2020年1月19日日曜日

Bloodborne 手記11 『未知なるカダスを夢に求めて』:追記「幼年期のはじまり」

未知なるカダスを夢に求めて


『未知なるカダスを夢に求めて』(原題:The Dream-Quest of Unknown Kadath)はH・P・ラヴクラフトの長編冒険小説である

ラヴクラフトは言わずと知れたクトゥルフ神話の創造者(大雑把に言って)であり、そのクトゥルフ神話が描く宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)がブラッドボーンに強い影響を与えていることは、宮崎英隆氏のインタビューでも明言されている

※ブラッドボーンはゴシック・ホラーからコズミック・ホラーへの跳躍的移行が描かれるが、ラヴクラフトという作家自身、ゴシック・ホラーの流れを汲みコズミック・ホラーを創造(大雑把に言って)するというブラッドボーンの物語と似た経緯を辿っている

小説の概要をざっくりとまとめると、他のラヴクラフト作品で触れられた地名や人物、神々などが多く登場する総集編のような作品である(いくつか語弊がありそうなので詳細はWikipedia



夢の国(ドリームランド。幻夢境などとも訳される)

夢の国は一種の別世界であり、「夢見る人」だけが到達することができるという

小説の主人公であるカーターもまた「夢見る人」であり、夢見る国にあるというカダスを目指して出発する。その波瀾万丈の旅路を描いたのが『未知なるカダスを夢に求めて』である

そしてこの「カーターによる夢の国の旅」こそが、ブラッドボーンの物語の骨子であり、メインストーリーを貫くプロットラインなのではないか、という仮説を元に、以降は『未知なるカダスを夢に求めて(以下『カダス』)』のストーリーに沿って、そのブラッドボーンへの影響を考察していきたい



魔法の森

夢の国に侵入するためには、浅い眠りのなかで階段を七十段くだり神官のいる「炎の洞窟」を通り抜け、さらにそこから七百段の階段を下り、「深き眠りの門」に達しなければならない。その門をくぐると、魔法の森と呼ばれる奇妙な森が広がっているという

※神官のいる「炎の洞窟」をオープニングの血の医療者と燃え上がる獣に重ねられるかもしれないが、無関係な可能性の方が高いように思う
※構造的には神官(医療者)/炎というふうに比較できるかもしれない


階段を下って神官(合言葉の門番)のいる炎の洞窟(障害/合言葉)を乗り越えて、さらに階段を下った先が、魔法の森(禁域の森)である

階段合言葉の門番

さらなる階段を下ると

禁域の森に到着

ブラッドボーンにおいて、悪夢の表象がはっきりと姿を見せはじめるのは「禁域の森」からである

それまではゴシック・ホラーの範疇であったのが、禁域の森に到達したあたりから、コズミック・ホラーの様相を陰に陽に呈し始めるのである

魔法の森夢の国の入り口であるように、禁域の森悪夢の入り口なのである


さて、魔法の森には、巨大な平石が無数に立ちならび、森の中央には巨大な環状列石が残っているという
石碑/平石

禁域の墓所(森の中央)には石碑が環状に建ち並んでいる

平石には鉄の環がついているとされるが、禁域の森のそれにも「環(肉の環)」がついている
肉の環

魔法の森にはに棲む何者かが落としたから生えのびた、他とは異なる病んだ木があるとされ
テキストに「隕石」とほのめかされている扁桃石、その形をした樹木

燐光放つ低い通路を縫うように、またグロテスクな菌類目印に道をたどって進むと記されている
この蛍光は目印となる

ある種の菌類を彷彿とさせる燐光を放つ生物

この巨大な平石は、禁域の森のものは「旧神の石碑」(アートワークスより)であり、魔法の森のものは巨人ガグが外なる神に生贄を捧げたとされる環状列石の残骸である

巨人ガグの特徴として縦に裂けた口が挙げられる(Wikipedia

外見は顔面を縦に裂くように口があり、腕は4本あり、身長は6mほどという。視覚、聴覚が優れるが、言葉は話せず、表情で意思疎通を交わす。かつては地上で人間を食べ、外なる神に生贄をささげていたが、地球の神々によって地底へと追放された。 
悪夢の辺境には、巨人ガグと共通する特徴を持つローランの銀獣が棲息している

