ヤーナムの少女
少女の姉、とは「ヤーナムの少女」の姉のことであるヤーナムの少女イベントの最後に登場する「姉」は、いくつかの不可解な状況を残したままゲームから退場してしまう
そこでまずは、ヤーナムの少女のNPCイベントからおさらいしてみたい
狩人(主人公)が少女と出会うのは赤い月が露わになる前のヤーナム市街である
狩人は少女に母親探しを依頼される
だったら、お願い、お母さんを探してほしいの
母親は獣狩りの夜に父親を探しに出て行ってしまって帰ってこないという
獣狩りの夜だから、お父さんを探すんだって…それからずっと帰ってこない
母親は真っ赤な宝石のブローチをつけており、もし母親に会えたらオルゴールを渡して欲しいと頼まれる
オルゴールの紙片には、ヴィオラとガスコインの名が記されている
その後、狩人はオドンの地下墓にて獣化したガスコインと遭遇し、また近くの屋根にヴィオラの遺体を発見する
真っ赤なブローチ
女物の真っ赤なブローチ
刻まれたヴィオラの名も見て取れる
少女の両親の死を知った狩人は、いくつかの選択肢のうちの1つを選ぶ
- 少女にブローチを返す
- オドン教会を教える
- ヨセフカの診療所を教える
- 何も教えない
4を選び赤い月までに行動しなければ少女のクエストラインは消滅する
3を選ぶと偽ヨセフカのクエストラインへ移行し、少女イベントとしてはそこで終了する
1.2.を選んだ場合、少女は家から姿を消し、その後に下水の人喰い豚を倒すと「使者の赤リボン」をドロップする
ヤーナムの少女本人が関わるイベントはこれで終わりである
家族構成
イベントから分かることは、少女の父はガスコインであり、母はヴィオラであること。また、父母の他に祖父がいることであるありがとう、獣狩りさん
お母さんとお父さんと、お爺ちゃんの次に大好きよ
この祖父については過去に考察したので概略に留めるが、名前の語源や正気を失っていた場所を考慮すると、ヘンリックが「お爺ちゃん」なのではないかという結論を出した
しかしながらお爺ちゃんが何者であろうとも、セリフを信用するかぎり家族構成は父母と祖父と少女の4人である
少女の姉
だが赤い月後、それまでまったく触れられていなかった少女の姉がいささか唐突に現われる留守番をしていたはずの妹の姿が見えない、と姉は打ち明け、妹の行方を狩人にたずねてくる
狩人が妹のものと思われる「使者の赤リボン」を渡すと、はじめは悲しむようなそぶりを見せるが、狩人が家から離れようとすると、本音を吐露する
綺麗なリボン…やっと私のものね…
とっても似合うでしょうね…
ウフ、ウフフフフフッ
ロードをはさむと姉は家から消えており、付近のハシゴの下に少女の遺体が現われる
少女の遺体を調べると「使者の白リボン」を入手できることから、この遺体は先ほど話していた少女の姉のものである可能性が高い
こうしてヤーナムの少女ならびに少女の姉のイベントは終わる
謎
だが、いくつかの謎や疑問は放置されたままである妹が「姉」について触れなかったのは、最初から姉などいなかったからなのか、それとも不仲ゆえに省いたからなのか
また、赤い月という非日常的な状況にあって、なぜ姉は自宅に帰ってこられたのか、どこから来たのか、なぜ理性を保ったまま喋ることができたのか
そしてそもそも少女の姉とは何者だったのか、という最大の謎は残されたままである
答えを見つけるには断片的な情報をつなぎ合わせたうえで、足りない部分は推測で補完していくしかないだろうと思われる
よって、考察には相応の飛躍が伴うことを先に断っておく
扉
少女の姉がどこからやって来たのかは、とりあえずは不明である。しかし、どこへ行こうとしたのかは推測できる姉の遺体がハシゴの下で見つかることから、彼女はハシゴを使って下の階層に降りようとしたのである(落下したか、あるいは降りたあとで獣狩りの下男に殴り殺された)
というのも、ガスコイン邸の玄関はハシゴ側ではなくゲートの向こう、広場側に開いているからである。ハシゴを下るつもりがなければ、玄関を出てからわざわざ方向転換をしてゲートをくぐり、ハシゴの方へ近寄る必要がない
さて、すぐ下の階層には家が二軒が建っている
そのうち、奥にある家には意味深なモノがある
