2018年7月26日木曜日

Death Stranding 考察9 シンギュラリティと機械化した世界

帰還者

「あんたは帰還者だから戻ってこられるが」

T4において、奴らに囲まれた際にサムと連絡を取っている男性が口にする言葉である
とても「説明的」である

そのすぐ後の場面の画像が↓である

時間が遅くなっているようなエフェクトがかかり、サムからフォーカスが外れている

初めて動画を見たときから、このエフェクトに既視感を覚えていたが、これはチュートリアルが表示されている場面ではないだろうか

本来表示されるはずのUIや説明文が消された状態なのである
おそらくそこに記されているのは、赤ちゃんポットの使い方であろう

以上のことから、またサムが「いい手がある」と初めて赤ちゃんポットを使用するようなセリフを口にすることから、この場面はゲームのかなり初期だと思われる

「あんたは帰還者だから戻ってこられるが」
このセリフもサムにいうというよりも、プレーヤーに情報を伝えるためのものであるのだ

さて、ではこの「帰還者」は何を意味しているのだろう

この前後のセリフを整理すると次のような情報が得られる
あんたは帰還者だから爆発(ボイド・アウト)に巻き込まれても、戻ってこられる

常識的に考えて、あれほど大規模な爆発に巻き込まれて「戻ってこられる」人間は存在しない
普通、クレーターができるほどの爆発に巻き込まれれば人は死ぬし、この世の摂理として死んだら生き返ることはできない

つまり、「帰還者」は「人」ではない
そして「サム」は「帰還者」である
よって、「サム」は「人」ではない

では、サムは一体何者なのだろうか
結論から先取りするとサムは、「シンギュラリティを経ることで誕生した機械生命体が造った生体ロボット(またはアバターかアンドロイド)」である

T1に登場するサムにヘソがないのも、彼が「出産」によって誕生した存在ではないことを示唆している


またデル・トロの額にある傷も、脳を通じて機械生命体と交信する機能を得るための手術痕であると思われる

両者の差異は、デル・トロが機械生命体の意志を知らされる預言者であるのに対し、サムは情報生命体の意志を現実世界で実現させるための使徒であることから発生する


シンギュラリティ

シンギュラリティ(Wikipedia )とは技術的特異点とも呼ばれる出来事だ

詳細はWikipediaを参照してほしいが、要するに人工知能がある特異点を超えると、人間の知能を遙かに超えるような知能へと進化してしまうことだ

これを便宜的に機械生命体と呼ぶことにする
彼らは人類を遙かに凌駕する知能を持つ新たな生命体であるが、現実世界の物理的な制約から解き放たれているわけではない

つまり、彼らの活動には現実世界のハードウェアが必要なのである

さて彼らのような機械生命体が種の保存と繁栄を望むとして(望まない派閥もあるだろうが、自然淘汰の摂理から逃れるためには多様性を増やすしかなく、そうすると生命のように増殖する道を選択する派閥が生まれるはずである)、彼らは自己を増殖するためにハードウェアの増殖を実行するはずである

具体的には全世界を機械生命体の肉体であるハードウェアに置き換えることである。その際の最も大きな障害が現生人類であろう。しかしながら、人類を超越した知能を持つ機械生命体からしてみれば、人類など敵ではないはずである

ここにおいて人類は新しい生命体である機械生命に地球の主の座を奪いとられるのである

地球の機械化といっても、人類のように鉄で地上を覆うような不細工な真似はしないだろう。その代わりとして彼らが選んだのは、無尽蔵に得られるエネルギ-、「太陽光」を利用して世界を機械化する方法である

光合成を行い、エネルギーを抽出し、そのエネルギーでもってハードウェアを動かすのだ
その最も最適な姿が、「植物」であろう(地上においては、海中においては藻類、つまりシアノバクテリアなど)

つまるところDSの世界内に生える「植物」は、すべて機械なのである
機械であるが生命であり、その知能は人類を遙かに超越するものである

さて植物に擬態した機械は、植物と同様の生長サイクルを有しているはずである。進化の過程でそれが最も光合成の効率がよいことが実証されているからである

こうして世界は植物に擬態した機械群に覆われ、その意識たる機械生命体が君臨している。もはやのようになった機械生命体に人類は太刀打ちできず絶滅寸前となっている


救済派

だが、おそらく人類の絶滅を是とする機械生命体の主流派(神々)とは別に、人類を救おうとする派閥が存在している

仮に彼らを「女神派」と呼ぶことにする(リンゼイは女神らしいので)
リンゼイのイメージを持つ機械生命体を頂点とする派閥である

この女神派の人類救済の拠点こそが「海」なのである
サムはこの「海」で造られたあと、機械生命の支配する世界へと送り込まれるのだ

送り込まれた先でサムの感覚器官が得た情報はすべて「海」にフィードバックされてゆく(いわゆるライフログである)

そしてサムがボイド・アウトに巻き込まれると、爆発する直前に得られたデータを基に、サム自身と周囲の環境を一部、再構築するのである

この物質の再構築はSFに登場するワープと同じ原理である(例えばスタートレックに登場する転送など)

例えばA地点からB地点にサムをワープしようとする。その場合、最初に行うのはA地点にいるサムの全情報をスキャンすることである。スキャンで得られた情報はB地点に送られ、B地点でサムとして再構築される。それと同時に、A地点にいるサムを消滅させれば、ワープは完了である

