エルデンリングを考察するうえで、さまざまな理由から採用しなかった説をこのあたりで述べていく
いわゆる没考察であるが、没というよりもニュアンス的にはもうひとつのエルデンリング考察に近いものである
採用しなかったからといって完全に否定された説なのではなく、筆者の印象としては、前回までの考察とまったくの五分か、あるいは優勢のものもある
大いなる意志
エルデンリングから運命の死を取り除くことを望んだのは大いなる意志であり、それにより永遠の生命を実現しようとした、とする説
女王マリカに永遠性をもたらしたのは大いなる意志の意図によるものだった。しかしそれにより女王マリカは大いなる意志に不信感をもち、それがやがてエルデンリングを砕くに至ったとする説である
簡単にいえば、大いなる意志の過ちにより、すべてが発生したということになる(三本指のいうように)
狭間の地の混乱の根源を大いなる意志とすることで、話はよりシンプルになるし、マリカの黄金律や大いなる意志への不信感の理由にもなる
また指読みのエンヤの言う、大いなる意志は運命の死の解放を決して許さないだろう、という言葉とも整合する(エンヤの言葉を信頼できるものと解釈)
しかし、仮説への反論もある
例えば運命の死を封じたのは、マリカの望みによるものである
黒き剣の追憶
マリケスは、神人に与えられる影従の獣であった
マリカは影従に、運命の死の封印たるを望み
後にそれを裏切ったのだ
しかしこれには更なる反論も想定できる。確かに運命の死を封じたのはマリカの望みである。しかし運命の死を取り除いたのは大いなる意志の望みだった、とするものである
取り除いた者とそれを封じた者とは別人であり、前者が大いなる意志、後者がマリカとするものである
これにより、運命の死の除去を大いなる意志の意図とすることも可能である
ただし運命の死を除去しただけの場合と、封印した場合でどれほど結果に差異があるのか、という疑問も残る
除去した場合は運命の死は解放されたままであり、黄金樹も燃えるであろうし神族も死ぬであろう
神族が永遠であり、黄金樹が燃えなかったのは運命の死が封じられた効果によるものである。そして封印はマリカの望みであると明言されている
またこの仮説では、大いなる意志が運命の死を解放するために、祝福の導きにより褪せ人を火の頂に導いていることとも矛盾する
ただしこれも、大いなる意志の優先順位としては、1にエルデンリングの修復、2に運命の死の除去だった、と解釈することもできる
しかしエルデンリングに死が回帰した「死王子END」において、再び死が除去されたという表現は確認できない
大いなる意志は死の回帰したエルデンリングをそれでも許容しているように見える
またこの仮説では黄金樹の前史、古竜の時代に運命の死が取り除かれたという話はないのも、やや難点である
もし仮に運命の死の除去と封印が大いなる意志の意図によるものだったとしたら、なぜ古竜の時代にそれが行なわれなかったのか、という疑問が生じるのである
しかしこれもまた反論が可能であり、そもそも古竜の時代に運命の死が除去されていない、とも断定できないのである
あるいは除去した後に逆に運命の死を崇拝したことが、大いなる意志の怒りに触れた可能性すらある
具体的に言えば除去された運命の死は黒い月であり、それを崇拝したことがノクスの民が大いなる意志の怒りに触れた理由とするものである
ただし運命の死は赤黒いエフェクトが生じるものであり、黒い月とは色合いに違いがある
また運命の死はエルデンリングと同じ聖属性である。よってエルデンリングに混じった異物ゆえに大いなる意志が運命の死の除去を求めた、とする考えもやや難しい
これら点を詳しく究明していこうとすると、考察がもの凄く長くなる。よって惜しみながらも別の考察を採用することになったのである
しかし大いなる意志を錬金術師と想定し、狭間の地を黄金の流星とエルデの獣を混ぜ合わせる坩堝と考えると、錬金術師による賢者の石の精製場面と見ることも可能であろう
この仮説のシンプルさ、賢者の石精製の比喩としての世界構造などから、筆者のなかでは今も有力な仮説のひとつである
エルデンリングの創造
次にエルデンリングの創造に関するもうひとつの仮説である
過去の考察では狭間の地に送られた黄金の流星とエルデの獣が融合することでエルデンリングとなった、と述べた
