獣血
獣血の丸薬にあるように、獣血は人を獣性に導くという獣血の丸薬
獣血を固めたといわれる巨大な丸薬
故は分からず、医療教会は禁忌として関わりを否定している
飲んだ者を一時の獣性に導く
獣性は攻撃により、傷つき裂ける肉と返り血により高まり
それを続けることで、更なる力と快楽を、使用者にもたらすだろう
また古狩人シリーズには、古狩人たちが獣血を恐れていた様子が記されている
古狩人の手甲
当時、一部の狩人たちは
ある種の金属が獣血を祓うと信じていた
狩りの夜、人が何かに縋るのは当然のことだ
古狩人のズボン
「獣血は右足から這いあがる」とは、当時の迷信であり
二重に巻かれたベルトはその名残であろう
狩人たちが獣血を恐れたのは、獣血に侵されると獣になるからである。このことは獣血の丸薬により獣性に導かれることからも明らかである
すなわち獣血は「獣の病」の原因といえるものである
「獣の病」の治療を目指す医療教会にとって、獣血は憎むべき病原体そのものである。ゆえに医療教会は獣血を禁忌とし、関わりすら否定しているのである
禁忌の血
医療教会によって禁忌とされているものがもう1つあるそれが禁忌の血である
アリアンナの血
古い医療教会の人間であれば、あるいは気づくだろうか
それは、かつて教会の禁忌とされた血に近しいものだ
同じように禁忌に分類されているが、アリアンナの血は禁忌の血に「近しい」というやや婉曲な表現になっている
禁忌である獣血は人を獣化させ、禁忌の血に近しいとされるアリアンナの血は体力とスタミナを回復させる
ここで問題となるのは獣血と禁忌の血は同じものか否かである
まず獣血は医療教会の禁忌となっているので、医療教会の讃える「聖血(Old blood)」ではない。英語版でも獣血は Beast blood と訳されている
そのうえ古狩人たちは獣血を恐れ迷信を信じていた
古狩人のズボン
「獣血は右足から這いあがる」とは、当時の迷信であり
二重に巻かれたベルトはその名残であろう
この迷信を裏付けるように狩人の始祖ゲールマンは右足を失い、カインハーストの騎士像の右足は欠けている
また古狩人たちは獣血に対する金属の効験を信じていた
古狩人の手甲
当時、一部の狩人たちは
ある種の金属が獣血を祓うと信じていた
これと類似した思想を示したのが、カインの鎧である
カインの鎧
ごく薄く、布のごとき銀製の鎧は、悪意ある血を弾くとされ
彼ら近衛騎士は、これを頼り女王のために「血の狩人」となる
つまり古狩人は獣血を恐れ、血族は悪意ある血を恐れていたが、その血が右足に何らかの異常をもたらすという思想は類似しており、また金属に対する反応も一致することから、この両者は同じものあるいは極めて近しいものと考えられる
そもそも禁忌の血とは要するに血族の長たる不死の女王アンナリーゼの血である。血族がそれを忌避する理由はない
よって獣血と禁忌の血は同じものではない
獣血(悪意ある血)は古狩人にとっても、血族にとっても忌まわしい血なのである
獣の病がカインハーストにおいても忌まわしいものとされていたことは、レイテルパラッシュのテキストにも記されている
レイテルパラッシュ
古くから血を嗜んだ貴族たちは、故に血の病の隣人であり
獣の処理は、彼らの従僕たちの密かな役目であった
獣血の主という名前
さて、深きトゥメルの「獣血の主」には頭部があり、その名は「獣毛の生えた巨大な獣」を指しているものとプレイヤーに認知されるだがトゥメル=イルで遭遇するそれには頭部がなく、さらに戦闘しているうちに頸部から長い虫のようなものが生えてくる
プレイヤーはこのタイミングで「獣血の主」とは「獣毛の生えた巨大な獣」を指す名ではなく、巨大な獣を操っているこの「長い虫」の方を指しているのではないか、と気づかされるのである
