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2020年12月24日木曜日

Cyberpunk2077 物語分析

本作のゲーム面での批評はすでに多く語られているので、ここではジョニーを足がかりとして物語の分析をしてみたい



ジョニー

ジョニーという破天荒なキャラクターに対してプレイヤーが抱く感情は好意的なものばかりではない


むしろその反対に嫌悪や否定的な感情を抱くことのほうが多いのではないだろうか


しかしこれはジョニーに課せられた役割(ロール)ゆえの反応である


端的にいえば、本作におけるジョニーの役割はトリックスターである(ロックスターでありトリックスター)


ユングによればトリックスターとは以下のようなものである


神=獣的な性質をもった「宇宙的な」原存在であり、一方ではその超人的特性によって人間にまさり、多方ではその非理性と無意識性のために人間よりも劣っている(『元型論』)


野蛮に残忍に愚かに無意味に行動する代わりに、トリックスターは物語の終わりのほうでは、有益なことや意味のあることをし始めている。(『元型論』)


その『元型論』の訳者解説で林道義氏はトリックスターの特徴を挙げている


1.反秩序

秩序を壊す者、文化的な約束事を破る者

無秩序の精神、教会を無視する精神


2.狡猾さ

狡猾なトリックを使って騙し、それによって自分の欲するものを手に入れるという性質


3.愚鈍

トリックスターは相手を騙すこともあるが、逆に騙されて酷い目にあうこともある。これは彼が相手と同じ程度に愚鈍だからである(ジョニーがソウルキラーを使われたのもある種の愚鈍ゆえである)


4.セックスと飢え

彼の行動はすべて露骨な性欲と食欲を動機としており、本能的・生物的次元に生きている


5.英雄的

トリックスターは最後に一転して、人間に文化をもたらす英雄や救世主のようになる

神や君主を欺いて、人間や民衆に文化や利益をもたらす


また宗教学者エリアーデによればトリックスターとは


神話的な「いたずら者」あらゆる面での常軌の逸脱(『世界神話事典1』)


大多数の神話伝承において、トリックスターが死の到来、世界の今日的状況とに深いかかわりがあるということは事実だ。しかし彼は同時に変革者であり、文化英雄でもある。(『エリアーデ著作集8』)


であるという


さらに『トリックスターの系譜』によれば


創造力をもった白痴、賢明なる愚者、白髪の赤子、異性の服の着用者、聖なる冒瀆的言葉の語り手


言語活動が妨げられたり、死に絶えたり、その魔力を失ってしまった場所で、トリックスターは新たに言葉を発する。


とも言われる


そしてレヴィストロースによれば、トリックスターの物語が出現するのは「神話的思考によって対立を仲介しようとするとき」であるという



まとめると、トリックスターのもっとも重要な役割は、世界に現われた対立を仲介することであり、そのために秩序を破壊し、新たな活力を創造することである


神話や伝説に登場するトリックスターは愚かで卑怯で、読者や聴衆をいらだたせる存在であるが、それゆえに物語に活力を与え、聴衆を惹きつけるものでもある


本作のジョニーはVの肉体的秩序を侵す形で現われ、その野蛮な言動によってVの精神的秩序をかき乱し社会の秩序を破壊せよとVに発破をかけ、ついに秩序の象徴たるアラサカタワーを襲撃させるのである


トリックスターに翻弄され続けたVの生はあっけなく終焉を迎え、しかしその死はまた新たな秩序を打ち立てることになるのである(Vの生と死については後述する)


つまり本作におけるジョニーは典型的なトリックスターの役割を果たしているのであり、プレイヤーの全面的な支持を得られないのも、秩序をかき乱すという役割ゆえのことなのである



革命家

トリックスターであるジョニーは本作の大きな対立の中間にいるキャラクターである


ジョニーとアラサカの因縁があまりにもクローズアップされるために背景に退いてしまっているが、本作における最も大きな対立項AIと人類のそれである


不良AIたちから人類に残されたわずかなネットを守る壁がブラックウォールである。ここにAI対人類という対立構図が見られる


すなわちジョニーは、AIと人類という対立項を結びつけるものであり、AIの人類への反逆を先導する革命家でもある(彼にその気はなくとも)


