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2021年1月28日木曜日

Bloodborne 考察まとめ10-2 オドン(伝承編)追記:ゴースあるいはゴスム

モチーフ編ではオドンのモチーフをオーディンと仮定して考察を展開した


今回はそれにより得られた考察により、作中の伝承がどのように説明できるのかを考察したものである



月光の聖剣

さて、月光の聖剣は青い月の光を纏う


月光の聖剣

かつてルドウイークが見出した神秘の剣

青い月の光を纏い、そして宇宙の深淵を宿すとき

大刃は暗い光波を迸らせる


それは彼だけの、密かに秘する導きだったのだ


オドンの狩人としてルドウイークが求めたのは、師と同じ力、すなわち青い光だったのである。何よりオドンの狩人である彼を導けるのはオドンだけである


ああずっと、ずっと側にいてくれたのか

我が師

導きの月光よ…(ルドウイーク)

 

しかしその青い光にはオドン粒子が含まれている

寄生虫の卵という粒子である


青い月光を見続けた彼の眼に寄生虫が寄生し、光の小人が見えるようになったのである


「導き」

目を閉じた暗闇に、あるいは虚空に、彼は光の小人を見出

いたずらに瞬き舞うそれに「導き」の意味を与えたという

故に、ルドウイークは心折れぬ。ただ狩りの中でならば


寄生虫であってもそれはオドン由来の神秘の寄生虫である。神秘の寄生虫がもたらす啓蒙が獣性を抑制することは、啓蒙/獣性システムからも明らかである


ルドウイークの心が折れなかったのは、眼の寄生虫がもたらす啓蒙により、獣性を退けていたからなのかもしれない


※月光の聖剣はファンサービスではなく、オドンという設定を剥き出しのまま出してきた可能性がある


ちなみにオーディンにはスレイプニルという愛馬がいる。足が6~8本あるとされ、非常に速く走る名馬である


ルドウイークの足の数は分岐をどう解釈するによるが、8本あるように見える



ゲールマン

ゲールマンが月に祈ると月が青い光を帯び、直後に青い光による大爆発が起きるのは、主であるオドンに祈ることによりオドンの力を召喚しているからである


通常時は月は白~黄色である

ゲールマンが祈りを捧げると月は青く発光する

そして最後には青い光の爆発が起きる

この爆発もまたゲールマンが狩人すなわちオドンの戦士であるために行使できる力なのである



エーブリエタース

またエーブリエタースと聖歌隊空を見上げ星からの徴を探しているという


聖歌装束

見捨てられた上位者と共に空を見上げ、星からの徴を探す

それこそが、超越的思索に至る道筋なのだ


そのエーブリエタースのいる嘆きの祭壇の上方からは「青い光」が降り注いでいる


この青い光には波であるオドン粒子であるオドン寄生虫の卵)が含まれる。聖歌隊はこのうち「波」の側面だけをすくい取ろうとしているのである


しかし波と粒子を分離するのは不可能である


それゆえに彼らは光そのものを見ないことにしたのである。彼らが目隠し帽子をかぶるのは、光を見ないようにするためである



月見台の月

乳母の月見台から見える青白い月には奇妙な点がある



月見台から見下ろすと、は遙か彼方に見える山脈の手前にある


つまりこの青白い月は現実の月ではなく、地上すれすれにまで降りてきた月のようなものなのである


この月を呼び寄せたのは「メンシス(月)学派」である


ヤハグルのメモにはこうある


狂人ども、奴らの儀式が月を呼び、そしてそれは隠されている

秘匿をやぶるしかない(隠し街ヤハグルのメモ)


一読するとこれは「赤い月」を指しているように思える。しかし、赤い月を呼び寄せたところで、世界が獣に塗れるだけである


それはミコラーシュの思想とは真逆である


我らに瞳を与え、獣の愚かを克させたまえ(ミコラーシュ)


つまり、メモに言われた「」とは「赤い月」のことではない

そしてメモは月が一つであるとも言っていない


つまるところ、月は2つあったのである


2つの月とは、赤い月と青ざめた月である


彼らの目的は、メルゴーの泣き声を餌にして青い月と赤い月という2つの月を呼び寄せることだったのである


目的が達成されたあかつきには、青い月と赤い月が融合を果たし、全世界に青ざめた血の空が広がり、夢が現実となり、神秘と血が交わって無数の上位者の赤子が誕生し、同数の3本目のへその緒が得られ、人々は3本目のへその緒により、「瞳を得る」のである


儀式はもうすぐ終わる

夢が現実に、我らに瞳をもたらすのだ!(ミコラーシュ未使用セリフ)


そしてまた青く光る月は、青く輝く湖とも、神秘の光を湛える宇宙とも呼ばれるのである


泥に浸かり、もはや見えぬ

宇宙よ!(ミコラーシュ)



ゴースあるいはゴスム

※動画のコメント欄に、ミコラーシュが祈っているのはオドンではなくゴースあるいはゴスムなのではないか、という指摘をいただいたのでそれに関する補足


「ゴースあるいはゴスム」の英文は「Kos, or some say Kosm...」である

このうちのKosmを「Kosmos, Kosmic→Cosmos, Cosmic→宇宙」と解釈する説がある


この説に従うのならば、ミコラーシュはゴースと共に「宇宙(Cosmos)」に祈っていることになる


またこれは海外ではほとんど通説のようになっている説であるが、実は開発の初期段階において、今エーブリエタースと呼ばれているボスは「Kos」と呼ばれていた

※残念ながら確固たるソースは見つけられなかったが、海外の有力考察者たちのなかでは通説のようになっている


つまるところ、Kos, or some say Kosm...を以上の解釈により読み替えるとしたら、次のようになる


ああ、エーブリエタース、あるいは宇宙

我らの祈りが聞こえぬか


エーブリエタースは宇宙の娘であり、宇宙とはオドンのことである


よってさらに読み替えるとしたら


ああ、オドンの娘、あるいはオドン


になるのである。つまりミコラーシュはオドンの娘とオドンに対して瞳を授けてくれと祈っていることになる



青ざめた月

3本目のへその緒にある「青ざめた月との邂逅」とはオドンとの邂逅のことである


3本目のへその緒(古工房)

すべての上位者は赤子を失い、そして求めている

故にこれは青ざめた月との邂逅をもたらし

それが狩人と、狩人の夢のはじまりとなったのだ


青ざめたと青ざめた似て非なるものである


青ざめた月がオドンであるのに対し、青ざめた血は神秘と獣性の入り交じった血をもつ月の魔物のことを指しているからである


青ざめた月との邂逅により、狩人と狩人の夢がはじまったとは、オドンとの邂逅により、オドンの戦士である狩人が生まれ、そして狩人の夢というヴァルハラ宮殿に連れてこられたことを言ったものなのかもしれない


使者とは狩人を狩人の夢に連れてくる者、すなわちフロム解釈によるヴァルキューレなのかもしれない



月の香りの狩人

主人公の放つ香りに言及するNPCが数名存在する(孤独な老婆も未使用セリフで言及しているが今回は省略する)


血の女王アンナリーゼ

…貴公、訪問者…月の香りの狩人


オドン教会の住人

…ん、あんた…もしかして、獣狩りの…狩人さんか?

すまない、香のせいで、匂いがわからなかった

ここは安全だ。獣避けの香もしっかりと焚かれてる


偽ヨセフカ

…あら、月の香り

あなた、どうやって入り込んだのかしら?


ヤーナム市街の少女(妹)

…あなた、だあれ?

知らない声、でも、なんだか懐かしい臭いもするの


ガスコイン

匂い立つなあ…

堪らぬ血で誘うものだ


娼婦アリアンナ

あら、あなた、おかしな香り

でも、よかったわ。獣も血も、そういう匂いはうんざりなの


まずガスコインについては血の臭いに反応していることが、実装セリフと未使用セリフの繋がり方で分かる

…どこもかしこも、獣ばかりだ(実装セリフ)

堪らない、血の匂いじゃないか…(未使用セリフ)


主人公狩人の放つ香りが獣や血の匂いではないことは、アリアンナのセリフからも明らかである 


でも、よかったわ。獣も血も、そういう匂いはうんざりなの


獣や血の匂いではないからこそ、「でも、よかったわ」と安堵の言葉を漏らすのである


やや場違いなのはオドン教会の住人である


オドン教会の住人

…ん、あんた…もしかして、獣狩りの…狩人さんか?

すまない、香のせいで、匂いがわからなかった

ここは安全だ。獣避けの香もしっかりと焚かれてる

 

狩人は獣避けの香によって分からなくなる匂いを放っているようである


獣避けの香とは、獣が危険を感じて近寄ろうとしない匂いである。すなわちこのゲームにおける獣性の反対の属性、神秘の香りである


その獣避けの香が焚かれているのが「オドン教会」であることは意味深である


アンナリーゼ、偽ヨセフカ、アリアンナ、少女(妹)に関しては、カインハーストの血を引いていることから、オドンの狩人の匂いが分かると考えられる


少女については、父親また祖父が獣狩りの狩人であったことから、その匂いに反応したとも考えられる


ということで月の香り、とはっきり表現したのはアンナリーゼと偽ヨセフカである


さて、上述したがオドンとは青ざめた月である(厳密には月を青く染める


そして狩人はオドンの戦士として獣狩りの夜に送り込まれる。そのオドンの戦士の香りを彼女たちは月の香りと表現したのである


なぜならば「月の香り」とは、青ざめた月の放つ香りであり、月を青く染める青い光の香りであり、オドンの香りだからである


オドンの戦士であるが故に狩人は月の香りを纏っているのである


極めて濃密な獣血をもつ血族たちには、その神秘の匂いははっきりと月の匂いとして感じられるのである(このことから、偽ヨセフカの血は純潔に近いとも考えられる)



オドンのカレル

オドンは青い光であるという。しかしながら、オドンのカレル文字は「赤」(血)で描かれている。(「導き」や「瞳」などは青い光で描かれている)


また滲む血は上質の触媒であり、それこそが姿なき上位者オドンの本質である、という文面からは、滲む血=オドンというような印象を受ける


「オドンの蠢き」

人であるなしに関わらず、滲む血は上質の触媒であり

それこそが、姿なき上位者オドンの本質である

故にオドンは、その自覚なき信徒は、秘してそれを求めるのだ


しかし姿なき故に声のみの存在であると言われるオドンが血液、つまり物質であるはずはない(光には質量はない)


「姿なきオドン」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

上位者オドンは、姿なき故に声のみの存在であり

その象徴となる秘文字は、水銀弾の上限を高める


端的に言えば、オドン関係のカレルが赤く描かれるのは、姿なき故にオドンを宿した宿主を描くしかないからである


オドンとは血の遺志のことでもあるからである



Bloodborne 考察まとめ10-1 オドン(モチーフ編)

