まとめ

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2019年12月28日土曜日

Bloodborne 手記9 身を窶した男

多くの点において身を窶(やつ)した男異質な存在である

また、彼のたどってきたであろう過去やその末路を考えるに、医療教会の影の側面を体現するようなキャラクターであるようにも思う


外見

はじめに身を窶した男素性について外見から考察してみたい

身を窶した男が身につけているのは、「やつしの頭巾(Harrowed Hood)」と「異常者の脚帯(Madman Leggings)」である

やつしの頭巾
医療教会の狩人には、身をやつし、市井に潜む者がいる
誰にも気にかけぬ下賤、これはそうした装束である
やつしもまた予防の狩人であり、獣の兆候を見逃さない
あるいは、彼らがそう信じたものを、必ず見出す
人は皆、なんらか秘密を持つものだ
異常者の脚帯
医療教会に属し、地下遺跡に潜る墓暴きたち
彼らの多くは、神秘の智慧に耐えられず、精神に異常をきたす
これは、そうした異常者の装束である
真実は時に狂気に似て、愚者の理解とも無縁である
だが異常者は、ただ何ものにも到れなかった者のことだ

テキストからは、やつしは市井に潜む予防の狩人であり、異常者とは墓暴きが精神に異常をきたした者のことであるとわかる


予防の狩人

やつしシリーズのテキストにはやつしは「予防の狩人」だと記されているが、医療教会には「やつし」の他にも予防の狩人と呼ばれる者たちがいる

教会の黒装束を身にまとう、黒い予防の狩人たちである

教会の黒装束
彼らの多くは下級の医療者であり
獣の病の罹患者、その疑いのある者を、獣の病発症前に処理する
予防の狩人である

彼らはルドウイークが狩人を募った際に組織化された「表向きの予防の狩人」である

ヤーナムの狩帽子
医療教会の最初の狩人、ルドウイークは
かつてヤーナム民の中に狩人を募った

大規模な狩人組織はルドウイークの創始である
そして、ルドウイークを端とする狩人たちは聖職者であることも多かった

剣の狩人証
ルドウイークを端とする医療教会の狩人は
また聖職者であることも多かった

このように教会の黒装束(聖職者の服である)を身にまとった黒い予防の狩人たちは、表向きは人々を救う医療者であり、「英雄ルドウイークの系統であるがゆえに、賞賛と名誉を一手に浴びるいわば「光」の予防の狩人である

だがその裏で市井に潜み、獣の兆候を密かに狩っていた「」の予防の狩人がいる。それこそが「やつし」である


墓暴きシリーズ

そして異常者に繋がる墓暴きもまた教会の影を担う存在であった

墓暴きのフード
医療教会の中でも、特に地下遺跡に潜る墓暴きの装束

なぜ墓暴きが「」とされるかというと、墓暴きシリーズがショップに入荷されるのは、「輝く剣の狩人証」を入手した後であるが、狩人証に記されているのは「英雄」としての狩人であり、まさにそこに英雄としての狩人と、その影としての墓暴きという対比が見て取れるからである

輝く剣の狩人証
それは聖剣の二つ名で知られる狩人たちであり
唯一、獣狩人が英雄たり得た時代の名残である
もうずっと前のことだ

輝く剣の狩人証のテキストによって、獣狩人が英雄たり得た時代があったことをプレイヤーに知らせ、同時に墓暴きシリーズをショップに追加することで、英雄の影にあった薄暗い部分を暗示しているのである

英雄と持ち上げられていたが、実態は墓を暴く「墓暴き」に過ぎない。これは、そうした皮肉なのだ

要するに、やつしと墓暴き(→異常者)の装備はともに「医療教会」と関連する装備であるが、「医療者」や「英雄」としての光の医療教会ではなく、その背後に隠された影の医療教会を象徴するようなアイテムなのである



保管箱

さて、異常者墓暴きを経由しなければ到達できない境地である。しかし、この両者の間には不可逆的な断絶が認められる

これは各装備の保管箱カテゴリーからも裏付けられる

保管箱を開くと、各種装備が「工房の狩装束」「教会の狩装束」「血族の狩装束」「その他」と分かれて表示される

そして保管箱において、やつしと墓暴きは「教会の狩装束」にカテゴライズされ、一方で異常者は「その他」に振り分けられている

やつし装備のカテゴリーは「教会の狩装束」

墓暴き装備のカテゴリーは「教会の狩装束」

異常者装備は「その他」

この差異が何を示すかというと、前者が教会の狩人であるのに対し、後者は教会の狩人ではないということである(ただしメンシスの檻という例外も存在するから絶対的なものではない)

