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2020年7月12日日曜日

Bloodborne 考察34 時計塔のマリアとローレンス

Lady Maria of the Astral Clocktower

時計塔のマリアの英名は「Lady Maria of the Astral Clocktower」である

日本名と異なるのは「Lady」と「Astral」の部分である

Ladyは淑女や貴婦人と訳され、Our Lady は聖母マリアのことである

アストラル (Astral) とは、「星の」「星のような」「星からの」「星の世界の」などを意味する英語。漢字で「星幽(せいゆう)」と表記される事もある。(Wikipedia)

以上を踏まえてLady Maria of the Astral Clocktowerを直訳するのならば「星見時計塔の貴婦人マリア」になる

日本語にすると語感が悪く長くなるので「時計塔のマリア」と短縮したものであろう



マリア

マリアの素性についてはかなりの部分判明している(このゲームにしては)

彼女はゲールマンに師事した最初の狩人であり、その衣装からカインハースト出身と考えられ、また不死の女王アンナリーゼの傍系にあたるという

マリアの狩装束
ゲールマンに師事した最初の狩人たち
その1人、女狩人マリアの狩装束
カインハーストの意匠が見てとれる
不死の女王、その傍系にあたる彼女は
だがゲールマンを慕った。好奇の狂熱も知らぬままに

女王の傍系でありながら彼女は血刃を厭い漁村事件の後に井戸に「落葉」を捨てて時計塔に住みついたとされる

落葉
時計塔の女狩人、マリアの狩武器
カインハーストン「千景」と同邦となる仕込み刀であるが
血の力ではなく、高い技量をこそ要求する名刀である
マリアもまた、「落葉」のそうした性質を好み
女王の傍系でありながら、血刃を厭ったという
だが彼女は、ある時、愛する「落葉」を捨てた
暗い井戸に、ただ心弱きが故に


時計塔の鍵
大聖堂の最上部、時計塔の鍵
巨大な星見時計の裏側にあたるその部屋は
患者たちがマリアと呼ぶ女の、いつからか住処であるという


時計塔に住みついた後のマリアは患者と交流し、彼らを癒そうといていたようである

露台の鍵
実験棟1階、露台の扉の鍵
時計塔のマリアが、患者アデラインに渡したもの
せめて外気と花の香が、彼女の癒しとなるように
だが彼女は、それを理解できなかった

けれどもマリアは実験棟で行われている非道な実験を止めようとはしなかったようである



実験棟

実験棟で行われていた実験の目的は「人を上位者にすること」である

トロフィー:失敗作たち
上位者のなりそこない「失敗作たち」を倒した証

そのための手段として用いられたのが、頭の中を水で満たすことである


脳液
医療教会初期、上位者は海と紐づけられていた
故に頭の患者は、自らを水で満たし、海の声を聞く
そして脳液とは、頭の中で瞳になろうとする
その最初の蠢きであるという

頭の中を水で満たすことで、頭の中に瞳が生まれるとされたのである

だがボス「失敗作たち」やトロフィーにあるように、その試みは失敗に終わったようである

医療教会中期以降は頭の中に瞳を求めることをせず、例えば聖歌隊のように別の手段を求めたのである

聖歌装束
見捨てられた上位者と共に空を見上げ、星からの徴を探す
それこそが、超越的思索に至る道筋なのだ

頭の中に瞳を得るという思想は、ビルゲンワースから引き継がれたものであったが、やがて医療教会はその思想からは決別し、独自の道を歩んでいくことになる

目隠し帽子
帽子の目隠しは、彼らが学長ウィレームの直系である証である
たとえ、いまや道を違えたとしても



時計塔のマリア

さて、こうした非人道的な実験をなぜマリアは看過していたのであろう

心弱き故に「落葉」を井戸に捨て、また患者に対して一定の慈しみすら見せていた彼女が実験棟の実験に賛同していたとは思えない

では彼女はなぜ実験棟のある大聖堂の最上部にいたのであろうか

時計塔の鍵にはこうある

時計塔の鍵
巨大な星見時計の裏側にあたるその部屋は
患者たちがマリアと呼ぶ女の、いつからか住処であるという

患者たちがマリアと呼ぶ女、ということは医療者や医療教会側ではなく患者がマリアと呼びはじめたということである。つまりマリアは医療教会に属する者ではない

また「いつからか」とあるように、マリアは実験棟の最初から時計塔に住んでいたのではない

彼女は誰も知らぬ間にそこに住みつき、まったく自由に実験棟を巡回し、患者たちと交流していたのである

その患者たちとは頭の中を水で満たした患者たちである

頭の中を水で満たし、そこに瞳が生まれると、次に起きるのは瞳の孵化である(瞳が精霊の卵であることは過去に考察している)

