ロレッタの骨
幾つか穴の開いた古い人骨
全体に変色している
不死街の女遺体が握りしめていたもの
女の名をロレッタという
ロレッタとは、指輪を渡してくれとグレイラットに頼まれた老いた女の名である
この高壁の下に、汚い街がある
王たちの故郷じゃあない、昔からそこにある…不死街さ
その街に、ロレッタという、老いた女がいるはずだ
(不死街のグレイラット)
渡した指輪を、高壁の下の街、ロレッタという老いた女に渡してくれ
確かにケチな願いだが、まあ、少し寝覚めが悪いものでね…
(不死街のグレイラット)
グレイラット自身が渡しに行かないのは、彼がすでに盗人として顔が割れているからだろう
盗人グレイラットと言えば、それなりに有名だったものさ
もっとも、最後は捕まっちまったけどね…
さて、グレイラットが渡したかったという指輪は「青い涙石の指輪」である
青い涙石の指輪[DS1]
涙石として知られる珍しい宝石は
死の臭いに反応して特殊な力を現す
カタリナの青い涙石は、装備主の危機に反応し
その防御力を一時的に高める
青い涙石の指輪[DS2]
涙石と言われる希少な宝石が埋め込まれた指輪
装備者の危機に反応して
防御力を一時的に高める
涙の神クァトは愛する人を亡くした者を哀れみ
清らかな青い涙を流す
この石はその涙が結晶になったものと
言い伝えられている
青い涙石の指輪[DS3]
涙石を呼ばれる希少な大宝石の指輪
HPが大きく減ると、カット率を一時的に高める
それは女神クァトの、哀れみの涙であるという
そして涙とは、死の側でこそ美しいものだ
作品によって微妙に表現は異なるものの、効果は概ね同じである
ゲームにおける効果はHPが減ると一時的に防御力(カット率)を上げるというものである
作中設定としては、死の臭いや装備者の危機に反応し、防御力を高めるとされる。また青い涙石は女神クァトの哀れみの涙であるとも言われる
※女神クァトは複雑な女神であり、一言に説明するのは難しいので割愛する
グレイラットが不死に頼んでまでロレッタに渡そうとしたのは、このような効果の指輪だったのである
そしてグレイラットはこうも言う
確かにケチな願いだが、まあ、少し寝覚めが悪いものでね…(不死街のグレイラット)
渡すことができなければ、寝覚めの悪いことになる
すなわちロレッタには現時点で生命に危機が迫っており、青い涙石の指輪を渡せなければ、寝覚めの悪い状況、つまり「死亡」すると言外に語っているのである
そもそも不死街を本拠地とするグレイラットが、人を喰うとされるロスリック城に乗り込んできたのは、それ相応の理由があるはずである
危険なのは分かってる。…あの城は、人を喰うからな(不死街のグレイラット)
その彼が盗みに行ったのが「青い涙石の指輪」である
なぜならば、ロレッタの危機を救うためにそれが必要だったからである。彼が青い涙石の指輪の情報をどこから仕入れたかは不明である
しかし彼は捕まって牢獄に入れられた後も、それを隠し持っていたのである(相応の理由と、かなり入念な隠し方をしなければ、取り上げられていたはずである)
ロレッタに病か怪我か、あるいは何らかの危機が迫っていたのか。不死街のグレイラットは彼女を救うためにロスリック城に忍び込んだのである
そして首尾良く「青い涙石の指輪」を盗んだものの最後には捕まり、投獄されてしまったのである
ロスリックの高壁で出会った時に殺害すると、グレイラットは次のようにいって事切れる
ごめんよ、かあちゃん…
Forgive me, dear…(英語版)
「かあちゃん」が正確には誰を指すかは不明だが、グレイラットはロレッタのことを気に掛けていることから、彼女である可能性が高い
またこのセリフを口にするのは、ロレッタに指輪を渡す依頼を不死が受ける前のことである(依頼を受けるとグレイラットは祭祀場にワープする)
よって、殺されたことにより指輪がロレッタに渡る可能性はゼロとなり、それゆえにグレイラットは「かあちゃん」に謝っていると考えられる
日本語の「かあちゃん」は、母親を指すとは別に、夫が妻を呼ぶときにも使われる言葉である
グレイラットの年齢的に「かあちゃん」を母親とするよりも、長年連れ添った妻を呼ぶときの砕けた呼び名、とするほうが蓋然性が高い
またロレッタが死んでいたと分かったときに「…そうか、あの女は死んでいたか…」と呟くことからも、母親ではなく妻であるロレッタ、とするのが自然である(母親をあの女と呼ぶこともあろうが、かなり特殊な状況である)
ロレッタの骨
さて、前置きが長くなったが本題に入る
