2019年12月30日月曜日

Sekiro 考察56 不死の契り 追記「主を縛る」

隻狼と九郎を結びつける重要な儀式のはずなのに、具体的に何をやっているのか分からない不死の契りに関する考察

最初に断っておくと、前回に引き続きセンシティブな領域に踏み込む

追記「主を縛る」

不死の契り

隻狼と九郎の不死の契りは、三年前の平田屋敷の襲撃時に行われているはずである

はずであるというのは、致命傷を負った隻狼の手を九郎が握った直後にムービーが暗転し、結局なにが行われたのかは明かされないままだからである



弦一郎

そこで、後に九郎に不死の契りを迫った弦一郎の例から手がかりを探してみたい

葦名城の天守に到着する際のムービーで、弦一郎は不死の契りを九郎に迫っている



ここで弦一郎はなぜか刀を差しだしている

これを見て、「九郎を刀で斬ってその血を得ることで不死になる」と思いがちだが、実はそれは絶対に不可能である

まず、小姓の手記にあるように通常の刀で竜胤の御子を傷つけることは不可能である(この時に弦一郎が差し出している刀が「黒の不死斬り」でないことは、そのからも分かる)


しかも、竜胤の御子を傷つけられないことは弦一郎も熟知していたはずである
なぜならば、当の小姓の日記は弦一郎の居室から出てきたものだからである


弦一郎は傷つけられないと知っているのになぜ刀を差しだしているのか

考え得る可能性として第一に挙げられるのは、弦一郎は不死の契りの儀式について何も知らなかった、というものである。だが、まったく何も知らないのであれば刀を差し出すことすら普通はしないのではなかろうか

しかしこの場面で、弦一郎はある確信をもって刀を差しだしているように見える

そこで二つ目の可能性が出てくる

弦一郎は九郎に自らを傷つけさせることで不死の契りを行おうとしている、というものだ
この場面で弦一郎が求めたのは、九郎に自分を傷つけさせることなのである

不死の契りを完遂するためには、対象(生贄)を傷つける必要があったのである
もちろん自傷することでもその要件は満たされたであろう

だが、弦一郎は不死の契りにおいて生贄を傷つけることまでは知っていたが、どこをどのように傷つけるのかといった細かい部分までは知らなかったのではないだろうか

なれば、すでに不死の契りを成功させている九郎に一任するのが最も確実である(井戸底にいる隻狼の様子から、不死の契りが行われたことは弦一郎なら知っていたはずである)

けれども結局、その申し出は九郎に拒絶される

ここで九郎は、「できませぬ」とやんわり刀を押し戻している

その方法は違う」というのでもなく、「今は儀式を行うことができない」というのでもなく、まるでその方法で合っているのだが、自分は弦一郎を傷つけること、転じて不死の契りを行うことは「できませぬ」と言っているようである

さて、以上のように生贄の肉体に傷をつけることが不死の契りの最初の条件であると考えると、平田屋敷の時の隻狼はその条件を満たしていたことになる

不死の契りの直前に、隻狼は義父の刀で胸を貫かれているからである



竜胤の御子

不死の契りにはまず対象(生贄)の肉体が傷つけられる必要がある
その条件が整った後に行われるのが、竜胤の御子側からのアクションである

具体的に何が行われるのか

まず前提として竜胤の御子の血は使えない(不死斬りが無いので)
次に、けれども不死の契りの後、生贄の体内には「竜胤」が宿ることになる

九郎:丈様の竜胤もまた…
そなたと共に、生きるのだ(桜雫イベント:九郎)
変若の御子:桜雫の力、貴方に宿ったようですね
お力になれて、良かった…(桜雫イベント:変若の御子)

血を出せぬ竜胤の御子であるが、何も分泌しないで生きているわけではない

たとえば竜胤の御子の身体からは、稀に「竜胤の雫」なる生きる力の結晶が零れ落ちることがある



けれども不死の契りは、竜胤の雫を生贄に与えることではない

竜胤の雫が不死をもたらすのであれば作中で竜胤の雫を入手した分だけ回生の回数が増えなければならないからである

事実、回生の数を増やすのは「桜雫」なる奇妙なアイテムである


竜胤の雫桜雫とは同じ「」という字が使われるものの、水滴型の「竜胤の雫」と、やや楕円形をした「桜雫」とでは形がまったく異なる

水滴型
やや扁平な楕円形

不死の契りとは竜胤の与えることでも、竜胤の与えることでもない

では竜胤の御子は何を与えることで、生贄を不死とするのか



結論から先に述べるが、「精子」である



メタファー

そもそもが「契り」という言葉には性交渉の意味合いも含まれており、不死の契りという造語は性的なものを漂わせている

さらに上田秋成の『雨月物語』中の『菊花の契り』にもあるように、「契り」は男同士の情交の暗喩でもある

つまり不死の契りとは、不死になるための契りのことであり、それはまさしく性的な交接のことなのである

竜胤の御子と生贄との性交、それは生贄に傷口という女性器を開け、そこに竜胤の御子の精子である竜胤を注ぎ込むことである

九郎は言う

九郎:丈様の竜胤もまた…
そなたと共に、生きるのだ(桜雫イベント:九郎)

竜胤の「胤」という字は、血筋や血統の意であると同時に、「たね」とも読み、つまりは「竜の子種」をも意味しているのである

この解釈で「丈様の竜胤」を読み解くのならば、丈様の竜胤とは、「丈様の精子」のことである

以上のように不死の契りとは、性交のメタファーでもあり、同時に竜と人との交接のことでもある(ここに古い時代の異類婚の痕跡を見ることもできる)

平田屋敷のラスト、隻狼にはすでに傷口が開いていた。あとは九郎が自らの「胤」を傷口に差し入れるだけである

あの場面において、木材の下敷きになった隻狼を小さな子供が引っ張り出すことが不可能であることは、聡明な九郎であれば理解していただろう

にもかかわらず、なぜか九郎は確信を持って隻狼の手をつかみ次の行動に移ろうとしているかのようである。何かを渡そうとしているように、あるいは隻狼の手を取って何かに触れさせようとしているように見えるのである



血の穢れ

さて、精子と不死との隠された関係は、SEKIROで初めて採用されたものではない(生死と不死という言葉遊びもあるかもしれない)

ブラッドボーンに登場する血の穢れと呼ばれるアイテムが、まさに赤い精子のように見えるのである

不死の女王アンナリーゼは、血の穢れを啜ることで「血の赤子」を抱くという



これは受精と妊娠、そして出産のメタファーである

グラフィック的にもその役割的にも「血の穢れ」は精子であり、また精子でなくてはならない

血に宿る精子が、不死の女王に血の赤子をもたらすのである

より詳細に言えば、血に宿る精子が不死の女王の子宮に孕まれるのである



桜雫

血の穢れのメカニズムから、桜雫の正体が見えてくる

桜雫とは、生贄の血に宿った竜胤の御子の精子である。それは一種の受精卵として結晶し、代理の不死の契りによって回生の数を増やすのである

竜胤の雫と桜雫を比べると、桜雫の方は不透明でありやや白濁しているのが分かる
桜雫

竜胤の雫

血液に透明な液体を(水)を混ぜたとしても、赤が薄まるだけで「桜色」にはならない

だが、血液に白い精液が混じった場合、それは「桜色」になるのである

そしてそれはある種の不死の受精卵として働き保存され、別の生贄に宿ることすらできるのである

また、不死の契約ならざるときとは、たとえるのなら「流産」のことである。何らかの要因により母胎より不死の受精卵流れ出てしまう

だが、それは「不死」であるがゆえに死なず桜雫として残されるのである

また桜雫イベント(九郎、変若の御子ともに)において、暗転した後に衣服を脱ぐような音がするが、これは「不死の契り」が性交を象徴する儀式であるがゆえに、形式的でも肌を重ねる必要があるからである

※肌を重ねるという表現は互いの肌を接触させること、転じて性交を意味する

その直後、隻狼はなぜか少し驚いた息づかいになり、やがて儀式は終わる。この時、竜胤の御子は隻狼の手を取って自らの肌に触れさせているとも考えられるし、あるいは桜雫を隻狼の口に含ませているとも考えられる

※桜雫はすでに受精卵の状態にあるので、本式の不死の契りのように傷口に入れて血を混ぜる必要はない

余談だがブラッドボーンにも桜雫に対応するアイテムが存在する
それが「レッドゼリー」である(ややグロいので注意)

グロいので小さめの画像で。
極論すれば、不死の契り以降の隻狼は、妊婦(代理母)なのである



植物の種

さて、その名が示すとおり、桜竜とは桜と竜の合成獣(キメラ)である

一般的に植物はその種子を飛ばすために、進化によって様々な手段を獲得している

例えば種子を羽根のような形状にして遠くへ着地させようというものや、風に乗れるよう綿毛をつけたもの、他の生物に運んでもらうよう果実を付けたものもある

桜竜もまた同様のアプローチを生み出したのである

それが、人を種子の運び手にすることである

竜胤の御子によって撒かれた種子は人に宿り、人の移動によって遠くへと運ばれ、そこで根付く
従者が種子の運び手なのだとしたら、主である竜胤の御子とは、種子の撒き手なのである



主を縛る

人返りルートでエマはいう
エマ:巴殿は、こう言っていました
「竜胤の血を受けた不死は、その主を縛る」と…
竜胤が精子であり、それを宿すことが不死の契りであるのならば、不死が主を縛るのは当然である
というのも、不死に宿る竜胤とは竜胤の御子にとっては畢竟、自らの血を分けた愛児だからである

