西部劇
前作「Ghost of Tsushima」が時代劇だとしたら、本作「Ghost of Yōtei」は西部劇である
本作で描かれた北海道と開拓時代のアメリカ西部にはさまざまな点で共通点が見受けられる
共に厳しい自然のなかに移住者と先住民が暮らしており、故郷を追われた流れ者たちの最後の地であり、大きな権力の及ばない周縁の地であった
端的に言えば本作で描かれる北海道は、開拓時代のアメリカ西部に北海道というガワを被せた“蝦夷”である
そこで演じられるのは時代劇ではなく西部劇である。おそらく復讐譚という題材も西部劇から採られたものであろう
西部劇の復讐譚というと色々と思い浮かぶが、復讐相手が複数人ということで映画『奴らを高く吊るせ』が真っ先に頭に浮ぶ
『奴らを高く吊るせ』の復讐相手が9人であるのに対して、本作は6人。しかし『奴らを高く吊るせ』では3人の復讐は描かれないので実質は本作と同数の6人となる
この西部劇モチーフである点が良くも悪くも前作と本作の相違を生みだしているように思う
例えば前作「Ghost of Tsushima」の敵は世界的に悪名高いモンゴル軍でありスケールが大きい。一方で本作の復讐相手は「斉藤」という落ちぶれた侍に過ぎない
しかし西部劇では敵がどれほど強大でもせいぜい地方領主クラスである。個人的な復讐譚であればさらに敵のスケールは小さくなるだろう(ラスボスが悪い牧場主など)
よって本作の「斉藤」の描かれ方は巨大な敵を描こうとして失敗した、というよりも西部劇のプロットを忠実に再現した意図的なものであろう
また西部劇があくまでもアメリカ西部の物語であるように本作でも蝦夷に限定された物語となる。騎兵隊や松前藩は出てくるが騒乱の鎮圧のためであって国家間の戦争ではない
要するに西部劇を基盤に据えた段階で、本作の物語は一地方を舞台とした極めて個人的な復讐譚かつ、その敵役が地方領主クラスになることが限界づけられているのである
確かに話の規模は前作よりもスケールダウンしている。しかし西部劇という視点からみるとむしろ限界ギリギリまで規模が大きな戦いが描かれているように思う
また篤の言動や人格もアメリカ西部を生きる孤独なガンマンとみれば腑に落ちるところが多いかと思う。頑固で執念深く、復讐の炎を燃え上がらせて標的に向かって淡々と進み続ける、そんな人間だ
※関係ないがタランティーノが好きそうな話だと思った。若い頃の梶芽衣子さんを主演にして映画化して欲しかった。(美人すぎて無理か)
エンディングについても西部劇の多くは大団円というよりも、しんみりとした終わり方であることが多い。この点でも本作は西部劇を踏襲しているようである
ストーリー 84/100
大まかにいって西部劇のプロットを北海道を舞台に再構成したものが本作のストーリーである
一地方を治める無法の悪徳領主。暴力や圧政に苦しむ民衆。ふらりと町を訪れた流れ者が悪徳領主を討つ。実は流れ者は悪徳領主に深い恨みを抱いており、復讐のために悪徳領主を殺したのだ
この構造を蝦夷の地で再現すると本作になるのだろう
西部劇的にいうのならば、悪徳領主は南北戦争に敗れた南軍の元将軍といったところだろうか。強いカリスマ性を宿し、敗れたとはいえ野望は潰えず、そして独立国家という理想を抱いている
元将軍は落ち延びた先で生きるために人々に非道を働く。しかしそのせいで部下に裏切られ妻と娘を失う。憎悪に駆られて部下一家を惨殺したものの、その子供たちは取り逃す。やがて成長した子供の一人が復讐を果たしに戻ってくる
このように書くと元将軍にあまり同情の余地がない。というより自業自得である。そのくせ実現性に乏しい理想論だけは振りかざす。このあたりが「斉藤」の小物感を増幅させているように思う
しかし何度も言うがあっさり退場するところも含めて、西部劇の敵役ならこの程度で良いのである。重要なのは復讐の過程で描かれる主人公・篤の葛藤なのだ
復讐物において最後まで葛藤することなく敵を殺し続けてきれいさっぱり終わるという作品もあることにはある(『ジョン・ウィック』シリーズとか)
しかしながらキャラクターとシナリオに深みを与えようとすると、どうしても主人公の精神に踏みいっていく必要があると思う
本作においては蛇・鬼あたりはシンプルな復讐譚だが、狐あたりから徐々に篤の葛藤が描かれるようになり、蜘蛛に至って篤はついに復讐を放棄する
だが、すでに復讐の連鎖に搦め捕られていた篤はそこから容易に抜け出すことができない。復讐の螺旋から降りるためにはきっかけと犠牲が必要であり、それが菊と十兵衛であったのだろう
※一時期の漫画界隈では殺し合いの螺旋から脱するために武器を捨てて農業に走るのが流行っていたような気がする
