追記:大いなる石
大いなる意志が黄金の流星と共にエルデの獣を狭間に送った意図については、「大いなる意志」の考察の時に述べた
その際、大いなる意志の正体については言及しなかった
これは大いなる意志の正体についての情報が極めて乏しく、それを究明しようとするとテーマから離れすぎてしまうからである
さて、大いなる意志の意図はエルデンリングの創造と地図上に示される祝福の導きから汲み取ることができる
“だが、大いなる意志は、世界と生命を見捨てない”
“お主たち褪せ人に、祝福の導きをもたらし、使命を与えたのだ”(指読みのエンヤ)
しかし大いなる意志の形態や性質についての情報はほぼない
ただし祝福の導きという現象からその形態や性質を推察することは可能かもしれない
マップを眺めたとき一見してわかる祝福の導きの特徴のひとつは、祝福の導きは地下世界にはまったく見られない、ということである
しかしこれだけでは、大いなる意志が地下世界を見放しているから祝福の導きが現われないのだ、とすることも可能であろう
実際、同じく大いなる意志に見捨てられたデミゴッドの都、エブレフェールの祝福にも祝福の導きがない
またそもそも祝福の導きは、大いなる意志が見捨てる見捨てないに関わらず、エルデンリングの修復に必要なルートを示しているに過ぎない
例え見捨てられたデミゴッドの国であっても、エルデンリングの修復に必要であれば出現するし、必要なければ出現しないのである
よって、地下世界に祝福の導きの光が現われないのは、そこが地下だからであるのか、それともエルデンリングの修復に無関係だからなのかを断定することは難しい
ただし地下に滅ぼされたとされる永遠の都が今もって存続しているのは、そこが大いなる意志の神威が届かない場所だからである、とすることも可能であろう
見捨てられたデミゴッドたちと異なり、永遠の都は明確に大いなる意志の怒りに触れているにも関わらず、長い時を経た今も夜の王を待ち続けることを許されている
それはつまり大いなる意志の力にも限界があって、その限界の外にある領域こそが地下であると考えることもできるであろう
大いなる意志の力は地上には届くが、地下には届かない
そして地上と地下の最大の相違点は、地上には本物の空があるのに対し、地下世界には偽りの夜空しかない、ということが挙げられる
ノクス剣士の冠
大古、大いなる意志の怒りに触れ
地下深くに滅ぼされた、ノクスの民は
偽りの夜空を戴き、永遠に待っている
王を。星の世紀、夜の王を
賢者の石
ここで話は脱線するが、エルデンリングの考察の折にエルデンリングとは賢者の石である、ということに触れた
絶対的に矛盾する生と死を統合したものがエルデンリングであり、それと同じような結合により生じるとされるのが錬金術における賢者の石である
このように二つの相反するものが結合した物質を錬金術ではレビス(Rebis)といい、賢者の石と同一視されている
レビスはラテン語の res bina から成る言葉で「二つのものより成る」や「二重のもの」、「背理的二重存在」などの意味がある
理論的には男性性と女性性のような相反するものの結合した存在のことであり、両性具有神ヘルマプロディートスによって象徴される存在である
また太陽と月の結婚や、王たる硫黄と王妃たる水銀に結合によっても生ずる状態であるともされる
このようにして精製される賢者の石は卑金属を金に変えたり、人間を不老不死にする力があるとされた
さて、賢者の石は第一質料であるともされる
第一質料とは原初の混沌や、賢者の石を抽出するための原素材、魂の始原状態を表わす物質(状態)である
作中の用語でいうと「黄金の流星(坩堝)」がこれにあたり、世界のすべてが生まれる卵のような物質状態のことである
すべてのものは坩堝から分かたれて生じる。つまりすべてのものは坩堝を根源にもち、坩堝の変容により生じた存在なのである
三本指の語っていた大きなひとつからの誕生である
…すべては、大きなひとつから、分かたれた
分かたれ、産まれ、心を持った
第一質料
坩堝や第一質料からの変容によってすべては生じた。しかしその原動力(きっかけ)となったものとはなんなのであろうか?
