本考察の参考元となっている動画はこちら→Meaning of “Yhar’gul”? “Blind” etymology research experiment [Bloodborne, Dark Souls II]
またトールキンの人工言語についてはArdalambionを参考にした
ヤハグル(Yahar’gul)
さて、上記動画によれば、Yahar’gulの名前の意味は「血の幽鬼」を意味するという。その他にもいくつか考えられる「意味」にも触れられているので、詳細は動画を見て欲しいまずgûlとは、トールキンの人工言語のうちのひとつ「黒の言葉」において、「Wraith」を意味する単語である(参考ArdalambionのOrkish and the Black Speech)
例えば指輪物語に登場するナズグル(Nazgûl)のうち、nazgは指輪を意味する単語であり、nazg+gûlは「指輪の幽鬼(Ring-wraith)」という意味になる
この他にgûlには、黒魔術や魔術、ネクロマンシー、禁断の知識等々の意味が存在する
例えばミナス・モルグル(Minas Morgul)は、Minasが塔、morが暗い、黒い、gulが魔術という意味に分解され、翻訳では「呪魔の塔」になる
要するにヤハグルのグルには「幽鬼/魔術」といった意味がある
続いてYaharであるが、トールキンの人工言語にはYaharという単語は存在しない。しかしながらyárという言葉はあり、その意味は「血(blood)」である
本作における血の重要性を鑑みるならば、説得力のある語である
Yaharからyárへの語形変化については、DS3に登場するイルシール(Irithyll)がIsil(月)やIthil(月)からの合成(ルシエンの歌の歌詞『ir Ithil ammen Eruchin』)であることを考えるのならば、yaharもYarと何らかの単語の合成であると思われる
以上をまとめるとヤハグルとは、血の幽鬼/血の魔術/血の知識、等々の意味があると考えられる
ヤーナム(Yharnam)
さてヤーナムという単語は、ヤハグルと「Yhar」が共通している(厳密にはYaharとYhar)では、Yharnamのnamとはどんな意味があるのか
上記動画の制作者KazzArmA氏が挙げるのが古英語の「ham」(あるいはゲルマン祖語のhaimaz)であり、home(故郷、家)の意味がある
このhamにyárが合成されることでYharnamとなり、「血の故郷」という意味になる
※hamには街の意味があり、YharnamがもとはYárnham(血の街)という綴りだったのではないかというコメントをshe.oakenさんからいだだきました。詳細は下のコメント欄を読んでいただければと思います。説得力があり私は納得しました
しかしながら、トールキンの人工言語を組み合わせたヤハグルに比べて、
※多言語+古英語で構成される地名はイギリスではままあることだそうです。詳細はshe.oakenさんのコメントを読んでいただければと思います。私の指摘は言いがかりに近いものでしたので、撤回します
ヤーナムという名は、トゥメルの女王に代々受け継がれてきた名前である
支配者の名が街の名となったのか(アレキサンドリアのように)、あるいは神聖な街の名を女王が戴いたものであろうか
もしくは上位者が悪夢そのものである(Hunted Nightmare)ように、「女王」そのものが「街」だったのかもしれない
さて、トールキンの人工言語において、語尾に「nam」が付く言葉としてはgohenamがあり、その意味は「許す/赦す」である
Yár+gohenam=Yharnamとなり、その意味は「血の赦し」となる
またトールキンの人工言語には、nahamという単語があり、その意味は「召喚」である
このnahamのnとhを入れ替えると、hanamとなり、これにYárを合成することで、Yharnamとなる
その意味は「血の召喚」となろうか
Gohenamにしろnahamにしろyár(「血」)が付くことで、どちらもそれっぽくなってしまいこれ以降は好みの問題となろう
ヤーナム/ヤハグル
