血の女王
作中において「
血の女王」の称号は、
ヤーナムとアンナリーゼの双方に冠されている
血の女王ヤーナムが「
特別な赤子」を抱こうとしたように、血の女王アンナリーゼもまた「
血の赤子」を抱こうとしたのである(この場合の「抱く」は出産の比喩である)
婚姻の指輪
上位者と呼ばれる人ならぬ何者か
彼らが特別な意味を込めた婚姻の指輪
古い上位者の時代、婚姻は血の誓約であり
特別な赤子を抱く者たちにのみ許されていた
オリジナルは
ヤーナムであり、その
繰り返しが
アンナリーゼである。そしてそのどちらもが
上位者の赤子を求めたのである
※この
繰り返される主題(テーマ)はダークソウルシリーズなどでも用いられている。たとえば「火継ぎ」そのものがそうである
アンナリーゼが上位者の赤子を欲していたのは、自らの
血を受け継ぐ子を、そして
生殖能力のある夫を求めたからである
ゆえに、彼女は狩人からの「婚姻の指輪」を
拒否するのである。なぜならば、狩人は(今のところ)上位者ではないからである
禁断の血
アルフレートの言によれば、
禁断の血は最初に
ビルゲンワースにあったとされる
「かつてビルゲンワースの学び舎に裏切り者があり 禁断の血を、カインハーストの城に持ちかえった そこで、人ならぬ穢れた血族が生まれたのです」(アルフレート)
禁断の血はビルゲンワースからカインハーストに持ちかえられ、
穢れた血族が生まれたとされる
では
ビルゲンワースになぜ禁断の血があったのか?
作中、ヤーナムが初めて姿を見せるのはビルゲンワースが岸辺に建つ
月前の湖である
また、女王への謁見を妨害するかのように、ビルゲンワース直前の
禁域の森(禁域の墓所)に「
ヤーナムの影」がいる
つまりヤーナムは禁域の森から月前の湖までのエリアにひも付けられた存在であり、その領域は
ビルゲンワースと重なるのである
月見台の鍵
ビルゲンワースの二階、湖に面した月見台の鍵
そして月前の湖に姿を現した女王ヤーナムは
腹部から血を流している
|
月前の湖にいるヤーナムは妊娠していない。つまりトゥメル=イル最深部からビルゲンワースまでのあいだに出産している |
メンシスの悪夢にいる
ヤーナムは攻撃するとダメージを与えられる
実体である。つまり、本編中に登場するヤーナムは幻影や仮象の存在ではなく、
実在しているのである
その存在様態は夢を見ている「
夢見人」である(
狩人と同じ)
ヤーナムの石
女王の滅びた今、そのおぞましい意識は眠っている
だが、それはただ眠っているだけにすぎない…
※
聖杯ダンジョンは本編とは異なる
時空が歪んだ領域である。なぜならば、聖杯ダンジョンの進行度は、本編の進行度合いや周回数とまったく無関係だからである
そして一般の狩人がその遺志を
死血として落としていくように、ヤーナムもまたその
死血を落としていったのである
つまるところ、ビルゲンワースにいた裏切り者は、
ヤーナムの腹部から流れ落ちた血をカインハーストへ持ちかえったのである
それは「上位者の死血」や「眷族の死血」に匹敵するような、いわば「
女王の死血」とでも言えるものである。その死血にこめられた遺志がアンナリーゼを「
血の女王」へと変異させたのである
※平たく言えば、ヤーナムの血に含まれる
水銀(霊薬としての)により不死となった
女王、ヤーナム
しかしヤーナムは最初からビルゲンワースにいたわけではない。ビルゲンワース(擬人法)が
ヤーナムに出会ったときのことが墓守装束に記されている
墓守装束
かつてビルゲンワースのウィレームに仕えた二人の下僕は
主に従って地下遺跡の神秘に見え、共に正気を失い
一人は合言葉の門番に、もう一人は森の墓守になったという
彼らは主に心酔し、狂ってなお忠実な従者であったのだ
ここにある「
地下遺跡の神秘」は、トゥメル聖杯のテキストにある「
神秘の知恵」のことである
中央トゥメルの聖杯
なおトゥメルとは、地下遺跡を築いた古い種族の名であり
神秘の知恵を持った人ならぬ人々であったと言われている
なぜならば、英語版においては、そのどちらもが「
eldritch Truth」と表記されているからである
Graveguard Mask
Willem kept two loyal servants back at Byrgenwerth.
