という陰謀論めいたことも考えてはいるのだが、それにしては桜竜の振る舞いが行き当たりばったりで、ちぐはぐなようにも思える
とはいえ、うまく説明できそうな部分もある
例えば、仙峯上人から渡される『永旅経・竜の帰郷の章』
永旅経・竜の帰郷の章
永い悟りの旅路へいざなう経典。その一節
我、死なず。竜の帰郷をただ願う
みな死なず、永く待とうぞ
竜胤の御子が、つめたい竜の涙を飲み干し
竜胤の揺り籠が、二つの蛇柿を食すのを
揺り籠の命果てず、御子を宿さば、
西への帰郷は叶うだろう
この異常なほどの具体性は桜竜自身が教えたとも取れる。また緑衣の即身仏から渡される『永旅経・蟲賜わりの章』には、当初はその目的すら知らされていなかった様子がうかがえる
永旅経・蟲賜わりの章
我、蟲を賜わり、幾星霜
死なずとは、永き悟りの旅路なり
死なぬ訳もまた、悟らねばなるまい
神なる竜は、西の故郷より来られたという
我に、蟲を授けられたは、なにゆえか
考えられる線としては、桜竜が仙峯上人に蟲を授け、死なずの探求に引きずり込む。その後、期を見て変若の御子の作り方を伝え、完成したところで揺り籠の作り方を伝える、というものであろうか(情報を伝達した存在は不明だが)
この時期、仙峯寺は揺り籠作りに突き進み、その方法は柿婆のような下働きの者にも広まっていったと思われる
「御子さまがた… どうかどうか、遠路ご無事で…」(蛇柿を食べさせた後の柿婆)
これは揺り籠の使命を知る者しか口にできない言葉である。また柿婆が蛇柿のヒントをくれることから、変若の御子が蛇柿を食べることで揺り籠になることを知っている(望んでもいる)
しかしながら、揺り籠推進派の柿婆が追い出されていることから、揺り籠に反対する者もいたようである
「坊主どもめが… 儂を追い出しおって…」(柿婆)
『永旅経・竜の帰郷の章』の記述から、仙峯上人は揺り籠推進派だと思われる。もしかすると反対派のクーデターにあい、『永旅経・竜の帰郷の章』を隠し持ち胎内巡りに籠ったのかもしれない(百足衆が侵入者を攻撃するのは、永旅経を反対派から守るためであろうか)
という具合に、仙峯上人に情報を伝えた存在が謎のままだが、『帰郷の章』の不可解なほどの具体性や、仙峯上人の謎の確信、実際に変若の御子を作れていることなどは説明できそうな気もするのである(桜竜が作り方を教えてくれたなら、変若の御子作りで多大な犠牲を出すこともなかった気がするが)
問題は次の竜の御子である
桜竜の意志が竜胤の御子に伝えられているとすると、丈が望郷の念にかられて仙郷に戻ろうとして果たせなかったり、不死断ちをしたがったり、不死斬りがなくて人返りもできなかったり、竜咳にかかったりと、命令を受けているわりには好き勝手、行き当たりばったりが過ぎるのではないかと思われる
これが九郎であれば、例えば竜胤の御子になった時に丈から事情を伝えられなかったから、とすることもできるのだが、何らかの理由や目的を持って葦名に到来したであろう丈の言動がこうもチグハグであると、桜竜の意図を感じることすらできないのである
さらにいうのならば、丈が「桜竜帰郷」のために動いていたとして、なぜ仙峯上人はそれに協力せず、赤の不死斬りを秘匿したのであろう。竜胤を断つことには反対であろうが、丈の目的が「帰郷」とそれに関連する「拝涙」であるのならば、秘匿する必要はない
仙峯上人の目的もまた「竜の帰郷」にあったとすると、両者の目的は一致するわけで、協力を拒む理由はないように思えるのだ
また、仮に桜竜の意志があったとして、みすみす竜胤の御子に不死断ちや人返りをさせてしまったのはどういったことであろう。これでは神というより先の手を読めないポンコツである
もしかすると御子に宿った状態では意志を伝えることも出来ないのであろうか。しかしそうだとすると、そんな状態になるまで手を打たなかったのだから、なおのことポンコツである
桜竜の最終的な目的が「帰郷」あったとして、その最も大切な最終段階に関わる竜の御子の不確定要素に何の策も講じてないのは如何なものだろうか
案の定、エンディングのうち2つは桜竜の意志に反する竜胤消滅である
もし仮に、全てが桜竜の意志のままだとしたら、弦一郎を超えるポンコツとしか思えないのである
以上のように、桜竜の干渉があったとした場合、納得のいくケースと納得のいかないケースに分かれてしまう
これは一体どういうことであろうか?
