旧き印
旧き印とはクトゥルフ神話作品に登場する「旧神の印」(Elder Sign)のことである(wikipedia)クトゥルフや外なる神を排除するために用いられるシンボル・物品(石)で、初出は『未知なるカダスを夢に求めて』とされる(Wikipedia参照のこと)
そのデザインは執筆者や時代により変更されていくが、もっとも有名な図柄はダーレスの描写した「中心に燃える柱(あるいは目)をもった五芒星」であろう
それが以下の図である
これとほぼ同じデザインなのが、本作に登場するカレル文字「瞳」である
旧神
旧き印(Elder Sign)はその名の通り「旧神」(Elder God, Old One, Ancient One)の印である(wikipedia)※旧神については解釈がさまざまで確定された定義のようなものはない(翻訳も相まって錯綜している)。したがってここでは「邪神に敵対する神々」または「地球の幻夢境に住む脆弱な神々」としておく
さて、旧き印は女神ヌトセ=カアンブルが作ったものとされる。この女神は「封印され眠り続ける邪神の敵対者」であり、幻夢境の神でありそして旧神でもある
旧神は『未知なるカダスを夢に求めて』においては、ナイアルラトホテップに保護されている幻夢境の神々とされる
その弱き神々を率いるのが旧神の王ノーデンスである(これについても作品によってさまざまに設定が異なる)
つまり、旧き印とは旧神の加護のある印のことであり、旧神は邪神と敵対する者とされ、またその王はノーデンスなのである(旧神の中で名を知られた唯一の神ともされる。また例外もある)
ノーデンス
ノーデンスはラヴクラフト『霧の中の不思議の館』において海神たちを率いる「深淵の主」として登場する(詳細はWikipedia)『三叉鉾(ほこ)をもつネプトゥーヌスがいて、陽気なトリトーンと気まぐれなネーレーイスに加え、海豚(いるか)の背には小円鋸歯(きょし)状の巨大な貝殻が備わり、そこに大いなる深淵の主、至高のノーデンスの白髪をいただく威厳のある姿が見えた』(ラヴクラフト全集7『霧の中の不思議の館』より引用)
ここでノーデンスは深淵の主であり、幾多の海神を率いる主神として表わされている
訳者解題によれば、ノーデンスは海に沈んだ伝説のアトランティスに関わる神のように受け取れるという
※アトランティスは同じく海に沈んだ都市「イス」の伝説の大元である。これは本作の「イズの地」に海棲生物的なエーブリエタースがいたことや、そこが「宇宙(つまり深淵)」に触れていると聖歌隊が考えたことに繋がっていく
さて、ノーデンスは『未知なるカダスを夢に求めて』では主人公カーターを狙うナイアルラトホテップを妨害し、最後には窮極の混沌からカーターを救い出す救世主の役割を担っている
つまり、ノーデンスはカーターを挟んでナイアルラトホテップと敵対しているのである
そしてここでもノーデンスは「大いなる深淵の主」(Lord of the Great Abyss)と呼ばれている
まとめると、ノーデンスとは旧神(Old One)の王であり、また深淵の主(Lord)なのであり、この二つの言葉を一つにまとめると「旧主(Old Lord)」になるのである
旧主
旧主とは、ブラッドボーンの聖杯ダンジョンに登場する「旧主の番人」や「旧主の番犬」に関連づけられた神性であるこのうち旧主の番人の装備には「業火に焼かれ、灰となった」旨が記されている
骨炭の鎧
上位者たちの眠りを守る番人たちは
その姿と魂を業火に焼かれ、灰として永き生をえたという
このテキストには2つの解釈が考えられる
1つめは「旧主の番人」とは「眠っている旧主」の番人を意味した名前と解釈することである
2つめは「旧主の番人」とは旧主に仕える番人であり、旧主の命によって上位者の眠りの番にあたっていたものと解釈することである
これまで私は第1の解釈を採っていたのだが、もし仮に眠っていたのが旧神だったとすると上位者たちの眠りではなく「旧主の眠り」と表記するはずである
わざわざ「上位者」と明記し、また「たち」と複数形であることから、ただ一人の主のニュアンスの強い「旧主」を指すとは考えにくいのである
ゆえに、「旧主の番人」とは旧主に仕える番人であり、彼らは罪を贖うために旧主の命によって眠っている上位者の番をしている、という解釈を採ることとする
上位者たち
