まとめ

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2020年4月30日木曜日

Bloodborne 考察22 旧主 クトゥルフ追記

※この考察は「考察21 古い血」に寄せられた無銘氏のコメントに多くを負ったものである。いくつかの相違点もあるので詳細は上記記事のコメント欄を参照して欲しい

旧き印

旧き印とはクトゥルフ神話作品に登場する「旧神の印」(Elder Sign)のことである(wikipedia)

クトゥルフや外なる神を排除するために用いられるシンボル・物品(石)で、初出は『未知なるカダスを夢に求めて』とされる(Wikipedia参照のこと)

そのデザインは執筆者や時代により変更されていくが、もっとも有名な図柄はダーレスの描写した「中心に燃える柱(あるいは目)をもった五芒星」であろう

それが以下の図である



これとほぼ同じデザインなのが、本作に登場するカレル文字「瞳」である



旧神

旧き印(Elder Sign)はその名の通り「旧神」(Elder God, Old One, Ancient One)の印である(wikipedia)

※旧神については解釈がさまざまで確定された定義のようなものはない(翻訳も相まって錯綜している)。したがってここでは「邪神に敵対する神々」または「地球の幻夢境に住む脆弱な神々」としておく

さて、旧き印女神ヌトセ=カアンブルが作ったものとされる。この女神は「封印され眠り続ける邪神の敵対者」であり、幻夢境の神でありそして旧神でもある

旧神は『未知なるカダスを夢に求めて』においては、ナイアルラトホテップに保護されている幻夢境の神々とされる

その弱き神々を率いるのが旧神の王ノーデンスである(これについても作品によってさまざまに設定が異なる)

つまり、旧き印とは旧神の加護のある印のことであり、旧神は邪神と敵対する者とされまたその王はノーデンスなのである(旧神の中で名を知られた唯一の神ともされる。また例外もある)


ノーデンス

ノーデンスはラヴクラフト『霧の中の不思議の館』において海神たちを率いる「深淵の主」として登場する(詳細はWikipedia

『三叉鉾(ほこ)をもつネプトゥーヌスがいて、陽気なトリトーンと気まぐれなネーレーイスに加え、海豚(いるか)の背には小円鋸歯(きょし)状の巨大な貝殻が備わり、そこに大いなる深淵の主、至高のノーデンスの白髪をいただく威厳のある姿が見えた』(ラヴクラフト全集7『霧の中の不思議の館』より引用)

ここでノーデンスは深淵の主であり、幾多の海神を率いる主神として表わされている

訳者解題によれば、ノーデンスは海に沈んだ伝説のアトランティスに関わる神のように受け取れるという

※アトランティスは同じく海に沈んだ都市「イス」の伝説の大元である。これは本作の「イズの地」に海棲生物的なエーブリエタースがいたことや、そこが「宇宙(つまり深淵)」に触れていると聖歌隊が考えたことに繋がっていく


さて、ノーデンスは『未知なるカダスを夢に求めて』では主人公カーターを狙うナイアルラトホテップを妨害し、最後には窮極の混沌からカーターを救い出す救世主の役割を担っている

つまり、ノーデンスはカーターを挟んでナイアルラトホテップと敵対しているのである

そしてここでもノーデンスは「大いなる深淵の主」(Lord of the Great Abyss)と呼ばれている

まとめると、ノーデンスとは旧神(Old One)の王であり、また深淵のLord)なのであり、この二つの言葉を一つにまとめると「旧主(Old Lord)」になるのである



旧主

旧主とは、ブラッドボーンの聖杯ダンジョンに登場する「旧主の番人」や「旧主の番犬」に関連づけられた神性である

このうち旧主の番人の装備には「業火に焼かれ、灰となった」旨が記されている

骨炭の鎧
上位者たちの眠りを守る番人たちは
その姿と魂を業火に焼かれ、灰として永き生をえたという

このテキストには2つの解釈が考えられる

1つめは「旧主の番人」とは「眠っている旧主」の番人を意味した名前と解釈することである

2つめは「旧主の番人」とは旧主に仕える番人であり、旧主の命によって上位者の眠りの番にあたっていたものと解釈することである

これまで私は第1の解釈を採っていたのだが、もし仮に眠っていたのが旧神だったとすると上位者たちの眠りではなく「旧主の眠り」と表記するはずである

わざわざ「上位者」と明記し、また「たち」と複数形であることから、ただ一人の主のニュアンスの強い「旧主」を指すとは考えにくいのである

ゆえに、「旧主の番人」とは旧主に仕える番人であり、彼らは罪を贖うために旧主の命によって眠っている上位者の番をしている、という解釈を採ることとする


上位者たち

眠り封印と解釈するのならば、上位者たちは旧主によって封印され、その封印を旧主の番人たちが監視していることとなる

過去の考察あるいは動画において、ブラッドボーンの下敷き(大まかなプロット)となっているのは、『未知なるカダスを夢に求めて』ではないかと指摘してきた

『未知なる』のクライマックスにおいて主人公カーターはついに、窮極の混沌の中心で寝そべるとされるアザトホースの元へと深淵を通って運ばれていく

アザトホースの周囲には従者である蕃神(ばんしん)たちが侍り、太鼓とフルートによってその主をなだめているという

アザトホースの元ネタの1つは、ロード・ダンセイニの短編集『ペガーナの神々』に登場する世界を夢見る神マアナ=ユウド=スウシャイである

ここに「深淵」「混沌」「眠る神」というモチーフが見出されるが、これらを融合したものが「上位者たち」なのである

要するに番人がその眠りを守るという「上位者たち」とは、クトゥルフ的にはアザトホースとその蕃神たちである

聖杯ダンジョン「呪われたトゥメルの冒涜」のボスは順番に「旧主の番人」「旧主の番犬」そして「アメンドーズ」である。アメンドーズだけが何故か異質であり、そこに法則性など存在しないかのようである

だがクトゥルフ神話を援用するならば法則性は見いだせるのである
アザトホースは定期的にアザーティという落とし子を出現させるというのだ

そしてアメンドーズもまた作中で「落とし子」と言われているのである
…ああ、アメンドーズの件は、気にするな
あれは憐れな落とし子。…ゆえに、救いもあったろう(蜘蛛のパッチ)
またアメンドーズという神を失ったパッチとは、なぜか聖杯ダンジョン内で再会する(ショップ)
私は神を失った。新しいそれを、探さなければならない(蜘蛛のパッチ)
パッチが探している新しい神とは、新しいアメンドーズなる「落とし子」に他ならず、それを出現させるのは混沌にいるアザトホースなのである

アザトホースは本作においては古トゥメルの番人たちが監視している「混沌の中心」で眠っているはずである。そこへ行くには聖杯ダンジョンという時空の歪んだ領域を抜け、時間を古代にまでさかのぼっていかねばならないのである

