フロムゲーの考察に利用する個人的な参考図書
※頂いたコメントへの返答に加筆したもの(やや説明不足だったので)
ダークソウル、デモンズソウル
宮崎英高氏お気に入りの漫画のいくつかはインタビューによって明らかにされている
「Favorite Games and Hobbies of Hidetaka Miyazaki」(インタビューからそれらをまとめ、その集まりを「本棚」と表現したエッセイ)
このうち影響が強いと思われるのが『デビルマン』と『ベルセルク』である
人類社会に突如として現われる異分子(かつ世界の深奥)としてのデーモンという構造は『デビルマン』のものと類似している(現代を中世に置き換えるとデビルマン→ダークソウル)
※マレニアのデザインはどことなくシレーヌやサタンに通じるものがある
また『ベルセルク』の影響はビジュアル面や世界設定に強く反映されている
※Redditやグーグルで「Dark Souls, Berserk reference」あたりで検索するとたくさん出ると思う
一つだけ例を挙げれば、アルトリウスや狼騎士はガッツの狂戦士形態そのものである
エルデンリング
神話執筆者であるジョージ・R・R・マーティン(GRRM)作品は外せない
SFからダークファンタジー、ホラーまでGRRMの作品の幅は広いが、エルデンリング自体は『氷と炎の歌』(ドラマ版「ゲーム・オブ・スローンズ」)の流れを汲むと思われる
エルデンリングの物語を、上位者による生態系への関与と解釈するのであれば『タフの方舟』の影響も考えられる
またインタビューでマイクル・ムアコックのエターナル・チャンピオン・シリーズの影響も言及していた(Edge Magazine上)
※余談だがWikipedia等ではマイケル・ムアコック名義なのだが、私のもっているエルリック・サーガシリーズの著者名は「マイクル・ムアコック」になっている
他にインスピレーションを受けた作品として、映画「ロード・オブ・ザ・リング」や「ルーンクエスト」(TRPG)の名も挙げている
SEKIRO
宮崎英高氏は「文化庁メディア芸術祭」の優秀賞を受賞した際のインタビューで、『無限の住人』の影響を明かしていた(記憶にある限り)
捨て牢は無限の住人の不死実験エピソードに類似する
他にビジュアル面で顕著なのは『シグルイ』であろうか
作中に登場する「無明逆流れ」は葦名一心の技にその影響が見て取れる
他に『バジリスク』(原作版は山田風太郎の『甲賀忍法帖』)、鉄傘のアイデアは『花の慶次』からと思われる
ブラッドボーン
ラヴクラフトの『クトゥルフの呼び声』や、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』、GRRMの『フィーヴァードリーム』からインスピレーションを得たと思われる
他に『ナイトヴィジョン スニーカー』に収載されたGRRMの短編「皮剥ぎ人」なども
また時計塔のマリアの武器「落葉」を見る限り『無限の住人』の影響もうかがえる
※落葉のメカニズムは『無限の住人』に登場する「妹守辰政(いものかみたつまさ)」(Wikipedia)と同機構である
またブラッドボーンのビジュアル面では映画「ジェヴォーダンの獣」(原題:Brotherhoood of the Wolf)の影響が色濃い
その他
インタビュー等で明らかにされている宮崎氏お気に入りのコンテンツ群の他に、作品を読み解く上で筆者が参考にしている図書等を挙げる
『神話学入門』(松村一男)
神話学の誕生から現在までを概説するもの。各神話学者の主張を分かりやすくまとめてくれている
フロムゲーの神話を読み解く場合、特定の神話に起源を求めるよりも、神話学的な解釈を援用した方がわかりやすいかもしれない
『エッダ ――古代北欧歌謡集』(谷口幸男訳)
北欧神話の基本。ただし口承されてきた神話を文章化したものなので読み切るには根気が必要
『図説 金枝篇』
フレーザーの金枝篇を後代の学者が解説したもの。フレーザーの原著には膨大な量の資料が羅列されており、情報の洪水に飲み込まれて論旨を見失うことが多々ある
図説 金枝篇では神話学者により枝葉末節が省略され、フレーザーの理論が分かりやすく整理されている
『千の顔をもつ英雄』(ジョーゼフ・キャンベル)