精霊は患者に神秘の知恵をもたらし、患者は星輪の幹である「苗床」に変異する

苗床とは星の介添えたるあり方であり、人ならぬ知覚を獲得した眷属である

彼らは人には見えぬものに見え、人には聞こえぬものを聞いていた

脳液(コマドリ)
かつて兄は医療者を志し、妹はそのため進んで患者となった
結果夢のような神秘に見え、兄妹は幸いであった

そしてまた、時計塔に通じる扉は螺旋階段を作動させない限り到達不可能である

にもかかわらず何人もの患者がマリアの存在を証言し、そのうちの1人は時計塔に通じる扉を仰ぎ見ているのである。その全員が頭を水で満たした頭の患者たちであった

つまるところマリアは頭の患者にしか見えない幽霊のような存在だったのである

マリアは実験棟の実験に協力していたわけではなく、彼女自身の現在のあり方ゆえに、止めることができなかったのである

彼女のあり方とは神秘的な不可視の存在ということである

彼女にできたのは、自分を知覚することのできる患者たちの痛みを癒すことだけであった



アストラル

アストラルには「星の」という意味があることは上述した

は本作において重要な概念である。例えば時計塔の直前エリアは「星輪樹の庭」といい、星輪樹は時計塔の方を向いて咲いている

また、聖歌隊は星からの徴(Astral signs)を探し、眷属は「輝ける星の眷属」と言われている

またこのアストラルという英語は神智学(一種のオカルト)において「アストラル体」という概念として用いられている

アストラル体(アストラルたい、英: Astral body)とは、神智学の体系では、精神活動における感情を主に司る、身体の精妙なる部分である。主に情緒体、または感情体、感覚体、星辰体などとも。(Wikipedia)

アストラル体の語源宇宙に遍満するエネルギー「アストラル・ライト」である

まとめると、人間には精神や感情を司る宇宙的エネルギーを由来とする霊的な身体があり、それをアストラル体という


遺志

以上のようにアストラル体とは人の感情を司るエネルギーであり、かつ宇宙的エネルギーでもある

これと類似した概念が本作には登場する

血の遺志」である

血の遺志とはダークソウルシリーズにおける「ソウル」である
両者ともにレベルアップアイテム購入に消費され、また敵を倒すと入手することができる

ソウルとはいわば世界に満ちるエネルギーであり、万物の根源でもあった

血の遺志もまたそのような役割を果たしていることは両シリーズをプレイ済みならば言うまでもなく理解していることと思われる

だが、血の遺志にはソウルにはない制限がある

いや、その前にまず「血の」が余計である。なぜならばこの世界には「血のなき者」も存在するからである

正確には「遺志」こそがソウルと同等の価値を持つのである

そしてソウルにはない制限とは「遺志が力を持つのは悪夢の中だけ」、ということである

遺志は悪夢限定のソウルなのである

悪夢において遺志は、狩人の主体(夢における意識と肉体)を成り立たせるものである



獣性

時計塔のマリアも遺志の力によって創造されたものである

ボスエリアに入った時点で時計塔のマリアはすでに死んでいる。このことは時計塔のマリアに近付くと「死体に触れる」と表示されることからも明らかである

しかしこれは現実の肉体ではない

マリアを倒すと消滅するが、これは現実の肉体がすでに失われているからである(逆にブラドーやシモンは死体が残る)

椅子に座ったマリアの死体は、肉体を持っていた現実のマリアの死体ではなく、彼女の残した遺志から創造されたものである(上述したように遺志は悪夢の世界における創造の力である)