はじめに

前回の「考察まとめ10 オドン」が追記に次ぐ追記によりカオスになってしまったので、モチーフ編と伝承編に分けた


長くなるので「モチーフ編」としたが、本考察の正式なタイトルは「オドンのモチーフをオーディンと仮定した場合の一考察」である


オドンの不可思議な性質を、オーディンという多面的な神を軸にして考察するものであり、あくまでも仮定であり決定でないことを先に述べておく


こうした事情からクトゥルフ神話に関してはまったく触れていないか、言及はわずかである



オドンという名前


本作における名前の重要性は宮崎氏がインタビューで明らかにしている


しかし、結局、私はすべての名前を選びます。私が監督したタイトルはいつもそうだった。もちろん、名前はあなたが描きたい世界の非常に重要な部分ですが、それ以上に、私は名前を思いつくのが大好きです。私はちょっとしたネーミングオタクだと思います。それは私にとっていつも楽しいです。私は、単語の起源、表現でどのように聞こえるか、地域の考慮事項など、すべてを考慮します。(インタビューより)


本作に登場するNPCの名前はネーミングオタクを自認する宮崎氏が決定したものなのであり、その決定は、語源、響き、地域性などを考慮に入れてなされたものなのである


作中でも重要な存在であるオドンという名前にも、宮崎氏のこだわりが反映されているはずである


オドンの「語源」とは何か、オドンという語にはどういった「響き」が感じられるか、またオドンという名前にはどのような「地域性」が見いだせるのか


これらの疑問に対する一つの解釈として、「オドン=オーディン説」をにして考察を展開したのが本考察である



オーディン

さて、オドンは多面的かつ複雑な存在であり一面的な解釈を拒むようなところがある


こうしたオドンの多面性モチーフの多面的な機能を受け継いだものである


オドンのモチーフとは、オーディンである


オーディンには170以上の別名やあだ名があるという。オーディン自身がすでに多面的な機能をもつ神である


しかしその機能をすべて挙げていくと考察が冗長になるので、ブラッドボーンに関連する要素だけを挙げていく



1.吊された神

オーディンはユグドラシルの樹に自らを九夜のあいだ吊すことでルーン文字の知識を獲得したという


このことから、オーディンは「吊された者の神」(絞首刑にされた者の神)とも言われ、後のタロットカード「吊された男」のモチーフにもなる


この吊された男と同じ構図を持っているのが「狩人の徴」である


そのうえ狩人の確かな徴は、「ルーン」であるともいう

 

狩人の確かな徴

狩人の脳裏に刻まれた逆さ吊のルーン

これを模し、よりはっきりとしたヴィジョンを可能にする呪符


逆さ吊であり、またそれはルーンである。テキスト的にも図像学的にも、狩人の徴が表わしているのはオーディンなのである


つまるところ、狩人の徴(ルーン)とはオーディンの徴なのである


また狩人の徴は、アイルランドで用いられる「眠りのルーン」を上下反転させたものと類似している(『エッダ』147ページ。訳注2)


この物語の中で眠りのルーン解くことができないようにしたのが、オーディンである


※もし仮に作中にカレルの死体があったとしたら、それは首を吊られているか逆さ吊りにされているはずである(旧市街などに逆さ吊りにされた遺体が見られるが関係は不明)



2.ワイルドハント

ワイルドハントとは以下のようなものである


伝説上の猟師の一団が、狩猟道具を携え、馬や猟犬と共に、空や大地を大挙して移動していくものであるといわれている(Wikipedia)


このワイルドハントの首領にして猟師たちを率いるのが「オーディン」である


そしてまたこの狩猟団は次のような災厄をもたらすとされる


この狩猟団を目にすることは、戦争や疫病といった、大きな災いを呼び込むものだと考えられており、目撃した者は、死を免れなかった[2]。他にも、狩猟団を妨害したり、追いかけたりした者は、彼らにさらわれて冥土へ連れていかれたといわれる[5]。また、彼らの仲間に加わる夢を見ると、魂が肉体から引き離されるとも信じられていた(Wikipedia)


オーディンの徴(狩人の徴)を持ち、夢に囚われ赤い月の夜(ワイルドハントの夜)に「狩り」をしなければならない狩人(猟師)とは、まさしくこの狩猟団の猟師の一人である


※関係ないがウィッチャー3にもワイルドハントは登場する


また、オーディンに祝福された戦士を「ベルセルク」という。狩人がしばしば獣の力を利用し、一時的に獣化しさえするのは、オーディンの戦士「ベルセルク」の性質を受け継いだからである


これが狩人が狩人と呼ばれ、オーディンの徴を持ち、夢と関わり、一時的に獣化する力をもち、災厄に巻き込まれなければならない理由である



3.メルクリウス

オーディンとローマ神話のメルクリウス同じ神としたのが1世紀のタキトゥスである(『ゲルマーニア』)


またメルクリウスヘルメスとも同一視されるが、ヘルメスは錬金術の祖とされる神である


メルクリウスマーキュリーとも読み、錬金術において水銀を意味する(水銀の英名はmercuryである)


水銀とオドンの関係は主にカレル文字に登場している


「姿なきオドン」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

上位者オドンは、姿なき故に声のみの存在であり

その象徴となる秘文字は、水銀弾の上限を高める


「オドンの蠢き」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

「蠢き」とは、血の温もりに密かな滲みを見出す様であり

狩人の昏い一面、内蔵攻撃により水銀弾を回復する


その水銀弾とは、水銀に狩人自身の血を混ぜたものである


水銀弾

通常の弾丸では、獣に対する効果は期待できないため

触媒となる水銀に狩人自身の血を混ぜ、これを弾丸としたもの


狼男や吸血鬼を殺す場合、使われるのはふつう「銀の弾丸」である


しかし本作では銀ではなく「水銀」である


なぜならば、オーディンの戦士である狩人はまたメルクリウスの戦士でもあり、メルクリウスの力を象徴する「水銀」の力を行使できるからである


水銀はオドンのすべての側面を説明するわけではないが、しかしメルクリウスとしての一面を示したものなのである



4.オーズ(オド、オード)

オーズは北欧神話の女神フレイヤの夫である(Wikipedia)


長旅に出ることや、オーズ/フレイヤオーディン/フリッグという名前の類似からオーズをオーディンと同じ神とする説がある


オーズとフレイヤの2人には、主神オージン(オーディン)・フリッグ夫婦と少なくない共通点がある。たとえば、オーズとオージン、フレイヤとフリッグ(別名フリーン)というふうに名前が似ていること。オーズとオージンがともに旅に出ることが多いこと。また、戦死者は半分がオージンのものになるが、残る半分をその妻フリッグではなくフレイヤが持っていく。これらのことから、オージンとフリッグがそれぞれオーズとフレイヤという名で信仰されていた時期があったか、もしくは、それぞれの若い年代の名前であったと考える研究者もいる(wikipedia)


さて、オーズという名前には「激情」という意味の他に「不思議な酩酊に満たされた者」という意味もある(『北欧とゲルマンの神話事典』)


本作には「酩酊」というラテン語の名前を持つ者がいる


エーブリエタースである


彼女の父親が誰かは分かっていないが、彼女は見捨てられた上位者と呼ばれ、そして見捨てた者を探すように宇宙を見上げ続けている


彼女を見捨てた者が彼女の父親であるとするのならば、彼女は父親の名を受け継いだのである


そして彼女が見捨てられたのは、父親が「長い旅」に出たからである


その父親とはオーズつまり狩人の首領であるオドン(オーディン)のことである



5.好色

女嫌いとも女たらしとも呼ばれるオーディンであるが、実際に彼は女神フリッグの他に女巨人との間に子供を何人も作っている


※賢者の血から造られた霊酒を飲むために女性をたらし込んだりもしている


予言者に「愛息バルドルの仇を討つためにはリンダを言う女に息子を産ませなければならない」と告げられたオーディンは、リンダを狂乱させることで望みを叶える


狂乱と妊娠は偽ヨセフカやアリアンナに見られた症状である


好色というのはギリシャの主神であるゼウスとも共通する(参考→ダナエ



6.オドの力

吸血鬼による吸血現象を説明する説の一つとして「オド」がある


吸血鬼は吸血が目的で血を吸っているのではなく、犠牲者のもつ「オド」を吸っているのだというのである


オドの力を提唱したのは、カール・フォン・ライヘンバッハ(1788~1869年)である(Wikipedia)


オーディンにちなんで「オド」と名づけられたこの神秘的なエネルギーは、宇宙に存在するものすべてのものから発出している物質であるという


ドイツのカール・フォン・ライヘンバッハは、宇宙に存在するすべてのもの(特に星々や惑星、水晶、磁石、人間など)から発出している物質が存在すると考え、北欧の神オーディンにちなんで「オドの力」と名づけた[1]。オドの力には重さも長さもないが、計測可能であり、観察可能な物理的効果を及ぼすことができるとした(wikipedia)


この物質は重さも長さもない、磁気のようなものであるという(光も磁気の一種である)


カール・フォン・ライヘンバッハは1845年に、 電磁界とよく似た特性を示す「オドの力」と呼ばれるフィールドの理論をドイツの一流の学術誌の1つ『薬学及び化学の年報(Annalen der Chimie und Pharmacie)』で発表した。オドとはもともと様々な結晶構造を持つ物体から発散されているいまだ知られざる自然の力で、ライヘンバッハは、オドは磁極のように互いを引きつける力の特性を有しており、また、磁極もオドと関連する極性を有しているとし、オドが人間の身体に水晶の力に似た極性を生み出すことを発見したと主張した。ライヘンバッハの主張によれば、身体の生命力には磁石のような極性があり、身体の左側が負で右側が正である。さらにライヘンバッハは、オドが「動物」や「植物」からも発散されており、太陽や月などの星々からも発散されていると発表した。(wikipedia)


※「右回りの変態」ならびに「左回りの変態」は生命力のもつ極性(左側が負、右側が正)をモチーフにしたものとも解釈できる


同時代フランスの魔術師エリファス・レヴィは『大いなる神秘への鍵』の中でオドについて以下のように述べている


「すべてこれらの驚異は、ヘブライ人ならびにフォン・ライヒェンバッハ男爵がオドと呼び、われわれがマルティネス・パスクヮリス一派とともに星の光と名づけ、ミルヴィーユ伯が悪魔、錬金術師たちがアゾットと呼んだ、さる比類のない動因によって成就されるのである」(『吸血鬼幻想』種村季弘)