英雄物語の基本構造を解き明かしたもの。英雄の条件、英雄がたどるべき道、英雄の宿命などが多くの実例とともに提示されている
有名な話だが映画「スター・ウォーズ」はこの本をもとに基本プロットが執筆された
スター・ウォーズがSFでありながら神話の英雄譚のように感じられるのは、英雄物語の構造を換骨奪胎してSFに応用しているからである
また神話のサイクル(世界の終末と再生)の話は、ダークソウルの火継ぎのメカニズムを説明したものである
『北欧とゲルマンの神話事典』(原書房)
北欧神話の事典は多く出ているが、質・量のバランスがよい
実際のところ北欧神話ほど有名なものだとWikipediaで事足りる場合もあるのだが、複数の資料で確認をとりたい場合によく用いている
※他に『北欧神話と伝説』(グレンベック)や池上俊一氏の著作群など
『黄金と生命』(鶴岡真弓)
金属としての黄金と生命の深い関わりを論じたもの。エルデンリングのテーマと重なる気がしたのでここに挙げた
かつて黄金は生きている金属として扱われ、それは生命の深奥を宿す奇跡の物質であった
黄金は「永遠の生命」と「死」を象徴し、また黄金の指輪(リング)は太陽の象徴であった
『永遠回帰の神話』(エリアーデ)
神話を語り、儀礼を執り行うとき、人は原初の神話的時間を生きる(永遠に起源に回帰する)
儀礼や神話は時間に作用するある種のタイムマシンである
儀礼によって行なわれる神と人間との婚姻は、原初の楽園状態を回復する(=世界を再生する)ことである(エルデンリングの神と王との婚姻)
死者の侵入儀礼において、死者が現実世界に侵入したとき、世界の時間は停止され「過去」と「現在」とが混じり合う非日常世界が展開される(狭間の地の現状)
火の消灯・点灯儀礼とは、火の消灯により現世界の終わりを示し、また点灯により新しい世界のはじまりを告げるものである(火継ぎ)
儀礼的戦闘とは、神と太初の竜との間の戦闘を再現したものである(古竜とグウィンたちの戦い)
『ギルガメシュ叙事詩』(矢島文夫)
古代メソポタミアに伝わっていた神話叙事詩
古代メソポタミア文明はチグリス川とユーフラテス川のあいだに興った世界最古の文明である
ギルガメシュとは叙事詩に登場する英雄の名で、ウルク第1王朝第五代の王である
二つの川とウルクという名からは、エルデンリングのウル・ウルド王朝に関連する地下世界が想起される
地図断片:エインセル河
狭間の地下には、二つの大河が流れている
シーフラとエインセル。そこは
黄金樹の以前に栄えた、文明の墓場でもある
『ヨーロッパ人名語源事典』(梅田修)
ダークソウルシリーズ、ブラッドボーンの登場キャラクターの多くが記載されている人名語源事典(ただしダークソウル2のものは少ない)
巻末の10言語対照表にはブラッドボーンのキャラ名のほぼ全員が記載されている。またそれらの多くはハンガリーとチェコの爛から採用されていることがわかる
第五章「ケルト民族」には、アルトリウスやグウィネヴィア、グウィン、グウェンドリンなどの名前が列記されており、中でもフラン、ロイド、サリヴァン、ゴーの名前は色を表わす名前として列記されている
個人的には種本の一つだと思っている
『心理学と錬金術』『元型論』(C・G・ユング)
ユングの著作から直接に影響を受けたというよりも、これらの理論を応用することで、ダークソウルやブラッドボーンを解釈することができるのではないか、ということで挙げた
上述した『千の顔をもつ英雄』の元ネタでもある
短く要約するのも難しいので、過去に書いた記事のリンクを張っておく
『論理哲学論考』(ウィトゲンシュタイン)
神話というか哲学の話。しかも『論理哲学論考』そのものではなく、言語学者であるソシュールに関連して挙げたものである
ソシュールは近代言語学の父といわれる人である
なぜ言語学の分野がダークソウルに関係しているかというと、ソシュールが「差異」によって世界を説明しようとしたからである
さらに、ソシュールは、音韻においても、概念においても、差異だけが意味を持ち、その言語独特の区切り方を行っていると主張する。(Wikipedia)
古い時代
世界はまだ分かたれず、霧に覆われ
灰色の岩と大樹と、朽ちぬ古竜ばかりがあった