マリアの現実における死はおそらく時計塔のマリアと同じようなものであったであろう

椅子に座って刃物で喉を突いたか頸動脈を切ったのである
そしてそのは左手を伝い床に滴っている

さて、死血に宿るものといえば「遺志」である

時計塔のマリアはこの遺志から創造されたのである。そしておそらくそれはマリアの獣性的な側面を含んだ遺志であった

狩人の悪夢には血に酔った狩人が囚われるという。血に酔うとは獣血に酔うこと、つまり獣性に支配されることを意味している

逆に言えば獣性に支配されていない遺志は狩人の悪夢に囚われない。また血の医療を受けた者には神秘と獣性がともに宿っている

神秘と獣性の相克は血の医療を受けた後のムービーに示されている

狩人マリアの遺志のうち獣性的な側面のみが狩人の悪夢に囚われて形を成し、「時計塔のマリア」になったのである



人形

一方、狩人マリアの遺志のうち神秘的な側面人形に受け継がれている

人形と時計塔のマリアは、狩人マリアの遺志の神秘的側面と獣性的側面がわかれ、それぞれが人の姿をとったものである

時計塔のマリアを倒すと人形が「重い枷が外れたような」と口にするのは、元をたどれば2人は狩人マリアの遺志から生み出された双子のようなものだからである

神秘的側面を体現する人形にとって相反する獣性を体現する時計塔のマリアの存在は、重い枷のように感じられていたのであろう



血族

時計塔のマリアには他にもいくつか不可解な点がある

たとえば彼女は血族であるにもかかわらず、彼女の血を放つ攻撃には「劇毒属性」がない

これは「千景」ではなく「落葉」を使っているから、とも考えられるが、マリアはその落葉にない血刃攻撃を放ち、しかもその血に劇毒がないのである

※同じように血を放つ攻撃をする女王、ヤーナムの血には劇毒属性がついている

そのうえ時計塔のマリアは血(獣性)と炎(神秘)という相反する属性を同時に操るのである
※獣性と神秘の相克については過去の考察参照のこと

オープニングムービーにあるように、血の獣は炎によって焼かれるのである。多くの獣ボスが炎を弱点としていることなどからも、この2つの属性は本来は相反するものである

血に劇毒が含まれず、炎と血を同時に扱えるのは、時計塔のマリアが狩人マリアの遺志の獣性的な側面が生み出したある種の悪夢(アストラル体)だからである

悪夢が肉体とは異なる次元にあるように、時計塔のマリアは現実の血肉から自由な存在である

よってその血の攻撃には「劇毒」は含まれないのである
※劇毒の正体は獣血の主(虫)である

また過去に考察したがマリアはオドンの子を出産している。神秘の存在であるオドンの子を産んだことでその力が宿り、それはとして現われるとも考えられる

※女王、ヤーナムの拘束攻撃と同じメカニズムと思われる
※あるいは遺志的な存在であるがゆえに、神秘と獣性両方の特徴を持ったものだろうか

ある意味で時計塔のマリアは獣性と神秘をかりそめに統合した存在である、と言えるのである



ローレンス

ローレンスについても同様のことが言える

ローレンスは作中では


  1. 大聖堂の獣化した頭蓋
  2. 悪夢の大聖堂の炎の獣
  3. 手術祭壇の人の頭蓋


として登場する

このうち、ヤーナム大聖堂にある獣化した頭蓋現実のローレンスのものである

彼は現実では獣化した後に首を落とされ、しかしその首には精霊が宿っていたために祀られたのである

ローレンスは現実においては、頭蓋(神秘)と獣血の主(獣性)として分断されているのである

これは医療教会の方針が彼をそうさせたものである

「頭の中の瞳実験」が示すように医療教会は神秘を求めようとしてきた一方で、「獣の抱擁」にあるように獣性を制御する実験も行っていたのである

「獣の抱擁」
獣の病を制御する、そのために繰り返された実験の末
優しげな「抱擁」は見出された

神秘の実験と獣性の実験、この二つを自ら受けたのがローレンスである

結果として頭部には神秘が宿り(それはつまり精霊が頭の中に満ち)、大聖堂に聖遺物として飾られ、また肉体は獣血の主となって打ち棄てられたのである

医療教会が目指した血の医療の完成とは、聖血に含まれる神秘と獣性を統合し、獣の病を克服することである

その理想が狩人の悪夢に具象化されたものが炎の獣である

炎の獣は初代教区長ローレンスという名前である
このボスのenemy IDは「kyoukuchouOmega」である