この家の玄関扉に刻まれたレリーフに「リボン」が確認できるのである
この家は赤い月前は扉の下から明かりが漏れているが、赤い月後はなぜか明かりが消え、家の住人とも話せなくなっている(他の家は赤い月後でも「反応がない」と表示される)
また、玄関先の灯火は扉越しにNPCと話せるという目印であるが、この家の灯火は最初から消えている(赤い月後も消えたまま)
以上の情報から、姉と名乗るNPCはこの家の住人であり、赤い月後にガスコイン邸に忍び込み、狙っていた「白リボン」を捜索していた、というストーリーが推測可能である
そこへちょうど狩人が訪れ、虚偽の説明を信じたうえに「赤リボン」を渡してくれたので、自宅に帰ろうとハシゴを下りたところで、落下したかあるいは下にいるMobに殴り殺されたのである
扉のレリーフはリボンへの強い執着を表わしており、近所に住む白い大きなリボンをつけた少女に対して妬みを抱いていたとしても不思議ではない
そして赤い月による精神の高揚から、ついに少女は白リボンを奪おうと画策したのである
このストーリーの難点は、赤い月前に話せる家の住人と姉の声が別人であることである
しかもこの時の声は少女ではなく完全に老婆のそれである(孤独な老婆と同じ声優さん)
※余談ながら、少女の姉の日本語音声は、実験棟のアデラインも担当している花澤香菜さんである
また、リボンのレリーフが刻まれた玄関扉をもつ家は他にもある
少女の家の近く、井戸のある広場の建物にもリボンの扉はある |
さらにいえば、なぜ赤い月後のヤーナムで理性を保ったまま行動できたのかという疑問にも答えられない。他の住人は喋ることもできなくなり、またヨセフカやアリアンナやアデーラは発狂しつつある
この状況下において、まともに行動できたのはアイリーンぐらいであろうか(アイリーンは発狂耐性の高い鴉羽シリーズを装備している)
付け加えるのならば、血塗れの赤いリボンを渡されて喜び、なおかつそれを白リボンにして持って行く、というのはリボンに憧れるだけの少女としては妙である(赤い月で発狂していたにしても、意志を感じさせる行動である)
とはいえ、扉のレリーフや遺体の場所などの諸々の情報を検討するのならば、「ハシゴ下の家に住んでいたと思われる少女」を「姉」とするのが蓋然性が高いと思われる
私としても上述した細かな疑問を気にしなければ、これが結論であっても異論はない
よってこれより下は、細かな疑問にこだわり、ある一つの手がかりに多分な妄想を加えた「物語」であることを先に断っておく
ガスコイン邸
ガスコイン邸の玄関は下の画像の位置にある上でも述べたように、ハシゴの方へ行くには玄関を出てゲート方面に回り込まなければならない
さて、この玄関の上に紋章が彫られている
はじめは紋章によく使われる「片足立ちのライオン」の紋章かとも思ったのだが、拡大してみると違う印象を受けた。そしてこの紋章と似た紋章をどこかで見た記憶があった
カインハーストである
尻尾の曲がり具合や、片足で立っていること、口を開いていることなどの特徴が一致している
つまり、ガスコイン邸はカインハーストと繋がりのある建造物と考えられるのである
※あくまでもカインハーストに関連する紋章という意味である。カインハースト王家の紋章そのものではない
血脈
ではガスコイン邸の住人たちはどうか?アンナリーゼの血脈に特徴的なのは、やや醒めた色の金髪(プラチナブロンド)である(アートワークスでは女王の髪は赤毛であるが…)
女王の傍系と明記されているマリアはもちろん、「禁忌の血」をもつ娼婦アリアンナやマリアを模したと思われる人形(銀髪にも見えるが薄い金色にも見える)も金髪である
ガスコイン家でいえば、ガスコインは異邦人であり養子であると思われるので省くとして、ヴィオラは金髪であり、少女の姉も金髪である
また祖父ヘンリックと同語源の名を持つ古狩人ヘンリエットも金髪である
※ヘンリックの髪は濃いブラウンである
このことから、ガスコイン家(ヘンリエット家のほうが適しているかもしれない)に生まれる女性は代々金髪であると考えられる(遺伝学的にはおかしい気もするが、神秘的な穢れた血の作用であろう)
