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2021年1月28日木曜日

Bloodborne 考察まとめ10-1 オドン(モチーフ編)

はじめに

前回の「考察まとめ10 オドン」が追記に次ぐ追記によりカオスになってしまったので、モチーフ編と伝承編に分けた


長くなるので「モチーフ編」としたが、本考察の正式なタイトルは「オドンのモチーフをオーディンと仮定した場合の一考察」である


オドンの不可思議な性質を、オーディンという多面的な神を軸にして考察するものであり、あくまでも仮定であり決定でないことを先に述べておく


こうした事情からクトゥルフ神話に関してはまったく触れていないか、言及はわずかである



オドンという名前


本作における名前の重要性は宮崎氏がインタビューで明らかにしている


しかし、結局、私はすべての名前を選びます。私が監督したタイトルはいつもそうだった。もちろん、名前はあなたが描きたい世界の非常に重要な部分ですが、それ以上に、私は名前を思いつくのが大好きです。私はちょっとしたネーミングオタクだと思います。それは私にとっていつも楽しいです。私は、単語の起源、表現でどのように聞こえるか、地域の考慮事項など、すべてを考慮します。(インタビューより)


本作に登場するNPCの名前はネーミングオタクを自認する宮崎氏が決定したものなのであり、その決定は、語源、響き、地域性などを考慮に入れてなされたものなのである


作中でも重要な存在であるオドンという名前にも、宮崎氏のこだわりが反映されているはずである


オドンの「語源」とは何か、オドンという語にはどういった「響き」が感じられるか、またオドンという名前にはどのような「地域性」が見いだせるのか


これらの疑問に対する一つの解釈として、「オドン=オーディン説」をにして考察を展開したのが本考察である



オーディン

さて、オドンは多面的かつ複雑な存在であり一面的な解釈を拒むようなところがある


こうしたオドンの多面性モチーフの多面的な機能を受け継いだものである


オドンのモチーフとは、オーディンである


オーディンには170以上の別名やあだ名があるという。オーディン自身がすでに多面的な機能をもつ神である


しかしその機能をすべて挙げていくと考察が冗長になるので、ブラッドボーンに関連する要素だけを挙げていく



1.吊された神

オーディンはユグドラシルの樹に自らを九夜のあいだ吊すことでルーン文字の知識を獲得したという


このことから、オーディンは「吊された者の神」(絞首刑にされた者の神)とも言われ、後のタロットカード「吊された男」のモチーフにもなる


この吊された男と同じ構図を持っているのが「狩人の徴」である


そのうえ狩人の確かな徴は、「ルーン」であるともいう

 

狩人の確かな徴

狩人の脳裏に刻まれた逆さ吊のルーン

これを模し、よりはっきりとしたヴィジョンを可能にする呪符


逆さ吊であり、またそれはルーンである。テキスト的にも図像学的にも、狩人の徴が表わしているのはオーディンなのである


つまるところ、狩人の徴(ルーン)とはオーディンの徴なのである


また狩人の徴は、アイルランドで用いられる「眠りのルーン」を上下反転させたものと類似している(『エッダ』147ページ。訳注2)


この物語の中で眠りのルーン解くことができないようにしたのが、オーディンである


※もし仮に作中にカレルの死体があったとしたら、それは首を吊られているか逆さ吊りにされているはずである(旧市街などに逆さ吊りにされた遺体が見られるが関係は不明)



2.ワイルドハント

ワイルドハントとは以下のようなものである


伝説上の猟師の一団が、狩猟道具を携え、馬や猟犬と共に、空や大地を大挙して移動していくものであるといわれている(Wikipedia)


このワイルドハントの首領にして猟師たちを率いるのが「オーディン」である


そしてまたこの狩猟団は次のような災厄をもたらすとされる


この狩猟団を目にすることは、戦争や疫病といった、大きな災いを呼び込むものだと考えられており、目撃した者は、死を免れなかった[2]。他にも、狩猟団を妨害したり、追いかけたりした者は、彼らにさらわれて冥土へ連れていかれたといわれる[5]。また、彼らの仲間に加わる夢を見ると、魂が肉体から引き離されるとも信じられていた(Wikipedia)


