2019年11月6日水曜日

Bloodborne 手記5 ガスコイン神父

ガスコイン

ガスコインという名は英国圏、特にアイルランド系の名前と言われることが多い。ガスコイン神父が異邦人でありヤーナム出身ではないことは、神父装備に書かれている

神父の狩帽子
なお神父とは、元々が異邦の聖職者であった故の呼び名であり
医療教会では、神父という敬称は使用されない

また、マーク・ガスコイン(Marc Gascoyne)という実在の人物がおり、彼はTRPG関係、特に「クトゥルフの呼び声」関連の仕事で知られているという

TRPGに造詣の深い宮崎氏が「マーク・ガスコイン」から神父の名を採用したと考えてもおかしくはない
(英語版では「Gascoigne」と綴られるが、内部IDではマーク・ガスコインと同じ「Gascoyne」と綴られている)

つまり、異邦感を出すためにイギリス、アイルランド系の名前を探しているなかで、マーク・ガスコイン氏の名を思い出し(または見つけ)、神父の名をガスコインにしたという推測である


ガリア

しかしながら、このガスコインという名は、そもそもイギリスではなくフランス南部のガスコーニュ地方に由来するという。これは元サッカー選手ポール・ガスコイン氏Wikipediaにも書かれている

ブラッドボーンとは関係の薄い印象のあるフランスの地。しかしフランスはかつてガリアと呼ばれており、ガリアとは「ケルト人の地」を意味する言葉である

ケルト文化がダークソウルシリーズやブラッドボーン、デモンズソウルに与えている影響は大きいが、それは別の機会にまとめたいと思う(一例として、ハベルとはチェコ語で「ケルト人」、ガルとは英語で「ケルト人」をそれぞれ意味する)

ヤーナムの位置を現実世界の地図に重ね合わせると、おそらく中東欧のあたりだろうと推測される
一言に中東欧と言ってもかなり広く、フランスからドイツ、チェコやハンガリーを含む地域である

現代の地図に重ねようとすると複数の国にまたがり、ゲームの世界設定として散漫な感じがするが、これをケルト人の住んでいた地域と考えるのならば、ちょうどハルシュタット文化の起こったあたりが、ヤーナムの推定地域とピタリと重なる(Wikipediaの地図

つまりブラッドボーンとは、時代背景をヴィクトリア朝にした「ガリア」が舞台の物語なのである
※ただしガリアの地を時間空間的にかなり狭い範囲に圧縮していると思われる


ローラン

さて、ガスコーニュの語源となったヴァスコニアフランク王国との間に起きた戦いが「ロンスヴォーの戦い」であり、これは後に古フランス語の叙事詩『ローランの歌として語り継がれていく

『ローランの歌』は後の中世騎士物語の理想的なモデルとなっていくが、その中世騎士物語で最も好まれたのがアーサー王と円卓の騎士による「聖杯探求」の物語である

このローランという名は、ローレンスと語源が同じである

獣の病によって滅んだローランと、獣の病に侵され獣化したローレンス同じ名前を持つのである。さらにいえば、ローランの聖杯のグラフィックには聖杯に侵食されている頭蓋骨が描かれているが、ローレンスの頭蓋骨もまた聖遺物として祭壇に捧げられ、その骨は醜く獣化している

※聖杯の中で頭蓋骨が描かれているのはローラン系のみである

あるいは、ローランの聖杯とはローレンスの聖杯そのものを意味しているのかもしれない

周回において聖杯ダンジョンが前周回の情報を受け継ぐことから、聖杯ダンジョンは時間や空間と切り離された時空であり、つまり未来も過去もなく、そこにはあらゆる時代の聖杯(ダンジョン)が登場するのである

ゆえに、ローランの聖杯ローレンスの頭蓋を乗せた聖杯とするのも、砂に埋もれたローランをかつてのヤーナムとするのも(ローランは、主人公の狩人が到着せず、ヤーナムが獣の病で滅びた世界線)、聖杯を除く世界全体が周期的に繰り返していると考えるのならば、可能なのである

とはいえ、ローランの歌のローランはRolandであり、ローランの聖杯のLoranや、ローレンス(Laurence)とは綴りが異なる

砂に埋もれたという情報も加味すると、古代中国にあった楼蘭(Loulan)という都市である可能性もある(楼蘭は古代中国ではなく、その西方にあった国の間違いです。ご指摘ありがとうございました)

楼蘭(ろうらん,Loulan,推定されている現地名はクロライナ Kroraina)は、中央アジア、タリム盆地のタクラマカン砂漠北東部(現在の中国・新疆ウイグル自治区チャルクリク)に、かつて存在した都市、及びその都市を中心とした国家である。(Wikipedia)



家族

話が逸れまくったので軌道修正する

さて、ガスコイン神父には家族がいる。それは例えば小さなオルゴールの紙片に残された「ヴィオラとガスコインの名」であり、ヤーナムの少女の母がつけているという真っ赤なブローチに刻まれたヴィオラの名から推測できる