が、その存在ゆえに親を縛る
そしては愛情ゆえに子を見捨てることはできない

この親子の情という名の「鉄鎖」が、不死とその主とを縛りつけているのである

この鉄鎖を断ち切るには、呪われてしまった我が子を黄泉に返すほかない

不死断ちによって、子の竜胤を断つこと。それが人返りにおける隻狼の最後の任務だったのである

※呪われた者を黄泉に返すという構造は、ブラッドボーンにおけるゴースの遺子と同じ構造である



変若の御子

以上のような事情から、九郎が不死の契りを行えて変若の御子が代理としてしかそれを行えない理由もわかる

男性型の竜胤の御子のみが精子を作り出すことができ、不死の契りを交わすことができるのである

一方、女性型の竜胤の御子は精子を作り出せないので不死の契りを行うことはできないのである(桜雫、つまり受精卵があれば代理としては行える)

だが、女性型の竜胤の御子は「揺り籠」になることはできる
当然ながら「揺り籠」とは「子宮」のメタファーである

そしてこの構造は、不死の女王アンナリーゼと酷似している

ブラッドボーンでは、「血に宿る精子が、不死の女王に孕まれ、血の赤子となる」のに対し、SEKIROでは「竜胤の御子が、揺り籠に孕まれ、竜の赤子となる」のである


すべての上位者は赤子を失い、そして求めている(「3本目のへその緒」)


蛇足

 どうみても精子です

2019年12月28日土曜日

Bloodborne 手記9 身を窶した男

多くの点において身を窶(やつ)した男異質な存在である

また、彼のたどってきたであろう過去やその末路を考えるに、医療教会の影の側面を体現するようなキャラクターであるようにも思う


外見

はじめに身を窶した男素性について外見から考察してみたい

身を窶した男が身につけているのは、「やつしの頭巾(Harrowed Hood)」と「異常者の脚帯(Madman Leggings)」である

やつしの頭巾
医療教会の狩人には、身をやつし、市井に潜む者がいる
誰にも気にかけぬ下賤、これはそうした装束である
やつしもまた予防の狩人であり、獣の兆候を見逃さない
あるいは、彼らがそう信じたものを、必ず見出す
人は皆、なんらか秘密を持つものだ
異常者の脚帯
医療教会に属し、地下遺跡に潜る墓暴きたち
彼らの多くは、神秘の智慧に耐えられず、精神に異常をきたす
これは、そうした異常者の装束である
真実は時に狂気に似て、愚者の理解とも無縁である
だが異常者は、ただ何ものにも到れなかった者のことだ

テキストからは、やつしは市井に潜む予防の狩人であり、異常者とは墓暴きが精神に異常をきたした者のことであるとわかる


予防の狩人

やつしシリーズのテキストにはやつしは「予防の狩人」だと記されているが、医療教会には「やつし」の他にも予防の狩人と呼ばれる者たちがいる

教会の黒装束を身にまとう、黒い予防の狩人たちである

教会の黒装束
彼らの多くは下級の医療者であり
獣の病の罹患者、その疑いのある者を、獣の病発症前に処理する
予防の狩人である

彼らはルドウイークが狩人を募った際に組織化された「表向きの予防の狩人」である

ヤーナムの狩帽子
医療教会の最初の狩人、ルドウイークは
かつてヤーナム民の中に狩人を募った

大規模な狩人組織はルドウイークの創始である
そして、ルドウイークを端とする狩人たちは聖職者であることも多かった

剣の狩人証
ルドウイークを端とする医療教会の狩人は
また聖職者であることも多かった

このように教会の黒装束(聖職者の服である)を身にまとった黒い予防の狩人たちは、表向きは人々を救う医療者であり、「英雄ルドウイークの系統であるがゆえに、賞賛と名誉を一手に浴びるいわば「光」の予防の狩人である

だがその裏で市井に潜み、獣の兆候を密かに狩っていた「」の予防の狩人がいる。それこそが「やつし」である


墓暴きシリーズ

そして異常者に繋がる墓暴きもまた教会の影を担う存在であった

墓暴きのフード
医療教会の中でも、特に地下遺跡に潜る墓暴きの装束

なぜ墓暴きが「」とされるかというと、墓暴きシリーズがショップに入荷されるのは、「輝く剣の狩人証」を入手した後であるが、狩人証に記されているのは「英雄」としての狩人であり、まさにそこに英雄としての狩人と、その影としての墓暴きという対比が見て取れるからである

輝く剣の狩人証
それは聖剣の二つ名で知られる狩人たちであり
唯一、獣狩人が英雄たり得た時代の名残である
もうずっと前のことだ

輝く剣の狩人証のテキストによって、獣狩人が英雄たり得た時代があったことをプレイヤーに知らせ、同時に墓暴きシリーズをショップに追加することで、英雄の影にあった薄暗い部分を暗示しているのである

英雄と持ち上げられていたが、実態は墓を暴く「墓暴き」に過ぎない。これは、そうした皮肉なのだ

要するに、やつしと墓暴き(→異常者)の装備はともに「医療教会」と関連する装備であるが、「医療者」や「英雄」としての光の医療教会ではなく、その背後に隠された影の医療教会を象徴するようなアイテムなのである



保管箱

さて、異常者墓暴きを経由しなければ到達できない境地である。しかし、この両者の間には不可逆的な断絶が認められる

これは各装備の保管箱カテゴリーからも裏付けられる

保管箱を開くと、各種装備が「工房の狩装束」「教会の狩装束」「血族の狩装束」「その他」と分かれて表示される

そして保管箱において、やつしと墓暴きは「教会の狩装束」にカテゴライズされ、一方で異常者は「その他」に振り分けられている

やつし装備のカテゴリーは「教会の狩装束」

墓暴き装備のカテゴリーは「教会の狩装束」

異常者装備は「その他」

この差異が何を示すかというと、前者が教会の狩人であるのに対し、後者は教会の狩人ではないということである(ただしメンシスの檻という例外も存在するから絶対的なものではない)

あるいは、すでに狩人でさえないのかもしれない

なぜならば、カレル契約「穢れ」を装備して身を窶した男を殺しても、「血の穢れ」を入手することはできないからである

また恐ろしい獣となった男は「狩人など、お前らの方が血塗れだろうが!」と叫ぶことからも、彼が少なくとも現時点では「狩人ではない」ことが明らかである

次に、身を窶した男のたどってきた道程を考察してみたいと思う



墓暴き

彼は「“まず”墓暴き」であった。「“まず”やつし」でないのは、やつしから墓暴きにクラスチェンジする必然性や事件が見当たらないことと、現在の名が「身を窶した男」だからである(過去ではなくいま現在、身を窶している最中である)

また、「“まず”異常者」でないのは、異常者になるには墓暴きを経由しなければならないからである

異常者の脚帯
医療教会に属し、地下遺跡に潜る墓暴きたち
彼らの多くは、神秘の智慧に耐えられず、精神に異常をきたす
これは、そうした異常者の装束である


墓暴き→異常者

まず墓暴きとして地下遺跡に潜っていた彼は神秘の智慧に耐えられず、ついには精神に異常をきたす

彼を発狂させた神秘の智慧とは、上位者の智慧である

狂人の智慧
上位者の智慧に触れ狂った、狂人の頭蓋

※英語版では狂人と異常者とは同じ「Madman」の単語が使われる(狂人の智慧は「Madman’s Knowledge」であり、異常者の脚帯は「Madman Leggins」)

異常者となった彼は医療教会によって保護される

やや唐突な感があるが、保護されなければならない理由が存在する

異常者に関する知見は異常者装備に記されているが、当の異常者が保護されて医療者の診察を受けなければ、異常者が精神異常を引き起こしたことも、その原因が神秘の智慧に耐えられなかったという知見も得られなかったろうからだ

そのうえ医療教会にとって病とは新たな知見を開く手段のひとつである

教会の白装束
彼らにとって医療とは、治療の業ではなく、探求の手段なのだ
病に触れることでしか、開けない知見があるものだ

このような彼らにとって「発狂」というを放置する選択は無い。必ずそれに触れ、知見を得ようとし、そしてそれは事実「異常者装備」のテキストに記されたような知見として結実したのである

また実際的な理由として墓暴きの多くが異常者になってしまうと業務に差し支えが出ると考えられる

異常者の脚帯のテキストには「彼らの多くは」と記されている
墓暴きの多くが異常者となり、その職務の継続が不可能になりつつあったのである

これはもはや看過してよい段階にはなく、直ちに予防的措置を講じなければならない状況である
そして予防のためには「病」を解析しなければならず、それはつまり患者の観察と治験が絶対に必要なのである

よって、異常者の多くは医療教会によって保護されたと考えられる
そしてその中に身を窶した男もいたのである



被験体時代

さて、医療教会によって保護された彼は、人体実験の被験体となる(名目上は治療あるいは治験

その実験の主目的とは獣の病の制御である

獣の抱擁
獣の病を制御する、そのために繰り返された実験の末
優しげな「抱擁」は見出された
試み自体は失敗し、今や「抱擁」は厳重な禁字の1つであるが
その知見は確かに、医療教会の礎になっている

