前回「朱い腐敗と神の血」の考察で、神々は神の血を介して狭間の地に干渉している、という仮説を述べた
しかしその際に神々は具体的にどのように血液に干渉しているのか、については言及しきれていなかった
今回は神々が狭間の地に干渉する具体的な方法を検討してみたい
※動画「黄金樹キノコ説」は本考察の下書きをもとに作成した動画であるが、本稿には大きな変更点や修正点が入っているためタイトルを変えた
朱い腐敗
朱い腐敗が菌類の特徴をもつことは「朱い腐敗の概要と考察」で言及した
まとめると朱い腐敗は朱い水に含まれる菌類であり、その子実体がエオニアの花である。そしてエオニアの花は開花により胞子を放出し、周囲一帯を汚染していく
朱い腐敗の起源は腐れ湖に封じられている外なる神であると考えられ、またそれは腐敗の神である
地図断片:腐れ湖
エインセル河の下流に広がる腐れ湖は
外なる神の一体、その神性の
封印の地であったという
蠍の針
大蠍の針を刃となした短剣
朱い腐敗の毒が滴っている
封じられた、外なる神の遺物を用いた
異教の祭具であるという
つまり朱い腐敗を考察していくと、神と菌類とが密接な関係にあるのではないかという仮定に行き着くのである
腐敗の神はある種の菌類であり、胞子を送り込むことで狭間の地に干渉すると考えられるのである
死の根
同じく菌類との関連性を示唆されているのが「死」である
プレイヤーが状態異常の一つである「死」によって死亡したとき、画面にはDEATH BLIGHTEDと表示される
BLIGHTEDは「胴枯病(どうがれびょう)」と訳すことができる。胴枯病は樹木の幹や大枝の一部が変色して枯死する病害である
この原因となるのが、子嚢菌類に属する菌類の寄生である
作中でこの胴枯病を原因とする「死」を広めているのは死の根である
それは死のルーンを起源とするものであり、地下の大樹根を通じて狭間の各地に現われるという
死の根
陰謀の夜、盗まれた死のルーンは
デミゴッド最初の死となった後
地下の大樹根を通じて、狭間の各地に現れ
死の根として芽吹いたのだ
つまるところ死のルーンから感染した何らかの菌類がデミゴッドに最初の死をもたらし、大樹根を通じて狭間の地に芽吹いていると考えられるのである
そしてルーンはエルデンリングの欠片であるから、BLIGHTED(胴枯病)を発症させる菌類はエルデンリングを起源としていることになる
この死のルーンには「穢れた」とか「異常な」という表現はされていない。死のルーンはルーンとして正常な状態なのである
正常な死のルーンから死の菌類が感染したのであれば、死のルーンそのもの、さらにはエルデンリングそのものが菌類と関連すると考えられる
つまり朱い腐敗と同様に「死」にも神性と菌類との関連性が見出せるのである
神の血
前回の考察で述べたように外なる神々が直接的に干渉するのは、狭間の地の生命に宿る「神の血」である
これには狭間の地で行なわれている神の血の循環という現象が根源にあると考えられる
還樹の様子を描いた浮き彫りからも分かるように、黄金樹の民は死ぬと大樹根に葬られて樹へと還り、最後は再び誕生する
このとき死者の身体は大樹根に残されたままである
よって死者が黄金樹へ還るということは身体ではなく、体内の「何か」が黄金樹へと吸い上げられているのだと考えられる
黄金のゴッドウィンは死のルーンによってデミゴッド最初の死者となり、彼の遺体は黄金樹の根元に埋められている
死王子の瘡
その顔の主は、死王子であるという
彼は、かつてゴッドウィンと呼ばれ
デミゴッド最初の死者として、王都の地下深く
黄金樹の根本に埋葬されたという
ゴッドウィンの肉体はまだそこにある。だが黄金樹がゴッドウィンから吸い取った「死」が、狭間の各地に死の根として芽吹いている
ここで重要なのは死王子は魂だけを殺されているという点である
死の呪痕
ラニは、肉体だけの最初の死者であり
故に死王子は、魂だけの最初の死者なのだ
つまり黄金樹はゴッドウィンの遺体から「何か」を吸い取り、それは死の根として狭間に芽吹いているが、その「何か」は魂(霊体)ではない
このことから黄金樹は魂(霊体)ではなく遺体の体液(死の菌類に感染した血液)を吸い上げていると考えられる
要するに神の血に感染した「死」という菌類が黄金樹に吸い上げられ、狭間の各地に死の根という子実体を形成したものと考えられるのである
死の根は虫こぶを形成するが、虫こぶは菌類の感染により生じる植物の病気である |
