前回は「エルデの獣の系譜」を検討したので、今回はその対立者となる「マリカの系譜」について考えてみたい
※陰謀の夜、破砕戦争、現在についてはマリカの関わる部分のみ言及
マリカ
マリカが現黄金律に疑義を抱いていたことは「マリカの言霊」にほのめかされている
黄金律の探究を、ここに宣言する
あるべき正しさを知ることが、我らの信仰を、祝福を強くする
幸せな幼き日々、盲信の時代は終わる
同志よ、何の躊躇が必要だろうか!
※この言霊を聞いた後ジェスチャー「外なる律」を取得
おお、ラダゴンよ、黄金律の犬よ
お前はまだ、私ではない。まだ、神ではない
さあ、共に砕けようぞ!我が半身よ!
マリカはそれまでの黄金律への信仰を盲信と切って捨て、黄金律原理主義を掲げるラダゴンを黄金律の犬と蔑んでいる
黄金律の探究を宣言したマリカが向かったのは「外なる律」である。この外なる律に該当する律としては「狭間の外の律」と「夜の律」が考えられる
狭間の外の律
明言されているわけではないが、狭間の外にも世界を律するルールのようなものがあると考えられる
マリカの黄金律探究は狭間の外に同志を送り込むことにより為されたのである
我が王よ、王の戦士たちよ。お前たちから、祝福を奪う
そして、その瞳が色褪せるとき、狭間の地を追放する
外に戦を求め、生き、そして死ぬがよい
そして、お前たちが死した後、いつか奪ったものを返そう
狭間の地に戻り、戦い、赴くままにエルデンリングを掲げるがよい
死と共に、強くあれ。王の戦士たちよ、我が王、ゴッドフレイよ
あるべき正しさを知るために同志たるゴッドフレイを追放することすら躊躇しない。その意気込みが表れたのが上記に引用したマリカの言霊なのであろう
黄金律の探究を、ここに宣言する
あるべき正しさを知ることが、我らの信仰を、祝福を強くする
幸せな幼き日々、盲信の時代は終わる
同志よ、何の躊躇が必要だろうか!
※関係ないが「何の躊躇が必要だろうか!」の文言は「デラシネ」にも登場する
運命の死が封印された狭間の地ではデミゴッドは不死である。しかし、不死ゆえに生命は歪みつつあった
そこで死すべき存在として狭間の外に赴き、死と共に――それはつまり衰えてしまった生命をもう一度輝かせることである――強くなり、ふたたび狭間の地に帰還してエルデンリングを掲げる
それは死を拒絶した「現黄金律」を克服する試みであり、黄金律のあるべき正しさを知る方法なのである
その時、黄金樹は豊穣を取り戻し、信仰と祝福は蘇るのである
黄金樹の恵み
かつて、黄金樹は豊穣であった
そして、それは束の間であった
すべての生命と同じように
夜の律
黄金律の探究を宣言した後、マリカの肉体はエルデの獣に乗っ取られていったと考えられる
幻視の器たるマリカの肉体を制御下に置いたエルデの獣は、赤髪のラダゴンとしてマリカとは別の路を行く
それが英雄ラダゴンによるリエーニエ侵攻である。マリカと同様に黄金律の不完全を悟ったラダゴンは、完全たるを目指し夜の律を源流とする魔術を修めている
ラダゴンの肖像
赤髪のラダゴンは
カーリアのレナラの夫として魔術を修め
女王マリカの夫として祈祷を修めたという
英雄は、完全たるを目指したのだ
リエーニエでの黄金律探究は神人ラニという成果をもたらしたが、ラニが宿していたのは黄金の律ではなく夜の律であった
失望したラダゴンはレナラと子供たちを捨て、第二のエルデ王として王都に帰還。マリカの肉体を用いてミケラとマレニアを誕生させる
この後のラダゴンとミケラの関係性については前回述べたので省略する
さて、マリカとエルデの獣の争いは、人と獣の争いを、ひいては理性と獣性の相克を反映したものである
ここには獣として誕生した人類が獣性を統御しきれるか、それとも獣性に飲み込まれてしまうのか、という根源的なテーマがあるように思う
※理性と獣性の狭間で翻弄される人類というテーマはブラッドボーンにも描かれている
狭間の地とは、理性と獣性の狭間にある地という意味なのかもしれない