獣の抱擁をドロップするのは初代教区長ローレンスで、になったというからには、最初に実験が行われたのは医療教会の設立以前であろう

その失敗に終わった実験を密かに引き継いで、継続していたのが医療教会である
そして彼らは一定の成果をあげたのである

というのも、身を窶した男が変異する「恐ろしい獣」は人語を喋るからである(ローレンスは喋らない)

また同じように医療教会最初の狩人「醜い獣ルドウイーク」も言葉を喋る。彼は「醜く歪んだ獣憑き。私を嘲り、罵倒した者たち」と恨み言を吐くが、このセリフは、彼もまた獣の姿になってなお理性を保ち、なおかつ人々と接していたことを証言するものである

つまり、獣の病を制御する技術は医療教会によってある程度までは確立されていたのである

医療教会の礎となったローレンスは喋ることができず、その後の医療教会最初の狩人であるルドウイークが言葉を喋ることができるという事実は、ローレンスの時には失敗した実験が、医療教会時代にはある程度の成果を上げたことの直接的な証拠である

ちなみにもう一体、変異してなお人の言葉を喋る者がいる。「蜘蛛のパッチ」である。ただし今回は長くなるので省いた



ローランの血

さて、獣の病を制御する実験を行うためには、獣の病に罹患した患者が必要となる

発狂し使い物にならなくなった狩人などは、被験体として最適であろう。獣と戦うための鍛え上げた肉体と、狂ったとは言え強靱な精神をもっていた者たちである

そうして医療教会は身を窶した男を獣の病に感染させた

そのときに使われたのが、ローランから回収された「血」である

病めるローランの汎聖杯
病めるローランの各所には、僅かに、ある種の医療の痕跡がある
それは獣の病に対するものか、あるいは呼び水だったのか

現代のヤーナムにおいて獣の病に対する治療に何が使われるか

である

医療の痕跡とはつまり、医療に使われた「血」の発見に他ならない

その血は獣の病をローランに蔓延させた血であり、血により獣化したローラン人が何に変異したかというと、ローランの黒獣(黒獣パール)と恐ろしい獣なのである

身を窶した男は医療教会の血の医療によりローランの獣の病に感染し、そうして恐ろしい獣となったが、同時に獣の病の制御技術により意識を保てるようにもなったのである

この非人道的な実験により彼は狩人に対する敵意を抱くようになった

「狩人など、お前らの方が血塗れだろうが!」という恐ろしい獣のセリフは、彼の実体験から来るものであり、「獣だと?獣だとっ? あんたに何が分かる!」というセリフからは、獣化した彼が医療教会の狩人たちからどのように扱われたかがうかがい知れる

また、彼がカレル文字「獣」をドロップするのも、獣性を高めるために強制的に「獣」を脳裏に焼き付けられたからであろう

ちなみに本編のおいて「獣」をドロップするもう1体の獣は、医療教会の工房の最下層にいる


この街も

話は少し変わるが、身を窶した男に誘導先を教えないと妙なことをつぶやく



またこの街も」というからには酷いことになった他の街を知っているということになる

酷いことになった前例として思い浮かぶのが、獣の病によって滅んだと思われるローラン、そして旧市街である

時代的にローランは古すぎる気がするし、身を窶した男がローランの時代から生きているというよううな根拠はない

素直に考えれば、酷いことになった街とは「旧市街」のことであろう

恐ろしい獣となった彼の最期の言葉、「人は皆、獣なんだぜ…」は、旧市街にいる古狩人デュラの「貴公は獣など狩っていない。あれは…やはり人だよ」というセリフと奇妙に共鳴する

同じ惨劇を見た二人が、同じような結論に到ったとしても不思議ではないだろう。つまり身を窶した男は旧市街に身を置き、その惨劇を目の当たりにしたのである

しかし、医療教会の被験体である彼がなにゆえ、どのような役割のもとに旧市街にいたのか

もちろん「やつし」としてである

獣の病の蔓延する旧市街。そこに跋扈する獣の群れに対抗するために、医療教会側はある策を講じたのである

制御できる獣を投入し事態の鎮静化をはかったのだ

男はやつしとして旧市街に侵入し、市井に潜み、そうして獣の兆候を狩ったのである

だがその惨劇に、あるいは接近する赤い月の神秘に彼はふたたび発狂した

こうして彼はやつしの頭巾を被る発狂者として、医療教会に回収されたのである



ヤーナムの呪い

「この街も」に続いて彼は「ヤーナムの呪い、か…」とつぶやく

この証言は本作でも極めて重要なセリフである

プレイヤーにさえ漠然とした伝達法により仄めかされる程度であった情報を、特に重要とはいえないNPCがぽつりとつぶやくのである

ヤーナムの呪い、とはヤーナムの街の呪いのことではなく、女王ヤーナムの呪いのことを指すと思われるが、一体全体ヤーナムという女王がいて、彼女の呪いが存在していることを、誰が知っていただろうか

ビルゲンワースのウィレーム、あるいは教区長、そして医療教会の上位会派ぐらいであろうか

なぜ身を窶した男が「ヤーナムの呪い」などという秘中の秘を知っていたのか

後述するが彼は医療教会の上位会派である「聖歌隊」と関係を持っていたからである(関係といっても実験者と被験体という非対称的なものであったが)

かつて墓暴きであったころの知識に加え、聖歌隊から知識を得て、また旧市街にやつしとして潜入する際にもそうした知識を与えられたであろう

だからこそ旧市街や現代ヤーナムの惨劇の大元にヤーナムの呪いが存在することに気づいていたのである



禁域の森

さて、旧市街の惨劇の後、身を窶した男は医療教会に保護(回収、拘束)されたことまでは上で述べた。

だが、抑えきれない凶暴性あるいは不服従に手を焼いたのか、結局のところ医療教会(聖歌隊)は身を窶した男を廃棄する

廃棄したのは禁域の森である

禁域の森とは医療教会が禁域に指定した領域であり、街から追放された人々の集落がある場所である

「すなわちビルゲンワースは、ヤーナムを聖地たらしめたはじまりの場所ですが 今はもう棄てられ、深い森に埋もれているときいています …それに、ビルゲンワースは医療教会の禁域にも指定されています」(血族狩りアルフレート)

街から追放された云々に関して。海外Wikiには攻略本から転載されたと思われるエリア情報が載っており、そこに禁域の森は街から追われた人々の村があると記されている(参考wiki)

さらに禁域の森は星界からの使者教会の大男など、被験体が廃棄される場所でもある

つまり身を窶した男が禁域の森にいたのは偶然ではない。そこは医療教会が廃棄した被験体の住処として相応しい領域なのである

彼はそこで「発狂したやつし」として市井に潜み、抑えきれない獣性を持て余し、人を喰らい、次に潜む場所を物色していたのである



獣血の丸薬

さて、身を窶した男をオドン教会に誘導したルートでは、NPCを殺す度に彼は獣血の丸薬をプレイヤーにくれる

この獣血の丸薬、テキストでは出所不明とされるが実のところ出所は聖歌隊である

獣血の丸薬
獣血を固めたといわれる巨大な丸薬
故は分からず、医療教会は禁忌として関わりを否定している

というのも、星の瞳の狩人証を入手することでショップに入荷されるからである

星の瞳の狩人証
医療教会の上位会派「聖歌隊」の一員の証

星界からの使者エーブリエタースとの関係が色濃い聖歌隊であるが、実際は「獣」に関する実験も密かに行ってきたのである

そしてこうした人体実験を行っていた研究者の一人が偽ヨセフカである

※彼女は聖歌隊の装束を身にまとい、彼女の犠牲者は聖歌隊の本部がある医療教会の上層に多く見られる星界からの使者に変異する。ゆえに偽ヨセフカは聖歌隊であったと考えられる

また、NPCを紹介した際、偽ヨセフカは「今度は、古い血を試すつもり」と漏らすが、このセリフは「古い血」所持しているか、あるいは少なくとも古い血を入手することが可能でなければ出ないであろう

古い血獣の病の根源であることは医療教会の関係者ならば熟知しているはずである
それでもなお、軽々しく「試すつもり」と口にするからには、被験体が獣化することも、その力も恐れていないことを示している

なぜ獣を恐れていないかというと、彼女には人に獣の病を感染にさせた経験があり、その獣の病を制御する技術も有しているからである

身を窶した男と偽ヨセフカに面識があったかは不明である。しかし「狩人など、お前らの方が血塗れだろうが!」と罵倒する彼が、診療所ルートでは素直に「星界からの使者化」しているところを見ると、面識があってもなくても偽ヨセフカの被験体にされたのではないかと思われる


古い血

偽ヨセフカの口にする「今度は、古い血を試すつもり」というセリフは解釈が分かれるところである
前後のセリフを引用すると次のようになる

ついさっき、治験者を受け入れたわ。今度は、古い血を試すつもり どうあれ、有意義な治験になる。あなたのおかげよ」

今回の例で言えば、身を窶した男に古い血を試すつもりであると受け取れる
しかしながら、身を窶した男が変異するのは「星界からの使者」である

ということは、古い血は人を「星界からの使者」にする作用があると考えられる

だが、それ以前に送った他のNPCも「星界からの使者」に変異するわけで、そこにわざわざ「古い血」を使った意味はないように思える(どうあれ、有意義な治験になったのでよしとするということであろうか)