そして黄金樹の民に流れる血液とは黄金樹の雫であり、それは遡れば神の血に行き着く(詳細は後述)
神と菌
さて、朱い腐敗は神の血に感染する菌類であり、その菌を宿したデミゴッドは腐敗の律を掲げる神人に選ばれている
…マレニア様は、女王マリカと王配ラダゴンの間に、双子のデミゴッドとして産まれました
生まれながらに朱い腐敗を宿した、神人として
神人とは、通常のデミゴッドとは異なる存在
エルデンリング、即ち女王マリカの時代が終わったとき
神となり、新しい律を掲げるべく、尊く生まれ落ちているのです(ゴーリー)
逆に言えばマレニアの律が「腐敗」であるのは、彼女が腐敗菌と融合したからである
※朱い腐敗を宿していなければ、何か別の律を掲げていたかもしれないし、あるいは神人として選ばれなかったかもしれない
つまりデミゴッド(半神)という神性と菌類が融合したことで新たな律を掲げる存在になったのである
ここに、神性+菌類=律という構図が見出せる
黄金の流星とエルデの獣
過去の考察で黄金の流星とエルデの獣が融合することでエルデンリングとなった、と述べた
黄金の流星(生命)とエルデの獣(律たる概念の具現)が合わさることで、黄金の律(生命の律)が生まれたとする仮説である
エルデの追憶
それは、大いなる意志の眷獣であり
律たる概念の具現であった
エルデの流星
かつて、大いなる意志は
黄金の流星と共に、一匹の獣を狭間に送り
それが、エルデンリングになったという
“偉大なるエルデンリングは、黄金の律”
“それは世界を律し、生命は祝福と幸福を謳歌する”(エンヤ)
死の根の項で指摘したようにエルデンリングは菌類と関わりがあり、それはマレニアと腐敗の関係性と同一と考えられる
マレニア(神性)+腐敗(菌類)=腐敗の律
エルデの獣(神性)+黄金の流星(菌類)=黄金の律
つまりエルデの獣に黄金の流星という菌類が感染することで黄金の律(エルデンリング)が生まれたと考えられるのである
冬虫夏草
生物に寄生する菌類という現象は現実世界にも存在する。昆虫に菌類が寄生することで生じる冬虫夏草である
冬虫夏草(とうちゅうかそう)は、子囊菌類のきのこの一種で、土中の昆虫類に寄生した菌糸から地上に子実体を作る。中医学・漢方の生薬や、薬膳料理・中華料理などの素材として用いられる。 (Wikipedia)
冬虫夏草は漢方としても用いられる一方で、神仙思想では不老不死の秘薬としても考えられていたという
※秦の始皇帝は不老不死の秘薬として冬虫夏草を探し求めた(参考URL)
不老不死をもたらす冬虫夏草は永遠の生命をもたらす奇跡の薬であり、錬金術的に言えば賢者の石と同質のものである
過去の考察でエルデンリングを賢者の石に例えたが、それが生物由来と考えると冬虫夏草の方がより適切であろう
エルデの獣は黄金の流星という黄金の菌類に寄生されることによってエルデンリング(冬虫夏草)となったのである
このとき菌類の栄養源となったのはエルデの獣の血液、すなわち「神の血」である
※これはミケラが若芽に聖血を与えていた=聖樹は神の血によって育つという作中観念を援用したものである
黄金の菌類は神の血を吸収して菌糸を成長させて黄金の環となる。そして血液の循環をもって生命の循環(エルデンリング)という奇跡的な現象を生みだす
つまりエルデンリングには、生命の循環と菌糸の環という2つの意味がある
黄金の菌類(黄金の流星)はエルデの獣に寄生すると、その体内に菌糸を伸ばし黄金の環となり、やがて黄金樹という子実体(キノコ)を形成させる
そして黄金樹というキノコのもたらす豊穣の恵みは、幻視の器たる神マリカを通じて狭間にもたらされることとなった
腐敗の眷属
ある種の昆虫は子実体を喰らい、それによって胞子を拡散することに協力させられているという
蟲たちが腐敗の神の眷属とされるのは、蟲たちが腐敗の菌類が形成する子実体を喰らって生きる生物だからなのかもしれない
腐敗の眷属の遺灰
カサカサと蠢く生白い蟲の霊体
粘つく糸を分泌し、敵を攻撃する
腐敗の女神の眷属であり、見棄てられた眷属でもある
蟲のグレイブ硬質の貝殻の類を磨き上げたグレイブエオニアの沼から湧いた、蟲たちの得物物理以外のカット率が僅かずつ高まる人には理解できぬ、神秘的な意匠から蟲たちの高い知性が感じられる
昆虫にとってキノコが生命の糧であるように、蟲たちにとって腐敗の子実体は生命の糧であり、それは黄金樹の民に豊穣をもたらす黄金樹と同じものなのである
