狭間の地とメソポタミア
狭間の地とメソポタミアは同じような語義をもつ
狭間の地とはその名のとおり“何かと何かの間にある土地”を表わす
メソポタミア(Mesopotamia)は古代ギリシア語で「mesos(中間)」と「potamos(川)」の合成語で、「二つの川の間の土地」という意味になる
狭間の地下には二つの大河が流れており、地下は黄金樹以前に栄えた文明の墓場であるという
地図断片:シーフラ河
狭間の地下には、二つの大河が流れている
シーフラとエインセル。そこは
黄金樹の以前に栄えた、文明の墓場でもある
狭間の地に影の地を重ねるとぴたりと重なるという説がある。これによると影の地は狭間の地の中央に位置する
狭間の地下にある二つの大河の間には何もないが、その地上部分にあたるのが影の地ということになる
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ちょうど雲のあるあたりがエインセル河とシーフラ河の間 |
つまりより厳密に言えば二つの大河の間にあるのは影の地であり、よりメソポタミア要素の濃い土地であると言えるかもしれない
ウルの王朝遺跡
狭間の地には黄金樹以前の文明を伝えるものとして、ウルの王朝遺跡(Uhl Place Ruins)やウルドの王朝遺跡(Uld Place Ruins)などがある
ウルは古代メソポタミアに勃興したシュメール文明(前2600年頃)の古代都市の名前である
都市には壮大なジッグラト(階段状聖塔)があり、そこは神々への階段、天と地を繋ぐ領域であった
またウルの王は「神の代理人としての王」であり、王は神との結婚(神聖婚儀礼)により即位したとされる
主神は月の神シンであり、多くの王墓が作られていたという。要するにウルは月を象徴とする夜の国であり、また墓の国つまり死者(霊)の国でもあった
これらの特徴はエルデンリングに登場する黄金樹以前の文明、例えばノクステラ文明やその直系と思われるレアルカリアなどと多くの部分で一致する
※神の代理人としての王という制度は、エルデンリングにおける神と王の関係性によく似ている
ノクス僧のフード
大古、大いなる意志の怒りに触れ
地下深くに滅ぼされた、ノクスの民は
偽りの夜空を戴き、永遠に待っている
王を。星の世紀、夜の王を
私の律は、黄金ではない。星と月、冷たい夜の律だ
…私はそれを、この地から遠ざけたいのだ(魔女ラニ)
…お前が、私の王だったのだな(魔女ラニ)
爆ぜる霊炎
まだ黄金樹無き頃、死は霊炎に焼かれた
死の鳥は、その火守りなのだ
エニル・イリム
神々へと通じるジッグラトはエニル・イリムと類似した機能を持つ塔である。このジッグラトは後にバビロンに建てられた「エ・テメン・アン・キ」の原型であり、聖書に登場するバベルの塔に繋がるものである
要するにバベルの塔はジッグラトの一種である
バベルの塔の「バベル」はアッカド語で「バーブ・イリム(Bāb-ilim)」であり、「bābu(門)」と「Ilum(神)」の合成語である
よってバベルは「神の門」という意味になる
同様にエニル・イリム(Enir-Ilim)をアッカド語で解釈すると、エニル(不明)とIlim(神)の合成語となり、「神の○○」と読解することができる
次にEnirについてだが、シュメール神話の主神としてエンリル(Enlil)という神がおり、その名には「嵐の王」、「嵐の主」という意味がある
以上からエニル・イリム(Enir-Ilim)は「嵐の王の門」もしくは「嵐の神の門」、もっとシンプルに「神の門」と読むことができる
つまるところ、バベルもエニル・イリムも「神の門」という同じ名を持っていることになる
ゴッドフレイが一騎打ちしたという嵐の王とEnirの関係性は不明だが、エニル・イリムはマリカが神となった場所であるからには、その時すでにゴッドフレイが付き従っていたと考えられ、であればエニル・イリムにいた嵐の王と一騎打ちになったのかもしれない
エルデ王の鎧
最初のエルデの王、ゴッドフレイの胴鎧
黄金樹の始まりは、戦と共にあり
ゴッドフレイは戦場の王であった
巨人戦争、嵐の王との一騎打ち…
そして、好敵手がいなくなった時
王の瞳は色褪せたという
ただし叙述の順番から、巨人戦争後に嵐の王と戦ったようにも読める
しかしながら、塔の祭祀では嵐を模した舞いが舞われ、嵐とは天の使いの怒りの最たるものとされていることから、嵐を司る神性がいた可能性は高そうである
荒れ狂う神獣