When they were sent into the labyrinth, they encountered
the eldritch Truth, and went mad. One became the
password gatekeeper, while Dores became a graveguard
of the forest.
Both remained loyal, even in madness.(BloodborneWikiより)
Central Pthumeru Chalice
The old labyrinth was carved out by the Pthumerians,
superhuman beings that are said to have unlocked
the wisdom of the eldritch Truth.(BloodborneWikiより)
※
上位者に関する
神秘の智慧や、
叡智には、
eldritch wisdom(狂人の智慧)や
Great One’s Wisdom(上位者の叡智)というふうにWisdomが使われる
つまり、ウィレームの
下僕二人が見えたのは、上位者の神秘ではなく、
トゥメル人にまつわる神秘なのである
※地下遺跡の神秘とは、「
地下遺跡に属するような神秘」ともとれるが、英文から判断するかぎり、下僕二人は
ウィレームの命により地下遺跡に送られ、そこで
神秘と遭遇したと考えるのが妥当である
トゥメル人の神秘とはすなわち、
妊娠した状態の女王、ヤーナムである
※これは
プレイヤーが
トゥメル=イルで出会う状態の
ヤーナムと同じである。聖杯ダンジョンは時空が混在して、いわば
多元宇宙的な性質をしている(オンライン的にも)がゆえに、こうした二重存在が許容される
※メンシスの悪夢や月前の湖で会うヤーナムは
妊娠していない
狂ってなお忠実な従者である彼らは、主のために
神秘をビルゲンワースに持ちかえったのである
墓守の仮面
彼らは主に心酔し、狂ってなお忠実な従者であったのだ
その後かれらは、一人は
合言葉の門番、一人は
森の墓守になったという
門番は侵入しようとする
脅威を防ぐ役割にあり、墓守は
墓を守る役割にある
彼らが狂ってなおウィレームの命により
守ろうとしたのは、地下遺跡の神秘そのものである
トゥメルの女王ヤーナムと、彼女の
赤子の埋葬されていた墓である
ドーレス
墓守の名を
ドーレス(Dores)という
Doresとは、
Doloresのポルトガル語形であり、その意味は「
悲しみのマリア」(Mary of the Sorrows→Maria de los Dolores)である
つまり
ドーレスは女性であり、かつ「悲しみのマリア」を体現するキャラクターなのである。悲しみのマリアとは、キリスト教において
イエスの死を悲しむ聖母マリアのことである
本編において
我が子を奪われて悲しんでいるのは誰か?
女王、ヤーナムである
聖母マリアとは女王ヤーナムであり、
我が子の死を悲しむ聖母という属性を
キャラクター化したものが、赤子の墓を守る
ドーレスなのである(またドーレスという名であるからには、彼女の守る墓には子どもが葬られていなければならない)
※キリスト教において、
イエスの血を受けた聖杯は聖杯伝説として世界に流布するが、同様に悲しみの母をもつ
メルゴーの血も医療教会の
救いとして広まっていくのである(「
拝領」の図は、
血を受ける聖杯の図柄である)
また、禁域の森に立ち並ぶ「
旧神の石碑」(A Tombstone of Great One)とは、「
特別な赤子」を弔うために立てられた
墓石群である
トゥメル系の聖杯ダンジョンには
旧主の番犬(Watchdog of the Old Lords)や
旧主の番人(Keeper of the Old Lords)というボスが登場する
Great Oneと
Old Lords、英名では共通点はないが
和名では「旧」が一致し、また「神」と「主」とは同一概念としても使用される(キリスト教における神と主など)
旧主と旧神は同じ存在を指しており、トゥメル文明における
主や神といえば女王の産む
特別な赤子、つまり本編における「
メルゴー」である
※主と神を厳格に区別するのならば、
主とはトゥメル人の王、そして
神とは王が祀る上位者となろう。どちらにせよ「旧」という共通点から
旧神はトゥメル系の神である
禁域の森の
旧神の墓(Tombstoneは墓石の意)には、
トゥメル人の祀った上位者が埋葬されており、その最も新しい埋葬者は
メルゴーのそれである(詳細は後述)
墓守の死
しかしその墓を守るはずの
墓守は死んでいた。しかも
頭部と胴体部が外的な力によって
切り離されたように、
墓守の仮面は他の装束から
離れた場所に落ちていた
状況的に
ドーレスは頭部と胴体を切断されて殺されたのである
いったい誰が墓守を殺せたのか?
なぜ墓守を殺す必要があったのか?
