2021年1月22日金曜日

Bloodborne 考察まとめ10 オドン ※追記 ヤームナヤの語義

本考察に修正を加え、モチーフ編と伝承編に分けたのが【オドン(モチーフ編)】と【オドン(伝承編)】である

オドンという名前

本作における名前の重要性は宮崎氏がインタビューで明らかにしている


しかし、結局、私はすべての名前を選びます。私が監督したタイトルはいつもそうだった。もちろん、名前はあなたが描きたい世界の非常に重要な部分ですが、それ以上に、私は名前を思いつくのが大好きです。私はちょっとしたネーミングオタクだと思います。それは私にとっていつも楽しいです。私は、単語の起源表現でどのように聞こえるか、地域の考慮事項など、すべてを考慮します。(インタビューより)


本作に登場するNPCの名前は、ネーミングオタクを自認する宮崎氏が決定したものなのであり、その決定は、単語の起源、表現、地域性などを考慮に入れてなされたものなのである


筆者がこれまでNPCの名前にこだわってきたのも、こうした事情があるからに他ならない


作中、最も重要とも言えるオドンという名前にも、宮崎氏のこだわりが反映されているはずである


さて、オドンは多面的かつ複雑な存在であり一面的な解釈を拒むようなところがある


こうしたオドンの多面性モチーフ多面的な機能を受け継いだものである


オドンのモチーフとは、「オーディンである」




オーディン

オーディンには170以上の別名やあだ名があるという。オーディン自身がすでに多面的な機能をもつ神である


しかしその機能をすべて挙げていくと考察が冗長になるので、ブラッドボーンに関連する要素だけを挙げていく



1.吊された神

オーディンはユグドラシルの樹に自らを九夜吊すことでルーン文字の知識を獲得したという


このことから、オーディンは「吊された者の神」(絞首刑にされた者の神)とも言われ、後のタロットカード「吊された男」のモチーフにもなる


Wikipediaより転載

この吊された男と同じ構図を持っているのが「狩人の徴」である



狩人の確かな徴

狩人の脳裏に刻まれた逆さ吊のルーン

これを模し、よりはっきりとしたヴィジョンを可能にする呪符


つまり狩人の徴とはオーディンの徴なのである


また狩人の徴は、アイルランドで用いられる「眠りのルーン」を上下反転させたものと類似している(『エッダ』147ページ。訳注2)


物語の中で眠りのルーンをとくことができないようにしたのが、オーディンである


※もし仮に作中にカレルの死体があったとしたら、それは首を吊られているか逆さ吊りにされているはずである(旧市街などに逆さ吊りにされた遺体が見られるが関係は不明)



2.ワイルドハント

ワイルドハントとは以下のようなものである


伝説上の猟師の一団が、狩猟道具を携え、馬や猟犬と共に、空や大地を大挙して移動していくものであるといわれている(Wikipedia)


このワイルドハントの首領にして猟師たちを率いるのが「オーディン」なのである


そしてまたこの狩猟団は次のような災厄をもたらすとされる


この狩猟団を目にすることは、戦争や疫病といった、大きな災いを呼び込むものだと考えられており、目撃した者は、死を免れなかった[2]。他にも、狩猟団を妨害したり、追いかけたりした者は、彼らにさらわれて冥土へ連れていかれたといわれる[5]。また、彼らの仲間に加わる夢を見ると、魂が肉体から引き離されるとも信じられていた(Wikipedia)


すなわち、ブラッドボーンにおける狩人とはオーディンの狩猟団に属する狩人なのである


そして赤い月の夜とはワイルドハントのことを指し、彼らの仲間に加わる夢を見た主人公が、夢に囚われオーディンの狩人として奔走する物語なのである


※関係ないがウィッチャー3にもワイルドハントは登場する


また、オーディンに祝福された戦士を「ベルセルク」という。狩人がしばしば獣の力を利用し、一時的に獣化しさえするのはオーディンの戦士「ベルセルク」の性質を受け継いだからである