あるいは、すでに狩人でさえないのかもしれない

なぜならば、カレル契約「穢れ」を装備して身を窶した男を殺しても、「血の穢れ」を入手することはできないからである

また恐ろしい獣となった男は「狩人など、お前らの方が血塗れだろうが!」と叫ぶことからも、彼が少なくとも現時点では「狩人ではない」ことが明らかである

次に、身を窶した男のたどってきた道程を考察してみたいと思う



墓暴き

彼は「“まず”墓暴き」であった。「“まず”やつし」でないのは、やつしから墓暴きにクラスチェンジする必然性や事件が見当たらないことと、現在の名が「身を窶した男」だからである(過去ではなくいま現在、身を窶している最中である)

また、「“まず”異常者」でないのは、異常者になるには墓暴きを経由しなければならないからである

異常者の脚帯
医療教会に属し、地下遺跡に潜る墓暴きたち
彼らの多くは、神秘の智慧に耐えられず、精神に異常をきたす
これは、そうした異常者の装束である


墓暴き→異常者

まず墓暴きとして地下遺跡に潜っていた彼は神秘の智慧に耐えられず、ついには精神に異常をきたす

彼を発狂させた神秘の智慧とは、上位者の智慧である

狂人の智慧
上位者の智慧に触れ狂った、狂人の頭蓋

※英語版では狂人と異常者とは同じ「Madman」の単語が使われる(狂人の智慧は「Madman’s Knowledge」であり、異常者の脚帯は「Madman Leggins」)

異常者となった彼は医療教会によって保護される

やや唐突な感があるが、保護されなければならない理由が存在する

異常者に関する知見は異常者装備に記されているが、当の異常者が保護されて医療者の診察を受けなければ、異常者が精神異常を引き起こしたことも、その原因が神秘の智慧に耐えられなかったという知見も得られなかったろうからだ

そのうえ医療教会にとって病とは新たな知見を開く手段のひとつである

教会の白装束
彼らにとって医療とは、治療の業ではなく、探求の手段なのだ
病に触れることでしか、開けない知見があるものだ

このような彼らにとって「発狂」というを放置する選択は無い。必ずそれに触れ、知見を得ようとし、そしてそれは事実「異常者装備」のテキストに記されたような知見として結実したのである

また実際的な理由として墓暴きの多くが異常者になってしまうと業務に差し支えが出ると考えられる

異常者の脚帯のテキストには「彼らの多くは」と記されている
墓暴きの多くが異常者となり、その職務の継続が不可能になりつつあったのである

これはもはや看過してよい段階にはなく、直ちに予防的措置を講じなければならない状況である
そして予防のためには「病」を解析しなければならず、それはつまり患者の観察と治験が絶対に必要なのである

よって、異常者の多くは医療教会によって保護されたと考えられる
そしてその中に身を窶した男もいたのである



被験体時代

さて、医療教会によって保護された彼は、人体実験の被験体となる(名目上は治療あるいは治験

その実験の主目的とは獣の病の制御である

獣の抱擁
獣の病を制御する、そのために繰り返された実験の末
優しげな「抱擁」は見出された
試み自体は失敗し、今や「抱擁」は厳重な禁字の1つであるが
その知見は確かに、医療教会の礎になっている

獣の抱擁をドロップするのは初代教区長ローレンスで、になったというからには、最初に実験が行われたのは医療教会の設立以前であろう

その失敗に終わった実験を密かに引き継いで、継続していたのが医療教会である
そして彼らは一定の成果をあげたのである

というのも、身を窶した男が変異する「恐ろしい獣」は人語を喋るからである(ローレンスは喋らない)

また同じように医療教会最初の狩人「醜い獣ルドウイーク」も言葉を喋る。彼は「醜く歪んだ獣憑き。私を嘲り、罵倒した者たち」と恨み言を吐くが、このセリフは、彼もまた獣の姿になってなお理性を保ち、なおかつ人々と接していたことを証言するものである

