2019年5月26日日曜日

Sekiro 考察35 月

「かぐや姫は、罪をつくり給へりければ、かくいやしきおのれがもとに、しばしおはしつるなり」(『竹取物語』)

Sekiroにおいては印象的なシーンに登場することが多い
それも多くは九郎が関係する場面で


御子と月を印象づける演出

しかし何より、この葦名の異変の根本にある「変若水」は、月と関連が深い(変若水 Wikipedia)

月の神が持つとされる若返りの水「変若水」

沖縄に伝わる伝承では、変若水を与えられるはずだった人間はそれを受け取れず、に横取りされてしまう

永遠の若さを求める人間とそれを邪魔する蛇という構図は、紀元前3000年頃のギルガメシュ叙事詩にすでに登場している

またこの構図は蛇にそそのかされて知恵の実を食べてしまうアダムとイブの物語にも引き継がれている(エデンに生えた二本の木のうちのひとつは、生命の木である)

脱皮をすることで新しく生まれ変わるように見える「蛇」と、盈虚(えいきょ、月の満ち欠け)することで死んで再生するように見える「月」の観念が結合され、永遠の生命をめぐる月と蛇と人との物語となったものである

Sekiroにおいても、かつて白蛇を祀っていた淤加美一族を蛇宮の貴人を人として見ると、その関係性がぼんやりとうかがえるように思える


桜竜

では、それらの根本にある変若水を噴出させている桜竜とは何者であろうか

※葦名の水は元々かなり特殊であり、その特殊性ゆえに桜竜を根付かせたのであるが、小さき神々が姿を隠したことから考えると、その成分は桜竜によって変えられている

Sekiroの物語に変若水伝承の構図を当てはめるとしたら、変若水をもたらした桜竜は「変若水を持つ月神」である

若返りの霊水を求め、そしてついに得られなかった宮の貴族たちは「人」であり、一方永遠の若さを謳歌しているように見える淤加美一族は「蛇」となる

※永遠の若さと不死とは厳密には異なる。宮の貴族たちは不死となったけれども、若さは得られなかったのである

桜竜が月神であるとすると、竜胤の御子である九郎もまた月神の眷属なのだろうか

例えば古事記ではツクヨミは、ミソギをしたイザナギの右眼から誕生している
桜竜の右眼が潰れている

この構造を踏襲するならば丈は桜竜の右眼から誕生したことになる

つまり竜胤とは月神ならびにその眷属のことなのである
であるのならば、竜胤が放たれたという「竜の故郷」とは、月神の住まう月である


つまり竜胤とは罪を犯し、月から地上に降りてきた月の住人のことなのである。そして竜の帰郷エンディングにおいて竜胤は故郷へと帰るという

月からやって来た月人が、最後には月に帰って行く

この物語構造に覚えはないだろうか

そう『竹取物語』である


竹取物語

Sekiroのメインプロットの一つを『竹取物語』だと考えると、常桜の枝や、お宿り石、馨し水蓮を集めなければならなかった理由がわかる

それらのアイテムはすべて、「九郎の望みを叶えるため」に必要とされたアイテムであり、これは『竹取物語』において、かぐや姫が求婚者に難題を提示したことと重なるのである

『竹取物語』において五人の求婚者たちがかぐや姫の求める五つの宝物を求めたように、隻狼は九郎のために「不死斬り、馨し水蓮、お宿り石、常桜の香木、桜竜の涙」の五つのアイテムを入手する必要があったのである

ゆえに、それらのアイテムを集めることが「輿入れ」に繋がるのである

またかぐや姫には「」という数字が頻出する。小さかったかぐや姫が成長するのに三ヶ月、求婚者たちへ難題を提示するまでが三年、五人の求婚者たちの宝物探索が三年、帝との文のやりとりの期間が三年である

隻狼が地下牢に三年いなければならなかったのは、「三」が重要だったからである。ちなみにおそらくは、平田屋敷で九郎に仕えた期間は「三ヶ月」であろうか


来迎図

さて、かぐや姫の月への帰還が本人の希望でなかったように、九郎もまた「帰郷」に関しては心意を明らかにしていない(帰郷ENDで変若の御子から「九郎さまも喜んでおられます」という言葉を聞けるが)

帰郷に積極的だったのは変若の御子であり、その変若の御子が属する仙峯寺は浄土教的極楽往生の思想があったことは、前回の考察で触れた

そうした浄土教の理想的な臨終の様子を描いたものが「来迎図」である(来迎図 Wikipedia)

