※発売前の考察です
デビュートレーラーから登場していた白い大蛇についての話
人類との関係が深く世界中の神話・伝説に頻出するこの蛇という爬虫類が象徴するのは「不死、月、生命、豊穣、女性、敵対者、誘惑者」等々、多岐にわたるが、日本においてはまず「可畏(かしこ)きもの」、つまり「神(カミ)」として認識された
本居宣長によれば「可畏きもの」とは、
すぐれたるとは、尊きこと善きこと、功(いさお)しきことなどの、優れたるのみを云に非(あら)ず、悪きもの奇(あや)しきものなども、よにすぐれて可畏きをば、神と云なり(『古事記伝』)
であるという。ここでいう「すぐれたる」とは尋常でない力を持つという意味であり、要するに「超常の力を持った存在」は「カミ」であるということである
日本神話における「蛇」はだいたいこういった概念の「カミ」として登場するのが通例である
その最も著名な例はヤマタノオロチであろう(wikipedia)
ほかにも三輪山の神は蛇であるし(wikipedia 倭迹迹日百襲姫命)
アヂスキタカヒコネという神は雷神であり蛇身であるといわれ(『古代研究2』折口信夫)、同様に『古事記』に登場する阿須波神もまた蛇神であるという(『蛇―日本の蛇信仰』吉野 裕子)
また有名なところでは『常陸国風土記』に登場する夜刀神は角の生えた蛇であるし、諏訪神社の諏訪大明神は竜蛇神であり、同様にカヤノヒメという神は別名「野槌神」といわれ、野の精である蛇を指す名前である(wikipedia 夜刀神)(wikipedia カヤノヒメ)
伝説においては、遠野三山(早池峰山、石上山、六角牛山)の女神はもともと蛇であったという伝説があり(『山深き遠野の里の物語せよ』菊池 照雄)、その遠野を中心とした奥羽全域には、ホウリョウ権現なる正体不明の蛇神が祀られているという
と、日本神話は蛇神が異常なほど多く、また蛇が象徴するものの広範さゆえに、一概に蛇といっても、このように全く話がまとまらないのである
しかしながらSekiroは忍者をテーマとしたゲームである
ということで、忍者と蛇をあわせて考えてみると、「甲賀三郎伝説」が思い浮かぶのである(wikipedia 甲賀三郎)
甲賀三郎伝説を要約すると次のようになる
妻の春日姫を天狗にさらわれた甲賀三郎は地底の国を彷徨い、やがて地上に戻ってくるが大蛇の姿になってしまう
この甲賀三郎、名前からわかるとおり甲賀忍者の祖という伝説が残る。また大蛇の姿となったのち、姫とともに諏訪明神として祭られたともいわれる
ここに「忍者/蛇」という構図が現われてくるのであるが、これをSekiroに当てはめるならば、忍者の化身があの白い大蛇である、と解することもできる
そして同じような構図が、すでにいくつか現われているのである
たとえば「忍者/狼」「忍者/梟」「忍者(糸婆)/蜘蛛(鴉?)」などである
とはいえ、Sekiroの主人公が狼に化すという情報もなく、また糸婆が戦闘時に何らかの動物に変化しているようすもないことから、単純に当てはめることはできないであろう
が、しかし甲賀三郎のもう一つの面、つまりのちに神として祭られたということを含むのならば、また別の面が見えてくる
それが「神/蛇」という日本神話お馴染みの構図である(もちろんこの「神」とは「可畏きもの」という意味での神である)
さて、2018年のTGSトレーラーに「靇(おかみ)」なる漢字が登場した。この「おかみ」は、イザナギがカグツチを斬り殺した際に誕生した神であり、炎の神の血から誕生した神であるという考察は以前した
この「おかみ」を折口信夫は水神であり蛇神であるという
「おかみ」は「水」を司る蛇体だから、みつはのめ、は女性の蛇または、水中のある動物と考えられた。(『古代研究1』)
折口信夫によれば、「おかみ」は男神の神名であり、「みつはのめ」がその対となる女神であるという
トレーラーでは、「靇」の文字は城に掲げられた旗に記されていた。ということは、「靇」の文字は、城を支配する城主あるいは頭領を指し示す印であると考えられる
であるのならば「靇」の旗を掲げる城主の正体は、当然ながら蛇神である
