イザリスの王子
イザリスには王子がいる
本編をプレイした人であれば王子に出会っているはずである
イザリスの王子とは「壁虫」のことである
壁虫ことイザリスの王子 |
内部名リストによれば、この壁虫は「プリンスイザリス」である
イザリス王
またリストのイザリスの王子のすぐ上にキングイザリスという名前が見える
インタビューによれば、キングイザリスは玉座に座った状態でプレイヤーを出迎える予定であったとされる
最初はあれだけがボスとしていたんですよね。いまは寝そべって手を振るだけですけど、あいつが玉座に座っていた(インタビューより藁谷氏)
コメントからは現在の混沌の苗床の核が玉座に座っていた、とも読み取れる
手を振っているらしい |
イザリス王家
イザリスの王子とイザリス王。本編をプレイするだけでは一切その存在が語られないイザリス王家の男系である
なぜ本編に存在していないかというとその理由は明らかで、没になったからである
イザリス王家から王と王子の存在が抹消され、残ったのはイザリスの魔女とその娘たち、すなわち女系だけである
前回の「イザリス1」では残された女系をもとに考察を展開した
今回は没ネタとなった男系を含めた考察をしたいと思う
黄の王ジェレマイア
壁虫は「プリンスイザリス」という内部名を持つ。この壁虫と類似した頭部を持つことから黄の王ジェレマイアをイザリス王とする理論がある
これは海外のRedditなどで人気があり今も大きな影響をもつ理論である
代表的なものとして、Hawkshaw氏の「Rediscover Dark Souls Lore: Demons」(Youtube)という動画が挙げられる
またHawkshaw氏の理論を取り入れたVaatiVidya氏の「Dark Souls Lore ► Izalith Translated」(Youtube)も有名である
上記二つの動画はイザリス全体を考察したものであり、そのうちのひとつとしてイザリス王=黄の王ジェレマイアに言及したものである
さて、ではイザリス王=ジェレマイアの妥当性について考えてみたい
壁虫と黄の王ジェレマイアの頭部は形状的にはかなり似ている
ジェレマイアの頭部は黄衣で巻かれており、その内部に壁虫が潜んでいるとすると形状的にぴったりと一致するようにも思える
寄生虫がプレイヤーの頭部に寄生したように、壁虫がジェレマイアの頭部に寄生したのだとすると、その異様な頭部の理由にもなる
またジェレマイアは黄の王と言われ、伝説の追放者とされる
黄衣の冠
伝説の追放者、黄の王ジェレマイアがつけていた
まったく由来の分からない謎の衣装
冠には上質の布が使われ、ふわふわとやわらかいが
鮮やかな黄色が目にいたく、明らかに大きすぎる
その上ジェレマイアは混沌の炎系の呪術を使ってくる。混沌の炎系の呪術はイザリスの魔女の業である
混沌の大火球は着地点に溶岩溜りを作る |
またこの理論では、イザリスの玉座には黄の王が座っていることになるが、これはデモンズソウルの「黄衣の翁ステージ」をゲームデザイン的に踏襲したものとなる
これらの根拠から、ジェレマイアをかつてのイザリスの王とし、没になった=追放されたことで絵画世界に再配置されたのだ、とするのが、ジェレマイア=イザリス王説の論旨である
これは非常に理に適った理論であり、DS1のみ伝承としては正当なものであろう
しかしながらDS3の黄衣の頭冠にはこうある
黄衣の頭冠
古い黄金の魔術の国、ウーラシール
その神聖な生物を模したという頭冠
黄衣は、失われた魔術の探求者の装束であり
大きすぎる頭冠はその象徴である
奇態が導きたるのなら、なにを恥じることがあろうか
つまりジェレマイアの頭部は壁虫とは無関係であり、それはウーラシールの神聖な生物(恐らくキノコ)を模したものである
またその黄衣はウーラシールの黄金の魔術の探求者の装束であって、イザリスとは無関係である
確かにジェレマイアはイザリス王だったのかもしれない。そして壁虫はイザリスの王子だったのかもしれない。そしてイザリス王は没になった段階でメタ的に伝説の追放者と命名されて、絵画世界に再配置されたのかもしれない。彼が混沌系の呪術を使うのもその設定の名残なのかもしれない
だが、仮にそれが正しかったとしてもそれは没になった設定であってDSシリーズの伝承としては、ジェレマイアはイザリスではなくウーラシールと絵画世界に紐づけられるキャラクターである
よく見ると実はそんなに似ていない |
イザリス王
またそもそもインタビューで明かされているように、イザリス王はいま現在は混沌の苗床の核として知られる虫のような生物だった
最初はあれだけがボスとしていたんですよね。いまは寝そべって手を振るだけですけど、あいつが玉座に座っていた(インタビューより藁谷氏)
では壁虫ことイザリスの王子とは何なのか
恐らくボスステージのギミックの一つだったのではないだろうか
というのも、内部名をリスト順を見てみるとイザリスの王子はキングイザリスの真下に位置している
