はじめに
この記事は、DLCに登場するゴースという名前がGhoth the Burrowerから採用されたと推測するとブラッドボーンのストーリーはどのように解釈できるか、という一種の思考実験的な考察であるよってかなり飛躍した部分も存在することを先に断っておく(いつも以上に飛躍している)
Ghoth the Burrowe
Ghoth the Burrowerとはラヴクラフトの作成した架空の系図に記載された神性であるクトゥルフの末裔であり、その名をゴース(Ghoth)と読める
Burrower
このGhoth the Burrowerという名前から想像される姿と、DLCに登場するゴースの外見は非常に隔たっている印象があるBurrowerとは一般的に「穴掘り動物」を指すうえに、カッコ書きに(one of the Little People)とあることから穴を掘る小さな人々の一人、とも解釈することができる
しかしながらDLCに登場するゴースは深海に住むような軟体生物的な姿をしている
だがクトゥルフ神話におけるBurrowerの姿はゴースとそれほど隔たっていない
ブライアン・ラムレイの『地を穿つ魔』(原題:The Burrowers Beneath)には、シャッド=メルというクトーニアン種族の統率者が登場する(fandam)
クトーニアンは頭部から触手を生やしたイカのような地底種族とされる
※fandomでは『Chthonianは巨大なイカで、粘液で覆われた細長い虫のような体』と説明されている
このクトーニアンの外見描写は、幼年期の始まりENDに見える狩人の姿を彷彿とさせるものである
そしてまたよく見るとゴースとの類似点も存在する
ゴースの頭部 |
まず頭部から生えた触手、そして大きなイカを細長い虫のようにした体、海棲生物的でありながら、Burrower の特徴も有しているのである
※ゴースの腹部にみえる広がった部分はゴースの遺子を宿して膨張していた腹部の名残である。本来のゴースの体は「細長い虫のような体のイカ」である
広がった部分は羊膜の名残だろうか |
つまるところ、「幼年期の始まりEND」の狩人の姿はクトゥルフ神話における伝統的なクトーニアンの姿であり、ゴースの姿は「頭部の触手、巨大なイカ、細長い虫、リトルピープル」といった要素から解釈しなおされたフロム的クトーニアン(Burrower)である
ゴース
系図によればGhoth the Burrowerはクトゥルフの直系であるDLCの漁村は全体的に『インスマウスの影』をモチーフにしたものである
このことは漁村の雰囲気、またゴースを崇める漁村民たちのEnemy IDが「Deep Ones」であることなどからも明らかである
『インスマウスの影』に登場するインスマウスの住民たちは〈深きもの〉と人間とのあいだに産まれた混血種であり、その〈深きもの〉たちの長老が「ダゴン」である
また〈深きもの〉は「ゾス星系から地球に飛来した旧支配者クトゥルフの眷属(奉仕種族)」ともされ、
「彼らの長である父なるダゴンと母なるヒュドラと海底に沈んだ古代都市ルルイエに封印されたクトゥルフに奉仕するために活動する。」(Wikipedia)
という
そしてまたダゴンとその妻ヒュドラはクトゥルフの娘クティーラの後見人でもある。クトゥルフは肉体が滅びた際に、娘クティーラの子宮に宿り再び誕生するとされる
まとめると〈深きもの〉はクトゥルフ配下の眷属であり、彼らが崇拝するのはクトゥルフであり、そのクトゥルフの姫クティーラの後見人でもある
さて、DLCの漁村民がひざまずいて拝んでいたのは「ゴース(とその胎内に孕まれた遺子)」である
〈深きもの〉が崇拝するのはクトゥルフまたは、クトゥルフを宿した娘クティーラである
このクトゥルフとクティーラ、そして〈深きもの〉たちの構図は、ゴースの遺子の父親とゴース、そして漁村民との関係に相似するのである
つまるところクトゥルフ神話的にはゴースはクトゥルフを妊娠したクティーラになるはずである
※ただしクトゥルフ神話の各神格が本作の上位者たちに正確に対応しているとは限らない
ラヴクラフトの祖先
系図ではラヴクラフト家の祖先は、GhothとViburniaとのあいだに産まれているViburniaはローマの貴婦人とされる
このことから系図のGhothは「雄」と思われ、作中の「ゴース」とは性別が反対である
性別を逆転させてまでゴースの名を使いたかったのは、系図上の「Ghoth」の位置にゴースを挿入したかったからである
なぜならばその位置はクトゥルフの直系にあたり、またラヴクラフト(人間/狩人)の直接的な祖先だからである
悲劇的な婚姻
GhothとViburniaの婚姻については系図の下に注釈書きがある※※This union was an hellish and nameless tragedy.
