2021年1月11日月曜日

Bloodborne 考察まとめ9 人形 ※追記:ゲールマンの未使用セリフ

人形が子守歌を歌うことは過去に何度か触れたが、それが以下の動画である



この子守歌はゲームのクライアントのバージョンが1.0のとき限定で聴けるものである

またこの子守歌が発生したタイミングでゲームを終了し、パッチを当ててアップデートすることで最新版でも聴くことができる


これはグリッチであり、既存の人形イベントを上書きしてしまうが、最新版でボイスを日本語化することで日本語音声の子守歌も聴くことができる(上記動画の歌がそれである)


Bayu Bayushki Bayu

さて、人形が歌っているのはロシアの子守歌「Bayu Bayushki Bayu」である


以下がその歌詞(私訳)である


Bayu bayushki bayu(眠れ、よく眠れ)

ベッドの端で寝てはいけない
灰色の狼男がやって来る

そして、あなたの脇腹に噛みついて
森に引きずりこんでしまう

森に引きずって

柳の根元に埋めてしまう



おそらくはヨーロッパに広く伝わる人狼伝説をもとにしたものであろう。同じく人狼伝説がモチーフの1つであるBloodborneの世界観と非常に近似した内容の歌詞である


その内容の類似性からこの子守歌が選ばれたことは分かる


しかしなぜそれが“ロシアの子守歌”でなくてはならなかったのか、という疑問が浮かぶ。この問いは2つの疑問によって構成されている。まずなぜロシアなのか、そしてなぜ子守歌なのか、である


このうちまずは、なぜロシアなのか、という点から考えてみたい



なぜロシアなのか

本作のNPCの名前には偏りがある。その多くがチェコ・ハンガリー系統の名前なのである


これにカインハーストに特徴的なドイツ系統の名も加えるのならば、本作のおおまかな舞台が推定できる(アンナリーゼはドイツ人の名前)


下の図でいうと、薄い青で示された中央ヨーロッパがそうである



ロシアがあるのは右の黄色の領域であり、中央ヨーロッパとは地理的に非常に近いことがわかる


本作にはガスコインという英国系の名をもつNPCも存在する。つまるところ本作は汎ヨーロッパ的な領域を凝縮したような世界観なのである(ただしガスコインが異邦人であることを仄めかされているように、ある程度の地理関係は保持されている)


であるのならば、黄色の領域に含まれるロシアの要素も含まれていておかしくはない。そしてまさしく本作にはロシア系の名前を持つキャラクターがいるのである


最初の狩人ゲールマンがそれである


『ヨーロッパ人名語源事典』によると、ゲールマンは英名ハーマンロシア語形である。さらに元をたどればドイツ人の英雄ヘルマンにさかのぼり、その名前の語義は「戦士」である


英雄ヘルマンの名が英国に伝わるとハーマンになり、ロシアに伝わるとゲールマンになるのである


よって、ゲールマンとはその根源をドイツにもつ「ロシア系」の名前ということになるが、偶然か必然か本作のゲールマンは「ロシアの子守歌を歌う人形」と非常に近しい関係にあるのである


ロシアの子守歌を歌う人形がいて、そのそばにロシア人の名を持つ男がいる。であれば、その子守歌はその男から人形に伝わったと考えるのが自然ではないだろうか


しかし、実はロシアの子守歌を歌うのは人形だけではない。狩人の悪夢に登場する養殖人貝も歌うのである


養殖人貝の顔を拡大したもの

こちらはデータマイニングにより判明したもので私自身は確認していないが、Youtubeに動画を挙げている人がいる




これにより、ロシアの子守歌を歌うのは人形と養殖人貝の二者ということになるが、意味もなく全く関係の無いキャラクターに同じ歌を歌わせるとは考えにくい。必ずこの二者には共通点があるはずである