小さなオルゴール
蓋の裏の紙片は、どうやら古い手紙のようで
かろうじて2人の名前が読み取れる
それはヴィオラと、そしてガスコインであろうか
※ガスコイン戦で小さなオルゴールを使うと、ガスコインがもだえ苦しむ

少女:お母さん、真っ赤な宝石のブローチをしてるんだ
少女:お母さんを見つけたら、このオルゴールを渡してほしいの
少女:お父さんの好きな、思い出の曲なんだって

真っ赤なブローチ
女物の真っ赤なブローチ
刻まれたヴィオラの名も見てとれる

まとめると、父ガスコイン母ヴィオラ娘ヤーナムの少女という家族構成である。この他に、終盤になって登場する少女の姉が存在する

ここまでは大体の人がプレイしながらなんとなく把握できたと思われる

問題は少女の言う「お爺ちゃん」である

少女:お母さんとお父さんと、お爺ちゃんの次に大好きよ

このお爺ちゃんが古狩人ヘンリックではないか、という説がある


ヘンリック

お爺ちゃん=ヘンリック説では、正気を失っていたのがヴィオラとガスコインの死んだ「オドンの地下墓」であることや、ヘンリックがガスコインの相棒であったことなどがその根拠とされる

ヘンリックの狩帽子
古狩人ヘンリックの狩帽子
かつてガスコイン神父の相棒であったこの静かな古狩人は
強者であったが故に、狩人として死に場所を得られなかった
だが、彼の黄味がかった独特の装束は、特に雷光に強く
獣狩りの遺志を継ぐ狩人を助けるだろう


さて、ヘンリックはお爺ちゃんなのであろうか?

少し話が変わるが、宮崎氏はインタビューで「NPCの命名法」をたずねられ、こう答えている

宮崎:私はちょっと命名オタクだと思う。私にとってはいつも楽しいです。単語の起源表現でどのように聞こえるか、地域的な考慮事項、全体などを検討します。(Future Pressによるインタビュー

宮崎氏がかなり名前にこだわっていることが分かるインタビューである

さて、ではヘンリックという名前の起源はどうか

ヘンリックの語源はドイツ語のハインリヒであり、Heinrich原義は「家長」である

名前にこだわる宮崎氏が、「家長」を意味する名前を持つNPCを単身者として採用するだろうか

家長とは文字通り家族の長である。ガスコイン家で言うのならば、「お爺ちゃん」の地位なのである

つまり、判明している家族構成では「お爺ちゃん」は「家長」であり、その「家長」という意味の名前を持つNPCが「ヘンリック」なのである

※ちなみにヴィオラ(Viola)は、ヴァイオレットのハンガリー語形である
※ヘンリックは英語版では「Henryk」となっているが、内部IDは「Henrik」である。このHenrikはハンガリー語形である


蛇足

少女の姉については再プレイがそこまで進んでいないこともあり、あまり触れられなかった
Wiki等で先回りして考察することも考えたが、これといって思いつかないので、何か閃いたら追記するなりする予定



8 件のコメント:

  1. 楼蘭は中国の都市じゃなくて隣国ですよ

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    1. デスストランディングにかまけていて反応が遅れて申し訳ありませんでした
      ご指摘ありがとうございます。さっそく訂正させていただきました

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  2. おじいちゃんは、お爺ちゃんだったのですね。テキストに相棒と書かれてたので、付き合いの長い年上の親友だと思ってました。

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    1. ヘンリックの名前を語源から推測するのならば、という解釈ですね
      テキストやグラフィックから読み取れる、「付き合いの長い年上の親友、相棒」というほうが確実です

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  3. 根拠はないですがヘンリックがヴィオラの父で異邦者のガスコインを受け入れ狩人として仕込み懇意にしていたと考えれば、少女の爺ちゃんでありガスコインの相棒でありガスコイン一家の家長でもあるつじつまがあうような気がしますね

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    1. ガスコインを受け入れた理由ですが、禁域の森でヘンリックを召喚するときの名が、”連盟員”「古狩人ヘンリック」なので連盟の事情と考えられなくもないです

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  4. ヴィオラの死体は手の形から背中じゃなくて胸を切り裂かれてると気づきました。
    しかも垂直に切り裂かれているので技術的です。すなわち彼女を殺したのは獣ではない事が分かります。
    なおガスコインの垂直軌道の攻撃は飛び込んで上から下、と走りこんで下から上・・

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    1. ブラッドボーンが何よりも「ホラー」であることを考えると、ガスコイン犯人説はとてもうなずけます

      ジョージ・R・R・マーティンはホラー小説について、「危機に瀕し苦悩する人間の肉体と精神と魂についての、終わりない自己矛盾に悩む人間の心についての物語なのである」(『スニーカー』解説より)と述べています

      ガスコインの物語に描かれたのは、こうした苦悩とその果ての惨劇だったのかもしれませんね

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