※聖杯ダンジョンの時空の歪みについてはジョージ・R・R・マーティンの『ストーン・シティ』の影響がうかがえる


業火

上位者たちを監視する番人業火に焼かれ灰となったという

ソウルシリーズでは混沌は常に「」とひも付けられてきたが、アザトホースが寝そべるのはまさしく窮極の混沌の中心である

※また混沌の炎はソウルシリーズでは女性とひも付けられてきた。これは旧主の番人女性形であることと共通する

アザトホースと蕃神たちを監視する番人たちは必然的に混沌の炎によって焼かれ、灰となるのである

※より『未知なる』をオマージュするのならば、その熱と光はカーターを追跡してきたナイアルラトホテップの配下たちを焼いたという「夜明け」となろうか


クトゥルフ

上位者たちの眠りを、クトゥルフ(とその眷族)の眠りと解釈することもできる

クトゥルフ神話において、クトゥルフ(wikipedia)は旧支配者を崇拝する神官とも、旧支配者そのものともとれる存在であり、「現在は南太平洋の海底に沈んだ古代の石造都市ルルイエに封印されている(Wikipediaより)」とされる

海底とはつまり、「深海」である

そしてノーデンスは深淵の主であると同時に、海の神ともされる

旧主(ノーデンス)に封印されていた上位者たちクトゥルフとその眷族(クトゥルフの星の落とし子)と考えると、冒涜の聖杯の第三層に落とし子と呼ばれるアメンドーズが登場することも説明できる

クトゥルフの星の落とし子とは、クトゥルフと共に地球に来訪した眷族である。クトゥルヒとも呼ばれその姿はクトゥルフに似ており、上級の奉仕種族とされ、クトゥルフにかわって信者からの崇拝を受ける上級司祭ともされる(また監視者という設定もある)

星の落とし子たちの設定は、ブラッドボーン作中におけるアメンドーズの描かれ方と一致している。たとえばアメンドーズのほぼすべてが教会に張り付いていること、また主人公を監視するように視線を動かすことなどである

※アメンドーズがキノコに似た生態をしているのは、この奉仕種族(転じて胞子種族)をもじったものかもしれない

また上位者が眠っていることは、クトゥルフの呪文「フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ル・リエー・ウガ=ナグル・フタグン(死せるクトゥルフが、ル・リエー(ルルイエ)の家で、夢見ながら待っている)」(ラヴクラフト全集2)とも合致するのである

要するにブラッドボーンは『未知なるカダスを夢に求めて』を下敷きとし、作中のアザトホースのポジションに『クトゥルフの呼び声』のクトゥルフ設定を挿入したもの、と考えると、アメンドーズの存在や眠りといった設定の意味が通じるのである

※「クトゥルフの星の落とし子」の情報は無銘氏のコメントを参考にした

※この項は別の考察として独立させるかもしれない


対立

『未知なる』では、ナイアルラトホテップアザトホースの意志を遂行する使者とされ、主人公カーターを破滅・自滅させるために謀略を巡らす

それを妨害するのがノーデンスである

ノーデンスは配下の夜鬼を遣わしてカーターの旅を助け、最後にはアザトホースの寝そべる「窮極の混沌」の寸前でカーターを救い出す

夜鬼と使者との類似性を無銘氏は指摘している

ここにカーターを軸とした、ノーデンスとナイアルラトホテップの対立が見出されるが、この対立構造はブラッドボーンにも「旧主(ノーデンス)狩人(カーター)月の魔物(ナイアルラトホテップ)」として引き継がれているのである

※ナイアルラトホテップの背後にはアザトホースの意志がある

月の魔物と狩人とは本来的には対立しているものなのである。というのもトロフィー「遺志を継ぐ者」では、その説明に「月の魔物に魅入られ…」と記されているからである

魅入られたがゆえに狩人は敵対者である月の魔物に膝を屈したのである
しかしながら狩人には本来的な目的、月の魔物を狩るあるいは封印するという目的があり、ゲールマンはその最後の希望をローレンスに託していたのである

でも、よかった。君が戻ったということは、やっと終わるのだろう?
今宵は月も近い。最後の夜には相応しいことだ…(ゲールマン未使用セリフ)

クトゥルフ神話のノーデンスはケルト神話の神ノドンスから着想を得て創造されたという
このノドンス(あるいはノーデンス)は「漁師」「狩人」「捕まえる者」を意味する名前である(wikipedia)

またノドンスは医療の神でもある

つまりノーデンス(ノドンス)という神には医療者と狩人という二つの側面があり、これらは本作において医療教会とその狩人の二つの側面として取り入れられているのである


月の魔物

月の魔物の目的としては赤子を得ること、遺志を集めること、傷ついた肉体を修復することなどをこれまで考察してきた。しかしながら、月の魔物をアザトホースの使者ナイアルラトホテップとして考えるのならば、彼女の目的はナイアルラトホテップがカーターを自滅・破滅に追い込んだように、「人類を自滅」に追い込むことである

赤い月を接近させ、人の境を曖昧にし、獣の病を蔓延させて自滅に追い込む。それが彼女の最大の目的であり、トリックスター的な役割なのである

※なぜならば、後述するが人類は封印を守る番人の末裔だからである
封印によって上位者たちは眠り、あるいはその影響により赤子を失った
※封印が弱まることで上位者たちは目覚めかけ、アザトホースは落とし子を撒き、オドンは子を作る
※そのためには番人を排除する必要がある

その姿形から月の魔物はナイアルラトホテップの千の貌の内の一つであるとも考えられるが、狩人を魅了することや形態的類似性からナイアルラトホテップの従姉妹の女悪魔マイノグーラであるとすることもできる(wikipedia)

背に蝙蝠のような翼を持つ女の姿をとる。 男の心を虚ろな石に変えると言われる容貌については、睥睨する非人間的な眼触手が巻くが如き髪、あらゆる永遠を内包する口、と表現される。(wikipediaより)

また月の魔物の直系である女王ヤーナムならびにカインハースト女王アンナリーゼは、ナイアルラトホテップの顕現体の1つ、赤の女王(クトゥルフ神話TRPG)との関連もうかがわれる(無銘氏のコメント参考のこと)

女王ヤーナムはトゥメルの末裔自称しているものの、その真の狙いは邪神の赤子を抱くことであり、邪神とは古トゥメルが封印していた混沌に眠る上位者たちのことである


旧き印

ノーデンス旧神の王であり、かれら旧神の加護を得られるのが旧き印である

よって、旧き印と類似した「瞳」を有するウィレームは旧神を信奉していることとなり、ノーデンス側であることがわかる

ウィレームが古い血を恐れよといったのは、その血が敵対すべき邪神「月の魔物」の血であるからである
※後の考察と矛盾するので訂正。古い血が月の魔物のものであるとすると、ローレンスは穢れた血を血の医療に使ったことになり、これは医療教会が穢れた血を禁忌としたことと矛盾する

