ホレイスはエルドリッチの子供たちの生き残りの一人である
処刑人の兜
沈黙の騎士ホレイスの鉄兜
彼はこの、分厚く冷たい鉄の内を好んだ
元は、ある下種な男を殺し奪ったものであり
その男は堕落した処刑人であったという
ホレイスはエルドリッチの子供たちの一人であり
唯二人の生き残りでもあった
唯二人、とあるように他に一人生き残りがいる
アンリのことである
ああ、ホレイス、どうして…
君も、私をおいていくのか…
あの子たちと同じように、君までが…
(ホレイス死亡時のアンリのセリフ)
あの子たちとは先に死んでしまったエルドリッチの子供たちのことを指す
つまるところ、エルドリッチの子供たちとは、エルドリッチに捧げられた生贄の子供たちのことである
彼らはすぐには喰われずに「エルドリッチの子供たち」として生かされている
というのも、エルドリッチの好みは、悲鳴に浴した生命の震えを喰らうやり方だからである
エルドリッチの青石
おぞましい人喰いで知られるエルドリッチは
きっと伝えたいのだろう
悲鳴に浴し、生命の震えをこそ喰らうやり方を
その恐ろしさを理解できる年齢になるまで生贄は飼育されていたのであろう
さて、エルドリッチの子供たちという呼称には、いくつか理由が考えられる
そのひとつが、エルドリッチに喰われるために養育されている子供の生贄を「エルドリッチの子供たち」と称した、とするものである
そうして捧げられた生贄を喰らい、エルドリッチは薪の王の力を得たのである
例えば、エルドリッチさ
聖職者だった奴は、反吐がでるような人喰いを繰り返し
溺れた豚のように膨れ、蕩けた汚泥となり、深みの聖堂に幽閉された
…そして、エルドリッチは薪の王となった。人品などは関係ない。ただその力ゆえに
(脱走者ホークウッド)
人喰らい
「エルドリッチの子供たち」という呼称については、他にもいくつか理由が考えられる。
例えばアンリたちがエルドリッチの子供たちと呼ばれたのは、実際に彼らがエルドリッチから産まれたからである、とするものである
妊娠中の女性を喰らったエルドリッチが、宿っていた赤子を吐き出した(産んだ)ことで、そう呼ばれたのである
その場合、子供たちはある意味で兄弟になるので、ホレイスを「友」とするアンリの証言とは食い違う
ただし遺伝的には兄弟ではないので、「友」という呼称でもおかしくはない
赤子のみを吐き出す点については、上述したようにそれがエルドリッチの好みではないからである
エルドリッチの好みは「悲鳴に浴し生命の震えを喰らう」ことである
エルドリッチの青石
おぞましい人喰いで知られるエルドリッチは
きっと伝えたいのだろう
悲鳴に浴し、生命の震えをこそ喰らうやり方を
人喰らいの恐怖が理解できる年齢まで、子供たちは養育されたのである
神の子
あるいは、エルドリッチの子供たちとは全員、拉致されてきた女性が深みの聖堂で生んだ子供たちのことを言うのかもしれない
話は脱線するが、現実世界の古代には神殿に聖娼がいた。彼女たちは神殿への参拝客や旅人に春を売る娼婦であると同時に、巫女でもあった
当然ながら彼女たちは父親の分からぬ子を産むことになるが、その子らが何と呼ばれたかというと「神の子」である
聖書外典(『ヤコブの福音書』)によると、聖母マリアは幼い頃から神殿で育てられたという。そのマリアが産んだのがキリストであり、彼は「神の子」と呼ばれている
なぜキリストが神の子と呼ばれるのか、なぜ神殿で育てられたマリアが神の子を産んだのか、という宗教学的な説明がこれである
※付け加えると、春分の日に参詣する男は女神(聖娼)の夫とされた。その日に受胎した女性は冬至前後に出産することになる。クリスマスは元は冬至の祭りだが、キリストの誕生日とされる。
※ユダヤ教の神殿と古代神殿は宗派が異なる。しかし古代のそうした観念なりをユダヤ教やキリスト教は受け継いでいる(例えばノアの方舟伝説がシュメール神話に原型を持つように)
