GOTYシーズンなので、これまで手が出なかった本作を今更プレイ
手が出なかった理由
- 海外向けの作風が海外で受けているだけではないか?
- ソウルライクに慣れた今、ターン制に馴染めるのか?
- 世界観が独特すぎるのではないか(作り物めいて見える)
クリア後の筆者の答え
1.海外向けのストーリーが海外で受けているだけではないか?
例えば海外のコアなゲーム知識や古典名作の教養を前提としており、その点が海外勢にとても受けていて、でも日本人からするとピンとこない、という作品があるように思う
しかし本作のテーマは「家族」という普遍的なテーマである。なんなら邦画で一年に一本は出てくる「家族の崩壊と再生を描いた作品」の系譜である。むしろ日本人に最も馴染みのあるテーマではないかと思う
さらにいえば『千と千尋の神隠し』や『君たちはどう生きるか』の主題である「自分探し」の作品でもあるように思う
何らかの問題を抱える主人公が異界に迷い込み、そこでの出会いや出来事により自分という輪郭を形作っていく。元の世界に戻った主人公はそれまで対立してきた世界と和解する、というのがおおよそのあらすじである
また本作の異世界の描き方は「人の精神を世界観に反映」という、日本のゲームでよく使われる手法が用いられている(例えばペルソナシリーズやサイレントヒルシリーズなど)
つまるところ、題材も描き方も既視感バリバリである。しかしだからといって退屈というわけでもない
これは映画的な見せ方が上手いからだろう。様々な情報をぼかしたままストーリーがふわっと進んでいくが、役者の熱演もあって長いカットシーンでも説明を延々と聞かされているような感覚は希薄である
少し話は変わるが、世の中には創作者の見せたいシーンのみを集めたんじゃないかと思うような作品がある。細かいことなんてどうでもいいんだよ、とばかりに作者のやりたいことだけを詰め込んだ作品である
※具体例を挙げると差し障りがありそうなので伏せるが、最近ガンダム作ったところとか
本作はそれに近い
※得てしてつじつま合わせに必死になって作品自体がこぢんまりしてしまったような作品よりも面白いことが多い
2.ソウルライクに慣れた今、ターン制に馴染めるのか?
本作はターン制とアクションのハイブリッドである。パリィ主体で戦う時のソウルシリーズのボス戦と類似している部分もあり、その肝(キモ)を抜粋したようなシステムともいえる
例えば敵の攻撃を瞬時に判断して適切な行動を取ることにより大きなリターンを得られる、という流れはSEKIROとほぼ同一である
※SEKIROでは「危」の表示が出たら適切な行動を取ることで大きなリターンを得られる。この部分だけを切り取ってターン制ゲームに組み入れると本作になるのかなと思う
攻撃面はターン制ではあるがQTEがかなり頻繁に入るため、敵の攻撃を漫然と見ているだけの時間は少ない。またビルドの組み方によって驚くほど大ダメージが出たりするところなどはFF10、FF12、FF13を彷彿とさせる(もしくは戦闘システムを完全に理解した後のゼノブレイド2など)
結論としては想像していたような退屈なターン制ではない。JRPG全般の深い戦術性とアクションの爽快感の良いところ取りした戦闘システムだ。おそらくはターン制愛好者よりも、ソウルライク経験者の方が違和感なくプレイできるのではないだろうか
3.世界観が独特すぎて物語に入り込めるか疑問
あまり現実離れした世界観は世界が作り物のように感じられて没入感を妨げるのではないか
本作の世界観ならびにフィールド構造はゼノブレイドシリーズによく似ている印象を受けた。攻略中、ゼノブレイド2のアルス内部を探索していた時のことを思い出したのも一度や二度ではない
フィールド構造の点でも、見せたいものだけをプレイヤーに見せるという制作者の姿勢が貫かれていると思う。どのエリアも洗練されたアートスタイルがあり、プレイヤーの感性を揺さぶってくるからだ
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| ヴィサージュとシレーヌは美的センスが爆発している。画像はヴィサージュ |
ただしソウルシリーズのように複雑なマップ構造はしておらず、基本的に一本道である。ダンジョンを探索する楽しさは少ない。加えてミニマップがないので迷いやすい
世界そのものの探索も探索範囲が敵の強さによって限定されているので自由度は少ない。あってもミニゲーム程度なのは残念(ミニゲームについてはブラッシュアップできなかった模様)
また大きなネタバレになるが、実際に本作の世界は作り物である。これまで冒険してきた世界が誰かの創作物だった、という展開は過去の作品(例えばSO3)にもあるがプレイヤーの評価が分かれるところであろう
とはいえ本作ではその世界構造がストーリーを拡散させず、かえってまとめることに奏功しているように思う。この世界はあくまでも一家族の現実に根ざした世界であり、絵画という一定の世界範囲を有しているのである
故にその結末は主人公の成長による家族(世界)との和解(もしくは拒絶)によって為される
結末についてはかなり序盤から予想がつくため、終盤あたりの展開は驚きが少ない
JRPGとの比較
上述したように本作はJRPGに大きな影響を受けている。ゲームにそれほど詳しくない筆者でも影響を受けた作品を思い浮かべられるほどだ