※古い血とは旧主の血と考える方が、「古い」が共通することからより適切であるように思う。しかしノーデンスは深淵の主であって、炎とは直接的には関係ないように思う。あるいは古い血とはアザトホース、あるいは混沌の娘たちの血なのかもしれない(番人あるいは番犬)


またビルゲンワースの流れをくむ狩人も本来は邪神と対抗する組織であったことがわかる。だがローレンスは敵対者の力を利用しようとして失敗したのである

その結果、本来ノーデンス側である狩人は月の魔物に囚われ、レン人のように使役されることになったのである

※クトゥルフ神話において、レン人は月の魔物に使役される奴隷のような状態となっている。レン人の故郷は宇宙の遙か彼方にある夢の国ともされる


禁域の森

ビルゲンワースは医療教会によって禁域に指定されている。これはつまり月の魔物の意志によってビルゲンワースが封印されたことを示している

時期的に微妙であるが、袂を分かったとは言え医療教会がビルゲンワースを敵視する理由は本来的にはない。ゆえに禁域指定は邪神の意志であったと考えられる

それを表わすかのように禁域の森の最深部にはヤーナムの影が立ちはだかり、ビルゲンワースへの来訪を妨害している

一方、合言葉の番人には妨害する意図はない。彼らは資格ある者だけを通そうとしている。資格とは邪神側勢力(エミーリアなど)に打ち勝てる者、つまり真の狩人である

女王ヤーナムは邪神の子を現世に誕生させようという邪悪な文明の王である。ゆえに彼女らはノーデンスとは対立する勢力であり、あるいは月の魔物の直系である


ウィレーム

邪神側の妨害を撃退して真の狩人としてビルゲンワースにやってきた主人公に、ウィレームは湖のロマを指して応える

邪神を呼ぶ儀式をロマが隠しているが、これはウィレームの意志ではない。ロマは白痴であるがゆえに、「隠す」という能力をただ盲目的に行使しているのである(どちらの勢力でもない。どちらかに肩入れするほどの知能はない)

儀式を止め、邪神を狩るには手当たり次第に隠してしまうロマをまず狩らねばならない。ゆえにウィレームはロマのいるほうを指したのである

旧主(ノーデンス)を信奉するウィレームとしては、上位者たち(アザトホースと蕃神)の封印を破られる訳にはいかない。上位者たちの封印を破るものとは後述するが赤子の泣き声である


女王ヤーナム

ロマの死によって隠されていたものが露わになり、女王ヤーナムが姿を見せる
だが、これは上位者メルゴーの作りだした母の幻影である

トゥメル=イルで戦う女王ヤーナムの腹部は膨らんでいる。一方で彼女が呼び出す幻影は腹部が平らで妊娠しておらず、月前の湖ならびにメルゴーの高楼で会うヤーナムもまた腹部は平らである

幻影を呼び出す力はメルゴーが与えたものなのである。というのもトゥメルの末裔ならびにトゥメル人と思われる敵の誰一人として分身攻撃はしないからである

メルゴーは乳母という恐怖を除去するために母の幻影を呼び出し、救出者を誘導していたのである

ゆえに乳母という恐怖が去った後、幻影ヤーナムはメルゴーの謝意を代弁するかのように頭を下げるのである

※一方、ヤーナムの影邪悪な文明の女王ヤーナム(守護、警備)である


赤子の泣き声

悪夢の儀式は、赤子と共にある
赤子を探せ。あの泣き声を止めてくれ(ヤハグルの手記)

上位者を呼ぶ儀式を止めるには、赤子の泣き声を止めなくてはならない
つまるところ、具体的には赤子の泣き声が上位者を呼び寄せているのである

泣き声によってなぜ上位者が現われるのかというと、泣き声が眠りを破るからである

上位者の眠りとは上述したように封印であり、それが泣き声に破られることで上位者が現世に現われるのである(それは深海あるいは宇宙から)

ゆえに泣き止ませることで上位者たちは再び眠りにつき封印されるのである

悪夢の世界は逆さまであるということを過去の考察で述べてきたが、それはおそらく空間的にも時間的にも逆さまなのである

人は朝に目覚め夜に眠るが、悪夢に棲まう上位者は夜に目覚め夜明けに眠るのである
上位者の眠り夜明けを意味し、上位者たちが再び封印につくことを意味してるのである

上位者の眠りは番人(狩人)の存続を意味し、それは封印が持続されることを意味する
すなわち今回の獣狩りの夜は月の魔物側から見ると失敗になるのである

よって完全な夜明けが訪れる前に、上位者は最低限の収穫物を収獲しなければならない
その最良のものは「上位者の赤子」であり、またそれが得られなかった場合には狩人の集めた「血の遺志」なのである

※月の魔物の目的が曖昧でややぶれているようにも感じられる。だがこれは『未知なるカダスを夢に求めて』のナイアルラトホテップも同様である。作中ナイアルラトホテップはカーターをすぐに殺せるはずなのになぜか殺さずに、回りくどい方法でカーターをいたぶるのである
※これはトリックスター的な役割を与えられているからであるが、月の魔物においても同様である
※ただし月の魔物の意志ゲールマンの意志については課題としてまだ考えなければならないと思っている


罪人の末裔

狩人はシモンによれば罪人の末裔である

「…お願いだ、悪夢を、終わらせてくれ… たとえ罪人の末裔でも… …憐れじゃないか。俺たち、狩人たちが…」

一方、旧主の番人も罪人であったとされる

骨炭の仮面
鋭く尖った大きな帽子は、古い番人のシンボルであり
彼らがある種の罪人であった証であると考えられている

番人の末裔としての狩人にも上位者の眠りを守る(=上位者の封印を守る)使命があり、ゆえに夜を終わらせて夜明けを迎えなければならないのである

狩人には「狩りを全うする」という第1の使命があり、これは上位者のことごとくを狩ることで達成される

しかし狩人にはもう1つ使命がある。それが番人から受け継がれた「眠りを守る」ことである。これはメルゴー泣き止ませることで達成される

泣き声が止まり、封印が元に戻れば狩人の最低限の役割は果たされたことになる

ヤーナムの夜明けEDにおいて、月の魔物と対峙せずゲールマンの介錯で終わりを迎えるのはこのためである


マリア

時計塔のマリアが血と炎を操るのは、彼女が女王ヤーナムの血を受け継ぐ者であり、同時に番人の末裔(狩人)であるからである

旧主の番人は、ゲーム中の戦闘では炎を使って攻撃してくる

より正確にいうのならば、人類は番人ではなく「番犬」の末裔である
我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う(ウィレーム)
獣の病とは人が獣となることである。「また」という言葉を「ふたたび」と解釈するのならば、人類はもとは人の姿をもっておらず、それを失った時に再び獣の姿に戻ると理解することができる

