2019年7月27日土曜日

Sekiro 考察44 陰陽五行思想

陰陽五行思想は「陰陽思想」と「五行思想」が結びついた思想である

もともと別々の思想だったものが、世界(自然界)を説明するのに便利だからと組み合わされて出来た複合思想体系である


陰陽思想

陰陽思想では原初の世界は「太極」と呼ばれる混沌であった。この混沌のうちにある陽の気と陰の気が分離していき、陽の気は天に、陰の気は地になったという
Wikipediaより

この陰陽の二つの気を両儀(Wikipedia)という

この両儀からそれぞれさらに明るいものと暗いものが分離し、それは四象(wikipedia)と呼ばれるものとなったという

四象は思想ごとに解釈が分かれるが、四季(春夏秋冬)であったり、「太陽、少陰、少陽、太陰」といった四つの要素として説明されている

さらにこの四象から八卦(Wikipedia)が発生する。八卦とは事物事象を表わす「(けん)・(だ)・(り)・(しん)・(そん)・(かん)・(ごん)・(こん)」のことである

要するに、「太極」から万物が生成される過程を説明しようとした思想である

以上の思想を簡単にまとめたのが『周易』にある、

「易有太極 是生兩儀 兩儀生四象 四象生八卦 八卦定吉凶 吉凶生大業」(易に太極あり、これ両儀を生じ、両儀は四象を生じ、四象は八卦を生ず。八卦は吉凶を定め、吉凶は大業を生ず)

という文章である


五行思想

一方、五行思想は「万物は火・水・木・金・土の五つの性質に分類される」という考え方だ

これは西洋ファンタジーなどによく登場する「四大元素説(火・風・水・土)」の中国版のようなものである

※五つの元素とすると、原子論的な世界を構成する最小単位の不思議な粒子を想起するため「性質」とした

五つの性質が互いに影響を与え合い、生成消滅してくことで万物が流転する、という世界(自然界)を説明するための思想だ

火と水は相反するが、それだけでなく火の性質に分類された物質(事象)も、水の性質に分類された物質(事象)と相反し、何らかの反応が起きるのである

これを相剋(そうこく)(wikipedia)という

逆に、水が木を育てるのと同様に、水の性質に分類された物質(事象)は、木の性質に分類された物質(事象)を育てる(生む)のである

これを相生(そうしょう)(wikipedia)という(Wikipediaでは「そうせい」となっているが、どちらでも良いと思う)

この関係性を合わせて相生相剋といい、五行思想を現実に適用するための重要な概念となっていく
Wikipediaより



陰陽道

陰陽思想と五行思想という二つの思想を統合したものが「陰陽五行思想」である。そしてこの思想を日本で独自に発展させたのが陰陽道(おんみょうどう)である

陰陽道とは陰陽五行思想を背景にした、占術・呪術の技術体系であり、それに携わる者を「陰陽師」という

もっとも有名な陰陽師は安倍晴明であろう(偶然か否か、源の宮のモチーフと思われる平安期の人物である)



SEKIROにおける陰陽五行思想

さて、安倍晴明や陰陽師たちが重要視したのが、六壬神課(りくじんしんか)と呼ばれる占術であり、安倍晴明は『占事略决』という六壬の解説書まで書き残している

六壬神課には「六壬栻盤(りくじんちょくばん)(wikipedia)という式盤が使われるとされるが、この式盤、源の宮に堂々と置いてある


このことから、源の宮の文化に陰陽道があったことは間違いない

そしてその陰陽道は、「陰陽五行思想」の知識が大前提とされた占術・呪術体系である

であるのならば、SEKIROの世界とくに源の宮の文化を探る上で陰陽思想からの視座は外せないのである

ただし私の知識が根本的に足りないため、指摘できることは少ない。また「きれい」に説明できていない部分も多々ある
よって以下の記述は下書きのようなものである



注連縄ロボ

SEKIRO世界とは異質な感じのする注連縄ロボ

妖怪に詳しい人ならば「ダイダラボッチ」だな、とか神話に詳しい人なら「オオクニヌシ」だろうとか想定はつくが、インパクトを重視した演出の一環だろうとあまり取り沙汰されることはない

この注連縄ロボ、股間の部分に巨木でできた芯がありそこに霊符が貼られている

この霊符の上部は「鎮宅霊符(wikipedia)の「憑依」を意味する霊符である

※「鎮宅霊符」についてはグーグルで画像検索すると全72枚を見られる画像が出てくると思うので見比べてみて下さい(画質は悪いですが)



下部分はまだ解読できていないが、おそらく憑依しているモノを意味する文字だろうと思われる

さてこの鎮宅霊符、もともとは道教の霊符であるが、陰陽道では「鎮宅霊符神」という主要な神として祭られている

また霊符によって人形(ひとかた)に精霊を宿らせて、自在に使役するというのは、まさしく陰陽道のやり方である

この注連縄ロボは文化的・技術的に唐突に登場したわけではなく、源の宮に存在した陰陽道の技術を用いて動かされているのである

陰陽道ではこのような存在を「式神」という(wikipedia)

そして「式神」とは、六壬式盤に由来する呪術なのである

「式神」の解釈は密教の護法童子に似たものであるとか、精霊を使役するものであるとか諸説存在するが、最も有力なのは陰陽道で用いられる六壬式盤に由来するとの説であろう。(wikipedia)