眠りを封印と解釈するのならば、上位者たちは旧主によって封印され、その封印を旧主の番人たちが監視していることとなる過去の考察あるいは動画において、ブラッドボーンの下敷き(大まかなプロット)となっているのは、『未知なるカダスを夢に求めて』ではないかと指摘してきた
『未知なる』のクライマックスにおいて主人公カーターはついに、窮極の混沌の中心で寝そべるとされるアザトホースの元へと深淵を通って運ばれていく
アザトホースの周囲には従者である蕃神(ばんしん)たちが侍り、太鼓とフルートによってその主をなだめているという
アザトホースの元ネタの1つは、ロード・ダンセイニの短編集『ペガーナの神々』に登場する世界を夢見る神マアナ=ユウド=スウシャイである
ここに「深淵」「混沌」「眠る神」というモチーフが見出されるが、これらを融合したものが「上位者たち」なのである
要するに番人がその眠りを守るという「上位者たち」とは、クトゥルフ的にはアザトホースとその蕃神たちである
聖杯ダンジョン「呪われたトゥメルの冒涜」のボスは順番に「旧主の番人」「旧主の番犬」そして「アメンドーズ」である。アメンドーズだけが何故か異質であり、そこに法則性など存在しないかのようである
だがクトゥルフ神話を援用するならば法則性は見いだせるのである
アザトホースは定期的にアザーティという落とし子を出現させるというのだ
そしてアメンドーズもまた作中で「落とし子」と言われているのである
…ああ、アメンドーズの件は、気にするなまたアメンドーズという神を失ったパッチとは、なぜか聖杯ダンジョン内で再会する(ショップ)
あれは憐れな落とし子。…ゆえに、救いもあったろう(蜘蛛のパッチ)
私は神を失った。新しいそれを、探さなければならない(蜘蛛のパッチ)パッチが探している新しい神とは、新しいアメンドーズなる「落とし子」に他ならず、それを出現させるのは混沌にいるアザトホースなのである
アザトホースは本作においては古トゥメルの番人たちが監視している「混沌の中心」で眠っているはずである。そこへ行くには聖杯ダンジョンという時空の歪んだ領域を抜け、時間を古代にまでさかのぼっていかねばならないのである
※聖杯ダンジョンの時空の歪みについてはジョージ・R・R・マーティンの『ストーン・シティ』の影響がうかがえる
業火
上位者たちを監視する番人は業火に焼かれ灰となったというソウルシリーズでは混沌は常に「炎」とひも付けられてきたが、アザトホースが寝そべるのはまさしく窮極の混沌の中心である
※また混沌の炎はソウルシリーズでは女性とひも付けられてきた。これは旧主の番人が女性形であることと共通する
アザトホースと蕃神たちを監視する番人たちは必然的に混沌の炎によって焼かれ、灰となるのである
※より『未知なる』をオマージュするのならば、その熱と光はカーターを追跡してきたナイアルラトホテップの配下たちを焼いたという「夜明け」となろうか
クトゥルフ
上位者たちの眠りを、クトゥルフ(とその眷族)の眠りと解釈することもできるクトゥルフ神話において、クトゥルフ(wikipedia)は旧支配者を崇拝する神官とも、旧支配者そのものともとれる存在であり、「現在は南太平洋の海底に沈んだ古代の石造都市ルルイエに封印されている(Wikipediaより)」とされる
海底とはつまり、「深海」である
そしてノーデンスは深淵の主であると同時に、海の神ともされる
旧主(ノーデンス)に封印されていた上位者たちをクトゥルフとその眷族(クトゥルフの星の落とし子)と考えると、冒涜の聖杯の第三層に落とし子と呼ばれるアメンドーズが登場することも説明できる
クトゥルフの星の落とし子とは、クトゥルフと共に地球に来訪した眷族である。クトゥルヒとも呼ばれその姿はクトゥルフに似ており、上級の奉仕種族とされ、クトゥルフにかわって信者からの崇拝を受ける上級司祭ともされる(また監視者という設定もある)
星の落とし子たちの設定は、ブラッドボーン作中におけるアメンドーズの描かれ方と一致している。たとえばアメンドーズのほぼすべてが教会に張り付いていること、また主人公を監視するように視線を動かすことなどである
※アメンドーズがキノコに似た生態をしているのは、この奉仕種族(転じて胞子種族)をもじったものかもしれない
また上位者が眠っていることは、クトゥルフの呪文「フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ル・リエー・ウガ=ナグル・フタグン(死せるクトゥルフが、ル・リエー(ルルイエ)の家で、夢見ながら待っている)」(ラヴクラフト全集2)とも合致するのである