であるのならば人類の祖は「番人」ではなく、「番犬」であったと考えるのが筋である。それを証すように、もっとも古い血(炎の血)に影響されたであろうローレンスの炎の獣としてのあり方は、旧主の番犬と酷似している

つまるところ、番犬という古い血によって人の姿を得、また古い血によって先祖返りした個体がローレンスであり、穢れた血炎の血の両方を1つの肉体に宿したのがマリアである

※大聖堂にある獣化したローレンスの頭蓋と狩人の悪夢で出会う炎の獣としてのローレンスは、すなわち炎の獣という人類の根源的本性を、一方は現実における不完全獣化頭蓋として表わし、一方は悪夢における完全体炎の獣として表わしたものである

現実における惨めな敗北と、夢における栄光の勝利は『未知なるカダスを夢に求めて』や『セレファイス』などに見られるテーマの1つでもある

マリアの肉体には月の魔物系の穢れた血と、旧主の番犬から流れる炎の血(古い血)2つの血が流れ、また混じり合い、精神的・肉体的な葛藤が引き起こされた結果、あのような能力を持つに到ったのである

穢れた血をもつ者が血の狩人ではなく、ゲールマン系の狩人になることは例外的なできごとだったのである

マリアはプレーヤーとおなじく血の医療(まだそう呼ばれていないが)を受け入れることで試練に挑み、そうして炎(古い血)によって穢れた血の獣に打ち克ったことで、穢れた血と炎の狩人になったのである

その特異な体質こそゲールマンが好奇の狂熱を燃やすにいたった直接的な原因であろう

※たんに女王の傍系というだけならば、カインハーストにいくらもいたはずである(まだ処刑隊が虐殺していない時代である)。ゆえにそれ以上のなにかがあったのだと考えられる


蛇足

旧主と、オドン、メルゴー、ヤーナムの関係など課題は山積されたままである

考察のタイトルが「旧主」であるのも、関連するその他の課題が完全な解決にいたっていないからである。あくまでもクトゥルフ神話を援用した考察であって、そこここに瑕疵があることは認識している

とはいえ、旧主に関する自分なりの考察は得られたのでないかと思われる
本考察にかんする重要な示唆を与えてくれた無銘氏に感謝

2020年4月26日日曜日

Sekiro 考察59 砕動風鬼 死なず半兵衛

死なず半兵衛の物語は作中や『Sekiro ―外伝― 死なず半兵衛』で存分に語られている。また『外伝』そのもののレビューは過去にしてあるので、今回はそこから漏れた小話などをしたいと思う

『外伝』に登場する正吉の「心は 人であると知っている」というセリフは、半兵衛の本性を的確に言い表した心に残るセリフである

ここにいう「姿は化け物でありながら、人の心をもつ」という思想は、世阿弥の説いた鬼の演じ方の一つ「砕動風(さい どうふう)」と通じるものである

砕動風とは、「姿は鬼の形をしていても、心は人のように演ずること」の意である。ここにいう鬼とは人の怨霊や霊のことであり、妄執を抱えた怨霊を演ずる際の心得のようなものである

蟲憑きでありほぼ不死でありながら戦いに敗れ、世捨て人のように葦名をさまよっていた半兵衛は、まさに妄執を抱えた人の心を持つ「鬼」だったのである

また、世阿弥は鬼の風姿(あるべき姿)を大きく二つに分け、砕動風と力動風を挙げている

詳細は以下のサイトに詳しい
『二曲三体人形図』(東京国立博物館)

力動風とは姿形も心も鬼であり荒々しく演じることとされているが、SEKIROにはこの風姿に当てはまるキャラクターがいる

怨嗟の鬼である

つまり半兵衛と怨嗟の鬼は世阿弥の砕動風と力動風を体現するキャラクターなのである

砕動風鬼である半兵衛と力動風鬼である怨嗟の鬼の違いは、人の心を持つか否かである
そしておそらくこれが、修羅になる者と修羅にならない者の差なのである

どれほど恐ろしい鬼になろうとも、人の心を持ち続けることが修羅に落ちない唯一の手段なのである

ゆえに葦名一心は修羅に落ちなかったのである

その名に「」が用いられているのも、あるいは砕動風の思想をこめたものかもしれない

2020年4月22日水曜日

Bloodborne 考察21 古い血 ※虫追記


通過儀礼

血の医療とはヤーナムの風土病「獣の病」に対する治療法である
古都ヤーナム
遙か東、人里離れた山間にある忘れられたこの街は、
呪われた街として知られ
古くから、奇妙な風土病「獣の病」が蔓延っている(公式サイトより)
主人公が血の医療を受けた後に見る「獣が炎によって撃退されるムービー」は、獣の病に対する血の医療の効果を象徴的に示したものである


血の医療を受けたとしても多くの者には劇的な変化は起こらない。なぜならば彼らの矮小な精神には恐ろしい獣は棲みついていない、あるいはいたとしても小さな獣性だからである

輸血液
血の医療で使用される特別な血液。HPを回復する
ヤーナム独特の血の医療を受けたものは
以後、同様の輸血により生きる力、その感覚を得る
故にヤーナムの民の多くは、血の常習者である

だが常日頃は心の奥底に潜む獣性を理性の固い枷で拘束している者、巨大な獣に転ずるような獣性を秘めている者恐ろしい獣となるのである

剣の狩人証
そして、聖職者こそがもっとも恐ろしい獣になる

しかし稀におのれの人間性に潜む獣に打ち克つ者が現われる

それが狩人なのである

いわば血の医療獣への勝利は人が狩人になるための通過儀礼なのである

狩人になるためには、その精神に獣性を秘めていなければならない。また、その獣性に打ち克たなければならないのである

医療教会の狩人に聖職者が多かったのも、彼らが獣を棲まわせていることが多かったからであろう


血の医療に使われる血については、上位者のものであるのかトゥメル人のものであるのかヤーナム人のものであるのかも判然としない

「拝領」(カレル文字)
それは医療教会、あるいはその医療者たちの象徴である
血の医療とは、すなわち「拝領」の探求に他ならないのだ

拝領には貴人から賜るという意味がある。ゆえにその血は人類よりも格上の者であると考えられる

またアデーラの血施しは、医療教会の拝領の価値の象徴であって、拝領そのものではない。また「施し」という言葉が使われることから拝領とは厳密には異なる

アデーラの血
教会の尼僧たちは、優れた血を宿すべく選ばれ
調整された「血の聖女」である
その施しは、医療教会と拝領の価値の象徴なのだ

次にトゥメル人の血である可能性であるが、トゥメルの女王ヤーナムの血は医療教会によって穢れた禁忌の血とされていることから、トゥメル人の血でもない

アリアンナの血
古い医療教会の人間であれば、あるいは気づくだろうか
それは、かつて教会の禁忌とされた血に近しいものだ

血の医療に使われる血についてはエミーリアの祝祷に詳しい

聖血を得よ 祝福を望み、よく祈るのなら 拝領は与えられん(エミーリアの祝祷)
Seek the old blood. Let us pray, let us with. To partake in communion.