塔の祭祀で行われる神獣の舞い
その荒れ狂う様を象ったお守り
嵐の威力を高める
神獣は天の使いとされる
その怒りは、空の乱れであり
嵐とは、その最たるものである
山羊とナツメヤシの木
メソポタミア美術には「山羊とナツメヤシの木」という有名な美術品がある
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山羊とナツメヤシの木 |
黄金に輝くナツメヤシに黄金の山羊が前肢を掛けている品で、発掘されたのはウル王国にあったウル王墓である
このナツメヤシは象徴的には世界樹、すなわちエルデンリングでいうところの黄金樹である
山羊は獣との連想からエルデの獣と想定することができるだろうか
あるいはナツメヤシと山羊が女神と牧神との神聖婚儀礼を表わしていることから、マリカとゴッドフレイの関係性の祖型になったものかもしれない
※女神(ナツメヤシ)、牧神(山羊)
ここでは世界樹と獣との深い関連性が描かれており、それはそのままエルデンリングにおける黄金樹と獣(エルデの獣や獣たち)との関係性を示唆しているものかもしれない
モーグウィン王朝にも、類似する造型を刻んだ石碑がある
洪水伝説
ノアの方舟で有名な洪水伝説であるが、その原型はシュメール神話にある
シュメール
シュメールの神話では、エンキ神がシュルッパクの王ジウスドラ(「命を見る者」という意味で、彼が神から不滅を約束されたことから)に、洪水による人類抹殺を予告する。しかし、神がなぜこれを決定したかという部分については、粘土板から失われている。エンキ神は、大きな船を作るように指示する。命令についての文章も、同じく神話から失われている。7日の氾濫の後、ジウスドラは供物と祈りをアン(空の神)とエンリル(最高神)にささげ、ディルムン(シュメールにおけるエデンの園)で神から永遠の命を授けられる。 (wikipedia)
バビロニア (ギルガメシュ叙事詩)
バビロニアのギルガメシュ叙事詩によれば、Sin-liqe-unninnによる He who saw the deep版(タブレット11)の終わりのほうに、大洪水の参照がある。不死を追い求めていたギルガメシュ王は、一種の地上の楽園・ディルムンで、ウトナピシュティム(英語版)(シュメール神話のジウスドラ zi.u4.sud4.ra2 をアッカド語に直訳した名前)に出会う。ウトナピシュティムは、大洪水によってすべての生命を破壊するという神の計画について、エア神(シュメール神話のエンキ神に類似)が彼に警告し、船を作って彼の家族や友人、財産や家畜を守るよう指示したことを語る。大洪水の後、神はみずからの行動を悔やみ、ウトナピシュティムに不死を与える(wikipedia)
アッカド (アトラハシス叙事詩)
バビロニアの『アトラハシス叙事詩』(紀元前1700年までに成立)では、人類の人口過剰が大洪水の原因であるとされている。1,200年間の繁栄の後、人口増加によって齎された騒音と喧騒のためにエンリル神の睡眠が妨げられるようになった。エンリル神は当面の解決策として、疫病、飢饉、塩害など人類の数を減らすための全ての手段を講じる神々の集会を援助して回った。これらの解決策が採られてから1,200年後、人口は元の状態に戻った。このため神々が洪水を引き起こすという最終的な解決策を取る事を決定した時、この解決策に道義的な問題を感じていたエンキ神は洪水計画のことをアトラハシスに伝え、彼は神託に基づく寸法通りに生き残るための船を建造した。
そして他の神がこのような手段に出るのを予防するため、エンキ神は結婚しない女性、不妊、流産、そして幼児死亡など社会現象の形で新しい解決策を作り出し、人口増加が制御不能になるのを防止した。 (wikipedia)
これらの神話の要素を箇条書きにすると以下のようになる
- 神の怒り
- 選ばれた者への警告
- 大洪水
- 選ばれた者に不死が与えられる
これを簡単に要約したものが以下となる
- 神の怒りに触れた旧人類は選ばれた者たちを除いて大洪水で滅ぶ
- 洪水後、新世界の王は楽園で神から永遠の命を授けられる
1.については地下深くに滅ぼされたというノクスの民の運命とほぼ同じである
ノクス僧の鎧
大古、大いなる意志の怒りに触れ
地下深くに滅ぼされた、ノクスの民は
偽りの夜空を戴き、永遠に待っている
王を。星の世紀、夜の王を
ただし永遠の都は大洪水ではなくアステールによって滅ぼされたことがテキストに記されている
