2019年6月6日木曜日

Death Stranding 考察21 死を与える

「メディアの途方もないテクノロジー上の発展が、亡霊性の前代未聞の可能性と関係があること、そして遠隔通信テクノロジーがある種の亡霊性を産み出し、処理し、組織化し、そこから利益を得る方法であること、このことは疑いありません」(『デリダ、脱構築を語る』岩波書店)

そろそろ『DEATH STRANDING (デス・ストランディング)』発売日告知 2019トレーラーの総括をしていきたいと思う

まとめというほど考えはまとまっていないが、それはいつものことであり、書いている間に妙な仮説が浮かんでくるであろう


デスストランディングとはどういったゲームか

PlaystationUKのマルチプレイの説明には、「互いに物資を送り、安全な家を共有し、他のプレイヤーの足跡をたどって歩くことが出来る」と記載されている


どことなくダークソウルに似ていると感じたのは私だけではないだろう。しかしながら、決定的に異なる点がひとつある

プレイヤーは誰もがサムである

という点だ。この点に関してはマッツがいつだったか「プレイヤーはサムになる」というようなことを述べていたが、公開されたプレイ動画を見る限りでも、マッツの言葉と矛盾する点はない

ソウルシリーズでは、主人公は「不死人」や「灰の人」という無名の存在であるのと対照的に、デスストランディングにおいては主人公はサムで固定されている

つまりプレイヤーの数だけサムが存在するのである。この無数のサムが互いにメッセージや物資を送りあうという状況は、一見するとかなり奇妙に思われる。しかしながらこの奇妙な状況は量子論的にあり得るのである

エヴェレットの多世界解釈である(Wikipedia)

SFなどでお馴染みの概念であるが、要するに世界はひとつではなく、ほんの少しだけ異なった世界がそれこそ無限数に近いぐらいに存在する、とする考え方だ

本来であれば、世界間の交流はできないはずである。しかしながらどういうわけか他の世界と繋がってしまったり、行き来できてしまったり、といった事態はSFや漫画などでも頻出する物語パターンである

プレイヤーがデスストランディングをプレイするとき、そのプレイヤー固有の世界が、無数にあるデスストランディング世界のうちの一つとして、デススト・ユニバースに存在しはじめるのである

※最近では映画『スパイダーマン: スパイダーバース』が似たような世界観を扱っている



繋がり

繋がりに関して小島監督はTwitterで以下のように説明している

DEATH STRANDINGは、いわゆる既存のステルス・ゲームとは違います。全く新しい繋がり(ストランド)の概念をゲームに取り入れた、これまでにないアクション・ゲームになります。僕は、これをソーシャル・ストランド・システム、略して“ストランド・ゲーム”と読んでいます。

これまでのゲームは、例えばオンラインゲームならば一つの世界を複数のプレイヤーが共有しながら遊ぶことを前提にしたものである。またオフラインゲームならば、その世界はそのプレイヤーだけのものである

これに対してデスストは、プレイヤーだけの世界がありながらも、その背後には無数の他プレイヤーの世界が存在しているのである(前後左右というよりも、それは重なっているというほうが適切かもしれない)

そしてその「世界たち」はそれぞれに繋がっているのである、こうして全世界にあるPS4において起動されたデスストランディングの数と等しいだけのデススト世界が存在し、それを包含するように全デススト世界から構築されるデススト・バースが創造されるのである

このデススト・バースは日々のアクティブプレイヤーの数に比例して増大・縮小するのである。この意味でデスストはある種のソーシャル、社会的な属性を有したゲーム、ソーシャル・ストランド・システムなのである



地獄(ハデス)

地獄(ハデス)とは、各プレイヤーのデススト世界に固有の特殊な領域のことではない

各デススト・バースとの間に存在する領域である。その意味で、各デススト世界は、仮想世界上に構築された地獄(ハデス)空間に漂う島のようなものである

※オフライン時には固有の領域として地獄(ハデス)が用意されると思われるが、その機能はほぼ同じである

地獄の機能の一つはやはり「繋がる」ことである。本来であれば没交渉である各世界間は、全世界を浸す地獄(ハデス)によって、繋がることができるのである

プレイヤーは地獄(ハデス)を利用して物資やメッセージを他の世界へ伝え、また他の世界からもそれらが届くのである



座礁

小島監督はTwitterのおいて「座礁」についても触れている

ストランディングにはいくつかの意味があります。そのひとつは「座礁」。鯨やイルカが集団で座礁することを、マス・ストランディング。生きたまま座礁するとライブ・ストランディング。座礁鯨のことはBeached Whaleと呼ぶそうです。このへんにも、#DEATHSTRANDING を推理するヒントがあります

地獄(ハデス)とは多世界を浸す海のようなものである。そう考えると、座礁とはその海から世界という砂浜へ打ち上がるモノ(Beached Thingsである)

要するに、地獄(ハデス)に棲まうBTが何らかの異常により座礁したことが、世界を襲った災厄の原因なのである



多世界

さて多世界解釈では、少しずつ異なった無数の世界が存在すると上述した。しかしながら少しずつ変異していった結果として、全く異なった世界が存在することもあるのである

また、それらは世界の実像だけではなく「時間の流れ」も異なっている。というのも、アインシュタインの特殊相対性理論によれば、時間の流れとは「相対的なもの」だからである