ここで聖血は old blood と英訳されている

このold bloodは、警句「かねてを恐れたまえ(Fear the old blood.)」に言われる血である

つまり医療教会の血の医療は、聖血(old blood)が根底にあり、その血はヤーナム人(血の聖女)のものでもトゥメル人のものでもないのであれば、上位者の血ということになる

※クトゥルフ神話においても神々は Great Old Oneと呼ばれる。また「古のもの(old one)」や「旧神(Great Old One)」の名でもある



獣血の主

とはいえ実はもう一つだけ血の持主が考えられる

恐ろしい獣である

感染症のワクチンのように薄めた獣血を注入することで血中に抗体を作り出し、獣の病への免疫をつけるのである

ボス「獣血の主」とは、獣血の供給源であることを意味するということも考えられる

医学的にも理にかなっているように思えるし、ワクチンが強すぎた場合その病気に罹患する、つまり獣化するという現象の説明も可能である

しかし二つほど問題がある

まず獣血が古い、あるいは古くなくてはならない理由がないのである

また獣血の主は英語版では Bloodletting Beast と訳されるが、Bloodlettingは「血塗れ」、「瀉血」、「流血」、「放血」といった意味であり、血のというニュアンスは存在しない


ここで言われる「」とはあの獣のことではなく、獣についた「寄生虫」のことである。獣血の主についた寄生虫は百足の形をしており、その形状やモーションはSEKIROの「蟲」と酷似している

Bloodborneにおける「」は「人の淀みの根源」とされる


連盟の狩人が、狩りの成就に見出す百足の類
連盟以外、誰の目にも見えぬそれは
汚物の内に隠れ蠢く、人の淀みの根源であるという

その虫に寄生された獣血の主がドロップするのが「冒涜の聖杯」であり、呪いとは上位者の怒りに触れた証であるという

獣血の主に寄生した「虫」を呪いととらえるとしたら、それは上位者の怒りに触れた証なのだから、「虫」は上位者に由来するものであろう

これはSEKIROにおいて、人を人外にする「蟲」の源をたどれば「竜胤」に行き着くのと、まったく同じ構造である

「虫」もそのをたどれば「上位者」に行き着くのである
※上位者の眷族が虫ということではなく、あくまでも上位者の呪いに影響された「虫」が人や獣に寄生するようになった

そしてSEKIROにおいて蟲に寄生された赤目が不死に近いような異常な生命力を得るように、本作においても「虫」は寄生した対象に異常な生命力を付与するのである

これは血の聖女と言われるアデーラやアデラインの血を飲むと体力が回復しつづけるという効果からも裏付けられる

本作における「虫」は成長するとやがて宿主の左顔面を割って外へ出る
この症状はローレンスの頭蓋獣血の主に共通するものである(あるいは遺跡に祀られた頭部にも)

ここまで「虫」が育った宿主の体は「聖体」とされるのである

なぜならば充分に育った虫は「卵」を生みそしてそれは「聖血」として「拝領」されたからである

その卵は人の血や汚物に棲みつき、人の淀みの根源となって、人を淀ませる
やがて人はその淀みにより獣化するのである

寄生虫による感染、これがヤーナムの風土病「獣の病」のメカニズムである


※以下の考察は「old」や悪夢ローレンスの「」に着目した仮説である
聖血=虫説とは相容れないが、作中においても現実のローレンスと悪夢のローレンスはその姿が異なることから、両方の説を並記することにした


Old

ここで簡単にまとめると、血の医療に使われる血とは「聖血」のことであり、その血はウィレームが恐れた「」であり、またold bloodと訳される「古い血」のことである

しかし一言に「古い」といっても、いったい何が古いのかまったく分からない

クトゥルフ神話の設定を踏襲し、上位者をあらわすのに Great Old One から old(古き)というターム(用語)を拝借した、とも考えられるが、作中においては old の文字は「旧主」として使用されている

ボス「旧主の番人」ならびに「旧主の番犬」の旧主は英語版では Old Lords と訳されているのである

そしてOld Lordsとは「上位者たち」または「上位者たちの眠り」のことなのである

骨炭の鎧
最古の番人たちの、骨炭の鎧
上位者たちの眠りを守る番人たちは
その姿と魂を業火に焼かれ、として永き生を得たという
故にその鎧は、いまや白く筋張った脆い骨炭にすぎないが
それでもなお、我々には理解できぬ遺失技術の神秘を残している

その番人は上位者を守ることで灰になるほどの業火に焼かれており、これはOld Lordsの属性がであることを示唆している

そしてこのとは、獣の病を撃退した炎でもある

古い血とはOld Lords、つまり最古の番人たちの守る上位者の血であり、その属性はである。故にその血を受け入れることで、獣血を炎によって撃退することができるのである

Old Lordsの炎によって獣血を撃退した者こそ狩人である
故に狩人はOld Lordsの支配下にある者であり、旧主の番人の末裔ともいえる

骨炭の仮面
鋭く尖った大きな帽子は、古い番人のシンボルであり
彼らがある種の罪人であった証であると考えられている

「…お願いだ、悪夢を、終わらせてくれ… たとえ罪人の末裔でも… …憐れじゃないか。俺たち、狩人たちが…」

狩人が罪人とされるのは、旧主の番人から続く罪人の伝統に連なっているからである



二つのトゥメル

話は少し変わるが、女王ヤーナムの治めるトゥメルは最古のトゥメルではない
女王ヤーナムはあくまでもトゥメル文明の末裔たちの王なのである

トゥメル=イルの大聖杯
トゥメル=イルとは、トゥメル人の王ないし王都を意味する
それは、上位者の眠りを祀るトゥメル文明の末裔たち
せめて彼らのを戴こうとした証しであろう

つまり女王ヤーナムのトゥメルは、時系列的には最初にあったトゥメルのかなり後に存在したことになるのである

そして最古のトゥメルに生きていたのが、旧主の番人たちである

骨炭の仮面
最古の番人たちの、骨炭の仮面

トゥメルには二つの時代が存在する

一つ目は最も古いトゥメルであり、旧主とその番人たちの生きた前トゥメルである
二つ目はその末裔たちが興した女王ヤーナム後トゥメルである

この二つのトゥメルは端的に言って祀る神が異なっている

前トゥメルは炎の上位者を祀り、その番人たちは血すら渇き果てた「」である
後トゥメルは血の上位者を祀り、その伴侶は特別な赤子を抱く「女性」たちである

血のトゥメル(後トゥメル)の血統は薄まりながらもカインハースト→ヤーナムと受け継がれ現代のヤーナム人へと到ったのである。だが、彼らは血によって人を失う病気、つまり獣の病によって苦しんでいるのである