この組み合わせは地獄のような名もなき悲劇だった。
GhothとViburniaの悲劇的な婚姻の末にラヴクラフトは誕生したのである
これはゴースとビルゲンワースの悲劇的な交わり(漁村事件)の果てに狩人が誕生したことと符合する
またVibruniaの祖先をたどるとナイアルラトホテップにたどりつくが、ナイアルラトホテップは月の魔物との共通点を多くもつ
ナイアルラトホテップの千ある姿の一つ「赤の女王」の描写を介してトゥメルの女王ヤーナムやカインハーストの不死の女王アンナリーゼに繋がっていく
つまるところ、ナイアルラトホテップの子孫がGhothと交わったように、月の魔物の子孫であるマリアはゴースと交わったのである
※ここにいう交わりは性的な交わりと儀式的な交わりの両面を意味する
上述したようにクトゥルフの姫クティーラが妊娠することになっていたのはクトゥルフである。そして本作でクトゥルフにあたるのは「眠る上位者たち」(その主)である
※クトゥルフ=「眠る上位者たちの主」説については前回の「考察23 アメンドーズ」を参照のこと
ゆえにゴースの遺子とは「眠る上位者たちの主」の生まれ変わりであり、その再誕者である
※ミコラーシュが再誕者を生み出したのはあるいはゴースの遺子を再現しようとしたのかもしれない
穢れた血の赤子
ゴースの遺子が「眠る上位者たちの主」の生まれ変わりであるかについては、いくつかの疑問点が残るというのも、ゴースの遺子は当初はマリアの赤子であったと思われるからである
ゲームの初期バージョンでは古工房に置かれた「3本目のへその緒」のテキストが異なっていた。以下がその英文である
One of the heirlooms used to contact the Great Ones, originating in the child of the Vilebloods. Long ago, in an encounter with the Great Ones, a contract was established, establishing the hunters and the hunters dream.
これを日本語に訳したものが以下である(DeepL翻訳+修正)
上位者との接触に使われた家宝の一つで、穢れた血の赤子を起源とする。大昔、上位者との出会いの中で契約が成立し、ハンターとハンターの夢が確立された。
このアイテムが古工房のマリアに似た人形のそばに置かれていたのである。いうまでもなくマリアは穢れた血族の長、不死の女王アンナリーゼの傍系である
マリアの狩帽子
不死の女王、その傍系にあたる彼女は
だがゲールマンを慕った。好奇の狂熱も知らぬままに
その穢れた血は上位者の赤子を産むことすらできるものである
3本目のへその緒(娼婦アリアンナ)
すべての上位者は赤子を失い、そして求めている
姿なき上位者オドンもまた、その例外ではなく
穢れた血が、神秘的な交わりをもたらしたのだろう
そして時計塔のマリアは、恥ゆえに漁村の存在自体を隠していた
だが、注意することだな。秘密には、常に隠す者がいる
…それが恥なら、尚更というものさ(シモン)
また秘密は狩人の罪でもあった
…この村こそ秘密。罪の跡…
…そして狩人の悪夢は、それを苗床とした…
お願いだ、悪夢を、終わらせてくれ…
たとえ罪人の末裔でも…
…憐れじゃないか。俺たち、狩人たちが…(シモン)
そして秘密はマリアの先に隠されている
…時計塔のマリアを殺したまえ
その先にこそ、秘密が隠されている(シモン)
隠されていた秘密とはマリアの恥であり、それはゴースの遺子である
マリアに「不死の女王の傍系」という設定を付与したのは、上位者の赤子を宿せるという特質を持たせたかったからであり、逆に言うと、その特質を持たせないのであれば不死の女王の傍系という設定を付与する必然性はない
二人の母
クトゥルフ神話ベースで考えるのならば、ゴースの遺子とはクトゥルフ、つまり「眠る上位者たちの主」の生まれ変わりであるまた作中の伝承ベースで考えるのならば、ゴースの遺子はマリアの赤子であったとも解釈できる
※テキストの変更は設定が変わったことのほかに、あからさますぎたという理由で変更されたということも考えられる
すなわちゴースの遺子にはゴースとマリアという二人の母が存在することになる
この矛盾はしかしクトゥルフの再誕のメカニズムから解消することが可能である
上でクティーラ(ゴース)はクトゥルフの肉体が滅びたときに彼を再び産み直す、と述べた
