輪の都とフィリアノール
輪の都と王女フィリアノールは双方とも、闇の魂を人(小人)から遠ざける、という目的のために存在している
輪の都は、神が作り給う、小人たちの流刑地。壁に囲まれた拒絶の街
…闇の魂に、近づくべきじゃあないんだよ(蓋かぶりの老女)
なあ、あんた、暗い魂が欲しいのなら
崖下のフィリアノール教会に向かうがいい
そしてそこで、王女の眠りを壊すがいい
…その眠りはまやかし
糞溜めの蓋、お前から、暗い魂を遠ざけるものさ(輪の都の亡者)
シラによれば、フィリアノールの眠りは、人のためであるという
どうか、王女の眠りを侵さないでください
火の終わりに、闇の傍で、それはただ人のためなのです(フィリアノールの騎士、シラ)
法官アルゴーによれば、深淵は未だ深く、何者も、フィリアノールの眠りを妨げることは許されない
来訪者よ、引き返したまえ
深淵は未だ深い。何者も、主の眠りを妨げることは、許されぬ
これは王の法であるぞ
未だ、ということは、いつかは眠りから目覚める時が来ることを示唆している
この予言は勅使の小環旗にグウィンの約として明記されている
勅使の小環旗
古く大王グウィンの勅使が用いた小環旗
大王は、闇の魂を得た小人に
最果てに閉ざされた輪の都と
愛しい末娘を贈ったという
いつか迎えをよこすと約して
いつか迎えをよこす、その時をグウィンは待っていたのである。この約は嘘ではなく、彼なりの意図から結ばれたものであろう
ではグウィンの意図とは何だったのか
一言でいえば、グウィンは闇を消滅させようとしていたのである。彼は火継ぎにより世界から闇を退けると同時に、闇を完全に消滅させる策も講じていたのである
闇という世界の毒を浄化する装置、それが輪の都と王女フィリアノールである
火の時代の終わりに、闇の傍で、それは人のためであるというシラの言葉も嘘偽りではない
フィリアノールの眠りは決して闇を封じて終わり、という臭いものに蓋をする的な発想から構想されたものではない
グウィンの深遠は意図は、その先、闇を浄化することにあったのである
火の時代の終わりにあって、輪の都は都市としての構造を未だに保持していた
それは眠りを破ることによって覚める夢であったが、小人の王たちが治める都として確かに存在していたのである
フィリアノールの眠りを破った結果が以下である
砂漠化した世界。遙か彼方にはロスリック城も見える |
輪の都はフィリアノールの眠りによって作り出されていた夢だったことが、ここで明らかになる
世界の真の姿は乾ききった「砂漠」である
この乾ききった、という状態が重要である。というのも、闇や深淵は「湿ったもの」だからである
深淵の主マヌスのソウル
それは尋常のソウルではなく
どろりとして生あたたかい、優しい人間性の塊である
湿った長杖
深みから這い出る湿り人たちが
その手に持つ、柄の長い杖
全体が黒く湿っており、闇の魔術に適する
輪の騎士のフード
彼らは、深淵に浸された黒布を被り
またその目を幾重にも覆う
そして真の世界において、小人の王たちの血は枯れ果てていたとされる
暗い魂の血
ゲールが小人の王たちに見えたとき
彼らの血は、とうの昔に枯れ果てていた
そして彼は、暗い魂を喰らった
なぜ世界は乾いた砂漠となり、小人の王たちの血は枯れ果てていたのか
そうなるよう、グウィンが画策したからである
闇や深淵は湿り気を帯びた領域である。逆に言えば、湿った領域を消滅させるには、湿り気を消滅させなければならないのである
そのための装置が、輪の都でありフィリアノールの眠りなのである
輪の都はフィリアノールの見る理想郷の夢である
暗い魂をもつ小人の王たちは、その理想郷において飽くなき欲望を充足させ続けたことで、彼らの湿った闇を少しずつ乾燥させていったのである
暗い魂は際限のない欲望や渇望そのものである。その渇望を満足させるためには、神の見る夢、という永遠の楽園に棲まわせるしかなかったのである
だからこそ、私は許しません
お前たちの裏切り、冒涜、そして卑しい渇望を!(フィリアノールの騎士、シラ)
フィリアノールの眠りという夢の中で、彼らの卑しい渇望はいつか枯れ果て、渇き、そしてついに闇は浄化される
グウィンが構想したのは、そのような遠大な計画であった。それこそが、法官アルゴーのいう「王の法」だったのである
深淵は未だ深い。何者も、主の眠りを妨げることは、許されぬ
これは王の法であるぞ(法官アルゴー)
そして確かに神の夢の中で充足することで、暗い魂はその卑しい渇望を枯れ果てさせていったのである
その結果、小人の王たちの血は闇の魂と共に枯れ果てた