考えられるのは、桜竜の意志と別の何者かの意志とが鍔迫り合いを演じているということだ。相反する二つの意志が葦名の地で衝突した結果、上記のような矛盾する事象が発生したのである
まず、桜竜の意志を受け継いでいるのは意外にも仙峯寺勢力である。実際にそれが桜竜の意志かどうかはともかくも、「桜竜の帰郷」のために動いているのは確かである。少なくとも仙峯寺は桜竜の側に立っているのだ
とすると、「竜胤」の消滅を願う丈(竜胤の御子)が反桜竜派となる。その血を受け継ぎながら、父に反抗する(不満を持つ)というのはヤマトタケルの故事からも見て取れるし、また実際に丈や九郎といった竜胤の御子はその「竜胤」を消滅させるために行動している
だが丈は明確に父に反抗しているわけではない。これもヤマトタケルの故事と同様であるし、また丈の第一の望みが「仙郷へ帰ること」であることからも推測できる。よって丈(竜胤の御子)は反桜竜派の傾向はあるけれど、完全にそれに組するわけではない
では、明確な反桜竜の意志もつ何者かとは誰であろうか?
桜竜や仙郷に詳しく、その竜胤を断つ方法も知っていた人物
巴である
巴の手記
丈様の咳は、ひどくなられるばかり
仙郷へ帰る道は、どうやら叶わぬ
せめて竜胤を断ち、人に返して差し上げたい
人返りには、常桜の花と不死斬りが要る
なれど、花はあれども不死斬りはない
仙峯上人が、隠したのであろう
竜胤を断つなど、あの者は望まぬゆえに…
仙峯上人が桜竜の意志により動いていることを巴は知っていた。ゆえに反桜竜派の巴には協力することはないだろう、と察しているのである
その巴の背後には淤加美一族が控えている
淤加美一族には神なる桜竜とは別種の土地神「ぬしの白蛇」との繋がりがあった
鉄砲砦の社の鍵
中でも、蛇の目の石火矢は、恐ろしい
かの女衆は、いにしえの淤加美の一族の末裔
稀な目を持ち、遙か彼方を容易く射抜く
五の念珠
落ち谷の鉄砲砦、取り仕切るのは男ではない
蛇の目と呼ばれる、石火矢遣いの女たちだ
乾き蛇柿
柿の様に赤く染まった、ぬしの白蛇の心包
ぬしとは、土地神
落ち谷の衆は、ぬしの白蛇を崇め、
乾いた蛇柿を御神体として祀ったという
もともと「ぬしの白蛇」を祀っていた淤加美一族は、あるとき突然に仙郷渡りを企てる
朽ちた囚人の手記
捨て牢の中で朽ち果てていた男の手記
淤加美一族の伝承を辿り、ここまで来た
彼の女たち、まこと源の宮に辿り着けたのか
淤加美の古文書
仙郷を目指した淤加美一族が残した古文書
香気の石、葦名の底の村に祀られたり
身を投げねば、辿り着けようも無し
これで源の香気、揃うたり
仙郷へ、出立のときぞ
その後どうやら淤加美一族は仙郷へと到着したらしい
源の宮にある朱の橋の門にかかる楼門の大額には「淤加美門」と記されている。また滝際に面した楼門にも「淤加美門」と記された大額がかかる
なぜ淤加美一族が仙郷に渡ろうとしたのか、その理由は明らかにされていない
だが、淤加美一族の性質は明白である
より強い神へと宗旨替えすることも厭わない一族なのである
竜の舞い面
源の宮で、淤加美の女武者は、
竜がために舞いを捧げた
すると不思議と力がみなぎったという
神食み
だが、神なる竜が根付いたのちは、
そうした小さな神々は、姿を潜めてしまった…
桜竜が到来したせいで衰微していく「ぬしの白蛇」を見限り、信仰の対象を外来の神へ変更し、竜のために舞いを捧げる
淤加美というのは、そういった一族なのである
であるのならば、桜竜の力が弱まった時、次なる信仰の対象を求めるのは彼女たちにとっては、不思議なことではない
「かつて、葦名に… 竜咳が広まったことがあったといいます そのときは、治すことが叶わず、助かる者は、無かったそうです」(エマ)(もし丈の時代であると、その時にはエマはすでに生きていたのだから、伝聞にはならない)
竜咳の広まったことと、桜竜の左腕が欠損していることは関係していると思われる。桜竜の力が弱まったのもこの時期からである
淤加美一族は衰微する桜竜を見限り、次なる信仰の対象を求めた
それが「竜胤の御子」なのである
そのためにまず淤加美は神を殺そうとする
その方法は、赤の不死斬りによる「神殺し」である
ややこしいのだが、赤の不死斬りによる神殺しと「拝涙」は厳密には違う現象である。赤の不死斬りによる桜竜殺しは、「常しえ」の神の肉体を滅ぼすことであり、「拝涙」とは「竜の涙」、つまり神の御魂を戴くことである