また種村季弘によれば、オドは錬金術でいう飲める金(Aurum Potabile)である。そしてのヘブライ語の語源(アウルム)である


人間はこのような宇宙的な光につつまれており、吸血鬼はこの光を吸うのだという


生ける屍である吸血鬼がオドの力を欲するのは、オドが生命力そのものだからである


さて、エーブリエタースならびに聖歌隊が待ち望む「星の徴」を「星の光」と解釈するのならば、とはすなわち「オド」のことである


そしてオドとは元をたどれば、やはりオーディンなのである



7.ヤームナヤ文化

オーディンは北欧神話の主神である(諸説あり)


その北欧神話を伝承してきたのはゲルマン系の民族であるが、彼らの発祥地ドナウ川とウラル山脈の間に広がる広大な地域である(これも諸説あり)


そこに栄えた文明を「ヤームナヤ文化」という(wikipedia)※ヤムナ文化ともいう


ヤーナムとヤームナヤ、似ているがモチーフであるかは断定できない


だが本作にも強い影響を与えたと思われる『フィーヴァードリーム』という吸血鬼小説がある


この小説に登場する吸血鬼(夜の人々)の故郷は同じウラル山脈付近であるとされている



オドン

オドンとは上述したようなオーディンの様々な側面を組み合わせて創造された神格である


それはワイルドハントの夜狩猟団を率いて狩りを行ない、獣化や水銀や生殖と密接に関わり、また神秘学的に言えば、「宇宙の光」である


ブラッドボーンにおいてもそれは、赤い月の夜狩人を率いて狩りを行ない、獣化や水銀や生殖と密接に関わり、「宇宙の光」であるものである


この宇宙の光とは星の光(徴)であり、また月を青く染める光でもある


ゲールマンが両手を広げると月が青い光に染まり次の瞬間大爆発を起こすが、オーディンの徴を持つ狩人が祈る対象は「オーディン」すなわち「オドン」である


月が青い光に染められる

しかしながら、オドンは姿なき故に声のみの存在である


「姿なきオドン」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

上位者オドンは、姿なき故に声のみの存在であり

その象徴となる秘文字は、水銀弾の上限を高める


故に月そのものではない


それは物質としての月ではなく、月を青く染めているもの、つまり「青い光」である


あるいは宇宙のまるい穴から見える青い光の世界を「青ざめた月」と表現したものとも解釈できる


青い光は宇宙からの神秘の光であり、月を青く染めるが無形であり、また「」でもある


なぜならば「」とは空気の振動、すなわちであるが、もまた「」だからである


※姿なきオドンは英語版では「Formless Oedon」である。Formlessとは「形のない」や「無定形の」といったニュアンスである


また上位者の声とは、「見える」ものなのである


ああっ! あああっ! それが、形なのですね

導きよ、あなたの声が見えました。はっきりと歪んで、濡れています(実験棟の患者アデライン)



オドンの粒子

※この項は「考察まとめ10 オドン」のコメント欄にいただいたぽ氏オーディン粒子説がもとになっている


は科学的には粒子の性質も併せ持つ


オドンである青い光もまた波と粒子の性質を併せ持っている


けれどもオドンは「姿なき」存在であったはずである。波の側面はともかく粒子は物質のように思える。これはどういうことか?


オドの力を提唱したカール・フォン・ライヘンバッハによれば、オドの力は重さも長さもない磁気のようなものであるという


重さも長さもない、つまり姿がないのである


このように青い光のうち「声(波)」はオドンである。だがオドンには粒子の側面も存在する


それは「オドン粒子」と呼べるものである


光の粒子フォトンと呼ばれるように、またボーズ粒子ボソンと呼ばれるように、そして音子フォノンと呼ばれるように、素粒子には特有の命名規則がある


つまり「種類+オン」である(この命名規則の理由は筆者には不明である)


オドン粒子、すなわち「オーディンの粒子」をこの命名規則に従って命名するのならば、「オドン」という「響き」になるのである


(このオドン粒子説はぽ氏のコメントを参考にさせていただいた。ありがとうございます)



遺志

さてオドンが青い光でもあるということはすでに述べた


しかしそれではオドンを説明するのに不十分である


上で吸血鬼は血と共にオドを吸うのだと述べた。つまりオドの力は血に宿っているのである


本作においても血に宿る神秘的エネルギーが存在する


遺志である


遺志は狩人の力となる神秘的エネルギーであり、遺志を力に変えることが夢に依る狩人の能力でもある(人形を介して)


死血の雫

夢に依る狩人は、血の遺志を自らの力とする

使者に感謝と敬意のあらんことを


遺志は血に宿り、そして声を響かせている


英語版で血の遺志はBlood echoと表記される。echoとは「こだま」や「反響」を意味する英単語である


すなわち「」である


要するに遺志とはオドンの一側面であり、モチーフであるオーディンのオドの力としての側面を受け継いだものなのである(ただしそれもまた一側面に過ぎない)


カレル文字「月」が更なる血の遺志をもたらすのは、遺志としてのオドン青ざめた月としてのオドンの繋がりによるものである



隻眼その他

神話によればオーディンは隻眼であるという。知識を与えてくれるミーミルの泉の水を飲むために、巨人に片目を渡したからである


本作に当てはめるのならば、神秘を獲得する代わりに瞳を失う、つまり瞳が寄生虫に寄生されることを意味するのである


故にシモンは両目を包帯で覆っているのである


聖歌隊が目を覆うのも同じ理由からである。思索による超越的思考の獲得を目指していた彼らにとって、寄生虫のもたらす神秘を得ることは邪道だったのである


より神話的に解釈するのならば、空に浮かぶ月こそがオーディンの失われた片眼なのかもしれない


またミーミルは後に首をはねられるが、オーディンがそれに防腐処理を施し、ことあるごとにその首に相談しに言ったという


ローレンスの頭蓋が聖体であるのは、そういったモチーフがもとあるからなのかもしれない


さて、またオーディンは賢者クワシールの血から造った霊酒を飲むために、巨人の娘を篭絡し寝床を共にしたという


この霊酒を飲んだものは誰でも詩人や学者になれたとされるが、本作において聖血が神秘の知識をもたらすことは、これに由来するのかもしれない



まとめ

以上のようにオドンには多面的な性質・機能が付与されているが、これらのいくつかはオーディンに由来するものである


神としてのオーディン上位者としてのオドンとなり、宇宙の光としてのオーディン青い光(波・粒子)としてのオドンになったのである


また猟師を率いるオーディン狩人を率いるオドンとなり、オーディンの猟師たちが狩りをするワイルドハントは、狩人が狩りをする赤い月の夜となったのである


そしてオドの力としてのオーディンは、遺志としてのオドンになったのである


※クトゥルフ的な要素を加えるのならば、アゾットをアザトースと見ることも可能かも知れない


2021年1月22日金曜日

Bloodborne 考察まとめ10 オドン ※追記 ヤームナヤの語義

本考察に修正を加え、モチーフ編と伝承編に分けたのが【オドン(モチーフ編)】と【オドン(伝承編)】である

オドンという名前

本作における名前の重要性は宮崎氏がインタビューで明らかにしている


しかし、結局、私はすべての名前を選びます。私が監督したタイトルはいつもそうだった。もちろん、名前はあなたが描きたい世界の非常に重要な部分ですが、それ以上に、私は名前を思いつくのが大好きです。私はちょっとしたネーミングオタクだと思います。それは私にとっていつも楽しいです。私は、単語の起源表現でどのように聞こえるか、地域の考慮事項など、すべてを考慮します。(インタビューより)


本作に登場するNPCの名前は、ネーミングオタクを自認する宮崎氏が決定したものなのであり、その決定は、単語の起源、表現、地域性などを考慮に入れてなされたものなのである


筆者がこれまでNPCの名前にこだわってきたのも、こうした事情があるからに他ならない


作中、最も重要とも言えるオドンという名前にも、宮崎氏のこだわりが反映されているはずである


さて、オドンは多面的かつ複雑な存在であり一面的な解釈を拒むようなところがある


こうしたオドンの多面性モチーフ多面的な機能を受け継いだものである


オドンのモチーフとは、「オーディンである」




オーディン

オーディンには170以上の別名やあだ名があるという。オーディン自身がすでに多面的な機能をもつ神である


しかしその機能をすべて挙げていくと考察が冗長になるので、ブラッドボーンに関連する要素だけを挙げていく



1.吊された神

オーディンはユグドラシルの樹に自らを九夜吊すことでルーン文字の知識を獲得したという


このことから、オーディンは「吊された者の神」(絞首刑にされた者の神)とも言われ、後のタロットカード「吊された男」のモチーフにもなる


Wikipediaより転載

この吊された男と同じ構図を持っているのが「狩人の徴」である



狩人の確かな徴

狩人の脳裏に刻まれた逆さ吊のルーン

これを模し、よりはっきりとしたヴィジョンを可能にする呪符


つまり狩人の徴とはオーディンの徴なのである


また狩人の徴は、アイルランドで用いられる「眠りのルーン」を上下反転させたものと類似している(『エッダ』147ページ。訳注2)


物語の中で眠りのルーンをとくことができないようにしたのが、オーディンである


※もし仮に作中にカレルの死体があったとしたら、それは首を吊られているか逆さ吊りにされているはずである(旧市街などに逆さ吊りにされた遺体が見られるが関係は不明)



2.ワイルドハント

ワイルドハントとは以下のようなものである


伝説上の猟師の一団が、狩猟道具を携え、馬や猟犬と共に、空や大地を大挙して移動していくものであるといわれている(Wikipedia)


このワイルドハントの首領にして猟師たちを率いるのが「オーディン」なのである


そしてまたこの狩猟団は次のような災厄をもたらすとされる


この狩猟団を目にすることは、戦争や疫病といった、大きな災いを呼び込むものだと考えられており、目撃した者は、死を免れなかった[2]。他にも、狩猟団を妨害したり、追いかけたりした者は、彼らにさらわれて冥土へ連れていかれたといわれる[5]。また、彼らの仲間に加わる夢を見ると、魂が肉体から引き離されるとも信じられていた(Wikipedia)


すなわち、ブラッドボーンにおける狩人とはオーディンの狩猟団に属する狩人なのである


そして赤い月の夜とはワイルドハントのことを指し、彼らの仲間に加わる夢を見た主人公が、夢に囚われオーディンの狩人として奔走する物語なのである


※関係ないがウィッチャー3にもワイルドハントは登場する


また、オーディンに祝福された戦士を「ベルセルク」という。狩人がしばしば獣の力を利用し、一時的に獣化しさえするのはオーディンの戦士「ベルセルク」の性質を受け継いだからである


これが狩人が狩人と呼ばれオーディンの徴を持ち、夢と関わり、一時的に獣化する力をもち、災厄に巻き込まれなければならない理由である



3.メルクリウス

このオーディンとローマ神話のメルクリウスを同じ神としたのが1世紀のタキトゥスである(『ゲルマニア』)


メルクリウスマーキュリーとも読み、錬金術において水銀を意味する(水銀の英名はmercuryである)


