2021年9月10日金曜日

Dark Souls シリーズ考察21 山羊頭の伝統

このブログでは、現実の神話やシンボリズム理論等を作中の設定の考察に援用することが多い


これは何も故なきことではなく、宮崎氏の手法を鑑みてのことである


宮崎氏はダークソウル1のデザインワークスにおいて、「安易な記号化は好きではない」と断言している


ここでいう安易な記号化というのは、例えばデーモン的なデザインとして、何の意図も理由もなく山羊頭の悪魔のデザインをコピーするようなことである


しかし、山羊頭のデーモンに悪魔崇拝的なイメージがあるのは、歴史・文化的な変遷を経てのことである


一つの変遷の例として挙げると、当初はギリシア神話に登場する半人半獣の精霊「サテュロス」だったのが、やがてキリスト教的な理解により、悪魔とされ、また生贄の山羊とも混淆されて、悪魔崇拝の儀式の主催者的なイメージになっていったのである(また直接的には『ベルセルク』に登場する)


またそれは近代のオカルティズムの影響を受けて錬金術的な要素も付与されてきた


こうした伝統を踏まえず、単にデーモン的だからと山羊頭のデーモンを登場させるのは「安易な記号化」の一例である


しかし宮崎氏は、伝統を踏まえたうえで記号として採用するのであれば、否定されるものではない、とも述べている


つまり山羊頭のデーモンは単にデーモン的なイメージだから採用されたのではなく、それが内包する伝統も踏まえた上でゲーム内に登場しているということである


では、ダークソウルにおける山羊頭のデーモンの意味とは何か


山羊頭の悪魔としてもっとも有名なのが「バフォメット」であろう


このバフォメットが近代のオカルティズムを影響を受けた姿が、魔術師エリファス・レヴィの描いた「メンデスのバフォメット」である


このバフォメットには錬金術的な意味が加えられている


「メンデスのバフォメット」の腕には、上がっている方(右腕)に「Solve」(溶解させる)、下がっている方(左腕)に「Coagula」(凝固させる)、と記されている。これは中世錬金術のラテン語「Solve et Coagula」が元であり、「溶かして(分解して)固めよ」「分析して統合せよ」「解体して統合せよ」といった意味となり、卑金属から貴金属を作り出す狭義の錬金術だけでなく、人間の知のあり方や、世界の変革という広義の錬金術にまで、幅広く応用される言葉である。 (Wikipedia)


ダークソウルにおけるデーモンは、混沌の炎によって生み出されたとされる(一部例外あり)


クラーグや混沌の娘は人と蜘蛛の融合したような姿になっている


彼女たちは混沌の炎に飲み込まれ、溶かされた後に固められ(解体して統合され)、人と蜘蛛の融合したような姿になった


つまりここに錬金術的な要素が見いだせるのである


要するに山羊頭のデーモンは、単にデーモン的だからというだけで採用されたのではなく、山羊頭の悪魔が意味する錬金術的な意味合いも含めて採用されているのである


宮崎氏は山羊頭のデーモンについて、ダークソウルというゲーム世界を体現している良い敵、と評価している


それはおそらく、山羊頭のデーモンを誕生させたものが、人間性のによって歪められた、すなわち混沌の炎だからであろう


混沌の炎はあらゆるものを汚染し歪めてしまう人間性の性質をよく表わしている


それによって誕生した山羊頭のデーモンは、歪んだ炎により歪められた存在であり、それはダークソウルという闇によって汚染され歪んでいくゲーム内世界を体現するものなのである



黄金樹

エルデンリングに登場する黄金樹も同じ哲学が貫かれていると考えられる


黄金樹はシンボリズムや神話でいうところの「世界樹」である。それは単に世界に映えるからという意味で導入されたのではなく、世界樹がもつ記号としての意味必要としたから、ゲーム内に導入されたのである


エルデンリングの神話はGRRMの完全な独創ではなく、宮崎氏とGRRMの話し合いの末に創造されたものである


例えば過去に逆さの黄金樹をカバラのセフィロトの樹と比較したことがあるが、当然、宮崎氏はそれがセフィロトの樹と重なることを分かっていて、そのシンボルを採用しているのである