これが狩人が狩人と呼ばれオーディンの徴を持ち、夢と関わり、一時的に獣化する力をもち、災厄に巻き込まれなければならない理由である



3.メルクリウス

このオーディンとローマ神話のメルクリウスを同じ神としたのが1世紀のタキトゥスである(『ゲルマニア』)


メルクリウスマーキュリーとも読み、錬金術において水銀を意味する(水銀の英名はmercuryである)


水銀とオドンの関係は主にカレル文字に登場している


「姿なきオドン」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

上位者オドンは、姿なき故に声のみの存在であり

その象徴となる秘文字は、水銀弾の上限を高める


「オドンの蠢き」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

「蠢き」とは、血の温もりに密かな滲みを見出す様であり

狩人の昏い一面、内蔵攻撃により水銀弾を回復する


その水銀弾とは、水銀に狩人自身のを混ぜたものである


水銀弾

通常の弾丸では、獣に対する効果は期待できないため

触媒となる水銀に狩人自身の血を混ぜ、これを弾丸としたもの


作中、水銀弾を補充する際には狩人の体力を消費する

これが狩人自身の血であるとすると、では水銀はどこから発生したのか


オーディンの下僕である狩人はオーディンの力を秘めている。そしてオーディンとはメルクリウス=水銀であるのだから、その力である水銀を利用することが可能なのである


すなわち水銀はオドンのすべての側面説明するわけではないが、しかしメルクリウスとしての一面を示したものなのである



4.オーズ(オド、オード)

オーズは北欧神話の女神フレイヤの夫である(Wikipedia)


長旅に出ることや、オーズ/フレイヤオーディン/フリッグという名前の類似からオーズをオーディンと同じ神とする説がある


オーズとフレイヤの2人には、主神オージン(オーディン)・フリッグ夫婦と少なくない共通点がある。たとえば、オーズとオージン、フレイヤとフリッグ(別名フリーン)というふうに名前が似ていること。オーズとオージンがともに旅に出ることが多いこと。また、戦死者は半分がオージンのものになるが、残る半分をその妻フリッグではなくフレイヤが持っていく。これらのことから、オージンとフリッグがそれぞれオーズとフレイヤという名で信仰されていた時期があったか、もしくは、それぞれの若い年代の名前であったと考える研究者もいる(wikipedia)


さて、オーズという名前には「激情」という意味の他に「不思議な酩酊に満たされた者」)という意味もある(『北欧とゲルマンの神話事典』)


本作には「酩酊」というラテン語の名前を持つ者がいる


エーブリエタースである


彼女の父親が誰かは分かっていないが、彼女は見捨てられた上位者と呼ばれ、そして見捨てた者を探すように宇宙を見上げ続けている


彼女を見捨てた者が彼女の父親であるとするのならば、彼女を見捨てたのは父親が「長い旅」に出たからである


そしてそれは狩人の首領であるオーディン(オドン)のことである



5.好色

女嫌いとも女たらしとも呼ばれるオーディンであるが、実際に彼は女神フリッグの他に女巨人との間に子供を何人も作っている


※賢者の血から造られた霊酒を飲むために女性をたらし込んだりもしている


予言者に「愛息バルドルの仇を討つためにはリンダを言う女に息子を産ませなければならない」と告げられたオーディンは、リンダを狂乱させることで望みを叶える


狂乱と妊娠は偽ヨセフカやアリアンナに見られた症状である



6.オドの力

吸血鬼による吸血現象を説明する説の一つとして「オドの法則」がある


吸血鬼は吸血が目的で血を吸っているのではなく、犠牲者のもつ「オド」を吸っているのだというのである


オドの法則を提唱したのは、カール・フォン・ライヘンバッハ(1788~1869年)である(Wikipedia)


オーディンにちなんで「オド」と名づけられたこの神秘的なエネルギーは、宇宙に存在するものすべてのものから発出している物質であるという


ドイツのカール・フォン・ライヘンバッハは、宇宙に存在するすべてのもの(特に星々や惑星、水晶、磁石、人間など)から発出している物質が存在すると考え、北欧の神オーディンにちなんで「オドの力」と名づけた[1]。オドの力には重さも長さもないが、計測可能であり、観察可能な物理的効果を及ぼすことができるとした(wikipedia)