そして金色の髪をもつのは、女王の血を引く者たちである
※カインハーストの絵画に描かれた赤毛の女性たちは、女王の祖先と考えられる(血族としてはアンナリーゼが祖であろう)
※またアルフレートも金髪だが、それについてはカインハーストの考察の時に触れたいと思う
※尼僧アデーラは、オドン教会に到着後すぐにアリアンナを敵視している。まるで外見に穢れた血の徴があるかのように、彼女はアリアンナを避け、柱の後ろから睨み付けるのである。このことは、穢れた血をもつ者には外見的な特徴が現われる、という設定が背後にあるように思われる(カインのしるしのような)
少女の姉
つまるところ、少女の姉は外見的特徴から判断するに、実際に姉であってもおかしくはないのであるだが少女は彼女を姉とは呼ばず、彼女だけが少女を妹と呼んでいる。この矛盾を解くための推論はいくつか考えられるが、この考察において私が提示するのは、「彼女は実際に姉と呼ばれる地位にあるが、血の繋がった実の姉ではない」とする仮説である
端的に言えば、一族の女性のうち年長のメンバーを「姉」、そして年若のメンバーを「妹」と呼ぶ風習がカインハーストにはあり、少女の姉は一族の年下の少女を「妹」と呼んだのである
※平たく言えば、古い作品になるが『マリア様がみてる』のスールのようなものである(wikipedia)
この風習あるいは慣習はある種の同性愛的な色を帯びるが、吸血鬼物語における同性愛的な描写はレ・ファニュの『カーミラ』(1872年)にすでに登場している(日本においては『ポーの一族』か)
ゴシック・ホラーの吸血鬼においては、同性愛的な要素はその創始の頃から存在していたのである
しかしブラッドボーンには表面的にはそういった描写はない
ストーカーのドラキュラに似た雰囲気を目指したといい、ジョージ・R・R・マーティンの吸血鬼小説『フィーヴァードリーム』や人狼小説『皮剥ぎ人』など、多くの吸血鬼モノの影響が散見される本作であるが、『カーミラ』については、女吸血鬼たる女王アンナリーゼがその直系であろう
ゆえに『カーミラ』由来の同性愛的な要素が隠されているとしたらカインハーストであり、その抑制された表出が「ヤーナムの少女とその姉の物語」であるのかもしれない
ヤーナムに住む少女にとって家族とは祖父と両親だけである。けれどもカインハースに住む少女にとっては、ヤーナムの少女は妹であり、自分は姉なのである
異なった二つの風習のすれ違いが矛盾として表現されたのが、「お母さんとお父さんと、お爺ちゃんの次に大好きよ」と「妹をご存じではありませんか?」である
カインハーストの少女
カインハーストに住む少女と言っても、カインハーストは処刑隊によって滅ぼされているので、実際にカインハーストに住んでいるわけではなく、そこから逃げ延びた者たちであろう彼女の一族はガスコイン家とは違い、カインハーストの風習を守って生活していたのである。以前から交流があったことは、少女の姉のセリフ「綺麗なリボン…やっと私のものね…」から推察できる
なぜ彼女が大きなリボンを欲したかというと、カインハーストにおいては「懐古主義的で大袈裟」(騎士装束)なものが好まれたからである
全体にカインハーストの意匠は華美で装飾的である。ガスコインが送ったと思われる「真っ赤なブローチ」がヴィオラの心を射止めたのもその凝った装飾によるものであろう
大きなリボンそのものは「騎士の一房」として「美と名誉」の象徴的装飾具となっている
※リボンは聖歌隊装束の襟元にもあるが小さい
※銀髪なのは騎士の地位が女王の血脈ではなく従僕だからである(レイテルパラッシュ)
彼女がリボンを欲したのは、華美な装飾を好むというカインハーストの文化のなかで育てられたからである
また、彼女は血に塗れた赤リボンを渡され、それを平然と受け取っている。さらにその汚れを落とし白リボンにして持ち出している
古くから血を嗜んだカインハーストの貴族(レイテルパラッシュ)に連なる者ならば、たとえ血まみれであろうと受け取るはずである。なぜなら彼女たちにとって血を嗜むことは当たり前のことであり、血に塗れたリボンはチョコレート塗れのリボンの如きものである