結論から述べれば両者を繋ぐのは、「マリア」である


養殖人貝の顔をよく見るとゴースの顔の系統とはやや異なる、カインハースト的な美貌であることが分かる


左から「養殖人貝」、「ゴース」、「マリア」である


養殖人貝はゴースではなくむしろマリアや人形に近い容貌をしているのである


つまり養殖人貝が人外化したのはゴースの影響に加え、マリアの影響があったと考えられるのである


具体的にいえば、マリアの穢れた血が神秘的な交わりをもたらし、養殖人貝が産まれたのである


ロシアの子守歌を歌う二者がいて、その二者を繋ぐ者がいるのであれば、その子守歌は繋ぐ者から伝えられた可能性がある



すなわち、人形と養殖人貝が共にロシアの子守歌を歌うのは、彼女たちのオリジナルであるマリアロシアの子守歌を知っていたからなのである


そしてマリアにロシアの子守歌を教えた者こそ、マリアの師でありロシアの名を持つゲールマンなのである



なぜ子守歌なのか

ゲールマンがマリアに子守歌を教えた理由としてもっとも可能性が高そうなのは、彼女が妊娠したから、というものである


女狩人である彼女が他者の赤子の子守をする必要はないであろうし、たとえ頼まれても受け入れないであろう


彼女がゲールマンから子守歌を教えられ、そしてそれを覚えていたのは彼女自身が妊娠したからであろう


子守歌の歌詞は、狩人へ警告するような内容である

最初の狩人ゲールマンが教える子守歌としてふさわしいものである


おそらくマリアはこうした師の“思いやり”を素直に受け取ったのである

その奥底にある狂熱も知らずに…


月が満ちマリアは赤子を出産するものの、その赤子は人の子ではなく「上位者の赤子」だったのである(同じく母マリアから産まれたイエス・キリスト同じ構造である。ただしこちらは神ではなく悪夢に住む上位者であるが…)


産まれた赤子は、青ざめた血をもつ赤子である(詳細は「人形と月の魔物」)


ローレンスたちの月の魔物「青ざめた血」(教室棟の手記)


誕生した赤子は即座に周囲の環境情報をもとに自らの領域を創造

それが「青ざめた月」(後に「狩人の夢」と呼ばれる)である


このとき必然的に赤子は母親であるマリアから引き離される

この母から引き離される赤子というテーマは本作において二度繰り返されている


1度目はヤーナムとメルゴー、2度目はゴースと赤子(遺子ではない)である

ここにマリアと月の魔物(月のフローラ)が加わるのである


これによりトゥメル・漁村・ヤーナムにおける悲劇のリストが完成することになる



さて、月の魔物は母から引き離されたものの、ゲールマンたちは赤子がもっていた3本目のへその緒によって青ざめた月との邂逅を果たすことになる


3本目のへその緒(古工房)

すべての上位者は赤子を失い、そして求めている

故にこれは青ざめた月との邂逅をもたらし

それが狩人と、狩人の夢のはじまりとなったのだ


※メンシス学派がメルゴーの3本目のへその緒によって、当のメルゴーと邂逅したように、ゲールマンたちも月の魔物の3本目のへその緒によって、当の月の魔物と邂逅したのである


上位者の赤子として誕生したものの月の魔物は不完全な上位者であった


獣性と神秘とを強引に融合させた結果、月の魔物の内部で獣性と神秘が衝突し、彼女の肉体を傷つけ続けているのである


ゲーム内の月の魔物は上の画像のように肋骨が剥き出しになっているが、アートワークスには傷ついていない状態の月の魔物も掲載されている

プレイヤーが戦う「月の魔物」は肉体を欠損した状態であるが、それは上のような事情によるものである


また月の魔物の背中からはコウモリの翼に似た羽根が生えている。この羽根はカインハーストなどにいる「古の落とし子」のそれと酷似したものである


アートワークスにはもっとコウモリ的な翼に描かれている

指の間に皮膜が張られた特徴的な翼

古の落とし子低級な神秘と穢れた血との交わりにより産まれた下位の魔物であり、月の魔物上位の神秘(上位者)と穢れた血の交わりによって産まれた上位者である



マリア

さて、上位者の赤子を産み、また漁村において師の狂熱に気づいた彼女は「心弱きゆえに」命を絶つ(落葉を捨てたことは彼女が自害したことの比喩的な表現である)


落葉

だが彼女は、ある時、愛する「落葉」を捨てた

暗い井戸に、ただ心弱きが故


落葉のテキストは本作屈指の反語法的表現による名文である


マリアは決して心が弱かったわけではない。その反対に上位者の赤子を産むという言語を絶する体験を経ても狂乱に陥らず、また師の狂熱に気づいた後も怨嗟の念を抱かなかったのである(時計塔のマリアのそばにあるには男性が二人映った写真立てがある)