ゴッドフレイ
マリカにとってゴッドフレイは黄金律探究の同志であり、またやがて狭間の地に戻ってラダゴンを駆逐し、エルデンリングを掲げることになる次のエルデ王である
我が王よ、王の戦士たちよ。お前たちから、祝福を奪う
そして、その瞳が色褪せるとき、狭間の地を追放する
外に戦を求め、生き、そして死ぬがよい
そして、お前たちが死した後、いつか奪ったものを返そう
狭間の地に戻り、戦い、赴くままにエルデンリングを掲げるがよい
死と共に、強くあれ。王の戦士たちよ、我が王、ゴッドフレイよ
このようにマリカは現黄金律に疑義を抱いているものの、エルデンリングへの信仰は揺るぎない
黄金律の探究を、ここに宣言する
あるべき正しさを知ることが、我らの信仰を、祝福を強くする
幸せな幼き日々、盲信の時代は終わる
同志よ、何の躊躇が必要だろうか!
前回述べたが、これはエルデンリング(肉体)とエルデの獣(魂)がそれぞれ別物だからである(もとはエルデの獣という生命体)
マリカにとって信ずるべきはエルデンリングのみであり、エルデの獣はそれに付随してきた寄生虫のようなものである
だが運命の死を封印したことで不死となった寄生虫を駆除するのは至難の業である。またエルデの獣(魂)はマリカの肉体を乗っ取りつつあり、やがてそれはラダゴンとして現われる
おお、ラダゴンよ、黄金律の犬よ
お前はまだ、私ではない。まだ、神ではない
さあ、共に砕けようぞ!我が半身よ!
ラダゴンに対抗するための最初の試みが、あるべき正しさを狭間の外に求める、黄金律の探究であった
ゴッドフレイは狭間の外に追放されるが、死と共に強くなり、やがてエルデ王として帰還する
その時、不死たる寄生虫ラダゴンは駆除され、黄金律はあるべき正しさを取り戻し、信仰と祝福はより強く復活するのである
※マリカは外の律に含まれる「死」をゴッドフレイが持ち帰ることを期待していたのかもしれない
陰謀の夜
陰謀の夜にマリカが関わっていたかについては、さまざまな解釈があり、またどの仮説も確定というまでにはいかないように思う
※ラニの関与についてはラニの考察のときに述べる
上述したようにマリカはエルデンリングに対しては信仰を持ち続けている。よって最初からエルデンリングを砕く目的で陰謀の夜を計画したとは考えにくい
また息子であるゴッドウィンの暗殺をマリカが望んだとも考えにくい
しかしながら、陰謀の夜に暗躍した黒き刃は稀人でありマリカの同族であったともされ、またマリカは運命の死を封印したマリケスを裏切ったとも記されている
稀人のルーン
稀人は、かつて狭間の外からやってきた
女王マリカの同族であるという
黒き剣の追憶
マリケスは、神人に与えられる影従の獣であった
マリカは影従に、運命の死の封印たるを望み
後にそれを裏切ったのだ
これらの情報を繋ぎ合わせると、マリカが同族である稀人に運命の死を盗ませ陰謀の夜を起こした、と解釈することもできる
もしマリカが関与していたのだとしたら、エルデンリングを砕くためでもゴッドウィンを暗殺するためでもなく、いったい何のために陰謀の夜を起こしたのであろうか
結論から言えば、寄生虫駆除のため、である
ミケラとマレニアの誕生後、永遠の若さを宿すミケラは、エルデの獣が宿る次なる幻視の器として期待されていた
しかしミケラは黄金律原理主義がマレニアの宿痾に無力であることに失望し、原理主義を捨てる
それは父ラダゴンと共にエルデの獣をも拒絶することであった。そのうえミケラは外なる神の干渉を退ける「針」を作りだしてしまう
三本指の干渉さえ無効化できる「針」はエルデの獣の力をも退ける可能性があった
だがラダゴンはすでにマリカに代わる神(兼エルデ王)として狭間に君臨している。最も恐ろしいデミゴッドとはいえミケラを捕らえて強引に幻視の器にすることも不可能ではない
そこでミケラはトリーナという睡眠の聖女を創造し、眠りの中、つまり夢の世界に逃げ込んだのである