この物質は重さも長さもない、磁気のようなものであるという


カール・フォン・ライヘンバッハは1845年に、 電磁界とよく似た特性を示す「オドの力」と呼ばれるフィールドの理論をドイツの一流の学術誌の1つ『薬学及び化学の年報(Annalen der Chimie und Pharmacie)』で発表した。オドとはもともと様々な結晶構造を持つ物体から発散されているいまだ知られざる自然の力で、ライヘンバッハは、オドは磁極のように互いを引きつける力の特性を有しており、また、磁極もオドと関連する極性を有しているとし、オドが人間の身体に水晶の力に似た極性を生み出すことを発見したと主張した。ライヘンバッハの主張によれば、身体の生命力には磁石のような極性があり、身体の左側が負で右側が正である。さらにライヘンバッハは、オドが「動物」や「植物」からも発散されており、太陽や月などの星々からも発散されていると発表した。(wikipedia)


同時代フランスの魔術師エリファス・レヴィは『大いなる神秘への鍵』の中でオドについて以下のように述べている


「すべてこれらの驚異は、ヘブライ人ならびにフォン・ライヒェンバッハ男爵がオドと呼び、われわれがマルティネス・パスクヮリス一派とともに星の光と名づけ、ミルヴィーユ伯が悪魔、錬金術師たちがアゾットと呼んだ、さる比類のない動因によって成就されるのである」(『吸血鬼幻想』種村季弘)


また種村季弘によれば、オドは錬金術でいう飲める金(Aurum Potabile)である。そして金のヘブライ語の語源は光(アウルム)である


そして人間は宇宙的な光につつまれているのだという


そうした宇宙的な光を吸血鬼が吸うのである


エーブリエタースならびに聖歌隊が待ち望む「星の徴」とは「星の光」のことであり、とはすなわち「オド」のことなのである


そしてオドとは元をたどれば、オーディンなのである



7.ヤームナヤ文化

オーディンは北欧神話の主神である(諸説あり)


その北欧神話を伝承してきたのはゲルマン系の民族であるが、彼らの発祥地はドナウ川とウラル山脈の間に広がる広大な地域である(これも諸説あり)


そこに栄えた文明を「ヤームナヤ文化」という(wikipedia)※ヤムナ文化ともいう


ヤーナムとヤームナヤ、似ているがモチーフであるかは断定できない


ただしヤームナヤはロシア語で「穴の」の意であり、遺骸を穴に埋葬したことから名づけられている。つまり、「墓」を意味する名前である


またこのヤームナヤ文化の影響を受けて、次に成立したのはカタコンブナヤ(地下横穴墓)文化や、スルブナヤ(木槨墓)文化であり、これらの文化はすべて「葬法」により命名されている