つまり、獣の病を制御する技術は医療教会によってある程度までは確立されていたのである

医療教会の礎となったローレンスは喋ることができず、その後の医療教会最初の狩人であるルドウイークが言葉を喋ることができるという事実は、ローレンスの時には失敗した実験が、医療教会時代にはある程度の成果を上げたことの直接的な証拠である

ちなみにもう一体、変異してなお人の言葉を喋る者がいる。「蜘蛛のパッチ」である。ただし今回は長くなるので省いた



ローランの血

さて、獣の病を制御する実験を行うためには、獣の病に罹患した患者が必要となる

発狂し使い物にならなくなった狩人などは、被験体として最適であろう。獣と戦うための鍛え上げた肉体と、狂ったとは言え強靱な精神をもっていた者たちである

そうして医療教会は身を窶した男を獣の病に感染させた

そのときに使われたのが、ローランから回収された「血」である

病めるローランの汎聖杯
病めるローランの各所には、僅かに、ある種の医療の痕跡がある
それは獣の病に対するものか、あるいは呼び水だったのか

現代のヤーナムにおいて獣の病に対する治療に何が使われるか

である

医療の痕跡とはつまり、医療に使われた「血」の発見に他ならない

その血は獣の病をローランに蔓延させた血であり、血により獣化したローラン人が何に変異したかというと、ローランの黒獣(黒獣パール)と恐ろしい獣なのである

身を窶した男は医療教会の血の医療によりローランの獣の病に感染し、そうして恐ろしい獣となったが、同時に獣の病の制御技術により意識を保てるようにもなったのである

この非人道的な実験により彼は狩人に対する敵意を抱くようになった

「狩人など、お前らの方が血塗れだろうが!」という恐ろしい獣のセリフは、彼の実体験から来るものであり、「獣だと?獣だとっ? あんたに何が分かる!」というセリフからは、獣化した彼が医療教会の狩人たちからどのように扱われたかがうかがい知れる

また、彼がカレル文字「獣」をドロップするのも、獣性を高めるために強制的に「獣」を脳裏に焼き付けられたからであろう

ちなみに本編のおいて「獣」をドロップするもう1体の獣は、医療教会の工房の最下層にいる


この街も

話は少し変わるが、身を窶した男に誘導先を教えないと妙なことをつぶやく



またこの街も」というからには酷いことになった他の街を知っているということになる

酷いことになった前例として思い浮かぶのが、獣の病によって滅んだと思われるローラン、そして旧市街である

時代的にローランは古すぎる気がするし、身を窶した男がローランの時代から生きているというよううな根拠はない

素直に考えれば、酷いことになった街とは「旧市街」のことであろう

恐ろしい獣となった彼の最期の言葉、「人は皆、獣なんだぜ…」は、旧市街にいる古狩人デュラの「貴公は獣など狩っていない。あれは…やはり人だよ」というセリフと奇妙に共鳴する

同じ惨劇を見た二人が、同じような結論に到ったとしても不思議ではないだろう。つまり身を窶した男は旧市街に身を置き、その惨劇を目の当たりにしたのである

しかし、医療教会の被験体である彼がなにゆえ、どのような役割のもとに旧市街にいたのか

もちろん「やつし」としてである

獣の病の蔓延する旧市街。そこに跋扈する獣の群れに対抗するために、医療教会側はある策を講じたのである

制御できる獣を投入し事態の鎮静化をはかったのだ

男はやつしとして旧市街に侵入し、市井に潜み、そうして獣の兆候を狩ったのである

だがその惨劇に、あるいは接近する赤い月の神秘に彼はふたたび発狂した

こうして彼はやつしの頭巾を被る発狂者として、医療教会に回収されたのである



ヤーナムの呪い

「この街も」に続いて彼は「ヤーナムの呪い、か…」とつぶやく

この証言は本作でも極めて重要なセリフである

プレイヤーにさえ漠然とした伝達法により仄めかされる程度であった情報を、特に重要とはいえないNPCがぽつりとつぶやくのである

ヤーナムの呪い、とはヤーナムの街の呪いのことではなく、女王ヤーナムの呪いのことを指すと思われるが、一体全体ヤーナムという女王がいて、彼女の呪いが存在していることを、誰が知っていただろうか

ビルゲンワースのウィレーム、あるいは教区長、そして医療教会の上位会派ぐらいであろうか

なぜ身を窶した男が「ヤーナムの呪い」などという秘中の秘を知っていたのか

後述するが彼は医療教会の上位会派である「聖歌隊」と関係を持っていたからである(関係といっても実験者と被験体という非対称的なものであったが)

