焼尽派と腐れ派
アリアンデル絵画世界で起きているのは、今の世界を焼いて次の世界を創造しようとする「焼尽派」と、今ある世界を存続させようとしているのが「腐れ派」の対立である
この二つの派は以下のようにグループ分けできる
焼尽派
画家
奴隷騎士ゲール
鴉村の忌み人
鴉村の言い伝えを信じている者たち
腐れ派
教父アリアンデル
修道女フリーデ
騎士ヴィルヘルム
鴉人の騎士たち
焼尽派
焼尽派が目指すのは今ある世界を焼いて、新しい世界を描くことである。そのために、世界を焼く火を画家に見せなければならない
だが、世界を焼こうとする焼尽派の覚悟たる火を、フリーデは隠したのだという
…あんたも見ただろう。この世界はもう、腐ってるんだ
けれどあの女は、教父様を誑かし、火を隠した
我らの覚悟を、奪ったのだ…(鴉村の忌み人)
鴉村の忌み人によれば、外の奴らもまた、ゆるゆると腐っていくことを選択したという
俺は怖いんだよ。ゆるゆると腐っていくなんて
だってそれじゃあ、外の奴らと同じじゃないか…(鴉村の忌み人)
ここでいう「外の奴ら」は、二通りに解釈することができる
1.今ある世界を存続させようと火を継ぐ薪の王
2.火継ぎを拒否した薪の王たち
火継ぎによる世界の復活は、焼尽派の目指す「次の世界」の条件を満たしていないと解釈すると、1の理解となる
よくよく考えてみれば、グウィンの火継ぎは今ある世界を存続させようとする試みであり、焼尽派の目指す、今ある世界を焼いて次の世界を創造する、という徹底的な世界の更新とは似て非なるものとも考えられる
時代を経るごとに火が弱まり続け、ついに火継ぎの終わりを向かえつつある本編世界は、忌み人からは「ゆるゆると腐っていく」ように見えているのかもしれない
そうではなく、「外の奴ら」を2の「火継ぎを拒否した薪の王」と解釈するのであれば、焼尽派の火による世界の更新は、火継ぎと類似した思想である
…我らは、腐った世界を焼ける。次の世界のために
それだけでまともってものじゃないか、外の奴らよりもさ(鴉村の忌み人)
忌み人が見下しているのは、火継ぎを拒否し、火の時代の終わりを黙認する王子ロスリックのような薪の王たちのことになる
火による世界の更新
1と2、どちらの解釈が理に適っているのか
少なくとも、グウィンの火継ぎは世界を復活させるために一定の犠牲を払っていることから、「ゆるゆると腐っていく」という表現にはそぐわない
また忌み人が我らの覚悟と同一視する「火」を使うことも共通する
よって、外の奴らとは2の「火継ぎを拒否した薪の王たち」とするのが妥当かと思う
であれば、焼尽派の思想は、グウィンの火継ぎと類似した思想である
腐れ派
火継ぎと類似した思想を持つのが焼尽派であるのならば、腐れ派は王子ロスリックと類似した思想を持つといえる
王子ロスリックが火継ぎを拒否して玉座から去ったように、そしてそれが世界の更新を停滞させる結果に繋がったように、修道女フリーデは火を隠すことにより、絵画世界の更新を停滞させているのである
腐れ派は今ある世界(現存世界)を、それがゆるゆると腐っていくとしても、存続させようとしている
なぜならば、アリアンデルは彼らにとって故郷だからである
この世界が、やがて腐り果てるとしても
それでもアリアンデルは、私たちの故郷です(修道女フリーデ)
教父アリアンデル
アリアンデル絵画世界の前身はDS1のエレーミアス絵画世界である
なぜDS3で「アリアンデル絵画世界」と呼ばれているかというと、アリアンデルという修復者が絵画を修復したからである
アリアンデルの薔薇
絵画の修復者たるアリアンデルは
それが血で描かれていることを知っており
それを守るためにまた血を用いた
修復、ということはエレーミアス絵画世界は一度は破壊されかけたと考えられる。そのような状態でないと修復は必要ないからである