もう1つの解釈がある。治験者として身を窶した男を受け入れてすぐに治療を行いすでに男が「星界からの使者」に変異してしまっているというものである

この場合、「今度は」とは、身を窶した男の次の治験者を指すことになり、結局のところ「古い血」は使われなかったことになる

とはいえ、結局のところ偽ヨセフカの治験者は例外なく「星界からの使者」になることから、偽ヨセフカは「古い血」を使うときも独自の調整を行い、それによって治験者を故意に「星界からの使者」にしていると思われる

で、あるのならば、それこそが獣の病を制御する技術の、最終的な到達点なのかもしれない

※おそらくその技術は、エーブリエタースの血を研究することで得られた知見のひとつであろう


ローレンス

さて、青い雷光をまとう恐ろしい獣ローラン系であるのならば、炎をまとう初代教区長ローレンスはトゥメル系の獣である(炎をまとう「旧主の番犬」や炎に焼かれた鎧をまとう「旧主の番人」が示すように、トゥメルと「炎」は関係が深い)

フロムソフトウェアのゲームでは、同一の物語構造が少しだけ形を変えて繰り返されることが多い。本作でいえば例えば、ヤーナムの女王とアンナリーゼの関係性である。

この両者は共に血の赤子を求める者であり、そして女王である(また特殊な血の持ち主というのもあるかもしれない)。このうちヤーナムの女王がオリジナルでありアンナリーゼはその矮小化された繰り返しなのである

ローレンスとルドウイーク、さらに身を窶した男とは彼女たちと同様の関係性にあると思われる

この三者を繋ぐのは医療教会である

ローレンス医療教会全体を体現するオリジナルである。一方、表舞台に立ち、栄光に包まれる英雄であったルドウイークと、市井に潜み誰からも気にかけられぬ下賤であった身を窶した男とは、医療教会の「光と影」という二つの側面をそれぞれに体現したキャラクターなのである

しかし最終的には三者ともが獣と化して血に塗れて死んでいくのは、上位者にとって、あるいは宇宙的恐怖の観点から見て、三者の相違など取るに足らない些末なものに過ぎないからである

地上の教会を打ち立てた聖職者であれ、栄光と賞賛に包まれた英雄であれ、蔑視され迫害された下賤であれ、暗く冷たい宇宙にとっては等しく価値が無いのである

宇宙的恐怖を前に人は為す術なく翻弄され、自らの秘めたる獣性を暴かれたあげく、その醜悪な本性臭気漂う臓物とともに宇宙に露呈させて、惨めに死んでいくのである

こうしたある種の容赦のなさが本作の魅力であり、絶望的な情況に置かれた人間の見せる最後の煌めき/足掻き(例えばルドウイークのムービー)こそが、フロムソフトウェアのゲームに共通して見られる美しさなのである



蛇足

獣の病ローラン系・トゥメル系とに分類したがこれは聖杯ダンジョンに登場する「獣」の傾向から分けたものである。その原因については「上位者」あるいは「上位者の血」が関係していると思われる

なぜこうした「傾向」、つまり偏りが生まれるのかはまだ考察が及んでいない。個々人の精神状態によるものかとも思ったのだが、だとすると分布はもっと散らばるはずである

あるいは人種により傾向が生まれるのかもしれないという仮説も立てた
ローラン人は青い雷光をまとう獣、トゥメル人は炎をまとう獣、というふうに

ローレンスがトゥメル人、身を窶した男がローラン人の血を引くと考えると同じ獣の病(「血」)により発現する症状が異なる理由にもなる。が、しかし今度はではなぜトゥメル人が炎でローラン人が青い雷光なのかという疑問が生じてしまう

そんなとき、ふと偽ヨセフカの「今度は、古い血を試してみるつもり」というセリフを思い出した。このセリフは「血」の種類によって変異に相違があることを前提にしなければ出てこないセリフである

つまり、獣の病の原因は「上位者の血」であるけれども、上位者が何体もいるように、その血もいくつかの種類があり、その種類によって発現する症状に差異が出るのである

星界からの使者聖職者の獣とを比べてみればこれは当然のことで、これまでもこの前提にたって考察してこともある。ただしこれは、つるりとした軟体生物と体毛のある獣という形状的に大きな差異があるから、その対比に限って想定してきたものである

しかしながら同じように人を獣に変異させる、同一の病原と思われる「血」にも細かな分類があり、その差異が感染して獣化した際にをまとったもの青い雷光をまとったもの、というふうに症状を分かれさせるのではないか、というのがこの項の論旨である

ただしこれも考察途上の一応の仮定に過ぎない

2019年12月20日金曜日

Sekiro 考察55 狼

発売直後に大まかな考察をして以来、なんとなく避けてきた「狼」自身の考察である

いくつかのふわっとした思いつきはあるものの、一つの考察として形を成さないというか、ようするに情報がほとんど無くて考察しようがなかったのである

しかしながらTGAのGOTYを受賞したことでSEKIRO熱が再燃し、ここはやはり残してきたものを片づけるべきだろうと狼の考察をしてみたものである



少年狼

が初めて登場するのは、葦名一心の国盗り戦のシーン。その戦場の端で起きていた義父・梟と少年狼との出会いの場面である


このとき梟は「野良犬が、心すら亡くしたか」と狼に嘲りの言葉をかける。さらに刀の切っ先をつかんだ狼に「ほう 共に来るか 餓えた狼よ」と誘う

なぜ梟は戦場跡に呆然と座り込む少年を「野良犬」と言い表したのか

なぜ梟は刀の切っ先をつかんだ狼を「餓えた狼」と呼び変えたのか



野良犬

まず野良犬について考えてみたいと思う

野良と言うからには、元は主人がいてそれに仕えていたものの、今現在は主人を失い「野良」つまり未所属の身分であると考えられる

もしかりに初めから仕える主がいなかったのであれば、それは「野生の犬」である

場景から推測するに国盗りの戦において主人が討ち死にし、ゆえに主人を失った「野良」となったのであろう

少年の狼は背中に二振りの刀を背負っているが、これは自らが使うのではなく主人が使う刀の予備なのであろう。つまり狼はたんなる荷物持ちであったのだ

※戦力として期待されていたのであれば、もう少しマシな防具を着させられているだろう

背中の刀は主のものである。だからこそ狼は梟に抗するための武器として背負った刀を抜くのではなく、死んだ武士の握っていた刀を拾ったのである

刀を拾うとき、最初は武士の左手が柄にかかっているが…


手がパタリと柄から落ちる
※日本刀は堅い物に刃先が当たれば刃が欠け血糊によってもすぐ使い物にならなくなる。ゆえに予備が必要だったのである。もっとも戦場において日本刀は主力武器ではなく、あくまでも副装品であったが
ご指摘を受けましたので、この※は保留とします。狼は予備の刀をもつ従僕として戦場に狩り出されていた、という論旨には変更はありません


戦場で主人のために走り回る様子忠実な飼い犬のようであり、その後に主人が死んだために「野良」になったということを含めて、梟は「野良犬」と呼んだのだ、というのが穏当な説であろうと思う(以下では不穏な説を展開する)



柿色の衣

このシーンにおける狼は柿色(柿渋)の着物をまとっている。アートワークスに全身の図が登場しているが、この時狼が着ているのはこの柿色の衣のみである(両脚はむき出しである)

※コメントでご指摘を受けましたので追記します。柿色の衣は一般的な忍び装束としても使われていたものです。隻狼というキャラクターをデザインする際に、その知見が反映されたものだと思われます
※ただし、忍びとも呼べない子どもが、闇夜に紛れるための柿色の衣を昼中の戦場で、それも上着だけを着用していることへの疑問から今回の解釈となったものです



この柿色の衣は「熟達の忍び」となった後も、上着として着用している


この柿色の衣と、ほぼ同じ色の衣服を着ているのが仙峯寺の僧侶たちである


しかしながら仙峯寺の僧侶たちのそれは懸衣型(けんいがた)の「袈裟(けさ)」であって、狼の着るような衿を前であわせる寛衣型の着物とは異なる

また仙峯寺は拳法を中心教義に据える宗派であり、僧侶でもあるから刀を使うことは絶対にない

仙峯寺拳法の伝書
仙峯寺の者は、拳法を修めて功徳を積む
法とは、教えのことである
己の身一つで仏敵を打ち倒すためには、
拳と法、どちらも欠けてはならぬ

では柿色の衣をまとい、刀を振るう主をもつ少年はどこから来たのか

以前、「落ち谷衆」の考察において、落ち谷衆は『もののけ姫』に登場する石火矢衆のオマージュであると述べたことがある

この石火矢衆が狼と同じ寛衣型の柿色の着物をまとっているのである
参考資料として提示

画像の背後には薙刀や刀と思わしき刃のついた武器を持っている石火矢衆も確認できる

では、石火矢衆(落ち谷衆)の縁者であるかというと一概にそうとは言えない
というのも、SEKIROの落ち谷衆の着物は濃紺(黒)だからである


わずかに襟元に柿色(柿渋色)が確認できるものの、メインカラーは濃紺(あるいは黒)なのだ

つまり狼の柿色の衣石火矢衆に酷似しているが、そのオマージュ先である落ち谷衆とは異なるのである



だが、石火矢衆の着物と狼の着物の類似点は単なる偶然ではないのかもしれない

やや話は戻るが、柿色の衣を着た少年を梟は「犬」と呼んだ

人の子を犬と呼ぶのはやや奇異な感じがするし、なぜ犬なのかも明らかにされない
(この疑問に対する穏当な答えは上述した)