「血の幽鬼」というのは、隠し街ヤハグルという存在様式からいって妥当だと思われる。しかしながら、ヤハグルの中心にあり街を隠しているのは「ビルゲンワースの蜘蛛」であるそしてその蜘蛛が隠しているのが「儀式」である
この儀式を魔術的な用語で言い表すのならば、「血の魔術」となるであろう。個人的には「血の幽鬼」というよりも、「ヤハグル(血の魔術)の街」としたほうがしっくりくるが、これも解釈しだいであろうと思う
またヤーナムは、トゥメルに代々受け継がれてきた女王の名前である
その女王は上位者の赤子を得るための生贄のような存在であり、上位者の血を現世へ呼び出すという意味で「血の召喚」と呼ばれるのがふさわしいかと思われる
蛇足
DS1のアノールロンドやDS3のイルシールなど、トールキンの人工言語を利用した名前があることは知っていたのだが、それがブラッドボーンにも登場していたとは完全に盲点だったクトゥルフ神話にばかり注目していたせいで、危うく見過ごすところだったので、動画のコメントは本当に助けになった
コメントを寄せてくれたBozeman氏には改めてここにお礼を申し上げる
いつも参考にさせていただいています。
返信削除ヤーナムについて
①他言語+古英語で構成する地名というのはイギリスではまま在るようですね。トールキン繋がりの例では、ホビットの里ブリー村(Bree)のモデルである、イングランドの地名ブリル(Brill)は、ブリトン語の“BreƷ(丘)”と古英語の“hyll(丘)”を合成した語「BreƷ-hyll(ブリル)」から来ます。トールキンが自作の世界観づくりに取り入れる事も、それをブラボが踏襲する事もアリアリかもしれません。
②ham(街、集落)説とすると、YharnamはもともとYárnham(血の街)という綴りだったのではと読みました。ロンドンのトッテナム(Tottenham)なども同じパターンです。農民のトタ(Tota)さんが長を務めた集落だから、だそう。“n”によって属格化する(~の~)なら、Yárnhamの“n”も属格で「血“の”街」を表すものと取れます。参考までに。
とはいえ、ここまで書いてみても、個人的には“血の赦し”説の方がフロム脳は膨らみますが…。
貴重なご指摘ありがとうございます
削除とても説得力のある考察で納得しました
どうやら私の調査と知識不足のせいで誤った結論に到ってしまったようです
she.oakenさんの緻密な考察と比べますと私の考察はこじつけに近いのかもしれません
さっそく記事の訂正を入れたいと思います
私の付け焼き刃の知識ではブラッドボーンは少々荷が重いのかもしれません
ご返信ありがとうございます。
返信削除まずは、自分がもしかしてマウンティングをとるような記述になっていないか、頭ごなし感のあるコメントをしてしまった事をお詫びしたいです…。
誤った結論ともこじつけとも微塵も思っていないです(むしろ賛同のうえ援護したかったのです)。
自分の場合、もともとイルシール(Irithyll)の語源を考えあぐねていたところに、今回の記事があまりに腹落ちできたので主題のヤハグル/ヤーナムについても喜んで飛びつきました。
援護というと差し出がましく、「いいね」の延長線のつもりだったのですが、「よくないね」に感じられましたら、それは誤解であるとともに私の伝え方の誤りとして反省します。
とはいえ、拙生の意見を取り入れてくださって感謝です。荷重と仰らず是非ともブラボ考察(SEKIRO、ダクソ、来るエルデンリングももちろん)をお願いします。
いえ、否定的な印象はまったく受けませんでしたし、今も受けていません
削除私の返信のせいで誤解されてしまったら申し訳ない(あまりに説得力のある考察だったので、反射的に自己卑下ぎみの嫌みな返信になってしまっていたのかもしれません)
むしろ誤った知識を広めずに済んで安堵するとともに感謝しています
Yhar'gulという名前の解釈はともかく、多言語+古英語の構成がおかしい、というのは完全に私の思い込みでしたので…
私としては考察の目的は自説の正しさを証明することではなく、より説得力のある結論にいたることにあると思っているので、間違いやミスがあってもいいというスタンスをとっています
もしまた妙な思い込みや間違いがあったら指摘していただければと思います