オーディンの徴(狩人の徴)を持ち、夢に囚われ赤い月の夜(ワイルドハントの夜)に「狩り」をしなければならない狩人(猟師)とは、まさしくこの狩猟団の猟師の一人である


※関係ないがウィッチャー3にもワイルドハントは登場する


また、オーディンに祝福された戦士を「ベルセルク」という。狩人がしばしば獣の力を利用し、一時的に獣化しさえするのは、オーディンの戦士「ベルセルク」の性質を受け継いだからである


これが狩人が狩人と呼ばれ、オーディンの徴を持ち、夢と関わり、一時的に獣化する力をもち、災厄に巻き込まれなければならない理由である



3.メルクリウス

オーディンとローマ神話のメルクリウス同じ神としたのが1世紀のタキトゥスである(『ゲルマーニア』)


またメルクリウスヘルメスとも同一視されるが、ヘルメスは錬金術の祖とされる神である


メルクリウスマーキュリーとも読み、錬金術において水銀を意味する(水銀の英名はmercuryである)


水銀とオドンの関係は主にカレル文字に登場している


「姿なきオドン」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

上位者オドンは、姿なき故に声のみの存在であり

その象徴となる秘文字は、水銀弾の上限を高める


「オドンの蠢き」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

「蠢き」とは、血の温もりに密かな滲みを見出す様であり

狩人の昏い一面、内蔵攻撃により水銀弾を回復する


その水銀弾とは、水銀に狩人自身の血を混ぜたものである


水銀弾

通常の弾丸では、獣に対する効果は期待できないため

触媒となる水銀に狩人自身の血を混ぜ、これを弾丸としたもの


狼男や吸血鬼を殺す場合、使われるのはふつう「銀の弾丸」である


しかし本作では銀ではなく「水銀」である


なぜならば、オーディンの戦士である狩人はまたメルクリウスの戦士でもあり、メルクリウスの力を象徴する「水銀」の力を行使できるからである


水銀はオドンのすべての側面を説明するわけではないが、しかしメルクリウスとしての一面を示したものなのである



4.オーズ(オド、オード)

オーズは北欧神話の女神フレイヤの夫である(Wikipedia)


長旅に出ることや、オーズ/フレイヤオーディン/フリッグという名前の類似からオーズをオーディンと同じ神とする説がある


オーズとフレイヤの2人には、主神オージン(オーディン)・フリッグ夫婦と少なくない共通点がある。たとえば、オーズとオージン、フレイヤとフリッグ(別名フリーン)というふうに名前が似ていること。オーズとオージンがともに旅に出ることが多いこと。また、戦死者は半分がオージンのものになるが、残る半分をその妻フリッグではなくフレイヤが持っていく。これらのことから、オージンとフリッグがそれぞれオーズとフレイヤという名で信仰されていた時期があったか、もしくは、それぞれの若い年代の名前であったと考える研究者もいる(wikipedia)


さて、オーズという名前には「激情」という意味の他に「不思議な酩酊に満たされた者」という意味もある(『北欧とゲルマンの神話事典』)


本作には「酩酊」というラテン語の名前を持つ者がいる


エーブリエタースである


彼女の父親が誰かは分かっていないが、彼女は見捨てられた上位者と呼ばれ、そして見捨てた者を探すように宇宙を見上げ続けている


彼女を見捨てた者が彼女の父親であるとするのならば、彼女は父親の名を受け継いだのである


そして彼女が見捨てられたのは、父親が「長い旅」に出たからである


その父親とはオーズつまり狩人の首領であるオドン(オーディン)のことである



5.好色

女嫌いとも女たらしとも呼ばれるオーディンであるが、実際に彼は女神フリッグの他に女巨人との間に子供を何人も作っている


※賢者の血から造られた霊酒を飲むために女性をたらし込んだりもしている


予言者に「愛息バルドルの仇を討つためにはリンダを言う女に息子を産ませなければならない」と告げられたオーディンは、リンダを狂乱させることで望みを叶える


狂乱と妊娠は偽ヨセフカやアリアンナに見られた症状である


好色というのはギリシャの主神であるゼウスとも共通する(参考→ダナエ



6.オドの力

吸血鬼による吸血現象を説明する説の一つとして「オド」がある


吸血鬼は吸血が目的で血を吸っているのではなく、犠牲者のもつ「オド」を吸っているのだというのである


オドの力を提唱したのは、カール・フォン・ライヘンバッハ(1788~1869年)である(Wikipedia)