しかし柿色の衣と「犬」とは遠く関係しているのである

実は『もののけ姫』に登場する石火矢衆には更なる元ネタがある

犬神人(いぬじにん)」というのがそれである(wikipedia)

元は大社に従属した下級神官であったがやがて他宗弾圧の尖兵となっていったという

彼らは柿色の衣をまとい、八角棒を握り、弓弦や占いなどを生業にしていたらしいが、末期にはほとんど無法集団となり、他宗派、他集団との闘争を繰り返したという

簡単に言うと、僧兵をさらに無法にしたような神社側の者たちである

つまるところ、梟が狼を「犬」と呼んだのは、彼が「犬神人」が着るような柿色の衣をまとっていたからである

実際に狼が「犬神人」、あるいはその縁者であったかというと疑問が残る。戦場には他に柿色の衣を着た者は確認できないし、そうした集団は本編には一切登場しないからだ

あくまでも「犬神人」と似たような色の服をまとい主人を失ったようなので梟は便宜的に「野良犬」と呼んだのである。なので、狼が「犬神人」だったということではない





※ここから下は読むと不快になる人がいるかもしれないのでよく注意して、苦手だと思ったら「変若の御子」の項までスルーしてください





稚児

さて、いくつか仮説を立てては見たものの、結局のところ柿色の衣の出所については不明のままである

だが、少年狼柿(柿渋)色の衣を着ていたことは確かである。この色を作中に探し求めるのならば、やはり仙峯寺の僧侶の着る袈裟がよく似ている

何よりも「柿色」というが、本作において「」は仙峯寺と関連づけられている。たとえば太郎兵変若の御子の好物として強調されるし、アイテムとしての「柿」が落ちているのも仙峯寺である

古くは柿色とも言われた「柿渋色」は渋柿を潰してとれる「柿渋」によって染められるが、素材の点からいっても仙峯寺は柿渋染めが可能なのである

水生村にも柿の木はあるが、水生村の名産は「血染め」である

つまりから言えば狼は仙峯寺系の衣服を着ていたのである

だが仙峯寺はれっきとした仏教寺院であり、本来であれば子供などは足を踏み入れることすら出来ない聖域なのである。ましてやそこに所属している証である柿色の僧衣を身にまとうなど言語道断である

しかしながら、ただの子供が仏教寺院に所属する方法がひとつだけある

稚児となることだ(wikipedia)

本作に強い影響を与えた密教系の寺院では稚児を預かることは盛んであり、その役割のうちには「男色、衆道、少年愛の対象」といったものもある

真言宗、天台宗等の大規模寺院は修行の場であるため山間部にあり、また、女人禁制であるため、このような稚児はいわば「男性社会における女性的な存在」となり、しばしば男色の対象とされた(ただし上稚児は対象外)。中世以降の禅林(禅宗寺院)や華厳宗などにおいても、稚児・喝食は主に男色、衆道、少年愛の対象であった。(wikipedia)

※牛若丸(仮名は九郎)もまた鞍馬寺の稚児である(こちらは分類上は「上稚児」であるが)
※また小太郎も当初は稚児として預けられていたと思われる

元は仙峯寺の稚児であったものが下級武士(おそらく田村家側)に捕まり、その下僕として戦場に帯同させられていたのであろう。ほとんど半裸に近いような服装から判断するに、彼は予備の刀を持つ荷物持ちであると同時に、女のいない戦場ではその身代わりとなっていたのであろう

武士の衆道・男色についてはWikipediaを参照のこと。蘆名氏の名が出てきて興味深い

※状況的には『ベルセルク』のガッツの少年期と同じようなものである
※『ベルセルク』にも男色好きの城主が登場するが、彼が侍らせる少年たちの表情は心を亡くした狼とよく似ている(気がする)


時代背景や情況からすると、SEKIROには不思議なほどに衆道や男色の文化が登場しない。だが、これは存在しないわけではない

否、むしろ狼・九郎・弦一郎の関係こそがそもそも恋愛における三角関係なのである。つまり竜胤を巡る奪い合いという表層の奥には、九郎を巡る衆道物の愛憎劇が展開されていたのである

エマがどれほど美人でも、誰もなびかないのはそういった理由からなのかもしれない




変若の御子

しかし狼=稚児説では、忌まわしい物であるはずの柿色の衣成長しても愛用していることが説明できない。また事実として仙峯寺稚児文化が確認できないのも問題である

しかしながら、稚児極めて近しい存在は確認できる

変若の御子さまがたである

この変若の御子たちの生前の着物をまとっているのが四猿である
※猿たちは生前の御子たちの姿を真似ていると思われる

この四猿の内の一体に、柿色の衣をまとった猿(言う猿)がいる


狼の柿色の衣と同型・同色の着物である

背中側の裾にあるスリットも同じ

実際に戦う四猿の着物は、首元の(えり)に細かい刺繍が入っているが、アートワークスならびに屏風では狼と同じく衿は無地である

「言う猿」は他の二匹と異なり、きっちりと衿(えり)を合わせているのでやや異なって見える

見え猿は裸なので除外するが、「聞く猿」と「見る猿」は着崩している




以上のことから、狼は変若の御子の候補者として寺に預けられ(あるいは拐かされ)、変若の御子として育成されている途中(おそらくまだ信心深き者が関与していた時代)に、敵対武士にふたたび誘拐されたのだと思われる

求道者と信心深き者の確執を考えると、求道者の勝利により信心深き者は追放され、彼女たちが育てていた変若の御子の多くは、売られたか捨てられたか殺されたか実験材料にされたのかもしれない。そのうちのひとりが、狼だったのであろう

柿色の衣は狼にとって変若の御子として大切にされている時代思い出の品である。ゆえに成長してもそれを手放せず上着としてまとっているのである

また、変若の御子として人体実験被験者であったとも考えられ、その体験が戦場で心を亡くしていた遠因(直接的な原因は稚児の項で述べたものだと思われる)となり、また一心に面白いやつと評される精神を育んだのであろう


※ある秘密集団に育てられた子供が特殊な役割を担うという構造は、ブラッドボーンにおいて医療教会に育てられた孤児たちが「聖歌隊」となったことと似ている




常陸坊海尊

以上のように狼の素性というかキャラクター造形は相当に複雑なのだが、稚児(変若の御子)であったと考えると下級とは言え僧籍ということになる

狼の主(あるじ)である九郎のモチーフを義経とするのならば、義経と従者の僧兵というお馴染みの構図であることに気づく

問題はこの僧兵に該当するのは誰かかであるが、最も有名なのは武蔵坊弁慶であろう

義経と弁慶のは歌舞伎「勧進帳」にも描かれて有名であるし、最後まで主に仕えた忠義の者として弁慶を狼のモチーフとすることも考慮したのだが、もうひとり相応しい僧がいる

それが常陸坊海尊である


伝説に拠れば『衣川の戦いで生き延びた海尊はその後、不老不死の身となり(400年位生きていたとも伝えられている。生没年は不明)。源平合戦や義経伝説を見てきたように語っていたと伝えられている。(Wikipedia)

もちろん以前考察したように、狼のモチーフのひとつは「藤原秀郷(俵藤太)」のお伽噺&伝説である

だが、俵藤太の蜈蚣退治がSEKIROの物語上のモチーフであるように、二人の僧兵、弁慶+海尊と義経の関係性が、九郎と狼のモチーフとなっているのである



犬から狼へ


さて、差し出された刀の切っ先を握ったことで、「野良犬」から「餓えた狼」と呼び名が変わる

これは梟を見返したことで狼の意志の強さを感じとったか、あるいは恭順の姿勢に憐憫を覚えたかであろうと思われる(あまり自信なし)

どちらにせよ、ここでという言葉は犬の上位として使用されている…というのが、一般的な読み取り方であろう

が、ここで一つ珍説を提唱したい

「犬」という字の右上の点を取ると「」という字になる

これを上記の「犬神人」説とあわせると、「犬神人」は「大神人」となる

「大神」「オオカミ」と読み、「狼」とも通ずる

そして、梟は狼の顔面の右上を刀で斬っているのである

以上を画像にするとこうなる

犬神人から大神人へ、犬からオオカミを経て狼へ、という言葉遊びである

どこまで本気という点についてはあえて触れない



蛇足

結論としては「狼=元変若の御子説」となろうか

しかしそれを引き出すのにいつも以上に論が右往左往した感がある

「犬」や「稚児」の項は必要だったのかもわからない。あるいは同型の服を着ているとしてすぐに四猿を提示したほうが、スムースだったのかもしれない

梟が犬と呼んだ理由や、戦場での少年狼の役割、心を亡くしていた理由、信心深き者が排除された経緯と結果などをまとめて考察しようとしたらこうなってしまった





2019年12月14日土曜日

Bloodborne 手記8 イズ

イズという言葉は「イズの大聖杯」ならびに「イズの汎聖杯」にのみ登場する(厳密には「不吉なるイズの汎聖杯」にも記されているが、「イズの汎聖杯」とテキストは同じである)

イズの大聖杯医療教会の上位会派「聖歌隊」の礎となった、イズの大聖杯は
ビルゲンワース以来、はじめて地上に持ち出された聖杯であり
遂に彼らを、エーブリエタースに見えさせたのだ


イズの汎聖杯「聖歌隊」によれば、イズの地は宇宙に触れている
故に上位者たちは、かつて超越的思索を得たのだと


テキストから「イズ」は「聖歌隊」や「エーブリエタース」と関連する地であることがわかる

イズの大聖杯をドロップするのがエーブリエタースであり、そのエーブリエタースと戦う場所が医療教会の上層、つまり聖歌隊の拠点であることからもイズと両者の関係を推測することができる


上層の鍵医療教会には2つの上位会派があり
「メンシス学派」は隠し街に、「聖歌隊」は上層に
それぞれ拠点を置いている
故にこの鍵は「聖歌隊」に近づくものだ


聖歌隊の発端は、地下遺跡に宇宙を求めた探求にある


エーブリエタースの先触れかつてビルゲンワースが見えた神秘の名残
上位者の先触れとして知られる軟体生物、精霊を媒介に
見捨てられた上位者、エーブリエタースの一部を召喚するもの
この邂逅は、地下遺跡に宇宙を求めた探求のはじまりとなり
それは後の「聖歌隊」につながっていく

しかしながらこの後、聖歌隊は「気付き」により地下遺跡にあるイズの地への執着を失ったようだ

星の瞳の狩人証医療教会の上位会派「聖歌隊」の一員の証
その瞳は宇宙を象っている
「聖歌隊」の気付きは、かつて突然に訪れたという
すなわち、地上にある我々のすぐ頭上にこそ
まさに宇宙があるのではないか?