このAIの人類への反逆、言い換えれば被造物による創造主への反逆という主題は「ブレードランナー」「ブレードランナー2049」に共通する主題であり、カレル・チャペックの『R.U.R.』の直系の子孫でもある(その大本は旧約聖書にある楽園追放であろう)


本作ではこの主題は曖昧な形で提示されるにとどまる。しかしながら、市長候補のペラレス夫妻の一連のジョブ(またその時に語られる不良AI)や、オルトのアラサカタワー襲撃への協力というプロットによって暗示されている


この主題の中心にいるのがジョニーとVである


肉体を得た人格コンストラクトという人とAIの中間項であるジョニーを媒介にして、人とAIは接触を果たし、対立し、ついにAIは人類からの自由を勝ち取ろうとするのである(太陽END。詳しくは次の項)


しかしその自由は一方でAIと人類との共存を意味するものである


すなわちジョニーとVはAIと人類との対立を解消し、人類に新たな恩恵をもたらす役目も果たすのである。なぜならばトリックスターは、最後に文化英雄になるからである


この役割はマトリックスにおいて、機械と人類との戦争を終結させる鍵であったネオと同一のものである(ネオを演じたのはジョニーと同じキアヌ・リーブスである)


こうした機械と人類AIと人類、という対立項はもとをたどれば「神と人」との対立ならびにキリストの犠牲による贖罪を経た神と人類との和解に見出すことができる


ブレードランナーレプリカント(被造物)と人間(創造主)の対立

マトリックス機械(被造物)と人間(創造主)の対立

本作AI(被造物)と人間(創造主)の対立をそれぞれ描いている



太陽END

太陽ENDにおいてVはクリスタル・パレスから顧客データを強奪するが、それが必要だったのは、その顧客データが人類の支配層と重なるからである


クリスタル・パレスの超裕福層の顧客たちこそ、現在の人類社会を先導する者たちであり、そのデータこそが人類の急所でもあるのである


市長夫妻のジョブで示唆されたように、AIは人類に対して影響を持とうと企図し、実際にそれは成功しつつある


同じように人類の支配層を掌握することができれば、AIは人類に勝利したも同然なのである


それゆえ彼らは人類の支配者層のデータを欲したのである。彼らさえ掌握することができれば、AIは人類から自由になれるからである(または人類を支配することができる)


もちろん依頼主であるミスター・ブルーアイズはAI側の者である


「覚めない夢」でジェファーソンと話をするとき、なぜかミスター・ブルーアイズが監視している



V

物語の表層だけを追っていくと、結局のところ太陽ENDでさえVは命を落とすことになる


しかもクリスタル・パレス襲撃の意図もその真価も示されないことから、エンディングのVが何をしたかったのか分からぬままにゲームは終わる


これではまるでバッドエンドである


しかしこれは人類としてのVのみを見たときに生まれる印象であり、実はここに重大な錯覚が生じている


というのも太陽ENDの前、Vはいったん人格コンストラクトに変化させられている(このときに本物のVは死んでいる)


つまりこの段階でVは人類とAIの中間的存在に変化しているのである。そしてそのことは、かつてのジョニーと同じ役割を課せられたことを意味している


すなわち、トリックスターとしての役割である


上述したように、クリスタル・パレスの顧客データの強奪はAI側にとっての宿願である


秩序を破壊し、新たな世界を創造する役割を課せられたトリックスターにとって、この仕事はおのれの存在意義を証明するための使命ともいえるものなのである


それゆえにVは死を賭してクリスタル・パレスを襲撃しなければならなかったのである


なぜならばトリックスターとは、おのれの死にすら抗おうとする永遠の反逆者だからである



蛇足

おそらく本作の出来事のすべてにAIは関与している

ヴードゥーボーイズを介してエヴリンをVに接触させたのも、ヨリノブに生体チップを持ちかけたのも、彼に父を殺させたのも、あるいは最初からAIの目論見だったのかもしれない


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