アリアンデルは絵画が血で描かれていることを知っており、血により絵画を修復したのである
アリアンデルの修復した絵画世界には、エレーミアス絵画世界には存在しなかったものが、いくつか描き足されている
例えばエレーミアス絵画世界において橋の先の建物は破壊されていたが、アリアンデル絵画世界ではそこに礼拝所が描き足されている
他にも鴉人たちの住む鴉村や、ミルウッド騎士たちの塔や森、王者の墓所や書庫や雪山なども描き足されたエリアである
仕掛けの鍵
鴉村の外れにある書庫
その天井裏に繋がる仕掛けの鍵
修道女フリーデ
フリーデが修道女の格好をしているのは、それが忌み人たちの望む姿だからである
修道女のフード
彼女は全てを棄て、また守るべきものを見出した
そして、彼らの望む姿をその身に纏ったのだ
彼ら、とは教父と忌み人たちのことである
私はフリーデ。教父様と、そして忌み人の皆と、ずっと共にある者です(修道女フリーデ)
鴉村の忌み人とあるように、アリアンデル世界の忌み人はそのほとんどが鴉人の姿をしているが、DS1のエレーミアス絵画世界にいた鴉人は女神ベルカの信徒である
つまり、「彼らの望む姿」とは「鴉人たちの望む姿」のことである。そして鴉人が信奉するのは女神ベルカである
よって彼らの望む姿とは女神ベルカの姿に他ならない
不死街には女神ベルカの像があり、その姿は修道女のように見える
聖書をもつカリムの修道女のようにも見える |
以上から、フリーデの修道女姿は女神ベルカの姿を模倣したものであると考えられる
さてフリーデの現在の得物は「鎌」であるが、この鎌も絵画世界における遠い郷愁の対象である
フリーデの大鎌
絵画では、鎌は遠い郷愁の対象であり
故に彼女はこれを得物としたのだろう
鎌が遠い郷愁の対象となったのは、エレーミアスにいた半竜、プリシラの武器が鎌だったからであろう
生命狩りの鎌
エレーミアス絵画世界に閉じ込められた
純白の半竜プリシラのソウルから生まれた鎌
フリーデの鎌と修道女装束は、プリシラの鎌と女神ベルカの装束を継承したものである
かつて忌み人たちに信奉されていた神に等しい両者。鎌を持つ修道女姿のフリーデは、その両者の神性を統合した象徴的存在である
画家
画家の素性についての有力な仮説に、プリシラの末裔であるという説がある
これは画家の身体的特徴から推測されるものである。白髪や白い肌、ウロコ状に見える皮膚、縦長の瞳孔が、半竜であったプリシラを彷彿とさせるからである
分かりにくいが縦長の瞳孔 |
過去に考察したが、エレーミアスという名前はジェレマイアと同語源である
アリアンデル絵画世界は、アリアンデルの修復した絵画世界の意である。であるのならば、エレーミアス絵画世界は、エレーミアスが描いた世界と考えられる(エレーミアス絵画より過去の絵画世界は確認されていない)
つまりエレーミアス絵画世界は、黄衣の王ジェレマイアが描いた世界だったのである
ジェレマイアの遺体がプリシラの背後の玉座に座っていたのも、彼が絵画世界の王だったからであろう
右側の石の椅子に脚だけ見えているのが、黄衣装束をもった遺体 |
よって絵画世界の指導者には3つの系統があることになる。女神ベルカ、半竜プリシラ、そしてジェレマイアである
このうち、ベルカとプリシラを継承したのが修道女フリーデである
一方、プリシラとジェレマイアを継承したのが画家である
画家はプリシラの特徴を持つ一方で、世界を描く画家、という特徴も継承している
その身体的特徴から彼女はプリシラの末裔であり、また次の世界を描くことを運命づけられた生来の画家でもある
…火を知らぬ者に、世界は描けず
火に惹かれる者に、世界を描く資格は無い…
大丈夫、忘れてないよ、お母さん…(画家)
…灰の人、私は死ねないの
だって、世界を描くのだから…(殺害後に復活した画家のセリフ)
細かいことだが厳密には教父アリアンデルは「画家」ではない。彼は修復者であり、新しい世界を描く画家の資格はないのである