ロレッタの骨
幾つか穴の開いた古い人骨
全体に変色している
不死街の女遺体が握りしめていたもの
女の名をロレッタという
上述したような事情により、グレイラットに指輪を渡してくれと頼まれたものの、不死街で見つけたのは吊るされた女遺体と、それが握りしめていたロレッタの骨である
グレイラットにロレッタの骨を見せると即座に彼女の死を察することから、女遺体はロレッタであり、骨はロレッタのものである、と解釈することもできる
しかしロレッタの骨のテキストには不可解なことが記されている
ロレッタの骨は古い人骨であり変色しているというのである。またその骨には幾つか穴が開いており、しかもそれをロレッタ自身の遺体が握りしめていたという
自分の古くなった骨を握りしめる女遺体、とはかなり奇妙な状況である
それが骨になるほどの時間が経っているにもかかわらず、それを握りしめている女遺体は、「女」と断定できるほどの状態を保っている
骨に穴を開ける拷問を受け、骨を切り取られ、それを握らされて吊るされた、と考えたとしても、それが古くなっている理由がない
また寡聞にして、そのような回りくどい拷問法は聞いたことがない。拷問による穴だとしたらそれを命じたのは「聖堂の教導師」であろうか
彼女はスパイクメイスを持っているし、骨に穴を開ける道具も揃っている
だが、それでも古くなる理由が存在しないである
とはいえ、時空が歪んだロスリックのこと、グレイラットが捕まってから長い年月が経ち、その間にロレッタが死亡して骨が古びたとも考えられる
しかしだとしたら、グレイラットが時間の経過を知っているはずである。もはや年月が経ちすぎてロレッタが生きている可能性はないと判断するであろう
だが、彼は今もロレッタの生に望みを持って不死に指輪を託すのである
また、ロスリックは王の故郷が流れ着く地である故に、ロスリックと不死街では時間の流れが異なるのだと考えることもできる
だが、不死街は王の故郷ではなく、昔から高壁の下にある街なのである
王たちの故郷じゃあない、昔からそこにある…不死街さ
その街に、ロレッタという、老いた女がいるはずだ(不死街のグレイラット)
つまり、不死街はロスリックの領地であり、互いの時間の流れが歪む可能性は低いのである
つまり、ロレッタの骨が本体から切り離されたタイミングと、それを握りしめていた女遺体の死んだタイミングは相応に離れているのである
ロレッタの骨はかなり昔に穴を開けられ骨を切り離された一方で、女遺体が殺されて吊るされたのは比較的最近のことである
最大の謎
そしてまだ最大の謎が残っている
グレイラットはなぜその骨を見て「あの女」が死んだことを察したのかという謎である
たとえどれほど親しかろうとも、死んで骨になった状態から相手を断定できる人間はほぼ存在しない(頭蓋骨から生前の姿を復元する技術は現実には存在するが)
にも関わらず、グレイラットはロレッタの骨を見て「あの女」の死を確信しているのである
なぜグレイラットは骨を見ただけで「あの女」の死を確信できたのか?
例えばそれを生前のロレッタがいつも手にしていたと考えたらどうであろう
それを握りしめた遺体があったことを聞かされ、またその物品を目にしたならば、相手の死を察することができるのではなかろうか
ロレッタの骨は、ロレッタが生前に手にしていたものであり、彼女の代名詞ともなっていたアイテムとするのならば、グレイラットが一目見て彼女の死に確信を持てたとしても不思議ではない
ロレッタの骨
ではなにゆえにロレッタは「ロレッタの骨」を生前手にしていたのか
ロレッタの骨のテキストには「幾つか穴が開いており」という妙な一節がある
この幾つか穴の開いた骨だからこそ、グレイラットはそれが彼女のものであると確信が持てたのである(穴が開いていなければ、どこかから拾ってきた他人の骨と区別がつかない)
よってグレイラットが「あの女」の死を確信できた理由としては、以下のような事情が考えられる
- それを生前のロレッタが所持していた
- それには他の骨と異なり穴が開いているという特徴があった
- それを握りしめていた女遺体があった
巣の娘
ではなぜ骨に穴が開いており、またそれをロレッタは所持していたのか
ロレッタの骨は「巣の娘」で、犠牲の指輪と交換することができる
巣の娘が交換してくれるのは「ぴゅー」と「ぽこ」に該当するアイテムであるから、ロレッタの骨もそのどちらかに当てはまるはずである
ねえ、ねえ
ぴゅーぴゅーちょうだい
ぽこぽこちょうだい(巣の娘)
You,you.