要するに、渡されたリボンについた血を、姉は舐め取ったのである
※輸血液「故にヤーナム民の多くは、血の常習者である」とは、血を嗜むことではなく、「同様の輸血により生きる力、その感覚を得る」とあるように、輸血による常習である
※また「匂いたつ血の酒」は血そのものではない
が、経口摂取する濃厚な血の類は、強い鎮静作用をもたらすものである
鎮静剤
濃厚な人血の類は、そうした気の乱れを鎮めてくれる
彼女はやはり赤い月によって狂っていたのである
愛護すべき妹の大きなリボンを奪おうとするほどに気が狂い、カインハーストの貴族であるがゆえに、渡された赤リボンの血を嗜んだのである
そして正気に戻ったのである
彼女は妹の死を察し、自らの行為に罪悪感を覚え、そうしてハシゴの上から飛んだのである
※彼女の気の狂いがアリアンナらと比べて軽度なのは、彼女の体がまだ子供を宿せない状態(オドンが頭の中に蠢いていない)であるか、日頃から濃厚な人血の類を摂取していたからかもしれない
※アンナリーゼは血族は唯一人(あるいは2人?)しか残ってないというが、ローゲリウスに閉じ込められていた彼女が、正確な状況を知ることは不可能である
※事実、女王の傍系、その数少ない一部がカインハーストを逃れヤーナムに落ち延びた。その末裔が、娼婦アリアンナやヴィオラなのである
※舐め取っただけで血の汚れが落ちるかというと、それは難しいであろうと思う。しかしたとえ洗ったとしても、血の汚れを落とすにはそれなりに強力な洗剤が必要だろう。つまり、どちらにせよあの状況で赤リボンが白リボンに漂白される現象は不自然なことと言える
※取得時期にもよるが、赤リボンの血が渇いていたことも考えられる。しかし赤リボンのグラフィックには鮮血として描かれている
リボンの家
少女の姉がどこに住んでいたかというと、やはりリボンのレリーフの家であろうと思われるリボンを付けた少女が表わすように、そこはカインハーストの血を継ぐ子供たちの住む施設である(装飾性を象徴するリボンはカインハーストを表わし、少女は女王の血を引く子らを表わす)
要するに孤児院である(会話できる老婆は孤児院の院長かなにかであろう)
※あるいはカインハーストの生存者が隠れて暮らす共同体のようなものかもしれない
※少女の姉が制服のような装束を身につけているのは、それが孤児院の制服だからであろう
※レリーフが男の子でないのは、カインハーストが女王の国だからだと思われる
※カインハーストの紋章でないのは、彼女らは騎士(狩人)ではないからであろう
成長すると彼女たちはその家を出て、娼婦となるか(アリアンナ)、またある者は強烈な近親憎悪を芽生えさせ、存続してすらいない処刑隊に身を投じたのかもしれない
※現在のヤーナムにおいて、処刑隊はほぼ活動停止状態にある。ゆえに穢れた血を持っていたとしても、蔑視される程度で虐殺はされなかったと思われる。これはアリアンナが不特定多数を相手にする娼婦をして生き延びていることからも分かる
だが、正々堂々カインハーストの紋章を掲げるヴィオラの家系は彼らとは別世界に生きていたのである。その末裔たる少女にとって、同胞とはいえ孤児院の孤児たちは姉妹とは思えなかったのである
※確認されうる限りヘンリエットから続く狩人の家系である
※家の高低からも、双方の差がうかがえる
一方で孤児院に住む「姉」は、妹の持つ大きなリボンを渇望し、彼女との格差に日々妬みを募らせていったのである。その鬱積した感情を爆発させる要因となったのが、赤い月の接近だったのである
※孤児のなかには聖歌隊の孤児院に移った者がいたかもしれない。最後の学徒ユリエはデータでは頭髪がない。これを意図的と見るのならば、頭髪のない理由はその髪の色に不都合があったから、とも考えられる
蛇足
「※」がやたらと多くなってしまった。ということはあまり良い考察ではない旧市街の時もそうだったが、ヤーナムの街や人を考察しようとすると、なぜかカインハーストの影がちらつくのである。影を追おうとすると様々な事象が際限なく繋がりはじめ、しかし確証はないのでいつのまにか曖昧な全体像に帰着してしまう
そのたびに※によって補足しようとするのだが、場当たり的な感は否めない
そのため「物語」とした