かつて墓暴きであったころの知識に加え、聖歌隊から知識を得て、また旧市街にやつしとして潜入する際にもそうした知識を与えられたであろう

だからこそ旧市街や現代ヤーナムの惨劇の大元にヤーナムの呪いが存在することに気づいていたのである



禁域の森

さて、旧市街の惨劇の後、身を窶した男は医療教会に保護(回収、拘束)されたことまでは上で述べた。

だが、抑えきれない凶暴性あるいは不服従に手を焼いたのか、結局のところ医療教会(聖歌隊)は身を窶した男を廃棄する

廃棄したのは禁域の森である

禁域の森とは医療教会が禁域に指定した領域であり、街から追放された人々の集落がある場所である

「すなわちビルゲンワースは、ヤーナムを聖地たらしめたはじまりの場所ですが 今はもう棄てられ、深い森に埋もれているときいています …それに、ビルゲンワースは医療教会の禁域にも指定されています」(血族狩りアルフレート)

街から追放された云々に関して。海外Wikiには攻略本から転載されたと思われるエリア情報が載っており、そこに禁域の森は街から追われた人々の村があると記されている(参考wiki)

さらに禁域の森は星界からの使者教会の大男など、被験体が廃棄される場所でもある

つまり身を窶した男が禁域の森にいたのは偶然ではない。そこは医療教会が廃棄した被験体の住処として相応しい領域なのである

彼はそこで「発狂したやつし」として市井に潜み、抑えきれない獣性を持て余し、人を喰らい、次に潜む場所を物色していたのである



獣血の丸薬

さて、身を窶した男をオドン教会に誘導したルートでは、NPCを殺す度に彼は獣血の丸薬をプレイヤーにくれる

この獣血の丸薬、テキストでは出所不明とされるが実のところ出所は聖歌隊である

獣血の丸薬
獣血を固めたといわれる巨大な丸薬
故は分からず、医療教会は禁忌として関わりを否定している

というのも、星の瞳の狩人証を入手することでショップに入荷されるからである

星の瞳の狩人証
医療教会の上位会派「聖歌隊」の一員の証

星界からの使者エーブリエタースとの関係が色濃い聖歌隊であるが、実際は「獣」に関する実験も密かに行ってきたのである

そしてこうした人体実験を行っていた研究者の一人が偽ヨセフカである

※彼女は聖歌隊の装束を身にまとい、彼女の犠牲者は聖歌隊の本部がある医療教会の上層に多く見られる星界からの使者に変異する。ゆえに偽ヨセフカは聖歌隊であったと考えられる

また、NPCを紹介した際、偽ヨセフカは「今度は、古い血を試すつもり」と漏らすが、このセリフは「古い血」所持しているか、あるいは少なくとも古い血を入手することが可能でなければ出ないであろう

古い血獣の病の根源であることは医療教会の関係者ならば熟知しているはずである
それでもなお、軽々しく「試すつもり」と口にするからには、被験体が獣化することも、その力も恐れていないことを示している

なぜ獣を恐れていないかというと、彼女には人に獣の病を感染にさせた経験があり、その獣の病を制御する技術も有しているからである

身を窶した男と偽ヨセフカに面識があったかは不明である。しかし「狩人など、お前らの方が血塗れだろうが!」と罵倒する彼が、診療所ルートでは素直に「星界からの使者化」しているところを見ると、面識があってもなくても偽ヨセフカの被験体にされたのではないかと思われる


古い血

偽ヨセフカの口にする「今度は、古い血を試すつもり」というセリフは解釈が分かれるところである
前後のセリフを引用すると次のようになる

ついさっき、治験者を受け入れたわ。今度は、古い血を試すつもり どうあれ、有意義な治験になる。あなたのおかげよ」

今回の例で言えば、身を窶した男に古い血を試すつもりであると受け取れる
しかしながら、身を窶した男が変異するのは「星界からの使者」である

ということは、古い血は人を「星界からの使者」にする作用があると考えられる

だが、それ以前に送った他のNPCも「星界からの使者」に変異するわけで、そこにわざわざ「古い血」を使った意味はないように思える(どうあれ、有意義な治験になったのでよしとするということであろうか)