※獣の病についてはまだ本格的に考察していないが女王ヤーナムの呪いなのかもしれない
※また後トゥメル人は前トゥメル人の末裔であるから、前トゥメルの血も現代ヤーナム人に受け継がれているともいえる


血の医療

女王ヤーナムに由来する「獣の病」、その風土病を克服するために見出されたのが「古い血」である

古い血は獣の病を炎によって浄化する。なぜならば獣は炎を恐れるが、古い血は「炎の上位者」のものであるからである

火炎瓶
かつて旧市街の悲劇でそうであったように
病の浄化の偏見もあり、獣狩りに炎はつきものである
だからだろうか、ある種の獣は病的に炎を恐れるという


血の医療を受け入れた者は、「おのれの獣性」と対峙しなければならない(獣化衝動は人間性と相反する)


獣に変身したいという衝動は、私たちが皆持っている人間性という基本的な感覚と相反するものです。その人間性は一種の手錠のようなもので、変身をその場に留める役割を果たしている。変身したいという衝動を固定している手錠が強ければ強いほど、その手錠が最終的に壊れたときの反動は大きくなります。その結果、あなたはより大きな生き物に、あるいはよりねじれた生き物に変身することになる。この二つの衝動の間の葛藤が、ここでは一つの概念となっています。(インタビューより)



人間性の炎によって獣性に打ち克ったものだけが、獣を狩る狩人になれるのである


※この血と炎の対立軸は、クトゥルフ神話におけるナイアルラトホテップとクトゥガとのそれに近いのかもしれない
※血の上位者に連なる獣は炎に弱く、旧主の番人の骨炭の鎧は血に弱い



Old Lords

血の上位者の候補としては滲む血がその本質とされるオドンや、月の魔物が挙げられる

だがOld Lordsに関しては、複数形であるように複数個体いると思われるが、おそらく作中には登場しない

かつて旧主を守った番人番犬がわずかに生き残っているだけである
しかしながら旧主の番人の骨炭装備から旧主の性質を逆算することも可能かもしれない

※ここから下は推測や考察が飛躍することを先に述べておく

骨炭の仮面には8つの眼がある。8つの眼をもつ生物としてはクモがよく知られている



また旧主の番人はモーションや体型が女性的であるという指摘は以前からなされてきた
つまり旧主の番人は炎の上位者に侍る女性たちなのである

さてここからさらに飛躍してフロムの別ゲームとの比較にうつる

骨炭シリーズのとんがり帽子はデモンズソウルからおなじみの、ある属性を持つ女性たちと共通している

とんがり帽子をかぶっているのは、デモンズソウルに登場する闇の魔術師ユーリア、DS1の魔女ビアトリス、DS2の魔女ジャーリー、DS3の闇術士カルラといった魔術師の女性たちなのである(その何人かは罪人として知られる)

血晶古老ローガンなど似た帽子を被っているが、どちらかというと「ビッグハット」の部類である

旧主の番人たちも上記の女性魔術師たちの系譜と考えるのならば、女性の可能性が高い

また番人たちは魂を焼くほどの業火にさらされているが、ソウルシリーズでは呪術の火混沌と関連することが多い

混沌の炎の種火
混沌の炎の種火は廃都イザリスのであり
DS1には混沌の娘が登場するが、彼女の下半身はクモである

これを混沌の炎に侍るクモ属性の女性の構図ととらえるのならば、旧主の番人の設定とよく似ている

本作にはクモ属性を持つと思われる上位者が一体いる。それが「メルゴーの乳母」である(8本の腕やわずかに宙に浮いていること、彼女の配下がクモであることなど)

メルゴー高楼に登場する蜘蛛型の敵のEnemy IDは「Devotee_of_Death_And_Darkness(死と闇の信者)」であるが、メルゴーの乳母のEnemy IDは「LesserDemon_Death_And_Darkness(死と闇の下級悪魔)」である

ここで女性やクモと関連づけられているが、DS2においては王妃デュナシャンドラ深淵から飛び散った破片のひとつとされ、つまるところ深淵の娘たちである

混沌や闇、深淵といったネガティヴな現象には女性がひも付けられているという観念があり、それが本作ブラッドボーンにおいても旧主の番人という形として表わされたのである

そして旧主の番人が侍るのは「業火」であり、旧作の設定を援用するのならば、それは混沌の業火なのである

故に旧主とは混沌の主、となる(あるいは混沌=闇=深淵と考察することもできるかもしれないがここでは省く)

クトゥルフ神話側から考察するのならば、クトゥルフ神話の旧神(Old Ones)リゲル(オリオン座)ベテルギウスから到来したとされる

リゲルもベテルギウスも恒星、つまり太陽のように自ら光を放つ星であり、その番人を務めるのであれば、必然的に恒星の放つ業火に焼かれることとなる

また旧神のうち名前の判明しているノーデンスは「大いなる深淵の王」である

クトゥルフ神話における旧神と本作の旧主とは、その名前(old)に加えて設定までもがほぼ重なるのである(複数存在することも含めて)

※上位者の恒星が実際にあるわけではなく、それはおそらく悪夢の形で存在していたのであろう


ローレンス

ローレンスの頭蓋は医療教会のはじまりとして機能したという

彼の獣としての姿は、炎の獣であり属性的には前トゥメルの上位者の系列である

獣となったローレンスの血炎の上位者に属する。故に獣の病を撃退する力を持つのである

医療教会は獣化したローレンスの血を、その治療薬として使用したのである

よって確かにローレンスの頭蓋(それはローレンスが獣化した証)は、医療教会の血の医療のはじまりとして機能したことになる

それ以前は血の医療を確立するには血の量が足りず、医療教会としての活動は不可能だったからである

古い血の出所は不明だが、ビルゲンワース神の墓で見つけてきた聖体から得られたと考えられる。そしてそれは確かに(後に)医療教会と血の救いを生んだのである

またローレンスの頭蓋聖体として大聖堂に祀られているのも間違ってはいない

要するに聖体は二つあったのだ

一つはビルゲンワースが神の墓地から持ちかえった聖体
これは後に医療教会と血の救いを生むことになる

もう一つはローレンスの頭蓋である
これは医療教会のはじまりとして機能した後に、現在は大聖堂に聖体として祀られている

アルフレートの言葉は矛盾していたのではなく、聞き手が二つの聖体を一つのものと解釈することから発生する錯誤なのである




蛇足

以前から「血」が人を獣にし、「血」が治療に使われ、その結果「炎」が獣を撃退する、という流れに不可解なものを感じていた

「血」は穢れたものであると同時に聖なるものとしても考えられているが、それは「血」の種類が違うことからくる区別であることは、アルフレートの言葉のとおりである

よっておそらくは「血」には幾種類かがあり、そのうちの一つが人を獣にし、一つが炎となって獣を撃退するのであろうと考えたのである

問題となったのはこの「炎」がどこから来たかである

獣の病の抗体のイメージとすることも可能であったが、わざわざ「古い血」としていること、また old blood を持つに相応しい Old Lords が存在していることから、旧主の血仮説を提唱したものである

