考察ではなく「雑文」である
名前の語源から判断すると、カインハーストはドイツ系である
まず女王アンナリーゼがアンナ+ルイーゼの合名であり、ドイツ人の名の例として語源事典などに載っている
エヴェリンもまたドイツ名である。エヴェリンは銃の名であるが、テキストに「女性名を冠されたこの銃は」とあるように、人の名前でもある
さて、ブラッドボーンのNPCの中にはドイツ名を持つ者が他に2名いる
アルフレートとエミーリアである
アルフレートは金髪碧眼であり、いわゆるドイツ系(ゲルマン系)の特徴を有している
またエミーリアは銀髪に近いプラチナブロンドである
そしてまた女王アンナリーゼも金髪である
つまるところアルフレートとエミーリアは名前もそして身体的特徴もカインハーストの係累であることを示唆しているのである
孤児
カインハーストの係累であるアルフレートとエミーリアが現在のような地位にあることには、彼らもしくは彼らの祖先が孤児院に引き取られたことが関係している
孤児院の鍵
大聖堂の膝元にあった孤児院は、かつて学習と実験の舞台となり
幼い孤児たちは、やがて医療教会の密かな頭脳となった
ローゲリウス率いる処刑隊による粛正は「血族」のみが目的である。そのため血に穢れを持っていない者たちは見逃されたか、保護されたと考えられる
ほとんどの大人は血族となっており殺害されたであろう。しかし子供たちの多くは保護されたのである
おそらく血族になるためには「成人」である必要があったからである
このルールは萩尾望都の『ポーの一族』からの影響があると考えられる(『ポーの一族』では成人にならないと一族に加わることができない。しかしエドガーが14歳で一族にされてしまったことから、悲劇の物語がはじまる)
※宮崎英高氏が萩尾望都の作品群に影響を受けていることは「デラシネ」からも見て取れる
血族が遺伝によって伝わるのでないことは、血族に加わるためにはアンナリーゼと契約を交わさなくてはならないことにも示されている
血族名鑑
カインハーストの血の女王
アンナリーゼと契約を交わした血族たちの赤革の紳士録
古くから、すべての血族の名が記されている
つまりカインハーストの民であっても、血の契約をする前ならば血は穢れていないのである
保護されたカインハーストの孤児たちは医療教会の頭脳となり、やがて聖歌隊を組織したのである
言ってしまえば医療教会の上層部とは、カインハーストの血を引く者たちの集団である
ヨセフカや偽ヨセフカが金髪であるのも、ユリエが碧眼(頭髪はない)であるのも、医療教会の上層部にカインハーストの血を引く者たちがいるからである
あるいは初期の狩人にはカインハーストの者たちが多かったのかもしれない(ヘンリエッタなど)
こうしたカインハーストの血を引く集団の最後尾にアルフレートとエミーリアはいるのである
兄妹
アルフレートとエミーリアがカインハーストの血を引く者だったとして、なぜこの二人だけが獣狩りの夜に活動していたのか
本作には同じ構図が繰り返される特徴がある。赤子を奪われる母であったり、獣の病により滅ぶ都市であったり、人類の冒涜とそれに対する上位者の呪いなどである
アルフレートとエミーリアと同じような構図を持つキャラクターとしては実験棟の兄妹が挙げられる
脳液
かつて、兄は医療者を志し、妹はそのため進んで患者となった
結果夢のような神秘に見え、兄妹は幸いであった
ここに描かれるのは目的に邁進する兄と、それを支える妹という構図である
これはそのまま処刑隊として目的を果たそうとするアルフレートと、彼を支えるために医療教会を維持しようとするエミーリアに当てはめられるのかもしれない
ただしアルフレートとエミーリアが兄妹であるとするには根拠が薄弱であるので、実験棟の兄妹の繰り返し、とするには弱いかもしれない
しかしながら、2人が医療教会によって育てられた、ちょうど同じぐらいの年齢の男女であることは確かであろう
また、2人は作中ではほぼ同じタイミングで登場する。かたや行く手を阻む敵として、かたや協力者として、まるで対照的に登場するのである
この対照性を意図的なものと解釈するのであれば、二人は同じコインの裏表、すなわち双子である
アルフレート
アルフレートがローゲリウス師を列聖の殉教者として祀るために動いていることには疑いはない
見てください! あなたのお蔭で、遂に私はやりましたよ!