もう1つの解釈がある。治験者として身を窶した男を受け入れてすぐに治療を行いすでに男が「星界からの使者」に変異してしまっているというものである

この場合、「今度は」とは、身を窶した男の次の治験者を指すことになり、結局のところ「古い血」は使われなかったことになる

とはいえ、結局のところ偽ヨセフカの治験者は例外なく「星界からの使者」になることから、偽ヨセフカは「古い血」を使うときも独自の調整を行い、それによって治験者を故意に「星界からの使者」にしていると思われる

で、あるのならば、それこそが獣の病を制御する技術の、最終的な到達点なのかもしれない

※おそらくその技術は、エーブリエタースの血を研究することで得られた知見のひとつであろう


ローレンス

さて、青い雷光をまとう恐ろしい獣ローラン系であるのならば、炎をまとう初代教区長ローレンスはトゥメル系の獣である(炎をまとう「旧主の番犬」や炎に焼かれた鎧をまとう「旧主の番人」が示すように、トゥメルと「炎」は関係が深い)

フロムソフトウェアのゲームでは、同一の物語構造が少しだけ形を変えて繰り返されることが多い。本作でいえば例えば、ヤーナムの女王とアンナリーゼの関係性である。

この両者は共に血の赤子を求める者であり、そして女王である(また特殊な血の持ち主というのもあるかもしれない)。このうちヤーナムの女王がオリジナルでありアンナリーゼはその矮小化された繰り返しなのである

ローレンスとルドウイーク、さらに身を窶した男とは彼女たちと同様の関係性にあると思われる

この三者を繋ぐのは医療教会である

ローレンス医療教会全体を体現するオリジナルである。一方、表舞台に立ち、栄光に包まれる英雄であったルドウイークと、市井に潜み誰からも気にかけられぬ下賤であった身を窶した男とは、医療教会の「光と影」という二つの側面をそれぞれに体現したキャラクターなのである

しかし最終的には三者ともが獣と化して血に塗れて死んでいくのは、上位者にとって、あるいは宇宙的恐怖の観点から見て、三者の相違など取るに足らない些末なものに過ぎないからである

地上の教会を打ち立てた聖職者であれ、栄光と賞賛に包まれた英雄であれ、蔑視され迫害された下賤であれ、暗く冷たい宇宙にとっては等しく価値が無いのである

宇宙的恐怖を前に人は為す術なく翻弄され、自らの秘めたる獣性を暴かれたあげく、その醜悪な本性臭気漂う臓物とともに宇宙に露呈させて、惨めに死んでいくのである

こうしたある種の容赦のなさが本作の魅力であり、絶望的な情況に置かれた人間の見せる最後の煌めき/足掻き(例えばルドウイークのムービー)こそが、フロムソフトウェアのゲームに共通して見られる美しさなのである



蛇足

獣の病ローラン系・トゥメル系とに分類したがこれは聖杯ダンジョンに登場する「獣」の傾向から分けたものである。その原因については「上位者」あるいは「上位者の血」が関係していると思われる

なぜこうした「傾向」、つまり偏りが生まれるのかはまだ考察が及んでいない。個々人の精神状態によるものかとも思ったのだが、だとすると分布はもっと散らばるはずである

あるいは人種により傾向が生まれるのかもしれないという仮説も立てた
ローラン人は青い雷光をまとう獣、トゥメル人は炎をまとう獣、というふうに

ローレンスがトゥメル人、身を窶した男がローラン人の血を引くと考えると同じ獣の病(「血」)により発現する症状が異なる理由にもなる。が、しかし今度はではなぜトゥメル人が炎でローラン人が青い雷光なのかという疑問が生じてしまう

そんなとき、ふと偽ヨセフカの「今度は、古い血を試してみるつもり」というセリフを思い出した。このセリフは「血」の種類によって変異に相違があることを前提にしなければ出てこないセリフである

つまり、獣の病の原因は「上位者の血」であるけれども、上位者が何体もいるように、その血もいくつかの種類があり、その種類によって発現する症状に差異が出るのである

星界からの使者聖職者の獣とを比べてみればこれは当然のことで、これまでもこの前提にたって考察してこともある。ただしこれは、つるりとした軟体生物と体毛のある獣という形状的に大きな差異があるから、その対比に限って想定してきたものである

しかしながら同じように人を獣に変異させる、同一の病原と思われる「血」にも細かな分類があり、その差異が感染して獣化した際にをまとったもの青い雷光をまとったもの、というふうに症状を分かれさせるのではないか、というのがこの項の論旨である