2020年4月19日日曜日

Bloodborne 考察20 トゥメルの語源

Pthumerian

トゥメルやトゥメル人の語源を調べていたところ、redditにてギリシャ語「PTOMA」がPthumerianの語源ではないか、とするスレッドを発見した


PTOMAは「廃墟」や「死体」を意味するギリシャ語である(wiktionary)

そこで果たしてこの説は妥当なのかというのを考えてみたい

Pthumeruは日本語版では「トゥメル」と表記されている

頭文字の「P」は発音されない形になっているが、表記されるものの発音されないこのような文字を「黙字」という(wikipedia)

英語版におけるPthumeruの発音もトゥメルだとしたら「」は黙字となるが、英単語において「P」が発音されないのは一般的にギリシャ由来の単語である(wikipeidia)

つまりPthumeruギリシャ語に関係する単語という可能性が高いのである

Pthumeruの語形や、PTOMAの意味から推測するにPTOMA説は充分に考えられるものである


Thumeru

ただしPTOMAから直接にPthumeruに変化した、と考えるには飛躍が大きいように思える

PthumeruからPTOMAの「P」あるいは「PT」を抜いたthumeruならびにhumeruの部分についても考えなければならない

実はthumeruの部分に関しては、それほど難しくはない

スレッドのコメント欄にも指摘されているが、thumeruはシュメール(アッカド語でŠumeru)からインスピレーションを得たと思われるのである

世界最古の都市文明であるシュメール文明(Šumeru)と遺跡都市トゥメルは共通する点が多く、宮崎英高氏が重視する地域性や響きといった点から見ても妥当と思われるからである

※宮崎氏の命名に対する姿勢はインタビュー参考のこと

ヤーナムの古代都市の名を考案する際、最古の都市文明シュメールインスピレーションの元とすることは充分にあり得ることである

まず古代文明としてシュメールの名が想起され、そこに墓所や墓地を意味するtomb(トゥーム)が合成され、トゥメール→トゥメルとなったのであろう

次にトゥメルを英語に翻訳する際、「tomeru」か「thumeru」という綴りがすぐに思い浮かぶが、このうちより神秘的な響きを持つのは後者「thumeru」である

こうして得られたthumeruにギリシャ由来のPTOMAを合成した結果、Pthumeruとなったもの考えられるのである

Pthumeruとは、「死体」「廃墟」「墓地」「古代都市」「最古の文明」といった複数の意味合いが込められた名前であり、これらはすべてゲーム内のトゥメルのイメージと重なるものである


蛇足

今回はほぼ答えをすべてredditのスレッドに頼っているので「考察」と名づけるか悩んだが、ちょこっと自分の考えを付け足したので考察の範囲に入れることにした

実際のところ本考察が完全に正しいか、というと分からない。Pthumeruなる語がそのまま登場するゲームブックなり、TRPGなりがあるのかもしれない

2020年4月4日土曜日

Bloodborne 考察19 カインハースト4 処刑人

怨霊

カインハーストの貴族たちは血を嗜むほかに、怨霊の乱舞を愉しむ悪趣味な側面も持ち合わせていた

処刑人の手袋
カインハーストの所蔵する秘宝の1つ
遠国の処刑人の手袋
処刑人の家系に代々受け継がれ、夥しい血に塗れたであろうそれは
いまや尽きぬ怨霊の住処であり、血の触媒がそれを召喚する

貴族たちはこれを好み、怨霊の乱舞を愉しんだという

以下が処刑人の手袋を使用した時のエフェクトである


これと同じ技を使うのがローゲリウスである




ローゲリウスはカインハーストの秘宝に由来する技を使い、なおかつその秘宝が処刑人のものであるのと同様に、自らも「処刑隊」を率いているのである

血を触媒として怨“念”を呼び出す技は、ローゲリウスの車輪にも見られるが、それを装備するアルフレートも処刑隊の一員を名乗っている


ローゲリウスの車輪
かつて殉教者ローゲリウスが率いた処刑隊の武器
カインハーストの穢れた血族を叩き潰し
夥しい彼らの血に塗れ、いまやその怨念を色濃く纏っている
車輪仕掛けの起動により、怨念を解放すれば
その素晴らしい本性が露わになるに違いない

処刑人

そもそも遠国の処刑人の手袋はなぜカインハーストにあったのか。それは処刑人の家系に代々受け継がれてきたものであり、であればその子孫が所有しているのが自然なことであるように思う

なぜ遠く離れたカインハーストにそれがあったのかという疑問に対する答えはいくつか考えられる

まず、それを遠国から購入するなり奪うなりして運んできたというもの。しかしそれならば戦利品として堂々と飾っておくのが筋というものである。だが、処刑人の手袋はわざわざ「秘宝」に指定されているのである

秘宝とは、人に見せず大切にしておく宝のことであり、興味本位で購入した、あるいは戦利品として奪ってきた物品に対するものとしては、いささか丁重すぎる扱いである

もう1つの答えとして、処刑人の一族がカインハーストを来訪したというのが考えつく

しかし単なる訪問者の所有物を「秘宝」とする理由も意味もないのである。手袋を献上されたとして、やはりそれは堂々と飾っておくのが相応しいもののように思える

なぜ処刑人の手袋のような禍々しい物品は秘宝としてカインハーストに所蔵されたいたのか

結論から先に述べれば、処刑人の手袋はカインハースト王家にとって重要な物だからである。なぜそれが重要かと言えば、それが「処刑人」のものだったからである

カインハーストにとって「処刑人」のもつ罪人を殺害する技術は何よりも尊ばなければならないものだったのである

なぜならば、カインハーストの貴族は血を嗜む因習があり、ゆえに血の病の隣人であり、獣化した貴族を処理する「処刑人」が必要だったからである

レイテルパラッシュ
古くから血を嗜んだ貴族たちは、故に血の病の隣人であり
獣の処理は、彼らの従僕たちの密かな役目であった

処刑人は人を処刑する技術に長け、それは獣を殺害する狩人の技術としてカインハーストの地で花開いたのである

もちろんレイテルパラッシュにあるように、獣化した貴族たちの処理は従僕の役目であったであろう。だが、貴族よりも位の高い王族やその頂点にいる王が獣化した場合に、処刑人が王の首を刈ったのである

ローゲリウスのEnemy IDは「KingReaper」である

その意味は「王の刈り手」あるいは「死神の王」(Grim Reaperで鎌をもつ死神)とも取れるが、ローゲリウスがを持ち、処刑隊を名乗る理由は彼が「王の首を刈る死神(処刑人)」だからである