さて、本作にも強い影響を与えたと思われる『フィーヴァードリーム』という吸血鬼小説がある


この小説に登場する吸血鬼(夜の人々)の故郷は同じウラル山脈付近であるとされている



オドン

オドンとは上述したようなオーディンの様々な側面を組み合わせて創造されたものである


それはワイルドハントの夜に狩猟団を率い獣化水銀生殖と密接に関わり、また神秘学的に言えば、「宇宙の光」なのである


ブラッドボーンにおいてもそれは、赤い月の夜に狩人を率いて暗躍し獣化水銀生殖と密接に関わる「宇宙の光」である


つまるところオドンとは「青ざめた月」のことである


ゲールマンが両手を広げると月が青い光に染まる

しかしながら、オドンは姿なき故に声のみの存在である


「姿なきオドン」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

上位者オドンは、姿なき故に声のみの存在であり

その象徴となる秘文字は、水銀弾の上限を高める


故に月そのものではない


それは物質としての月ではなく月を青く染めているもの、つまり「青い光」である


青い光は宇宙からの神秘の光であり、月を青く染めるが無形であり、また「」でもある


なぜならば「声」とは空気の振動、すなわちであるが、もまた「」だからである


姿なきオドンは英語版では「Formless Oedon」である。Formlessとは「形のない」や「無定形の」といったニュアンスである


オドンは声のみの存在である。しかしその声が人が想像する声であるとは断定されていないのである


実験棟の患者アデラインは上位者の声について次のように説明している


ああっ!あああっ!それが、形なのですね

導きよ、あなたの声が見えました。はっきりと歪んで、濡れています


彼女は声が見えるといっているのである。上位者の声とはかように人智を越えた不可思議なものなのである



オドンの粒子

※この項はコメント欄にいただいたぽ氏のオーディン粒子説がもとになっている

しかしながら科学的には粒子の性質も併せ持つ


オドンである青い光もまた波と粒子の性質を併せ持っている


けれどもオドンは「姿なき」存在であったはずである。の側面はともかく粒子は物質のように思える。これはどういうことか?


実は光子には質量がない(あるいはまだ観測されていない)。「姿なき」をどのように解釈するかにもよるであろうが、一般的に質量がなく不定形なものは「姿なき」という表現の範疇に入るのではないだろうか


青い光のうち「声(波)」はオドンである。だがオドンには粒子の側面もあるである


それは「オドン粒子」と呼べるものである


光の粒子フォトンと呼ばれるように、またボーズ粒子ボソンと呼ばれるように、オーディンの粒子は「オドン」と呼ばれるのである(このオドン粒子説ぽ氏のコメントを参考にさせていただいた。ありがとうございます)


さて、粒子という言葉からは丸くて小さな物体が想像される。そして本作には丸くて小さな物体に当てはめるに相応しいものが登場している


すなわち虫の卵である


波()が純粋な神秘であるオドンを表わすとしたら、粒子は寄生虫の卵としてのオドンを表わすのである


波(声)であるオドン(神秘)は穢れた血(獣性)と交わり、上位者の赤子(青ざめた血)を誕生させる


一方、粒子である寄生虫の卵(神秘)もまた穢れた血に潜む「虫」(獣性)と交わり、3本目のへその緒(青ざめた血)を誕生させるのである


これが上位者の赤子ばかりが3本目のへその緒を持つ理由である


※卵の状態で交わるというのも変なので、虫に寄生するといった方が妥当だろうか



見えぬ我らの主

オドン教会のメモにはオドンについても触れられている


ビルゲンワースの蜘蛛が、あらゆる儀式を隠している

見えぬ我らの主も。ひどいことだ。頭の震えがとまらない(オドン教会のメモ)


、とはオドンのことである。オドンは見えないのである

しかし青い光がオドンだとしたら、オドンは見えていることになる


だがそもそも見えないものが隠されることはない(見えないのだから隠されているか露わになっているか不明)


見えないものが隠されていると断言できるのは、オドンが顕現していることは分かるからである


つまるところ、オドンの信徒青い光をオドンの顕現による付随現象であると解したのである


その青い光がビルゲンワースの蜘蛛によって隠されていることを嘆いているのである


そしてビルゲンワースの蜘蛛、すなわちロマが隠していたのは赤い月と、青ざめた月(そしてその混淆としての青ざめた血の空)




月光の聖剣

さて、月光の聖剣青い月の光を纏う


月光の聖剣

かつてルドウイークが見出した神秘の剣

青い月の光を纏い、そして宇宙の深淵を宿すとき

大刃は暗い光波を迸らせる


それは彼だけの、密かに秘する導きだったのだ


オドンの狩人としてルドウイークが求めたのは、と同じ力、すなわち青い光だったのである。何よりオドンの狩人である彼を導けるのはオドンだけである


ああずっと、ずっと側にいてくれたのか

我が師

導きの月光よ…(ルドウイーク)