要するにブラッドボーンは『未知なるカダスを夢に求めて』を下敷きとし、作中のアザトホースのポジションに『クトゥルフの呼び声』のクトゥルフ設定を挿入したもの、と考えると、アメンドーズの存在や眠りといった設定の意味が通じるのである
※「クトゥルフの星の落とし子」の情報は無銘氏のコメントを参考にした
※この項は別の考察として独立させるかもしれない
対立
『未知なる』では、ナイアルラトホテップはアザトホースの意志を遂行する使者とされ、主人公カーターを破滅・自滅させるために謀略を巡らすそれを妨害するのがノーデンスである
ノーデンスは配下の夜鬼を遣わしてカーターの旅を助け、最後にはアザトホースの寝そべる「窮極の混沌」の寸前でカーターを救い出す
※夜鬼と使者との類似性を無銘氏は指摘している
ここにカーターを軸とした、ノーデンスとナイアルラトホテップの対立が見出されるが、この対立構造はブラッドボーンにも「旧主(ノーデンス)」→「狩人(カーター)」←「月の魔物(ナイアルラトホテップ)」として引き継がれているのである
※ナイアルラトホテップの背後にはアザトホースの意志がある
月の魔物と狩人とは本来的には対立しているものなのである。というのもトロフィー「遺志を継ぐ者」では、その説明に「月の魔物に魅入られ…」と記されているからである
魅入られたがゆえに狩人は敵対者である月の魔物に膝を屈したのである
しかしながら狩人には本来的な目的、月の魔物を狩るあるいは封印するという目的があり、ゲールマンはその最後の希望をローレンスに託していたのである
でも、よかった。君が戻ったということは、やっと終わるのだろう?
今宵は月も近い。最後の夜には相応しいことだ…(ゲールマン未使用セリフ)
クトゥルフ神話のノーデンスはケルト神話の神ノドンスから着想を得て創造されたという
このノドンス(あるいはノーデンス)は「漁師」「狩人」「捕まえる者」を意味する名前である(wikipedia)
またノドンスは医療の神でもある
つまりノーデンス(ノドンス)という神には医療者と狩人という二つの側面があり、これらは本作において医療教会とその狩人の二つの側面として取り入れられているのである
月の魔物
月の魔物の目的としては赤子を得ること、遺志を集めること、傷ついた肉体を修復することなどをこれまで考察してきた。しかしながら、月の魔物をアザトホースの使者ナイアルラトホテップとして考えるのならば、彼女の目的はナイアルラトホテップがカーターを自滅・破滅に追い込んだように、「人類を自滅」に追い込むことである赤い月を接近させ、人の境を曖昧にし、獣の病を蔓延させて自滅に追い込む。それが彼女の最大の目的であり、トリックスター的な役割なのである
※なぜならば、後述するが人類は封印を守る番人の末裔だからである
※封印によって上位者たちは眠り、あるいはその影響により赤子を失った
※封印が弱まることで上位者たちは目覚めかけ、アザトホースは落とし子を撒き、オドンは子を作る
※そのためには番人を排除する必要がある
その姿形から月の魔物はナイアルラトホテップの千の貌の内の一つであるとも考えられるが、狩人を魅了することや形態的類似性からナイアルラトホテップの従姉妹の女悪魔マイノグーラであるとすることもできる(wikipedia)
背に蝙蝠のような翼を持つ女の姿をとる。 男の心を虚ろな石に変えると言われる容貌については、睥睨する非人間的な眼、触手が巻くが如き髪、あらゆる永遠を内包する口、と表現される。(wikipediaより)
また月の魔物の直系である女王ヤーナムならびにカインハーストの女王アンナリーゼは、ナイアルラトホテップの顕現体の1つ、赤の女王(クトゥルフ神話TRPG)との関連もうかがわれる(無銘氏のコメント参考のこと)
女王ヤーナムはトゥメルの末裔を自称しているものの、その真の狙いは邪神の赤子を抱くことであり、邪神とは古トゥメルが封印していた混沌に眠る上位者たちのことである
旧き印
ノーデンスは旧神の王であり、かれら旧神の加護を得られるのが旧き印であるよって、旧き印と類似した「瞳」を有するウィレームは旧神を信奉していることとなり、ノーデンス側であることがわかる
※後の考察と矛盾するので訂正。古い血が月の魔物のものであるとすると、ローレンスは穢れた血を血の医療に使ったことになり、これは医療教会が穢れた血を禁忌としたことと矛盾する