そのキングイザリスの上は「墓王ニト」であり、プリンスイザリスの下は「爛れ続ける者」である
並び順的にプリンスイザリスはボスの並びに位置しているのである
プリンスイザリスは単体ボスであるか、あるいはキングイザリスと共に登場するボスの一部だったと考えられる
しかしキングイザリスとプリンスイザリスは没となった
その結果、内部名リストの末尾に加えられたのが「ボスイザリス」と「ボスイザリスコア」である
イザリスクイーン
内部名リストの中程(c3240, c3250)にイザリスとイザリスクイーンの名前が見える
内部名イザリスには「Chaos Eater」、イザリスクイーンには「Maneater Clam」という英名が付けられている
前回の考察で、イザリスの魔女は炎と闇とを融合させるために人を喰らったと述べたが、Maneaterとは「人喰い」のことである
またClamは貝のことである。Maneater Clamと聞いて思い浮かぶのは、五足のバイバルである
五足のバイバル |
一方のイザリスの方は「Chaos Eater(混沌喰い)」の名前が付けられている
Chaos Eaterというのは「イザリスの混沌」の英名である
イザリスの混沌 |
さて、イザリスクイーン(イザリスの女王)はその名前からイザリスの魔女のことと考えられる
私の母イザリスは、かつて最初の王の1人だった
最初の火のそばで、ソウルを見出し、その力で王になったんだ
(イザリスのクラーナ)
言うまでもなくイザリス(Chaos Eater)はイザリスとして登場しないし、イザリスクイーン(Maneater Clam)もイザリスの女王として登場しない
C3240とc3250は完全に没となり、それぞれイザリスの混沌と五足のバイバルとして再利用されたのであろう
よってそのままDSシリーズの伝承に取り込むことはできない。混沌喰いとしてのイザリス、人喰いとしての女王イザリスは本編上には登場せず、内部名リストにその痕跡があるだけである
しかし一方で黄衣の頭冠のように、矛盾する事実もない
没ネタを扱う難しさはここにある。没ネタを完全に設定から排除されたものとするか、あるいは何らかの理由によりただ登場させなかっただけなのか、という判断がプレイヤーにはできないのである
よって、実装されたテキストなどの隣接情報から推測していくほかない
デーモン文化
先に紹介した2つの動画では、廃都イザリスは混沌の炎によって滅びてはおらず、むしろ混沌の炎から生まれたデーモンたちにより高度な文明が築かれたと考察している
根拠としては、インタビューにおいて、「爛れ」が混沌の炎が不安定な時期に最初に生まれたデーモン、と言われていることである
不安定ということは後には安定したのであり、安定した混沌の炎とそこから生まれるデーモンの手により、いま現在見られるようなアンコールワット的な遺跡が築かれたという
またイザリスが滅びに向かったのは混沌の炎に飲み込まれたからではなく、実際的にはグウィンとの戦争が原因だったとする
これも非常に理に適った理論である(動画としても面白い)
イザリスの巨大な建造物群はデーモンの大きさに見合うものであり、またDS3にはデーモンの老王や王子が登場することから、女王イザリスとその娘たちが混沌に飲み込まれた後に、ある一定の階級社会が築かれたことも推測しうる
デーモンのソウル
混沌の炎より生まれ、その炎はもはやない
故にデーモンは滅びゆく種族である
デーモンの老王のソウル
痩せさらばえた、燃え滓のような老王は
イザリスの混沌を知る最後の一体だった
デーモンの王子のソウル
ひとつの混沌から生じたデーモンたちは
多くのものを共有する
王子の誇り、その消えかけた炎ですらも
そして最後の一体が、それを再び灯したのだ
混沌の炎がないことでデーモンは滅びゆく種族とされる。逆に言えば炎がある間はデーモンは全盛だったのであり、イザリスは混沌の炎によって即座に滅びたわけではないのである
しかしここでは一つの混同がなされている
混沌の炎が生まれる以前のイザリス文明とその後のデーモン文明は根本的に別物である
混沌の炎の安定形態は巨石ではなく「巨大な木の根」である
その木の根はイザリス遺跡のあらゆる場所に蔓延り、巨石文明を絞殺しようとしている
つまり先に巨石の文明があり、その後に木の根に象徴されるデーモン文明が現われたのである
これをイザリスとデーモンに当てはめるのであれば、イザリス文明とはまず巨石文明であり、その巨石文明を滅ぼしたものが木の根に象徴されるデーモン文明となる
イザリスの築いたイザリス王国は混沌の炎に飲まれて滅びている
デーモン文化とはそのイザリスを苗床にして誕生した新たな文明であり、それは石ではなく木によって象徴されるのである
安定した混沌の炎、すなわち混沌の苗床から生まれたデーモンたちは、王を戴くひとつの共同体を形成した
しかしそれは、イザリスの魔女やその娘たちの構築していた秩序とは別の異質な秩序なのである
巨石建造物は秩序を象徴する構造物である。その遺跡群を覆っていく植物相は人の秩序を離れた「混沌」を象徴するものである