聖書に「私はアルファであり、オメガである」(『ヨハネ黙示録』)とあるように、最初と最後をあらわすと同時に、「全て」「永遠」「究極」といった意味も持つ

初代Omegaの名前が使われているのは、その姿が医療教会の理想とした究極の姿だからである


3.の人の頭蓋は、終に守られなかった過去の誓い、とされている

ローレンスの頭蓋
それは、終に守られなかった過去の誓いであり
故にローレンスはこれを求めるだろう
追憶が、戻るはずもないのだけれど

過去の誓いがなぜ人の頭蓋になるのか?

答えは人の頭蓋そのものにある

つまるところ獣の病を癒すという誓いは獣を人に戻すことに繋がり、現実では獣化したローレンスの頭蓋が人の頭蓋になることは、血の医療の成就を意味するからである

人の頭蓋が意味するのは、獣の病の克服である

しかし、それは悪夢の中にしか存在しない
終に果たされなかった約束なのである


マナス

アストラル体と似たような概念としてマナスがある

神智学の定義によるマナス(英: Manas)とは、人間の心、知性、自我を司っている不可視の身体である。英語のMindと相応している。 (Wikipedia)

宮崎英高氏はインタビュー「心の目」について触れている

開発の開始時に、私たちはこのフォーラムを持っていて、日常的に思い浮かんだことを何でも書いて、チームの他のメンバーがそれを閲覧できるようにしました。私は、心の目の意味や人々に対するその制限、あるいは血や獣の変容についての議論、そしてそのような他の本当に意味のないものについて書きます。

※心の眼は英語では mind's eye の字が使われている

あるいは心の目とは、マナスの目を意味しているのかもしれない


蛇足

アストラル体に踏みこまずとも説明は可能だったかもしれないが、「アストラル」という用語にはそういった怪しげな概念がついてまわることに触れておきたかったのである

ちなみにアストラル体の元となった「アストラル・ライト」を提唱した隠秘学者エリファス・レヴィや神智学のヘレナ・P・ブラヴァツキー、また人智学のルドルフ・シュタイナーといった者たちが活躍したのはヴィクトリア朝の時代である(やや時期が外れる者もいる)

特にルドルフ・シュタイナーは神秘思想と医学を積極的に結びつけた業績があり、その方向性は医療教会と重なる部分もある


3 件のコメント:

  1. 動画と合わせてとても面白かったです。
    マリアが幽霊のごとき存在なのでに患者を助けたられず、実験を看過せざる得なかったというくだりや悪夢ゆえに神秘と獣性を兼ね備えたマリアやローレンスがいるという部分面白いです。思えばルドウィークも獣でありながら月光の聖剣は神秘の力を帯びています。悪夢ならではの獣性✕神秘の組み合わせはルドウィークもそうなのかもしれません。
    ただ獣憑きの存在が少し気になっています。
    獣憑き火球や爆発を使い、なおかつ悪夢以外で出没します。ひょっとしたら獣でありながら炎(神秘)の側面も持ち合わせる、それでいて悪夢以外に存在するかなり特殊なエネミーなのか…?と気になりました。

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    1. 動画も見ていただき、ありがとうございます
      なるほど、ルドウイークも神秘と獣性を兼ね備えていますね。気付きませんでした
      むしろ神秘と獣性を説明するのに相応しいキャラクターだと思います

      獣憑き、それにやや例外的ながら旧主の番犬も炎と獣の組み合わせですね
      ある意味で低次元ながら神秘と獣性を統合している存在なのかもしれません

      旧主の番人が姿と魂を業火によって焼かれ、灰として永き生を得ていることから考えると
      初期トゥメル文明の遺失技術とは相反する神秘と獣性を統合する技術なのかもしれません

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  2. 記事いつも読ませていただいでおります この度一つ星見時計について発見がございましたのでご報告させて頂きます アストロラーべという物をご存知でしょうか?画像を調べていただければ、星見時計とそっくりであると理解して頂けると思うのですが、コレは平面状の天球儀で、裏表にそれぞれ意味があるようです 思索の助けになれば幸いです 長文失礼いたしました

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