神殿で産まれた子が「神の子」であると同様に、深みの聖堂で生まれた子供たちはエルドリッチの子供たちなのである
人喰いを継ぐ者(追記)
エルドリッチの子供たち、という言葉には「エルドリッチを継ぐ者」というニュアンスもある
つまりエルドリッチの後継者のことである
エルドリッチの行いの後継者とはすなわち、人喰いを継ぐ者たちである
彼らは人喰いを強制され、そして耐えきれず次々に死んでいき、唯一、人喰いを生き延びたのが、アンリとホレイスだったのである
ホレイスは「舌」を持たないために人喰らいを実行できなかったのであり、逆にアンリはその素質ゆえに耐え切れたのかもしれない
後にアンリは亡者の王の伴侶となる資格を得、またその際に暗い穴を3個、亡者の王に受け渡す
アンリがその資格と暗い穴を所持していたのは、アンリが人喰らいにより、その力を宿していたからである
というのも、エルドリッチは人喰らいにより薪の王になる力を得ている。倫理的にどうであれ、その行為は力を得ることが出来るのである
人喰らいにより得られる力とは、人のみが持つという「人間性」の力である。そして人間性とは人が受け継いだダークソウルの欠片である
つまり人喰らいは他者の人間性を喰らうことに等しく、そのようにして貯め込まれた人間性はエルドリッチを薪の王にし、またアンリを亡者の王の伴侶としたのである
またアンリの持つ「アンリの直剣」は、人の本質的な力である「運」により攻撃力が上昇するという
人の本質的な力とは、すなわち人のみが持つという「人間性」の力であろう。アンリがその剣の力を引き出せたのも、アンリに大きな運が宿っているからである
アンリに宿った運とは、人喰らいによりアンリに貯め込まれた人間性の塊である
貴い者
または母子ともに喰われたが、何らかの理由(例えば産まれながらにしての亡者)で生き延びた子を、奇跡の子という意味で、エルドリッチの子供たちと呼んだのかもしれない
彼らは人の本質的な力である「運」、すなわち生き延びる力を持った者たちであり、彼らの強い「運」の根源にあるのは、人のみにあるという「人間性」である
人間性[DS1]
ソウルが生命すべての源であるなら
人のみにある人間性とはなんなのか?
強い運(人間性)を持つ子供たちを喰らうことでエルドリッチは薪の王の力を得たのである
そしてDS1の深淵の主マヌスが人間性を暴走させて深淵を生み出したように、エルドリッチに貯め込まれた人間性はやがて「深み」となったのである
アンリの「運」との関連を見るに、個人的にはこの説を採る(以下「貴い者説」)
アストラのアンリ
さて、ホレイスの故郷は不明だが、アンリの故郷はキャラクター名が「アストラのアンリ」とあるように、アストラと判明している
アンリにとってアストラは「名を知るばかりの遠き故郷」とされる
上級騎士の兜
アストラの名は郷愁と共にあり
アンリもまた、それを求めたのだろうか
名を知るばかりの遠き故郷に
よってアンリは、物心つく前に深みの聖堂に連れてこられたか、あるいは深みの聖堂でアストラ出身の母から生まれたと考えられる
またアンリの語源は「ヘンリック」であり、その意味は「家長」である
この語義を元に解釈するのならば、アストラのアンリは「アストラの家長」、すなわち「アストラ国の王」という意味になる
おそらくアンリの母はアストラ王家の末裔であり、アンリはその最後の生き残りである
囚われたアンリの母を救うためにやって来たのが、大剣を振るうアストラの騎士である
だが彼は敗れ、墓地に埋葬されたのである。あるいはエルドリッチに喰われた後に、剣だけが墓地に捨てられたのかもしれない
深みの聖堂の墓地には「アストラの大剣」を所持した遺体がある
また深みの聖堂の入り口には、アストラ由来の「紋章の盾」が供えられた墓もある
ここはアンリが立っている場所でもある |
紋章の盾
名も知らぬ騎士の盾
恐らくはアストラの上級騎士のもの
子供のアンリには大剣を振るうことも、盾を構えることもできない。よって大剣を振るい盾を構えた者がいたということになる