暗い魂の血
ゲールが小人の王たちに見えたとき
彼らの血は、とうの昔に枯れ果てていた
そして彼は、暗い魂を喰らった
と、同時に深淵の沼も消滅し、世界は砂漠と化したのである
グウィンの目論んだ闇の浄化まであと少しであった。だがそこへ奴隷騎士ゲールと火の無い灰がやって来て、王女の眠りを破ってしまった
夢を見せることで闇を浄化する装置は機能を停止し、輪の都は真の姿を現すにいたったのである
フィリアノールの卵
フィリアノールが抱いている「卵」は、DS1において極めて特殊な状況で出現する「さまよう人間性」によく似ている
「人と人間性と深淵」で述べたように、人間性は人や深淵と同じくダークソウルの一面である
すなわちフィリアノールの卵は、人間性の卵あるいはダークソウルの卵とでも言うべきものである
卵の殻は既に割れており、内部の黒い物質が見えている
この卵が完全に割れることでフィリアノールは目覚め、輪の都の夢は消え去ったのである
ただし神の見る夢は人の見る夢とは次元が異なり、それはひとつの世界として実在している
その夢が破られたとき、世界に輪の都の残骸が現われる。これは現実とは別の次元に存在する輪の都が、夢が破られたことで現実と融合して生じる風景である
グウィンが贈ったのは輪の都と愛しい末娘である。なぜこの二つを同時に与えたのか。それは双方が不可分の存在だからである
輪の都とはフィリアノールの見る夢の都のことである。それは現実とは別の次元に実在する都であり、現実世界の輪の都というものはそもそもが存在しないのである
輪の騎士たちの竜狩りが謳われなかったのは、そもそも竜狩り自体が都合の良い夢のなかで行われたことだからである
竜首の盾
かつて輪の騎士たちは
神々の要請に応じ、竜狩りに列した
だがそれは、決して謳われなかった
そもそも輪の都という流刑地にようやく隔離した小人たちに、神々が竜狩りを要請する理由がない
輪の騎士たちは現実世界において竜を狩ったわけではない。小人や古い人の望みをフィリアノールが夢の中で叶えただけなのである
決して滅びぬ狂王を抱き暗室に閉じ籠もったシラのように、フィリアノールは闇の魂を得た小人ごと、輪の都という夢の中に封じ込めたのである
彼女のもつ卵は、輪の都という巨大な闇を封じ込めるための、装置であった。それは王女フィリアノールが死んだ後も機能していた
※上述したように、神の見る夢は人の見る夢とは異なる。それは夢見られた瞬間から実在する世界として、現実とは別の次元に存在しているのである。よって夢見る者が死んだ後もそれは存在し続けるのである(そして夢見るフィリアノール自身も夢のなかに存在している)
※夢に関するこのような解釈は、マイケル・ムアコックの「エターナル・チャンピオンシリーズ」のそれと酷似している。「エターナル・チャンピオンシリーズ」はエルデンリングに大きなインスピレーションを与えた作品として宮崎氏が挙げた作品であるが、エルデンリングの開発が始まった時期と、DS3DLC2が開発されていた時期は重なる
人のはじまり
さて、フィリアノールの抱く卵の殻は、灰の英雄が訪れた時にはすでに少し割れている。人の歴史のはじまりにおいて、その割れた隙間から世界に漏れ出たのが人間たちである
神話のはじまりにおいてグウィンは、闇の魂を得た小人を輪の都に封じることに成功している
だが、フィリアノールの卵が割れたことで、その封印の一部は破られてしまったのである。封印を破る原因となったのが、小人たちの王たちから生じた「狂王」である
狂王の磔
異形の遺骸が絡みついた十字槍
かつて小人の王たちから狂王が生じ
フィリアノールの騎士、シラがそれを屠った
シラの十字槍は、決して滅びぬ王を繋ぎとめ
彼女はそれを抱いて暗室に閉じ籠ったという
シラの存在理由は王女の眠りを守ることにある。よって彼女が狂王を自らの手で封じなければならなかったのは、狂王が王女の眠りに危険をもたらすから以外にはない
狂王は王女の眠りを破ろうとし、完全ではないがそれに成功したのである
フィリアノールの抱く卵は割れ、人はそこから外の世界へ漏れ出て、そして増えていったのである
ダークソウルを内包した卵から漏れでた闇の欠片、すなわちダークソウルの欠片たる人の起源は夢の都だったのである
※人類の起源に関する解釈も「エターナル・チャンピオンシリーズ」を援用している。シリーズのひとつ「エレコーゼ・サーガ」では、人は別の次元からやって来たとされている
外の世界において闇を喰らっていたミディールは、卵の中の闇に惹かれ輪の都に辿り着き、そしてシラに撃退され輪の都から追放されたことは、前回の考察で述べた