ブラッドボーンのそれは顔を横にすることで、口が縦に裂けているように見せている



ガグの国と採石場

悪夢の辺境には禁域の森のそれと同じ石碑が建ち並んでいる

つまりこれは禁域の森悪夢の辺境同じ文化的背景が存在することを示しているのだが、この2つを繋ぐ存在こそ、『カダス』に登場するガグであり、そのオマージュたるローランの銀獣なのである

蕃神とナイアルラトホテップ崇拝の罪により魔法の森を追放されたガグは地下都市を築いたとされる

主人公のカーターは墓所からガグの地下都市に侵入することになる
石碑/墓石群

しかしながら、悪夢の辺境は地下都市ではないし都市と言うわりには建造物の数も少ない

そこはやはり辺境なのである

しかしなぜ辺境であるにも関わらず地面に穴が穿たれ、また上下を繋ぐエレベーターが存在するのか

周囲とは文明の異なる技術によって造られているように見える

それは悪夢の辺境が『カダス』に登場する採石場をモチーフのひとつにしているからである

『カダス』によれば、インクアノクという都市の北方の荒野には、縞瑪瑙の採石場があるという

足元にはおびしい数の岩の断片が散乱し、目路の限りまで縞瑪瑙の断崖が続き、鈍い灰色の空の彼方に不気味な灰色の山脈が見えるという
遙か彼方に見えるのは「縞瑪瑙の山脈」だろうか

また底があるのかもわからない深い穴蔵があり、崩れやすい黒岩や小石の斜面は登ることが危険だという

しかしそこにはかろうじてがあり、旅人はそこを通り抜けていくのである

ケルンは旅人の目印である


鉱山や採石場の底に毒が溜まるという観念はSEKIROにも見られた


つまるところ悪夢の辺境とは採石場とガグの地下都市を融合させたようなエリアなのである



コスの塔

ガグの地下都市には、コスの塔がそびえるという

コスの塔はガグの地下都市と魔法の森とをつなぐ塔であり、「悪夢の辺境」における「アメンドーズの寝所」にある塔と同じ機能を有している(「寝所」のランプにより狩人は狩人の夢に戻る)
2つの世界を繋げる機能をもつ塔


コスの塔とは、コスの印を備えた塔のことであり、コスとは幻夢境の神、夢の神、旧支配者とも呼ばれる神である

さて、ブラッドボーンに登場する上位者「ゴース」は英語版ではKosとつづり、コスと読める

狩人の悪夢にゴースが登場するのは、彼女がコスであり、夢の国の神(つまり上位者)であるからである



インスマウス

夢の国にはセレファイスという壮麗な都がある。この都に君臨しているのが、カーターの友人であり「夢見る人」でもあるクラネス王である

彼はセレファイスの東の地域に故郷を再現したという

そして近くの海岸には、勾配急な丸石敷きの道を配したささやかなコーンウォールの漁村をつくり、典型的なイングランドの容貌をもつ者たちを住まわせ、なつかしく思いだされる古のコーンウォールの漁師たちのなまりを教えこもうとなさいました(『ラヴクラフト全集』)

この漁村の名は、『セレファイス』では「インスマウス」とされている

※『インスマウスの影』に登場するマサチューセッツ州のインスマウスとは別の場所である

『インスマウスの影』においてインスマウスという名の漁村が「深きものども」に侵略(侵食)される物語はあまりに有名である

それと同名の漁村が「夢の国」にもあり、ブラッドボーンの悪夢には、「インスマウス」と同じ災厄に見舞われた漁村が登場する

悪夢に漁村が登場するのは脈絡のないことではなく、同名の漁村が『カダス』にも登場しているからなのである

つまり、『カダス』を下敷きにしているからこそのブラッドボーンにおける漁村の採用とその惨劇なのである

※ちなみに、漁村にいる半漁人化した村人たちのIDはDeepOnes(深きものども)である



カダス

さて、『カダス』の主人公カーターの最終目的地はカダスである

カダスはレン高原のさらに北方にある縞瑪瑙の城であり、そこにはナイアルラトホテップとノーデンスに保護された地球の神々が住むとされている

『カダス』には縞瑪瑙がよく登場するが、その多くは「」の縞瑪瑙である(インクアノクなどの黒で統一された街並み)