また武器を携えて来るからには、生贄として連れてこられたのではなく、そこに何らかの武力を有する要件があったのである
そして墓が一つと遺体が一体あることから、少なくとも二人のアストラ騎士が深みの聖堂にやって来たことになる
彼らはアンリの母を救いに来て望みを果たせなかった者たちであろう。墓は大剣の持ち主が先に死んだ盾の持ち主を葬ったものだろうか
亡者の王の伴侶
「貴い者説」を採るのならば、アンリはエルドリッチによって喰われて死んだ母から、強い運を持って産まれてきた亡者である。すなわち、死者から産まれた産まれながらにしての亡者である
※『ベルセルク』のガッツと似たような誕生譚である。自然の摂理として死者から生者は生まれない。よって、そのような生まれにある子供は特別な運命をもつ
アンリの直剣は「本当に貴い者の剣」とされ、人の本質的な力、運によって攻撃力が高まるとされるが、同じように運によって攻撃力が高まる派生は「亡者」と呼ばれる
アンリの直剣
火の無い灰の一人、アストラのアンリの愛剣
亡国アストラにあって、最も鈍らとされたもの
だがそれは「本当に貴い者の剣」であり
人の本質的な力、運により攻撃力が高まる
亡者の貴石
亡者の武器は人の本質を見るといい
その攻撃力は運により高まる
後にアンリは亡者の王の伴侶として契りの儀式に差し出される。亡者の王に相応しいのは、生まれながらにして亡者であり、人喰らいという惨劇を生き延びた「強運」を持つ者である
貴公、王者たるもの、相応しい伴侶が必要だろう?(ロンドールのユリア)
処刑人
アストラの大剣があるのは墓地だが、そこは処刑場でもあった。その近くの広場に処刑人の大剣が落ちているからである
処刑人の大剣
堕落した処刑人の持ったという大剣
首切りのための断頭剣
ちなみにホレイスが着用しているのは、この処刑人の鎧である
処刑人の兜
沈黙の騎士ホレイスの鉄兜
彼はこの、分厚く冷たい鉄の内を好んだ
元は、ある下種な男を殺し奪ったものであり
その男は堕落した処刑人であったという
他にホレイスが装備しているのは「リンドの盾」であるが、この盾はDS2の時代には名工リンドがミラから持ち込みドラングレイグに献上されたものである
左がリンドの盾、右がドランシールド |
ドランシールド
名工リンドの手によるこの逸品は
彼自身がミラから持ち込み、
ドラングレイグに献上されたものである
唯二人の生き残りアンリとホレイスは、故郷喪失者であるがゆえに、自らのアイデンティティを取り戻すために故郷を目指したのである
アンリの故郷はアストラであり、ホレイスの故郷はミラ、あるいはドラングレイグである
アストラ
アンリは復活した火の無い灰である。アンリが活動していた時期はエルドリッチの深みの聖堂時代と重なるという他は絞り込むことができない
よって、アストラを襲った邪眼の悪霊をアンリが撃退したのかについては不明である
しかしながらDS1の時代のアストラは邪眼の悪霊に襲われてからすでにかなりの時間が経過している
邪眼の指輪[DS1]
かつてアストラを襲ったという魔物
邪眼の悪霊を封じ込めた指輪
邪眼の指輪[DS3]
かつてアストラを襲ったという魔物
邪眼の悪霊を封じ込めた指輪
恐るべき悪霊はアストラを崩壊寸前まで追い込み
しかし「本当に貴い者の剣」の前に敗れ去ったという
もし最初にアストラを襲った邪眼の悪霊と、本当に貴い者の剣の前に敗れ去った邪眼の悪霊を同じものとするのならば、邪眼の悪霊を倒したのはアンリではないということになる
というのも、DS1の時代にはじめて人が薪の王となったからである(グウィン→DS1の主人公)
つまりエルドリッチが薪の王となったのは、DS1の時代以降のことになり、同じ時代に生きていたアンリが邪眼の悪霊を倒せるタイミングは存在しない
とはいえ上述したように、アンリはその名から判断するにアストラ王家の末裔である