時系列的には暗室に閉じ籠もったシラがミディールを撃退したことになり、矛盾が生じる
しかしながら、ミディール戦で白霊として召喚したシラが「狂王の磔」を装備しているように、彼女は実は暗室から出られるのである(※「囚われた」というのも彼女のセリフのみである)
狂王の磔を手にミディール戦に参加してくれるシラ |
さて、一度は撃退されたミディールであるが、古い約束に従って輪の都に戻ってくる。彼は卵の割れた箇所を通って帰ってきたのである(翼あるモノのみが、輪の都に辿り着けるのかもしれない)
卵はすでに割れかけている。しかしそれでも大部分のダークソウルは卵によって守られている
フィリアノールの死後も、彼女は夢の中で闇を消滅させるために渇望を充足させていたのである
だが、かつてそこから漏れ出た闇の欠片(人間)が火の時代の終わりに帰ってきて、ついに王女の眠りは破られる
その結果現れるのは剥き出しになった世界の実相、渇望の充足により闇が枯れ果てた世界、すなわち砂漠化した世界なのである
赤頭巾に喰われた小人の王がフィリアノールに助けを乞うのは、それまで小人の願いを彼女が叶え続けてきたからである。しかし眠りは破られ、夢のフィリアノールはもう存在しない
暗い魂の血
闇や深淵の消滅しつつある世界に、それでも残るものがある
闇や深淵の根源たる暗い魂である
だがそれは、乾ききった小人の体のなかに隔離され、機能をほぼ停止している
暗い魂を復活させるには、湿り気を与えなければならない
それが血である
ダークソウルの欠片たる人の血には、暗い魂から受け継がれた闇が含まれている。故にゲールは暗い魂を喰らい、自らの血に暗い魂を宿したのである
奴隷騎士であることかも分かるように、ゲールは亡者である
奴隷騎士の頭巾
かつて不死者だけが奴隷騎士として叙され
あらゆる凄惨な戦いを強いられたという
基本的に亡者には性欲や食欲が存在しない
逆に言えば、渇望を宿すにはうってつけの「器」なのである
そして暗い魂はダークソウルとも言われるように、生命すべての根源である「ソウル」そのものである
ボスとしてのゲールは、フェーズ1においては亡者ではない。それは暗い魂(ダークソウル)という生命に満たされた「生者」であったのである
それは限りない渇望に囚われた人そのものの姿である
しかしフェーズ1の戦闘において、彼は暗い魂の血を失い、その渇望から解放される
斬りつける度にゲールから黒い血が飛び散っているのがわかる |
暗い魂を宿した血、すなわちダークソウルという生命を少し失ったことで、ゲールは亡者に戻ったのである
フェーズ2以降のゲールは亡者であり、暗い魂の力を制御できる闇の王である
闇の王とはダークソウルを得て王となった亡者のことである。上述したが基本的な欲望を持たない亡者は、闇の魂という渇望を宿す最適な器であり、闇の魂を制御できる唯一の存在なのである
闇の王はダークソウルそのものである。それはこれまで人や小人に分有されていた闇の魂が統合された、真・ダークソウルと呼べるものである
その闇の王が流す血は、ダークソウルの流す血であり、また暗い魂の流す血でもある
DS1では「火を継ぐ者」と「闇の王」という2つのエンディングが用意されていた
DS3の本編では「火を継ぐ者」である「王たちの化身」を倒し、DLCでは「闇の王」を倒すことになる
シリーズ最後に至り、DS1で提示された「火を継ぐ者」と「闇の王」という2つの有り様を超越することで、ダークソウルという物語は完結するのである
そしてそれはソウルの生み出す、光と闇の輪廻(呪い)をプレイヤー自身が超越することに他ならないのである
補遺:青い雷
ゲールの放った怨霊の着地点には黒い染みのようなものができる。これを目がけて落ちてくるのが青い雷である
ただし、この青い雷は黒い染みだけに落ちているのではなく、遙か彼方の土地にも落ちている
怨霊の着地点だけではなく、山の向こうのエリアにも青い雷は落ちている |
よって、この青い雷はこの世界における普遍的な天候現象であると考えられる
ではなぜ雷は青いのか
実のところ、現実の雷は青白いのである
これまで黄色や黄金として表現されてきた雷が青くなった理由は、神がいなくなったからである
つまり青い雷は、この世界にはもはや神がいないこと、太陽の光の王グウィンがそのソウルすら残さず消えてしまったことを象徴する現象なのである
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