しかしJRPGと違う点もある
まず第一に青臭い展開がない。一般的なJRPGのキャラクターたちの年齢が十代~二十代なのに対して本作は一人を除き三十代である(モノコの年齢はよく分からないが子供がいるので大人だろう)
当然ながら本作には思春期特有の自我肥大に起因する共感性羞恥を刺激するような行動をとるキャラクターはいない
またキャラの特徴を強調したいあまりに人格崩壊が疑われるレベルで迷惑行為を行なったりわがままを言ったりするキャラクターもいない
本作は基本的にみんな大人なので、普通の大人として行動する
反面、キャラが薄いようにも感じる。筆者は中盤くらいまでキャラクターの名前を覚えられなくて戦闘ギミックの違いで各キャラを判断していた
世界観的な理由もあってマエルとヴェルソ以外のキャラのストーリー的な立ち位置は不遇である。長い時間一緒に冒険してきたというのに、あまり思い入れがない
ヴェルソとモノコの加入の仕方もかなり唐突である。またギュスターブはそもそも必要だったかなと疑問に思う
※ギュスターブの存在はおそらくオープニングでのギュスターブとソフィーの「絵」を見せたかったというのと、ACT1のラストの展開がやりたかったという理由が大きい気がする。とはいえマエルがこの世界を好きになる理由として存在していることも理解できる
レビュー
すでに多くのことは述べた気がするのでカテゴリごとに短評と点数を付けていくことにした
世界観 89/100
象徴主義の絵画の中にいるような世界観には美学が感じられる。全編を通じて芸術作品に対する深い造詣とリスペクトに溢れている
※象徴的な場面で使われる「明日は来る」は『レ・ミゼラブル』(映画・ミュージカル)の「民衆の歌」からの引用であろう。またルミエールという名は映画の父リュミエール兄弟から採られたものだろう。その他スタンダールなどでもニヤニヤできる
ただし上述したように個人的には過去の作品の既視感が強い。死ぬまでのリミットが決定されているという設定についてもゼノブレイド3でそんな設定あったような、と思わないでもない
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| 「明日は来る」 |
ストーリー 92/100
無節操に話を広げず家族の話としてまとめたところは高評価。またマエルを主人公としてみると王道のストーリーであることが分かる
ストーリー構造だけを抜き出してみると以下のようになる
ある出来事がきっかけで崩壊した主人公の家族。自身も苦悩を背負う主人公は異世界に迷い込み(転生)、様々な出会いや出来事を通じて成長。やがて主人公は真正面から家族と向き合い、崩壊した家族との関係を修復していく(エンディングの分岐にもよる)
本作の重要なテーマである絵画用語で例えるのなら、マエルは絵画修復師と言ったところだろうか
すなわち本作は「家族の崩壊と再生」、「英雄の異世界への訪問と帰還」という2つの王道ストーリーを高い水準で融合させた作品である
本作の評価が高く、すでにGOTYを受賞しているのも不思議ではない。『千と千尋の神隠し』がアカデミー賞を受賞したように、こうした王道ストーリーは文化の壁を越えて受容されやすいからだ
キャラクター 84/100
全体的に掘り下げ不足。“家族”以外のキャラクターはストーリー的に不遇だし印象が薄い。それぞれの境遇はさらっと語られる、あるいは示唆されるだけなので感情移入はしにくい。映画のスクリーン越しに役者の演技を観ているような感覚になる
また“家族”についても、それぞれの苦悩が充分に語られているとは言い難い。やり過ぎるとくどくなるのは分かるが、描写が不足しているために“現実の家族”と“創られた家族”の差異が分かりにくい
ヴェルソ、モノコ、エスキエの関係性は好き。敵キャラではルノワールが良い。というかそれ以外の敵キャラをあまりよく覚えていない
戦闘 88/100
ターン制にアクションを融合させたシステムはこれが起源でもないし、ターン制ゲームの一つの選択肢であるに過ぎないが、完成度は高い
ビルド構築についてはFF10~13、戦闘の流れはゼノブレイドシリーズとよく似ていると感じた。またコマンド選択時のアートスタイルはペルソナに影響を受けていると思われる(プレイしてきたJRPGによって思い浮かべるものは違うだろう)
アクション面ではSEKIROに類似するが、重要な要素である“立ち回り”はない
例えばSEKIROでは立ち回り次第で相手の行動をある程度コントロールすることができる。その意味でSEKIROはジャズのような即興的なプレイもできるのだが、本作は決められた譜面をプレイする音ゲーに近い
ビルドの自由度に比べて実際の戦闘面での自由度はあまりない。敵のアクションに対して常に適切な対応をとる必要がある。だが立ち回りがないのでどのようなビルドを構築しても、どのような敵に対しても、展開が同じになりやすい
またキャラを強くしすぎると「物理で殴る」だけの作業になるので注意(後悔している。これにかんしては筆者の自業自得なのでマイナス評価はない)
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| 定番のレベル上げポイント「秘密のアリーナ」ACT1の時点で15秒で3万xp+武器強化素材。ややバランスブレイカー |