Me, me, pickle-pee.
Me, me, pump-a-rum(英語版)
英語版では、「ピュー」は「pickle-pee」に、「ぽこぽこ」は「pump-a-rum」に訳される
この言葉は作家ジェームズ・リーヴスの児童詩「The Ceremonial Band」(リンク)に見られるものである
詩の中で、「pickle-pee」は笛の音、「pump-a-rum」はドラムの音として表現されている
例えば「火炎壺」は叩くとぽこぽことドラムの様な音がするので、交換対象になるのである
また帰還の骨片やロレッタの骨などは吹くことで「ぴゅー」と音がするので交換対象になるのである
要するにロレッタの骨は、「笛」なのである
しかも他のもののように、「笛のような音が出る」のではなく、幾つかの穴という仕掛けにより、正真正銘の「笛」として利用されていたのである
ロレッタの骨笛
つまるところ、ロレッタの骨とは、ロレッタの吹いていた骨笛のことである
おそらくその骨笛はロレッタ自身の骨を利用して作られたものであろう
SEKIROにこれと似たような機構のアイテムが登場する
指笛である
ほそ指
年若い女の、ほそ指
忍義手に仕込めば、忍義手となる
獅子猿の腹の内にあったもので
溶けかけている
指笛と言う、忍びの術がある
獣の類いを狂わせる術だ
それを用いたものは、指に穴を開けている
このほそ指には、その跡がうかがえる
「笛を吹く女と、それを聞いていた男」という構図は、SEKIROにおいては、「川蝉と飛び猿」のことであるが、それと全く同じ構造を持つのが「ロレッタとグレイラット」である
SEKIROにおいては、男と女はともに「忍び(はぐれ忍び)」であった。DS3においては、ともに「盗人」である
ロレッタの遺体の近くにもう一つ吊るされている遺体がある。その遺体が持っているのが「ククリ」である
ククリ
カーサスの剣士たちが用いた独特の武器だが
いまや盗賊や盗人の類が好んで使用している
いまや盗賊や盗人の類が好んで使用している、というからには吊るされた遺体は盗賊や盗人だったのであろう
つまり、盗賊や盗人は死刑にされるとき、見せしめに「吊るされる」のである
同じように吊るされていた「ロレッタの骨を握りしめる女遺体」もまた、盗人だったのである
それはおそらくグレイラットの盗人仲間であり、また長く連れ添った妻でもあったのだろう
妻を危機(病気あるいは怪我)から救うために、グレイラットはロスリック王城に忍び込み、青い涙石の指輪を盗み出し、そして捕まったのである
その後、彼は突然現れた不死に指輪を届けることを頼む(自分は不死街では顔が知られている)
やがて彼は帰ってきた不死にロレッタの骨を見せられ、それを握りしめていた女遺体のことを聞かされ、そうしてようやくロレッタの死を確信したのである
この説を見るまであのテキストはちょっとした実装ミスみたいなものだと思ってました。(ぴゅーぽこ可能なのも知らなかった)
返信削除盗んだものを返したいのかなと考えたこともあったけど、まあ不自然でしたね。
考察対象が珍しいのもあってこのブログでトップクラスに好きな記事です。
ありがとうございます
削除ロレッタの骨にまつわる腑に落ちないいくつもの点をたどっていった結果
このような解釈にたどり着きました
重要アイテムなのに交換できる点も「ぴゅー」を強調したかったのかなと思います
交換してしまう人が後を絶ちませんが…
「寝覚めが悪い」という表現がひっかかる…
返信削除彼なりの照れ隠しなのか皮肉なのか
いくら面が割れてようが、死ぬ気で手に入れた指輪を見ず知らずの不死に託すものか?
グレイラット的にはダメ元くらいの考えなんだろうか?
しかし断末魔…