暗黒の落とし子の追憶
黄金樹に刻まれた
暗黒の落とし子、アステールの追憶
遥か彼方、光の無い暗黒で生まれた星の異形
それはかつて、永遠の都を滅ぼし
彼らから空を奪った、悪意ある流星である
では大洪水は無かったのかというと、そうとも言えない。というのも大洪水の痕跡が各地に残っているからである
例えば狭間の地下に点在する石碑には、巨大な船団が描かれたものがある
この船は影の地にある石棺と酷似している
これらの石棺は青海岸に漂着しているが、洪水に巻き込まれて陸地に打ち上げられたようにも見受けられる
凝固した泥濘
石棺が流れ着く地の、地下で手に入る
泥濘とは、石棺に納められた
穢れた命のなれの果てであるという
なぜ青海岸の石棺はあれほど乱雑に漂着しているかというと、大洪水に巻き込まれたから、と解釈できるかもしれない
またマレニアの神授塔や獣の神殿から見える内海と外海を繋ぐ境は巨大な滝のようになっていて、まるで何か巨大な隕石でも衝突したかのように見える
地形を変えるほど巨大な隕石が落ちたとしたら、大洪水が起きるのは当然であろう。また地殻がめくれあがり、地上に存在していた都市を地下深くに沈めてしまったということも考えられる
大洪水の後、旧文明は滅び、選ばれた者が新たな王となった。重要なのは大洪水のすぐ後に王となったのではなく、七日後に王になったということである。つまり大洪水と王の即位には一定の猶予期間がある
エルデンリングでいうのならば、この猶予期間に角人たちが繁栄したと考えられる
そして選ばれた者、すなわち神人が神の門で神となった。その際に神に与えられたのが永遠の命である
死のルーンとは、即ち運命の死
黄金の律のはじまりに、取り除かれ、封じられた影(指読みエンヤ)
以上のようにノクス文明と黄金樹文明の間に大洪水が起こっていたと考えると、その移行が非常にスムーズに理解できるように思う
Elden Ring映画化の話
アレックス・ガーランド監督の作品は『28日後』(脚本)、『28週後』(製作総指揮)、『サンシャイン 2057』(脚本)、『アナイアレイション』(監督・脚本)を視聴済み
ホラー寄りのサスペンスが上手いクリエイターという印象
RedditによるとElden Ringを6周しているそうだ(28周ではないらしい)
視聴した中では『アナイアレイション』がエルデンリングに近い
宇宙から飛来したカラフルな菌類(粘菌)により世界が悪夢的な環境に書き換えられていく、というラヴクラフトの『宇宙からの色』のオマージュ的発端から、やがて菌類が人類に擬態して入れ替わっていく、というような『遊星からの物体X』のような結末を迎える(解釈次第だが)
有り体にいえばコズミックホラーである
宇宙生物の飛来、環境の変化、人類への影響など、どことなくエルデンリングを彷彿とさせるような要素が詰まっている
またデビュー作『28日後』に代表されるようなクリーチャー系ホラーも上手く、個人的には『サンシャイン 2057』のアレが人間の凄みを感じさせて好きである
ジョージ・R・R・マーティン氏がプロデューサーに名を連ねていることから、おそらく神話時代を描くものとも思うが、監督の持ち味的には破砕戦争のような派手なものではなく、もっと少数のキャラクターに寄った話なのかなと思う
『アナイアレイション』の登場人物のように宇宙生物を宿したマリカの話か、もしくは狂い火に見えたヴァイク、円卓初期の褪せ人たちによる疑心暗鬼サスペンス、または全くのオリジナルもありえる
個人的に可能性が高そうだと思うものを順に並べると以下のようになる
- オリジナル
- 円卓初期の褪せ人たちによる疑心暗鬼サスペンス
- 狂い火に見えたヴァイク
- 巫子の村で暮らしていた少女マリカが神を宿すまで
- 破砕戦争
これは完全に筆者の希望なのだが、主演はキリアン・マーフィーを推したい。アイルランド出身というフロムが好きそうな出身(ゲール語も話せる)に加え、アレックス・ガーランド監督とは『28日後』からの知己
ただし『オッペンハイマー』でアカデミー主演男優賞を受賞して格が上がったのと、『28年後』の出演も決まっているらしいので無理かもしれない
円卓初期の褪せ人たちが疑心暗鬼から仲間割れして殺し合った挙句、閉鎖空間でデミゴッドに追いかけ回されるキリアン・マーフィーを見たい
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