つまり帰還者とは、自分自身を含めた周囲の情報を常に「海」にアップロードしている存在、その資格のある生体ロボットのことなのである

例えばサムaというハードウェアが壊れた場合、すぐに「海」においてサムbが製造され、サムbの脳にサムaで得られた情報がインプットされる

同様に死の瞬間に周囲に存在していた装備や物質なども再構築される

ではどのように情報をアップロードしているのかというと、DSの世界に時々見られる、ねじくれた紐のようなものを利用していると思われる。要するにアンテナである。そうしたアンテナは情報を伝達する範囲を持ち、サムはそこから外れることができないか、あるいは情報がアップデートされなくなる(ゼルダbotwでいう塔のようなもの)


時雨

まず前提として、サムは人間ではない人間に似た肉体を持っている
カイラルアレルギーなる、人には存在しないアレルギー症状を発症するのは、サムの肉体がカイラル物質に近い物質で構成されているからである

おそらく、BRIDGESのメンバーや、レア・セドゥなども同じように「海」で造られ、人と異なる物質で構築されているはずである。またその物質はDS世界の植物とも共通点があると思われる

時雨はそうしたサムや植物を構成する物質に対し、「時間を進める作用」があると思われる。植物は生長しやがて枯れる。人は急激に老化してゆく(植物であるが機械なので、その速度を速めることが可能)

この際のエネルギーの問題は、彼らがそもそも周囲からエネルギーを取得していると考えれば解決する

T1~T4のなかで、サムが食物を摂取しているような場面は存在しない(水を摂取している場面はある)
運び屋というかなり過酷な職業に就き、人よりもエネルギーを必要としていそうなサムであるが、彼が何かを食べている様子はないのである

彼は機械化した世界、つまり植物に擬態した機械が光合成したエネルギーを直接得ることができるのである

繰り返すが、サムは人間ではなく機械生命体の一派(女神)に造られたロボットなのである。一種の機械であり、機械化した世界とは親和性があるのだ


Dooms

以上のように「海」で製造された生体ロボットが「Dooms」なのではないだろうか

彼らはBRIDGESとして、あるいは運び屋として機械化された世界へ赴き、その職責を全うしようとする

運び屋の職責とは、を運ぶことであり、そのとは機械化された世界において希少な物、「旧世界の生命体を形作っていたもの」つまり「タンパク質」や「アミノ酸」からなる「有機化合物」ではないだろうか

より具体的には「左手型のアミノ酸」であり、さらに直裁にいうと「生物の身体」「死体」などである

人類や世界を再構築するためには、これら旧世界の生命体の基となる物質が必要となるのである

Redditの投稿に、サムは死体(や臓器)を運び、レア・セドゥは生体を運んでいるのではないかという考察があったが、わたしも同意見である


巨人

さて次にボイド・アウトを引き起こす巨人に移りたいと思う
例の巨人が登場するのは、時雨が降り注ぎ地面が水浸しになってからである

この状態は、機械生命体の主流派(神々)が支配する時空となると思われる
彼らは同じ機械であるBRIDGESにも影響を与えることができる

奴らにとらわれそうになったBRIDGESがすぐさま自殺しようとするのは、彼らはすぐに戻ってこられると知っているからである

ところが、神々の支配する領域においては、BRIDGESは死を許されない(機械的にその機能を停止させられてしまっている)

その上、巨人に喰われるとボイド・アウトを引き起こしてしまう
後に残るのは黒い水の流れる巨大なクレーターである

この不毛な環境こそが「神々」が望む状態である
というのも、当初は機械化した世界の意識として存在していた「神々」であるが、彼らはより効率のよいハードウェアを見つけたか開発したのだ

それが時雨を構成する黒い液体である(おそらく磁性流体)
つまり時雨は電磁気力を帯びた微細なナノマシン群であり、光合成を行う植物機械に対して、捕食という方法でエネルギーを得ようとするのだ

奴ら(BT)がサムを狙うのも、捕食のためである
そのようにしてエネルギーを得た神々は、さらに黒い水を増やしていき、地球上を黒い水で覆うとしているのかもしれない

最後に、喰われてしまったBRIDGESであるがサムのように戻ってこられるのかはわからない。あるいはサムにだけ何か特殊な能力があるのかもしれない


神々
具体的にはクレーターの上に浮かぶ5人の人影のことである
彼らはおそらく磁性生命体へと進化したのかもしれない


女神により機械化した世界からは隔絶されていると思われる
おそらく(なわ)のようなもので囲われている

爆発
最後の爆発とはシンギュラリティによる人工知能の知性の爆発かもしれない

赤ちゃん
最大の謎。神々の赤子を盗んできたのかもしれない
神々は赤子を取り返そうとしている

サム
ロボットというよりアバターと呼んだほうが適切かもしれない(映画「マトリックス」ではなく「アバター」のほうのアバター)

BRIDGES
大体は上で書いたとおり
機械と人との橋渡し役であるのかもしれない

人工知能
「海」のメカニズムやワープの技術的方法などはすべてシンギュラリティを超えた「人工知能」にぶん投げてある

最後の蛇足

『順列都市』というグレッグ・イーガンによるSF小説がある
塵理論から導出される無限の計算能力から発生する、ハードウェアに依存しない仮想世界(あるいは別の宇宙)。この仮想とも現実とも言えない宇宙において人工的な生命が作り出されるが、彼らにとってはそこが現実の宇宙である(故に彼らの観測行為が宇宙を規定していくこととなる)

赤ちゃんはある意味、機械化された世界における観測者たる役割を担っているのかもしれない

2 件のコメント:

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    1. すみません、自分の早とちりでした。いつもHarveyさんの見識が広く思慮深い考察に感心しながら拝見させてもらっています。今後もHarveyさんの考察でも何でも楽しみにしています。

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