ルドウイークの聖剣

ルドウイークを端とする医療教会の工房は

狩人に、老ゲールマンとは別の流れを生み出した

より恐ろしい獣、あるいは怪異を狩るために


しかしその青い光には粒子が含まれている

寄生虫の卵という粒子である


青い月光を見続けた彼の眼に寄生虫が寄生し、光の小人が見えるようになったのである


「導き」

目を閉じた暗闇に、あるいは虚空に、彼は光の小人を見出し

いたずらに瞬き舞うそれに「導き」の意味を与えたという

故に、ルドウイークは心折れぬ。ただ狩りの中でならば


※月光の聖剣はファンサービスではなく、オドンという設定を剥き出しのまま出してきた可能性がある


ゲールマン月に祈る月が青い光を帯び、直後に青い光による大爆発が起きるのは、であるオドンに祈ることによりオドンの力を召喚しているからである


通常時は月は白~黄色である

ゲールマンが祈りを捧げると月は青く発光する

そして最後には青い光の爆発が起きる

またエーブリエタースと聖歌隊空を見上げ星からの徴を探しているという


聖歌装束

見捨てられた上位者と共に空を見上げ星からの徴を探す

それこそが、超越的思索に至る道筋なのだ


そのエーブリエタースのいる嘆きの祭壇の上方からは「青い光」が降り注いでいる


この青い光には波であるオドンと粒子(寄生虫の卵)が含まれる。聖歌隊はこのうち「オドン」の側面だけをすくい取ろうとしているのである
 


月見台の月

乳母の月見台から見える青白い月には奇妙な点がある

青白い月

月見台から見下ろすと、遙か彼方に見える山脈の手前にある


つまりこの青白い月は現実の月ではなく、地上すれすれにまで降りてきた月のようなものなのである


この月を呼び寄せたのは「メンシス(月)学派」である。彼らの真の目的は赤い月とともに青い月を同時に呼び寄せることだったのである


上述したように月の放つ青い光はオドンである


すなわち、メンシス学派とは「オドン学派」のことに他ならない


彼らの目的は、メルゴーの鳴き声を餌にして青い月と赤い月を呼び寄せることだったのである


目的が達成されたあかつきには、青い月と赤い月が融合を果たし、全世界に青ざめた血の空が広がり、夢が現実となり、神秘と血が交わって無数の上位者の赤子が誕生し、人々は3本目のへその緒により、「瞳を得る」のである


儀式はもうすぐ終わる

夢が現実に、我らに瞳をもたらすのだ!(ミコラーシュ未使用セリフ)


そしてまた青く光るは、青く輝くとも、宇宙とも呼ばれるのである


泥に浸かり、もはや見えぬ

宇宙よ!(ミコラーシュ)



青ざめた月

3本目のへその緒にある「青ざめた月との邂逅」とはオドンとの邂逅を言っているのである


3本目のへその緒(古工房)

すべての上位者は赤子を失い、そして求めている

故にこれは青ざめた月との邂逅をもたらし

それが狩人と、狩人の夢のはじまりとなったのだ


青ざめた月青ざめた血は似て非なるものである


青ざめた月がオドンであるのに対し、青ざめた血は神秘と獣性の入り交じった血をもつ月の魔物のことを指しているからである


青ざめた月との邂逅により、狩人と狩人の夢がはじまったとは、オドンとの邂逅により、オドンの戦士である狩人が生まれ、そして狩人の夢というヴァルハラ宮殿に連れてこられたことを言ったものである


使者とは狩人を狩人の夢に連れてくる者、すなわちフロム解釈によるヴァルキューレなのかもしれない



月の香りの狩人

主人公の放つ香りに言及するNPCが数名存在する(孤独な老婆未使用セリフで言及しているが今回は省略する)


血の女王アンナリーゼ

…貴公、訪問者…月の香りの狩人


オドン教会の住人

…ん、あんた…もしかして、獣狩りの…狩人さんか?

すまない、香のせいで、匂いがわからなかったよ

ここは安全だ。獣避けの香もしっかりと焚かれてる


偽ヨセフカ

…あら、月の香り

あなた、どうやって入り込んだのかしら?