肉体が滅びたとき、ということは彼は肉体を失っているのである。精神のみしか残っていない彼がクティーラに宿るには、その精神を宿す器(胎児)が用意されていなければならない
つまりマリアの赤子は「眠る上位者たちの主」の精神を宿す器として用いられ、ゴースに移植された後に奪い去られたのである
いわばマリアが受精卵を提供し、ゴースは代理母として利用されたのである(その段階でゴースが生きていたかは不明)
※Tina L. Jensの『In His Daughter’s Darkling Womb』(彼の娘の闇の子宮)という小説では、クティーラは研究者によって人工授精の被験体にされている
空の上位者
二人の母のうち、ゴースは代理母でありマリアは胎児を提供した実母である。ここでその父親はオドンといいたいところだが、残念ながら作中の描写では赤い月の接近が無い限りオドンは女性を身ごもらせることができない※赤い月との邂逅はマリアの赤子の持つ3本目のへその緒を介してである
よってマリアの父親は上位者ではなく人ということになり、狂熱を持っていたゲールマンか、シモンが死に際に名前を並べて口にするルドウイークが候補として挙げられる
…クソッ、こんなところで…
…ルド、ウイーク…マリア…(未使用セリフ)
遺子を倒したあとのゲールマンの様子(寝息が穏やかになった、と人形が指摘)から、ゲールマンの可能性が高い
「眠る上位者たちの主」の器になるべく、ゴースの胎内に移されたマリアの赤子は上位者となって再誕したのだが、そこに「眠る上位者たちの主」の精神は宿っていなかった
それは精神が空(vacuus)の上位者だったのである
つまるところ後の白痴の蜘蛛、ロマである
※ロマの英名は「Rom, the Vacuous Spider」である。vacuousはラテン語のvacuusが語源であり、vacuusは「空(から)」や「欠けている」の意味
※またロマは眷属であり、眷属とは人が人ならぬ者に変異したと考えられることから、誕生時の赤子は人間であったと推測される
眠る上位者たちの主
ゴースとマリアの赤子がロマであり、かつゴースの遺子であるとすると赤子が二人いることになる※ローレンスの頭蓋のように現実と悪夢で存在様態が異なるのだ、としても良い
しかし上述したようにマリアの赤子はある上位者の精神の器として用意されたものである。その器がゴースにより瞳を授けられロマとなったとすると、残されたのは宿るはずであった上位者の精神である
実はプレイヤーの戦うゴースの遺子は上位者ではない。Nightmare Huntedの文字が表示されるのはゴースの遺子を倒したあと、ゴースから立ち上る黒い影を斬った時である
この黒い影はゴースではなくゴースの遺子に酷似している
この黒い影こそマリアの赤子に宿るはずであった「眠る上位者たちの主」の精神であり、ゴースの本来の遺子である
黒い影であるゴースの遺子は攻撃されることで海へと還っていく
…ああ、ゴースの赤子が、海に還る…
呪いと海に底は無く、故にすべてを受け容れる(漁村の司祭)
還るとは元の場所に帰ることを意味する
ゴースの遺子は元々は海にいたということになる
しかし元々海にいたのはプレイヤーが戦った肉体を持つゴースの遺子ではなく、黒い影、つまり「眠る上位者たちの主」の精神である
そして「眠る上位者たちの主」はクトゥルフ神話的には大祭司クトゥルフと対応関係にあるが、大祭司クトゥルフが封印され眠っているのは、海底都市ルルイエである
秘密
狩人の悪夢には秘密が隠されているというその同じ秘密を学長ウィレームは湖に隠したのである
月見台
ビルゲンワースの二階、湖に面した月見台の鍵
晩年、学長ウィレームはこの場所を愛し、安楽椅子に揺れた
そして彼は、湖に秘密を隠したという
漁村事件はビルゲンワースひいては学長ウィレームが主導したことは、漁村民の恨みが狩人ではなくビルゲンワースに向けられていることからもわかる
その漁村事件の成果を得る地位にいたのは学長ウィレームしかいない
またロマのモーションからは特有の幼児性のようなものが感じられる
宮崎英高氏はインタビューで一番好きなボスにロマをあげ、こう述べている
デザインや雰囲気から、そういう哀愁漂う空気まで、私は本当に好きです。彼女の動きとモデリングには、いくつかの奇妙にかわいい側面があります。
この文章からは、ロマが女性であること、また奇妙にかわいい側面があることが分かる
この奇妙にかわいい側面はロマが幼児であることから醸し出されているのである
またロマが女性であるのは、血族の母系社会を反映したものと考えられる