ただしこれも考察途上の一応の仮定に過ぎない

11 件のコメント:

  1. このコメントはブログの管理者によって削除されました。

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    1. 申し訳ありません、返信しようとして操作を間違えてコメントを削除してしまいました
      よろしければもう一度コメントを書いて戴ければと思います

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    2. 返信ありがとうございます。蛇足の部分を読んでいて、穢れた血族の傍系に属すマリアも炎を扱えることから、青い雷を扱えるローラン系の獣にも女王ヤーナムやアンナリーゼが持つ特別な血と同じようなものが流れているのかもしれないと思いました。ただ、確証が全くないので妄想の域を出ないのですが…

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    3. 再度のコメントありがとうございます

      過剰な血液(多血質)、熱、炎といった特徴はマリアやアンナリーゼ、さらに遡ってトゥメルの女王に共通する点かと思います

      そしてまるでそれに対比するように、ローラン系の青い雷光はゴースの遺子(厳密にはゴースの死体から青い雷が発生する)にも見られます

      詳細な考察はまだしてませんが、「宇宙」(月、オドンなど)と「深海」(ゴース)という相違が、それぞれの血から生まれる症状に影響しているのかもしれません

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  2. ゴースの青い雷には気が付きませんでした。そこで少し確認してみたのですがどうも自分にはそれがゴースの遺児が這い出てきた辺り(ゴースの子宮?)から発せられていたようにみえました。また、この攻撃はゴースの遺児の咆哮に伴って行われますが、これは咆哮を行った本体が放電を行わないという違いを除けば、ローランの銀獣や黒獣と共通の特徴です。
    ところで、ゴースの子宮内には恐らく2つのものが存在していると考えられます。
    1つ目はシードさんが別の考察記事内で述べられていたマリアの子ども(ゴスム)だと考えられます。
    2つ目はゴースの寄生虫だと思われます。
    もしここまでの考えが正しいとしたら、放電を行っているのはどっちなのでしょう?寄生虫が原因とすると、ローラン系の獣の見方がガラリと変わる気がします。

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    1. すいません、返信をしたつもりができていなかったようです。

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    2. 示唆に富むコメントありがとうございます

      ゴース関連については、まだ一応の結論が出るほど考察が進んでいないので推測というか憶測になります

      寄生虫は仕掛け武器として入手可能ですが、『この虫は「苗床」の精霊を刺激するという』とあり、の苗床とはカレル文字「苗床」のことかと思われます

      その「苗床」には、『この契約にある者は、空仰ぐ星輪の幹となり…』とあり、寄生虫とあわせると触手やナメクジ等の神秘系の攻撃を出せることから「宇宙」に関連していると思われます

      「深海」に住む寄生虫が「宇宙」と関連する、というのは聖歌隊の“気づき”とも流れが一致しますし、ローランの獣の起源を「宇宙」に到らないまでも「深海」に求めるというのも、たしかにあり得るかもしれません

      ただし深海系はやはり「神秘」に属するのではないかなと思います(深海系に属すると思われる「漁村の司祭」は雷を落としてきますが、その色は黄色です)

      とすると消去法的に青い雷光を放っているのは黒い影(ゴースの遺子の本体、ゴスムと呼ばれるかもしれない者)になるような気がします

      なぜゴースの遺子(黒い影、ゴスム?)が青い雷光を放つのかは、私としてはまだ結論が出ていません

      削除
  3. ブラッドボーンを最近プレイし直している者です。こちらの記事を拝読させていただき、ふと思ったことがあるのですが…

    トゥメル系統の血=聖職者の獣やローレンスのようなタイプの獣を生む。
    ローラン系統の血=黒獣パールのようなタイプの獣を生む。
    イズ系統の血=星界の使者のようなタイプの宇宙人的存在を生む。

    のだとすれば

    月の魔物の血=人間を生む。

    のではないでしょうか…?