※横道に逸れるが、DLCの舞台として筆者が予想するのは「冥界」と「夢の世界」である。夢といっても上位者の創り出す夢なので、その実在性は現実と変わらない
ファリスの製法書【1】
聖女トリーナに心奪われた男の製法書
彼は眠りの中に、トリーナを探し続けた
トリーナの剣
トリーナは、謎めいている
儚い少女であるといい、少年であるといい
忽然と現れ、忽然と消えていくという
獣性に支配されつつあるとはいえ、マリカは肉体の制御を取り戻すこともあった。そこでマリカは身中に潜むエルデの獣を殺すべく、運命の死を解き放つことを決意したのである
そのマリカの陰謀を利用したのがラニである。彼女は運命の死の力を使い自らの肉体のみを殺して、黄金律の支配から脱することに成功したのである
※これは夜の律に連なるラニの魂が、黄金律に連なるラニの肉体に囚われていたからである。肉体という牢獄に囚われた魂という考え方は心身二元論的であり、グノーシス思想やオルフェウス教を想起させる
わが子であるゴッドウィン、そして多くのデミゴッドを殺されたマリカは、しかし当初の計画だけは完遂しようとする
つまり自らの身体を砕くことで、己の内に巣くう寄生虫、エルデの獣の魂を殺そうとしたのである
結果、エルデの獣を傷付けることには成功したものの、エルデンリングも砕いてしまう結果となった
エルデンリングの破壊は大いなる罰とされ、マリカは黄金樹内部に囚われることになる
※黄金樹という牢獄に囚われるマリカの霊魂という、肉体に囚われる霊魂のモチーフが繰り返されている
破砕戦争
マリカの肉体はエルデの獣のものとなり、ラダゴンとしてエルデンリングを修復しようとするも、完全に修復することはできなかった
そのうえ大ルーンを得たデミゴッドたちは、次なるエルデ王または神になろうと互いに争い始める
だが現黄金律に執着するラダゴンにとって、自分以外の神やエルデ王は絶対に認められない
そこでラダゴンは拒絶の刺により黄金樹を封鎖
運命の死を解放しなければ破れない拒絶の刺と、その運命の死を封じたマリケス(デミゴッドの死)という布陣を構築した段階で、破砕戦争の泥沼化は避けられない事態となった
※破砕戦争の顛末があまりにもラダゴンに都合が良いことから、ラダゴンが暗躍したのではないかとも思われる
そしてラダゴンの目論見通り、破砕戦争は膠着状態に陥り狭間の地は荒廃していく
現在
やがて大いなる意志はデミゴッドを見放し、褪せ人を狭間に呼び戻す
ここに来てようやくマリカの最初の策が功を奏し始める。狭間の地に帰還した褪せ人たちが大ルーンによるエルデンリング修復を目指したのである
これに対してラダゴンは拒絶の刺、マリケス、モーゴットという布陣で対抗する
※またこれに加え、誤ったマリカの遺志を伝えることで、百智卿ギデオンを褪せ人への盾のひとつとした
褪せ人はラダゴンの敷いた布陣を次々に破り、最後はラダゴン自身を撃破。エルデの獣はたまらず宿主(幻視の器)から脱け出す
※水に浸けるとカマキリの腹から出てくるハリガネムシみたいである
正体をあらわしたエルデの獣はラダゴン(神)の遺体から神の遺剣を取り出し、しかし褪せ人に敗北することとなる
現時点におけるエルデの獣はエルデンリングに付随する寄生虫のようなものである。その死はエルデンリングに影響を与えることはない
エルデの獣の死後、幻視の器に魂はひとつも残らず、エルデンリングが宿っているだけの状態となる(おそらくマリカの魂もいつかの時点で消滅してしまったと思われるが、わずかに意志が残っている可能性もある)
壊れかけのマリカ(幻視の器)に宿るエルデンリングを修復した褪せ人はエルデの王となり、壊れかけの時代が始まる
※ただし狂い火の王エンディングでは、エルデンリングや幻視の器は溶かされたと思われる
※ラニの夜の王エンディングでもエルデンリングは消滅し、かつて狭間を司っていたノクステラの月と夜の律の時代を迎えると思われる
今回も面白い考察読ませていただきました!