ヤーナム市街の少女(妹)

…あなた、だあれ?

知らない声、でも、なんだか懐かしい臭いもするの


ガスコイン

匂い立つなあ…

堪らぬ血で誘うものだ


娼婦アリアンナ

あら、あなた、おかしな香り…

でも、よかったわ。獣も血も、そういう匂いはうんざりなの


まずガスコインについては血の臭いに反応していることが、実装セリフと未使用セリフの繋がり方で分かる

…どこもかしこも、獣ばかりだ(実装セリフ)

…堪らない、血の匂いじゃないか…(未使用セリフ)


主人公狩人の放つ香りが獣や血の匂いではないことは、アリアンナのセリフからも明らかである 


でも、よかったわ。獣も血も、そういう匂いはうんざりなの


獣や血の匂いではないからこそ、「でも、よかったわ」と安堵の言葉を漏らすのである


やや場違いなのはオドン教会の住人である


オドン教会の住人

…ん、あんた…もしかして、獣狩りの…狩人さんか?

すまない、香のせいで、匂いがわからなかったよ

ここは安全だ。獣避けの香もしっかりと焚かれてる

 

狩人は獣避けの香によって分からなくなる匂いを放っているようである


獣避けの香とは、獣が危険を感じ近寄ろうとしない匂いである。すなわちこのゲームにおける獣性の反対の属性神秘の香りである


その獣避けの香が焚かれているのが「オドン教会」であることは意味深である


アンナリーゼ、偽ヨセフカ、アリアンナ、少女(妹)に関しては、カインハーストの血を引いていることから、オドンの狩人の匂いが分かると考えられる


少女については、父親また祖父が獣狩りの狩人であったことから、その匂いに反応したとも考えられる


ということで月の香り、とはっきり表現したのはアンナリーゼと偽ヨセフカである


さて、上述したがオドンとは青ざめた月である(厳密には月を青く染める光)


そして狩人はオドンの戦士として獣狩りの夜に送り込まれる。そのオドンの戦士の香りを彼女たちは月の香りと表現したのである


なぜならば「月の香り」とは、青ざめた月の放つ香りであり、月を青く染める青い光の香りであり、オドンの香りだからである


オドンの戦士であるが故に狩人は月の香りを纏っているのである


極めて濃密な獣血をもつ血族たちには、その神秘の匂いははっきりと月の匂いとして感じられるのである(このことから、偽ヨセフカの血は純潔に近いとも考えられる)



隻眼その他

神話によればオーディンは隻眼であるという。知識を与えてくれるミーミルの泉の水を飲むために、巨人に片目を渡したからである


本作に当てはめるのならば、神秘を獲得する代わりに瞳を失う、つまり瞳を寄生虫に寄生されることを意味するのである


故にシモンは両目を包帯で覆っているのである


聖歌隊が目を覆うのも同じ理由からである。思索による超越的思考の獲得を目指していた彼らにとって、寄生虫のもたらす神秘を得ることは邪道だったのである


より神話的に解釈するのならば、空に浮かぶ月こそがオーディンの失われた片眼なのかもしれない


またミーミルは後に首をはねられるが、オーディンがそれに防腐処理を施し、ことあるごとにその首に相談しに言ったという


ローレンスの頭蓋が聖体であるのは、そういったモチーフがあるからなのかもしれない


さて、またオーディンは賢者クワシールの血から造った霊酒を飲むために、巨人の娘を篭絡し寝床を共にしたという


この霊酒を飲んだものは誰でも詩人や学者になれたとされるが、本作において聖血が神秘の知識をもたらすことは、これに由来するのかもしれない



オドンのカレル

※この項は考察途上であり、未だはっきりとした結論は出ていない


オドンは青い光であるという。しかしながら、オドンのカレル文字「赤」(血)で描かれている。(「導き」や「瞳」などは青い光で描かれている)