    エーブリエタースをはじめとする上位者は基本的に青白い血を流しますが、月の魔物は人間と同じく赤い血を流します。それは月の魔物の血こそが人間を生んだ大元であるから、ではないでしょうか。人間を生んだ存在が神や自然ではなく、実はグロテスクな化け物だった、というのはラヴクラフトが好みそうな冒涜的な恐怖であるという気がします。

    また、もしそうだとすれば、ウィレームの「我ら血によって人となり、血によりて人を失う」という言葉は「(月の魔物の血によって)人間となり、(他の上位者の血によって)人間ではなくなる」という風に解釈することが可能です。 そして、そうであれば主人公が青ざめた血(月の魔物の血)を求めていた理由も納得がいきます。月の魔物の血こそが、獣化した人間を人に戻せる可能性があると考えたから、です(主人公の私物にカインハーストの招待状が入っていたことから、主人公がカインハーストと繋がっており、ブラッドボーンの世界において何らかの秘密を握っていた存在である可能性があります)。

    そして人間を生み出した根源である月の魔物を主人公が狩ってしまったことにより、人類は人の姿を維持できなくなってしまった…これが幼年期の始まりエンドなのではないでしょうか…?

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    1. 面白い考察ですね。ありがとうございます

      月の魔物の血は確かに他の血とは異質な気がします

      人の境が曖昧になるのが、月の魔物の「赤い月」に限定されていることなど
      人間と月の魔物との何らかの関係性をうかがわせるものです

      「血によって人となり」を月の魔物の血とすると、
      「古い血」の意味も通ってくると思われます
      (古い血であり、またローレンスたちの新たな青ざめた血でもある)

      クトゥルフ神話におけるムーンビースト(月の魔物)はレン人を使役する
      奴隷商人的な存在で、レン人はもともと夢の国の住人だったとされます

      このことから、今のところ私としては月の魔物は人間のカテゴリよりも限定された
      「狩人」との関係に留めておきたいかなと思っています(人間説を否定するものではないです)

      3本目のへその緒(古工房)
      故にこれは青ざめた月との邂逅をもたらし
      それが狩人と、狩人の夢のはじまりとなったのだ

      血の医療により狩人が生まれる可能性がある、ということは
      狩人の始まりとなった、月の魔物の血が関係しているのではないかなと

      削除
    2. クトゥルフのムーンビーストについては存じ上げておりませんでしたので、とても勉強になりました。ありがとうございます。その設定を踏襲しているのであるとすれば、やはり月の魔物も主人公たち夢の狩人たちを使役・利用していた可能性が高そうですね。

      三本目のへその緒
      すべての上位者は赤子を失い、そして求めている。『ゆえに』これは青ざめた月との邂逅をもたらし、それが狩人と狩人の夢のはじまりとなったのだ

      『ゆえに』という語の示す因果関係より、上位者(月の魔物)は子を成すことができないので、優れた狩人に自分の血を与え、後継にすることを目的として人間の前に姿を現した可能性が高いと思われます。月の魔物は主人公のライフを1にして残りをリゲインゲージに変換してくる技を使ってきますが、その後しばらく月の魔物は完全に無抵抗で、まるで自身の血を主人公に与えているかのようにも見えます。月の魔物が現れ、主人公を抱擁するムービーは、まさに「赤子を抱く」という表現そのままです。あとよく話題に上る月の魔物の弱さですが、主人公を後継とすることを諦めきれず、戦うことに葛藤を覚えてたのかもしれません。

      しかし狩人(人間)を自分の後継にできる、ということを考えるとやはり月の魔物の血から生まれた存在こそが人間だからなのかな、と思いしました(正確には月の魔物の血により、何らかの生物が人間の姿に変態した、というニュアンスに近いです)。

      そして主人公はそのことを知っていた(もしくはそうであると信じていた)ために、月の魔物の血により獣化した人々を人間の姿に戻し、獣狩りの夜を終わらせようとした(狩りを全うしようとした)のではないでしょうか。しかし、他の上位者を打ち倒すうちに、月の魔物の血を得るどころか殺せるまでになってしまった。そしてウィレーム達と同じく上位者に比肩する存在に成り代わりたい、という衝動に駆られ、人間の祖である月の魔物を殺害してしまった。その結果、人間は幼年期の終わりに出てくるナメクジのような姿になってしまった、ということではないかな、と。

      色々言いましたが、もちろん全て根拠薄弱な妄想なので、私も月の魔物は狩人と何らかの関係がある、程度の考察にとどめておく方が正しい思います(笑)

      いくつかの考察サイトやブログを拝見しましたが、シード様のサイトは考察の質が頭1つ抜けている印象があります。これからも更新を心より楽しみにしております。

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