処刑人の役割は獣化した王族の処理である

ゆえに、人ならぬ存在となった血族ならびに女王アンナリーゼからしてみれば、処刑人はいつ牙をむくか分からない不穏分子である

成長した女王アンナリーゼは、処刑人の一族をヤーナムに追放したのである

処刑人はカインハーストにおいて高い地位にあった。あるいは王自身であったのかもしれない。なぜならば、ローゲリウスは秘宝の1つ幻視の王冠を被り、玉座に座っていたからである

幻視の王冠
カインハーストの所蔵する秘宝の1つ
かつて幻を視るといわれた古い王の冠
また秘密を隠す幻を破るカギでもある
故にローゲリウスは、自らこれを被った
もはや誰一人、穢れた秘密に触れぬように
寒々とした玉座から、はたして何が見えていたのだろうか

ローゲリウスはそんな王冠があることも、その隠し場所も知っており、なおかつその能力を認知した上でそれを被り玉座に座ったのである

まるで最初から幻視の王冠の存在を知っていたかのような手際の良さである。事実ローゲリウスは知っていた、あるいは幻視の王冠そのものが彼の家に伝わっていたのかもしれない

だが、ローゲリウスが処刑隊を組織したのは、医療教会の創設時期とそう違わないタイミングである。つまりわりと最近の出来事であり、カインハーストに処刑人がいた時期と、ローゲリウスが処刑隊を組織した時代はそれなりに分け隔たっているのである



ゲールマン

カインハーストの処刑人ローゲリウスとの間に位置するのがゲールマンである

その鎌状の武器からも判断できるように、ゲールマンはカインハーストの処刑人の出である。その狩りが弔いを意味するのも、葬送の刃という銘を持つのも、彼が葬送に携わる処刑人の一族だからである

カインハーストの獣を処理する技術はゲールマンによって初期狩人に伝わり、また一部は歪んだ形で伝えられたのである

古狩人の手甲にある「ある種の金属が獣血を祓う」とは、カインの手甲に記された「銀製の鎧は、悪意ある血を弾く」の歪んだ伝播である

古狩人の手甲
当時、一部の狩人たちは
ある種の金属が獣血を祓うと信じていた

カインの手甲
ごく薄く、布のごとき銀製の鎧は、悪意ある血を弾くとされ
彼ら近衛騎士は、これを頼り女王のために「血の狩人」となる

また、狩人のズボンにある「獣血は右足から這いあがる」とは、カインの騎士右足が欠けていることから連想されたものであろう



しかし騎士の像女王の間にたどり着かなければ目にすることができないものである
ゆえに「右足」に関する迷信は騎士から由来したのではなく、ゲールマンの右足から連想されたものである

遺志を継ぐ物ENDにおいて主人公の左足が欠けているように、狩人の夢を管理する者はその片脚を月の魔物に奪われるのである



ならば、ローレンスとゲールマンが月の魔物と邂逅し、狩人と狩人の夢がはじまった際に、ゲールマンは右足を失ったことになる

つまり遅くとも狩人の創始からゲールマンは右脚がなかったのである

それを見た古狩人たちのなかから「獣血は右足から這いあがる」という迷信が生まれたのである

ゲールマンの狩りズボンの裾は左右で長さが異なっている


この服はゲールマンの日常の衣服を調整したものであるが、あるいは彼が狩人になる前から右脚がなかったと推定するのならば、その理由は一つしかない

ゲールマンはカインハーストの騎士だったのである

ゲールマンの狩りズボン
最初の狩人、ゲールマンの狩装束
まだ工房はなく、日常の衣服を調整したものであるが
これが後の狩装束の原型になっていった

処刑に最も長けた処刑人の一族が、獣を処理する騎士となるのは当然のことと言える

そしてその技は、最初の狩人ゲールマンをもって狩人たちに伝えられていったのである


カインハースト

Playstation.comのブログには山際眞晃プロデューサーによるエリア紹介の記事がある


これによればカインハーストとヤーナムとの間にはかつて交流があったという

カインハーストはかつてヤーナムと交流のあった古い貴族たちの城で、独自の文化による何らか特別な構造があるかもしれません。(上記ブログより)

一介の学閥に過ぎなかったビルゲンワースからなぜ狩人なる獣の虐殺者が誕生したのか

なぜ狩人はその誕生直後から獣を屠る完成された技術を有していたのか(狩人になった後にいくつか改良された痕跡はあるものの、ゲールマンの葬送の刃はマスターピース、つまり最高傑作である)

狩人の技はカインハーストの処刑人から連綿と伝えられてきたものだからである

やがて医療教会内部に始祖への回帰運動が起こり、それは処刑隊として結実したのである。それはおそらく、かつて追放された恨みを抱いてきた者(つまり処刑人の一族の直系)によって企図され、そしてそれはカインハーストの虐殺となって果たされたのである


マリア

ゲールマンがマリアに対して好奇の狂熱を抱いていたのも、彼女が彼の旧主である不死の女王アンナリーゼの傍系にあたるからである

マリアの狩装束
不死の女王、その傍系にあたる彼女は
だがゲールマンを慕った。好奇の狂熱も知らぬままに

その血が特殊であり、血の赤子を抱く可能性すら秘めていることをゲールマンは知っていたのである。ゆえに好奇の狂熱を抱き、漁村においてそれが発露したのである(長くなるので詳細は別の考察に書く)



蛇足

狩人の技術がどこから来たのかという疑問に対するかなり飛躍した回答

ただしカインハーストの狩りの技術や仕掛け武器がヤーナムの狩人に影響を与えたことは、レイテルパラッシュ→銃槍の例を見ても明らかである

カインハーストを考えるときもっとも厄介なのが時系列である

もともとカインハーストには血を嗜む貴族たちがいて、やがて穢れた血により血族が生まれた。その時期はウィレームの言い方からするとそれほど古い時代ではないようである

それから少ししてローレンスとゲールマンは青ざめた血と遭遇し、やがてローレンスは医療教会を創立する

血族の誕生、医療教会創設、狩人の誕生、(漁村事件)などは、極めて短い時間に起きたような印象である

一方でマリアは女王の傍系ともされ、女王とマリアの間にはある程度の時間が流れていることも考えられる

そもそも傍系の意味もあまり判然としないが、マリアをアンナリーゼの妹とするのならばかろうじて傍系とも言える(穢れた血を飲んだ王妃によりアンナリーゼが不死の女王として誕生、翌年あたりにマリアが生まれたという想定である)

この場合、マリアの年齢を18~20ぐらいと想定すると、最短で血族の誕生から19~21年程度で済む(“女王の”傍系とするにはやや苦しいか)

このあたりはDLCのマリアを含めて後日考察しようと思っているので今の段階では結論はない