ここで重要なのはセフィロトの樹そのものを導入したのではなく、セフィロトの樹のもつ記号的意味、象徴的意味を利用しているということである


安易な記号化によりセフィロトの樹をそれそのままコピペするのではなく、それの象徴する意味のみを抽出して活用しているのである


宮崎氏ほどの人がセフィロトの樹を知らないはずはないので、逆さまの樹のシンボルは意識的に導入されたものである


宮崎氏は決して、逆さまの樹という記号を彼自身が発明したオリジナルなものとは考えていないだろう。だが、彼のオリジナル性は、逆さまの樹のもつシンボリズムをある種の表現体系として他のシンボルと組み合わせることができることにある


間違いなく逆さまの樹セフィロトの樹という名前ではない。なぜならば、エルデンリングに登場するそれは、逆さまの樹という記号のもつ純粋な象徴性や意味のみを抽出し、溶かし、固めて、生み出されたオリジナルな創造物だからである


ある表象を象徴や記号概念にまで分解し、それを素材として操作し、調合し、合一させることで、まったく新たな創造物を生み出すことができるのである


完全に正反対のものでさえ、象徴界であれば統合することができる


錬金術でいう「賢者の石」である


いくつかの作品において宮崎氏は、反対物の一致によって得られる「賢者の石」を描こうとしているように思える


ダークソウルでは「光と闇」である


それは光の神に火の封をされた闇の者、つまり人間のことである


ブラッドボーンにおいては、「神秘と獣性」となり、その2つの概念の統合体が「上位者の赤子」である


現実界では製作不可能な「賢者の石」はしかし、創造界では可能なのである



環境ストーリーテリング

宮崎氏の手法として他に顕著なのは「環境ストーリーテリング」である


ストーリーを直接的に語るのではなく、空間内に配置されたオブジェクトやアイテムにより、プレイヤーに間接的に伝えるという手法である


この手法については宮崎氏自身も認めている


宮崎氏はIGNのインタビューに答え、『ELDEN RING』のナラティブが曖昧なストーリーと環境ストーリーテリングに重点を置いていることで知られる『DARKS SOULS』に似ていると話した。(IGNJP)


簡単にいうのならば、置かれているアイテムの種類や位置には意味がある、ということである


ゲームのレベルデザイン的な理由で置かれているアイテムもあるが、しかしそれが全てではないのである


この手法について「ゲームの食卓」では、バジリスクエリアに置かれた石像を例に挙げている


例えばそのエリアには不自然なほど石像が置かれているとする。プレイヤーはその瞬間に直接的ではなく環境によってストーリーを理解する


すなわち、そこには人を石化(呪死)させるバジリスクがいると理解するのである


これはTRPGのゲームマスターがプレイヤーを誘導する手法に通じるものである


話がやや逸れたが、ソウルボーンにおけるアイテムやオブジェクトの配置位置、またここに置かれたアイテムやオブジェクトの内容等は、ゲームのストーリーを間接的に物語るものなのである


もうひとつ例をあげると、DS1の「トゲの騎士カーク」の遺体も環境ストーリーテリングの一例である


カークの遺体は混沌の娘の近くに現れる。つまりそれによりカークが混沌の従者であることがプレイヤーにそれとなく仄めかされるのである


2 件のコメント:

  1. こんにちは。いつも楽しく拝読しております。
    リクエストなのですが、鍛冶屋アンドレイについて考察はありませんでしょうか?
    DS3祭祀場の奥にいて、背後に謎の小部屋があり、そして金槌の音で時を刻む…。祭祀場全体がなにか天球図のようであり、立体曼荼羅のようであり、意味があるように感じるのですが、自分では整理がつきませんでした。
    宜しけばご意見をお聞かせください。

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    1. コメントありがとうございます
      リクエストのアンドレイの件ですが、DS1のデザインワークス内のインタビューにおいて
      設定がそれなりに明かされていること、その設定が没になったことが語られております

      その関係でなかなか手が出せなかったのですが
      作中の描写のみから考察してみても面白いかなと思います

      何か思いついたら記事にしてみます

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