また滲む血は上質の触媒であり、それこそが姿なき上位者オドンの本質である、という文面からは、滲む血=オドンというような印象を受ける


「オドンの蠢き」

人であるなしに関わらず、滲む血は上質の触媒であり

それこそが、姿なき上位者オドンの本質である

故にオドンは、その自覚なき信徒は、秘してそれを求めるのだ


しかし姿なき故に声のみの存在であると言われるオドンが血液、つまり物質であるはずはない(光も物質と言えなくもないがこの場合は物理的な形を持った物質という意味)


「姿なきオドン」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

上位者オドンは、姿なき故に声のみの存在であり

その象徴となる秘文字は、水銀弾の上限を高める


オドン関係のカレルが赤く描かれるのは、姿なき故にオドンが反応する素材を描くしかないからである


そしてオドンが顕著に反応を示すのが「血液」であるがために、オドンのカレルは赤く描かれたのである


3本目のへその緒(アリアンナ)

すべての上位者は赤子を失い、そして求めている

姿なき上位者オドンもまた、その例外ではなく

穢れた血が、神秘的な交わりをもたらしたのだろう


オドンは血液とみれば見境なく交わろうとする性質をもつ



古い遺志

さてオドンが青い光であるということはすでに述べた


結論としてそこで終えてもいいのだが、実はそれはこの考察を書く前に念頭に置いていたものとはやや異なる結論である


早い話が、書くのを忘れていたことがある


古い上位者の死血には他の死血と異なり、青い光の球が追加されている




オドンを青い光とするのならば、これこそがオドンである。すなわち、古い上位者とは「オドン」のことなのである(少なくとも古い上位者たちの一人)


狩人が古い意志を継ぐ者であることは、人形のセリフにも現われている

狩人様…あなたから、懐かしさを感じます…
やはり狩人とは、古い意志を継ぐものなのですね…(人形)

そして狩人の夢にはその古い意志が漂っているともいう

夢の月のフローラ
小さな彼ら、そして古い意志の漂い
どうか狩人様を守り、癒してください(人形)

狩人の夢青ざめた月との邂逅によって誕生したとされる。その青ざめた月がオドンなのだとしたら、彼によって創造された領域に漂う意志とは、オドンの意志である


人形がオドンの意志に狩人を守り、癒すように祈るのは、その意志こそが狩人の力となるからである

死血の雫
夢に依る狩人は、血の遺志を自らの力とする
使者に感謝と敬意のあらんことを

狩人は古い上位者オドンの意志を継ぎ、また遺志も継ぐ存在である


それは狩人がオドンの戦士だからであり、狩人が狩人たるゆえんは遺志を力にすることができる、という能力を持っているからである(人形経由であるが)


狩人が遺志を力にすることができるのは、オドンの戦士である狩人にとって、遺志とは仕えるべき主人の力だからである


要するに、狩人の力となる遺志とは、「オドンの遺志(遺志)」なのである


オドンの、その青い光のさらなる根源に存在するのは「遺志」である


結論として、オドンとは血の遺志そのものである


英語版で血の遺志はBlood echoと表記される。echoとは「こだま」や「反響」を意味する英単語である


すなわち「」である


さて、血の遺志がオドンの遺志ということは、オドンはすでに死んでいることになる。事実、死んでいるのであろう。ただし上位者にとって生きるも死ぬもそれほど違いはないのかもしれない


なぜならば、上位者が死んでもその遺志は残るからである(狩人に受け継がれたように)。そして漂う古い遺志は血と交わり新しい上位者を誕生させるのである


※上位者の一人にすぎないオドンを、ブラッドボーン世界を統べる遺志とすることには異論があるかもしれない。あるいはオドンもまた遺志によって生み出された被造物の一人なのかもしれない



蛇足

オドンの「声」が強調されるのは『クトゥルフの呼び声』からの影響もうかがえる。本考察はオーディンを導きにして展開したものであり、そうした事情からクトゥルフ神話関係については省略せざるを得なかった