かつて第一質料の変容能力は第一質料そのものにあるか、その精髄ないし魂にあると考えられた
このうち魂はメリクリウスと名づけられ、怪物やレビスと呼ばれる背理的二重存在を表わすものと解された
つまり第一質料の内部にいるメリクリウスという怪物のもつ変容能力が、世界や賢者の石を創造する原動力になったということになる
第一質料とその魂であるメルクリウスの関係性は、黄金の流星(坩堝)とエルデの獣の関係性と酷似したものである
第一質料たる黄金の流星(坩堝)の魂であるエルデの獣が、坩堝という卵を律することで、すべてを生じさせたのである
さて第一質料の魂はメルクリウスと名づけられていた。オーディンとも同一視されたメルクリウスを象徴する金属は水銀である
ブラッドボーンにおいて水銀はオドンと関連深く、作中でオドンは上位者の赤子を何人も産ませている
二者の結合によって誕生する賢者の石は、金属でありながら胎児の特徴を持つとも考えられていた
このことから、本作のエルデの獣とブラッドボーンのオドンを比較することもできるかもしれない
つまりエルデの獣を水銀(メルクリウス)と見、黄金の流星を硫黄(金色)と見ると、水銀と硫黄(銀と金)という相反するものの結合により賢者の石たるエルデンリングが生じたことになる
エルデの流星
かつて、大いなる意志は
黄金の流星と共に、一匹の獣を狭間に送り
それが、エルデンリングになったという
エルデの流星になぜかエルデの獣がエルデンリングになった経緯が記されているのは、この2つがエルデンリングの誕生に深く関連しているからとも考えられる
大いなる意志
さて、エルデの獣は大いなる意志の眷獣である
エルデの獣がメルクリウスに相当するのだとすると、メルクリウスにおける大いなる意志は何になるのであろうか?
メルクリウスはギリシア神話におけるヘルメス神のことである。ヘルメス神は神々の伝令使であり、とりわけゼウスの使いであるとされる
ギリシア神話の主神であるゼウスは天空神であり、その名前の語源が「輝く」(dyeu-)であることから、太陽神としての性質もある
つまり、大いなる意志とは天空神ゼウスのことであり、作中にその要素をもつものを探すとすると、ひとつには太陽ということになる
影は薄いが狭間の地にも太陽はある |
ただし太陽に限定されるものではなく、太陽を含む天空(宇宙)を司る神が大いなる意志なのであろう(太陽は大いなる意志の象徴物のひとつに過ぎない)
天空の神なので偽りの夜空の広がる地下世界に祝福の導きが届くことはない。しかしながら祝福があることから、かつて祝福はその地に届いていたと考えられる(かつては地上にあった)
大いなる意志とゼウスの関連性を前提とすると、影従が狼の姿をしている理由にもひとつ思い当たる点がある
ゼウスの異名のひとつに、「ゼウス・リュカイオス」というものがある(Wikipedia)
リュカイオスとはリュカオン、すなわちギリシア語で「狼」と関連のある言葉である。すなわちゼウス・リュカイオスは狼の神ゼウスという意味を持つ
リュカオンの神話によれば、リュカオンは狼に変身したとされ、またゼウス・リュカイオスという神に犠牲を捧げていたという
そしてこのリュカオンたちを滅ぼしたのも、ゼウスであった
つまり狼はゼウスと縁が深いのである(ゼウスの出身地がリュカオンの都だったとする説もある)
影従が今もなお大いなる意志(→二本指→)に仕え、黄金の律の維持に務めているのは、彼らがもともと天空神である大いなる意志を崇めていたからなのかもしれない(そして神の意に背き滅ぼされた)
また太陽と狼とは北欧神話においても関係が深い。神々の最終戦争(ラグナロク)において太陽(ソール)はスコルという狼に飲み込まれる
…おお太陽よ!ソールの冷たい太陽よ!
どうか、蝕まれ給え
魂無き骸に再誕をっ…!(日蝕教会の幻影)
そしてソールでは色を失くした太陽は「大いなる恐れ」と呼ばれている
蝕のショーテル
ソールでは、それは絶望的畏敬の対象である
人は、大いなる恐れから、目を背けることができない
大いなる恐れ、とは大いなる意志の恐ろしい姿を表現したものかもしれない
大いなる石
ブラッドボーンでは、遺志と石は言葉遊び的に使われていた(諸説あり)
大いなる意志を大いなる石と解釈すると、空にある大きな石→太陽ということになる
太陽の都
大いなる意志とゼウスとの関連を想定すると「太陽の都」についてほんの少しだけ解明できるものがあるかもしれない
太陽の都の盾
太陽を戴く都が描かれた、栄誉の盾
だが、これはもうボロボロである
そして、太陽の都もまた
もはやどこにも、存在していない
太陽の都とは、かつて大いなる意志を崇めていた者たちの都ということになる。おそらく太陽の都の住人は狼たちであろう(獣人というカテゴライズかもしれない)
大いなる意志
まとめると、大いなる意志は天空神であり、その無数にある象徴のひとつが太陽であった
かつて大いなる意志を太陽神として信仰していたのが狼たちであった
しかし何らかの不興を買い、その聖地(太陽の都)ともども狼たちは滅ぼされ、現在は信仰者の末裔が、大いなる意志の擁する黄金の律を維持するために存続している