水銀とオドンの関係は主にカレル文字に登場している


「姿なきオドン」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

上位者オドンは、姿なき故に声のみの存在であり

その象徴となる秘文字は、水銀弾の上限を高める


「オドンの蠢き」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

「蠢き」とは、血の温もりに密かな滲みを見出す様であり

狩人の昏い一面、内蔵攻撃により水銀弾を回復する


その水銀弾とは、水銀に狩人自身のを混ぜたものである


水銀弾

通常の弾丸では、獣に対する効果は期待できないため

触媒となる水銀に狩人自身の血を混ぜ、これを弾丸としたもの


作中、水銀弾を補充する際には狩人の体力を消費する

これが狩人自身の血であるとすると、では水銀はどこから発生したのか


オーディンの下僕である狩人はオーディンの力を秘めている。そしてオーディンとはメルクリウス=水銀であるのだから、その力である水銀を利用することが可能なのである


すなわち水銀はオドンのすべての側面説明するわけではないが、しかしメルクリウスとしての一面を示したものなのである



4.オーズ(オド、オード)

オーズは北欧神話の女神フレイヤの夫である(Wikipedia)


長旅に出ることや、オーズ/フレイヤオーディン/フリッグという名前の類似からオーズをオーディンと同じ神とする説がある


オーズとフレイヤの2人には、主神オージン(オーディン)・フリッグ夫婦と少なくない共通点がある。たとえば、オーズとオージン、フレイヤとフリッグ(別名フリーン)というふうに名前が似ていること。オーズとオージンがともに旅に出ることが多いこと。また、戦死者は半分がオージンのものになるが、残る半分をその妻フリッグではなくフレイヤが持っていく。これらのことから、オージンとフリッグがそれぞれオーズとフレイヤという名で信仰されていた時期があったか、もしくは、それぞれの若い年代の名前であったと考える研究者もいる(wikipedia)


さて、オーズという名前には「激情」という意味の他に「不思議な酩酊に満たされた者」)という意味もある(『北欧とゲルマンの神話事典』)


本作には「酩酊」というラテン語の名前を持つ者がいる


エーブリエタースである


彼女の父親が誰かは分かっていないが、彼女は見捨てられた上位者と呼ばれ、そして見捨てた者を探すように宇宙を見上げ続けている


彼女を見捨てた者が彼女の父親であるとするのならば、彼女を見捨てたのは父親が「長い旅」に出たからである


そしてそれは狩人の首領であるオーディン(オドン)のことである



5.好色

女嫌いとも女たらしとも呼ばれるオーディンであるが、実際に彼は女神フリッグの他に女巨人との間に子供を何人も作っている


※賢者の血から造られた霊酒を飲むために女性をたらし込んだりもしている


予言者に「愛息バルドルの仇を討つためにはリンダを言う女に息子を産ませなければならない」と告げられたオーディンは、リンダを狂乱させることで望みを叶える


狂乱と妊娠は偽ヨセフカやアリアンナに見られた症状である



6.オドの力

吸血鬼による吸血現象を説明する説の一つとして「オドの法則」がある


吸血鬼は吸血が目的で血を吸っているのではなく、犠牲者のもつ「オド」を吸っているのだというのである


オドの法則を提唱したのは、カール・フォン・ライヘンバッハ(1788~1869年)である(Wikipedia)


オーディンにちなんで「オド」と名づけられたこの神秘的なエネルギーは、宇宙に存在するものすべてのものから発出している物質であるという


ドイツのカール・フォン・ライヘンバッハは、宇宙に存在するすべてのもの(特に星々や惑星、水晶、磁石、人間など)から発出している物質が存在すると考え、北欧の神オーディンにちなんで「オドの力」と名づけた[1]。オドの力には重さも長さもないが、計測可能であり、観察可能な物理的効果を及ぼすことができるとした(wikipedia)


この物質は重さも長さもない、磁気のようなものであるという


カール・フォン・ライヘンバッハは1845年に、 電磁界とよく似た特性を示す「オドの力」と呼ばれるフィールドの理論をドイツの一流の学術誌の1つ『薬学及び化学の年報(Annalen der Chimie und Pharmacie)』で発表した。オドとはもともと様々な結晶構造を持つ物体から発散されているいまだ知られざる自然の力で、ライヘンバッハは、オドは磁極のように互いを引きつける力の特性を有しており、また、磁極もオドと関連する極性を有しているとし、オドが人間の身体に水晶の力に似た極性を生み出すことを発見したと主張した。ライヘンバッハの主張によれば、身体の生命力には磁石のような極性があり、身体の左側が負で右側が正である。さらにライヘンバッハは、オドが「動物」や「植物」からも発散されており、太陽や月などの星々からも発散されていると発表した。(wikipedia)


同時代フランスの魔術師エリファス・レヴィは『大いなる神秘への鍵』の中でオドについて以下のように述べている


「すべてこれらの驚異は、ヘブライ人ならびにフォン・ライヒェンバッハ男爵がオドと呼び、われわれがマルティネス・パスクヮリス一派とともに星の光と名づけ、ミルヴィーユ伯が悪魔、錬金術師たちがアゾットと呼んだ、さる比類のない動因によって成就されるのである」(『吸血鬼幻想』種村季弘)


また種村季弘によれば、オドは錬金術でいう飲める金(Aurum Potabile)である。そして金のヘブライ語の語源は光(アウルム)である


そして人間は宇宙的な光につつまれているのだという


そうした宇宙的な光を吸血鬼が吸うのである


エーブリエタースならびに聖歌隊が待ち望む「星の徴」とは「星の光」のことであり、とはすなわち「オド」のことなのである


そしてオドとは元をたどれば、オーディンなのである



7.ヤームナヤ文化

オーディンは北欧神話の主神である(諸説あり)


その北欧神話を伝承してきたのはゲルマン系の民族であるが、彼らの発祥地はドナウ川とウラル山脈の間に広がる広大な地域である(これも諸説あり)


そこに栄えた文明を「ヤームナヤ文化」という(wikipedia)※ヤムナ文化ともいう


ヤーナムとヤームナヤ、似ているがモチーフであるかは断定できない


ただしヤームナヤはロシア語で「穴の」の意であり、遺骸を穴に埋葬したことから名づけられている。つまり、「墓」を意味する名前である


またこのヤームナヤ文化の影響を受けて、次に成立したのはカタコンブナヤ(地下横穴墓)文化や、スルブナヤ(木槨墓)文化であり、これらの文化はすべて「葬法」により命名されている


さて、本作にも強い影響を与えたと思われる『フィーヴァードリーム』という吸血鬼小説がある


この小説に登場する吸血鬼(夜の人々)の故郷は同じウラル山脈付近であるとされている



オドン

オドンとは上述したようなオーディンの様々な側面を組み合わせて創造されたものである


それはワイルドハントの夜に狩猟団を率い獣化水銀生殖と密接に関わり、また神秘学的に言えば、「宇宙の光」なのである


ブラッドボーンにおいてもそれは、赤い月の夜に狩人を率いて暗躍し獣化水銀生殖と密接に関わる「宇宙の光」である


つまるところオドンとは「青ざめた月」のことである


ゲールマンが両手を広げると月が青い光に染まる

しかしながら、オドンは姿なき故に声のみの存在である


「姿なきオドン」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

上位者オドンは、姿なき故に声のみの存在であり

その象徴となる秘文字は、水銀弾の上限を高める


故に月そのものではない


それは物質としての月ではなく月を青く染めているもの、つまり「青い光」である


青い光は宇宙からの神秘の光であり、月を青く染めるが無形であり、また「」でもある


なぜならば「声」とは空気の振動、すなわちであるが、もまた「」だからである


姿なきオドンは英語版では「Formless Oedon」である。Formlessとは「形のない」や「無定形の」といったニュアンスである


オドンは声のみの存在である。しかしその声が人が想像する声であるとは断定されていないのである


実験棟の患者アデラインは上位者の声について次のように説明している


ああっ!あああっ!それが、形なのですね

導きよ、あなたの声が見えました。はっきりと歪んで、濡れています


彼女は声が見えるといっているのである。上位者の声とはかように人智を越えた不可思議なものなのである



オドンの粒子

※この項はコメント欄にいただいたぽ氏のオーディン粒子説がもとになっている

しかしながら科学的には粒子の性質も併せ持つ


オドンである青い光もまた波と粒子の性質を併せ持っている


けれどもオドンは「姿なき」存在であったはずである。の側面はともかく粒子は物質のように思える。これはどういうことか?


実は光子には質量がない(あるいはまだ観測されていない)。「姿なき」をどのように解釈するかにもよるであろうが、一般的に質量がなく不定形なものは「姿なき」という表現の範疇に入るのではないだろうか


青い光のうち「声(波)」はオドンである。だがオドンには粒子の側面もあるである


それは「オドン粒子」と呼べるものである


光の粒子フォトンと呼ばれるように、またボーズ粒子ボソンと呼ばれるように、オーディンの粒子は「オドン」と呼ばれるのである(このオドン粒子説ぽ氏のコメントを参考にさせていただいた。ありがとうございます)


さて、粒子という言葉からは丸くて小さな物体が想像される。そして本作には丸くて小さな物体に当てはめるに相応しいものが登場している


すなわち虫の卵である


波()が純粋な神秘であるオドンを表わすとしたら、粒子は寄生虫の卵としてのオドンを表わすのである


波(声)であるオドン(神秘)は穢れた血(獣性)と交わり、上位者の赤子(青ざめた血)を誕生させる


一方、粒子である寄生虫の卵(神秘)もまた穢れた血に潜む「虫」(獣性)と交わり、3本目のへその緒(青ざめた血)を誕生させるのである


これが上位者の赤子ばかりが3本目のへその緒を持つ理由である


※卵の状態で交わるというのも変なので、虫に寄生するといった方が妥当だろうか



見えぬ我らの主

オドン教会のメモにはオドンについても触れられている


ビルゲンワースの蜘蛛が、あらゆる儀式を隠している

見えぬ我らの主も。ひどいことだ。頭の震えがとまらない(オドン教会のメモ)


、とはオドンのことである。オドンは見えないのである

しかし青い光がオドンだとしたら、オドンは見えていることになる


だがそもそも見えないものが隠されることはない(見えないのだから隠されているか露わになっているか不明)


見えないものが隠されていると断言できるのは、オドンが顕現していることは分かるからである


つまるところ、オドンの信徒青い光をオドンの顕現による付随現象であると解したのである


その青い光がビルゲンワースの蜘蛛によって隠されていることを嘆いているのである


そしてビルゲンワースの蜘蛛、すなわちロマが隠していたのは赤い月と、青ざめた月(そしてその混淆としての青ざめた血の空)