※古い血とは旧主の血と考える方が、「古い」が共通することからより適切であるように思う。しかしノーデンスは深淵の主であって、炎とは直接的には関係ないように思う。あるいは古い血とはアザトホース、あるいは混沌の娘たちの血なのかもしれない(番人あるいは番犬)
またビルゲンワースの流れをくむ狩人も本来は邪神と対抗する組織であったことがわかる。だがローレンスは敵対者の力を利用しようとして失敗したのである
その結果、本来ノーデンス側である狩人は月の魔物に囚われ、レン人のように使役されることになったのである
※クトゥルフ神話において、レン人は月の魔物に使役される奴隷のような状態となっている。レン人の故郷は宇宙の遙か彼方にある夢の国ともされる
禁域の森
ビルゲンワースは医療教会によって禁域に指定されている。これはつまり月の魔物の意志によってビルゲンワースが封印されたことを示している時期的に微妙であるが、袂を分かったとは言え医療教会がビルゲンワースを敵視する理由は本来的にはない。ゆえに禁域指定は邪神の意志であったと考えられる
それを表わすかのように禁域の森の最深部にはヤーナムの影が立ちはだかり、ビルゲンワースへの来訪を妨害している
一方、合言葉の番人には妨害する意図はない。彼らは資格ある者だけを通そうとしている。資格とは邪神側勢力(エミーリアなど)に打ち勝てる者、つまり真の狩人である
女王ヤーナムは邪神の子を現世に誕生させようという邪悪な文明の王である。ゆえに彼女らはノーデンスとは対立する勢力であり、あるいは月の魔物の直系である
ウィレーム
邪神側の妨害を撃退して真の狩人としてビルゲンワースにやってきた主人公に、ウィレームは湖のロマを指して応える邪神を呼ぶ儀式をロマが隠しているが、これはウィレームの意志ではない。ロマは白痴であるがゆえに、「隠す」という能力をただ盲目的に行使しているのである(どちらの勢力でもない。どちらかに肩入れするほどの知能はない)
儀式を止め、邪神を狩るには手当たり次第に隠してしまうロマをまず狩らねばならない。ゆえにウィレームはロマのいるほうを指したのである
旧主(ノーデンス)を信奉するウィレームとしては、上位者たち(アザトホースと蕃神)の封印を破られる訳にはいかない。上位者たちの封印を破るものとは後述するが赤子の泣き声である
女王ヤーナム
ロマの死によって隠されていたものが露わになり、女王ヤーナムが姿を見せるだが、これは上位者メルゴーの作りだした母の幻影である
トゥメル=イルで戦う女王ヤーナムの腹部は膨らんでいる。一方で彼女が呼び出す幻影は腹部が平らで妊娠しておらず、月前の湖ならびにメルゴーの高楼で会うヤーナムもまた腹部は平らである
幻影を呼び出す力はメルゴーが与えたものなのである。というのもトゥメルの末裔ならびにトゥメル人と思われる敵の誰一人として分身攻撃はしないからである
メルゴーは乳母という恐怖を除去するために母の幻影を呼び出し、救出者を誘導していたのである
ゆえに乳母という恐怖が去った後、幻影ヤーナムはメルゴーの謝意を代弁するかのように頭を下げるのである
※一方、ヤーナムの影は邪悪な文明の女王ヤーナムの影(守護、警備)である
赤子の泣き声
悪夢の儀式は、赤子と共にある
赤子を探せ。あの泣き声を止めてくれ(ヤハグルの手記)
上位者を呼ぶ儀式を止めるには、赤子の泣き声を止めなくてはならない
つまるところ、具体的には赤子の泣き声が上位者を呼び寄せているのである
泣き声によってなぜ上位者が現われるのかというと、泣き声が眠りを破るからである
上位者の眠りとは上述したように封印であり、それが泣き声に破られることで上位者が現世に現われるのである(それは深海あるいは宇宙から)
ゆえに泣き止ませることで上位者たちは再び眠りにつき封印されるのである
悪夢の世界は逆さまであるということを過去の考察で述べてきたが、それはおそらく空間的にも時間的にも逆さまなのである
人は朝に目覚め夜に眠るが、悪夢に棲まう上位者は夜に目覚め夜明けに眠るのである
上位者の眠りは夜明けを意味し、上位者たちが再び封印につくことを意味してるのである
上位者の眠りは番人(狩人)の存続を意味し、それは封印が持続されることを意味する
すなわち今回の獣狩りの夜は月の魔物側から見ると失敗になるのである
よって完全な夜明けが訪れる前に、上位者は最低限の収穫物を収獲しなければならない