この来迎の光景は、かぐや姫が月に帰るときの光景と酷似しているのである

要するに阿弥陀如来が治める西方浄土と月とは同一視されているのである

月には都があり、その都には不老不死の月人たちが住み、稀にを犯した月人が月の都から放たれて地球へと降りてくる、という観念が中世の日本には存在したのである


天の羽衣

かぐや姫は、羽織ると人間的な感情を失う天の羽衣を着せられ、飛ぶ車に乗ってへと帰って行く

以下は奥の院に張られた八幅の掛け軸の画像である


まず注目して欲しいのは、人物の頭の後ろにある頭光の差異である。これは太陽を表わす象徴的な図像であり、東壁のものは光に溢れているので、それがを表わしていることがわかる

※方角に関しては、柿婆が最期に指し示した方角を西とした

一方で西側はどうだろう。頭光が暗くなっているのがわかる。これは日が陰っていることを表わし、つまり月の出ている夜を示している

また西側の女性たちは例外なく、羽衣を纏っている

これらのことから西壁の女性たちは、夜に羽衣を纏い西から到来した者たちか、あるいは西へ向かおうとしている者たちであることがわかる

おそらく、来迎の際に阿弥陀三尊と共に到来するという25人の菩薩たちを描いたものか、あるいは東側の女性たちが西方浄土へと旅立つその姿を描いたものであろう

天の羽衣は『竹取物語』において、月の世界へ戻るために必要な装束だからである


かぐや姫の物語

竹取物語、あるいはかぐや姫の物語にはいくつかのバリエーションが存在するが、Sekiroの元となっているのはおそらくスタジオジブリの『かぐや姫の物語』であろう

鑑賞した人にしか分からない例えであるが、御門=弦一郎である。隻狼は捨丸であろうか

また、この作品では月の王ははっきりと仏様(阿弥陀如来)として描かれている


※ただし、当然のことながら『かぐや姫の物語』や『竹取物語』をフロムソフトウェアなりに再解釈しているであろうから、光溢れる清浄な月の都があるとは思えない

ちなみにフロムソフトウェア的な月の住人というのは、以下のような姿をしている



蛇足

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8 件のコメント:

  1. オカミと貴人についてなのですが、内裏で貴人に食われているオカミの足からは根っこみたいなものが生えてきています。他のオカミには生えていないと思います。
    オカミがより竜化あるいは木化する形態変化をとるのであれば、より変化した個体から内裏の貴人に食われているのではないでしょうか?
    より桜竜に近い存在を食らうことで自分達も桜竜に近付こうとしているとか、ただ若い精気が欲しくて食らっているだけではない気がしました。

    それと内裏の中の壁か何かの柄が鳳凰で、宮の所々にある鏡?の装飾も竜のものと鳳凰のものがあったり、桜竜を信仰しているだけにしては何故鳳凰なのかなぁと疑問に感じました。餌やり場には大量の鳥籠があるのも謎です。

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    1. 鳥の柄ですがグーグルで「帳台」で検索するとほぼ同じ図柄が確認できるかと思います。正確には鸞鳥(らんちょう)だと思います

      大量の鳥かごですが、あの場所は雅楽の舞台です。雅楽で鳥といえば極楽浄土に住むという迦陵頻伽(かりょうびんが)と呼ばれる鳥が有名ですが、この鳥は上半身が人で下半身が鳥です。そういった生物があの鳥かごのなかに入っていたのかもしれませんね

      内裏の淤加美に関してはまだ考察が及んでおりません

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  2. 訂正:鸞鳥ではなく鳳凰で合っているのかもしれません

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  3. 内裏の鳳凰の絵柄について
    怨霊の攻撃を防ぐ鳳凰の紫紺傘があるように、セキロの世界観では鳳凰は怨霊の類いから身を守る力があるとされており、内裏の壁にかけられた物は宮の貴族を霊的守護しているのではないでしょうか。
    平安時代の陰陽道のような感覚で鳳凰の柄の物を配置していると考えます。

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    1. すみません。何故か、コメントが重複してしまいました。

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    2. 鳳凰の紫紺傘を失念しておりました。確かに怨霊と鳳凰の図柄は何か関係がありそうですね。七面武者が代理の直下にいる理由とも関連付けて考えられそうです

      壬生の屋敷内に六壬栻盤(りくじんちょくばん)が置かれていたことを考えると、陰陽道の思想があった確率は高そうです

      ※重複分は削除しておきました

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  4. あー…、∀ガンダム大好きなのに、SEKIROの竹取物語プロットに気づけなかったなぁ。すごく説得力があると思います。

    円谷英二も竹取物語を作りたかったと言っていて、円谷プロのタイトルロゴが竹と月の映像だったことがあります。

    竹取物語は日本の宝ですね。

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    1. 感想いただきありがとうございます
      竹取物語というか月の存在はずっと気になっていたんですが、まとまった考察になるのに時間がかかりました

      きっかけはスタジオジブリの「かぐや姫の物語」を思い出したことです。そういえばあったな、と。フロムはジブリ好きだよな、と。じゃあ竹取物語と月を関連付けて考えてみようかな、という安易な発想でした

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