月光の聖剣

さて、月光の聖剣青い月の光を纏う


月光の聖剣

かつてルドウイークが見出した神秘の剣

青い月の光を纏い、そして宇宙の深淵を宿すとき

大刃は暗い光波を迸らせる


それは彼だけの、密かに秘する導きだったのだ


オドンの狩人としてルドウイークが求めたのは、と同じ力、すなわち青い光だったのである。何よりオドンの狩人である彼を導けるのはオドンだけである


ああずっと、ずっと側にいてくれたのか

我が師

導きの月光よ…(ルドウイーク)


ルドウイークの聖剣

ルドウイークを端とする医療教会の工房は

狩人に、老ゲールマンとは別の流れを生み出した

より恐ろしい獣、あるいは怪異を狩るために


しかしその青い光には粒子が含まれている

寄生虫の卵という粒子である


青い月光を見続けた彼の眼に寄生虫が寄生し、光の小人が見えるようになったのである


「導き」

目を閉じた暗闇に、あるいは虚空に、彼は光の小人を見出し

いたずらに瞬き舞うそれに「導き」の意味を与えたという

故に、ルドウイークは心折れぬ。ただ狩りの中でならば


※月光の聖剣はファンサービスではなく、オドンという設定を剥き出しのまま出してきた可能性がある


ゲールマン月に祈る月が青い光を帯び、直後に青い光による大爆発が起きるのは、であるオドンに祈ることによりオドンの力を召喚しているからである


通常時は月は白~黄色である

ゲールマンが祈りを捧げると月は青く発光する

そして最後には青い光の爆発が起きる

またエーブリエタースと聖歌隊空を見上げ星からの徴を探しているという


聖歌装束

見捨てられた上位者と共に空を見上げ星からの徴を探す

それこそが、超越的思索に至る道筋なのだ


そのエーブリエタースのいる嘆きの祭壇の上方からは「青い光」が降り注いでいる


この青い光には波であるオドンと粒子(寄生虫の卵)が含まれる。聖歌隊はこのうち「オドン」の側面だけをすくい取ろうとしているのである
 


月見台の月

乳母の月見台から見える青白い月には奇妙な点がある

青白い月

月見台から見下ろすと、遙か彼方に見える山脈の手前にある


つまりこの青白い月は現実の月ではなく、地上すれすれにまで降りてきた月のようなものなのである


この月を呼び寄せたのは「メンシス(月)学派」である。彼らの真の目的は赤い月とともに青い月を同時に呼び寄せることだったのである


上述したように月の放つ青い光はオドンである


すなわち、メンシス学派とは「オドン学派」のことに他ならない


彼らの目的は、メルゴーの鳴き声を餌にして青い月と赤い月を呼び寄せることだったのである


目的が達成されたあかつきには、青い月と赤い月が融合を果たし、全世界に青ざめた血の空が広がり、夢が現実となり、神秘と血が交わって無数の上位者の赤子が誕生し、人々は3本目のへその緒により、「瞳を得る」のである


儀式はもうすぐ終わる

夢が現実に、我らに瞳をもたらすのだ!(ミコラーシュ未使用セリフ)


そしてまた青く光るは、青く輝くとも、宇宙とも呼ばれるのである


泥に浸かり、もはや見えぬ

宇宙よ!(ミコラーシュ)



青ざめた月

3本目のへその緒にある「青ざめた月との邂逅」とはオドンとの邂逅を言っているのである


3本目のへその緒(古工房)

すべての上位者は赤子を失い、そして求めている

故にこれは青ざめた月との邂逅をもたらし

それが狩人と、狩人の夢のはじまりとなったのだ


青ざめた月青ざめた血は似て非なるものである


青ざめた月がオドンであるのに対し、青ざめた血は神秘と獣性の入り交じった血をもつ月の魔物のことを指しているからである


青ざめた月との邂逅により、狩人と狩人の夢がはじまったとは、オドンとの邂逅により、オドンの戦士である狩人が生まれ、そして狩人の夢というヴァルハラ宮殿に連れてこられたことを言ったものである


使者とは狩人を狩人の夢に連れてくる者、すなわちフロム解釈によるヴァルキューレなのかもしれない



月の香りの狩人

主人公の放つ香りに言及するNPCが数名存在する(孤独な老婆未使用セリフで言及しているが今回は省略する)


血の女王アンナリーゼ

…貴公、訪問者…月の香りの狩人


オドン教会の住人

…ん、あんた…もしかして、獣狩りの…狩人さんか?

すまない、香のせいで、匂いがわからなかったよ

ここは安全だ。獣避けの香もしっかりと焚かれてる


偽ヨセフカ

…あら、月の香り

あなた、どうやって入り込んだのかしら?


ヤーナム市街の少女(妹)

…あなた、だあれ?

知らない声、でも、なんだか懐かしい臭いもするの


ガスコイン

匂い立つなあ…

堪らぬ血で誘うものだ


娼婦アリアンナ

あら、あなた、おかしな香り…

でも、よかったわ。獣も血も、そういう匂いはうんざりなの


まずガスコインについては血の臭いに反応していることが、実装セリフと未使用セリフの繋がり方で分かる

…どこもかしこも、獣ばかりだ(実装セリフ)

…堪らない、血の匂いじゃないか…(未使用セリフ)


主人公狩人の放つ香りが獣や血の匂いではないことは、アリアンナのセリフからも明らかである 


でも、よかったわ。獣も血も、そういう匂いはうんざりなの


獣や血の匂いではないからこそ、「でも、よかったわ」と安堵の言葉を漏らすのである


やや場違いなのはオドン教会の住人である


オドン教会の住人

…ん、あんた…もしかして、獣狩りの…狩人さんか?

すまない、香のせいで、匂いがわからなかったよ

ここは安全だ。獣避けの香もしっかりと焚かれてる

 

狩人は獣避けの香によって分からなくなる匂いを放っているようである


獣避けの香とは、獣が危険を感じ近寄ろうとしない匂いである。すなわちこのゲームにおける獣性の反対の属性神秘の香りである


その獣避けの香が焚かれているのが「オドン教会」であることは意味深である


アンナリーゼ、偽ヨセフカ、アリアンナ、少女(妹)に関しては、カインハーストの血を引いていることから、オドンの狩人の匂いが分かると考えられる


少女については、父親また祖父が獣狩りの狩人であったことから、その匂いに反応したとも考えられる


ということで月の香り、とはっきり表現したのはアンナリーゼと偽ヨセフカである


さて、上述したがオドンとは青ざめた月である(厳密には月を青く染める光)


そして狩人はオドンの戦士として獣狩りの夜に送り込まれる。そのオドンの戦士の香りを彼女たちは月の香りと表現したのである


なぜならば「月の香り」とは、青ざめた月の放つ香りであり、月を青く染める青い光の香りであり、オドンの香りだからである


オドンの戦士であるが故に狩人は月の香りを纏っているのである


極めて濃密な獣血をもつ血族たちには、その神秘の匂いははっきりと月の匂いとして感じられるのである(このことから、偽ヨセフカの血は純潔に近いとも考えられる)



隻眼その他

神話によればオーディンは隻眼であるという。知識を与えてくれるミーミルの泉の水を飲むために、巨人に片目を渡したからである


本作に当てはめるのならば、神秘を獲得する代わりに瞳を失う、つまり瞳を寄生虫に寄生されることを意味するのである


故にシモンは両目を包帯で覆っているのである


聖歌隊が目を覆うのも同じ理由からである。思索による超越的思考の獲得を目指していた彼らにとって、寄生虫のもたらす神秘を得ることは邪道だったのである


より神話的に解釈するのならば、空に浮かぶ月こそがオーディンの失われた片眼なのかもしれない


またミーミルは後に首をはねられるが、オーディンがそれに防腐処理を施し、ことあるごとにその首に相談しに言ったという


ローレンスの頭蓋が聖体であるのは、そういったモチーフがあるからなのかもしれない


さて、またオーディンは賢者クワシールの血から造った霊酒を飲むために、巨人の娘を篭絡し寝床を共にしたという


この霊酒を飲んだものは誰でも詩人や学者になれたとされるが、本作において聖血が神秘の知識をもたらすことは、これに由来するのかもしれない



オドンのカレル

※この項は考察途上であり、未だはっきりとした結論は出ていない


オドンは青い光であるという。しかしながら、オドンのカレル文字「赤」(血)で描かれている。(「導き」や「瞳」などは青い光で描かれている)


また滲む血は上質の触媒であり、それこそが姿なき上位者オドンの本質である、という文面からは、滲む血=オドンというような印象を受ける


「オドンの蠢き」

人であるなしに関わらず、滲む血は上質の触媒であり

それこそが、姿なき上位者オドンの本質である

故にオドンは、その自覚なき信徒は、秘してそれを求めるのだ


しかし姿なき故に声のみの存在であると言われるオドンが血液、つまり物質であるはずはない(光も物質と言えなくもないがこの場合は物理的な形を持った物質という意味)


「姿なきオドン」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

上位者オドンは、姿なき故に声のみの存在であり

その象徴となる秘文字は、水銀弾の上限を高める


オドン関係のカレルが赤く描かれるのは、姿なき故にオドンが反応する素材を描くしかないからである


そしてオドンが顕著に反応を示すのが「血液」であるがために、オドンのカレルは赤く描かれたのである


3本目のへその緒(アリアンナ)

すべての上位者は赤子を失い、そして求めている

姿なき上位者オドンもまた、その例外ではなく

穢れた血が、神秘的な交わりをもたらしたのだろう


オドンは血液とみれば見境なく交わろうとする性質をもつ



古い遺志

さてオドンが青い光であるということはすでに述べた


結論としてそこで終えてもいいのだが、実はそれはこの考察を書く前に念頭に置いていたものとはやや異なる結論である


早い話が、書くのを忘れていたことがある


古い上位者の死血には他の死血と異なり、青い光の球が追加されている




オドンを青い光とするのならば、これこそがオドンである。すなわち、古い上位者とは「オドン」のことなのである(少なくとも古い上位者たちの一人)


狩人が古い意志を継ぐ者であることは、人形のセリフにも現われている

狩人様…あなたから、懐かしさを感じます…
やはり狩人とは、古い意志を継ぐものなのですね…(人形)

そして狩人の夢にはその古い意志が漂っているともいう

夢の月のフローラ
小さな彼ら、そして古い意志の漂い
どうか狩人様を守り、癒してください(人形)

狩人の夢青ざめた月との邂逅によって誕生したとされる。その青ざめた月がオドンなのだとしたら、彼によって創造された領域に漂う意志とは、オドンの意志である


人形がオドンの意志に狩人を守り、癒すように祈るのは、その意志こそが狩人の力となるからである

死血の雫
夢に依る狩人は、血の遺志を自らの力とする
使者に感謝と敬意のあらんことを

狩人は古い上位者オドンの意志を継ぎ、また遺志も継ぐ存在である


それは狩人がオドンの戦士だからであり、狩人が狩人たるゆえんは遺志を力にすることができる、という能力を持っているからである(人形経由であるが)