つまり、この注連縄ロボは式神であり、源の宮に置かれている六壬式盤を用いて使役されていた、と「陰陽道的」に考えられるのである


また先の六壬式盤の横に置いてある霊符は「鎮宅霊符」の「警戒」、祭壇の中央に貼られたものは「精霊」の霊符である





奥の院の掛け軸

奥の院の掛け軸を陰陽五行思想の視点から見てみるとどうなるか

東壁


まず背を向け合っている女人図。右の女人は水瓶(すいびょう)を持つことから「水」、そして左の女人は光背が燃えているので「火」とする。さらに背を向け合っているのは、相剋関係にあるからだと考えると「水剋火」と読み解ける

残りは同じ要領で、左から二番目の女人が持つアクセサリーは金属なので「金」とみる。また左端の女人は「花」を持つので「木」とみる

すると、「火剋金」「金剋木」となり、四幅の掛け軸は「五行相剋」を表わしているとわかる



西壁


こちらは背を向け合っている図はない。このことから「相生」を表わしているとみる

花を持った女人は「木」。楽器を持った女人は「水」となるが、これは五行における五事では「聴」「水」だからである(wikipedia)。そして剣は「金」、素手の女人は袈裟の色が黄色であり、これは「土」を意味する

そうすると左から「土生金」、「金生水」「水生木」となるが、水と木の掛け軸を入れ替えているのが分かるかと思う

何故かというと「この二幅の掛け軸は順番を間違えられて貼られている」からだ

五行思想から考えるとこの順に並ばさなければならず、上記のような結論にいたった(※はっきりいおう苦肉の策である)



葦名

次に葦名の地理であるが、葦名の地図に方角を書き入れると下記のようになる(信心深き者が絶命時に指さす方角を西とした)


西に位置するのは仙峯寺である。この仙峯寺には「金属性」の仏像が乱立しているので「

に位置するのは仙郷であるが、ここは源の水の流れ出るところであるので「

にあるのは落ち谷であるが地図には巨木が描かれており、「」の地とすることができる

にあるのは炎上した「平田屋敷」ならびに異常な火(雷汞)をもたらす内府軍であるから「」となる

五行に当てはめると中央は「」となるが、「五虫」では「裸(人間)」であり、人の世界であることが示されている

と、このように五方(東西南北中央)において適した五行(木金火水土)が配されている
Wikipediaより



桜竜

さて、いくつかの考察で「竜と魚」は眷属関係にあることを示したと思う。なぜ竜と魚は眷属関係にあるかというと、五行思想の「五虫」において「竜と魚」は「」あるものとして、同一視されているからである(正確には竜は爬虫類として)

また五行において、竜と魚は「」の性質を持っている
桜竜のステージにが落ち、桜竜が強風攻撃してくるのも、五行における「」の「八卦」が「雷・風」だからである

また「」は、「五液」においては「」の性質を持ち、「赤の不死斬り(拝涙)」という「金」によってその「」が得られるのは、「金剋木」の関係にあるからである

これらの詳細はWikipediaの表を見て欲しい(Wikipedia)



蛇足

果たして五行思想によってSEKIROが説明できるのか、率直にいって自分でもよく分からない

五行思想によって日本神話や日本古代を読み解こうとする手法には、民俗学者の吉野裕子氏という有名な人がいて、私も何冊か著作を読んだことがあるが、よく分からなかったのを思い出す

よく分からないというのは、その方法論が理解できないということではなく、五行による解読法がはたして有効かわからないという意味である

五行思想はその思想からして、万物を「五要素」に分類するところから始まる。逆に言えば五行思想という計算機に通せば「万物」はその五要素に還元されるということになる

どんなものでも「五行という場」に持ちこんでしまえば、あとは五行の方法論によっていかようにも解読できるようになる気がするのだ

五行思想が占術として利用されているのも、状況によってあらゆる「解」を算出できるからではないだろうか、と凡人なりに疑問に思うわけである

とはいえ、陰陽道はその出自が陰陽五行思想に負うところが極めて大きく、またその思想体系が用いた呪術や霊符が平安期の日本において相当な影響力を持ったのはたしかである

もし源の宮のモチーフが平安期なのだとしたら、陰陽師や陰陽道の影が見えない方がむしろ不自然である

そしてその背景には当然ながら陰陽五行思想があるわけで、何らかの影響があってもおかしくはない。というより無くてはならない

問題はどの程度、陰陽道の影響を考慮に入れるかというところで、今回はとくに制限を用いず(掛け軸の順番を入れ替えることさえやった)、考察してみたものである

4 件のコメント:

  1. 地図を見ると鬼門の方角に落ち谷があって、白蛇の社は風水的に理に叶ってるっぽいですね(徳川家が鬼門に神社を置いていた)。
    裏鬼門には黄泉川が流れていて、多分悪い運を流すとか侵入を防いでいる?
    芦名を作った人の中には風水に詳しい人がいたとしても不思議じゃないと思います

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    1. そういえば江戸や京都も風水との関係が指摘されてますね(ほぼ定説になってるのかな?)
      源の宮が平安京をモチーフにしたものだとしたら、葦名という土地を作るのに風水思想を取り入れるのはむしろ当然のような気がします
      今回は五行思想で一杯一杯で風水まで範囲が及びませんでしたが、近いうちに考察してみたいと思います

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  2. 掛け軸が貼り間違え(入れ替わって)いるのは
    水と木の力関係が入れ替わった事をしますのではないでしょうか?
    木が水に喰われる立場になったと考えるとストーリーと合かと。

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    1. なるほど、桜竜が支配的に見えて実際のところ神なる竜を根付かせたのは元あった「葦名の水」ですね
      そう考えると、神なる竜と葦名の水の関係性もいろいろと想像できそうです

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