さて、学長ウィレームは晩年に湖に秘密を隠したという。この秘密とはロマのことであるが、なぜウィレームがロマを隠さなければならなかったかというと、「すべての上位者は赤子を失い、そして求めている」からである
3本目のへその緒と切り離されたがゆえに、ロマが上位者に狙われることはなかったが、上位者の赤子であることには変わりない
それゆえに学長ウィレームはロマを湖に隠し、ロマは無意識の防衛本能からくる「隠す能力」を発揮させたのである
ここでも「隠す」ことが重要な概念となってくるが、ロマがその力を持つのは彼女が漁村に深く関わり、彼女自身が「隠さなければならない者」として誕生したからである
一方、ロマが所持していた3本目のへその緒はローレンスやゲールマンの手に渡り、それは青ざめた月との邂逅をもたらすことになったのである
3本目のへその緒(古工房)
すべての上位者は赤子を失い、そして求めている
故にこれは青ざめた月との邂逅をもたらし
それが狩人と、狩人の夢のはじまりとなったのだ
学長ウィレームも3本目のへその緒も手に入れようとしていたことは、3本目のへその緒(ヨセフカ)のテキストからもうかがえる
3本目のへその緒(ヨセフカ)
かつて学長ウィレームは「思考の瞳」のため、これを求めた
だが、ローレンスはロマのへその緒を“隠し”持ちウィレームに渡さなかったのである
ああ、知っている
君も、裏切るのだろう?
というセリフは、単にウィレームと袂を分かつことだけではなく、かつて禁忌の血をカインハーストに持ち出した裏切り者のように、ローレンスもウィレームの大事なものを奪っていくことへの、皮肉である
幼年期の始まり
幼年期の始まりENDにおける狩人の姿はクトゥルフ神話のクトーニアンに酷似している。ということは上述したようにゴースにも似ていることになる結論から先に述べれば、上位者となった狩人がゴースと似ているのは、その肉体にゴースの血が流れているからである(ゴースあるいはその赤子であるロマの血)
※ゴースにはおそらく血が無い(血の無き者たち)なので、その赤子たるロマの血だと思われる
これはインスマウスの住民に〈深きもの〉の血が流れており、年を経るに従い〈深きもの〉の姿に似てくることと同じ理屈である
ゴース(ロマ)の血は、血の医療として狩人に取り込まれ、狩人が上位者になった際に発現し、その血の祖先と同じ種族へと進化したのである
血の持主ゴースと同じ種族、つまりはBurrower=クトーニアンである
マリアとゴースの赤子は巡り巡って、ゴースの似姿を持つ上位者としてマリアの似姿である人形の手に抱かれたのである
※クトゥルフ神話TRPGにおいて、多数の地球外生物学者に否定されているものの、クトーニアンの最終形態とされるクリーチャーがいる。それが「ドール(Dhole)」である。このドールと人形(Doll)との関係は分からない
蛇足
Ghoth the Burrowerという題名どおり、ゴースをGhothと解釈して展開させた考察である厳密にはブラッドボーンはコズミック・ホラー作品であり、シェアワールドとしてのクトゥルフ神話の一部ではない
※そもそもクトゥルフ神話とコズミック・ホラーというジャンルは重なる部分はあれど完全に同じではない
そのために作中の上位者それぞれにクトゥルフ神話のなかに対応した神性がいるかというと、やや疑問である
しかしながらインタビューで明言しているように、本作は『クトゥルフの呼び声』の影響を強く受けているという
『クトゥルフの呼び声』を換骨奪胎し、再解釈したものがブラッドボーンだとすると、その主役はやはりクトゥルフになるのではないかと思われる
そしてブラッドボーンに登場する上位者のうち、もっともクトゥルフに似ているのはアメンドーズである
だが複数いるアメンドーズと一人しかいない大祭司クトゥルフを同じものとすることはできない
けれども大祭司クトゥルフには似姿を持つ眷属たちがいる。その眷属をアメンドーズと仮定するのならば、アメンドーズたちの統率者こそが「眠れる上位者たちの主」になるのである
この「眠れる上位者たちの主」の正体については、意図的に言及を避けてきた。これについて語ろうとすると話が大きく逸れる上に、やや込み入っているからである。また結論が出ていない部分もある
しかし端的に言えば、「眠れる上位者たちの主」とは「オドン」になるのではないかと考えている
またマリアの赤子=ゴースの遺子説については過去の考察を流用したものであり、これからの検証や考察により変更や大きな修正が入る可能性が高い
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