しかしこの仮説は、狭間の地という死の世界に黄金の流星とエルデの獣という生が結合することでエルデンリングという生命循環が誕生した、とするものである
狭間の地はかつては死者の世界、すなわち霊界であり、そこへ大いなる意志が生を送り込んだことにより生と死の循環が生まれたのである
ヘルフェンの尖塔
霊界において死者の道標となる灯火の樹
ヘルフェンの黒い尖塔を模した大剣
ただしこのとき生じた生と死の循環は、現世と幽界が混ざり合う奇妙な世界である。これはベルセルクにおける、幽界と現世が混在した「幻造世界」とよく似た世界である
二つの世界の衝突と融合、あるいは異世界による現世への浸食という構図は、ブラッドボーンとも重なるものである
ブラッドボーンはゴシックホラーの世界にクトゥルフホラーが浸食していくという構造である(インタビューで明言されている)
これと同じく、狭間の地という霊界に生命を体現する黄金の流星とエルデの獣が衝突することにより二つの世界が融合を果たし、現在の狭間の地になったのである
色により表現すると、霊炎の象徴する青色に、赤味を帯びた黄金が衝突することで混ざったようなイメージである
これもまた、ブラッドボーンにおける神秘の青と、獣性の赤の対比とよく似ている
この仮説も過去の筆者の考察と比べればシンプルである
ただし困ったことに、運命の死は霊炎と違ってエルデンリングと同じ聖属性なのである
運命の死がそもそも最初からエルデンリングに組み込まれているのだから、霊界と黄金の流星の衝突により、生と死が誕生したという仮説には瑕疵がある
これが運命の死が霊炎と同じ属性であったのならば、衝突後に霊界の死を取り込んだことによりエルデの獣はエルデンリングになった、とすることも可能であろう
しかしもう一度いうが運命の死は聖属性であり、それは霊炎ではなくエルデンリングや黄金の流星の属性なのである
ただしこれも、神族の死である運命の死と一般生物の死に関連する霊炎とは別なのだから、少なくとも一般生物の生命は、霊界とエルデの獣の統合により生まれた、とする解釈もできるであろう(ややこしいが)
よって筆者のなかでは否定しきれない仮説であるし、特にブラッドボーンとの類似点が多いことから有力であると思っている
時間
過去の考察では「永遠」を生物としての停滞として解釈してきた
しかし永遠には生物的な停滞の側面の他に、時間的な側面もある
例えばここ最近はエルデンリングと賢者の石との類似点を強調してきたが、賢者の石を精製するための錬金術は時間を操る術でもある
宗教学者エリアーデによれば、錬金術とは時間を加速することで卑金属を金に変成させることを目的としているという
ここで錬金術師が行なっているのは素材を混ぜ合わせ精製するという化学的な行程ではなく、時間を加速することで物質を変質させようという行程である
つまり坩堝のなかで行なわれているのは化学反応ではなく、時間操作なのである
エルデンリングを賢者の石、狭間を坩堝と見ると、現在の狭間の地で行なわれているのは、ひとつにはエルデンリングによる化学反応(生命現象)である
しかしもうひとつ時間を操作するという側面があることも、それを錬金術の過程と見るのならば見落としてはならない
つまり狭間の地は空間的にはもちろん、時間的にも他の領域から隔絶されているのである
そしてその内部では、外部領域と異なる時間が流れており、それは急激に加速することも、ほぼ完全に停滞することもあり得るのである
永遠の女王マリカの永遠を時間的な永遠と解釈するのであれば、マリカとエルデンリングの実現した永遠性は時間を完全に停滞させるという意味での停滞であるとも解釈することができる
狭間の地の内部においては時間すらも操作されうるものである
それは究極的には過去への遡行や過去が現在に現われることすらをも可能にするのである
ダークソウル1のDLCがウーラシールへの時間遡行であったように、仮にDLCがあるのだとしたら、それは時間的な要素を特徴としたものであろうと予想される(褪せ人が過去に行くか、過去が現在に現われるか、それとも遥か未来に飛ぶか)
そしてそうした時間操作の力もまたエルデンリングに帰されるものである(エルデンリングを賢者の石と捉えるのならば、それも可能)
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