傷つき年老いた桜竜の肉体を滅ぼし、若々しい肉体を持つ別の新しい竜の神を奉戴する。それが淤加美一族の意志だったのだ
古き神が死に、新しき神により世界は活力を取り戻す。これはダークソウルの「火継ぎ」に通ずる思想であり、その時も暗躍していたのは蛇である(カースはムカデ、フラムは白蛇と比定することも可能かもしれない)(また、ダークソウル神話の創世において、古き竜を裏切ったのは鱗のない白い竜であった)
だが、赤の不死斬りは竜の帰郷の最後のシークエンスで「拝涙」を行うために仙峯寺に秘匿されていた
桜竜の望みである「竜の帰郷」を実現させようとする仙峯上人にとって、桜竜を殺し、その御魂を奪い、新しい神を作りだそうとする者とは絶対に相容れない。巴がその協力を諦めたのも当然であろう
複雑になってきたのでここで簡単に整理しよう
仙峯上人:桜竜派。桜竜の望む「竜の帰郷」を実現しようとする。「竜の帰郷」とは力の弱まった桜竜が、新しい力を持って再び誕生するための儀式のことであり、帰郷という性質上、必然的に葦名の地から神はいなくなる
淤加美一族:反桜竜派。力の弱まった桜竜を捨て、その御魂を移すことで新たな神を作りだそうとしている。ただ桜竜の肉体を滅ぼすために赤の不死斬りを求める
丈と巴の立ち位置は、やや淤加美一族側にあるけれども繋がっているわけではない
まず丈であるが、竜胤断ちの紙片からは、巴とは目的が異なっていたこともうかがえる
竜胤断ちの紙片
丈が遺した竜胤断ちの書の一部のようだ
不死斬りがあれば、
我が血を流すことが叶うはず
血を流せば、香が完成し、仙郷にいける
そうすれば不死断ちもできるだろう
竜胤の介錯、如何に巴に頼もうか…
この紙片を丈の目的を記したものだと判断すると、丈の目的とは「不死断ち」つまり、自刃である。新しい神になることを拒否し、桜竜の御魂もろとも竜胤を消滅させることを願っている
次に巴であるが、淤加美一族でありながら巴は丈が全てであった。ゆえに、淤加美一族の野望を完遂することよりも、丈を優先するのである
秘伝・渦雲渡り
源の渦を望む、己が主
その小さな背中が、巴にとっては全てだった
巴の手記
せめて竜胤を断ち、人に返して差し上げたい
仙峯上人が、隠したのであろう
竜胤を断つなど、あの者は望まぬゆえに…
淤加美一族の意志に反し、丈を人に返そうとするのである。だが淤加美派に属するがゆえに、仙峯上人の協力は得られない。そもそも竜胤を断とうとする巴は仙峯上人とも相反するものである
整理する
仙峯上人:桜竜派。桜竜の望む「竜の帰郷」を実現しようとする。
淤加美一族:反桜竜派。力の弱まった桜竜を捨て、その御魂を移すことで新たな神を作りだそうとしている。ただ桜竜の肉体を滅ぼすために赤の不死斬りを求める
丈:反桜竜派かつ反淤加美派。自分を犠牲にすることで桜竜そのものを消滅させたい
巴:反桜竜派かつやや反淤加美派。というより「丈派」といったほうがよいか。竜胤を断つことで丈を人に返したい
実際は、淤加美一族の思惑は、丈と巴が従わないことでによってすでに断たれている
よって、残った意志は次のようなものになる
仙峯上人:「竜の帰郷」
丈:「不死断ち」
巴:「人返り」
エンディングと完全に一致するのである
淤加美一族が仙峯上人に情報渡した結果
返信削除揺り籠がつくられたけど帰還か神として祀るかで対立して
くだぐだになったのかな?
初期段階で最終目的を教えられなかった、というのが仙峯寺の“ねじれ”の原因のような気がします
削除目的が分からぬまま蟲憑きにされて、それが神の意志だと盲進して死なずの探求に突き進んだ結果、正しい目的を知らされても引き戻せなかったと
私の理解が薄く見当違いというか既に考えていらっしゃったら申し訳ないのですが・・・
返信削除「竜の帰郷をただ願う」が桜竜の意志(かもしれない)とあるんですが、桜竜ってもしかして自分の意志で仙郷に根付にきた訳じゃなくて桜竜の意志に反して誰かに運びこまれ根付かされたのか・・・それとも運んでた人が元々は帰るつもりでいたのに何かの用事で仙郷付近まできてて何らかの影響で動けない状態になってたまたま丁度いいところが仙郷だったのかで登場したキャラクターの考えというか流れの解釈が変わりそうだなと思いました。文章のまとまりがひどくてでごめんなさい