狩人が遺志を力にすることができるのは、オドンの戦士である狩人にとって、遺志とは仕えるべき主人の力だからである


要するに、狩人の力となる遺志とは、「オドンの遺志(遺志)」なのである


オドンの、その青い光のさらなる根源に存在するのは「遺志」である


結論として、オドンとは血の遺志そのものである


英語版で血の遺志はBlood echoと表記される。echoとは「こだま」や「反響」を意味する英単語である


すなわち「」である


さて、血の遺志がオドンの遺志ということは、オドンはすでに死んでいることになる。事実、死んでいるのであろう。ただし上位者にとって生きるも死ぬもそれほど違いはないのかもしれない


なぜならば、上位者が死んでもその遺志は残るからである(狩人に受け継がれたように)。そして漂う古い遺志は血と交わり新しい上位者を誕生させるのである


※上位者の一人にすぎないオドンを、ブラッドボーン世界を統べる遺志とすることには異論があるかもしれない。あるいはオドンもまた遺志によって生み出された被造物の一人なのかもしれない



蛇足

オドンの「声」が強調されるのは『クトゥルフの呼び声』からの影響もうかがえる。本考察はオーディンを導きにして展開したものであり、そうした事情からクトゥルフ神話関係については省略せざるを得なかった


また思いつく端から書いていったのでかなり迷走している。そのうち書き直すかも知れない

オドン=遺志説は過去の「ブラッドボーンを学び直す動画」で述べたことがある。オドン=オドの力説などにもそのシリーズで触れたことがある

要するにこの考察はそれらを改めて考察しなおし、まとめようとしたものである

動画用にまずは文章でまとめてみようとしたのだが、思った以上に膨らんでしまった


2021年1月17日日曜日

Bloodborne 憶説 ローレンス戦のBGMの歌詞 追記:解釈4

この憶説は「考察まとめ9 人形」にいただいた鳥顔氏のコメントに大きな示唆を受けて書かれたものである


これまで扱ってこなかったボス戦のBGMの歌詞を取り上げている。また翻訳そのものが第三者に依拠しており、私個人にはその真偽を判断する能力はない


よって歌詞の解釈に関しては憶説の域を出ない代物である



ローレンス戦のBGMの歌詞

Bloodborne設定考察Wiki有志による日本語訳が以下である


Sic filii scite tibi vi sacramentum

貴方は子供達に傷を負わせた

Erit premium sanguine sanctum

聖血による報復が行われるだろう

Erit premium sanguine sanctum absconditum

だがその聖血の報復すら隠蔽されるだろう

Vel venio humanitas tendo pendere

そのとき私は人類に返却する

SANGUINE SANCTUM

聖血とともに

Honesta rete sanguinem

血は潔白である

Expectare iste blasphemia

神への冒涜を止めよ

Es vitae ita dissimilum

けれど貴方の魂にそれは相応しくない

Terras vicerit tranem bestia

獣は穢れた土地を踏み越えるだろう

Honesta rete sanguinem

血は潔白である

Expectare iste blasphemia

神への冒涜を止めよ

Hac mysterium obsumus

神秘を忘却することは

Arguam vitae eret non absolvis

人生を持続させるが、絶対的ではない

Dido tus

忠告はした

Timere

恐怖せよ

Dido tus

忠告はした

Sanguine

血による

Timere venena scitis

猛毒の恐怖を!

Festiva praestabere

饗宴は約束された

Sanguine Sanctum

聖血によって

Ita venite iste vinum langueo

故に虚弱のワインを用意しよう

Oh, succus temero

それは猛毒の飲み物だった...



解釈1

ここからは歌詞をいくつかのグループに分けて解釈していくことする


貴方は子供達に傷を負わせた

聖血による報復が行われるだろう

だがその聖血の報復すら隠蔽されるだろう

そのとき私は人類に返却する

聖血とともに

血は潔白である

神への冒涜を止めよ


現実世界では人間の子供達を傷つけても聖血による報復が行なわれることはない(無慈悲だがそれが現実である)

しかもその後の段落で「神への冒涜を止めよ」と警告している


子供達を傷つけることが聖血による報復をもたらし、神への冒涜に値するのである


だとしたら、この子供達とは「神の子」である


作中において神とは上位者のことであり、すなわち傷つけられた子供達とは、上位者の赤子である


つまりこの歌い手は「」もしくは神の代弁者としてその意志を表明しているのである

そのために、まるで唐突に「人類」という大きな主語が持ち出されるのである


神の子らに危害を加えたことで、人類聖血によって報復される


これはそのまま、上位者の赤子を奪ったことで呪われ、ヤーナムに獣の病が蔓延したことと符合する(赤子とはゴースの赤子あるいはメルゴー)


そして獣の病の原因が「聖血」であることは、エミーリアの説教でも唱えられている


密かなる聖血

血の渇きだけが我らを満たし、また我らを鎮める。聖血を得よ


だが、人々は注意せよ

君たちは弱く、また幼い

冒涜の獣は蜜を囁き、深みから誘うだろう


しかし中盤に入り、血の潔白が表明される


けれど貴方の魂にそれは相応しくない

獣は穢れた土地を踏み越えるだろう

血は潔白である

神への冒涜を止めよ


人が獣化するのは血にすべての原因があるのではなく人の魂がそれに相応しくないからである(上位者は獣化しない)


獣の病は穢れた土地を踏み越えるほど広まるが、しかしそれでもやはり血に罪はない


人の魂は聖血に相応しくないのだから、神への冒涜、すなわち子供達に危害を加え、聖血を得ようとするのは止めよ、と歌っているのである


子供達とは特定の上位者の赤子を指すのではなく、古い上位者から見た若い上位者すべてのことを指しているのかもしれない(例えばエーブリエタースは星のである)


続けて忠告がなされる


神秘を忘却することは

人生を持続させるが、絶対的ではない

忠告はした

恐怖せよ

忠告はした


神秘を忘却することは、「血に依る」ことである。これは神秘派のウィレームと袂を分かち「血に依る医療」を目指したローレンスのことである


血に依る医療は生命力を増進させるが、しかし絶対的ではない。なぜならそれはやがて恐怖をもたらすからである


そしてもたらされる恐怖とは猛毒であると続けられる


血による

猛毒の恐怖を!

饗宴は約束された

聖血によって

故に虚弱のワインを用意しよう

それは猛毒の飲み物だった...


聖血に混じった猛毒により供宴が約束される

すなわち、聖血に含まれる獣性により赤い月の夜が到来するのである。獣性が「毒」として表現されるのは女王ヤーナムの血液や、千景に示されている


虚弱のワインとはローレンスが精製した「調整された血液」である。それは医療教会の前身組織で精製されていたものであり、獣性を濾過(除去)した血液である


」は血と同時に発見されている


「獣」

血の発見とは、すなわち望まれぬ獣の発見であったのだ


そしてまたローレンスの落とすカレル文字「獣の抱擁」によれば、彼は獣の病を制御しようとしていた


「獣の抱擁」

獣の病を制御する、そのために繰り返された実験の末

優しげな「抱擁」は見出された 

 

ここでいう実験は医療教会による実験ではない。その前身組織における実験である。というのもローレンスは医療教会設立以前に死亡しているからである

 

彼の頭蓋骨は医療教会自体の始まりとして機能しましたが、それはねじれた獣の形をとっています。 (宮崎氏のインタビュー)


血の医療を目指したローレンスにとっては、と同時に発見された「獣」を制御することが最優先である


そしてローレンスは「血」から「獣」を除去しようとしたのである。これは後の「血の聖女」(調整された血液をもつ)に繋がっていくものである


しかしそれは歌い手が忠告したように「猛毒」に変わりないのである


結果、虚弱のワインを飲んだローレンスは獣化してしまったのである


以上が歌詞の一解釈である


歌い手が「人類」へ向けて警告しているような内容であり、子供達を傷つけて神を冒涜するのは止めよ、と忠告していることなどから、この歌詞は上位者の意思を表明しているものと考えられる


※歌い手を上位者の意思の代弁者とすることも可能である



解釈2

さて、他の方の考察では、子供達とは実験棟の患者のことで、非道な実験に怒ったマリアがローレンスに毒(穢れた血)を飲ませたことを歌っている、とのことであった(翻訳自体が異なるものの今回はそこに立ち入らない)


しかしながら、宮崎氏のインタビューにおいてローレンスは医療教会設立以前に死亡していることが明らかにされている


彼の頭蓋骨は医療教会自体の始まりとして機能しましたが、それはねじれた獣の形をとっています。 (宮崎氏のインタビュー)


時系列的にローレンスは実験棟の実験には関わることができない


DLCには“初代教区長”ローレンスやその頭蓋が登場するものの、初代教区長であるローレンスの頭蓋は悪夢の中にしか存在しない


ローレンスの頭蓋

医療教会、初代教区長たるローレンスの頭蓋骨

だが現実には、彼は初めての聖職者の獣であり

人の頭蓋は悪夢の中にしか存在しない


彼が聖職者であったのは医療教会の前身組織(これも宗教組織であろう)の時であるとすると、インタビューとローレンスの頭蓋のテキストと整合性もとれる


ローレンスの頭蓋

それは、終に守れなかった過去の誓いであり

故にローレンスはこれを求めるだろう

追憶が、戻るはずもないのだけれど


この過去の誓いを警句「かねて血を恐れたまえ」と解釈するのならば、血を恐れず血に手を出したことにより警句は守られなかったのであり、むしろローレンスが自発的に血に手を出した、つまり自ら血を飲んだことになる


ちなみにローレンスの下半身が溶ける理由は、彼の両足に鉄釘が打たれているからである

這い上がる獣血を抑えようとしたのかもしれない

またゲーム的な事実として、ローレンスが自分の炎でダメージを受けることはない。もし炎がマリアの血由来であるとしたら、その炎によりダメージを受けるはずである


また実験棟の患者の多くは子どもたちとは呼べない年齢である(成長したのかもしれないが、成長を許されるほど生やさしい実験とは思えない)


加えてマリアの未使用セリフを読むかぎり、マリアは患者たちに一定の憐れみを抱いているものの、害されて怒りを覚えるほどに思い入れはないようである


見たのだろう?英雄の獣、そして教会の、憐れな患者たち

…そして、殺した

ああ、責めはしない。あれらは悪夢に囚われた、それもひとつの救いだったろう(時計塔のマリア未使用セリフ) 


こうしたマリアの冷徹さは実装された実験棟でも感じられる。患者の手を握り露台の鍵を渡すなど患者を気づかっているが、結局のところ彼女は実験を止めようとはしなかった


またこれは印象論でしかないが、「血の医療」にこだわったローレンスが「水の実験」を試みるだろうかという疑問が拭えない(血の聖女作成実験なら分かるが…)