※ボス名そのものにトリックを仕込むのは、例えばSEKIROの「四猿(見る猿、聞く猿、言う猿、 )にも例がある
※また獣血の主の寄生虫メカニズムは、SEKIROの獅子猿と酷似している
獣血の主という名は「虫」が獣血よりも上位にいることを示す名前であり、「主」という単語を比喩的に解釈するのならば、「虫」こそが獣血の源である
淀み
虫は人の淀みの根源ともされる虫
連盟以外、誰の目にも見えぬそれは
汚物の内に隠れ蠢く、人の淀みの根源であるという
SEKIROでは、竜咳の源は血の淀み、と説明される。つまり淀みが病を発生させているのである
「竜咳の源… それは、血の淀みです」(エマ)
この淀み→病というSEKIROの設定を本作に当てはめるのならば、虫が生じさせる淀みは「獣の病」となって人に降りかかることになる
つまり、血から生じた虫は淀みを生むことで人を獣にする病気を媒介するのである
※詳細は省くが虫の毒の有無は湧いた血によって左右される。トゥメル人に湧いた虫は有毒であり、ヤーナム人に湧いた虫は無毒
※言うまでもなくBloodborneとSEKIROは別作品である。しかしながら「虫」や「奇病」といった共通する概念が登場すること、また上位者との幾つかの共通点など(ナメクジなど)があることから、その背景に共通世界を見出すことも不可能ではない
※共通世界をもつ複数の個的なストーリーという構造は、本作に多大な影響を与えている『フィーヴァードリーム』や『皮剥ぎ人』を著したジョージ・R・R・マーティンの作品群に《一千世界(サウザンド・ワールズ)》として見られるものである
風土病
公式サイトでは獣の病は風土病と説明されている古都ヤーナム
遙か東、人里離れた山間にある忘れられたこの街は、
呪われた街として知られ
古くから、奇妙な風土病「獣の病」が蔓延っている(公式サイトのストーリー)
さて風土病をWikipediaで検索すると、狭義の風土病として「地方病」へのリンクが張ってある
地方病 (日本住血吸虫症)
地方病のページの「感染経路の研究」には、以下のような記述がある
松浦は藤浪らの動物実験とほぼ同時期の1909年6月下旬、皮膚にかぶれが起こると農民から聞いた水田で、右足には何も付けず、左足にゴム製のゲートルを着用した状態で有病地水田を数時間歩くと、何も付けなかった右足側にのみ、足の甲から水に浸かっていた膝にかけて、かゆみを伴う赤い斑点が発症した。
古狩人のズボン
「獣血は右足から這いあがる」とは、当時の迷信であり
二重に巻かれたベルトはその名残であろう
もちろん実験における左右の足の選択は人間による恣意的なものであって、寄生虫の自然的選択ではない
しかしこの実験は古狩人のズボンにある「獣血は右足から這いあがる」のインスピレーションのもととなったのではないだろうか
そしてふと気づく、「這いあがる」「悪意の血」「血を這わせる」といった血を擬人化したような表現は、実は擬人化ではなく事実を語っていたのではないだろうか、と
これらの表現は比喩ではなく、実際に虫が右足を這いあがるのであり、悪意を持った虫がいるのであり、刀身に血を這わせることで劇毒をもった虫が生じるあるいは変異するのである
生活環
これまでの経緯を簡単にまとめる獣の病の原因は、血液に寄生する虫が生み出す淀みである
この虫の生活環は以下の図のとおりである
この寄生虫は血によって媒介され人に感染していくが、人の目に触れるのは獣(終宿主)の体を乗っ取り、成虫(獣血の主)になった時のみである
例外として隠れ蠢く虫を連盟員が見つけ出すことがある
また、血の狩人が血に酔った狩人から見出すことがある
血の穢れ
カインハーストの血族、血の狩人たちが
人の死血の中に見出すという、おぞましいもの