それ故に黄金樹の民が黄金樹を崇めるのと同じように、蟲たちも腐敗の神(女神)を崇めるのである
恵みの祝福
かつて黄金樹は、恵みの雫を滴らせた
これはその残滓であろう
ただしそれは菌類の側から見れば、世界に胞子を拡散させるために生物を利用しているに過ぎない
黄金の菌類
まとめると黄金の流星とは黄金の菌類の胞子であり、エルデの獣とは黄金の菌類に寄生されるための宿主である
エルデの獣は黄金の菌類に寄生されることで冬虫夏草形態となり、永遠の生命を象徴する賢者の石たるエルデンリングとなった
その後、古竜時代を経て黄金樹という子実体が形成される頃になると、エルデの獣の霊体は幻視の器であるマリカに宿る(肉体は菌類に食い尽くされている)
けれども黄金樹が菌類の子実体であることに気づいたマリカは大いなる意志に不信を覚え、最終的にそれはエルデンリングの破砕という破局に繋がっていく
自らの終末を悟った黄金樹は、子実体としての役割を果たそうとする。胞子である種子を放ったのである
黄金の種子
それは、エルデンリングが砕けた時
黄金樹から各地に飛来した
生命が、自らの終末を悟ったかのように
菌類の子実体は胞子を放出するために形成される組織である。それは胞子を放出した後には死ぬのである
大いなる意志
黄金の流星(菌類)を送った大いなる意志とは、黄金の菌類の胞子の本体であり、黄金に輝く菌糸の集合体と考えられる
それは漆黒の宇宙に浮かぶ黄金の環であり、遥か遠くから眺めた場合、輝く太陽として表現されうるものである
ぬくもり石
かつて黄金樹は、太陽に似て暖かく
ゆっくりと人々を癒したという
蝕のショーテル
ソールの城砦に所蔵される宝剣
蝕まれ、色を失くした太陽を象ったもの
「伝説の武器」のひとつ
またその黄金の環は糞喰いが見た導きでもあった
忌み鎧
角を切られた忌み子を模した、異形の胴鎧
糞食いの装備
太陽のメダルは、かつて彼が見た導きであり
その先でいつか見える、輪の似姿であるという
つまり大いなる意志とは、宇宙的規模にまで拡大した黄金の菌類の菌糸の環が精神と神性を宿し、神となったものである
ちなみに世界最大の生物は「キノコ」である。(参考→『世界最大の生物って何だと思いますか?』)
アメリカのオレゴン州にあるオニナラタケの菌糸は山全体に及び、その大きさは8.9平方キロメートル、年齢は2400歳、重量は605トンあるとされる(Wikipedia)
また菌類とは異なるものの真性粘菌はある種の知能をもつという(粘菌コンピュータ)
粘菌コンピュータでは、粘菌は迷路のゴールまでの最短経路を導きだすという。これは作中の祝福の導きがエルデンリングを修復するための最短経路を示していることを想起させる
菌糸によって繋がった菌糸の環(ネットワーク)すべてが一つの生命体であり、その欠片もまた大いなる意志を共有する存在である
褪せ人は黄金の祝福に導かれてエルデの王を目指すとされるが、祝福の正体は黄金の胞子(あるいは菌糸)とも考えられる
オープニングより。失われた祝福が褪せ人の手に触れたことで、褪せ人は蘇る |
つまり褪せ人は黄金の菌類に感染(寄生)されることで蘇らせられ、行動を操られるのである
この時のメカニズムは死してなお滅びぬ守人と同類のものであろう。守人は黄金樹との古い契約、すなわち菌類に寄生されることで永遠に滅びぬ守人となったものである
守人の仮面
彼らは、黄金樹との古い契約により
死してなお滅びぬ、永遠の守人になったという
また褪せ人は自らの意志をもとに行動していると信じているが、実際は菌類によって思考の段階から操られている
菌類による操作事例にも実例があり、ある種の菌類は昆虫に寄生することで、その行動を操るとされる
『アリを「ゾンビ化」する寄生菌、脳の外から行動支配』
Ophiocordyceps unilateralisは、通称ゾンビアリ菌と呼ばれる昆虫病原性の菌で、1859年にイギリスの博物学者Alfred Russel Wallaceによって発見され、現在は主に熱帯林の生態系で発見されている。
アリの行動パターンを変化させることが特徴である。感染した宿主は、樹冠の巣や採食路から菌の増殖に適した温度・湿度の林床に移動し、大あごを使って葉の裏側の主要な葉脈に付着し、宿主が死亡するまで4〜10日間を要する。(Wikipedia)
この菌類(Ophiocordyceps属)は寄生したオオアリの神経系を乗っ取り、異常行動を引き起こさせるという