医療教会の工房のメモ
宇宙は空にある。「聖歌隊」


イズの地

ゲームシステム的に、そしてシンプルに解釈するのならば、イズの地とはイズの大聖杯によって封印が解かれた地下遺跡のことである

イズの大聖杯が聖歌隊をエーブリエタースに見えさせたのであれば、そこはイズと呼ばれる地下遺跡であったろう

つまりエーブリエタースイズの大聖杯ダンジョンにいたことになる。これは、イズの大聖杯ダンジョンの第三層にボスとしてエーブリエタースが登場することからも裏付けられる



イスの国

このイズという地に関して、かつて私は「ブラッドボーンを学び直す動画」にて、海に沈んだ国「イス」との関連を取り上げた

イスはフランスのブルターニュ地方に伝わる伝説の地である(wikipedia)

ブルターニュ地方は大陸のケルト文化の色濃い土地であり、またアーサー王伝説とも密接な繋がりがある

アーサー王伝説は聖杯探求の物語であり、同じ聖杯をモチーフとするブラッドボーンと関係があるのではないか、というやや迂遠な推測のもとに提唱した仮説である

英語版でイズがIszと綴られ、ブルトン語でIsは「低地」を意味することなどからも、イズとは海に沈んだイスの国をフロム的に解釈したものと解説したのである

※こうしたケルト - アーサー王物語 - 聖杯探求 - 騎士道物語といった一連のモチーフは、ダークソウルにアルトリウス(アーサー王のラテン語読み)としても登場し、また今作では聖杯として直接的に登場している

動画でこのイスの国を取り上げたのは幾つか理由がある

まず本作が、ゴシックホラーにクトゥルフホラーが侵食していくという構造であることはインタビューにより明言されている

そのうち芯となるゴシックホラーとは吸血鬼伝説であり、この伝説をクトゥルフ的に解釈する過程、その変容そのものがブラッドボーンの物語なのであると考えたのである

ゆえに、イズのクトゥルフ的解釈基礎となる伝説としてイスを提示したのである

もうひとつは、動画のストーリーがまだ序盤であったことである

ブラッドボーンは、ゴシックホラーからクトゥルフホラーへの目眩を伴うような飛躍が醍醐味である。動画的にそれを先取りするのもどうかと思い、また後々ネタが無くなりそうだったので動画ではイスの国のみを扱ったものである



イスの偉大なる種族

イズのもう一つの解釈として、そしてイスの国のクトゥルフ的解釈として挙げたいがのが、「イスの偉大なる種族」である(wikipedia)


イース(Yith)と呼ばれる滅亡しつつある銀河の彼方から6億年前の地球に到来した、実体を持たない精神生命体時間の秘密を極めた唯一の種族であるため、畏敬の念を込めて、大いなる種族と呼ばれている。(Wikipedia)

偉大なる種族は精神生命体であるがゆえに、時空を越えて他の生命体と精神を交換できるという

そのようにして地球へと到来した彼らの故郷は銀河系の彼方、つまり宇宙にある

そしてその宇宙は空にある。ゆえに聖歌隊は『見捨てられた上位者と共に空を見上げ、星からの徴を探す』のである

また、医療教会がまがりなりにも高次元暗黒に接触することができたのは、「精霊」つまり時空を超越する「偉大なる種族の名残」を媒介にしたからである

彼方への呼びかけ
医療教会の上層「聖歌隊」の秘儀の1つ
かつて医療教会は、精霊を媒介に高次元暗黒に接触し
遙か彼方の星界への交信を試み、しかしすべてが徒労に終わった


その後の聖歌隊によるエーブリエタースの保護とその研究は、偉大なる種族と特定集団との関係と酷似している

また、大いなる種族の知識を信奉する集団や異端宗派が、その知識と引き換えに彼らの活動を支援することもある。(Wikipedia)

※この関係性はおそらくウィレームとロマとも共通する


また地球に来訪した際の彼らの外見は以下のようなものである(円錐体生物と精神を交換して地球に到来)


胴体は底部の直径が約3m、高さが約3mの円錐体で、虹色の鱗に覆われている。 底部は弾力性のある灰白色物質で縁取られており、ある種の軟体動物のように這って移動するのに用いられる。

円錐形の頂部から伸縮自在の太い円筒状器官が4本生え、2本は先端にハサミを備え、重量物の運搬および擦りあわせての会話に使われる。1本は先端に赤いラッパ型の摂取口が4つあり、最後の1本には頭部がついている。

頭部は黄色っぽい歪な球体で、円周上に大きな眼が3つ並び、上部からは花に似た聴覚器官を備える灰白色の細い肉茎が4本、下部からは細かい作業に使われる緑色がかった触手が8本、垂れ下がっている。

彼らは半ば植物的な生命体で、水中で成長する胞子で単為生殖をおこなう。 (Wikipedia)

文字からのイメージが一致することはまずないが、なんとなくエーブリエタースを彷彿とさせないだろうか
Bloodborne WIKIより転載

※形状的には「古のもの」とも似ている


さらに彼らは時間の秘密を知る唯一の生物である

ブラッドボーンにおいて、女王の肉片を捧げることでまるで時間を巻き戻すかのように女王を復活させたのは、嘆きの祭壇のロマだが、偉大なる種族が円錐体生物の次に精神を交換したのが、「強壮な甲虫類」である


※蜘蛛を甲虫とするには異論があると思うが、ロマが一般の蜘蛛とはやや異なる姿をしていることから、実は蜘蛛とも言えない

※沈黙を守っていたロマが反応したのは、おそらく赤い月が近付いていたからであろう

さて、エーブリエタースは見捨てられた上位者と呼ばれる

偉大なる種族は用が済むと肉体を元の持ち主に返すという。その際、基本的に元の持ち主は記憶を消去されるが、まれに記憶が断片的に残ったり、に現れたりすることがある

見捨てられた、とは偉大なる種族と共にあった記憶を持ったまま自分だけが元の肉体に戻されたことを言うのではないだろうか

しかしながら偉大なる種族たちはすでに次の移住先、つまり「強壮な甲虫類」と精神を交換してしまっている

だからこそ、エーブリエタースは祭壇にロマを祀り、偉大なる種族との再度の合一を夢見て祈り、嘆き続けているのである

※エーブリエタースが「空を見上げて、星からの徴を探す」と言われながらも祭壇に向かっているのは、その祭壇に乗るロマが遙か彼方の星界と通じる存在だからであろう

※祭壇のロマが現状どんな状態にあるかは分からないが、女王の時間の巻き戻しに偉大なる種族は関わっていると思われる

少し話は変わるが、ブラッドボーンでは精神が肉体を変容させることは稀な現象ではない。精神的なある種の枷が外れることで獣となる獣化もそうであるし、瞳を得た者たちの変容もそうした現象の一部である

つまり、精神が肉体の形状を決定しているのである(特に赤い月が近付いた際には)

この説でいくと、偉大なる種族の精神人の肉体に入った場合、精神の影響を受けて肉体が変容することになる

あるいは眷属と呼ばれる者たちは、偉大なる種族と精神を交換し、その異質な精神により肉体が変化した者と、その影響を受けた(血を受けた)者たちというカテゴリーなのかもしれない


偉大なる種族

では偉大なる種族の正体は何か

ブラッドボーンではすべての上位者は赤子を求めているという
本作における「偉大なる種族」も例外ではないであろう

精神生命体という形を持たない存在であり、かつ赤子を求めており、かつその精神が宿った生物は姿が変容する(上位者化、眷属化)する

これらを統合すると、本作における偉大なる種族とは「オドン」である可能性が高いのではないかと思われるが断定はしない

※現時点での解釈である



蛇足

エーブリエタースのところまで動画が進んだら書こうと思っていたのだが、機を逸すると面倒くさくなるので先に書いておく

困ったのがエーブリエタースの画像がないことである。先に進めて撮っておくという方法もあるのだが、予習になってしまうのでなんとなくいやだった

既存のキャラクターで聖杯ダンジョンを攻略するという手法もあるが、それもおっくうという極めて怠惰な理由により海外Wikiより転載することにした。許諾に関してはリンクと転載の旨を記載すれば自由に使えるとのことである