返信削除一つ、以前からの疑問ですが、不死が生命を歪めているというのはどうも納得がいかないところです。青布の胴衣や死王子の修復ルーンがその根拠となっている場合が多いようですが、やはり疑問です。
1.エンヤ(二本指)が生命の乱れは不死ではなく律が砕けたことによると明言していること。
2.ラニやマリカ、陰謀の夜の主犯は、それぞれ自身の肉体を、エルデの獣を、ゴッドウィンを殺すために死のルーンを使っています。つまり死のルーンは死という概念を取り戻すという目的としてではなく、神に列なるものを殺すための手段として使われています。
3.死王子の修復ルーンの文が引用されることが多いですが、完全律、忌み呪いの修復ルーンはそれぞれで齎された新しい律での話です。つまり死王子の修復ルーンに書かれた死の回帰、も死王子の修復ルーンによる世界に限定した話だと考えられます。
4.強すぎる生命の祝福が永遠(停滞)を呼び、腐敗をも呼ぶことはマレニア、ミケラ、そして各地の爛れ樹霊からもその通りのようです。しかし、エルデンリングはそれ自体が生命の祝福なのでそれを掲げる時点で生命力の増強(永遠)に近づく行為であり、マリカは再びそれを掲げよと言っている点で不死を忌避してはいないと考えます。また、新世界を求めたミケラも腐敗(マレニア)やしろがねなどとの共存を図ったと考えられます。つまり狭間の次なる世界を担おうと考える者たちにとって腐敗は排除しなければいけない要素と考えられていた節がありません(腐敗を忌み嫌っていたのはマレニアを救わなかった黄金律を掲げる獣のみです)
要はマリカのいう黄金律のあるべき正しさを求めるとは、ラダゴン主導で行われたリエーニエ侵攻や黄金律原理主義として排他的になっていく現状、つまりラダゴン批判と考えられます。
また、マリケスの追憶にある「マリカは影従に、運命の死の封印たるを望み 後にそれを裏切ったのだ」これは陰謀の夜時点ではなく、本編中、褪せ人が死のルーンを解放したことを指しているのではないかと考えます。
マリカは獣をころすために自身の娘(分身)であるメリナに命じ褪せ人を導いてマリケスから死のルーンを奪わせた、このことを指しているのだと思います。
追憶が手に入るのは必ずプレイヤーが本編でこの出来事を経験した後ですので、本編中の記載があっても矛盾しないのです。火の巨人の追憶と同様の記載ですね。
なぜこう考えるか、マリカには陰謀の夜時点でゴッドウィンを殺そうと考える理由がないからです。
陰謀の夜にゴッドウィンに死が刻まれ、それが大樹根に埋葬され狭間に死が振りまかれた。そのことをきっかけとしてマリカはラダゴンを砕いた。(ロジェールの言から)
であれば陰謀の夜の主犯はラダゴンであろうと考えます。
当時のラダゴンはミケラに黄金律を放棄され次なる後継者探しに行き詰っていました。一方でマリカとゴッドフレイの子らはゴッドウィンが竜と結び力をつけ始めています。いずれ弑されることを恐れたラダゴンはラニにゴッドウィン暗殺を命じた。しかしそれが未遂に終わり狭間に死が振りまかれた(これは獣にとっても想定外)。
こういうことではないでしょうか。