彼女は弱かったわけではない。強すぎた故に、彼女はすべてを自身の心に秘めて命を絶ったのである


彼女が狩人の罪を隠し、初期医療教会の実験を容認したのは、そうまでしても我が子に生きて欲しかったからである


彼女は狩人の名誉を守るためではなく、我が子を救うために狩人の罪を秘匿し、そして死んだ後も秘密を暴こうとする者からそれを守ろうとしているのである


なぜならば、狩人の罪が暴かれることは、医療教会による血の医療の終焉を意味し、我が子である月の魔物の死も意味するからである


あるいは、我が子を救うために血の医療という外法に手を染めたことをして、「弱きが故に」と表現したものなのかもしれない



時計塔の扉

マリアのいる時計塔の扉には奇妙な薄肉浮彫りが施されている


赤子にも見えるデザインであり、また赤子の下半身から幾本もの触手が伸びているようにも見える



端的に言えば触手の生えた赤子である。これと同じ特徴を持つのが月の魔物である




人形

さて、ゲールマンの狂熱は彼を上位者の赤子(ゴースの遺子)に変異させたが、彼の別の側面は月の魔物の魅力に囚われていた


狩人の夢のゲールマンは月の魔物をなだめるため、またローレンスの血の医療が完成するまで彼女を生かすために、彼女の母親の生き写しである人形を制作したのである


人形のゲーム内における第一の能力は、血の遺志を狩人の力にすることである


この能力は狩人の業と似ているが微妙に異なる


血によって、狩人の武器と、肉体を変質させる。狩人の業の工房だよ(助言者ゲールマン)


ゲールマンの言う、肉体を変質させる、とはカレル文字による進化のことである。血の遺志を力に能力(すなわちレベルアップ)は「人形オリジナル」にのみ備わったものである



つまり、神秘と獣性の衝突により傷つき続けている月の魔物を癒すために、血の遺志を力に変える能力人形に持たせたのである


狩人の夢に囚われた狩人は血の遺志を集め、最後はゲールマンによって収穫される。収穫された膨大な量の血の遺志は、人形の能力により月の魔物の肉体を癒すために使われるのである


ゲールマンの未使用セリフ

スクリプト化されていないゲールマンのセリフに以下のようなものがある(3:54から)


Laurence, the end is not far away now. Every last dream will burn out, and Flora will return from the moon. As for us, the time has come to honor our vows. Hunters are needed no longer, you and I shall fight to the death, and she will consume the victor. The way we've always said we'd end it, you recall? Oh Laurence...of course you remember.


ローレンス、終わりはそう遠くない。 最後の夢は燃え尽き、フローラは月から戻ってくるだろう。 私たちは、誓いを守る時が来たのだ。ハンターはもう必要ない。君と私は死を賭けて戦う。 彼女は勝者を食らうだろう。私たちがいつも言っていた終わり方を 思い出してくれたか?ああ、ローレンス...もちろん、覚えているね




赤い月

儀式によって赤い月が接近するのは、月の魔物もまた上位者の赤子を求めているからである。しかしその目的は上位者の赤子の持つ「統合された青ざめた血」である


ローレンスの血の医療が完成したあかつきには月の魔物は完治し、完全な上位者になる計画になっていた


もはや月の魔物は生きるために血の遺志を必要とせず、現実世界に降りる必要はなくなるのである


それはつまり、赤い月の接近が無くなることを意味し、したがって獣狩りの夜の訪れが無くなり、結果として獣の病が地上から消滅するのである


しかしローレンスは志半ばにして獣化してブラドーに殺害されてしまう


血の医療は今もって完成に至らず、それでもゲールマンは月の魔物を生かすために、血の遺志を集め続けなければならないのである


2 件のコメント:

  1. ローレンスについて
    ローレンス戦のBGMの歌詞が
    マリアがローレンスに自分の血を飲ませたのではというものがありました
    ローレンスが燃えているのもマリアの血であればなるほど思えます
    狩人の悪夢の大聖堂にいるローレンスの口に
    石像が水瓶の中身を注いでいるように見えるのもそれを暗示しているように感じます。

    パッと思ったことを書いています
    お目汚ししました。

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    1. たいへん興味深いコメントありがとうございます

      BGMの歌詞についてはFandomWikiの訳とredditの翻訳スレを一読したくらいで
      実際に自分で確認したわけではないので確実なことは言えません

      参考までにFandom wiki
      https://bloodborne.fandom.com/wiki/Laurence,_the_First_Vicar_(OST)

      私自身がラテン語に疎いこともあってこの訳が正しいかどうかも判断できません

      ただ、血と炎の同一視という観念はあり得るかもしれません

      例えば血の医療を受けた主人公狩人が、直後に血の獣を炎で撃退するムービーがありますが
      あれは炎が何も無いところから出現したのではなく、血が炎となって燃え上がっているとも解釈できます(マリアと同じ能力)

      そういう意味であの血の獣はローレンスと同じ状況にあるのかもしれません

      つまり、聖血に含まれる神秘と獣性との衝突に引き裂かれる様を、燃え上がる獣として表現した、とも解釈できるかもしれません

      聖血に「拝領」と「獣」という対立する属性が含まれていることはエミーリアの説教にも言われています

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