よって新しい世界を描く資格をもつのは、画家のみである
なぜ彼女だけが新しい世界を描く資格をもつのか。端的にいえば、最初の画家であるジェレマイアの継承だからである
彼女は半竜プリシラとジェレマイアの遠い末裔であり、それ故に、プリシラの特徴をわずかにもち、そして画家の資格をもつのである
画家が不死であるのも、先祖に半竜がいたことと無関係ではないだろう(プリシラの父をシースとするのならば、古竜の末裔ということにもなる)
死斑の呪術師、ダネル
ただし画家はプリシラとジェレマイアの実子ではない。遠い末裔といったように、おそらく始祖からは何世代も離れている
画家の直接的な両親は、ダネルとその伴侶である
エレーミアスでジェレマイアが闇霊として侵入してくるように、アリアンデルではダネルが狂った霊として侵入してくる
しかもダネルが侵入してくるのは、かつてプリシラのいた円形の神殿である
またジェレマイアが混沌の呪術を使ったように、ダネルもまた混沌の呪術を使ってくる
浮かぶ混沌
死斑の呪術師、ダネルを魅了した儀式呪術
燻りの湖の助祭たちが用いるもの
そしてジェレマイアがプリシラを絵画世界の王妃としたように、ダネルもまたプリシラの末裔を伴侶としたのである(円形神殿は絵画世界の王の間である。そこにいるのは王と王妃であろう)
ダネルは醜い伴侶の死に、呪術の火を捧げたとされる
呪術の送り火
死斑の呪術師、ダネルの用いた呪術火
あらゆる死から名残を集める
それは醜い伴侶の死に捧げられ
送り火となり
ダネルは狂った霊になったという
その伴侶をプリシラの末裔とすると、「醜い」の意味が明らかとなる
つまりダネルの伴侶は、蛇の特徴をもつプリシラの末裔だったのである
その蛇の特徴ゆえに彼女は「醜い」と表現され、ジェレマイアの末裔であるが故に、娘に画を描く心得を伝えることができたのである
…火を知らぬ者に、世界は描けず
火に惹かれる者に、世界を描く資格は無い…
大丈夫、忘れてないよ、お母さん…(画家)
ベルカ、プリシラ、ジェレマイア
エレーミアス絵画世界の重要人物である、ベルカ、プリシラ、ジェレマイアの系譜は、修復されたアリアンデル絵画世界にも継承されていた
ベルカとプリシラを継承したのはフリーデである。それは装いや武器という象徴的な継承に過ぎないが、彼女は確かに忌み人たちの母になろうとしたのである
だがフリーデは女神にはなれず、「修道女」を名乗っている
またアリアンデルは絵画修復者として、ジェレマイアの地位を受け継ごうとした
だが彼も真の画家にはなれず「教父」を名乗っている
修道女フリーデと教父アリアンデルを一言で表現するのならば「贋作」である
絵画に「贋作」があるように、彼らはベルカとプリシラ、ジェレマイアの偽物に過ぎなかったのである
また彼らは聖職者としても偽物である。アリアンデルは教父ではなく修復者であり、フリーデも修道女ではなく火の無い灰である
言うなれば彼らは「聖職者を騙る偽物」である
そしてまた、アリアンデル絵画世界もエレーミアス絵画世界の贋作に過ぎなかったのである
贋作は燃やされ、真の画家によって新しい世界が描かれなければならない
アリアンデルには隠されたテーマとして「偽物(偽者)」がある。アリアンデル絵画世界そのもの、またアリアンデルを守ろうとする者はすべて、「贋作(偽者)」なのである
※法王サリヴァーンも「聖職者を騙る偽者」であるのは、彼が絵画世界出身であることに起因するのかもしれない(次回の考察で触れる)
自分は「外の奴ら」は何を指すかは1派ですね
返信削除闇を恐れ自己保身に走る有様は「ゆるゆると腐っていく」に当てはまる(実際火は陰っていってる)
絵画世界では火を起こすことが世界を作り変えることに繋がり、外の世界では火を消すことが世界を作り変えることに繋がっているという対照性を描きたかったように見えるからです