2019年12月7日土曜日

Bloodborne 手記7 古狩人デュラ

古狩人デュラ

古狩人デュラは本作には珍しく、詳細にその事情背景を語られているキャラクターである

旧市街にまつわるデュラの物語は、メモや各種装備のフレーバーテキストに記されている。それらを集めることで大まかであるがデュラという人物の物語が理解できるようになっている

※追記「血に渇いた獣

旧市街

旧市街については過去の考察で述べたので要約に留める。そこでは医療教会による旧市街へのローランの奇病の散布ならびに獣の病蔓延、さらには医療教会による旧市街焼き討ち、という医療教会側からの視点により考察を展開した

旧市街に深く関わるデュラの考察もまた以上の考察に拠っているが、今回はデュラ・旧市街側から考察してみたいと思う


旧市街に獣の病が蔓延したときの狩人側の記録が「旧市街のメモ」である

赤い月は近く、この街は獣ばかりだ。きりがない
もう何もかも手遅れ、すべてを焼くしかないのか

この発案がついに実行に移されたことが、ヤーナム市街のメモから分かる

獣狩りの夜、聖堂街への大橋は封鎖された
医療教会は俺たちを見捨てるつもりだ
あの月の夜、旧市街を焼き棄てたように

そして旧市街が焼き尽くされた時の惨状を伝えるのが「煤けた狩装束」である

煤けた狩装束
工房の用意する、標準的な狩装束の1つ
旧市街の事件、獣の病の酷い蔓延と街を焼く浄化の時代に作られ
濡れたようなマントが、炎に対して高い防御効果を発揮する
これは燃え盛る炎と血の焼ける臭いの中で
生き残った罹患者を狩った
、そういう装束なのだ

狩人たちにとって、旧市街の獣ならびに罹患者たちを狩ることは浄化とされていた。獣の病に感染しただけの、まだ人間と呼べるような存在を焼き殺すことも正当化されたのである

この惨状に絶望し、狩人を止めたのがデュラであった


灰狼の帽子
古狩人デュラの狩装束
ささくれた狼の帽子は、特に象徴的に知られていた
工房の異端「火薬庫」との交わりで知られるデュラは
ごく優しく、そして愚かな男だった
故に旧市街の惨状に絶望し、狩人であることを止めたのだ

狩人を止めたデュラは「獣の守護者」となった。この名は、データ解析により明らかになったデュラの開発コード「Beast Guardian」によるものである

※もう一方のRuinsSniperは狩人が旧市街に入った際の役割からの命名だろう

さて、デュラには三人の仲間がいた

ガトリング銃
古狩人デュラが旧市街で用いた設置型機関砲
これを手持ちできるよう無理矢理に改造したものであり
デュラの三人の仲間、最も若い一人が用いたという

一人目は上記ガトリング銃に言及されている、「最も若い一人」である。彼はDLCエリア「狩人の悪夢」に登場している
右手にノコギリ槍、左手にガトリング銃。「煤けた狩装束」に黒いフードを装着している

二人目は旧市街に登場する通称「デュラの盟友(Djura’s Ally)」と呼ばれるNPCである(プログラム上の名前は「Djura’s Pal」)
右手にノコギリ槍、左手に獣狩りの短銃。ガトリング銃狩人と同様に「煤けた狩装束」に黒いフードを装着している

この二人に共通するのはノコギリ槍と「煤けた狩装束」、黒いフードである。このことからデュラの仲間は「煤けた狩装束」と黒いフードというスタイルで統一されていると考えられる

三人目の候補として挙げられるのが、旧市街の館内で死亡している「煤けた狩装束」を入手できる「煤けた狩装束」を着ている遺体、もしくはその階下にいる「銃槍」を入手できるやはり「煤けた狩装束」を着ている遺体である

しかしながら、この両者は黒いフードは着用していない。また「煤けた狩装束」を理由に両者をデュラの仲間とした場合、デュラの仲間が四人いることになってしまう

ということで、この両者(銃槍、煤けた狩装束を入手できる)はデュラの仲間ではないと思われる



火薬庫

この他に、デュラには「火薬庫」と呼ばれる工房(あるいは人物)と交わりがあった

あるいは人物、と括弧書きしたのは火薬の狩人証の文章を読むと、どうやら「火薬庫」とは工房の名前であると同時に、ある人物の二つ名とも受け取れるからだ

火薬の狩人証
工房の異端として知られる「火薬庫」が発光した狩人証
複雑な機構構造と、爆発的な威力にこそ魅力を見た彼ら
それまでの工房とは一線を画す、奇妙な武器を生み出した
今は亡き「火薬庫」は嘯いたものだ
「つまらないものは、それだけでよい武器ではあり得ない」

もし火薬庫「彼ら」とあるように幾人かの職人による組織の呼び名だけであったのならば、「今は無き」と書くと思われる。亡きというのはふつう死者に対する文字である。また、嘯いたというのも、誰か具体的な人物による発話行為としても受け取れる

もちろん、工房組織としての火薬庫があり、その中に火薬庫という二つ名を持つ者がいた、ということである。組織としての工房があったことは確実である

撃鉄の狩人証には、火薬庫の前身となる一会派オト工房の名が登場するが、これによればオト工房はある一定の勢力を誇る組織であったことがわかる

撃鉄の狩人証
工房の異端「火薬庫」の前身となる一会派
オト工房の発行した狩人証
独自の発想と、複雑な機構。そして奇妙な武器
「火薬庫」の哲学は、この頃既に息づいていた

しかしながらどう解釈するにせよ火薬の狩人証の文章からは「火薬庫」という組織の他に、「火薬庫」の二つ名を持つ人物がいたと読み取ることも可能である

※正直なところあまり固執する気はない。先の火薬庫のセリフにしても、擬人化された工房が発したのだという解釈でもよいと思っている



火薬の狩人証

火薬の狩人証により購入が可能になるアイテムは次の四つである


  • パイルハンマー
  • 銃槍
  • 縄付き火炎瓶
  • 油壺


このうちパイルハンマーはデュラの愛用する仕掛け武器であり、縄付き火炎瓶と油壺は、その爆発性から「火薬庫」との繋がりは理解できる

だが、なぜ銃槍はここに入っているのであろうか

銃槍
工房の異端「火薬庫」の手になる「仕掛け武器」
簡易な銃と、槍を組み合わせた試作品であり
失われたカインハーストの武器見真似たものと言われている
単体として特筆すべき性能を持つ武器ではないが
銃にもなる「仕掛け武器」は、他にない特別なものだ

おそらくは武器が銃になるという仕掛けが「火薬庫好み」だったからである。とはいえ、ここにカインハーストが関係してくるのがやや唐突である

しかもデュラの仲間たちは誰も銃槍を使っていない

だが、「カインハーストの武器を見真似た」という以上、カインハーストの武器に知悉した人物が火薬庫と繋がっていたことは確かである

では火薬庫と繋がったカインハーストをよく知る人物とは何者か

カインハーストの血族と関わりが深い勢力と言えば処刑隊が浮かぶが、彼らが憎き宿敵の武器を模倣するだろうとは思えない

そもそも銃槍はカインハーストのいかなる武器を見真似たのであろうか



レイテルパラッシュ

真似された方の武器が「レイテルパラッシュ」であることは、その機構やデザインからほぼ確実である

レイテルパラッシュ
カインハーストの騎士たちが用いた武器
大型の騎士剣と、彼ら独特の銃を組み合わせたもの
古くから血を嗜んだ貴族たちは、故に血の病の隣人であり
獣の処理は、彼らの従僕たちの密かな役目であった
従僕を騎士と呼び習わせば、せめて名誉があるものだろうか


カインハーストの騎士たちが用いた武器とされるが、その騎士とは獣を処理する従僕に過ぎないことが、テキスト後段にいたって皮肉られている

騎士とは名ばかりで、その実体は医療教会の狩人と役割も立場もほぼ同一である。両者とも獣を狩る者なのだ

とはいえカレル文字「穢れ」のテキストを読む限り、両者の間に友好的な交流があったとは思えない

「穢れ」
ビルゲンワースの学徒、筆記者カレルの残した秘文字の1つ
「血」の意味を与えられたカレル文字は幾つか存在する
「穢れ」もその1つであり、特に契約の意味を持つ
この契約にある者は、カインハーストの血族、血の狩人であり
死血に女王のための「穢れ」を見出す。特に狩人の死血の中
だが「穢れ」は、同時に医療教会の禁忌でもある
処刑隊に気を付けることだ

「穢れ」や「カインの証」のテキストを読むと、カインハーストの血の狩人たちが「穢れ」を得るために医療教会の狩人を積極的に狩っていたことがうかがえる

カインの証
カインハーストの血の女王
アンナリーゼを守る近衛騎士たる証
彼らはまず血の狩人であり、「血の穢れ」を求めて獲物を狩る
自らそうなるのか、あるいはその力だけを借りるものか
それは証を持つ者次第だ

まずカレル文字「穢れ」から血の狩人たちが誕生し、彼らは「血の穢れ」を求めて医療教会の狩人を狩りはじめたのである。処刑隊の結成は狩人狩りへの対抗策という側面もあったのかもしれない



灰狼の帽子

灰狼の帽子が元は煤けた狩装束シリーズだったことは、内部データにより明らかになっている

ここに灰狼の帽子だけがなぜデュラに渡されたのかという疑問が生ずる

アートワークスではデュラの原型は黒いフードを被っており、さらに煤けた狩装束は「灰の狩装束」とタイトルされている。そして「灰の狩装束(現在の煤けた狩装束)」を着用した狩人の手には細身の長剣が握られている