ブラッドボーンにおいては、狩人の最終目的地は赤子のいるメルゴーの高楼である

高楼という名だがそれは形状的に「城」であり、乳母に保護されたメルゴーが住んでいる

『カダス』においてカダスが「悪夢めいた縞瑪瑙の城」と表現されるように、メルゴーの高楼があるのも「メンシスの悪夢」である

悪夢の辺境から臨めるメルゴーの高楼(カダス)



月の魔物

順序が前後するが、夢の国にはレン高原があり、またそこからやって来たという商人たちがいる
レン人とそれを使役する月の魔物(ムーン・ビースト)である

月の魔物とは言うまでもなく、ブラッドボーンのラスボスである「月の魔物」である(同名であるが、設定まで同じかは不明)

レン人と月の魔物の関係性は、ゲールマンと月の魔物の関係性と類似したものかもしれない



未知なるカダスを夢に求めて

以上のようにブラッドボーンの狩人の冒険は、悪夢や夢が関わる箇所については『カダス』を下敷きにして構成されている

禁域の森(魔法の森)→悪夢の辺境(ガグの地下都市、採石場)→メンシスの悪夢(カダス)→漁村(インスマウス)→月の魔物(ムーン・ビースト)

インスピレーションの源を探ると上記のようになると思われる

他のエリアについては検討中である。ただし、ミコラーシュ覚醒世界における死と、夢の世界における生の仕方は、『カダス』のクラネス王と同一のものである

※クラネス王は覚醒世界では死んでいるが夢の国では王である

インクアノク(インガノック)やセレファイスは、ヤーナムやヤハグルを比較できるかもしれない

前回考察した『フィーヴァードリーム』がブラッドボーンにおけるゴシック・ホラー側の極であるのならば、『未知なるカダスを夢に求めて』は、コズミック・ホラー側の極といえるのかもしれない



幼年期のはじまり

エンディングの1つである「幼年期のはじまり」は、アーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』のオマージュであることは、「はじまり⇔終わり」というもじりからも分かる

なぜ幼年期なのかは、このエンディングの際の主人公の状態が関係していることからなんとなく理解できる

しかしながら、「幼年期」という言葉は『未知なるカダスを夢に求めて』にも頻出する言葉である

そもそもカーターが幻夢境に来たのは、「失った夢の土地を欲し、幼年期の日々に憧れた」からであり、クライマックスにおいてナイアルラトホテップはカーターに対してこう言う

「そなたはそなた自身の幼年期のささやかな空想を基に、かつて存在したいかなる幻よりも美しい都を作り出したのだ。」(『ラヴクラフト全集6』)

もしブラッドボーンが『未知なるカダスを夢に求めて』を下敷きにしたものであるのならば、その最終地点は幼年期に戻ることなのである

ゆえに、すべての目的を達成した狩人は「幼年期のはじまり」に到ったのである


蛇足

前回の『フィーヴァードリーム』に続き、メタ考察である

予定ではカインハーストの考察をする予定だったのだが、『フィーヴァードリーム』の影響を薄れさせたいのと、「嘆きの祭壇」の展開を再確認したいので後回しにすることにした

本音では作中に限定した物語の考察をしたいのだが、インタビューにてコズミック・ホラーという単語を出された以上は、それも公式情報として考慮しなければならず、こうなった次第である

※『フィーヴァードリーム』も名前を出している以上は公式情報として扱わねばならないだろうという考え

実際のところ、『カダス』はモチーフに過ぎず、『カダス』の設定がすべてそのままの形でブラッドボーンに採用されているわけではない

あくまでもこの考察は作中の物語を再構成するための補足情報にはなり得るかもしれない、といった程度のものである

作中の物語を、作中の情報をもとに再構成することもおそらくは可能であろう。これはその際の指針となるかもしれないメタ考察である

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