オーディンにちなんで「オド」と名づけられたこの神秘的なエネルギーは、宇宙に存在するものすべてのものから発出している物質であるという


ドイツのカール・フォン・ライヘンバッハは、宇宙に存在するすべてのもの(特に星々や惑星、水晶、磁石、人間など)から発出している物質が存在すると考え、北欧の神オーディンにちなんで「オドの力」と名づけた[1]。オドの力には重さも長さもないが、計測可能であり、観察可能な物理的効果を及ぼすことができるとした(wikipedia)


この物質は重さも長さもない、磁気のようなものであるという(光も磁気の一種である)


カール・フォン・ライヘンバッハは1845年に、 電磁界とよく似た特性を示す「オドの力」と呼ばれるフィールドの理論をドイツの一流の学術誌の1つ『薬学及び化学の年報(Annalen der Chimie und Pharmacie)』で発表した。オドとはもともと様々な結晶構造を持つ物体から発散されているいまだ知られざる自然の力で、ライヘンバッハは、オドは磁極のように互いを引きつける力の特性を有しており、また、磁極もオドと関連する極性を有しているとし、オドが人間の身体に水晶の力に似た極性を生み出すことを発見したと主張した。ライヘンバッハの主張によれば、身体の生命力には磁石のような極性があり、身体の左側が負で右側が正である。さらにライヘンバッハは、オドが「動物」や「植物」からも発散されており、太陽や月などの星々からも発散されていると発表した。(wikipedia)


※「右回りの変態」ならびに「左回りの変態」は生命力のもつ極性(左側が負、右側が正)をモチーフにしたものとも解釈できる


同時代フランスの魔術師エリファス・レヴィは『大いなる神秘への鍵』の中でオドについて以下のように述べている


「すべてこれらの驚異は、ヘブライ人ならびにフォン・ライヒェンバッハ男爵がオドと呼び、われわれがマルティネス・パスクヮリス一派とともに星の光と名づけ、ミルヴィーユ伯が悪魔、錬金術師たちがアゾットと呼んだ、さる比類のない動因によって成就されるのである」(『吸血鬼幻想』種村季弘)


また種村季弘によれば、オドは錬金術でいう飲める金(Aurum Potabile)である。そしてのヘブライ語の語源(アウルム)である


人間はこのような宇宙的な光につつまれており、吸血鬼はこの光を吸うのだという


生ける屍である吸血鬼がオドの力を欲するのは、オドが生命力そのものだからである


さて、エーブリエタースならびに聖歌隊が待ち望む「星の徴」を「星の光」と解釈するのならば、とはすなわち「オド」のことである


そしてオドとは元をたどれば、やはりオーディンなのである



7.ヤームナヤ文化

オーディンは北欧神話の主神である(諸説あり)


その北欧神話を伝承してきたのはゲルマン系の民族であるが、彼らの発祥地ドナウ川とウラル山脈の間に広がる広大な地域である(これも諸説あり)


そこに栄えた文明を「ヤームナヤ文化」という(wikipedia)※ヤムナ文化ともいう


ヤーナムとヤームナヤ、似ているがモチーフであるかは断定できない


だが本作にも強い影響を与えたと思われる『フィーヴァードリーム』という吸血鬼小説がある


この小説に登場する吸血鬼(夜の人々)の故郷は同じウラル山脈付近であるとされている



オドン

オドンとは上述したようなオーディンの様々な側面を組み合わせて創造された神格である


それはワイルドハントの夜狩猟団を率いて狩りを行ない、獣化や水銀や生殖と密接に関わり、また神秘学的に言えば、「宇宙の光」である


ブラッドボーンにおいてもそれは、赤い月の夜狩人を率いて狩りを行ない、獣化や水銀や生殖と密接に関わり、「宇宙の光」であるものである


この宇宙の光とは星の光(徴)であり、また月を青く染める光でもある


ゲールマンが両手を広げると月が青い光に染まり次の瞬間大爆発を起こすが、オーディンの徴を持つ狩人が祈る対象は「オーディン」すなわち「オドン」である


月が青い光に染められる

しかしながら、オドンは姿なき故に声のみの存在である


「姿なきオドン」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

上位者オドンは、姿なき故に声のみの存在であり

その象徴となる秘文字は、水銀弾の上限を高める


故に月そのものではない


それは物質としての月ではなく、月を青く染めているもの、つまり「青い光」である


あるいは宇宙のまるい穴から見える青い光の世界を「青ざめた月」と表現したものとも解釈できる


青い光は宇宙からの神秘の光であり、月を青く染めるが無形であり、また「」でもある


なぜならば「」とは空気の振動、すなわちであるが、もまた「」だからである


※姿なきオドンは英語版では「Formless Oedon」である。Formlessとは「形のない」や「無定形の」といったニュアンスである


また上位者の声とは、「見える」ものなのである


ああっ! あああっ! それが、形なのですね

導きよ、あなたの声が見えました。はっきりと歪んで、濡れています(実験棟の患者アデライン)