また思いつく端から書いていったのでかなり迷走している。そのうち書き直すかも知れない

オドン=遺志説は過去の「ブラッドボーンを学び直す動画」で述べたことがある。オドン=オドの力説などにもそのシリーズで触れたことがある

要するにこの考察はそれらを改めて考察しなおし、まとめようとしたものである

動画用にまずは文章でまとめてみようとしたのだが、思った以上に膨らんでしまった


8 件のコメント:

  1. 狩人の徴と言えば、漁村の入り口にそのまんま徴の形で逆さ吊りされた首無し死体がありましたね。多分漁村での狩りは完了したって意味なのかもしれません

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    1. ありがとうございます
      以前、悪夢は逆さま構造かもしれない、と考察したことがあります
      旧市街や漁村の逆さ吊りの遺体は、悪夢に属す狩人の関与を示すものかもしれませんね
      どちらも狩人による「浄化」(虐殺)が行なわれた場所でもあります

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  2. オドンが月の光というのは面白いですね。科学的には光を粒子として見た「光子(=フォトン)」や音を粒子として見た「フォノン」はどちらも「ボソン(ボーズ粒子)」とよばれる枠組みに属します。オドンと音が似ているのはひょっとしたら偶然ではないかもしれません。その場合、「オーディンを表す粒子」という名前を込めて「オドン」と命名したのでしょう。
    もっとも、光子は粒子の性質を持つと言っても大きさを持っている訳ではない(はず)ので、それが=寄生虫の卵になるかは私には判断できませんが。

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    1. 誤字。名前を込めて→意味を込めて

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    2. なるほど、フォトンやフォノン、ボソンからのオーディンを表わす粒子=オドンというのはあり得そうですね
      そこまで突っ込んで考えていなかったのではっとさせられました
      粒子=卵については、オドンの青い光も実際は光ではなくて光のおぞましいまがい物として考えていました
      光が宇宙悪夢的な上位者ならば、粒子も悪夢的な卵になるかな、と

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  3. オドンのカレル関係で前々から気になっていることがあります。それは、オドンのカレルが赤く滲んでいるなら、逆説的に赤く滲んだカレルはオドンと関連する可能性があり、この特徴を持つカレルがオドンの~とつくもの以外にも存在することです。該当するものは、「狩り」、「穢れ」、「淀み」、「獣の抱擁」です。参考にしていただければ幸いです。

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    1. ありがとうございます
      該当するカレルはすべて「血液」そのものではなく、血液を媒介にするモノが関係しているのかなと思います
      血液から何かが感染する、というのは本作のタイトル(血液感染)と同趣旨です
      中心にあるのは「オドン」や「虫」ではなく血液で、そこに寄生するモノとして「虫」や「オドン」のカレルは赤く統一されているのかもしれません

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  4. オドンについて色々考察を見たあと本編をプレイしていてふと思いたのですが、実はオドンは本編に出ているのではないでしょうか。
    結論を言うと最初に出てくる血の医者こそがオドンではないかという考察です。
    理由としてはまず主人公を狩人にした重要人物であるにも関わらずその後一切出てこないことが姿無きオドンの特徴と一致します。主人公が目覚めたヨセフカ診療所もカレル文字の入手諸々でオドンの痕跡が濃い場所でもあります。
    次にオーディンのワイルドハントの考察から主人公を狩人にした彼はオーディン=オドンの立ち位置にいるといえます。
    気になってオープニングを調べた所右目はよく出てくる獣の病対策の目隠しなんですが左目は影になって分かりにくいですが目隠しではないです。これは片眼がないとされるオーディンに符号します。
    最後に狩人の夢を見ていたと思しきアイリーンとジュラですがオーディンの別名に鴉の神、灰色の鬚、戦の狼という呼称があるようで、彼らが主人公と同様にオドンによって狩人の夢を見ていたとするとその後にオドンの影響を受けておりこれは本編中でも様々な影響を周囲に与えていたオドンと一致しています。
    最初はへその緒がある上位者の内オドンだけ出てきてないなんてある?という疑問からオドンの候補者を探しただけだったんですが、妄想レベルとはいえ案外要素を拾えました。

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