音楽 89/100
全編を通じて名曲が流れている(捨て曲がない)。ルノワール戦のヒロイックな曲が良い。ただしキャンプ以外は基本的にいつでも曲が流れているので、世界の寂寥感のようなものが薄れ気味
タイトルのClair Obscurは明暗法を意味するフランス語であるが、音楽の使い方に関しては「明」一辺倒でやや単調。もう少し詫び寂びのようなものが感じられたら良かった
例えば『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』はそういう音の使い方が抜群に上手くて、余計な音楽は流さないし、その時に聞こえる風の音や虫の音、草原を走る時の足音などがとても印象的で心に訴えかけてくるものがある
本作はそういった“世界にいる感覚”は希薄で、では何かというとやはり“映画を観ている”感覚に近い。そしてずっと音楽が鳴ってることからミュージカル映画(例えば『レ・ミゼラブル』のような)を観ている気になる
革新性 80/100
完成度は高いけどオリジナリティは…、という作品が昨今は多い印象。本作もご多分に漏れず完成度は高いものの、多くの部分で既視感が強い
本作の革新性をあえて挙げてみると、JRPGをJRPGの文法のままフランスで製作した、という点につきると思う
この点が一部のJRPG嫌いに奇妙な作用を引き起こし、やや甘めの評価を受けている気がしないでもないが、本作を賞賛すればするほどJRPGを賞賛していることになることに気づいているのかいないのか…
総評 90/100
ターン制とアクションを組み合わせた戦闘システムは秀逸だが一長一短
両者を高い水準で融合させることに成功しているものの、アクションが苦手な人はターン制ゲームでまでアクションを強要されたくないだろうし、逆にアクション好きにはやや物足りない
とはいえ停滞しつつあったターン制ゲームを再興させたことは大いに賞賛されるべきであろう
すなわち本作の真の価値は新たな創造にではなく、暗黒時代を終わらせた再興(ルネッサンス)にある
奇しくも崩壊と再生は本作のテーマでもあり、それは新しい世界の誕生を意味するのではなく、すでにあって壊れてしまったものを修復することを意味する
つまるところ本作はかつて隆盛を誇ったものの昨今は衰退したJRPGというジャンルが復興したことを世に知らしめる作品であった
※JRPGが衰退したという点については異論が有ろうと思う。ペルソナシリーズやゼノブレイドシリーズなど近年も名作が出ているからである。プレイしていればJRPGが死んでいないことは分かる。だが、一部のJRPG嫌いの人々はそう思っていなかった。その間違った思い込みを本作が吹き飛ばした、という論旨である
本作はGOTYに値する作品である。しかしそれはまったく独創的なゲームだからではなく、RPG(JRPGではなくRPG)のこれまで気づかれていなかった底力を思い出させるものだったからである
この点については、本作が日本ではなくフランスで製作されたということが大きな意味を持つ。JRPGは日本というガラパゴス環境のみで作ることのできるジャンルではなく、より汎世界的なジャンルになるポテンシャルがあることを証明したからである
RPGから生まれたJRPGが普遍性を獲得したことでJRPGから“J”が “抹消”され、再びただの“RPG”に戻る時期にきているのかもしれない
というか日本人はJRPGを作ろうと思ってJRPGを作っていたわけではなく、ずっとただのRPGを作ってきたのだと思う。なぜかそれをJRPGという蔑称に落とし込んだ人たちがいて、なぜかその蔑称が定着したわけだが、ようやくJRPGがどこの国でも作ることのできるRPGであることに気づいた、ということなのかもしれない
そうした点で本作はゲーム史に残る作品であり、GOTYに相応しい傑作である
蛇足
ARC RaidersとClair Obscur Expedition 33のおかげでモチベーションが復活しつつある
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| レベル上げポイント2「暗き海岸」。Act3開始直後から行ける。最初はやや苦しいがどうにか倒してヴェルソの武器を入手した後は余裕。パリィする必要すらなく35秒前後で80万~130万xp+強化素材。ラスダンに備えて気合い入れて上げたものの後悔している |
ちなみにClair Obscur Expedition 33に関しては実際にプレイするまでかなり懐疑的だったのでGame Passで安くすませてしまったが、フルプライスで買っても後悔しないクオリティ(安くなったらSteamあたりで買い直そうと思っている)
Game Passは値上げされたが、Amazonや楽天ブックスで値上げ前の値段でコードを購入でできる。1ヶ月1450円(これにポイントがつく)。3ヶ月の場合は1ヶ月無料延長がつくらしい
ちょっと気になっているもののフルプライスやセールでも高いという人がいたらGame Passえで触ってみるのもいいかもしれない。筆者としてはフルプラ(もしくはセール)で購入することを推す




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