合言葉の
番人が存命していることから、外部の敵意ある
侵入者ではない。またドーレスの主がウィレームであることから、
ウィレーム派の者ではない
その人物は
合言葉を使って正規の方法で禁域の森へ入ったか、あるいはビルゲンワース
内部からやって来て、ある理由から
ドーレスを殺害したのである
ビルゲンワースの関係者であり、大聖堂の
警句を知っている者、
ウィレームとは袂を分かった者、そして
墓守を殺し、
メルゴーの墓を暴く必要があった者
医療教会の上位会派の1つであり、赤い月を呼ぶ儀式を執り行う
メンシス学派
その首領、
ミコラーシュである
彼は
3本目のへその緒を得るために、上位者の
赤子の墓を暴いたのである
3本目のへその緒(メルゴー)
すべての上位者は赤子を失い、そして求めている
故にこれはメルゴーとの邂逅をもたらし
それがメンシスに、出来損ないの脳みそを与えたのだ
※厳密にはミコラーシュでなくとも良い。メンシスのダミアーンという可能性もある。ドーレスの殺害犯については考察途上である
ウィレーム
ウィレームはかつて
3本目のへその緒を求めたという
3本目のへその緒(偽ヨセフカ)
かつて学長ウィレームは「思考の瞳」のため、これを求めた
脳の内に瞳を抱き、偉大なる上位者の思考を得るために
あるいは、人として上位者に伍するために
DLCに登場する漁村もそうだが、
全盛期のウィレームは「思考の瞳」のためならば手段を選ばず、それがたとえ
非道なものあっても強行している
彼の目的のひとつは、
上位者に伍することである。上位者にひれ伏して智慧を乞うことをよしとせず、
上位者と対等の地位に昇ろうとしているのである(それは
上位者との闘争の始まりを意味する)
上位者の血を
治療に用いようとしたローレンスや、上位者から
瞳を授かろうとしたミコラーシュ、あるいは上位者とともに
宇宙を見上げる聖歌隊と比較して、
ウィレームは群を抜いて狂っている。狂っていてなお
賢人でもある(ラヴクラフトの『蕃神』に登場する賢人バルザイのような
賢人)
ゲーム中に
4本ある「3本目のへその緒」のうち、上記の
偽ヨセフカの落とすものだけが、
「使用により啓蒙を得るが、同時に、内に瞳を得るともいう だが、実際にそれが何をもたらすものか、皆忘れてしまった」
という
文章が欠けている(文章が充分に入るスペースはある)
なぜ、「
使用により~」が欠けているかというと、その前段で言及されている
ウィレームは
何をもたらすのかを知っているからである
「皆忘れてしまった」という言葉には
かつては知られていたことが含意されており、ビルゲンワースの
学長以上にそれを知るのに相応しい人物はいない
皆忘れてしまったが、
ウィレームだけはそれを覚えている
ゆえに上記の文言は削除しなければならなかったのである。なぜならば、「皆忘れてしまった」という
テキストに矛盾が生じるからである。実際に何をもたらすか
ウィレームだけはまだ知っているからである
※また、このへその緒を落とす偽ヨセフカ自身も知っていたかもしれない
偽ヨセフカ
ここで疑問が生じる、
なぜウィレームの過去が偽ヨセフカの落とす3本目のへその緒に記されているのか、と
結論を先に述べれば、ウィレームの指示により
ヤーナムの助産をしたのが偽ヨセフカだからである
個々のへその緒にはそのへその緒をドロップした人物(上位者)の
物語が記されている。偽ヨセフカのものに
ウィレームの物語が書かれているのは、
偽ヨセフカとウィレームには密接な繋がりがあることを示唆している
しかし
助産、といっても上位者の赤子であるメルゴーは人のように産まれてきたわけではない。
メルゴーは母の腹を引き裂いて誕生したのである
この誕生の仕方は
ヤーナムのグラフィックから推測されうるものであるが、なにより
『フィーヴァードリーム』の吸血鬼の出産と同じである
メルゴーはそのようにして
3本目のへその緒とともに誕生した。しかしメルゴーは
上位者の赤子であり、すべての
上位者が求めるものでもあった
3本目のへその緒
すべての上位者は赤子を失い、そして求めている
ゆえにこれは「
メルゴーの乳母」を呼び寄せたのである
メルゴーはメルゴーの乳母により
奪い去られ、3本目の
へその緒だけが残されたのである(へその緒は上位者を呼び寄せるが、上位者の真の目的は赤子である)