血の遺志の中毒者、すなわち狩人こそが、宿す確率が高いという
故に彼らは狩人を狩り、女王アンナリーゼは
捧げられた「穢れ」を啜るだろう
血族の悲願、血の赤子をその手に抱くために
以前何かの考察で血の穢れ=精子説を述べたことがある。形質からすると今でもある程度は妥当だと思われるが、血に感染する寄生虫の存在を前提とすると、結論を変えざるを得ない
参考までに血の穢れのグラフィックは以下のようなものである
これは確かに精子に似ている。しかし、寄生虫における成虫の前段階であるセルカリアにも似ているのである
日本住血吸虫のセルカリア |
「吸虫類において成虫になる1つ前の段階、寄生虫学用語でセルカリアと呼ばれている」(Wikipedia)
血の遺志の中毒者である狩人は、必然的に血の遺志を摂取する量が多い
獣の病はヤーナムに蔓延る風土病であり、ヤーナム人の多くはその原因である「虫」に感染している。ゆえに寄生虫に感染する確率も高くなる
そうして宿ったセルカリアを不死の女王アンナリーゼは啜る
血の赤子を抱くためである
上位者の赤子の器になるのか、それとも寄生虫そのものが上位者へと変異するのかは不明だが、海岸に打ち棄てられたゴースの遺体にも寄生虫は巣くっていた
ゴースの寄生虫
海岸に打ち棄てられた上位者ゴースの遺体
その中に大量に巣食う、ごく小さな寄生虫
人に宿るものではない
卵
寄生虫の成虫ならびにその前段階のセルカリアは作中ではそれぞれ「獣血の主(虫)」ならびに「血の穢れ」として登場するこの寄生虫のすべての大元となるのが、卵である
寄生虫の卵は、呪われた濡血晶に見出すことができる
呪われた濡血晶
病める斑点は呪いの徴であり、害悪ある効果を持ってしまうが
その中でこそ高まる効果もあるものだ
それは「病める」斑点であり、「呪い」の徴であり、「害悪」をもたらす
病める、とはそのまま「病気」の意味である
また斑点というが、グラフィック上はツヤのある虫の卵のような球体である
また害悪には幾種類もの効果が存在するが、そのうちに「劇毒」を加算するものもある
そしてそれは「呪いの徴」であるという
これにより「虫」がどこからやって来たかも判明する
呪いとは、上位者の怒りに触れた証である
冒涜の聖杯
呪いとは、上位者の怒りに触れた証であり、呪詛であり
この儀式を成就するためには、特別な素材が必要である
虫は上位者によってもたらされ、それは血を持つ者に致命的な害悪を引き起こすのである
奴らに報いを…母なるゴースの怒りを…(漁村の司祭)
赤子の赤子、ずっと先の赤子まで、永遠に血に呪われるがいい…(漁村の司祭)
…さあ、呪詛を
すべての血の無きものたちよ
すべての血の無きものたちよ
我らに耳をすましたまえ(漁村の司祭)
これらのことから、なぜ赤い月が接近すると(それはつまり上位者が接近することを意味する)獣の病が蔓延するのか、という疑問に対する答えが得られる
獣の病の原因となる虫は上位者に由来するからである。その接近は寄生虫の散布に他ならず、そうしてばらまかれた虫は、人の血を媒介にして感染を拡大していくのである
生活環2
以上をまとめると以下の図になる※卵は呪いによって生じるものと、成虫が生み落とすものがある
血液
本作のタイトルBloodborneには「血液感染」という意味もある※複数の意味を込められたダブルミーニングであるが第一義的には「血液感染」であろう
これはヤーナムの風土病、「獣の病」が血液によって感染していくことを示したタイトルである
上で考察したように、獣の病の病根には淀みがあり、淀みの根源には虫がいる
虫は上位者の怒りの証、呪いの徴であり、血のある者たちは血に寄生する虫からは逃れることができないのである(たとえ月の獣であっても)
漁村の司祭が呪詛するように、まさしく「血に呪われた」状態である