だが、いつかはじめての火がおこり
火と共に差異がもたらされた
熱と冷たさと
生と死と
そして、光と闇と
そして、闇より生まれた幾匹かが
火に惹かれ、王のソウルを見出した(ダークソウル1オープニング)
ダークソウルの世界は「差異」によって生じた世界である
『論理哲学論考』では言語によって構築された「論理空間」こそが、世界の真の姿であるとする(言語化しえない世界は世界として成立し得ない=語ることができない)
つまり世界は言語という差異化によって構築され、維持されている
ダークソウルの世界も「差異」という言語化により生じた世界であり、それ以前は霧に覆われた言語的に「曖昧」な世界である
『黒い錬金術』『吸血鬼幻想』(種村季弘)
著者の種村季弘についてはWikipedia参照のこと
古今東西の異端的・暗黒的な文化や芸術に関する広汎な知識で知られ、クライストやホフマン、マゾッホなど独文学の翻訳の他、内外の幻想小説や美術、映画、演劇、舞踏に関する多彩な評論を展開し、錬金術や魔術、神秘学研究でも知られる。これに関連して、吸血鬼や怪物、人形、自動機械、詐欺師や奇人など、歴史上のいかがわしくも魅力的な事象を多数紹介。(Wikipedia)
乱暴な言い方をすれば、数多のオカルト小説、ファンタジー小説、幻想小説の元ネタのような人である
宮崎英高氏ぐらいの世代の読書家兼オタク兼サブカル人ならば知っていて当然ぐらいの有名な人である
それはともかく、ブラッドボーンのような吸血鬼の登場する作品を作ろうとした場合、日本においては『吸血鬼幻想』はその資料のひとつにはなると思われる
古い本なので純粋な資料的価値を今も保っているかは不明だが、しかしその博覧強記かつ妖しげな文章は多くのインスピレーションを与えたとしてもおかしくはない
その他
アノール・ロンドの「アノール」はトールキン(Wikipedia)の人工言語シンダール語で「太陽」という意味がある。またロンドは「港、避難所、楽園」という意味に解釈できる
他にもイルシール(Irithyll)をシンダール語で解釈すると「Ir ithil」となり、これは「月の時(月の刻)」というふうにも解釈することができる(詳細は「アノールロンドとイルシール」)
このようにフロム神話では特に神族にかかわる地名にトールキンの人工言語が使われることが多い(ブラッドボーンにもいくつかある)
こんな時に便利なのがトールキンの人工言語を検索することのできる「Parf Edhellen: an elvish dictionary」である
またキャラ名の語源を調べたい時に便利なのが「etymology」である
※ダークソウルやブラッドボーンのキャラ名は基本的に上記で紹介した「ヨーロッパ人名語源事典」に記載されているが、一部載っていないものはここで調べた(ロスリックなど)
蛇足
今回紹介した書籍類は考察のために必須というわけではない。むしろ現実の理論に惑わされて本筋を見失うこともある
また筆者の考える理想的な考察とは、ゲーム内の情報のみを用いて考察することである
よってこれらの書籍・情報は参考以上の価値はないとも言える
しかしながら、それでもなお何らかの指針を求めたい場合には、過去の知識人たちの理論を応用することも、時には有用であろう
件のコメントをした者です!
返信削除詳しいご解説本当にありがとうございます
seedさんにお聞きしなければこれらの本に出会えることはなかったでしょう
知らない書籍ばかりで読むのがとても楽しみです!
そう言っていただけると嬉しいです
削除まとめるタイミングを逸していたもので良い機会になりました
ただややジャンルが偏っているので、そのあたり修正していこうと思っています
(TRPG関連や日本神話関連がやや薄め)
この記事でシードさんにご紹介いただいた「元型論」を読破しましたが、非常に面白い本でした
削除ユングは「元型論」においては無意識と意識の関係を海と孤島を用いて例えていますが、アーサー・C・クラークの「幼年期の終わり」にも全く同じ表現が出てきていたので大変驚きました!
この本がブラッドボーンに影響を与えていることは間違いなさそうですね!
改めてご紹介いただいたお礼を述べさせて頂きたいと思います
ありがとうございました