解釈3

とはいえマリアがローレンスに血を飲ませた説は秀逸なアイデアである。そこで個人的にそれが可能であるタイミングを考えてみた


結論から述べれば、ローレンスがマリアの血を飲めたタイミングは漁村事件後~医療教会設立までの期間である


マリアはちょうどその頃に技術特化の「落葉」を捨てて、血の力に回帰しているからである(それ以前のマリアは血の力を厭っていたのでローレンスに飲ませたとは考えにくい)


マリアの怒りの原因としては、ゴースの赤子を強奪したことが挙げられる。マリアはゴースを見下ろせる高台に墓をつくって花を供えており、ゴース母子に同情的だったことがうかがえるからである


※ただし「子供達」と複数形なのが難点である


漁村の惨劇と赤子強奪(そしておそらく殺傷)を見たマリアは、怒りのあまりに血の力に回帰し、リーダーであったローレンスに毒(血)を盛った、とも考えられる


血の力に頼ったことを自らの「弱きが故」と考えたマリアは落葉を捨てて、時計塔に閉じこもったのかもしれない


その後、マリアの血によって獣化したローレンスはブラドーに狩られ、その頭蓋は医療教会の始まりとなったのである


しかし、かつてのリーダーに毒を盛ったマリアのことを古い医療教会の人間たちは知っていた


アリアンナの血

古い医療教会の人間であれば、あるいは気づくだろうか

それは、かつて教会の禁忌とされた血に近しいものだ


そしてこのなかにローゲリウスがいた。彼はかつての指導者に毒を盛った女とその穢れた血を許すことができず、処刑隊を結成して穢れた血を根絶やしにすることにしたのである


女王アンナリーゼが自分たち血族を「教会の仇」と自称するのは、その前進組織のリーダーマリアが殺したからである


貴公、我ら一族の呪いに列し、また異端として教会の仇となる

敢えてそれを望むのであれば

穢れた我が血を啜るがよい(女王アンナリーゼ)


以上がローレンスがマリアの血を飲んだというアイデアからの推論である



罪の火

この項では、マリアとローレンスがなぜ炎と関係するのかを考えたい


DLCでは狩人の所業に対して漁村民たちは呪詛で応える


我らに耳をすましたまえ

我らは呼び声、ゴースの死

赦したもう。そして奴らを呪いたもう(Baneful Chanters)


なぜ狩人が呪われたかというと、漁村で罪を犯したからである


…この村こそ秘密。罪の跡

…そして狩人の悪夢は、それを苗床とした…(シモン)


罪と火の結びつきは、骨炭の仮面に記されている


骨炭の仮面

上位者たちの眠りを守る番人たちは

その姿と魂を業火に焼かれ、灰として永き生を得たという


鋭く尖った大きな帽子は、古い番人のシンボルであり

彼らがある種の罪人であった証であると考えられている


つまり、罪人は火に焼かれ、そして火を操るのである(旧主の番人は炎を放つ)


そして炎を操る罪人のかたわらには、炎の獣が控えている

旧主の番犬である


炎の罪人と炎の獣

このセットはそのままマリアとローレンスとして繰り返されている


炎の番人と同じく、マリアは罪人である(狩人として罪を犯している)

そしてそのかたわら(というのは遠いが)には、炎の獣が控えているのである


要するにマリアが炎を操るのは「罪人」だからであり、その炎は彼女の肉体を内部から焼き尽くそうとしているのである


ゆえに彼女は苦しみを減らそうと「血を流していた」のである。それは一種の瀉血であり、ブラドーと同じく彼女が獣化するのを抑えていたのである


瀉血の槌

それはまた、悪い血を外に出す唯一の方法

地下牢に籠ったブラドーは、そう信じ続けていた


一方のローレンスは獣化し、しかし罪の火は消えず、彼を炎の獣に変化させたのである



解釈4

日本語訳がやや不正確なのではないか、というコメントをぽ氏にいただいたので英訳を元にして解釈したものである

※解釈といっても、ぽ氏による日本語訳を参考に、私なりに超訳したものと考えていただきたい(かなり好き勝手に利用している。すいません)

ぽ氏による正確な翻訳理解コメント欄参照のこと


底本にしたのはYoutubeのこちらの動画の英訳である

 

So, you imposed the sacrament upon the children

There will be a reward from the holy blood

There will be a reward the holy blood keeps secret

I try to repay humanity, with holy blood!


だから、あなたは子供たちに秘跡を課しました

聖なる血からの報酬があります

聖なる血が秘密にしている報酬があります

私は聖なる血で人間性に返済しようとします!


秘跡とは医療教会の拝領のことである


「拝領」

 血の医療とは、すなわち「拝領」の探求に他ならないのだ


信徒たちに拝領させた、つまり聖血を飲ませたことを意味する


There will be a reward from the holy blood

その聖なる血からは報酬がある

 

ローレンスが目指したのは、血による上位者への進化である


There will be a reward the holy blood keeps secret

聖なる血が秘密にしている報酬があります

 

これはその報酬を強調して言ったものか、あるいは聖血に潜む獣を皮肉めかして「報酬」と言ったものかもしれない


I try to repay humanity, with holy blood!

私は聖なる血で人間性に返済しようとします!


ぽ氏の意訳によると「私は人間性を聖血に捧げる」と言うことである


humanity人間性だが、宮崎氏のインタビューにも人間性という言葉が登場する


The urge to transform into a beast is in conflict with the basic sense of humanity we all have. That humanity serves as a kind of shackle, keeping the transformation in its place. 


獣に変身したいという衝動は、私たち全員が持っている人間性という基本的な感覚と相反するものです。その人間性は一種の手錠のようなもので、変身をその場に留める役割を果たしている。(インタビューより)


私は聖血に人間性を捧げるとは、自らの人間性を聖血がもたらす報酬に委ねる、というようなことか


With an honest net, blood,

正直なネットで、血


Honest net であるが、かなり無理に意訳すると「真実は血の中にある」と読めるかも知れない。血による進化を求めたローレンスの姿勢と重なる


Wait, is this blasphemy?

待て、これは冒涜なのか?

 

血の中に真実を求めることは冒涜の獣を呼び覚ますことである


Is it dissimilar from life in this way?

The beast overcame wild lands beyond

それはこのように生命とは異なるのですか?

獣は野蛮な土地を越えた


ぽ氏によれば、dissimilar to life 「それは野を駆ける獣の生き方と似ていないか?」になるという


This mystery is beset by

Maintaining life but was not absolved


聖血の謎(つまり人を進化させるが獣化もさせるという矛盾的な謎)は生きている限りつきまとうものである


Spread the word

Be afraid

言葉を広めよ

恐れよ


Spread the word

From the blood

言葉を広めよ

血からやって来る


Fear the poison

毒を恐れよ


警句「かねて血を恐れたまえ」をローレンスは今さらながら思い知ったのである


The feast is guaranteed, by the holy blood.

聖血による饗宴は保証されている

 

聖血を用いたことで獣の病の蔓延は確実に起きる


So let this languish wine (be)

だからこの弱めたワインを飲め

 

弱めたワインとは血の医療に用いられた「調整された血液」(血の聖女産)のことであろうか。獣の病の治療のために「調整された血液」を使ったのである


Oh, poisonous drink...

おお、毒酒…

 

しかし、血の医療に用いられた血液もまた「聖血の謎」からは逃れられないのである


以上が英訳を元にした解釈である

必ずコメント欄に投稿されたぽ氏の翻訳を読んで欲しい




蛇足

Fandomに記載されている英訳と迷ったのだがBloodborne設定考察Wikiのものを使用した

これは設定考察Wikiの訳の方が私が訳す(機械翻訳)よりも日本語として意味が通じるからである

比べてみると分かるが双方でかなりの相違がある

この相違は、ボス戦BGMの歌詞が公表されていないという事実から発生するものである

プレイヤーがBGM(OST)をリスニングし、それをラテン語に書き起こし、さらに英訳をするという、血の滲むような努力の過程で生じる、やむを得ないねじれであろう

参考までにDeepL翻訳したものを載せておく


だから、子供たちよ、もしあなたたちが神聖な儀式を献身的に守るならば、知っておいてください。

あなたは聖なる血で報われます

隠れた聖なる血で報われる

または人類は聖なる血に依存する傾向があるだろう

高貴な血の鎖

待つことは神への冒涜

だから私はこの生き方を広めました

スムーズに獣を克服

高貴な血の鎖

待つことは神への冒涜

謎に包まれた

いのちの水では完結しない

だから、子供たちよ、もしあなたたちが神聖な儀式を献身的に守るならば、知っておいてください。

あなたは聖なる血で報われます

隠れた聖なる血で報われる

または人類は聖なる血に依存する傾向があるだろう

高貴な血の鎖

待つことは神への冒涜

だから私はこの生き方を広めました

スムーズに獣を克服

高貴な血の鎖

待つことは神への冒涜

謎に包まれた

いのちの水では完結しない

識別された

恐怖心

血を見分けた

知る、その恐怖を

毒牙

盛大なお祭り騒ぎになる

聖なる血によって

だから来て

本酒(このワイン)

怖気づく

汚れた汁

知る、その恐怖を

毒牙

盛大なお祭り騒ぎになる

聖なる血によって

だから来て

本酒(このワイン)

怖気づく

汚れた汁

2021年1月11日月曜日

Bloodborne 考察まとめ9 人形 ※追記:ゲールマンの未使用セリフ

人形が子守歌を歌うことは過去に何度か触れたが、それが以下の動画である



この子守歌はゲームのクライアントのバージョンが1.0のとき限定で聴けるものである

またこの子守歌が発生したタイミングでゲームを終了し、パッチを当ててアップデートすることで最新版でも聴くことができる


これはグリッチであり、既存の人形イベントを上書きしてしまうが、最新版でボイスを日本語化することで日本語音声の子守歌も聴くことができる(上記動画の歌がそれである)


Bayu Bayushki Bayu

さて、人形が歌っているのはロシアの子守歌「Bayu Bayushki Bayu」である


以下がその歌詞(私訳)である


Bayu bayushki bayu(眠れ、よく眠れ)

ベッドの端で寝てはいけない
灰色の狼男がやって来る

そして、あなたの脇腹に噛みついて
森に引きずりこんでしまう

森に引きずって

柳の根元に埋めてしまう



おそらくはヨーロッパに広く伝わる人狼伝説をもとにしたものであろう。同じく人狼伝説がモチーフの1つであるBloodborneの世界観と非常に近似した内容の歌詞である