ここには人(知的生命体)と自然という二項対立が見られ、人のうち立てた秩序はやがてすべて自然(混沌)に帰るという思想が読み取れるのである
そしてその混沌すらも火が絶えて、すべてのものは無に帰する。そのような終末的思想を描いたのがDS3のデーモンの王、王子関連のシナリオであろう
イザリスのクラーナ
イザリスの滅亡に関連するかはやや不明だが、先の動画ではイザリスのクラーナは不死(プレイヤー)を魅了(呪術)することで、憎んでいた母と妹たちを殺させた、とする理論が展開されている
一言でいえば、その可能性は低そうである
というのも「ゲームの食卓」において宮崎氏は「彼女は善いキャラクターなのは間違いない」とも述べているからである(ニコニコ動画「ゲームの食卓」10:30頃)
またDSのNPCに善人キャラクターが多いという話題でもクラーナは取り上げられている
※裏読みすることも不可能ではないが、その理由は乏しい
またDS3では、混沌の娘の遺骸に寄り添って死ぬクラーナの姿もある
これなども、妹を憎んでいたのであれば考えられない状況である
しかしながら動画としては本当に面白いので個人的にも完全に否定してしまうのは惜しい
Hawkshaw氏の動画は、「Rediscover Dark Souls Lore: Ash Lake, Havel, and the Plot against the Gods」(Youtube)も傑作であるのでオススメする
こちらはハベルによる神殺し計画である。マップの位置関係、アイテムの位置関係など、かなり納得させられる内容である
ただし、灰の湖の頭蓋骨や原盤関連に関しては筆者とは意見を異にする
※個人的には灰の湖の頭蓋骨は「鬼」だと思っている
鬼討ちの大弓
彼らの神話によれば、角を持つ巨人
鬼を討つために使われたという
蛇足
イザリスは本編のみを手がかりとすると、イザリスの魔女を頂点とする母権制(もしくは母系制)の国家になる
だが、没ネタであるイザリス王とイザリスの王子を含めると家父長制とまではいかないが、よくある国の形となる
しかしながら、クラーナの魔術が女性を師とすることでしか学べないことから、DSシリーズの伝承としては、イザリスは女性が権力を握る母権制の国家であった可能性が高い
クラーナの呪術書
彼女独特の呪術が記され
女性を師としてしか学ぶことができない
女性の呪術の師に渡すことで
クラーナの呪術を学べるようになる
イザリスの魔女の生き残りであったクラーナは
あるとき一人の、人間の弟子を得たという
そして後、新たな弟子をとることはなかったと
女王を戴く母権制の国であっても、実質的な権力を握るのは女王の夫やその息子であることもあるが、イザリスの魔女はその力(王のソウル)も保持していることから、女系優位の国家と考えられる
とすると、母権制国家であるイザリスのボスとして、お飾りに過ぎないイザリス王やイザリスの王子が登場するのはいささか奇妙である
ボスとしてはやはり王のソウルを見出したイザリスの魔女やその娘たちが相応しいであろう
そんな経緯があったのかは不明だが、実際にキングイザリスは玉座から排除され、核として横になった状態で登場する
その結果、ゲーム上でプレイヤーと主に戦うのは混沌の苗床となったイザリスの魔女とその娘たちである
核はただ横になり、プレイヤーが最後の一撃を喰らわせるのを待つのみとなった(しかもそれは王とは呼ばれず「核」である)
つまるところ、没ネタであるイザリス王とイザリスの王子を正史として組み入れてしまうと、DS全体の伝承に齟齬が生じる
よってイザリス王と王子は設定からも完全に没にされた没ネタとして扱うのが良いかと思う次第である
上でも書いたが、没ネタの中にも「設定から完全に除外されたもの」と「設定からは除外されていないが何らかの理由でゲーム上から消えたもの」が存在する(もっと複雑に絡み合った理由も考えられる)
イザリス王とイザリスの王子は前者であり、イザリスクイーンとイザリス(混沌喰い)は後者なのではないかというのが筆者の考えである
根拠としてはイザリス王は後の伝承と齟齬が生じるのに対し、イザリスクイーンのそれはむしろ伝承と沿う形であるからである
ただし、イザリスクイーンが完全に没だったとしても、筆者の考察には影響がない。前回、没ネタを扱わずに考察したのはそれが理由である
内部名リスト
内部名とはプログラム内部で使われることを目的とした名前で、他と区別しやすくまた分かりやすい単語が使われることが多いようだ
内部名を見るとわかると思うが、かなり適当につけられている(オーンスタインはグリフィスという内部名をもつ)
設定や連想から付けられた名前であるが、設定が没になった後に再利用しようとする際には、書き換えることなく最初につけられた名前がそのまま利用されると考えられる(余計なバグを生じさせないためかもしれない)
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