彼の祖先が人の本質的な力を多く宿しており、「本当に貴い者の剣」の力を引き出して邪眼の悪霊を倒したのかもしれない
その後、アストラは没落して亡国となり、「本当に貴い者の剣」の力を引き出せるものもいなくなったため、「最も鈍ら」とされたのである
アンリの直剣
火の無い灰の一人、アストラのアンリの愛剣
亡国アストラにあって、最も鈍らとされたもの
だがそれは「本当に貴い者の剣」であり
人の本質的な力、運により攻撃力が高まる
最も鈍らとされていた剣が「本当に貴い者の剣」という真の力を取り戻した要因は、亡者の王の伴侶に相応しいとされたアンリの「運」の力が大きいように思える
外征
亡国となったアストラを侵略したのが、法王サリヴァーンの外征騎士たちである
細々と命脈を保ってきたアストラ王家の末裔は外征騎士に捕まり、サリヴァーンによってエルドリッチに引き渡されたのである
少し話は変わるが、法王の左眼は邪眼の指輪と効果が類似している
法王の左眼
法王サリヴァーンが騎士たちに与えた魔性の指輪
攻撃が連続すると、HPを回復する
その黒い瞳は見つめる者を昂ぶらせ、死闘へと誘い
やがて騎士を獣のような狂戦士に貶めてしまう
故に法王は、外征に際してのみこれを与えたという
法王の左眼を与えられ狂戦士となった外征騎士たちは、いうなれば邪眼の悪霊といえなくもない
アストラに至ったアンリは祖先と同じく“邪眼の悪霊”を撃退したのかもしれない。類似した物語構造の反復はダークソウルシリーズではお馴染みである
アストラのアンリ
エルドリッチが人喰らいにより薪の王になったことで、亡者であったアンリは眠りに就く
火の燃え盛る時代においてダークリングは消え去り、亡者はその活動を停止させるからである
今や、火はまさに消えかけ
人の世には届かず、夜ばかりが続き
人の中に、呪われたダークリングが現われはじめていた…(DS1オープニング)
ダークリングは呪われた不死の証
だからこの国では
不死はすべて捕らえられ、北に送られ
世界の終わりまで、牢に入る
お前もそうなるんだよ(DS1オープニング)
火が消えかけるとダークリングが現れ、呪われた不死となる。逆に言えば火が盛んであればダークリングは消失し、不死は死者となるのである
やがて王たちは火継ぎを拒否して玉座を捨てる
そのとき再びダークリングは現れ、薪にもなれなかった亡者、火の無い灰たちが呼び起こされるのである
呼び起こされる火の無い灰は、玉座を捨てた王たちに因縁のある者である
アストラのアンリはエルドリッチに、ホークウッドは深淵の監視者に、ジークバルトは巨人の王ヨームに、そしてプレイヤーは恐らく王子ロスリックにそれぞれ因縁を持っている
※DLCの火の無い灰フリーデに対応するのは、小人の王たち、あるいはルドレスであろうか
死者の母から産まれた亡者の中の亡者であるアンリは、エルドリッチを殺す使命を帯び、そして王者の伴侶となる資格も有していた
でも、私にも使命があります。火の無き灰、王の探索者として
いえ、それよりもただあの子たちのために、一人でも向かうべき使命が(アストラのアンリ)
お願いします。貴方の力を貸してください
エルドリッチを、あの人喰らいの悪魔を、殺すために(アストラのアンリ)
貴公、王者たるもの、相応しい伴侶が必要だろう?(ロンドールのユリア)
蛇足
「エルドリッチの子供たち」という呼称は、あれこれと妄想がはかどるという点で、とても優れたネーミングである
孤児である子供たちを養育してアレコレというのは、ブラッドボーンの聖歌隊と共通する構造である
ただしこちらの子供たちの多くは、エルドリッチに供されたようである(成長して深みの教主たちになった、とも考えたのだが、あくまで生き残りは二人である)
余談だが、エルドリッチと子供たちの関係は、アンリがフランス的な名前であることも含めて、「青髯、ジル・ド・レ」(Wikipedia)を彷彿させる
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