オドンの粒子

※この項は「考察まとめ10 オドン」のコメント欄にいただいたぽ氏オーディン粒子説がもとになっている


は科学的には粒子の性質も併せ持つ


オドンである青い光もまた波と粒子の性質を併せ持っている


けれどもオドンは「姿なき」存在であったはずである。波の側面はともかく粒子は物質のように思える。これはどういうことか?


オドの力を提唱したカール・フォン・ライヘンバッハによれば、オドの力は重さも長さもない磁気のようなものであるという


重さも長さもない、つまり姿がないのである


このように青い光のうち「声(波)」はオドンである。だがオドンには粒子の側面も存在する


それは「オドン粒子」と呼べるものである


光の粒子フォトンと呼ばれるように、またボーズ粒子ボソンと呼ばれるように、そして音子フォノンと呼ばれるように、素粒子には特有の命名規則がある


つまり「種類+オン」である(この命名規則の理由は筆者には不明である)


オドン粒子、すなわち「オーディンの粒子」をこの命名規則に従って命名するのならば、「オドン」という「響き」になるのである


(このオドン粒子説はぽ氏のコメントを参考にさせていただいた。ありがとうございます)



遺志

さてオドンが青い光でもあるということはすでに述べた


しかしそれではオドンを説明するのに不十分である


上で吸血鬼は血と共にオドを吸うのだと述べた。つまりオドの力は血に宿っているのである


本作においても血に宿る神秘的エネルギーが存在する


遺志である


遺志は狩人の力となる神秘的エネルギーであり、遺志を力に変えることが夢に依る狩人の能力でもある(人形を介して)


死血の雫

夢に依る狩人は、血の遺志を自らの力とする

使者に感謝と敬意のあらんことを


遺志は血に宿り、そして声を響かせている


英語版で血の遺志はBlood echoと表記される。echoとは「こだま」や「反響」を意味する英単語である


すなわち「」である


要するに遺志とはオドンの一側面であり、モチーフであるオーディンのオドの力としての側面を受け継いだものなのである(ただしそれもまた一側面に過ぎない)


カレル文字「月」が更なる血の遺志をもたらすのは、遺志としてのオドン青ざめた月としてのオドンの繋がりによるものである



隻眼その他

神話によればオーディンは隻眼であるという。知識を与えてくれるミーミルの泉の水を飲むために、巨人に片目を渡したからである


本作に当てはめるのならば、神秘を獲得する代わりに瞳を失う、つまり瞳が寄生虫に寄生されることを意味するのである


故にシモンは両目を包帯で覆っているのである


聖歌隊が目を覆うのも同じ理由からである。思索による超越的思考の獲得を目指していた彼らにとって、寄生虫のもたらす神秘を得ることは邪道だったのである


より神話的に解釈するのならば、空に浮かぶ月こそがオーディンの失われた片眼なのかもしれない


またミーミルは後に首をはねられるが、オーディンがそれに防腐処理を施し、ことあるごとにその首に相談しに言ったという


ローレンスの頭蓋が聖体であるのは、そういったモチーフがもとあるからなのかもしれない


さて、またオーディンは賢者クワシールの血から造った霊酒を飲むために、巨人の娘を篭絡し寝床を共にしたという


この霊酒を飲んだものは誰でも詩人や学者になれたとされるが、本作において聖血が神秘の知識をもたらすことは、これに由来するのかもしれない



まとめ

以上のようにオドンには多面的な性質・機能が付与されているが、これらのいくつかはオーディンに由来するものである


神としてのオーディン上位者としてのオドンとなり、宇宙の光としてのオーディン青い光(波・粒子)としてのオドンになったのである


また猟師を率いるオーディン狩人を率いるオドンとなり、オーディンの猟師たちが狩りをするワイルドハントは、狩人が狩りをする赤い月の夜となったのである


そしてオドの力としてのオーディンは、遺志としてのオドンになったのである


※クトゥルフ的な要素を加えるのならば、アゾットをアザトースと見ることも可能かも知れない


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