つまるところ本作の主題は「いかに復讐するか」ではなく、「いかに復讐を終えるか」である。この問いについて篤は終盤に答えを出していたように思う
ところが「斉藤」が最悪のタイミングでラスボスとして現れる。篤はすでに次のステージに移行したというのに空気の読めない男である
脚本の犠牲という言葉がある。一般的に脚本家のご都合主義の産物を指摘する言葉であるが、本作に関してはご都合主義の産物というニュアンスは無いが、不憫なほどポンコツに描かれたという点で斉藤がその犠牲になった感が強い
前作では石川先生が弄られキャラとして大成されたが、斉藤にもポテンシャルはあると思う。惜しむべくは登場シーンが少ないことと、本人のキャラが冗談が通じないほど面白みがないことであろう
キャラクター 82/100
メインキャラに関しては前作ほどの濃さはないものの、サブキャラに関しては白痴の五郎が秀逸。トリックスター的な白痴の五郎は全編を通じて登場しても良かったはず(往年の邦画なら田中邦衛さんに演じて欲しかった)
二刀の半兵衛が若い頃の千葉真一先生にしか見えなくて困る。蜘蛛も遠藤憲一さんに似てる(声優は最後まで気づかなかった)
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| 二刀の半兵衛。斉藤は勝新太郎さんか若山富三郎さんか |
師匠連中は半兵衛が外見的に面白い以外は真面目でケレンミに欠ける。武器の数を減らしても良いからもう少し一人ひとりのキャラクターを描いて欲しい
ボスに関しては造型的には差異があるものの戦闘スタイルはあまり違いが感じられず。龍と蜘蛛の関係性はやや描写不足。雪と現狐の話をもう少し知りたかった
アイヌはフレーバー以上の存在意義を見出せず。『ゴールデンカムイ』を読んでいれば馴染みのあるアイヌ語がポンポン出てくるので嬉しいくらいか
※『ゴールデンカムイ』でも描かれたアイヌの昔話『パナンペとペナンペ』をゲーム上で再現して欲しかった(基本的に下ネタ)
最も多く描かれたのは当然ながら主人公の篤なのだが、基本的に「復讐したい」以外の感情は希薄なのでキャラクター性が広がったり深まったとは言えず。篤の意外な面をもう少し見たかった。直接的に描かなくても前作の「百合の話」のように主人公の人格が伝わってくるようなサブクエがあると良い
ゲーム性 88/100
本シリーズのメインコンテンツは戦闘だと思っている。その戦闘面が改良されたことで作品そのものの評価も高い
最大の改良点は武器が増えたことで戦闘に幅が出たことだろう。特に多人数との戦闘ではハマるとアクション映画のように無双できる(かみ合わないとグダグダするが)
得物投げが強いのも戦闘の流れを加速させて良い。ステルスもやりやすくなっているので闇討ちで3人、直後に得物投げで1人というように多人数相手でも短時間で処理できる
また正面からの戦いでも受け流しや特効武器により流れを止めることなく敵を倒していける(怨霊の叫びや型を使うとさらにスムーズに戦える)
一対一の決闘から多人数戦、さらにステルス暗殺までこれほどストレスなく遊べるのは本作くらいであろう
※本シリーズの基礎となったのはアサシンクリードシリーズだと思う。筆者はアサシンクリード2からオデッセイまでプレイ済みだが、戦闘面では本シリーズが上だと思っている(最新作シャドウズをプレイしていないので断言はできないが)
ファストトラベルは一瞬。店まで直接飛べるので利便性が高い。焙烙玉を何度も買いに行ったが野営して作るよりも速い。逆に野営は急いでいるときに限って仲間が訊ねてきたりして面倒くさい
神社巡りも飽きるかと思っていたが景色が良いのでそれほど苦にならない。キツネ、オオカミイベントに関しては繰り返し感がやや強いが短時間で終わる
防具と護符で多様なビルドを構築可能なのも良い。5つの装備登録によって戦闘スタイルごとに即座に防具を変更できる(決闘・多人数・ステルス・遠距離など)
フィールド探索の快適性が上昇。イベントのある場所に関しては黒煙が上がっていたり温泉の湯気が見えたり、木の色が派手であったりと見逃しにくい。また見逃した場所については地図屋が地図を売ってくれるので見逃しはない
攻略サイトを見なくても完全攻略可能なレベルの親切設計。全体的にプレイヤーを飽きさせないよう工夫されており迷うことはない
※オープンワールド特有の“彷徨っている感”も好きなのだが最近は流行らないのだろう
総評 85/100
戦闘は前作から順当進化。オープンワールドでは上澄みの戦闘システム。ストーリー面ではモチーフに起因したスケールの大きさに好みが分かれるか。あと斉藤が悪い
オープンワールドとしてはオーソドックスな作り。プレイのしやすさと戦闘の楽しさを両立している。難易度は「普通」でもボス戦はちょっと難しい(初見撃破は1体だけだった)