その最良のものは「上位者の赤子」であり、またそれが得られなかった場合には狩人の集めた「血の遺志」なのである
※月の魔物の目的が曖昧でややぶれているようにも感じられる。だがこれは『未知なるカダスを夢に求めて』のナイアルラトホテップも同様である。作中ナイアルラトホテップはカーターをすぐに殺せるはずなのになぜか殺さずに、回りくどい方法でカーターをいたぶるのである
※これはトリックスター的な役割を与えられているからであるが、月の魔物においても同様である
※ただし月の魔物の意志やゲールマンの意志については課題としてまだ考えなければならないと思っている
罪人の末裔
狩人はシモンによれば罪人の末裔である「…お願いだ、悪夢を、終わらせてくれ… たとえ罪人の末裔でも… …憐れじゃないか。俺たち、狩人たちが…」
一方、旧主の番人も罪人であったとされる
骨炭の仮面
鋭く尖った大きな帽子は、古い番人のシンボルであり
彼らがある種の罪人であった証であると考えられている
番人の末裔としての狩人にも上位者の眠りを守る(=上位者の封印を守る)使命があり、ゆえに夜を終わらせて夜明けを迎えなければならないのである
狩人には「狩りを全うする」という第1の使命があり、これは上位者のことごとくを狩ることで達成される
しかし狩人にはもう1つ使命がある。それが番人から受け継がれた「眠りを守る」ことである。これはメルゴーを泣き止ませることで達成される
泣き声が止まり、封印が元に戻れば狩人の最低限の役割は果たされたことになる
ヤーナムの夜明けEDにおいて、月の魔物と対峙せずゲールマンの介錯で終わりを迎えるのはこのためである
マリア
時計塔のマリアが血と炎を操るのは、彼女が女王ヤーナムの血を受け継ぐ者であり、同時に番人の末裔(狩人)であるからである※旧主の番人は、ゲーム中の戦闘では炎を使って攻撃してくる
より正確にいうのならば、人類は番人ではなく「番犬」の末裔である
我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う(ウィレーム)獣の病とは人が獣となることである。「また」という言葉を「ふたたび」と解釈するのならば、人類はもとは人の姿をもっておらず、それを失った時に再び獣の姿に戻ると理解することができる
であるのならば人類の祖は「番人」ではなく、「番犬」であったと考えるのが筋である。それを証すように、もっとも古い血(炎の血)に影響されたであろうローレンスの炎の獣としてのあり方は、旧主の番犬と酷似している
つまるところ、番犬という獣が古い血によって人の姿を得、また古い血によって先祖返りした個体がローレンスであり、穢れた血と炎の血の両方を1つの肉体に宿したのがマリアである
※大聖堂にある獣化したローレンスの頭蓋と狩人の悪夢で出会う炎の獣としてのローレンスは、すなわち炎の獣という人類の根源的本性を、一方は現実における不完全な獣化頭蓋として表わし、一方は悪夢における完全体の炎の獣として表わしたものである
※現実における惨めな敗北と、夢における栄光の勝利は『未知なるカダスを夢に求めて』や『セレファイス』などに見られるテーマの1つでもある
マリアの肉体には月の魔物系の穢れた血と、旧主の番犬から流れる炎の血(古い血)の2つの血が流れ、また混じり合い、精神的・肉体的な葛藤が引き起こされた結果、あのような能力を持つに到ったのである
穢れた血をもつ者が血の狩人ではなく、ゲールマン系の狩人になることは例外的なできごとだったのである
マリアはプレーヤーとおなじく血の医療(まだそう呼ばれていないが)を受け入れることで試練に挑み、そうして炎(古い血)によって穢れた血の獣に打ち克ったことで、穢れた血と炎の狩人になったのである
その特異な体質こそゲールマンが好奇の狂熱を燃やすにいたった直接的な原因であろう
※たんに女王の傍系というだけならば、カインハーストにいくらもいたはずである(まだ処刑隊が虐殺していない時代である)。ゆえにそれ以上のなにかがあったのだと考えられる
蛇足
旧主と、オドン、メルゴー、ヤーナムの関係など課題は山積されたままである考察のタイトルが「旧主」であるのも、関連するその他の課題が完全な解決にいたっていないからである。あくまでもクトゥルフ神話を援用した考察であって、そこここに瑕疵があることは認識している
とはいえ、旧主に関する自分なりの考察は得られたのでないかと思われる
本考察にかんする重要な示唆を与えてくれた無銘氏に感謝