Aという世界とBという世界を貫くような絶対的な時間などというものはなく、Aから見たB、またBから見たAにはそれぞれ固有の時間の流れが存在しているからである

つまるところ、地獄(ハデス)に浸る無数の世界の中には、サムのいる現在から見て「過去の世界」も存在しているのである

これまでのトレイラーからは、第一次、第二次世界大戦、ベトナム(あるいはイラク)の兵士や兵器が登場することが確認されている

これは未だ第一次大戦を戦っている「世界」、第二次世界大戦時の「世界」、ベトナム戦争下の「各世界」が地獄(ハデス)に浸って存在しているからである


デス・ストランディング

トレイラーにおいてヒッグスは「俺は“デス・ストランディング”の正体を掴んだ」という

地獄(ハデス)から座礁してくるのがBTである。では“デス”・ストランディングとは何か

端的に言うと、無数の世界を浸している「場(地獄)」に繋がることである

ヒッグス「俺は あの世とは繋がっている」

例えば人々を繋ぐソーシャルな場は、例えそれに参加している人間が死んだとしても繋がり続ける。(人の死後もTwitterアカウントが継続される)

もはやそれを記していた人間は生きていないのだが、繋がりだけが亡霊のように存在し続けるのである

それはその人の「生」が投影された繋がりであり、その人をその人の言葉以上に物語るものである

要するに、地獄(ハデス)に浸された世界においては「人は死ねない」のである。現実の人間が死んだとしても、亡霊のようなもの(BT)となって漂い続けるのである

この「生」に相反する存在「死」との繋がりこそが、デス・ストランディングなのである

しかしながらそれは、厳密には「死」ではない。あえていえば「生」に対する「反生」である。物質と反物質がぶつかると対消滅が起きるように、「生」と「反生」が衝突することで、対消滅(ヴォイド・アウト)が起きるのである



共有される死

サムは「アメリカを再建しても、BTはいなくならない」「“絶滅”は避けられない。BTがいるかぎり」という

現実世界と同様に人が死んだとしても、それがただの「死」であれば世界は保たれる。しかしながら人が死ねず、「反生」の状態のまま存在しているのだとしたら、それはやがて「生」と対消滅を起こし絶滅することは必定である

ゆえにサムは「死を与え」なければならない。そうしなければ、人はBTとなって戻ってくるからである。また殺してもならない、殺すと死者はBTとなって戻ってくるからである

だが上述したように、サムの世界はプレイヤーの数だけ存在しそれは地獄(ハデス)に浸って繋がっている

プレイヤー間で共有されているのは、地獄(ハデス)なのである。他のプレイヤーが敵NPCを殺し続けたら、それはBTとなって地獄(ハデス)に溜まり、やがて他の世界へと「座礁」してしまうのである

プレイヤーが敵を殺し、BTが増えれば増えるほど世界の再建は難しくなっていくであろう

これまでのゲームではオンラインゲームでもオフラインゲームでも敵NPCは死んだらそれまでである。死んだ瞬間に消滅し、データから消去される存在である

だがデス・ストランディングにおいては、「死」は共有される。それは災厄(BT)となってプレイヤーのもとへと戻ってくるのである

以上のことから、デス・ストランディングとは一種の社会実験的な意味を持つゲームとも言える

無数のプレイヤーの意志が世界を再建するか崩壊させるかの鍵を握っているのである

現実世界においてSNSが「アラブの春」の大きな動力源になったように、またSNSにおける発言や行為が「炎上」してしまうように、デス・ストランディングの世界ではプレイヤーの行動が、世界の帰結を決定するのである


蛇足

観念的な話になってしまったが、ゲーム上ではおそらく科学的な用語に置き換えられて説明されるかと思う

これは仕方の無いことなのだが、発売前の考察というのは多分に発想を飛躍させなければならず、当然ながら妄想に近いものとなる。また、根っこの部分で間違えていると完全に方向違いな考察となってしまう

ということで、実は私自身は当てようと思って考察していない。出された情報(トレイラーなど)をもとに、いかに発想を引き出せるかという一種のARGとして楽しんでいるだけである

ARG= Alternate Reality Game, 代替現実ゲーム

Twitter:@Souls_Seed

7 件のコメント:

  1. トレイラー最後で、デスストランディングの正体を掴んだと言っているのはヒッグスですよ~

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    1. ご指摘ありがとうございます。完全にミスってました修正します
      未だにキャラクター名・俳優名・声優名とが混線することがあります…


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    2. 私も英語版を見たときはクリフの台詞かと思いましたが、吹き替えで三上哲さんの声だったので気付きました…

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  2. サム複数人説賛成です。SUM:合計,総数,総体,全体

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    1. サム=SUM説はどこかで読んで「なるほど」と思った記憶があります
      繋げては考えてませんでしたが、面白いですね

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  3. 記事を読んでいてデモンズソウルの「ソウルの傾向」が思い起こされました。
    ハデスの状態に応じて敵HP増減やレアBT出現とかあったりするのかも?みたいな。

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    1. やはりソウルシリーズの非同期オンラインを想起する人が多いみたいですね
      ただ小島監督のことなので、とっておきの“仕掛け”がまだ隠されてるような気もします

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