米俵は米が尽きることなく、鍋からは食べ物が湧き出てくる
その後、藤太は再び竜女の訪問を受け竜宮へといざなわれる。竜宮で歓待を受けた藤太は竜王から「金札の鎧、同じく太刀一口、赤銅の釣鐘」を授けられる
竜宮で様々な饗応を受ける藤太であったが、浦島が子の説話を思い出し竜宮を去る
現世に戻った藤太は鎧と剣を子孫に伝え、鐘は三井寺に奉納され釣り鐘となる
この藤原秀郷が伊勢神宮に納めた刀というのが「蜈蚣切(むかできり)」(wikipedia)である
この話の背景には日光山と赤城山の蛇と百足の神戦がある。もともと「蛇と百足」の争いであったものが、そこに「竜」の要素が混じり、上記の「俵藤太物語」として成立したと思われる。
「俵藤太物語」にはSekiroに登場する超常的な存在のうち「竜」「百足」「蛇」が揃っていることになる。さらに言えば隻狼のもつ「不死斬り」はその性質から言って「蜈蚣切」の要素も含まれている
これらが偶然に揃うとは考えにくく、Sekiroのモチーフは「藤原秀郷の説話群」である可能性が高い、といえるのではないだろうか
竜に不死断ちを頼まれた隻狼が、その目的を達成するために不死斬りを入手。さらに獅子猿を殺すことになるが、この獅子猿は蟲憑きであり巨大なムカデが憑いている
ある意味で、竜の頼みにより、ムカデは退治されたわけである
さらに言えばラストで隻狼は「不死斬り」を用いて一心を介錯するわけだが、楔丸でないのは兜を被った一心が、武将と不死を象徴するムカデと見立てられているからであろう(正確には不死ではないと思われるが、ムカデを介して武士と不死は象徴的に繋がる)(ぶし=むし=ふし、という言葉遊びも混じっている)
さて、この藤原秀郷には別の側面がある。それが平将門を討伐した武将としての顔である
いわば人間社会における側面である
平将門と言えば朝廷に反乱を起こし関東に国家を作ろうとした人物であるが、Sekiroにおいては国盗りを果たした葦名一心が将門に対応すると思われる(内府は朝廷に対応する)
隻狼が剣聖一心を討ち果たすのは、史実において藤原秀郷が将門を討ち果たしたからである
以上のようにSekiroは、藤原秀郷の伝説的な側面と史実的な側面の両面をまったく新しい解釈により、再創造した物語であったと私は考える
もちろん藤原秀郷だけではなく、Sekiroには他に様々な要素も混じっている(いくつかのベースとなるモチーフがより集められ、複合化されている)。あくまで隻狼とベースとなるストーリーラインのひとつが藤原秀郷であるというだけのことである
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