大いなる意志は天空神でもあり、その雷の力(ゼウスの武器は雷霆)は竜たちに受け継がれていった。竜たちは大いなる意志を太陽神ではなく、天空を司る神として信仰したのである
ファルム・アズラが空に浮かんでいるのは、少しでも神に近付こうとした現れであろう
そして女王マリカの時代、大いなる意志は狭間の地への直接的な干渉を停止し半ば引退状態にあった
なぜならば自らの子たる黄金樹が大いなる意志の代わりに神となったからである
その後、エルデンリングを砕かれたことで大いなる意志の干渉は再び活発になるが、大いなる意志の示現は祝福の光という非物質的なものに限られる(光も物理であるが神秘の光という意味で非物質とする)
このような初めは強大であった天空神の存在感が時代を下るにしたがい急速に失われていく現象を Deus otiosus という(Wikipedia)
これは天空神によく見られる現象であり、ユダヤ・キリスト教の神ヤハウェもその例に当てはまる
ユダヤ教では絶大な影響力を見せつけたヤハウェはキリスト教の時代には存在感を薄れさせ、その神の奇跡は主にキリストに託される
この関係性はエルデンリングにおける大いなる意志と女王マリカの関係性に近似している
ヤハウェとキリストの関係は、大いなる意志とマリカの関係とほぼ同一となる |
大いなる意志は天空神である。あるいは宇宙神や宇宙の意志とでもいうべきものであろうか
それは現実の神話に登場するどれかひとつの天空神をモデルにしたのではなく、さまざまな天空神を組み合わせ、そこから天空神の普遍的な特徴(狼との関わりなど)を抽出したものを、独自に解釈した神である
※宇宙神というカテゴリーなのでクトゥルフ的な邪神も混ざっているかもしれない
GRRM的解釈
閉鎖環境に生物を送り込み、それをもって環境に多大な影響を与える。これは極めてGRRM(ジョージ・R・R・マーティン)的な物語構造である
GRRMの著作のなかでも特に『タフの方舟』的なテーマでもある
方舟とは簡単にいえば、生物兵器技術を搭載した宇宙戦艦のことである
その方舟には膨大な量の生物の遺伝情報が保管されており、クローニングと遺伝子操作の技術により、異形の生物を誕生させることもできる
物語はタフが商人として様々な惑星に赴き、そこの顧客に見合った生物を〈方舟〉の力により生み出して販売する、という構造になっている
ある惑星では世界の危機を回避するためにタフの商品を求め、別の惑星では野蛮な娯楽のために異形の生物を求める
しかしその結果としてタフの生物により世界環境は良くも悪くも激変してしまう
送り込まれる生物は相手方の希望とタフの思想が反映されたものであり、紆余曲折を経たのちにタフは金を儲けるのである(『ファウスト』のメフィストフェレス的な人物である)
ただし惑星の住人たちはタフの真意を理解することはできない。その結果タフとその生物に振り回されてしまうこともある
これまでのところ、エルデンリングにおける大いなる意志とは、タフを神格化したような印象を受ける。その真意を狭間の地の生命は理解できないのである
とすると、そもそも大いなる意志とはタフのことかもしれない、という疑念すら芽生えてくる
大いなる意志という正体のよくわからない存在は、実は生物兵器技術を搭載した宇宙戦艦と、それを操るタフなのではないだろうか、と
タフは金銭を目的とする商人である。よって狭間の地にエルデの獣を送り込んだのちは、その料金の回収にいそしむはずである
狭間の地に存在するもので価値あるものといえば、黄金に輝くエルデンリングと、それによって律せられるところの黄金の律であろう
そして黄金の律は生命を司る律である
すなわち大いなる意志はやがて狭間の地に到来し、そこにある黄金と生命のすべてを根こそぎ回収していくのかもしれない(あるいは既に徴収中かもしれない)
その取り立ては無慈悲かつ冷淡なものになるであろう
作中ではあまり強調されてこなかったダークファンタジーのダークな部分が真骨頂を発揮するのは、そのときなのかもしれない(DLC)
蛇足
ゼノブレイド3に備えて「ゼノブレイド1」を攻略していたが、なんとか発売までに間に合った(つながる未来までクリア)
霧の王はどことなく赤子をモチーフにしたような印象を受ける
ゼノブレイド3はゼノブレイドシリーズの集大成ということなので、モノリスという社名の伏線回収も兼ねて「スター・チャイルド」(2001年宇宙の旅)でも登場するのかもしれない
更新ありがとうございます。
返信削除今回も興味深く読ませていただきました。
製作者の過去作品から傾向を読み取る、モデルにしているものから作品内においての意図を汲み取る考察、いわば「メタ考察」を読めるのはここ以外に知りません。
大いなる意思は生命エネルギーのようなものを徴収している訳ですが、
狭間の地の生命は「還樹」して循環する性質を持っているため
エネルギー総量が増えているイメージが無くて、新たになにか徴収できそうなイメージがあまり沸かない感じがしました。
それとも、新たに生命が生まれる際にマージンを取る感じで何割か吸い取ったりしてるんだろうか。
黄金樹がマイクロウェーブ送信機のようになってて少しずつ送信している、とか・・・?