寄生されたオオアリは行動を操られ、菌類が胞子を放出するのに都合の良い高所の葉や木の枝まで誘導され、そこに噛みついた状態で死ぬという
死んだオオアリの頭部からは子実体が伸び、地面に向かって胞子が放出され、菌類は別のオオアリに寄生していく
オオアリと同じように褪せ人も黄金の祝福なる菌類に寄生され、その菌に操られてエルデの王を目指すのかもしれない
またそもそもの発端であるエルデの獣も菌類に操られて狭間に飛来したとも考えられる。なぜならばエルデの獣は大いなる意志の眷獣と呼ばれているからである(支配下にある)
黄金の菌類に寄生されたエルデの獣が宇宙を飛ぶ姿は、黄金の流星のように見えるものであろう
※この場合、エルデの獣が菌類に寄生されたのは地球に飛来する以前のことになり時系列が変わる
祝福
また祝福は瞳に宿るとされ、褪せ人は祝福が宿らぬ、あるいは宿したそれを失った人々のことである
狭間の地のルーン
かつて狭間の地で
人々の瞳に宿ったという祝福
その黄金の残滓
褪せ人とは、祝福を瞳に宿さぬ
あるいは、宿したそれを失った人々である
これは菌類の感染の有無により生じる差異と考えられる。黄金の菌類に感染した宿主は眼が黄金に光るのである
つまり褪せ人とは菌類に感染していなかったか、何らかの原因により宿していた黄金の菌類が消滅した人々のことである
また褪せ人は菌類の寄生が不完全であり、導きが見える程度にしか菌類の影響を受けない状態と考えられる
弱い寄生状態であるがために何かの拍子に菌類は消滅し、そのような褪せ人は導きが見えなくなるのである
貴方には、見えているのでしょう?
祝福の導き、使命を指し示す光の筋が(メリナ)
いえ、最近は多いのですよ。導きの見えない褪せ人が(コリン)
つまるところ導きとは黄金の菌類が見せる幻覚のことである
ルーンはエルデンリングの欠片である。エルデンリングを菌糸の環と考えるのならば、それは菌糸の欠片ということになる
またその菌類の胞子は狭間の生命の血液に感染し、黄金の菌糸を瞳に伸ばしていくのである(瞳にまで症状が現われた生物は完全に寄生されている)
狭間の生命の血液は、もとを辿ればエルデの獣の血液、すなわち神の血液である
というのもエルデンリングはエルデの獣に菌類が感染して生じた冬虫夏草だからである
菌類はエルデの獣の血液を栄養素として育ち、黄金樹という子実体を形成した後に、その血の混ざった黄金の雫を滴らせた
黄金樹の民はこの黄金の雫から誕生したのである(過去の考察参照)
また褪せ人が死ぬと黄金の枝が生えるが、これは褪せ人に寄生していた黄金の菌糸、あるいは子実体とも考えられる
蛇足
言及しきれなかった外なる神々と菌類の関係は次回
いつも面白い力の入った考察お疲れ様です。
返信削除エルデの獣が背中から触手のようなものを出している姿は寄生宿主の体を突き破ってでてきた冬虫夏草の菌体、エルデの獣の体内に見える黄金の神経節のようなものは体内の菌糸と見ることもできますね。
菌類をテーマに考えるのは面白く、確かにエオニアの眷属以外のデカイアリも蟻酸=酸≒腐食を使ってくることを考えると、虫系統は腐敗、菌類の媒介者として描写されてるのかもしれませんね。
また、これは関係ないかもしれませんが、黄金樹、木が腐敗して菌類と混ざってできた腐葉土や朽木は甲虫などの幼虫や、フナムシやダンゴムシの餌になりますので、腐敗の神は黄金樹を成長させてから借りとるところまで視野に入れていたとも考えられるかと?
ありがとうございます
削除菌類は応用が利く現象なので大抵のことは説明できてしまいますね
大雑把に言えば腐敗は細菌類による分解ですし、
同じように発酵は酵母の働きによる分解と考えることも可能かと思います
酵母…母…姿なき母? とかいう連想を今思いつきました
そしておっしゃられるように、腐敗したものは別の生物の糧となりますね
それは一つの生命サイクルと言ってよく、それが腐敗の律の律たる証なのかもしれません
姿なきオドンが墓所カビと縁があり、上位者であり、声だけを届けるというのもまた……
削除シリーズが別で世界観は別でしょうが、クロスさせてつい考えたくなってしまいます!
当初はブラッドボーンの説明から入った方が理解しやすいかなと、
削除ブラッドボーンの情報をからめた考察でした
ただブラッドボーンの仮説がやや込み入ったものであることや、
自説の修正も必要だったので削除したという経緯があります
エルデンリングとブラッドボーンの比較考察は機会があったら
修正含めて記事にしてみたいですね