さらに幾つかのアクセサリーが描かれており、緻密な彫刻が見て取れる

この「煤けた狩装束」にカインハーストの影響を感じとることもできるが明確なものではないので、ここでは深く立ち入らない

その代わりとして、煤けた狩装束シリーズの一部であった灰狼の帽子に注目したいと思う

なぜ灰“狼”なのか

狼とは何かを考えたとき、過去の考察で述べたように吸血鬼と狼とは密接に関係していることが思い浮かぶ

「狼は吸血鬼と同一視され、またその従僕とも考えられていた」

そうした伝説上の関係を踏襲してか、本作においても狼は吸血鬼と関係しているのである

血液嗜好症(血の嗜み)という吸血鬼的な伝統のあったカインハースト城のいたるところに狼の紋様が確認できるのである。それはカインハーストの「紋章」といってよいものかもしれない

例えば馬車の彫刻や、絨毯、タペストリー、また女王の背後にあるステンドグラスなどに狼が確認できる

馬車の扉に刻まれた浮き彫り
アーチの上に飾られた狼の装飾品
背を向け合った狼の紋様の描かれたタペストリー
女王アンナリーゼの玉座の前の絨毯に描かれた狼

ステンドグラスには二頭の狼とその間から天に昇る、あるいは降りてくる小さな獣の姿が見える


つまりカインハーストは吸血鬼的であると同時に狼の属性を持つ者たちなのだ

これは禁忌の血が「獣の病」と関わっているという設定とも合致する。血液嗜好と獣化とは不可分であり、人は血によって人を失い獣となるのである

カインハーストと狼の関係が浮かび上がったことで、灰狼の帽子の持つ意味合いが明瞭となってくる

とは、カインハーストに属する者たちの表徴(シンボル)なのだ

ひるがえってデュラもまた、カインハーストを象徴する狼の表徴を身につけている。なぜ煤けた狩装束を着た狩人たちは誰一人として同シリーズである灰狼の帽子を被っていないのか。なぜデュラだけがそれを被っているのか

おそらくは設定上でも灰狼の帽子は煤けた狩装束と既に切り離されているのである。つまり狼の象徴を被るのはデュラ一人であり、そのキャラクター設定に拠るものなのである

キャラクター設定といえばデュラの「貴公」という二人称代名詞にも現われている。本作において「貴公」という代名詞を口にするのは、血の女王アンナリーゼと時計塔のマリア(未使用会話データ)、そしてこのデュラだけである

カインハースト的な狼の表徴、そして貴公といカインハースト的な言葉遣い、さらにはデュライベントを経て購入できるようになる銃槍(レイテルパラッシュの模造品)


これらからデュラの正体を端的に言い表すと、「デュラは元カインハーストの騎士(従僕)」であった、となる

彼が血の狩人であったのか、それともたんなるカインハーストの騎士であったのかは不明である。だがどちらかといえば血の狩人というよりも、その存在を知る立場にあり、かつレイテルパラッシュの使い手でもあったカインハーストの騎士の方であったろう。なぜならば狩人を嬉々として狩る血の狩人に、獣となった人を守護しようとする心情が生まれるとは思えないからだ

※旧市街の惨劇は元々はカインハーストがらみの事件だったようにも思える。なぜならば煤けた狩装束にある「浄化の時代」のなかの「浄化」という言葉は、カインハーストの血族に向けても用いられているからである「かつてローゲリウス師は処刑隊を率い、カインハーストの城で血族を浄化しました」(アルフレート)

デュラはカインハーストの騎士(従僕)として、レイテルパラッシュを振るい獣を処理する役目にあった。だがいつかレイテルパラッシュは失われ、かつての愛用の武器を見真似て火薬庫に銃槍を作らせたのである

しかしそれは「試作品」でしかなかった。やがてデュラは銃槍を捨て火薬庫の新造したパイルハンマーを使い始めたのであろう

つまり火薬の狩人証により購入できるようになる武器とは、デュラの使用してきた武器というカテゴライズなのである

血に渇いた獣

旧市街のボスは「血に渇いた獣」という名前である
なぜこの名前なのか

血に渇いた、とは血によって渇いたという意味ではなく、血を欲したのだがそれを得られずに「渇いた」状態のことをいうのである

つまり、血に渇いた獣とは、人の血を求め獣化した獣なのである

本作における血を啜る者たちといえば、「カインハーストの貴族たち」である

その女王は配下の者に自らの血を与え血の狩人に任命する
つまり、血に渇いた獣とは、この女王アンナリーゼの血を欲し、そして得ることができずに暴走した者である

血に渇いた獣はもとはカインハーストの血の狩人、あるいは貴族たちなのである

デュラにとっては同胞ともいえ、ゆえに彼は獣が人であることを知っているのである。あるいは血に渇いた獣とは、デュラの主人であったのかもしれない



黒獣パール

黒獣パールのいる「黒獣の墓地」は旧市街の一地区である。隠し街ヤハグルとは抜け穴で繋がっているに過ぎず、一方、旧市街とは大きな門によって隔てられているものの旧市街の一区画であったことが分かる

また、旧市街に蔓延したローラン発祥の獣の病との関連も考えると、黒獣パールはれっきとした旧市街の住人である

さて「黒獣の墓地」という地名だが、墓地というわりに墓石はひとつもない。つまりここは、黒獣を葬った墓地なのである。葬ったわりには黒獣は生きているので、おそらくはそこに封じ込めた、という意味を込めて墓地としたのであろう

なぜ黒獣を殺さずに封じ込めたのだろうか。この土地は旧市街である。獣の守護者を自認するデュラにとって、獣は人である。

「貴公は獣など狩っていない。あれは…やはり人だよ」(デュラ)

デュラからしてみれば黒獣は人なのである。それゆえにデュラは黒獣を殺さずに街外れに封じ込め、もはや死んだのと同じだという意味を込めて「墓地」と名付けたのである

さてこの黒獣には「パール」という妙な名がついている。パールと言えば「真珠」を意味する英単語である。またはラテン語で「洋梨」を意味する(perla)や「二枚貝」を意味するペルナ(perna)と、語源を遡ることもできるが、これらの意味と「黒獣」との間に関連性が見いだせない

なぜパールと命名されたのか

パールという名については、「手記6 NPCの名前」では、英語名ポールのハンガリー語読みであるとした。そしてその際の綴りは「Pál」であることも記した

小文字aの上にアキュート・アクセントがついているが、基本的にこれは「長音」を意味する符号である。つまりPálと書いてパールと読むのである

しかしながら、アルファベットの綴りとしては「Pal」である



三人目の仲間

このPalという単語は、「デュラの盟友」のプログラム上の名前(Name)として使われており、その正式名は「Djura’s Pal」である

Palとは「仲間」や「」を意味する英単語であり、直訳すると「デュラの仲間」となる

デュラからすれば三人は「仲間」であり、英語で言えば「Pal」なのである

つまり、デュラの仲間は三人ともDjura’s Palと呼べる存在であり、二人はNPC狩人として登場し、最後の一人は黒獣パールとして登場していたのである

現代ヤーナム人の中にも獣化するとローラン系の獣になる者がいる(身を窶した男の恐ろしい獣)。旧市街が獣の病の蔓延した都市であるのならば、そのなかに黒獣に変化したものがいても不思議ではない

あるいはそこにデュラが獣の守護者となった真の理由が秘められているのかもしれない



蛇足

SEKIROの一心の考察で「中空構造」を提示したことがある。つまり核となる事件を元にキャラクターを構成し、最後にその核を引き抜いて「中空」にするという手法である

デュラにおいても、旧市街における惨劇との具体的な関わりは不自然なほどに隠されている。プレイヤーが知らされるのは、消失した核の周縁部のみである(例えば旧市街のかつての惨状と結果としてデュラが狩人を止めたことなど)

過去に惨劇があり、その様子が煤けた狩装束には記されているものの、そこでデュラが何を見、何をしたのかは不明のままである。明かされるのはデュラがその惨状を機に狩人を止めたことである

この手法はマリアやゲールマン、ローレンス、ウィレームなどほぼすべての主要人物に適用されているように思える

しかしながら「考えていないわけではなく」、実際に設定やストーリーを構築した後に「引き抜いて」いるので、プレーヤーはそこになにがしかの真実が隠されているのではないか、という確信を感じるのである

デュラに関しては、本作にしては希有なほどにストーリーが提示されているにもかかわらず、そして大まかに理解できるにもかかわらず、なぜか核心部分にいたるとよく分からなくなる、という現象は以上の手法によるものである

旧市街の惨状に絶望し狩人を止めた。それはわかる

だが、なぜ灰狼の帽子を被っているのか、なぜ火薬の狩人証で銃槍を買えるようになるのか、なぜ獣の守護者となったのか、なぜ黒獣パールはあそこにいたのか、なぜ旧市街に獣の病が蔓延し、焼き尽くされたのか、なぜ時代がかった言葉遣いなのか、なぜデュラの仲間の三人目は登場しないのか…

というように、わかったこと以上の疑問が次々に生まれてしまうのである

これらの疑問に私なりに答えようとしたのが上記の考察(ならびに旧市街の考察)である

あくまでも現時点における私なりの解釈であり、ブラッドボーンを学び直す過程で修正あるいは破棄される可能性が高いことを最後に記しておく