どうです!素晴らしいでしょう!これで師を、列聖の殉教者として祀れます!
しかしこれほど喜悦していたアルフレートはカインハーストから戻るやいなや、聖堂街にあるローゲリウス像の前で自決しているのである
目的を果たしたことで生きる意欲を失ったとも、また殉死したとも、自分が獣血に侵され始めていることに気づいたとも考えられる
アルフレートの瞳孔はやや混濁気味のように見える。瞳孔の崩れや蕩けは、獣の病の兆候である |
獣の病に罹患したことに気づいたアルフレートは獣化する前に処刑隊として自らを処理したという説である
しかし、やや気になるのがアルフレートのセリフである
如何にお前が不死だとて、このままずっと生きるのなら、何ものも誑かせないだろう!
誑(たぶら)かす、とはやや場違いな言葉である(誑かす:だましまどわす、あざむくの意)
いったい女王は誰を誑かそうとしたのであろうか
はじめローゲリウスとも考えたのだが、どう考えてもローゲリウスは誑かされているように思えない
誑かされているのだとしたら、ローゲリウスは封印を解いて女王を解放したであろう
しかし実際にはローゲリウスは最後まで女王の間を閉ざし続けていたのである
余談だが、ローゲリウスがミイラ的な姿なのは、血を完全に失うことで穢れた血に侵されないようにするためである
血に宿る獣血の主にとって、ひからびたローゲリウスは操ったり獣化させることのできない存在である
そうであるのならば、女王が誑かしたのは「アルフレート」である
カインハーストの血を引くアルフレートは、不死の女王アンナリーゼから見れば我が子も同然である
故に彼女はアルフレートに事実を伝えたのである
我が一族の末裔よ、と
そして、なぜ我らが宿敵の側にたち同胞を傷つけるのか、と
一方、処刑隊の教義をたたき込まれてきたアルフレートにとって、その事実はもっとも恐ろしいものであった
散々に罵倒し嫌悪し、憎悪してきた相手と自分が同族であることなどとうてい受け入れられないのである
彼はアンナリーゼの言葉を「誑かし」と判断し、不死と知りながら彼女を肉片に変えたのである
なぜなら肉片になれば喋ることはできないからである
そして彼はローゲリウス像の前まで戻ると激しい苦悩の果てに自決したのである
なぜならば、女王アンナリーゼを肉片に変え口を封じるという行為こそが、アルフレートの迷いを示しているからである
もしアンナリーゼの言葉を完全に否定できるのであれば、彼はアンナリーゼを肉片にする必要はないのである
しかしアルフレートはそうせずに、不死と知りつつ口を封じたのである。まるで彼女の口から不都合な真実が語られる事を恐れるかのように
そのことに考え至ったアルフレートには自決するしか道は残されていなかったのである
なぜならば、いくら否定しようとも彼の心は自分がカインハーストの民であることを否定しきれなくなっていたからである(その意味ではアンナリーゼに誑かされている)
血族の自分が血族を狩る処刑隊であるという矛盾に、半身が引き裂かれた彼は、ついに自決するに至ったのである
このとき彼はローゲリウス像の前で自決しているが、これはローゲリウスに対して二心がないことを示すやり方である(殉死とも言えるが)
すなわちアルフレートは自ら死んでみせることで処刑隊への忠誠を示したのである
面白い考えでした。ありがとうございます。
返信削除アルフレート君の瞳が溶け気味だという指摘は新鮮でした。
アルフレート君が攻撃された時の「嫉妬、嫉妬なんですか?」は、アンナリーゼを肉片に変えた作業を独占した快楽とその優越感に根ざした発言ともとれるわけなのですね。