よって例の白い大蛇は、城主の化身である可能性が高い
また「おかみ」という名からして、それは「男」である
さて、ここで疑問が浮かぶ。なぜ隻狼は蛇神が支配するあの城へ侵入したのだろうか。もっともシンプルに考えるのならば、皇子の身柄がそこにある、あるいは皇子の行方に関する情報がそこにある、というものであろう
では、なぜ蛇神は皇子の身柄を捕えている、あるいはその情報を知っているのだろうか。
話がそれるが、日本神話には「蛇婿入」という説話の型がある
上で触れた三輪山の箸墓伝説がもっとも有名であるが、要約すると次のような説話である
ある家の娘が婿をとったが、夫は夜しかやってこず、朝日が昇る前に帰ってしまう。不思議に思った娘が、夫の服に糸のついた針を刺す。そうして翌朝その糸をたどっていくと、山奥の洞窟へいたり、夫の正体である大蛇を見てしまう、という話である
この説話は「夜叉が池伝説」(wikipedia)として各地に流布するが、その多くは、水乞いのために池の龍神(蛇神)に生け贄にされる若い娘の話である
つまるところ、蛇神というのは昔から人間の生け贄を欲すると考えられていたのだ。
ヤマタノオロチ伝説がその最も有名な例であろう
これら「蛇神←人間(生け贄)」という構図がSekiroにも換骨奪胎されて編入されていると考えると、皇子の立場や城主の行動原理が理解できるように思える
簡単に言うのならば、皇子は「生け贄」であり、城主はそれを欲する「蛇神」なのである。ただしここで「ねじれ」が生じているように思える。
伝説や神話では、蛇神は男神であることも女神であることもあるが、生け贄として欲するのは必ず、異性である
城主が「おかみ」であるとすると城主は男神である。男神が男である皇子を生け贄として欲するだろうか、という疑問が生じる
この疑問には二つの仮説が立てられるように思う
ひとつは、皇子の性別が偽られている可能性である。皇子は男ではなく女であり、ゆえに「おかみ」にその身を狙われ、あるいは拘束されている
二つ目は、皇子は「おかみ」が欲する性別の生け贄ではないが、城主の知的好奇心を満たすために捕えている、という説だ
個人的には後者の説だと思っている。なぜならば、そうであればダークソウルのおける「シースと聖女」の構造をそのままであるからだ(似た構造が登場するのはフロムゲーによくあることである)
白い蛇、というのもシースを彷彿とさせるし、ダークソウルのシース関連における「聖女」とは「生け贄」そのものであるからだ
トレーラーに登場する「おかみの城」は、DSにおける書庫のような場所であり、あの白い大蛇はシース的な存在なのではないだろうか
祭蛇記
ついでに、蛇退治の話でも『捜神記』(wikipedia)には、白猿伝に似た蛇退治の話が伝わっている
これもまた岡本綺堂が訳している(青空文庫)
『祭蛇記』という話がそれだ
東越にある山に大蛇が棲み着いたという。大蛇は大いに祟り住民を苦しめたあげく、巫女を通じて少女の生け贄を要求する。こうして九年に九人の少女を生け贄として捧げたが、十人目の少女がみつからない。
そこで白羽の矢が立てられたのが、寄(き)という少女である
寄は一振りのよい剣と蛇喰い犬とともに、生け贄として捧げられるふりをして大蛇のもとへ向かい、犬の協力を得て大蛇を退治する
以上が要約であるが、ここでもやはり猿退治と同様に犬が協力者として登場する
デスペナルティ
特に根拠はないが、回生するごとに皇子の状態が変化していくのかもしれない最初、人であったものが死亡回数が多すぎると人の状態を保てなくなる、といったような
蛇足
「おかみ」の城が蘆名へ至る経路のひとつ、とする考えも思いついたのだが、忍者がある特定の地点へ向かおうとするのに、その前にある城に侵入しなければならない、という状況がいまいち納得できなかったので触れなかった。忍者ならば戦闘を避けて目的地へ向かうことを優先するだろうその城に侵入したからには、忍者としての目的が必ず存在するはずである(そしてそれは物語の設定上、皇子に関連するものであろう)
またいつものことであるが、具体的な神名や地名を挙げたが作中にそのまま登場する可能性は低い