その内容の類似性からこの子守歌が選ばれたことは分かる


しかしなぜそれが“ロシアの子守歌”でなくてはならなかったのか、という疑問が浮かぶ。この問いは2つの疑問によって構成されている。まずなぜロシアなのか、そしてなぜ子守歌なのか、である


このうちまずは、なぜロシアなのか、という点から考えてみたい



なぜロシアなのか

本作のNPCの名前には偏りがある。その多くがチェコ・ハンガリー系統の名前なのである


これにカインハーストに特徴的なドイツ系統の名も加えるのならば、本作のおおまかな舞台が推定できる(アンナリーゼはドイツ人の名前)


下の図でいうと、薄い青で示された中央ヨーロッパがそうである



ロシアがあるのは右の黄色の領域であり、中央ヨーロッパとは地理的に非常に近いことがわかる


本作にはガスコインという英国系の名をもつNPCも存在する。つまるところ本作は汎ヨーロッパ的な領域を凝縮したような世界観なのである(ただしガスコインが異邦人であることを仄めかされているように、ある程度の地理関係は保持されている)


であるのならば、黄色の領域に含まれるロシアの要素も含まれていておかしくはない。そしてまさしく本作にはロシア系の名前を持つキャラクターがいるのである


最初の狩人ゲールマンがそれである


『ヨーロッパ人名語源事典』によると、ゲールマンは英名ハーマンロシア語形である。さらに元をたどればドイツ人の英雄ヘルマンにさかのぼり、その名前の語義は「戦士」である


英雄ヘルマンの名が英国に伝わるとハーマンになり、ロシアに伝わるとゲールマンになるのである


よって、ゲールマンとはその根源をドイツにもつ「ロシア系」の名前ということになるが、偶然か必然か本作のゲールマンは「ロシアの子守歌を歌う人形」と非常に近しい関係にあるのである


ロシアの子守歌を歌う人形がいて、そのそばにロシア人の名を持つ男がいる。であれば、その子守歌はその男から人形に伝わったと考えるのが自然ではないだろうか


しかし、実はロシアの子守歌を歌うのは人形だけではない。狩人の悪夢に登場する養殖人貝も歌うのである


養殖人貝の顔を拡大したもの

こちらはデータマイニングにより判明したもので私自身は確認していないが、Youtubeに動画を挙げている人がいる




これにより、ロシアの子守歌を歌うのは人形と養殖人貝の二者ということになるが、意味もなく全く関係の無いキャラクターに同じ歌を歌わせるとは考えにくい。必ずこの二者には共通点があるはずである


結論から述べれば両者を繋ぐのは、「マリア」である


養殖人貝の顔をよく見るとゴースの顔の系統とはやや異なる、カインハースト的な美貌であることが分かる


左から「養殖人貝」、「ゴース」、「マリア」である


養殖人貝はゴースではなくむしろマリアや人形に近い容貌をしているのである


つまり養殖人貝が人外化したのはゴースの影響に加え、マリアの影響があったと考えられるのである


具体的にいえば、マリアの穢れた血が神秘的な交わりをもたらし、養殖人貝が産まれたのである


ロシアの子守歌を歌う二者がいて、その二者を繋ぐ者がいるのであれば、その子守歌は繋ぐ者から伝えられた可能性がある



すなわち、人形と養殖人貝が共にロシアの子守歌を歌うのは、彼女たちのオリジナルであるマリアロシアの子守歌を知っていたからなのである


そしてマリアにロシアの子守歌を教えた者こそ、マリアの師でありロシアの名を持つゲールマンなのである



なぜ子守歌なのか

ゲールマンがマリアに子守歌を教えた理由としてもっとも可能性が高そうなのは、彼女が妊娠したから、というものである


女狩人である彼女が他者の赤子の子守をする必要はないであろうし、たとえ頼まれても受け入れないであろう


彼女がゲールマンから子守歌を教えられ、そしてそれを覚えていたのは彼女自身が妊娠したからであろう


子守歌の歌詞は、狩人へ警告するような内容である

最初の狩人ゲールマンが教える子守歌としてふさわしいものである


おそらくマリアはこうした師の“思いやり”を素直に受け取ったのである

その奥底にある狂熱も知らずに…


月が満ちマリアは赤子を出産するものの、その赤子は人の子ではなく「上位者の赤子」だったのである(同じく母マリアから産まれたイエス・キリスト同じ構造である。ただしこちらは神ではなく悪夢に住む上位者であるが…)


産まれた赤子は、青ざめた血をもつ赤子である(詳細は「人形と月の魔物」)


ローレンスたちの月の魔物「青ざめた血」(教室棟の手記)


誕生した赤子は即座に周囲の環境情報をもとに自らの領域を創造

それが「青ざめた月」(後に「狩人の夢」と呼ばれる)である


このとき必然的に赤子は母親であるマリアから引き離される

この母から引き離される赤子というテーマは本作において二度繰り返されている


1度目はヤーナムとメルゴー、2度目はゴースと赤子(遺子ではない)である

ここにマリアと月の魔物(月のフローラ)が加わるのである


これによりトゥメル・漁村・ヤーナムにおける悲劇のリストが完成することになる



さて、月の魔物は母から引き離されたものの、ゲールマンたちは赤子がもっていた3本目のへその緒によって青ざめた月との邂逅を果たすことになる


3本目のへその緒(古工房)

すべての上位者は赤子を失い、そして求めている

故にこれは青ざめた月との邂逅をもたらし

それが狩人と、狩人の夢のはじまりとなったのだ


※メンシス学派がメルゴーの3本目のへその緒によって、当のメルゴーと邂逅したように、ゲールマンたちも月の魔物の3本目のへその緒によって、当の月の魔物と邂逅したのである


上位者の赤子として誕生したものの月の魔物は不完全な上位者であった


獣性と神秘とを強引に融合させた結果、月の魔物の内部で獣性と神秘が衝突し、彼女の肉体を傷つけ続けているのである


ゲーム内の月の魔物は上の画像のように肋骨が剥き出しになっているが、アートワークスには傷ついていない状態の月の魔物も掲載されている

プレイヤーが戦う「月の魔物」は肉体を欠損した状態であるが、それは上のような事情によるものである


また月の魔物の背中からはコウモリの翼に似た羽根が生えている。この羽根はカインハーストなどにいる「古の落とし子」のそれと酷似したものである


アートワークスにはもっとコウモリ的な翼に描かれている

指の間に皮膜が張られた特徴的な翼

古の落とし子低級な神秘と穢れた血との交わりにより産まれた下位の魔物であり、月の魔物上位の神秘(上位者)と穢れた血の交わりによって産まれた上位者である



マリア

さて、上位者の赤子を産み、また漁村において師の狂熱に気づいた彼女は「心弱きゆえに」命を絶つ(落葉を捨てたことは彼女が自害したことの比喩的な表現である)


落葉

だが彼女は、ある時、愛する「落葉」を捨てた

暗い井戸に、ただ心弱きが故


落葉のテキストは本作屈指の反語法的表現による名文である


マリアは決して心が弱かったわけではない。その反対に上位者の赤子を産むという言語を絶する体験を経ても狂乱に陥らず、また師の狂熱に気づいた後も怨嗟の念を抱かなかったのである(時計塔のマリアのそばにあるには男性が二人映った写真立てがある)


彼女は弱かったわけではない。強すぎた故に、彼女はすべてを自身の心に秘めて命を絶ったのである


彼女が狩人の罪を隠し、初期医療教会の実験を容認したのは、そうまでしても我が子に生きて欲しかったからである


彼女は狩人の名誉を守るためではなく、我が子を救うために狩人の罪を秘匿し、そして死んだ後も秘密を暴こうとする者からそれを守ろうとしているのである


なぜならば、狩人の罪が暴かれることは、医療教会による血の医療の終焉を意味し、我が子である月の魔物の死も意味するからである


あるいは、我が子を救うために血の医療という外法に手を染めたことをして、「弱きが故に」と表現したものなのかもしれない



時計塔の扉

マリアのいる時計塔の扉には奇妙な薄肉浮彫りが施されている


赤子にも見えるデザインであり、また赤子の下半身から幾本もの触手が伸びているようにも見える



端的に言えば触手の生えた赤子である。これと同じ特徴を持つのが月の魔物である




人形

さて、ゲールマンの狂熱は彼を上位者の赤子(ゴースの遺子)に変異させたが、彼の別の側面は月の魔物の魅力に囚われていた


狩人の夢のゲールマンは月の魔物をなだめるため、またローレンスの血の医療が完成するまで彼女を生かすために、彼女の母親の生き写しである人形を制作したのである


人形のゲーム内における第一の能力は、血の遺志を狩人の力にすることである


この能力は狩人の業と似ているが微妙に異なる


血によって、狩人の武器と、肉体を変質させる。狩人の業の工房だよ(助言者ゲールマン)


ゲールマンの言う、肉体を変質させる、とはカレル文字による進化のことである。血の遺志を力に能力(すなわちレベルアップ)は「人形オリジナル」にのみ備わったものである



つまり、神秘と獣性の衝突により傷つき続けている月の魔物を癒すために、血の遺志を力に変える能力人形に持たせたのである


狩人の夢に囚われた狩人は血の遺志を集め、最後はゲールマンによって収穫される。収穫された膨大な量の血の遺志は、人形の能力により月の魔物の肉体を癒すために使われるのである


ゲールマンの未使用セリフ

スクリプト化されていないゲールマンのセリフに以下のようなものがある(3:54から)


Laurence, the end is not far away now. Every last dream will burn out, and Flora will return from the moon. As for us, the time has come to honor our vows. Hunters are needed no longer, you and I shall fight to the death, and she will consume the victor. The way we've always said we'd end it, you recall? Oh Laurence...of course you remember.


ローレンス、終わりはそう遠くない。 最後の夢は燃え尽き、フローラは月から戻ってくるだろう。 私たちは、誓いを守る時が来たのだ。ハンターはもう必要ない。君と私は死を賭けて戦う。 彼女は勝者を食らうだろう。私たちがいつも言っていた終わり方を 思い出してくれたか?ああ、ローレンス...もちろん、覚えているね




赤い月

儀式によって赤い月が接近するのは、月の魔物もまた上位者の赤子を求めているからである。しかしその目的は上位者の赤子の持つ「統合された青ざめた血」である


ローレンスの血の医療が完成したあかつきには月の魔物は完治し、完全な上位者になる計画になっていた


もはや月の魔物は生きるために血の遺志を必要とせず、現実世界に降りる必要はなくなるのである


それはつまり、赤い月の接近が無くなることを意味し、したがって獣狩りの夜の訪れが無くなり、結果として獣の病が地上から消滅するのである


しかしローレンスは志半ばにして獣化してブラドーに殺害されてしまう


血の医療は今もって完成に至らず、それでもゲールマンは月の魔物を生かすために、血の遺志を集め続けなければならないのである