しかし残されたへその緒を
ウィレームは使わなかった。なぜならば出産時の流血により
へその緒が穢されていたからである
ローレンスがあきれたように、ウィレームは頑ななまでに
「古い血」を恐れていた。ゆえに古い血(それはヤーナムの血とも上位者の血ともとれるが)に塗れたへその緒を
使うことができなかったのである
そうしてメルゴーのへその緒は「
メルゴーの墓(死体はない)」に葬られ、
墓守ドーレスが墓を守っていたのである
メルゴーを取りあげた偽ヨセフカはその後
ヤーナムの血(出産時の血)を奪い、カインハーストに逃亡。一方、赤子を失った
ヤーナムは我が子を追って現実と夢との境界にある
「月前の湖」へと身を投じたのである
※
メルゴーはその名前通り
悪夢(深海)へと沈められたのである(メルゴーはラテン語
Mergereの動詞形で、mergereは「
潜水する」や「
濡れる」、「
水没する」など水に関わる意味を持つ)
またローレンスたちはこの時に得られたわずかな
上位者の血(メルゴーの血)により、進化の可能性に気づき、それはやがて漁村事件を経て医療教会の
血の救いへと繋がっていく
※メルゴーの血に混じる
母親の血は、純粋な上位者の血を侵す
穢れた血である
そして残された
ウィレームは「古い血」を恐れながら「
思考の瞳」への探求を続けたのである それはやがて漁村事件を引き起こし、ついにローレンスたちの離反を招く
この時の
乳母の降臨によりビルゲンワースは
現実と悪夢が混じり合い、
教室棟は悪夢へと投げ出され、今も
漂流しているのである(漂流教室)
またビルゲンワースを爆心地とする
悪夢に侵された領域が誕生し、後にそこは医療教会によって
禁域に指定されることとなる
聖体
すなわち、
墓地から持ちかえられた聖体とは
メルゴーのことに他ならない(厳密にはメルゴーを妊娠した状態の女王ヤーナム)
かつてビルゲンワースに学んだ何名かが、その墓地からある聖体を持ちかえり
そして医療教会と、血の救いが生まれたのです
すなわちビルゲンワースは、ヤーナムを聖地たらしめたはじまりの場所ですが
今はもう棄てられ、深い森に埋もれているときいています(アルフレート)
アルフレートはビルゲンワースを
はじまりの場所と述べている。つまり、聖体を持ちかえられた場所はビルゲンワースなのである
女王ヤーナムは
ビルゲンワースでメルゴーを出産したのである。メルゴーの誕生はすなわち医療教会と
血の救いの誕生でもあり、ここにある「
生まれた」という比喩のみでなく、事実として
メルゴーが誕生したことをも暗示しているのである
聖体拝領
カトリック教会における
聖体拝領とは、聖体の秘跡によって
キリストの体と血に変化した
パンとワインを信者たちが
分け合う儀式である
聖母マリアと女王ヤーナムは共に、
我が子を亡くした悲しみの聖母である
で、あるのならばヤーナムの生んだ
メルゴーはキリストに比定することができる
要するに血の医療の本質である「
拝領」とは、キリストである
メルゴーの血を拝領することに他ならない
「拝領」
血の医療とは、すなわち「拝領」の探求に他ならないのだ
すなわち、ブラッドボーンは「
ゴシック・ホラーのコズミック・ホラー化」のみならず、ゴシック・ホラーの核にある
キリスト信仰をもコズミック・ホラー化しているのである
そして
聖母マリアは
不死の女王ヤーナムとなり、
キリストはメルゴーとなり、聖杯伝説にあるように、その
血はどちらも
奇跡の力をもつのである
※聖杯伝説には、マグダラのマリアがキリストの子を産みその子孫が今も生きているというものがある。おそらくこの伝説のフロム的解釈をしたものが、時計塔のマリアのそれなのかもしれない。ちょっとした思いつきなのでまだ詳細な考察はしていない
蛇足
カインハーストの考察をしようとするとヤーナムや医療教会、ビルゲンワースに繋がってしまい、またそれらを考察しようとすると今度は逆にすべてがカインハーストに収斂していってしまう
いわばカインハーストは本作の中心軸であるが、そのさらに中心にある意図的に消去された「中空」こそが、メルゴーなのではないかと思われる
メルゴーにまつわる要素(オドンやヤーナム、ビルゲンワース、医療教会、カインハースト)のみが提示され、メルゴーは作中においても「姿なき」状態であるが、その存在感はヤーナムの下から上までを貫いている