プレイしていて楽しいし順当に進化した部分もある。ストーリーも悪いわけじゃない。ただ前作のような「すごいものをプレイしたぞ」という感覚がやや薄い
一言でいうとゲームとしての“格”が前作より落ちる
この“格”がなにから生じるかというと、革新的な戦闘システムであったりストーリーであったりするが、本作に限っていえば敵キャラの造型が全体的に低調。特にラスボスは迫力不足(これについては上述したがモチーフ的に仕方の無い部分もある)
つまり斉藤が悪い
あとはもう一つくらい革新的なシステムを望む(クラフト、育成、拠点の発展など)。現状はアサクリ系オープンワールドをブラッシュアップした作品から逸脱しきれていない
とはいえプレイの大部分を占める探索や戦闘に関しては前作を上回る部分もあるので、前作のアクションが好きだったのなら買って損はしないはず(筆者は新品で購入したが満足している)
またゲームに限らず映画やマンガ、小説を含めてもこれほど多様な方言が登場する作品を筆者は知らない。確認できるだけで九州から大阪、中部地方や関東、東北など日本全土の方言が登場する。そしてその発音や語彙は日本人の筆者が聞いても少しも不自然なところがない
※あくまで現代の日本に育った筆者が聞く限りの話。薩摩弁や東北弁を完全に再現すると理解できないと思う
この豊かな方言を海外勢は楽しめないのかと思うと少し残念である。その価値に気づいていたらもう少し評価が高かったはず
蛇足1 プレイ環境など
- PS5:PS5 Pro (レイトレーシング Pro)
- モニタ:IODA GigaCrysta KH-GDQ271JA(WQHD HDR VRR)
キャプチャカードの都合もあって序盤はHD(1080P SDR)でプレイしていたのだが、その時はグラフィックが良くないという印象だった
そこで試しに直接モニターに接続してWQHD、HDR、VRR、レイトレーシング Proでプレイしたところ、グラフィックが改善。あまりの違いにキャプチャカードをアップグレードする決心がつく(単なる記録用なので画質は二の次だった)
VRRのおかげかPS5で気になっていたフレームレートの落ち込みや画質のざらつきなどが無くなり、プレイ自体も快適に
モニターのHDRはオマケ程度の性能しかないので期待はしていなかったが、やはりそれなりに違う
![]() |
| 画像はHDRではない |
蛇足2 キャプチャカード
購入したのはAVerMediaのGC553pro
これまで使っていたElgatoと比べてGC553proはクセがある。というか音ズレするので対処法を探るのが大変だった。中盤から調整しはじめてなんとか形になったのがクリア直前あたり
OBS + GC553proの音ズレの対処法を備忘録代わりに書いておく
実況関係のサイトによると音声デバイスをAVerMedia Streaming Engineにすると良いらしいのだが、そのプラグインはすでにダウンロード出来ない(代わりに Streaming Centerなるプラグインはあったものの音ズレは直らない)
最終的に直ったのが以下の設定
OBSのソースに音声入力キャプチャを追加。デバイスに「規定(もしくは HDMI Live Gamer ULTRA S CG553Pro)」を選択。さらに「デバイスのタイムスタンプを使用する」にチェックを入れる(音ズレの対処法としてこのチェックを外すというのがあるが、自環境ではチェックを外すと音ズレした)
もともと録画した映像に関しては音ズレはしていなかった。ただ筆者の環境ではゲームの音をPCのOBS経由でUSB DAC(ヘッドホンアンプ)に送ってヘッドホンを鳴らしているため、音ズレが致命的となる
PS5 - GC553pro - PC + OBS - USB DAC(ヘッドホンアンプ) - ヘッドホン
└ モニタ
原理的にOBSを経由した段階で音は映像よりも遅れる。それでもElgatoでは気にならなかった程度だったのだが、GC553proは気になる程度に音がずれる。しかも最初は音がズレていないのだがプレイ時間が長くなると音ズレが酷くなっていくので対処が必要だった
というか最も簡単な対処法はモニターのヘッドホンジャックにヘッドホンを繋ぐというものなのだが、そうすると録画ファイルを確認する際にヘッドホンジャックを差し替えなくてはならない(あるいはヘッドホンをPCに接続しているものと交換)。これが面倒くさい
GC553proの良かった点としては、OBS経由でも映像と音声の遅延がほとんど無いこと。アクションでもOBSのプレビュー画面で支障なくプレイできそうなくらい遅延がない









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